○丸山
参考人 私、自治労の
委員長をやっております丸山でございますが、
自治体に働く労働者の立場から、この
委員会で御審議されております
地方交付税法の
改正法案につきまして基本的に反対し、抜本的
改革を強く
要望する立場から、幾つかの点について
意見を述べさせていただきたいと思います。
政府は、去る三月二十九日、
昭和五十
年度の決算分析を
中心としまして、五十二
年度の財政白書を発表いたしておりますが、この中で、
地方財政は転機を迎えていると述べております。その財政
赤字は一段と強まったという指摘をしておりますが、これは
地方税収が戦後初めて
減収となり、
経常収支比率は上昇し、さらには
地方債依存度が高まるという財政上の
危機を指摘していることにその特徴点があると思います。
これらの
状況をもとに、一方で
自治省は
昭和五十二
年度をベースとする
昭和五十五
年度収支見込みを推算しておりますが、それによりますと、
地方債依存度はやや低下するものの、その残高は二十兆四千億円に上り、
地方債償還に要する公債費は三兆四百億とウナギ登りに増加をし、財政
支出を圧迫することがうかがわれます。
一方、
交付税は、
昭和五十
年度以降の先食い分の返還が五十三
年度から始まることになりますが、そのため五十五
年度においては二千七百億を返還するということになり、その圧迫の度合いを一層強めることになることは間違いないと思います。
このような
地方財政の
危機の主因が経済の構造的な矛盾によって引き起こされていることはすでに各界から指摘をされているところでありますが、また、高度成長期においてさえ指摘されてまいりました国と
地方の
財源配分、いわゆる一般に三割自治と言われておりますが、ここにその全容が露呈したと言っても言い過ぎではないと考えられますし、ここで抜本的な政策が必要になってくると考えます。
安定成長を目指すという
政府の施策が今日しかれている中で、これらの構造的な矛盾の解決は緊急な課題であり、その方策としては、税、財政制度の
改革であろうかと思います。そして当面する
地方財政の
改革に第一に着手する方策は、
地方交付税率の
引き上げにあると思います。
政府は、先日の参議院の
予算委員会において、
交付税法六条三の二項の発動を本
年度行わなかった理由として、経済が安定期でないこと、
交付税率の改定は長期的な
制度改正となること、法律の解釈として
臨時的な
措置を排除していないことなどを挙げておりますけれども、さきに申し述べましたように、
地方財政の将来方向が長きにわたって
赤字基調をとることは
政府でさえ否定できない事情にあることを考えますときに、法律の拡大解釈をもって
問題点をそらすということはできないのではないかと考えます。
この意味におきまして、私は、
交付税法の趣旨に沿って、二年間財政
赤字が続き、なおその基調が変わらない
状況にあるとき、つまり本
年度において
交付税率の
引き上げを行うべきであり、前回改定が行われました
昭和四十一
年度以降の
国税減税による今日の
交付税落ち込みの額は、大体一五%となっているのでありますから、私どもが主張してまいりました四〇%以上への率の
引き上げ改正はきわめて当然のことだと考えております。また、百歩譲って考えてみたといたしましても、本
年度改正を解釈上の理由から行わないといたしましても、いつ六条三の二項を発動するか、その条件というのは、どういう事態のときにおやりになるのか明らかにされなければ、
地方財政の将来展望が全く明らかにならないという点に、特にこの法案についての基本的な見解を申し上げる次第であります。
以上の立場から、具体的な例を二、三申し上げまして、ぜひお考えをいただきたいと思います。
その第一は、
交付税算定における
実態との乖離、開きの問題であります。
第一の例は、清掃職員の賃金単価の
算定で、清掃職員の賃金単価は九万四千五百円となっておりますが、私どもの
調査では、
指定都市の現業職員の
平均給料月額は、本俸で十四万四百九十一円となっており、
平均年齢は四十・六歳であります。清掃職員の賃金は、たとえば
東京の場合には十四万三千円、大阪の場合は十四万四千円、神戸の場合は十三万二千円、このような開きが
超過負担の
一つの原因になっております。
さらに第二の例は、保健所保健婦の問題について触れますと、保健所保健婦の給料は、三分の一国庫
