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竹内参考人 竹内でございます。
現在
提出されておりますいわゆる四党案と申しますか、それと政府案との違いについてでございますけれども、私は、この違いは、こういうことを申しますと与党、野党両方の方からきらわれることになるかと思いますが、どれもそれほど大事な問題ではないのではないかという
感じがいたしております。
まず、第一に、政府案の七条二項でございますが、
現行法の七条で公取は不当な
取引制限の
影響の
排除措置についても届け出等をさせているんだからこういう二項を置くとかえって
現行法の一項が狭く解釈されるおそれがある、したがって政府案の二項は削った方がいいという御
意見も
相当有力のようでありますが、しかし、あってもじゃまではないだろう、現にいままで公取がやってきたことを
法律がはっきり認めたということではなかろうかということと、それから第二の理由として、公取の
審決では従来そういうことをやってきたとしても最高裁判所がそれで結構だと言っているわけではないだろう、そうだとすると、将来の
法律解釈として、いままでやってきたことがそのまま最高裁判所でも認められるかどうかまた
議論の余地がある、だとするとこれはやはりはっきりさせておいた方がいいだろうということ、それからもう
一つは、一たんこういう政府案ができた上でそれが削られたということが将来の
法律解釈にどういう
影響を及ぼすだろうか、立法者の国会は、やはりこういうことを公取がやるのは望ましくないというわけで削ってしまったんだというふうな解釈がもし出てくるようでございますと、これは野党側の意図しておられるところと全く逆のことになるのではないだろうか、このように私は
考えます。なくてもよいであろうけれども、まあ無理して削るまでのことでもないというのが私の印象であります。
次に、十八条の二に
価格の同調的引き上げについての届け出と、それから四十四条でそれの国会への報告ということがございますが、これは公取の一般的調査権、先ほど
入江参考人もおっしゃいました一般的調査権と、それから四十三条の公表権を使えば何とかなるのではないか、したがってこれは削った方がいいという御
意見もあるようであります。私も削ったって構わないとは思いますけれども、しかし、むしろ存置した方がよくはなかろうかというように
感じております。と申しますのは、四十条でこういうことができるかどうかということが、これもまた判例で確定していないんじゃなかろうかということが
一つと、それからもう
一つ、
公正取引委員会というのは常に使命感にあふれた正義の士だというふうに前提してその
法律制度というのは
考えるべきじゃない。いままでの、あるいは現在の
公正取引委員会が仮にそのようなものであるといたしましても、
公正取引委員会も人の子でありますからやはり怠け心が起きないとは限らないわけでありまして、その場合に四十条で一般的な調査をすることができると書いてあるだけよりは、これだけ具体的なことを書きまして、こういう場合には報告をとってそれを国会に出しなさいと言った方が——これは一般論を申しておるわけでありますから、公取の方に具体的にそういう怠け心があるというふうなことを申しているわけじゃないので誤解をしないでいただきたいと思うわけでございますが、そういう場合にそういうおそれをなくするのではなかろうか、その
意味でこれはあった方がいいのではないかと私は思います。
ただ、これは報告をとりましても、それを国会に対して報告するまで眠らせておく必然性というものは何にもないような気がいたしますので、もし
現行法のままで通すとすれば、それこそ四十三条の一般的な公表権を使って
公正取引委員会はそれを公表するように
法律を運用するのが妥当だろうと思いますし、それから、また、それも
公正取引委員会が怠けるおそれがあるというのであれば、やはり一定
期間内に公表するということを
法律で書くということも
考えていいというふうに思っております。その
意味で、これもどうしてもなければならぬかと言われますとそうとも思いませんけれども、無理して削らなければどうにもならないかと言われるとそうでもなさそうに思うわけでございます。
それから、次に、四十五条の二でございます。
独占的
状態について適当な
措置をとるときは主務大臣に通知して、主務大臣に
意見の陳述をさせるという
規定でありますが、これにつきましても、
