○和田
公述人 和田でございます。
本日は、
昭和五十二
年度予算に関連いたしまして若干お話をさせていただきたいと思います。
最初に、全般的な問題につきまして
意見を申し上げまして、次に、いわゆる
減税問題について少し述べさせていただきたいと思います。
五十二
年度予算につきましては、
景気回復と
財政の健全化というこの二つの目標が掲げられているようであります。現在の
経済問題につきましてはいろいろと
意見のあるところでありますけれども、私は、現在、
財政あるいは
政策的にこの
経済問題に対処する
考え方あるいは
あり方としては、やはり循環的なものよりも構造的なもの、あるいは分配的な側面というものが重視されなければならないのではないかというふうに考えているわけであります。
現在、確かに
経済は困難な
状況あるいは局面が多いということは否定できないわけでありますけれども、これを考えてみますと、単に
景気が落ち込んでいる、あるいは
成長率が鈍化しているということだけではなくて、むしろそれよりも大
企業による
中小企業の圧迫でありますとか、あるいは老後の問題、教育の問題に見られますような社会的な不安が依然として大きいという問題、それから
税制に見られますように社会的不公平あるいは社会的不公正が非常に大きいという問題、それからさらに、
物価上昇が依然として続いている、こういうさまざまな不安なり矛盾なりというものが
経済に大きく覆いかぶさってきているわけでありまして、これに対して
財政が何をしなければならないかということになりますと、ただ単に
景気を
刺激して
成長率が上がればそれでいいという古い
考え方ではなくて、福祉を拡大して公共サービスを拡大していく、そしていま申し上げましたようなさまざまな社会的な不安でありますとかあるいは矛盾を除去していくということが重要な目標でなければならないというふうに考えるわけであります。したがいまして、
景気刺激によって
成長率を高くするといういわゆる
成長本位の
政策ではなくて、福祉型
財政に変えていくということが依然として今日重要な目標でなければならないのではないかと思うわけであります。そうして、その福祉型
財政によってさまざまな社会的アンバランスを解消していくということが重要ではないか。したがいまして、
減税にいたしましても公共投資にいたしましても、その目標とするところが単に
景気刺激による
成長率の
上昇ということのみを主要な
目的としているということに対しては批判されなければならないのではないかと思うわけであります。
しかも、政府案によりますと、公共投資がかなり重視されているわけでありますけれども、これは
経済に対する
効果という点がかなりあいまいなままに、主として財務的な
立場といいますか、つまり財源的な
立場、公共投資であれば建設国債によって賄い得る、こういう財務的な
立場が非常に強く見受けられるように思うわけでありまして、公共投資拡大
政策につきましては、一層
財政構造の改革をおくらせるものであるというふうに
判断せざるを得ないわけであります。
もう
一つの
財政健全化という問題も、いま申し上げましたような従来の高度
成長型の
財政から福祉型の
財政に転換させるという目標と両立するものであります。
二、三申し上げますと、たとえば税の不公平を是正するということを徹底的に行いますれば、大
企業への
課税の強化ということになるわけでありまして、それによって
税収が
増加するということであります。つまり、
税収入がふえることによって
財政の健全化が図られる。そしてまた福祉面に対する支出を拡大していく。そしてそのためにさまざまな制度的な改革を行う、
社会保障制度あるいは社会保険制度等の制度改革なども含めて行うということになれば、従来のような公共投資重点の
財政を組みかえることによって財源的な余地がそこに出てくるということになるわけであります。
また現在の
財政問題につきましては、国、地方の
財政関係が非常に重要なポイントになっているわけでありまして、これまでのいわば集権型の
財政から分権型の
財政へ切りかえるために税を大幅に地方へ移譲する、あるいは補助金を整理して国、地方の
財政関係を改めて地方の自主性を高めるということにすれば、これまた国家
財政の方にも財源が出てくるということになるわけであります。
財源的に制約されている、あるいは財源がない、あるいは
税収が鈍化しているというふうなことが現在の
財政問題になっておりまして、そしてこれが国債の累増を招いているわけでありますけれども、
財政の体質なり構造を変える、あるいは
税制を改革するということによって、こうした問題は打開することができるわけでありまして、
財政健全化が達成できるということになるわけであります。したがいまして、
財政の福祉充実への転換ということと
財政健全化ということとはおのずから両立する問題であるというふうに考えるわけであります。こうした視点で五十二年度の
予算は考えるべきではないかというのが私の
意見であります。
その次に
税制と
