○上坂昇君 上坂であります。
日本社会党を代表して、ただいま
趣旨説明のありました
原子力基本法等の一部改正案に関連する幾つかの問題について、総理並びに
関係閣僚に対し質問をいたします。(
拍手)
〔
議長退席、副
議長着席〕
まず、原子力発電の安全性についてであります。
石油ショック以来、石油に取ってかわるものは原子力発電である、燃料の備蓄が容易で、クリーンな原子力に移行しなければ、
経済成長はストップし、
国民はもとの貧しい暮らしに戻らねばならない、エネルギー危機を救うものは原発の開発以外にはないとする
政府、産業界の躍起の宣伝のもとで、小型炉による長年月の研究、実験の
段階を省略いたしまして、原発の建設を一挙に実用化、巨大化へと、過疎地帯を中心として各地に進められてきたのであります。
しかし、その反面、原発の建設と運転に対する住民の
反対運動は大きな高まりを見せています。この反原発運動は、ひとり
わが国だけでなく、世界の各国で急速に広がり、いずれも驚くほどの類似性と共通性を帯びているのであります。この
実態を見詰め、よって来るゆえんを追及することなしに、エネルギー問題を口にすることは許されないと思うのであります。(
拍手)
原子力発電所は、科学技術のあらゆる分野の最も新しい知識と技術を総合した最も進んだ複合テクノロジーであり、二重、三重の安全装置の中で、事故の発生はもちろん、環境の汚染あるいは人体への被害もないということが、
政府、電力業界によって
説明されてきたのでありますが、これらの
説明や保証は全く信用のできないものであることがいまや明らかにされつつあります。
すなわち、沸騰水型か加圧水型かを問わず、運転中のほとんどの原発において次々と事故や故障が発生し、多くの欠陥が発見されているのであります。
美浜原発一号、二号炉、高浜一号炉等の加圧水型原子炉では、蒸気発生器内細管の減肉現象と穴あきによる放射能漏れや燃料棒の曲がりあるいは破損が相次いで発生し、福島、敦賀の沸騰水型原子炉では、冷却水再循環パイプのひび割れ、そして、二重、三重という安全装置のかなめに当たる緊急冷却装置でのひび割れが発見され、ついに福島、島根の各一号炉におきましては、原子炉本体の給水ノズル部分にひび割れが発生するに至りまして、冷却材喪失という最も悲劇的な大事故を生起させる可能性を示したのであります。
まさに、原子力発電所の工学的安全性は音を立てて崩れ去り、今日の
日本の原子力技術はいまだ研究、実験の域を脱していないというわが党の指摘と主張の正しさが明らかにされているのであります。
さらに、原発のたび重なる事故や故障は、頻繁な点検、修理作業を必要とし、このため、作業者の被曝はウナギ登りに増加し、大きな
社会問題に発展をいたしております。
さきにわが党が発表いたしました原発作業員、特に下請
関係労働者の各原発における七十五名に及ぶ死亡の
実態は、これを裏書きするものとして世間の耳目を集めております。
こうして、生物学的、医学的安全性もまた、もろくも崩れつつあると言わざるを得ません。
このような原発の安全性の崩壊をどうとらえておられるのか、原発設置の許可権を持つ総理にお伺いをいたしたいのであります。
次に、今日、原子炉の安全性が
社会的問題視され、原子炉設置の規制と安全
審査の拡充
強化が特に要請をされているとき、原子力安全
委員会の設置を機として、
内閣総理大臣の持つ原発設置の許可権を原子炉の型に応じて分散するという法改正が
提案されたことは、まことに不可解なことであります。
現在の原発設置の申請に対する取り扱いを見ると、総理大臣のもとでの科学技術庁と原子力
委員会による安全
審査は、抽象的な基礎的設計に関する書類上の
審査のみに限られ、詳細設計、工事
内容等の
審査や機器の検査という肝心かなめの重要部分については、通産省と運輸省に任せてしまうもので、その欠陥が問題とされてきたところであります。したがって、その欠陥を正すためには、すべての必要な
審査や検査が、総理大臣を頂点とし、科学技術庁長官、原子力
委員会、そして新設される原子力安全
委員会によって一元的に
実施され、さらに、建設、試運転、改造工事の開始と完了はもとより、それ以後の実体的な検査、技術的な問題の点検についてまで、一貫した責任と権限が
確保される体制を確立することが、いま最も必要だと思うのであります。
にもかかわらず、本改正案は、これに逆行し、総理大臣の権限を試験炉だけにとどめ、特に住民と
関係の深い実用炉については通産大臣に設置許可権を移すなどの
措置は、一貫性を図るということに名をかりて、その実、原発の開発建設を電力会社がやりやすくなるという、いわば業界主導型の原子力行政を進めようとする意図にほかならない点を私は指摘せざるを得ないのでありますが、これらについて、総理及び科学技術庁長官の答弁を求めたいと思います。