負担の職員でありますが、この
給与の単価は十五万一千八百円となっております。この残りの三分の二が
交付税の
算定基礎となるわけでありますが、この国庫
負担の
対象には、実は当然必要なこの人方の超過勤務手当でありますとか、扶養手当でありますとか、退職手当、公務災害、共済
負担金などが
除外されております。このために、
昭和五十二
年度の
給与単価表の
道府県吏員の額ではじき出しますと、約百十六万三千百円ぐらいの数字が出てくるのであります。こういう
実態からも、
実態と計画上の大きな開きがある例を申し上げたわけでございます。
また、これらと同じような例としては、農業改良普及員でありますとか、生活改良普及員でありますとか、こういう場合にも出てまいっております。
第二は、
超過負担の問題について申し上げたいと思いますが、すでに
全国知事会の発表した
都道府県における
超過負担額は六千三百億円に達していると言われておりますが、
昭和五十二
年度地方財政政策の中では、全
自治体における
超過負担解消策としてとられている
総額が四百九十五億円ということ、両者を対比いたしましても、その対策の不十分な点を指摘せざるを得ません。摂津訴訟と言われるこのような問題が提起されまして以来、国がその
解消に努められていることは私どもはわかりますけれども、依然として福祉施設、学校等の
超過負担が
改善されておらない事実があります。
たとえば横浜市における特別養護老人ホームの例に照らしてみても、その
実態が明らかになっております。さらに、このホームの建設費ばかりでなく、
措置費の問題についても
超過負担の問題が大きく、これらの総和が
自治体の財政に大きく
影響しているということを申し上げないわけにはまいりません。
第三の問題といたしまして、
住民の健康にかかわる保健衛生の
行政の
実態について明らかにしてまいりたいと思います。
自治労は、かねてから
住民の健康と福祉を守る運動を
昭和四十七年から進めてまいりましたが、特に昨年の場合には、救急医療の問題を取り上げまして、俗に言うたらい回し訴訟を総評と一緒に提起したわけでございますが、自治労は、この荒廃した医療の問題とともに、今日、国も
自治体も真剣に取り組まなくてはならない問題として、公衆衛生を推進する大きな使命があると思います。病気にかかる以前に予防に力を入れる公衆衛生の
確立が問題であると思いますが、現実は、厚生省はなし崩しに保健所を統廃合していく
傾向、つまり安上がりの
行政を目指しているとしか考えられません。
厚生省は、国の定数削減計画を一方的、機械的に計算の
基礎に置き、保健所業務が事実上増大しているにもかかわらず、
昭和五十二
年度では百三十一人の人を減らし、この十年間で二千八百五十八人の職員の定数削減が行われております。
このような具体的な例は、たとえば広島県の保健所統廃合に見ることができますし、この中で十八の保健所が十五保健所に減らされる計画で、すでに
昭和五十一
年度から、府中の保健所に二つの保健所を統合いたしましたが、一年
経過した今日、現地ではいろいろな問題が提起されております。
一例を挙げますと、統廃合により広域化したために保健婦活動が不活発となり、検査あるいは対人サービス、あるいは食品監視などの業務が低下しております。特に保健所の業務を
市町村が肩がわりさせられ、
市町村保健婦の
負担が重くなり、野犬の補獲、殺処分などがこの方に押しつけられたり、移動保健所の中でも、従来より密度が落ちてきております。
これらが統廃合による
問題点ですが、
地方財政の
危機に乗じて、これらの国民の健康と生命を守るべき衛生
行政の安上がりの
傾向については、私たちはどうしても
改善の必要を強調したいわけでございます。
第四に申し上げたいことは、このような財政
状況に藉口して、
政府が
自治体の労使に対して
人件費攻撃をかけ、その結果として、多くの
自治体で労使の紛争が発生していることであります。
昭和五十
年度に始まります戦後二度目の
財政危機は、それが日本経済の構造的な変化に起因していることは論を待たないことでありますが、これを福祉のばらまき、公務員の賃金、
人件費にあたかも起因しているような
政府の宣伝、そして
地方自治への干渉、介入ということは、
財政危機打開、そして
住民福祉の拡充に
努力している
自治体労使にとってきわめて憂慮すべき事態であると言わなければならないと思います。