公正取引委員会の独立性を害するから削れという
議論があるようでございます。私も、あった方がいいかない方がいいかと言われれば、この点につきましては、それはない方がいいだろうというふうに
考えております。しかし、その理由は、こういう
規定がありますと
公正取引委員会の独立性が害されるということにあるのではないのでありまして、主務大臣が
意見を述べたぐらいでぐらぐらするような
公正取引委員会であれば、それは新聞や雑誌にいろいろなことを書かれただけだってやはりぐらぐらするだろう、いわゆる
公正取引委員会の独立性を守るというのはしょせんは人であり、制度だけでどうにもなるものではない、主務大臣に
意見を述べられるととたんにぐらぐらするというふうなことであれば、これはその制度をどんなにつくったところで仕方がない、こういうふうに私は
考えるわけでございます。
では、なぜない方がいいかと申しますと、いろいろ調査等をする前に主務大臣に
意見を述べるということになりますと、世間から
公正取引委員会は主務大臣の圧力に屈したのではないかというあらぬ疑いを受けるおそれが出てくる。
手続は、公正であると同時に、やはり公正らしく見えるということも大事ではなかろうと思うわけでございまして、そういう
意味からすれば、あった方がいいかない方がいいかと言われれば、私はない方がいいだろうとは思いますけれども、こういう
規定を置いたからといって直ちに
公正取引委員会の独立性が害されるというようなことになるかといえば、それはそうは思わないというふうに私は
考えるわけであります。
以上が主な相違点でございますが、私は、以上三点よりももっともっと大事なことがあるのではないかという
感じがいたしております。
それは、先ほども
入江参考人がおっしゃったことでございますが、八条の四によりまして
独占的
状態の
排除を命ずる
審決をいたした場合に、その
実効性をどうやって担保するかという問題であります。私は、
独占的
状態を
排除するためのいわゆる
企業分割などというものは軽々に発動すべきものでないということは十分に理解しております。問題は、完全
独占というものが成立してしまいまして、これに対処するためにはもう政府による
価格統制か
企業の国有化しかないという場合になって、それと
企業の分割と一体どちらを選ぶかということになった場合に、
企業を分割することもやむを得ない、それが自由
経済秩序を守るゆえんだと私は
考えておるわけでございます。その
意味で軽々に発動すべきものでないということは十分わかりますけれども、発動した以上は守ってもらわなければ仕方がないということも事実でございます。
ところが、
審決違反につきましては、九十条三号で三百万円の罰金をかけるということになっております。これは
審決で命ぜられた
会社にかけられるわけでございます。しかしながら、代表取締役が誠心誠意取締役会において説明した、株主総会においても議案を可決してもらうように
努力した、ところがいずれも成り立たないと言われた場合には、その代表取締役に対して両罰
規定をかけることは無理でありましょう。そうだといたしますと、結局
審決を出してみてもその
会社は三百万円の罰金を払いさえすれば事は済むということになってしまうのではないか。毎年何百億かの利益を上げておるような
会社に対しまして三百万円の罰金を払うかどうかなどということを聞いてみても話にならないわけでございまして、この点は、いわゆる四党案についても、野党案についても、
実効性をどうやって担保するおつもりなのかという疑問を私は禁じ得ないのであります。
先ほど申しましたように、この
規定は軽々に発動すべきものでないことは言うまでもございませんが、発動した以上は動くものでなければならない。そうでないことにはこんな
規定はしょせんは張り子のトラだということになります。三百万円の罰金で片づくというなら、苦心惨たんして
審決にこぎつけましたところで大山鳴動ネズミ一匹でありまして何の役にも立たない。役に立たない
規定を役に立つ
規定であるかのように見せかけるのは国民に対する欺瞞的な
行為ではなかろうかと私は
考えるわけでございまして、その
実効性を担保するということについて十分御工夫をいただきたい。この点は、前回、昭和五十年の当
委員会に呼ばれましたときにも自民党の方の質問に答えて述べたところでありますけれども、両方の法案ともその点はまだ考慮が不十分であるかのように思います。
それから、もう
一つ、
独占的
状態の
排除を命ずる場合に、
