○谷山
公述人
税制経営研究所の谷山でございます。
私は、肩書きが示しますように税金のことの、自分で専門家というのはおかしいのですが、研究をしているものでございますが、同時に、所員四十人を抱えております小
企業の
経営者でもございますので、両方の角度を含めまして時間の許す範囲でひとつ
意見を申し述べさせていただきたいと思います。
時間の
関係で
最初に前置きを簡単に申し上げたいのですが、実は私この
公述人の御依頼を受けます前に、いま問題になっております一兆円
減税の問題について原稿を依頼されまして、エコノミストという
経済雑誌に書きまして、実はきょう発売なんでございますが、きょう出ましたので、ひとつ私の足りない点は御参考にしていただければ非常に幸いに存ずる次第でございます。
私は、この一兆円
減税という問題を
中心に申し上げたいわけでございますけれ
ども、正確に申しますと、いま野党の皆さん方が考えておられます一兆円
減税というのが正確な名称であるかどうか、これは若干疑問があるわけでございまして、つまり、納税者にも非納税者にも出そう、こういうお話でございますので、私はもちろん法案の名前は諸先生方がおつけになると思うのですが、要するに生活保障と
消費購買力浮揚のための
減税並びに特別給付金法案、こんなようなことになるんじゃないかというふうに考えております。私はこれから一兆円
減税という言葉を使わしていただきますけれ
ども、いま申し上げましたように正確な意味では一兆円
減税という言葉ではないんじゃないかと思いますが、一応そういうふうに言われておりますので、一兆円
減税という言葉でこれから申し上げてみたいと存じます。
まず
最初に、私は一兆円
減税の意義という問題について申し上げたいわけなんですが、一
国民といいますか、一庶民という
立場で考えますと、とにかく現在大量の赤字国債を発行して異常
事態になっているわけでございますけれ
ども、昨年からすでに
財政当局の方で中期
財政展望というものをお出しになって、
昭和五十五年か早ければ
昭和五十四年までに赤字国債を解消したい、こういう計画をお出しになっておる。私は、まず
最初に申し上げたいことは、こういう赤字国債を出さざるを得なくなったような責任がどこにあるかという点をひとつ
国会でぜひ明らかにしていただきたいというふうに考えておるわけでございまして、つまり一庶民の感情という観点に立ちましても、別に怠けたわけでもないし、ぜいたくしたわけでもないし、何か赤字国債をたくさん出しちゃって将来にツケが回される、しかも、それを解消するために
国民所得に対して三ポイント税負担を上げる、増税をやるんだということだけ言われているんでは、大変迷惑ということになるわけなんでございまして、私はこれは大変
表現がまずいかもしれませんが、一種の
財政公害とでもいうような
事態にあるわけで、私は、公害の問題というのは原因者を究明して、その負担は原因者に負担させるというのが原則でございますので、ぜひそういう点を
国会でも十分ひとつ御
論議をお願いをしたい。
国民としまして、ただやみくもに増税しなければいけないんだと言われているだけではちょっと納得いかないのじゃないかということを考えていることが、第一の一兆円
減税に関する意義と申しますか問題でございます。
そうしますと、一兆円
減税というのは一体どういう政治的あるいは
社会的ないしは心理的
役割りを果たすかという問題でございますけれ
ども、私はいま申し上げましたように、
財政当局が赤字国債解消のためということでもって増税ということで、いわば増税ムードをつくっておられる、あるいは増税癖をつくろうとしておる。増税癖という言葉は余り科学的じゃないかもしれませんが、そういうふうなムードをおつくりになろうとしている。これに対しまして私は、税収あるいは税金のボリュームは将来ふえるのは当然であると思いますけれ
ども、しかしだれに対して増税をするかという問題になりますと、一方では
一般庶民、働く勤労者に対しましては
減税をしていかなければならない、そういう意味で私は、
財政当局の増税癖に対しまして
減税癖というものを勤労大衆に対してはつけていくべきではないか、ここに私は一兆円
減税の大きな
役割りがあると思いますので、ともかく増税ムード、つまり大衆課税による増収ムードに一定の歯どめをかける、こういう意義が
一つあるんではないか。それで私は、一兆円
減税の問題をぜひそういう角度から御
論議いただきたいというふうに考えているわけでございます。これは一兆円
減税の持ちます政治的、
社会的ないしは心理的
役割りというようなそういうような点題ではないかというふうに考えているわけでございます。
次に、第二に申し上げたいことは、いわゆる一兆円
減税に反対をされているいろいろな
政府側の御答弁も新聞等で拝見しておりますし、いろいろな学者の方や何かが言われておりますけれ
ども、私は三つの問題があるんじゃないかというふうに考えているわけです。
第一は、財源という問題でございますけれ
ども、これは単なる財源という問題ではなくて、先ほど申しましたように、私も将来を展望いたしますと、税金収入そのものを減らすということは考えられないわけで、むしろ税金のボリュームというのは今後も
