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和田参考人 和田でございます。大学の方で用事がございましておくれましたことをまずおわび申し上げます。
本年度の
予算では
国債依存率が約三割になることになっておりますが、こうした事態は国際的に見ましても、また日本の
財政史の上から見ましても、かなり異常、異例なことであるというふうに考えるわけであります。やはりこういう異常、異例な事態というのはできるだけ早く脱却する必要がある。しからばこうした
赤字財政を脱却するにはどのようにしたらいいのかということを
中心に若干
意見を申し上げたいと思います。
こうした異常、異例な事態といいますのは突然始まったことではなくて、実は四十七年度を境として日本の
国債発行額が非常に
増加してきたわけであります。この四十七年度以降のいわば放漫
財政のツケが今日回ってきておる、こういうふうに言わざるを得ないわけであります。
〔
委員長退席、
山下(元)
委員長代理着席〕
また四十七年度を境として強調され、広く主張されてきた
財政改革が今日までほとんど行われていないという、これがまた今日のこうした異常な
赤字財政をもたらしているというふうに言えるわけであります。四十七年度といいますのは、その前にいわゆるドルショックがございまして、国際的にもあるいは国内的にも日本の置かれている状態あるいは
経済的
環境というのが大きく変わったわけでありまして、ここで
財政政策あるいは
財政の構造というものも大きく変えなければいけないということが広く言われたわけでありますけれ
ども、
財政改革が行われるのではなくて、逆に放漫
財政が続けられてきたというところに今日の問題があるわけであります。私は、
財政赤字あるいは
国債の
発行を全面的に否定するわけではありませんけれ
ども、
国債の
発行に当たっては、その
条件なりあるいは
財政のあり方というものと大きなかかわり合いがあるということを強調したいわけであります。
今日の
国債問題で一つの大きな問題点であると考えられますのは、今日ここで問題になっておりますのは
特例債であるわけですけれ
ども、
赤字財政の基本的な要因というのは
特例債であるよりもむしろ
建設国債にあるというふうに私は考えているわけであります。大蔵省がこの三月に出しました
財政収支試算によりますと、
特例債を減らすというところに主眼を置いて、五十五年度においてゼロにするということが数字の上で出されているわけでありますけれ
ども、この場合でも、実は
建設国債の方はむしろふえているわけでありまして、五十二年度の
建設国債は四兆四千三百億円でありますが、五十五年度には
建設国債だけで六兆七千八百億円である、こういう数字になっているわけであります。したがいまして、
特例債は、その計算でいきますと、あるいはその見通しでいきますと、確かにゼロになるわけでありますけれ
ども、
建設国債は逆に
増加して、
建設国債だけの依存度が五十五年度では一五・五%である、こういうことになっているわけであります。ちなみに五十二年度の
建設国債だけでの依存度は一四・二%でありますので、いずれにいたしましても
建設国債はふえるということになっているわけであります。
一般に
特例債イコール赤字
国債である、こういうことに考えられておりまして、
特例債は好ましくないけれ
ども建設国債は構わない、むしろ健全であるという考え方すらあるわけでありますけれ
ども、現実の日本の
財政の中で見てみますと、
建設国債の方がむしろ不健全であるという結果になっていって、
建設国債が不健全なまま累積していくがゆえに
特例債がさらにふえる、こういう結果になっているように私は考えるわけであります。
なぜならば、
建設国債といいますのは、言うまでもなく公共事業費等の
財源に充てるということになっているわけでありますけれ
ども、そういたしますと、
わが国の公共事業費といいますのはきわめて硬直的な性格を持っているわけであります。そうしてまた各国の
財政構造と比べてみましても、公共事業費というのは非常に高い
水準にあるわけであります。このように高い
水準であり、しかも
景気変動等にかかわりなくかなり硬直的な構造を持っておりますので、その公共事業費等に
国債財源が充てられますと、
国債が結局のところは
財政の中にビルトインされてしまう、組み込まれてしまいまして、そうしてその分だけは、つまり
建設国債分だけは一種の経常
財源的な形になってくるわけであります。しかも、これは年々ふえ続けるということになるわけであります。
そのように、今日、
財政全体の
立場から言いましても、産業基盤的な公共事業はなるべく抑制して、むしろ国際
水準からいくと高いわけでありますので、これを削減しても福祉あるいは社会保障のウエートを高めなければいけない、こういう
課題があるわけでありますけれ
ども、逆に公共事業がふえて、そうしてこれが
国債財源によって行われる、こういう形になっているわけであります。したがいまして、
建設国債は歯どめになる、これは歯どめを持っておるんだということでありますけれ
ども、歯どめになっていないわけであります。過去の事例から言いましても、
建設国債は決して歯どめになっていないわけで、
建設国債を
発行するためにわざわざ公共事業費をふやすあるいは災害復旧事業費をかなり大幅に見込むというふうなことがしばしば行われたわけであります。
さらにまた、
建設国債の場合にはこれは自償性があるという
意見もあるわけでありますけれ
ども、公共事業は
企業的な投資ではありませんので自償性があるとは言えないわけでありまして、この点も論拠がないわけであります。したがいまして、私は、
建設国債も赤字
国債も
財政赤字の点では同一であって、これを区別して
特例債だけが好ましくなくて
建設国債はいいという考え方をとらないわけでありまして、そのような考え方をとると逆に
特例債をふやすことも認める結果になってしまうのではないか、赤字
国債をも押し上げる効果を持つんではないか、このように考えるわけであります。
そもそも、
