○武藤(山)
委員 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題になりました
政府提出の
昭和五十二年度
一般会計予算、同
特別会計予算及び
政府関係機関予算に対し、反対の意思を表明し、討論を行うものであります。
今
国会における予算
審議の大きな特徴であり、かつ成果は、三千億円の所得税減税の追加であり、一般会計の六百三十四億円の増加修正であります。それは一兆円減税要求に含まれた意義、
国会審議のあり方及び予算編成の問題など、多くの点で将来に及ぼす影響はきわめて重大なものがあります。今回の予算修正による措置でわれわれの要求が十分達成されたとは言えません。しかし、その実現に向かって第一歩を踏み出したことは事実であり、減税規模は三千億円の上積みにとどまったが、減税方式としての税額控除の採用、さらに社会保障関係では、年金、手当の改善時期を二カ月繰り上げ、対象者は一千七百万人、措置費も一千億円を
確保できたのであります。
だが、それにも増して意義あることは、自由民主党
政府と官僚とによる予算編成のいわゆる聖域に、
国民の声を正しく反映させるべく踏み込んだ政治的意義は、予算編成の民主化にとって不可欠な布石と言っても過言ではありません。(拍手)五野党共同の要求は、すなわち
国民の過半数の要求であり、それを具体化できないとなれば、
国会審議の不毛性にととまらず、さらに進んでは
国会不信を醸成しかねないのであります。良識の府たる
国会が、今回それだけでも回避し得たことは、同僚諸君の良識によるもので、深い敬意を表するとともに高く評価するものであります。
とはいえ、
政府提出の五十二年度予算は、われわれの要求する予算とはほど遠い
内容で、修正後においてもなお多くの欠陥を持つのであります。
そこで、
政府予算に対して賛成できない具体的理由を申し述べたいと思います。
まず、予算編成の目標についてであります。
政府は、当初五十二年度予算を財政再建と景気浮揚を目標に編成する
意図を有していたが、実際には財政健全化の方針は大きく後退してしまっております。五十一、五十二年度に引き続き歳入の三割を国債に依存する借金財政は、三年目を迎えるが、これから脱却する目途は全く立っておりません。昨年
政府が提示した財政収支試算では、五十二年予算の税収は二十兆円、国債は七兆五千億円であったが、編成された予算では、税収は十八兆七千九百億円、国債は八兆四千八百億円と大きな狂いを生じているのであります。財政収支試算では、五十五年度予算にいわゆる特例国債を発行しないとしているが、この目標達成の不可能なことは抜本的税制改革を放置していることから明らかであり、五十三年度の税収を二四ないし二七%の伸び率を見込んだ試算には信頼を置くわけにはいきません。
また、財政再建を放棄して最重点課題とされた景気の回復も、個人消費は停滞し、民間設備投資も過剰設備に先行き不安が重なって、
政府の見通しのような動きにはない。しかも、輸出の増大も、数量
規制、円安批判となって景気先導の役割りを期待できない状況になりつつあります。公共投資が土地買収費に二〇%強も充てなければならないことを考慮すれば、予期する景気刺激的効果もなく、財政インフレに加担するだけに終わりかねないのであります。
次に、予算の具体的
内容について見ると、第一に借金財政がますます深刻化し、国債の負担が将来の財政にも重くのしかかってくることであります。国債費は二兆三千億円を超え、構成比も八%を超えてしまった。この重荷は、財政収支試算の改定版によって見ると、五十四年度、五十五年度の国債費は、それぞれ三兆九千七百億円、四兆七千五百億円に達し、五十五年度には歳出の一〇%を超える
事態を招き、しかも国債収入の七〇%相当額が国債費というゆゆしい局面に立ち至るのであります。国債残高は五十四兆七千億円と
国民一人当たり五十万円の借金を背負い、財政負担の増加と財政硬直比は一層深刻になります。また、国債管理政策の確立されていない現在、国債の増大イコール・インフレの激化という道をたどる危険があります。
政府は真剣にこの問題に取り組んでいるとは言えない状況であります。
第二には、税制改正の問題であります。
利子配当の分離課税の税率を見ても、昨年秋の四〇%への引き上げ構想が、金融界を初めとした財界の圧力で三五%に抑えられ、五十五年まで固定化する
政府方針を見て明らかなように、資産所得者、大企業に対する課税の
強化は高ねの花と言うべきでありましょう。発想転換は少しも見られません。今後の租税政策が増税方向をたどるのは当然であるが、勤労
