○島田
委員 昭和五十二年の畜産物価格の決定に当たって、ことしは
現地における
生産乳量の実態が例年低迷を続けてまいりましたものから、少し頭が出かかるような状態も生まれている。それをとらえて、まさに酪農は安定期に向かったというとらえ方をしているということは、現場の認識と
農林省当局が見ている
考え方とでは大変大きな実態の相違があるということをいままで
指摘をしてまいりました。私は一連の質問を通じて非常に遺憾に思っているのでありますが、どうも現場の酪農家があるいは畜産農家が大変な苦労をしているという実態を正確に把握しようとしない、こういう感じがしてなりません。極言をすれば、価格を決めたら決めっ放し、実態
調査も追跡
調査もしていない、こういう感じにさえ受け取れます。
まず、私は、先般小
委員会の席上、
生産のメカニズムといいますか、酪農、畜産の実態、
局長がおっしゃっているような構造政策でこれからもやろうという、そういう
考え方を幾ら強行しようとされても、
現地ではとても受け入れられるような状態ではない、むしろ拒絶反応が強くなるでしょう、こういうことを前提にして、構造政策によってどんなに大きな負債が生じ、今日の経営の困難な実態が生まれたかということを若干の事例を挙げて申し
上げてきたつもりです。そこのところはまだ私とあなたの間では合意に達していないから、きょうはもう少しこの論議を進めたいと思うのです。
つまりあなたの論法は、資源のむだ遣いだという前提に立って、高い乳価にすると
生産が刺激されて、そうでなくてもいまのように限度数量をオーバーするような状態というものは、今後収拾つかなくなるというような
意味のことをおっしゃっている。果たしてそうだろうか。
現地の実態を少し私は申し
上げたいのですが、正月の松の内が過ぎますれば、私
どもは新年度の営農設計に取りかかります。昔のような簡単な営農設計ではありません。二十数ページに及ぶ膨大なものであります。恐らくこれぐらいの営農設計書を前にして、腕を組み頭をひねりながら一家じゅう額を寄せて、ことしの営農設計をどう立てようかと苦労をするわけであります。昔は第一ページからずっと順序よく二十数ページ全部営農設計ができて、最後にいったら何とかまあ収支大きなそごを来さない計算ができ上がって、よしこれでことしの計画はでき上がったからいくぞ、こういうことになり得たのでありますが、最近はそうでない。四、五ページも記入が進んでいったら、次はもう前に進まぬのであります。なぜ進まぬか。まず大きな負債をしょっている、それをどうやって払うかというところではたと行き詰まってしまうのであります。ですから、仕方がないからページの一番最後の方の二十数ページのところから、さてことしはそれでは一人頭幾らの生活費で切り詰めて
——かかった経費はこれはもう一〇〇%何とかしなければ、農協に借金が残ってしまったらまた大変なことになります。払う負債の額も決まっている。そうすると、支出のところから記入を始めます。支出の総額が決まったら、それにあわせた収入が見込まれなければ営農設計書ができ上がったとは言えない。まさか大きな赤字を承知の上で組合長のところへ持っていって、どうかことしこういう方法でやるから何とか理解して応援してくれと言っても、組合長も、よしきたと言うのには、これはしばらく時間がかかる話であります。赤字を承知の上で、ことしの営農をやりなさいなんという指導はできない。
どういう知恵を働かさなければならぬかというと、乳価は残念ながら大場畜産
局長が抑えて決めているんだから、これは自分で動かすわけにはまいらぬのであります。そうしたら、ことし払う借金も含めて、かかる全体の経費をどう消化するかというのを逆算していかなくてはなりません。つまり、二十頭で搾乳していこうと思っても、それでは足りないから、本当はもうこの牛の能力の限度がきたからことしは老廃に落としていこうか、あるいは新しく個体販売でもって収入源を求めていこうかと思っても、そこのところをちょっとやめておいて、頭数をふやしていかなければならぬ。四トンの乳をしぼって計算していっても、とても収支償わぬから五トン
——本当は四トンの能力しか持っていない牛に五トンの、いわゆる能力目いっぱい以上のものをかけて、単価八十七円で計算してやっと収支償わせなければならぬというような営農設計の実態になっているのであります。そこのところを、あなたのお
考えでは、乳価をこれ以上
上げると
生産を刺激するという論法でことしは抑えるという
考え方を打ち出しておられる。現場の実情の不認識もはなはだしいとこの間私は厳しく
指摘したところであります。そういう実態をもう少し
調査をしてもらいたい、こう思っています。
そこで、私は、今度現場からたくさんの皆さんが上京されて、私のところにも幾つかの細かい営農の実態を御報告を受けております。大変御苦労になっている実態がその中からうかがい知ることができるのであります。主産地である北海道の東北の酪農家の皆さんがいままでの経営の実態を明らかにした
資料であります。こんなにたくさんあります。これは全部そうであります。その中から十勝あるいは北見、根室、釧路の酪農家の皆さんの実態の
調査資料でありますけれ
ども、
一つだけ引用させてもらいます。
昭和四十七年に畜産経営コンサルタントを受けられて酪農経営をおやりになっている根室の標津の上古多糠の吉原正巳さん四十歳の方の経営の実態であります。私は詳細に内容について説明を受けました。大変な努力をされて、いままさに中堅酪農家の一人として酪農にすべての生涯をかけようとしているこの人の経営の実態に触れて、私は、これをこのままに放置するというようなことになれば
日本の酪農はまさに崩壊してしまうのではないかというふうにさえ危機感を持ったのであります。この人の経営の若干の説明をいたしますと、こうであります。
昭和四十一年、いまから十年前、全体の収入は百五十二万五千円でありましたが、その後、確かに大場畜産
局長が言われるように、政府のしり馬に乗ったわけでもありますまいが、構造改善に努力をいたしました。十年後の今日、二千三百七十四万円を
上げるという大変な努力の結晶をここに見るようになりました。しかし、残念ながら、それと並行して、この十年間で累積赤字は実に二千百万円に達するというありさまでありました。構造政策には一生懸命がんばったけれ
ども、構造政策の協力の中で一生懸命構造改善に努力をして、今日、確かに器も大きくなり、
生産の乳量も上がってまいりましたが、あわせて二千百万円の累積赤字をつくるという実態になった。これでもなおあなたは構造政策が第一義だとお
考えになっているかどうかを私は聞きたいのです。これは単なる特異な例だとおっしゃるかもしれませんが、いま申し
上げた、ここに三十件余りの実態の
資料があるのでありますが、それはすべて、まさにこの吉原さんの経営と大同小異であります。そしてあなたがおっしゃるように、大型酪農家を目指す人たちの経営の実態であります。いま私はわずかな内容の説明を申し
上げただけですが、御所見を伺いたい。