○渡部(一)
委員 まことに悲壮な
交渉にお出かけになるわけでありまして、私も言いようがありません。これでは手を縛って、口を縛って、耳をふたしておいて走ってこいというのとほぼ等しい。高度な政治判断という言葉でいま言われましたけれ
ども、こうした形での
交渉というのはほとんど
交渉になり得ないというのが普通だろうと私は思います。
事態は深刻な決着をつけるだろうと私は予測されます。こういうときに私たちがあえて行わなければならないのは、多年にわたりほうり上げてありました
領土交渉というものを再開し、これに対しての決着をつけることでなければならぬだろうと私は思います。
この際、申し上げておくのでありますが、未解決の諸問題の中に
領土問題が入っているという
立場を
日本政府が堅持されることはわかりますが、それが入っているというふうにソビエト側が完全に合意していると思うことは大きなエラーになるということであります。なぜかと言えば、ソビエト側はあの田中・ブレジネフ共同声明において最終の
両方が交換された
文書のみが
両方の合意であって、
領土問題について
日本側から何回か発言があったことは認めるが、それを「未解決の諸問題」に入れたことはないと公然と放言をいたしております。そして先般
外務省某
局長がこれについてわざわざと、
日本側のメモの中には明らかにそれを指しているという
部分があると述べましたけれ
ども、こうしたものを持ち出すことはほとんど
交渉にはなり得ない。先方が認めていない、合意議事録でも合意メモでもない一方的なメモを出してそれを
主張するなんというのは、外交上からいって全くそれはナンセンスな出来事であります。しかも、そのときの共同声明は、すでに
指摘いたしましたとおり、四十数カ所もエラーのある、誤訳のあるとんでもないものでございました。そして「未解決の諸問題を解決して」とはなっているが、事実上のロシア文を見れば「解決して」とはなっていない、調整してという程度の表現しか使われていない、これは足がかりにはなり得ない。しかもソビエトとの共同宣言において二島返還が事実上示されており、その
立場を表示して以来、
わが国の不法占拠という
主張は非常に減殺されたものになっていることも厳たる事実であります。そういう
状況にあるときに、国内に向けて
交渉の前途を甘く想像させるということは非常に危険である。私は冷厳な
立場から対ソ
交渉についての甘い幻想を抱かせるのではなく、
わが国としてはそれこそこの二百海里線に対する
態度も
考え方を改めなければならない。二百海里線に対する
わが国側の
主張は、むしろ第一義的には先方と同じ
立場に立つという意味ではなくて、
日本の漁民に対する安全操業のできる領域というものを定めるための力のある国内
措置であるという
立場から、これを見直さなければならない。そしてソビエト側との
交渉でこれが
交渉の役に立つかどうかについてはむしろ否定的な側面の多いことから、十分の警戒を持つことでなければならない。またその二百海里線を引くに当たっては、
わが国側はよほど監視をして、その二百海里線を一たん引いたからには、引いた
部分についてはこれを堅持させるという信念と実力が伴わなければならない。そうでなければ、
わが国に対する侮りを諸外国からさらに受けることになる。私はそうした
部分に関する深刻な御認識を今後ともいただきたいと思うのであります。
また、
宗谷海峡とか対馬西
海峡のごときソビエトあるいは韓国と接触する
海峡面において、この十二海里
領海法案はわざわざ三海里にとどめているのでありますが、これな
どもってのほかであります。接触する
部分において十二海里線を要求すべきところを要求しない。こうしたことは今度は二百海里線において大幅に先方の中に踏み込むと同時に、
主張できるところにおいて全く
主張しない、この奇妙な外交のやり方というものはまさに
わが国の
国益を損し、
わが国の外交上の
交渉的
立場を著しく損壊するものであります。
私は、最近のこの
漁業交渉に関連するさまざまの
政府の対応というのは、そうした面で非常に重大な難点を含むものと思います。今後の御参考に資するためにきょうは厳しく申し上げたわけでありますが、これはただここで厳しく申し上げているのではない。これから
交渉される皆様方に深刻な
理解を持っていただいて、少なくとも現政権が
交渉するしかないのですから、現政権がもっとふんどしを締め直してやっていただくよう希望いたしまして、私の
質問といたします。