なお、原子力安全
委員会の設置と引きかえに原子力
委員会委員の数を減らしていること、また、三十名まで組織できる原子炉安全専門
審査会を廃止しようとしていることはどのような観点に立つものでしょうか。この点について科学技術庁長官にお伺いをいたしたいのであります。
私は、原子力安全
委員会の新設と相まって、原子炉安全専門
審査会をその下に置き、より拡充
強化、そして民主化を図るべきであり、そのためには、原子力
委員会、原子力安全
委員会、そして原子炉安全専門
審査会について、
国会の議席数に比例して各党が推薦する専門家で構成する組織に改めることを
提案をいたしたいのであります。(
拍手)この
提案に対する科学技術庁長官の見解をお示しいただきたいと思うのであります。
次に、原子力発電所のスケールアップに伴う
経済性の問題についてお伺いをいたします。
原発は、発電コストに占める設備維持費などを含めた固定費の比率が七五%から八〇%と言われております。それほど建設、設備に金がかかるのであります。それをスケールアップによって補おうとするのが、安全性を無視した急速な巨大原発の建設と集中化であります。しかし、
インフレの進行はこのメリットを失わせつつあると思うのであります。
現在、営業運転に入っている先発原子力発電所十三基の平均建設費は一キロワット当たり九万二千円だったと言われておりますが、目下建設中の八基につきましては十五万二千円であり、準備中の四基に至っては二十五万円になるだろうとさえ言われているのであります。今後百万キロワットの原発を建設するには実に二千五百億円、さらに
インフレが進めば三千億円にもなるという大変な
金額が予想されているのであります。このような莫大な資金をかけてつくっても、原発の電力料は高くなることはないと言うのでありましょうか。
原発の燃料は、その経営の中での割合は小さいものでありますが、それでもウラン価格は、
昭和五十年におきまして、それまで一ポンド当たり八ドルであったものが、一挙に二十六ドルと三倍に値上がりし、濃縮料金にいたしましても、四十七年に分離作業当たり三十六ドルであったものが、現在、契約方法によっては六十一ドルから六十九ドルに値上がりしているのであります。ウランの値上がりは、さらにメジャーの買い占めでまだまだ続くものと見られております。
アメリカAECの統計によりますと、原発の平均設備利用率は約五七%で、運転期間が長くなるにつれて次第に悪化し、運転開始後七年以上
経過すると三八%に低下するとされております。
わが国の原発も、これを裏書きするように、BWR型で六年目二六・五%、PWR型で四六・一%であり、七年目に入った今年一月では、両型平均で実に三五%に低下をいたしているのであります。
個々の例をとってみますと、美浜一号炉は二年間完全ストップ、福島一号炉も一年間稼働していないのであります。これでは採算のとれるはずがありません。普通の工場なら文句なしに倒産であります。倒産しないのは、公共性に名をかりて電気料金の値上げを
国民に押しつけているからであります。(
拍手)
次に、原子力発電所が
計画どおり運転ができたかったとしたときに発生する問題が、大別して二つございます。
一つは、原子力発電がエネルギー全体に占める比重が大きくなったとき稼働しないとしたならば、それは新しいエネルギー危機、パニックを招くことであります。いつ停電するかわからないのでは、家庭生活は言うまでもなく、産業活動に大きな影響をもたらし、
経済活動は全く不安定なものになるでありましょう。
二つ目は、原発の建設に投下された多額の資本に見合う発電が行われなければ、その損失はだれかに転嫁されるということであります。
設備利用率が低くなること、すなわち停止期間が長いということは、大量の放射能の被曝を避けるため作業員が事故個所に長くとどまることができないため、欠陥部分の発見にいたしましても、修理にいたしましても、非常に時間がかかるからであります。作業員は、大量被曝防止のため、次々に交代しなければなりません。その結果は、労務費の異常な増大となってあらわれるのであります。
このように、いまや、どの面から検討いたしましても、石油より安い原発ということは夢物語になりつつあります。(
拍手)
このような
経済神話の破綻に際しても、なお原発を有利としてこの建設を進めるお考えなのか、通産大臣にお伺いをいたしたいと存じます。
次に、核燃料サイクルの問題でございますが、
昭和五十一年五月に資源エネルギー庁がまとめました
昭和七十年に至る二十年間の原発開発
計画によりますと、
昭和六十年に四千九百万キロワット、原発で四十二基以上、七十年で一億二千九百万キロワット、百二十二基に達するのであります。
元来、原発は、ウラン探鉱、加工、濃縮、成型加工、発電、再