恐らく、
政府は、
自治体が
行政水準を、賃金
水準や制度の見直しを放置したまま、たとえば
自治省に起債を、そしてまた特交での手当てを
要求してくることは虫がよ過ぎるということを言う人がおりますけれども、これこそ官僚の中央集権的発想と言わざるを得ませんし、今日の
財政危機が、さきに述べた構造的なことに起因しているからであるとすれば、その意味では、これらの起因を招いた責任を政策的に
改善することは当然なすべき責務ではないかというふうに考えます。
自治体行政の将来を考慮するための人材
確保は、
自治体の人事管理政策としては当然のことでありますし、このため、好況期においてその賃金を社会条件との見合いで高くしなければならない事情があることは、民間においても同様のことではなかろうかと思いますし、このことを単絡的にとらえて、たとえば
交付税法成案直後に出される財政指導通達などに見られるような
行政指導、また、
地方人事
委員会事務局長
会議における
給与適正化に名をかりた賃金切り下げ指導などはこの典型的なものであり、今日
市町村で多発している労使の紛争はこれに根源があると考えます。
最近においては、宮崎県三股町に見られる紛争は、労使の協議に基づいて議会で決められた
給与条例を、これまでの労使協定を無視して、またその後これを議会が改悪をされ、賃金切り下げを押しつけられ、加えて現業部門に対しても、これは労働協約締結があるわけでありますが、一方的破棄を通告し、絶対に
団体交渉に応じないなどといった事件は、それが
財政危機を背景としているとはいえ、今後における
自治体の労使
関係の上では非常に憂慮すべき問題でありますし、労働基本権の上からも問題であると考えます。
昭和四十二年八月設置されました
自治省公務員部は、その設置に当たりまして、第一に、
自治体の労使
関係については公正中立の立場を守ること、第二に、
地方公務員の適正な待遇
改善、適正な人員の
確保、個人的権利の擁護、第三に、処分等に限らず、人事管理はあくまで
地方団体の
自主性尊重を目的として、強制にわたる指導は行わないということは、国会の場で自治大臣が明らかにしていることでありますが、そのように、今日の
政府が行っている指導は、いわゆる公務員部設置目的から大きく逸脱しているのではないか。さらに言及をすれば、人事
委員会に対する指導の
内容は、
地方公務員法五十九条に言う「技術的助言」の範囲を超えた権限の行使であるとしか考えられません。私としても、これらの強制的指導に対しては一考を
要求いたしたいと思います。
昭和三十五年六月に開催されましたILO第四十四回総会におきましては、産業的及び
全国的
規模における公の機関と使用者
団体及び労働者
団体との間の協議及び協力に関する勧告を採択いたしました。これは日本でも採択をしたわけでありますが、すでに御承知のように、経済全体を発展させ、労働条件を
改善し、生活
水準を
引き上げるために、公の機関と使用者
団体及び労働者
団体との間並びにこれら
団体間の相互の理解及び良好な
関係を助長することを目的とすべきであるとされておりますように、今日の、そしてまたこれまでとられてまいりました
政府の公務員制度、とりわけ労働条件にかかわる
行政指導は国際世論に反するものであるという点を指摘せざるを得ません。これらの諸点から、
地方行財政の円滑な運営に
努力したいと願っている
自治体労働者へのいわれなき強権的指導をぜひ改めていただきたいし、労働基本権と議会の議決権との
調整機能の点についても今後十分明らかにしていただき、労働者の権利を擁護する立場を貫いていただきたいと思います。
最後に、私どもが、
昭和二十九年戦後第一期の
地方財政危機を契機として発足しました
地方自治研究活動の長い歴史の中から、今日の
地方行財政を
住民本位のものとするための
改革案として、昨年八月取りまとめました行財政
改革についての十の
提言を参考までにお手元にお届けしておりますが、ぜひ御一読をいただきまして、
自治体労働者が
地方行財政に対する積極的な見解を持っているという点をぜひおくみ取りをいただき、今後の労使
関係の円滑化の問題、
地方自治の
確立の問題について一層の御指導をいただきますことを最後に申し上げまして、私の
意見陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)