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参考人(
稲川宮雄君)
全国中小企業団体中央会の
稲川であります。
このたび
国会に提出されておりますいわゆる
分野法につきまして、簡単に
意見を申し述べたいと存じます。
この
法律は、私
どもがかねてから多年にわたって
要望してまいりました
法律でございまして、そういう大
企業の
進出という
関係は、すでに戦前に
百貨店法ができておりましたいきさつから考えましてもわかりますように、非常に重要な問題がございまして、毎年開催いたしまする
全国大会を初めといたしまして各種の会合におきまして、ぜひ大
企業の
進出を
調整する
法律制度の
制定を強く
要望してきたのでございます。この
法律が今回の
国会に提案されましていろいろ御
審議をいただいているということはまことに感慨無量でございます。私
どもの多年の
要望が実現するということで敬意と感謝の意を表したいと存ずるのでございます。
次に、この
内容につきまして二、三の点を申し上げたいと思うのでございますが、まず第一に、最も問題となっております分野の確定と申しますか、あるいは
業種の指定という問題でございますが、この点につきましては、私
どもといたしましては、できれば
業種を指定し確定いたしまして、大
企業が
中小企業の分野にみだりに入ってこないような
措置を強く希望しておったのでございますが、私
どもの内部にこのための特別の
委員会を設定いたしまして研究を重ねてまいりました結果、技術的に見ましてそれが大変困難である、こういう結論に到達いたしましたので、残念でございますが、私
どもといたしましては
業種指定はあきらめたのでございます。したがって、
本法案におきまして
業種指定が入っていないということにつきましては、私
どもは特に異論はございません。
第二に、
中小企業団体の
申し出を受けまして
主務大臣が
調査を行う、あるいはまた
学識経験者によって
中小企業調整審議会を設けるということ、あるいはまたその
調整案に基づきまして
勧告、公表が行われる、さらにその
勧告に従わない場合におきましては、
衆議院の
段階におきまして、
命令、罰則を加える、こういうことが案になっておるのでございますが、これらの点につきましては、いずれも私
どもの
委員会におきまして
検討し大体その方向において私
どもの案ができておるのでございまして、基本的にいずれも賛成でございます。
第三に、問題となっておりますのは、
小売商業を
対象から除外しておる点でございまして、この点は私
どもの
委員会の案と基本的に違う、まあ唯一と言ってもいいかと思うんでありますが、点でございます。私
どもは、いま一番大きな問題になっておりますのは、製造業におきましてはもちろんございますけれ
ども、しかし、一番問題になっておりますのは
小売商業でございまして、これを外しては
分野法制定の意味の大半を失うと、こういうように考えておりましたので、
政府の
中小企業政策審議会におきましても、
小売業を外すということにつきましては、かなりわれわれは
意見を述べたのでございますが、
中小企業政策審議会におきましても、結論といたしましては、この
小売業に関しまする現在の
法律の
運用等に引き続いて改善を加える、こういう結論でございます。
現在、小売に関しまする他の
法律体系がございますので、それと重複したり矛盾したりするということのないようにその方を改善していくという結論でございますので、私
どももそれに同調いたしまして、したがいまして、この
分野法から
小売業が外されておりますことはいたし方ないと思うのでございますが、しかしながら、同時に、それならば小売に関しまする他の
法律の整備を必要とする、こういうように考えておったのでございますが、幸いにいたしまして、
衆議院の
段階においていわゆる
商調法の
改正が議決されたようでございますので、ぜひともそれを参議院におきましても御採用いただきたいというように考えるわけでございます。そういうわけでございまして、大体この案におきましては、私
どもが希望しておりました点はほとんど入っておりますし、また入ってない点も別の
措置によって
処理するということが大体見通されますので、私
どもといたしましては特に異議を
申し立てる点は何もございません。全面的に賛成でございまして、一日も速やかにこの
法律が
制定されることを強く希望するものでございます。
そういうわけでございますので、特にこれ以上申し上げることはないようでございますが、せっかくの
機会ではございますので、この
法律の
運用等につきまして、二、三の問題となっております点についての
意見を申し述べたいと存じます。
まず、第一点といたしましては、ただいま
加藤教授からもお話がございましたように、私
どもは
法律をつくるということが必ずしもいいことであるとは思っておりませんけれ
ども、しかしながら、どうしても
法律の
制定によっていただかなければ問題が解決しないという現実を踏まえて、これを
要望してきたものでございますが、したがいまして、この
法律制度の
運用につきましては、まず第一に大
企業者の自粛ということが何よりも私は肝要であるというふうに私は思っております。この点は第三条におきましていわゆる「大
企業者の責務」という
規定が入っておりますので問題はないのでございますが、しかしながら、基本は何といいましても大
企業者が自粛をしていただくということが基本でございまして、もしそれが完全に行われておるならば、こういう
法律自体も不要なんでございますが、それがなかなか行われないというのでこの
法律がとられた。したがいまして、この自粛ということを特に考えていただく。これは経団連におきましてもそういう御方針のようでございますから、大
企業におきましても恐らく御異議はないと思いますが、ぜひこの自粛ということを前提として、これからものを考えていただきたいというように思うのでございます。もちろんこの第三条の
規定は単なる精神
規定であり、あるいは訓示
規定でありまして、特に強制力を伴うものではありませんけれ
ども、しかしながら、
法律の明文上こういう