処理、廃棄物処分という、いわゆる核燃料サイクルの各
段階が整合性をもって総合的に確立されなければならない性質のものであります。
ところが、現実にはウラン
確保から濃縮までは海外依存、成型加工だけは国内
処理でございますが、ダウンストリームと言われる再
処理と廃棄物処分については、どこがどのような形で担当するのか、全く具体性がございません。
特に、緊急の
課題とされている使用済み核燃料の再
処理体制については、アメリカの新エネルギー
政策の影響も重なって、ますます見込みが立たなくなりつつあります。
通産省
計画で仮に原発開発が進むとすれば、各電力会社の原発から出る使用済み核燃料の量は、
昭和五十年の年間ベースで五十トンであったものが、六十年には七百トン、七十年には実に三千トンに達するのであります。
このような再
処理需要に対し、応じ得る体制は全く確立されておりません。動燃事業団が東海村に建設中の再
処理工場の能力は年間二百十トンしかなく、それもアメリカのプルトニウム凍結により、本年七月の運転開始は不可能との見方も出ているのであります。
現在、各国においても軽水炉燃料用の商業用再
処理工場は一基も動いておりませんから、海外依存も目算が立たないのであります。
このような
状況の中で、使用済み核燃料棒の処置をどうされるのか、科学技術庁長官にお答えをいただきたいのであります。
さらに、今回原子炉等規制法の第四十四条を改正いたしまして、民間会社に再
処理事業を行わせるという閣
議決定がなされたと聞いておりますが、原発より一層危険な再
処理事業を、原子力発電所において逐次その技術、品質管理体制にその未熟さと欠陥をさらけ出している民間電力会社に任せるならば、どのような
事態を招くかはもはや想像にかたくありません。まさに無謀のそしりを免れないと思うのであります。
原子力発電所にしろ、再
処理事業にしろ、むしろ国家管理ないしはより強力な国家規制のもとに置くことが肝要ではないかと考えるのでありますが、これについては総理の見解をお示しいただきたいと思うのであります。(
拍手)
次に、年々増加の一途をたどる放射能廃棄物処分の問題でありますが、最近、科学技術庁は、低レベルの廃棄物をドラムかんに詰めて海洋投棄を行う方針を決めたと伝えられておりますが、領海十二海里、また二百海里
経済水域あるいは漁業専管水域の設定が
日程に上っているとき、まことに重大な問題であります。一体どこにこの廃棄物を捨てようとするのか、二百海里内の水域かあるいは公海か、公海とすれば国際的合意をどうするのか、これらについて科学技術庁長官の明快な答弁を求めます。(
拍手)
最後に、エネルギー
政策について申し上げます。
今日、エネルギー危機が叫ばれております。それは南北問題か、資源ナショナリズムの問題か、あるいはまたアメリカの世界戦略なのか、いずれも真実性を持っていると思うのであります。ところが、
日本にとってエネルギー危機というのは、
日本みずからがつくり出したものであることを私たちは銘記しなければなりません。
わが国は、
高度成長期において徹底的な産業合理化を行い、その合理化により国際競争力を上げる上でその推進力としたのが、石炭から石油へのエネルギー転換であったのであります。
戦後の復興期の中心となった石炭産業は、
昭和三十六年には五千六百万トンの生産を上げたのであります。しかしながら、三井三池炭鉱の合理化、首切りの強行以来、
政府は石油をエネルギー
政策の中心に据えて、石炭の切り捨て
政策を無残にも推進してまいったのであります。
今日、
わが国のエネルギー危機を云々するならば、海外依存度を九〇%近くまで高めてしまった
政策にあり、
高度成長をにしきの御旗として国内資源を捨て去り、国際
経済にアニマルぶりを発揮してきた
日本の多国籍企業と、それを擁護してきた
自民党政府の責任であります。今日、
わが国の地下には、理論可採炭量二百億トンの石炭が眠っているのであります。
私は、いま進められている原発開発
政策が虚像に過ぎないものではないかという立場に立ちまして、質問を展開をしてまいりました。いまや、原子力志向のエネルギー
政策の見直しないしは転換を図るべき時期に来ていると思うのでありますが、いかがでしょうか、総理並びに通産大臣のお答えをいただきたいと存じます。
端的に申し上げまして、安全性の確立がなく、
経済性もない今日の
日本の原子力技術は、いまだ研究
段階にあることを示すものであり、原子力発電所、原子力船、さらに再
処理工場の建設、改修、運転を当分の間凍結をし、真に安全性を確立するための研究、実験、技術開発をこそ推進すべきであると私は考えるのでありますが、これについて総理の答弁を求め、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣福田赳夫君
登壇〕