財政法第四条の考え方から言いましても、
国債の
発行は原則的に禁止されているわけでありまして、ただし
財政上やむを得なく
発行する場合には公共事業費等の範囲内でなら認められるであろうという
意味合いであろうと私は解釈しているわけであります。もちろん私は
法律学の専門家ではありませんので、これは一
財政学者としての見解でありますけれ
ども、そのように考えているわけですが、現実の解釈は、公共事業費等の範囲ならばどこまででも
国債が
発行できるというふうに逆の解釈になっているところに大いに危険性があるように私は思うわけであります。したがいまして、
建設国債もこのいわゆる
特例債も含めて考えますと、さきの大蔵省の収支試算によりましても、五十五年度になりますと
国債費は四兆七千五百億円、
公債収入は六兆七千八百億円ということでありますので、
公債金収入の約七割が
国債費に相当するということになってまいります。まさにこのような事態というのは
赤字財政もきわまれりという感じがするわけであります。こうした事態を迎えない前に早く
赤字財政を脱却するということが必要になってくると思うわけであります。
この
赤字財政を脱却するということは、単に財務上のバランスの問題として言っているわけではないわけでありまして、そのことを通じて
財政の内容を変え、
財政の中身を
国民福祉重点型に変えるということが主眼でありまして、そのためにも今回の
赤字財政の脱却が必要である、こういうことを強調したいわけであります。
それでは、どのようにしてこの
赤字財政を脱却することができるのかということでありますけれ
ども、三点ほど次に申し上げます。
第一点は歳出の大幅な洗い直し、再検討ということであります。
聞くところによりますと、アメリカでも近々ゼロベース
予算を採用するということが言われているわけでありますが、ゼロベース
予算といいますのは
予算編成上もかなり大変なことでありまして、毎年これを行うことはできないにいたしましても、少なくとも五年に一回くらいはゼロベースでの洗い直しということを行っていくことが必要ではないか。これなくしてはまた
財政の中期計画もできないわけでありまして、
財政の計画的
運営のためにも、一たん今日までの支出の内容というのを洗い直してみる必要がある。ことに
中心になる点としましては、行政機構を改革するということがまず第一に挙げられます。それから第二点としては、地方自治体に対する補助金な
ども含めてかなり金額と種類の多い補助金を徹底的に整理するということが必要だろうと思います。それから第三番目には、
財政構造をやはり福祉型に改めていくために、公共投資の中でも産業基盤的なものがなお依然として大きな地位を占めておるわけでありますので、公共投資の縮減それから防衛費の縮減ということを行う必要があるということであります。そういう点を含めて基礎から
財政の再検討をここで早急に行う必要があるということであります。
それから第二番目といたしまして、税の不公平を是正するという方向での税制改革が必要であるということであります。
財源がない、したがって
赤字財政であり
国債に依存するというふうに言われているわけでありますけれ
ども、しかし、かなりの不公平税制による減収額があるわけでありまして、これを税制改革を行うことによって
財源として調達し得るならば、この
赤字財政も解消するということになるわけであります。
私たちが参加してやっております
国民税制調査会で最近、二兆円以上の収入が不公平税制是正によってあるのではないかという試算を行っております。また、御承知の東京都新
財源構想研究会でも二兆円を上回る——ここでは法人三税だけでも二兆六千億円
程度の減収があるのだということが言われているわけであります。こうした試案につきましては、必ずしもそれほど減収がないのだという
意見もあるわけであります。大蔵省の発表したところによりますと、特別
措置分だけで六千億円何がしであるという反論もあることはもちろん承知しておるわけでありますし、また、私
どもの試算なり東京都新
財源構想研究会の試算なりが一〇〇%正しいというふうにも考えておりませんが、ともかくかなり大幅に不公平があるということは事実としてあるわけでありまして、これを是正するということは必要であります。
それからまた、その不公平税制の中身が、その実態が明らかにされていないということもそうであります。
民間なりあるいは地方公共団体の方での試算はあるわけでありますけれ
ども、肝心のデータを持っているところの大蔵省なり国税庁なりの正確な実態報告というものがないわけでありますので、この点でなおこの問題については不明確であるということであります。そしてまたこの税制改革を積極的に進めていくという意欲がなお、政府の方で感じられないわけでありまして、それでは
財政改革なり将来の
財政問題についての不信というものが
国民の間になお根強く存在せざるを得ないということであります。
第三番目には、地方自治体への事務の移譲、
財源の移譲、こういうことを行う必要があるのではないかということであります。そのことによって国家
財政がより身軽になりまして、国家
財政本来の機能、つまりナショナルな
意味での調整なり行政という問題、それからナショナルなレベルでの
景気政策というものに、もっと機動性を持って積極的に対処できるようにしていくことが必要でありまして、
国民生活に
関連のある
財政分野につきましては積極的に地方自治体に移譲し、地方自治体に主体性のある
財政にしていくことが必要ではないか。
こういう三点、つまり、歳出の洗い直し、税の不公平是正、地方自治体への行政、
財源の移譲ということを行うことによって、今日のこの
財政赤字を脱却することができるわけであり、それだけではなくて、
わが国の
財政の体質なり構造というものを改革することができる、こう考えているわけでありますので、そうした方向で御議論をしていただけるようお願いをいたしまして私の
意見といたします。(
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