増大をしていかざるを得ない。そういうことになりますと、一方で
減税、一方で増税ということになってきますので、そうなりますと、やはり
税制の民主化と申しますか、あるいは不公平
税制の是正といいますか、そういうことも大きな課題にならざるを得ない。したがいまして、私は、一兆円
減税の
論議というのは、他の財源がどうとかこうとか、赤字国債を発行するかどうするか、そういうのが問題ではなくて、むしろ
税制の民主化といいますか不公正
税制の是正といいますか、そういう観点から考えてみる必要があるんじゃないか。これが私は一兆円
減税問題の
一つの焦点であるというふうに考えているわけで、単なる財源問題だけを焦点にしてはいけないんじゃないか、こういうふうに考えている点が第一点でございます。
次に、第二点の問題でございますけれ
ども、
政府側の発表しておりますいろいろな資料によりますと、
日本は税負担率が低い、あるいは
所得税の課税最低限が高いということを言っておるわけでございます。私は、これもひとつぜひ
予算委員会なり、しかるべきところでしさいな御検討をいただきたいわけでございまして、なるほど
国民所得に対する税負担率といいますと、とにかく
日本が欧米
諸国に比べますと低くなっているわけでございます。私は時間の
関係上余り細々したことは申し上げられませんが、私はしばしばヨーロッパとかスウェーデンなどに行きますと、
日本は税金が安く大変いいということをよく言われるわけでございますけれ
ども、恐らくそれは欧米
諸国との比較でございまして、私は大衆的な課税が軽いということを考えたことはございませんが、一応税負担率という点から見ますと低くなっている。しかしながら、西ドイツあるいはフランス、イタリアなどと比べてみますと、
国民所得に対する税負担率の決定的な違いというのは付価価値税の存在にあるわけでございまして、西ドイツの場合に、付加価値税を引きますと、大体負担率は二四、五%になるわけで、
日本との差はぐっと縮まってまいりますし、フランス、イタリアなどは、付加価値税を引きますと
日本より税負担率は低くなるということになってまいりますので、そういった点で、
国民所得に対する税負担率というものだけを比べたのでは高いとか安いとか言えないのではないか、付加価値税の存在という問題が大きなウエートを持っている、この点が問題になることが第一点でございます。
それから第二点は、
所得税の課税最低限でございますけれ
ども、私も資料を詳しくまだ十分に掘り下げて検討したわけではございませんけれ
ども、とにかく比較が大変無理なんで、大蔵省の主税局の方は非常に御勉強なすって資料を豊富にお持ちだろうと思うのでありますけれ
ども、私は、比較の困難なことをわざと比較して
日本が課
税率が高いということをおっしゃっているのじゃないかという気もするわけです。たとえば西ドイツを見ますと、これはもう先生方よく御存じだろうと思いますけれ
ども、基礎控除、配偶者控除という
所得控除が
日本より高いわけでございますし、キンダーゲルトという児童手当が無税で交付されますので、これを扶養控除に換算いたしますと、かなり高い課税最低限になってくるわけでございますから、これは西ドイツの一例でございますけれ
ども、それからさらに、給与
所得者についても実額控除をある
程度認める、こういう制度もございますので、
日本との課税最低限の比較というのは非常にむずかしい。ある意味では、欧米
諸国と比べます場合にはケース・バイ・ケースで比べてみませんと何とも言えない。つまり、実額控除をとっている給与
所得者の場合にどういう実額控除をしてどういうようになっているか、子供が何人いるか、そういうことを知りませんと何とも言えないわけで、その点、いま課税最低限が
日本が高いということを一概に言うのは私はちょっとおかしいのじゃないかというふうに思うわけで、それが
減税反対論の論拠になっておりますので、この点につきましては、しさいに資料を出していただいて検討をしていただきたいというふうに考えるわけでございます。
次に、第三の問題は、要するに
公共投資か
減税かというそういう問題でございますけれ
ども、私は実を申しますと、あれかこれかという問題ではないと考えるわけでございますけれ
ども、いまの点では
減税が最も緊急ではないかというふうに考えておるわけでございます。実は
公共投資か
減税かという問題は、まず背景に
経済政策に関する根本的な考え方の問題があるわけでございますので、昨年
減税をしないで、いわゆる引き締め
政策という言葉がいいかどうかわかりませんが、
政策をおとりになりまして、
輸出が非常に好調になって、昨年の初期の
段階では
景気回復が緒についたという、そういう御発表があったようでございますが、それが依然として停滞をしている。ですから、
輸出増強あるいは
公共投資というのは、言うなれば
重化学工業中心の
政策でございまして、私はそれ自身もちろん否定はいたしませんけれ
ども、しかし、まあ現在の四十九年以来引き続きます
