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片山甚市君 私は、ただいま議題となりました
戦時災害援護法案につきまして、日本社会党、公明党及び日本共産党を代表いたしまして、提案の理由を御
説明申し上げます。
終戦後、三十余年を経た今日も、なお戦争の傷跡がさまざまな形で、原体験を持つ人々の
生活にのしかかり、あるいはいやされぬまま亡くなられていく現実を見過ごすことはできません。終戦の年、
昭和二十年に亡くなられた
方々は、本年が仏教で言えば三十三回忌、すなわち身近な縁者で営まれる最後の法要の年でもあります。このような年に、去る四月二十一日、衆議院においては、全野党による原爆被爆者援護法案の共同提案がなされ、いまここに戦時災害援護法を提案することになりましたのは、提案者の三党のみでなく、まさに戦争犠牲者の
方々の執念と申すべきでありましょう。
振り返ってみますと、太平洋戦争では広島、長崎に投下された原爆による被災者を含め、米軍の無差別爆撃が銃後と言われていた非戦闘員とその住居を、一瞬にして血みどろの戦場に変え、
わが国の全土にわたる諸都市を次々と焼き払っていきました。
昭和二十年四月十三日、状況窮迫せる場合に応ずる国民戦闘組織に関する閣議決定は、新たなる兵役義務により兵として動員し、統帥権下に服役せしめ得る必要な法的
措置を講ずることを決め、
昭和二十年六月二十二日に即時公布された義勇兵役法では、国民義勇隊に参加せしむべきものは、老幼者、病弱者、妊産婦等を除くのほか、可及的広範に包含せしむるものを徴兵し、いわゆる国民皆兵
体制をつくり上げたことによっても、当時すでに平和な銃後は存在せず、戦場そのものとなっていたのであります。
これによる一般市民の死傷被害は、沖繩を除いても優に八十万人を超え、罹災人口で言えば、実に一千万人を超すと言われています。中でも
昭和二十年三月十日の東京大空襲は、わずか二時間余りの爆撃によって、全都の四〇%が灰じんと化し、約十万の都民の生命を奪いました。その惨状は、イギリスの一物理学者が、原子爆弾攻撃による荒廃化を除けば、いままでになされた空襲のうち、最も惨害をほしいままにした空襲と
指摘するほどでありました。しかるに
政府は、今日まで戦争犠牲者
対策を軍人軍属及びその遺家族など約十八万人に限定してきたのであります。その後、準軍属と言われる人々など、それぞれ新たに
対象とされる範囲の拡大はあったものの、銃後の犠牲者にまで広く援護の手を差し伸べようとする努力は、まさに皆無に等しかったのであります。
ところがたとえば、同じ敗戦国である西ドイツでは、
昭和二十五年に戦争犠牲者の援護に関する法律を制定し、公務傷病と同視すべき傷病の範囲をきわめて広範に規定したため、援護の手は一般市民の犠牲者にまで行き届き、その
対象は、実に
昭和二十九年末現在において四百十五万人にも上っています。
わが国の戦争犠牲者
対策については、原爆被爆者に対する特別
措置は別として、今日なお軍人軍属等に限定しようとする
政府の態度に、戦争の過ちを悔い改めようとする姿勢が見られないばかりでなく、その態度のよって来るところが、軍事優先の思想にあるのではないかとの疑念さえうかがわせるものであります。戦後三十三年を経た今日、いまだに放置されたままの一般戦災者に対する国の援護
措置を望むのは、ひとり提案者のみでなく国民の声として一層高まっているのであります。
本案は、このような国民の
要求を背景に立案されたものであり、また、すでに第七十一国会及び第七十七国会における本
委員会で同じ
趣旨の提案がなされている歴史的
経過に基づくものでもあります。
次に、本案の要旨について簡略に申し述べますと、さきの大戦で空襲その他の戦時災害によって、身体に被害を受けた者及び死亡した者の遺族に対し、戦傷病者特別援護法、以下特別援護法と言います。及び戦傷病者、
戦没者遺族等援護法、以下遺族援護法と言います、に規定する軍人軍属等に対する援護と同様、国家補償の精神に基づく援護を行おうとするものであります。ただし、遺族に対する援護については、遺族年金にかえて、一時金たる遺族
給付金、六十万円を支給することとしております。
援護の種類別に申し上げますと、第一に、
療養の
給付、
療養手当一万千円支給及び葬祭費四万四千円の支給、支給要件、
給付内容等はすべて軍人軍属におけると同じ、また第二、第三についても同様であります。
第二は、
更生医療の
給付は、補装具の支給及び修理、国立保養所への収容並びに日本国有鉄道への無賃乗車等の取り扱いであります。
第三は、障害年金または障害一時金の支給であります。
第四は、遺族
給付金、五年償還の記名国債として六十万円の支給であります。遺族の範囲は、死亡した者の父母、子、孫、租父母で、死亡した者の死亡の当時、日本国籍を有し、かつ、その者によって、
生計を維持し、または、その者と
生計をともにしていた者といたしております。なお、遺族援護法による遺族年金におけるような、受給者が一定の
生活資料を得ることができないこと等の受給要件を設けないものといたしております。
第五は、弔慰金五万円の支給、遺族の範囲は、おおむね軍人軍属等におけると同じであります。
なお、この法律による援護の水準を特別援護法または遺族援護法による軍人軍属に対する援護の水準と同じレベルにしたことに伴い、これらの法律による準軍属に対する援護で、なお軍人軍属に対する援護の水準に達していないもの、すなわち、遺族一時金及び弔慰金の額については、同一レベルに引き上げる
措置を講ずることといたしました。
最後に、施行期日は公布の日から一年以内で政令で定める日としております。
何とぞ慎重御審議の上、本案の成立を期せられんことをお願いいたしまして、提案理由の御
説明を終わります。