減税問題ということに触れておきたいわけであります。
現在の
税制問題では何が重視されなければならないのかということにつきましては、私は二つの点があると考えているわけであります。
一つは
インフレによる
負担の
調整ということが重要である、もう
一つは税の不公平を是正することが重要である、この二点であります。
現在
物価上昇が依然として続いているわけでありますが、こういう状態のもとでは
税負担、特に
所得税の
負担でありますけれども、
所得税の
負担は自動的に
増加することになり、そのことによって
所得は実質的に減ることになるわけであります。したがいまして、こうした実質
所得を維持するということを考えるならば、おのずから毎年
税負担の
調整をすべきであるわけであります。したがいましてこうした
調整は、
言葉の正確な
意味から言いますと、
減税ではなくて
調整というふうに言うべきであるわけであります。今日この
調整の問題も
減税という問題に含めて言われておりますために、今日では
税負担の割合は諸
外国に比べてもそれほど水準として高くはない等の
意見もあるわけでありますけれども、その問題と、現在
インフレのもとで
調整すべきであるという問題とは全く違った問題であります。
税負担水準が適正であるかどうかということはそれ自体として
議論されなければならないわけでありまして、私は、単純に諸
外国との比較で高いとか低いとかと言うことはできないと思うわけでありますけれども、その問題とこの
インフレ下における
調整とは違っているというふうに言わざるを得ないわけであります。
この
インフレによる
調整の問題といいますのは、
わが国だけではなくてOECD加盟各国におきましても、今日では各国とも
インフレが激しくなっておりますので、非常に重要な
課題として取り上げられて、インデクセーションの問題等も含めて
議論になっているところであります。したがいまして、
わが国におきましても、
インフレ下あるいは
物価上昇下においてはどのような形で
調整をすべきかということにつきましては真剣に検討されるべき問題であり、一定のルールをつくるべきであります。つまり、
物価上昇がどれぐらいあればどれだけの
調整をすべきかということについては、今後長期的はルールをつくるべきではないかというふうに考えるわけであります。五十二年度につきましても、五十一年に
物価上昇にもかかわらず
調整が行われていない、また五十二年におきましてもかなりの
物価上昇が予想されるということから言いますと、
調整をすべきことは言うまでもないところであります。
また、この
物価上昇は単純にすべての階層に同じように影響を及ぼすのではなくて、非常に不平等な影響を及ぼすわけでありまして、
物価上昇による配分の不均衡という問題が出てくるわけで承ります。端的に言えば、低
所得者ほど
物価上昇によるマイナスの影響が大きいということでありまして、この税の上からの
調整もこうした配分の不均衡を是正するという観点をもう
一つつけ加えるべきであります。
こうした観点で、税
財政の専門家などで
国民税制調査会という会をつくっているわけでありますけれども、ここで昨年の十二月二十一日に五十二年度
税制改正に対する提言という提言を行ったわけであります。私はそこの事務局長をしているわけでありますが、ここでそうした
物価調整の
目的に沿って、
個人所得税につきましては本人三万円、配偶者一万五千円、扶養家族それぞれ一万五千円、四人世帯の標準でありますと七万五千円になるわけでありますけれども、これを税額控除方式によって
減税すべきことを提案したわけであります。この提案は、今日の
物価上昇下で、
昭和五十年において年収入三百万円台の
所得者でありますけれども、この辺の
税負担の
増加が
昭和五十二年になりますと七万円近くになるわけであります。これは年一〇%ずつ
所得が名
目的に上がったものとみなしてそういう計算になるわけでありますが、それを一〇〇%
調整することができる。つまり、大体年収入三百万円
程度で四人世帯というところ以下の層が一〇〇%
調整されて、それ以上になりますと次第に
調整の度合いが少なくなるという形になるわけであります。このようにして
インフレによる
調整を果たすだけではなくて、先ほど申し上げました
物価上昇による配分の不均衡も
調整するという二つの
目的を達成できるものとして、税額控除方式による
減税を
主張したわけであります。
それから第二番目に申し上げました不公平是正ということでありますけれども、この不公平是正は現在、
税制では非常に重要な問題ではなかろうかと思います。従来の
わが国の
税制は、一言で言いますと貯蓄投資優遇型といいますか、
個人所得課税では貯蓄をきわめて優遇し、それから
法人関係は投資を優遇するという制度になっており、その
目的に沿ってさまざまな特別
措置が設けられており、あるいは
企業税制がつくられていたということでありますので、今日ではこの特別
措置を再検討し、
企業税制を再検討するということが非常に重要であります。
二、三例示的に