経済不況の大きな特徴、従来と違った特徴というのは消費
不況にあるというのは大体万人の認めるところでございますので、そういう点で
減税というのは大きな
効果がある。あれかこれかと言うわけではございませんけれ
ども、私は
減税の方が
効果がある。また、
公共投資と申しましても、用地の買収費が約三割くらいかかるというお話もございますので、そうしますと、全部土地所有者にお金が回ってしまうわけでございますから、果たしてそういった
消費購買力の増強になるかどうか、こういう疑問もございますし、地域的な偏在ということもあるのじゃないかというふうに私は考えているわけでございます。ちょっと何分しゃべったか忘れてあれですが、そういうことでもって、一兆円
減税に反対する論拠というのは、
一つの見解としてはございますけれ
ども、現在の
段階では当を得ていない、こういうふうに私は考えているわけでございます。
次に第四の問題でございますが、第四の問題は一兆円という規模の問題で、私は、
昭和四十九年度に平年度で
所得税減税一兆七千億円おやりになったわけでございますから、あれから
物価が約三〇%ぐらい騰貴をしておりますので、それからしますと二兆二千億ぐらいになるのが四十九年度並みのベースではないかというふうに考えますので、一兆円という規模が適当かどうかよく検討していただく必要があると思いますが、私は、さっき申し上げましたように、中期
財政展望に書かれております増税ムードに歯どめをかけるという点、それから不公平
税制を是正するという点、そういう点にも
一つの大きな意義がありますし、もう
一つは投資の流れを変えるといいますか、
経済構造を多少変えていくといいますか、ということにも意義があるわけで、一兆円という金額はもちろん多ければ多いということになりますけれ
ども、
一つの比較の問題で、御検討していただければよろしいのじゃないかというふうに考えているわけでございます。
それから、次は一兆円のやり方の問題でございますけれ
ども、時間の
関係上余り詳しく申し上げることはできませんけれ
ども、大体納税者を大別いたしますと、給与
所得者につきましては二千九百万人の納税者がおりまして、
平均一・二人の配偶者及び扶養家族を持っております。それから申告納税者が約四百六十万ですか、これは
平均二・一人の扶養家族を持っておるわけでございますから、大体納税者を
中心にいたしますと、約七千万人の人間がカバーできるということになってまいります。そういたしますと、残り三千万人ということになってまいりますので、これをどのように給付をしていくか。私は、結論から言いますと、
地方自治体の窓口を通じて、とりあえず野党の方々も四千とか五千とかいういろいろな案があるようでございますが、一応まずそういう給付金を出して、あとは給与
所得者については年末調整でやる、申告納税者については三月の確定申告でやる、その二段構えでおやりになれば、私は技術的には可能であるというふうに考えておるわけでございます。もちろんそれにつきましてはいろいろ技術的な問題もございまして、ここで詳しく申し上げる時間、余裕がございませんけれ
ども、たとえば何と申しますか、
所得が何百万以上については支給しない、あるいは逓減をさせていく、こういうやり方もございますでしょうし、納税額を上回るような給付をするのかどうか、そういう点もまた問題がございますでしょうし、いろいろ検討しなければならない問題もございますけれ
ども、私は技術的には二段構えでやれば可能であるというふうに考えているわけでございます。
〔大村
委員長代理退席、
委員長着席〕
そういうわけで、いま戻し税、税額控除、
所得控除、いろいろ案がございますけれ
ども、
所得控除というのは、野党の先生方は十分に御承知のように、高額
所得者ほど有利になる控除のやり方でございますから、これはやはり税額控除か戻し税に変えていただく。戻し税は技術的にむずかしいというお話もございますけれ
ども、私はそんなにむずかしいことはないというふうに考えているわけでございます。
時間の
関係上あれですけれ
ども、最後に私は、
一つの提案でございますが、従来
予算に関する
論議は
財政制度審議会がございますし、それから税金に関しましては
税制調査会が内閣にあるわけでございますが、私はもちろん
税制調査会の
委員の方々はみんなりっぱな方だとは思いますけれ
ども、正直に言いまして、
委員の方々の約七割か八割は自由民主党支持の方じゃないかというふうに思うわけでございます。私は自由民主党を支持して悪いと決して言っているのじゃございませんけれ
ども、しかし、
委員の方々が偏っておられる。そういうことで、
税制調査会をぜひひとつこの際改組していただいて、せめて政党の得票率ぐらいに
委員を分配していただいて、本当に
国民の声が反映されるような、そういう
税制調査会の構成にぜひひとつしていただくように
国会でも議論をしていただきたいというふうにお願いいたしまして、時間の
関係上言いたいこともたくさんございますけれ
ども、私の
公述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。