営業の一部
譲渡ということが一番初めに上がっておりますが、これでは恐らく動かないだろうということは
入江参考人のおっしゃったとおりで、私も同
意見でございます。と申しますのは、
営業の
譲渡というのは買い手があることがもちろん前提でございます。買い手と申しましても、
独占的
状態にある
企業の
営業の重要な一部を買えるというのはやはり
相当多額の資金が要ります。それからまた
相当の経験のある者でなければ軽々にそんな新しい事業を始めるはずがない。そうだといたしますと、こういう
審決が確定した場合に、その
営業の一部を譲り受けようということが言い出せるのは恐らく競争
企業だろうと思います。競争
企業がそういうことを申し出た場合にどういうことになるかと言われれば、それは
公正取引委員会から
営業の一部を
譲渡せよと言われて弱り果てている、その弱みにつけ込んで私が買いましょうかなどと言ってくる者に対しましては、株主もそうでありましょうし、取引銀行もそうでありましょうし、
労働組合もそうでありましょうが、下請も取引先もこぞってこれを恨むでありましょう。そうだといたしますと、これは百年遺恨を残すということになりかねないわけでありまして、あえて恨まれても買おうというのは、よほどそこでたたいてやろうというつもりがある場合でなければどうも
考えられないのではないか。そうだといたしますと、この
営業の一部
譲渡を命ずる
審決は競争
状態を回復するということがねらいでありまして、たたき売れと言っているわけでも何でもない。そうだとしますと、値段の折り合いがつかないということになります。折り合いがつかなければ取締役会でまず通らない、株主総会でもちろん通らないということになります。買い手があるかどうか、出てきた場合にその折り合いがつくかというわけでございまして、そういう
意味で、
営業の一部
譲渡を命ずるというのは、法案が通った場合でもそういうやり方をするのは望ましくないと私は思う。
では、どういうやり方をするかといえば、私は、
企業を分けなさいという形で
審決すべきだろうと思う。
企業を分けるということと
営業の一部
譲渡というのはどう違うかと申しますと、
企業を分けるというのは
経済的、実質的な問題であります。
営業の一部
譲渡と申しますのは、それを達成するための
法律的
手段の
一つであります。そういう
営業を一部売ってしまえというふうな形じゃなしに、その
法律的
手段については
企業に十分な自主性を認めるということが
手続を円滑に進めるゆえんであろうと思います。たとえば
営業の一部を現物出資させて完全子
会社を一たんつくらせた上で、その株を数年間にわたって市場において売らせていくというようなやり方をいたしますれば値段の折り合いなどという厄介な問題は起きなくて済む。私がこういうことを申しますのは、そういうことを命ぜられる
企業を擁護したいというつもりではないのでありまして、
公正取引委員会が
営業の一部
譲渡を命じたところがにっちもさっちもいかなくなってしまって、結局罰金三百万円を取っただけで幕というようなことにならないようにしたいということを
考えるからでございます。
最後に申し上げますが、私は、前回のここでの
意見の陳述のときにも、
独禁法違反行為によって被害を受ける一般
事業者、
消費者の損害を十分に回復できるような手当てを完全にしてほしいということをるる申し上げました。そしてそのことは
消費者被害の救済を図るということだけではなしに、
独禁法を運用する者が
公正取引委員会だけであり、
独禁法運用の公取による
独占という
状態を打破して、国民みんなの手によってできるだけうまく
独禁法運用のためのエルネギーを引き出すというためにもぜひ必要であるということをるる申し述べたのでございますが、この点は四党案にも政府案にも全くと言っていいほど入っておらないわけであります。私は、その
意味で、今回の両方の法案は悪い
意味での官僚的な色彩をやはり持っているのではなかろうかと思います。つまり、よらしむべし知らしむべからずと申しますか、
公正取引委員会がやった後で国民は黙ってついてくればいいんだというふうなにおいがしなくもないという点を私は非常に残念に思うわけでありまして、そんなことはこの
段階で申し上げてもお取り上げになるはずもございませんけれども、
意見を述べる機会を与えられましたので、かねがね申し上げていることでございますので、この際そういう問題が残っておるということだけを私としては一言申し上げさせていただきます。