問題点を挙げますと、
一つは
個人所得課税であり、利子配当優遇
措置であります。さらに有価証券の譲渡
所得等のいわゆるキャピタルゲイン
課税に対する実質的な非
課税制度を改める、こうした
内容での貯蓄優遇
税制を廃止するということが不公平是正の
一つのポイントであります。
それから
企業税制におきましては、準備金を縮少する、特別償却を廃止する等を
中心とした特別
措置を廃止するということが必要であります。
その次には
法人税制でありますけれども、
法人税制につきましては
法人実在説的な
立場に立ったいわゆる
法人利潤税に切りかえるべきでありまして、このもとでの
法人に対する累進
課税の
必要性があります。その他
法人につきましては交際費、広告宣伝費等の
課税を強化すべきであることは言うまでもないところであります。
そのほか
個人所得課税におきましては、今日、
所得だけではなくて資産における不平等も大きくなってきておりますので、富裕税を創設する。富裕税につきましては
法人に対する財産税も含めて考えるべきである、このように考えているわけでありますが、いずれにいたしましても、今日貯蓄投資優遇を基軸とした優遇
税制によってきわめて
税制が不公平になってきているということから見まして、いま申し上げましたような点を
中心として
税制の改革を行うべきではないかというふうに考えるわけであります。
今日いわゆる一兆円
減税が問題になっているわけであります。この点につきまして
私見を申し上げますと、今日の
減税問題は、その
目的としては
物価調整に置くべきだというのが私の
意見であります。
物価調整に置くべきであるということは、先ほど言いましたように、
物価上昇下において
所得税においては何よりも
負担の
調整を図るべきであるということから言いまして、今日さしあたり行わなければならない
税制の問題としては、
物価調整があるということであります。
先ほど
国民税制調査会の提案につきまして若干御披露したわけでありますけれども、もう一度申し上げますと、四人世帯で大体七万五千円というのを提案したわけであります。これで試算をいたしますと、
減税総額はほぼ一兆円になるわけであります。したがいまして、一兆円と言いますのは
物価調整で行うべき
減税規模ということであります。
もちろん
減税自体が
経済に対する一定の
効果を持ち、それが
景気刺激的な
効果を持ち得るであろうということは、当然予測できることでありまして、そうした面も考えなければならないわけでありますけれども、私は現時点ではそれはむしろ副次的な
効果であり、主要
目的としては五十一年、五十二年分についての
物価調整ということを
中心に置くべきであるというふうに考えるわけであります。
その方式でありますが、この方式につきましても、先ほども触れましたように、税額控除方式が妥当であるというふうに考えるわけであります。同じ
物価調整をいたしましても、たとえば従来の
減税のやり方あるいは
昭和五十二
年度予算における政府の
減税案というのは、いわゆる
所得控除の
引き上げによる
課税最低限の
引き上げになっておるわけでありますけれども、このような
所得控除の
引き上げでありますと、せっかく
調整をいたしましてもその
効果は非常に不平等にあらわれてくるわけであります。試算によりますと、たとえば政府の減
税方式によりますと、二百万円の夫婦子供二人の四人世帯でありますと一万一千円の
所得税減税になるわけでありますが、これが一千万円の収入の四人世帯になりますと三万六千円という数字になるわけであります。このように
所得控除の
引き上げというのは下に薄く上に厚いという不平等な
減税になるわけでありまして、せっかく
調整を図ってもその
効果は逆になってしまうということであります。
そしてまた同時に、先ほど
物価調整減税のねらいとして
所得配分の不平等を是正すべきである、こういう
目的もあるということを申し上げたわけでありますけれども、こういう
目的からすれば全く逆になってしまうということであります。
これに対して税額控除方式で言いますと、下に厚く上に薄い、こういう
減税の形式になるわけでありまして、
物価調整のねらいからするときわめて妥当なものである、こういうふうに考えるわけであります。もちろん税額控除の方式というものが全面的に
採用されるわけではなくて、現在の
所得控除
部分も残るということは言うまでもないことでありまして、
所得控除の持っている欠陥は当然残るわけでありますけれども、これは過渡的なものとしていたし方ない、長期的には
所得控除の
あり方が再検討されなければならないことは言うまでもないわけであります。たとえばスウェーデンなどのように
所得控除を
採用するにしても、
所得による頭打ち方式というふうなものを
採用しているわけでありますけれども、こういうふうなことで
所得控除が
所得の
上昇部分には及ばないというふうな装置をつくっていかなければならないことは言うまでもないわけでありますが、こうしたものができるまでの過渡的なやり方としては税額控除方式でそれらの欠点をある
