○高橋高望君 私は、民社党を代表いたしまして、ただいま
提案されております
所得税法の一部を
改正する
法律案並びに
租税特別措置法及び
国税収納金整理資金に関する
法律の一部を
改正する
法律案に対し、
総理、
大蔵大臣に若干の
質問を行わせていただきます。
私は、
政府の述べるわが国経済が
回復過程をたどっているとの
考え方を否定するものであります。ほんの一部の業種に活況がありはするものの、実際問題としてふえ続ける
企業倒産、そしてその倒産構造の変化、かつてのような放漫経営によるものではなくて売り上げ減による倒産の増加を見れば、あなた方が口になさる
回復過程にあるとは、このことだけでも言えないと思うのでございます。(
拍手)各種の指標も
景気低迷を明らかにしております。
総理にお尋ねしたいのですが、まず、あなたは昨年の経済施策の結果をどう
考えておられますか。私たち民社党は、昨
年度の予算編成に際して、
景気の深刻さ、重大さを憂えて、いち早く五十一
年度において大衆
減税一兆円を提唱し、それによる
景気刺激を訴えたことはまだお忘れにはなっておられないと思います。この要求に対して
政府は、と言うより、実際には当時の経済責任者であったあなたは取り上げられなかったが、結果として出てきたものはどうでありましたか。十分に御
承知のとおり、輸出の異常な好調に支えられて、と言うより、その輸出貢献産業の経営者すらあわてるほどの、いわば神風的な予期せ
ざる状況によって、かろうじて
年度目標五・六%を達成し得たのでありましょう。
言葉を変えるならば、この神風が吹かなかったら、成長率は間違いなく二%台の成長にとどまった。また、このことは、過日の予算委員会において、わが党の河村委員の
質問に経企庁長官もしぶしぶながらお認めになっておられるところでございます。神風に恵まれた、救われた、これが昨年の
政府の偽ら
ざる心境ではないのでしょうか。
しかし、
国民はそれでは余りにも不安であります。賢明な多くの
国民は、今回の
不況が何か不気味なものであることに気づいております。強いて歴史を振り返れば、一九二九年のあの世界
不況の再現ではないかと恐れる者も出ているのでございます。
政府の掲げる数値は努力目標値であってはならず、特に
不況時にあっては、どんなことがあっても達成する最低限の数値であってほしいと思うのは当然の声でございましょう。
総理、どうぞこの
国民の声を改めてかみしめていただきたいと思います。(
拍手)
この
立場に立ちますと、今
年度の
政府見通し六・七%は、私は不可能に思われてなりません。一体、昨年の
年度中上昇率二%台に対して、五十二
年度がどうしてこんなに大きな成長が
期待できるのか、お尋ねをしたいのです。
輸出面では、また設備投資面でも、それほど甘い環境ではございません。OECD全体の経済成長見通しですら、五%が三・七五%にダウンしているのですから、輸出が昨年ほど伸び得ないと見るのが常識でありましょう。神風は毎年は
期待できません。ここに
財政の果たすべき役割りが大きくクローズアップしてまいります。
私は、民間部門に
景気浮揚のリード役が
期待できない以上、おっしゃるように、公共部門すなわち
財政に
期待せ
ざるを得ません。それが、国税、地方税合わせても
減税は四千三百億、あるいは百年一日のごとき
公共事業中心主義、それも五十一
年度の伸び率二一・二%をわずかに上回る二一・四%増では、
政府の
期待する
景気浮揚の牽引車になり得るか、全く疑問であります。一般会計との関連を
考えてみましても、一般会計が、五十一
年度は、前
年度当初比一四・一%増、
公共事業費は二一・二%増であり、
公共事業費は七・一ポイント上回っておりました。これに対して五十二
年度は、それぞれ一七・四%増、二一・四%増で、四・〇ポイント上回るにとどまっております。
表現を変えるならば、むしろ昨年の方が
景気刺激型であったのです。それでも、実際の効果は余りなく、輸出の予期以上の増大によって、五・六%がやっと達成できたことを
考えれば、昨年よりも比率として低い
公共事業によって、果たして六・一七%が達成できるとお
考えになれるのですか。
さらに、私は、
公共事業の質についても疑問が残ります。すなわち、
公共事業の
内容が
高度成長時代と変わってきたことであります。十分御
承知のように、かつては産業基盤投資が主流でありました。これによって製造業の設備投資が誘発されました。しかし、最近は
公共事業が
生活関連投資に重点が移って、設備投資の誘発効果が弱まってきていることを
考えなければなりません。また、土地の値上がりによる買収資産の
