○佐野
参考人 まさに御指摘のものが私は肺
がんと思います。肺
がんを考えます場合に、
がん原
物質を含んでいない純粋な
じん肺と、もう
一つ、
がん原
物質が含まれているものを吸入して起こる
じん肺兼肺
がん兼内臓の
がん、大きく二つに分かれます。そのことについて申し上げたいと思います。
実は定義との
関係があるのですが、
じん肺というのは一体どういう変化なのかということになりますと、いままで外国が定義しておりました粉じんによるところの線維増殖性変化のみが決して
じん肺ではありません。
これはけい肺の写真です。鋳物をおやりになって八年で急進けい肺で亡くなった方です。線維増殖の代表です。昔から
じん肺として、けい肺と並んで言われているものがございます。それは石綿肺です。大分様子が違いますでしょう。つまり、これは粉じんを吸入することによって気管支の変化を主体として起こった
じん肺なのである。——重要なことでございますので総括的に申します。——そういたしますと、
じん肺というのは決して粉じんによるところの線維増殖だけではなくて、考えればおわかりのように、粉じんは吸入されます。気管、気管支、細気管支、そして肺胞に到達するわけでございますから、当然気管支の変化が先行するのです。その程度はいろいろでございますけれ
ども、その程度が最も強いものが石綿肺である。
しかし、石綿肺に劣らないような気管支変化の進行する
じん肺は次々にあらわれております。たとえば黒鉛、大きな粉じんを含んでおりますところの黒鉛肺。これです。電極工場十七年、きわめて気管支の変化の強い、そして粉じん巣も発生する
じん肺である。
まとめて申し上げますと、
じん肺というのは、気管支の変化、それに伴う肺気腫、そしてもちろん粉じんによるところの粉じんの線維化巣、そしてそれらの変化に伴って必ず血管の変化が起こります。これをごらんになってもおわかりでございましょう。ここにある血管が何
一つもう見えません。詰まってしまうのです。そういうものをひっくるめたものが
じん肺でございますから、その定義が
確立されませんと次の具体的な対策が一向合理的に進まないという面がございます。
そこで御質問に返りますと、まさに、肺
がんはいままでの
日本の広範な臨床病理学的研究によって正式に
合併症としてよいものと思います。なぜそういうことが起こるかと言いますと、実は、いまも申し上げましたように、気管支の変化は本質的に
じん肺に伴うものであって、気管支炎の継続は、その細胞が変性いたしましたり再生いたしましたり、また変性したり再生したりするということでございまして、細胞核の中の遺伝子がきわめて変異を受けやすい
状態、つまり
がん化が起こるのでございます。お目にかけたいと思います。
日本では、諸外国の研究に比べまして、昭和二十三年以来臨床と病理の共同研究がいまも続いておるわけでございまして、大変口幅ったいようでございますが、世界の研究水準をはるかに抜いております。その事実に基づいて対策はなさるべきと思います。——これです。これは石綿肺に肺
がんの合併したものでございます。小さくておわかりにくいのですが、慢性気管支炎の継続というのは、必ず上皮細胞、細い気管支の上皮細胞あるいは肺胞壁の上皮細胞も異常な増殖を起こします。そして異型な増殖を起こします。それが
がんになるわけですね。石綿肺に合併する肺
がんが高頻度であるということの理由は、実は石綿粉じん自身が
がん原
物質である以上に、慢性気管支炎をより早期に、より広範に起こすというところに原因がある、これが重要です。
ところが他の
じん肺、結局遅かれ早かれ気管支変化が起こるわけでございまして、事実そのことが戦後非常に明らかになってまいりました。これは活性炭肺。活性炭には若干ベンツピレンな
どもありますけれ
ども、この穴があいております。これが肺
がんのあれしたものです。そしてこれも、
がん原
物質も入っているけれ
ども、必ず慢性気管支炎があります。このケースは、往年の八幡製鉄のガス発生炉工の方の炭素肺兼肺
がんである、タールを含んでおりますので。しかし、この場合も慢性気管支炎の継続の後に
がん化したのでございまして、これは大変重要なので繰り返して申し上げます。
がん原
物質を吸入した場合においても、その発
がんに至るまでの経過は必ず炎症を経過するということ、その点では
がん原
物質のない
じん肺に発生する肺
がんと同じでございます。つまり、
がんというものは原因
物質があるというだけで発
がんするものではないのである。必ず体の中に発
がんする
状態ができてからでなければ発
がんしないのである。そうでなければ、この人は離職してから十年後のあれでございますね。
がん原
物質があれば
がん化するというのであれば、それは在職中でなければならなかった。そうではない。必ず準備期間が要る。
まとめて申し上げます。慢性炎症、肺においては慢性気管支炎の継続は、どの種の
じん肺であってもそれは発
がんを誘発する。したがって、
先生は
合併症と申されましたが、
じん肺が存在すること、
じん肺に伴う慢性気管支炎が存在することによってできた
がんでありますから、当然
合併症として扱われるべきであると思います。
なお、重要な御質問をいただいたわけでございまして、
がん原
物質がまじっている場合はではどうなのであろうかということです。結論を先に申し上げますと、
がん原
物質が混じたものを吸入している場合には、決して呼吸器の
がんだけにとどまりません。他臓器の
がんが出てまいります。つまり、
がん原
物質の吸入は、その生物学的な溶解性に対応しまして全身に吸収される結果でございます。それだけではございませんけれ
ども、好例をお目にかけます。
これはクロム鉛作業者のものでございます。これは肝臓
がん、膵臓
がん。これはクロムメッキの方です。クロム鉛作業者じゃありませんが、もう膵臓全体が
がん化しているわけでございまして、ここで気をつけていただきたいのは、十二指腸、それから胃壁の粘膜の非常な増殖、
がん化の一歩手前です。つまり全身に
影響があるわけです。これはクロム鉛作業者の肝臓
がんです。三キログラム。通常は一キログラム程度のものでございますが、この方は三倍になっている。黄色い部分が
がんでございますから、三分の二以上が
がん化している。そのために三キログラムになっている。
御注意願いたいのはこの分析結果です。これはクロム鉛作業者でございますが、
がん原
物質として明確に、クロムだけでなくてニッケル、コバルト、ベリリウム等が存在するということです。そういうこともございまして、時間が足りませんのであれですが、これは実はクロムだけではないのです。たとえば電極作業においては黒鉛粉じんとタールの
物質が存在します。そしてそれはまさに肺
がんだけの問題でなくて、胃
がんの多発、食道
がん、直腸
がん、肝臓
がん、膵臓
がん、リンパ線の
がん、その他が多発しているということは、決してクロムだけにとどまらない、
一般的な命題です。
もう一回申し上げますと、
がん原
物質をともに吸入している場合の
じん肺の場合においては、決して呼吸器の
がんだけではなくて、他臓器の
がんが現実に出ている、多発しているということを御注意願いたいと思います。