程度是正することができるということであります。
それからまた同時に、収入一千万円以上の層につきましては
税率を一〇%
引き上げるというふうな付加税を考えることも必要なことでありまして、そのことによってさらに一層低
所得者への
減税効果を強めるということが必要だろうと思うわけであります。
で、この
減税に対する財源でありますけれども、これは私は
不公平税制是正による
税収増をもって充てるべきである、また充てることができる、こういう
考え方であります。細かい話は省きますけれども、
国民税制調査会で先ほどの案を実現するための財源として試算したところによりますとほぼ二兆三千億円ぐらい、これはかなり控え目に見たわけでありますけれども、控え目に見て二兆三千億円ぐらいの増収があるということでありますので、一兆円の
物価調整をしてもなお財源的に余力が出てくるということになるわけであります。あるいは東京都が昨年出しました
不公平税制の是正と
財政構造の改革、こういう提案の中では約二兆六千億円の増収が見込まれるというふうに計算をしているわけであります。計算の仕方によって幾分差は出てくるわけでありますけれども、現在の
不公平税制を大きく再検討するということでかなりの
税収増があるということは確認できるのではないかと思うわけであります。
それからもう
一つ、戻し
税方式ということが
議論になっているわけでありますけれども、この戻し
税方式が活用されるのは、主として年内
減税において有効であろうと考えているわけであります。私たちの
国民税制調査会でも、
昭和四十八年のいわゆるドルショックの狂乱
インフレのときには、直ちに年内
減税をすべきである、その減
税方式は直ちに戻し税で行うべきであるということを提案して、その後も年内
減税については戻し
税方式を
主張してきたわけでありますけれども、いまだに実現されておりません。このようにすでに支払われた税金を、年度内といいますか、年内の
物価上昇を勘案し、その年内の自然増収の中から
減税をするという場合には、戻し
税方式は非常に有効であり、今後も政府の
物価上昇見通しを上回って
物価上昇があったという場合には、年末に戻し
税方式による
減税を年内においてもする。いままでの
減税は年度当初においてしか行われていないわけですけれども、この年内追加
減税を行うことが非常に重要であろうかと思いますが、その場合には戻し
税方式を活用すべきであろうと思うわけであります。
今回問題になっておりますのは、今後の五十二年分の
税制でありますので、おのずから年内
減税の場合とは違っているわけでありまして、戻し税といいましても、いわゆる概算払いになるわけでありますので年末になると思うのですが、年末に
調整を最終的にはする。たとえば六月なり七月なりに戻し税を行ったということになりますと、年内にもう一度
調整をするということになるわけでありまして、技術的にはやや煩瑣なところがあると思いますけれども、実行できないものではないというふうに考えるわけであります。むしろ私は、今日戻し
税方式が
主張されるのは、実質的な
考え方としては五十一年分の
調整であるというふうに考えたいわけでありまして、そうであるとすれば、三月におきましても四月におきましても直ちにこの五十一年分の
調整という
意味合いで戻し
税方式による
減税を行うべきではないか、そうしてそれを五十二年分において年末に
調整すればいいのではないか、こういうふうに考えているわけであります。同時に
経済に対する
刺激的
効果も考えるとするならば、早ければ早いほどいいわけでありますので、早期に実施すべきではないか、こういうふうに考えるわけであります。
そしてまた、税額控除方式と戻し
税方式とが何か矛盾するような、あるいは対立するような
意見もあるように聞いているわけであります。これは新聞などの報道でありますので正確にはわかりませんけれども、そのように聞いているわけでありますが、これは矛盾するものではないわけでありまして、税額控除方式は
減税の方式でありまして、先ほど言いましたような
目的と
効果を持つものであり、戻し
税方式は、その
減税の金額、
減税額をいかに配分するかというやり方の問題でありますので、レベルの違った問題ではなかろうか。したがいまして、税額控除方式で
減税をして、その
減税分を返すときに戻し税で返すということになるわけでありまして、これは両立可能な問題である、こういうふうに考えているわけであります。
いずれにいたしましても、今日
財政の上ではいろいろ重要な問題がありますけれども、
税制の問題と言いますのは、
財政構造の改革にとりましてもあるいは国、地方の
財政関係の問題から言いましても、社会的な公平なり公正を実現する上にもきわめて重要な問題でありますので、
税制改革に対して積極的な
方向を打ち出されることを強く希望いたしまして私の
意見にかえさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)