公共事業支出への圧迫、さらには貯蓄となって波及効果を弱める現実は、ただ単に工事の進展に伴う就労人口の拡大などと
考える
政府の
姿勢だけで埋め切れるものではないと思われます。
私は、改めて、
公共事業よりも
減税による
消費の刺激をまず取り上げるべきであると思います。古い道学者がどう
考えようと、現実にわが国にあっては、民間
消費支出が
国民総生産に対して六〇%に手の届くところまで達している以上、低迷が激し過ぎるのも経済を健全にするものではありません。しかも、
消費は
所得の関数であります。
所得は
企業利潤によって大きく支配されますから、
消費低迷の
原因の一つに、
企業利潤の落ち過ぎも十分に考慮しなければなりません。このため、
企業利潤を
適正化するための
景気政策を総合的にとる必要があり、特に
景気のしわ寄せをもろに受けている
中小企業に対し、格別の配慮が必要となると思われます。
ここで、
国民生活の現状について御一緒に
考えたいと思います。
昨年の
国民生活の実態は、賃上げ平均八・八%にもかかわらず、
消費者物価上昇率九%前後となっており、だれが
考えても、賃上げは帳消しです。さらに、
減税見送りによって
実質増税となり、また、
社会保険料の大幅
引き上げや自動車税の
引き上げ等を考慮すれば、
勤労者の
生活水準は一昨年より下回っております。
国民経済がわずかでも上向きになっているにかかわらず、
国民生活は昨
年度は低下しているのが実態でありましょう。この
状態を放置しておいてよいものでしょうか。
物価調整減税だけでは実質の救済
措置にはならないと思います。大体、
物価値上がり分は
減税で補給することは当然のことであって、改めて目玉にするようなものではないと思うのでございます。
昨年、全国サラリーマンの平均収入世帯では、二十八万円が
物価上昇で目減りしているのですから、それをわずか三千五百億円
減税では
政治にも行政にもならない、私はこう言いたのです。
減税は
景気回復に余り役立たない、
総理あるいは
政府の方は皆こうおっしゃる。それよりも
公共事業に集中的に金を投入すれば効果も早いと言われます。しかし、大幅な
減税をやったら、その金は宙に浮いているのではございません。
消費に回って
景気を刺激することは間違いなく、アメリカや西ドイツがその好例であることはもう十分に知れているところでございましょう。しかも、世界各国から、アメリカ、ドイツ、
日本に対して、
景気回復の先駆者たれと求められており、アメリカ、ドイツが大幅
減税でこれに応じているのに、
日本だけが
公共事業のみを手段とするというようなことで国際的に
協調できましょうか。当を得たものとは言えないのではございませんか。(
拍手)
ここで、現在の
減税方法についてお尋ねをしたいと思います。
限られた財源を
減税に用いるのですから、その場合、当然
中小所得者に厚くすることを
考えるべきであります。ところが、
所得税における諸控除
引き上げ方式は
高額所得者に有利な方式と言わねばなりません。たとえば、同じ一兆円
減税を行うにいたしましても、旧来の
政府方式では、
課税最低限が、いまの百八十三万円から二百三十五万円程度に引き上がるにすぎませんが、税額控除方式にすれば、二百七十万円程度にまで
引き上げられ、中
所得者以下に有利な
減税方法になります。これは
政府の
税制調査会においても、いまの人的控除方式を税額控除方式に変える点については、十分
検討に値すると述べ、一年限りの時限的
措置であれば可能であるという
趣旨の答申を行っております。
わが党は、この税額控除方式を本
年度採用すべきであると思いますが、
政府の御見解をお
伺いいたしたく思います。(
拍手)
申し上げてまいりました
質問の締めをいたしたいと思います。
総理、今日に至るまで、いまだに公定歩合引き下げの発表もなく、大幅
減税に対しても決断をなさらない。
総理、重ねてお訴えしたいのです。一兆円の
減税は、
日本を支えてきた勤労大衆の声なんです。(
拍手)ことしこそは実施してほしいし、また、しなければ悔いを千載に残すおそれがあります。決定には判断力を必要とすると同じ程度に勇気を必要とします。薬がまずくなければならない必要はありませんが、とかく良薬は苦いものです。同様に、決定が不愉快でなければならない理由はありませんけれども、しかし、大抵の効果的な決定はそう愉快なものではないようです。
総理、わが党の
提案を受け入れられる決断を
期待して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣福田赳夫君
登壇〕