規定が設けられたということは私は非常に意味があるというように考えておりますので、これは今後の
運用においてぜひとも十分考えていただきたい点の
一つでございます。
第二の点は、この
法律は、場合によりましては
中小企業の合理化努力あるいは近代化努力を阻害することになりはしないか、こういう御
心配があるようでございますが、この点につきましても
加藤教授から先ほどお話がございましたように、
中小企業の間には非常な過当と言っていいほどの競争が激烈に行われておるのでありますから、大
企業が入っていただかなくても、
中小企業の間における競争がなくなるものではないのでございますから、
中小企業の近代化努力あるいは合理化努力というものが阻害されることはゆめにもないというように私
どもは確信をいたしております。また、
中小企業もみずからの努力あるいは経営の改善ということがなければ、とうてい今日の社会において生きていくことはできないのでございますから、仮にこういう
法律ができましても、それによって
中小企業がその上に安住するというようなことは許されるものではないというように考えておりますので、大
企業の
自粛規定とともに
中小企業の近代化、合理化努力、あるいは新しい技術の開発という努力を、今後一層この
法律制定を
機会に、していかなければならない。そうしなければ
消費者の信頼を失い、
中小企業みずからの発展もできなくなるということをかたく信じておるものでございます。したがいまして、また別の言葉から申しますならば、この
法律は
中小企業の過保護につながるものではないか、こういうような御指摘もあるのでございますが、私
どもは
中小企業が他の
業種や業体に比べまして、特に過保護を受けておるというようなことはないと思うのであります。
しかしながら、
中小企業といえ
どもやはり保護は私
どもは必要であるというふうに思うのでございます。
中小企業の発展のためにはやはり
中小企業の経済的な合理性というものが前提であるということは、
中小企業政策審議会に設けられました小
委員会において、二回にわたって結論されたところでありまして、
中小企業が本当に発展していくためには、
中小企業自体が経済的な合理性を持たなければならぬということでございまして、この点に私
どもは少しも異議があるものではございませんが、しかしながら、零細なあるいは小
規模の
中小企業というものは、単に経済的な問題だけではなく社会的な機能というものを持っておるのでございまして、この
中小企業の社会的な機能、すなわち国民の多くに重要な職業を与える場であるということ、あるいはまた
中小企業は、それ自体が中産階級といたしまして、中等階級といたしまして、非常に重要な社会の安定勢力であるということ、そういう点から考えますと、単に経済的な面だけではなく、社会的な面におきましても非常に
中小企業は重要であるという点を特にお考えいただきたいというふうに思うのでございます。
言うならば、
中小企業は経済的な合理性ということがなければ発展はしないのでありますが、同時に
中小企業は社会的な合理性も持っておる。社会的な合理性があるから経済的な合理性がなくてもいいというわけではございません。やはり経済的な合理性は必要でありますが、同時に
中小企業の持っておりますその社会的な機能、その意味というものを考えていただくということが、やはり
中小企業を保護していただくということの必要性につながるものと思うのでございます。そういう意味におきまして、この
法律は重要な意味を持っておると思うのでございますが、しかしながら、私
どもは
中小企業がただ保護されればそれで発展するというようには考えていないのでありまして、保護は必要でございますけれ
ども、真の発展はやはりみずからの合理化努力である。それをこの
法律が阻害するというようなことは私
どもはない、こういうふうに考えておるのでございます。
次のもう
一つの点は、独占禁止法との
関係でございますが、独占禁止法が今回の
国会において
審議されております。その
内容は、要するに競争をもっと促進しよう、こういうのが
内容でございます。しかるに、今回のこの
分野法は、大
企業が
中小企業分野に入ってくることを阻止して、そうしてある意味においては競争を制限するものではないか、同じ
国会において、また同じ
委員会において競争を促進する
法律、競争を制限する
法律とが同時に
審議されるということははなはだ矛盾である、そういう論調を見受けるのでございますが、これは私は非常に誤りであるというように考えておるのであります。私
どもはやはり競争の促進ということが必要であるということは原点であると思うのでございますが、しかしながら、競争は何でもその放任的な自由競争であっていいというものではないのでございまして、独占禁止法におきましても、その競争には「公正且つ自由」というように、自由競争の前には「公正」という字が入っておるのでありまして、何でも競争すればいいというものではなく、公正かつ自由な競争こそこの独占禁止法の精神であるというふうに思うのでございます。
分野法におきましても、それは単に競争を制限するというものではなく、大
企業が不公正な競争によって
中小企業分野に
進出してくるというのを
調整していただきたいということで考えられておる
法律でありますから、それは決して単なる競争の制限ではなく、公正かつ自由な競争を促進するためには大
企業の無謀な
進出というものに
調整を加えていただきたいということでございますから、両
法案には何らの矛盾はないと言うよりは、むしろ私
どもは、
分野法というのは、この独占禁止法の延長線上にあると言っても
過言ではないというように考えているのでございます。要するにこれらの、これからこの
法律が
制定されまして、その
運用に当たりましては、そういう角度からいろいろ
運用していかなければならない。単に
中小企業の保護だけということでありましては
中小企業の発展を阻害されますので、そういうことのないように
運用していくということが必要であるというように考えておる次第であります。
いずれにいたしましても、ぜひともこの
法律が速やかに
制定されますことを強く
要望いたしまして、私の
意見を終わりたいと存じます。ありがとうございました。