国民に対しては、生活防衛を基本にした物価調整減税の
実施と不公平税制是正による財源
確保とを一体にして財政危機に対処すべきであるが、
政府にはいまもって取りやすいところから税を取るという姿勢に変化はないのであります。
第三には、高負担低福祉の予算となっていることであります。
年金の引き上げが物価調整程度に抑え込まれる一方、中小零細企業の労働者を対象とする
政府管掌健康保険法を改悪し、ボーナスに対する二%の特別保険料の新設などで一千六百億円もの増収を図るものとなっております。年金、福祉手当受給者、障害者などは、低成長イコール低福祉政策によって生活水準の維持が不可能な状態に追い込まれております。国鉄の運賃法定制度の緩和、再値上げが、公共料金や諸物価値上げの口火となり、物価上昇に拍車をかける要因となることは避けられません。中小零細企業の倒産は増加する一方であり、失業者は百三十万人に達しようとしています。二百海里
経済水域の設定による漁場の制約は農漁民の生活権を脅かしております。
経済危機のしわ寄せはこれらの層に集中しているにもかかわらず、その
対策は依然として糊塗策の域を出ておりません。
第四には地方財政危機の問題です。
地方の財源不足額は二兆七百億に及び、地方交付税法の規定を遵守すれば当然地方交付税率の引き上げ措置が講じらるべきでありますが、地方に借金政策を押しつけて地方自治体いじめの政策を行っております。地方財政の
強化なくして福祉の充実は成り立たないことは周知の事実であり、しかも、
政府の公共事業拡大にしても、地方の単独事業量を保障しないのでは効果はあらわれないのであります。国の財政危機を理由にした地方財政の放置は、結果はみずからにはね返ってくることを知るべきであります。
第五には、反動的経費の計上です。
文教予算圧縮の中で、教員の主任手当が盛り込まれ、防衛費は、兵器の新型化、国産化を重点に、兵器の研究、開発、専用通信回線の建設など、ポスト四次防計画の初年度とし、総じて後方支援体制
強化に莫大な予算計上がなされていることであります。
わが国の唯一の安全と平和は積極中立政策以外にないことは、
日本の自然
条件、国内の
経済体質、財政危機、今日の世界
経済の動向を見ても明らかであります。また、
国民の血税である
政府資金を不明朗な日韓
経済協力に費消し、その結果は、南北朝鮮民族の自主的、平和的統一を阻害することとなり、断じて許されないのであります。
以上に見たように、
政府の予算は、その前提としての
日本経済の
現状及び
経済転換期における予算の機能について基本的に誤った認識に立脚して編成されております。
今日の
経済危機は、景気の中だるみ現象といった循環的性格のものではなく、構造的なものであり、したがって、高度成長過程で形成された各種の構造的要因を改革しない限り克服できません。それは独占支配に対する
規制の
強化であり、生活関連社会資本投資の拡充、農林
漁業の再建、
資源エネルギーの多消費型産業構造の改革、輸出偏重から内需拡大による景気
対策への転換、貿易構造の変革であり、不公平税制の是正と地方財政の
強化等々であります。しかも、資本主義世界
経済の同時的不況という一般的傾向に見られるように、貿易依存率の高い
日本経済は、国内的要因だけでなく、対外的要請でも最終需要の拡大を考慮せざるを得ないことは言うまでもありません。したがって、
経済改革は、中期的展望のもとに
実施する必要があり、予算はそのための主要なてことされなくてはなりません。
かかる観点に立てば、
昭和五十二年度予算の課題は、当面の緊急課題として、インフレと不況から
国民生活を防衛し、雇用の安定を図り、同時に、
国民生活優先の
経済を確立するための
国民生活防衛、制度改革への予算とすべきであります。それは従来の制度を全面的に再
検討することであり、制度改革に着手する初年度でなければなりません。
最後に強調したいのは、今日の
経済危機は、社会の各分野に格差と不公平の拡大をもたらしており、その実態を直視すれば、
総理が事あるごとに
主張される「今年は
経済の年」といった
経済主義的対応では、問題の
解決策となり得ないことであります。まさに政治の季節を迎えており、
日本の社会変革の時代なのであります。政治の責務はきわめて重大でありますが、
政府にはその認識が欠けており、意欲も見られないのであります。
五十二年度予算の使命は、制度改革の将来展望を示し得るものでなくてはなりません。
政府予算にはその芽生えさえ見出すことができません。致命的な欠陥を持つ予算であります。
以上で、私の反対討論を終わります。(拍手)