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鈴木国務大臣 まず、北方領土の問題でございます。
これは明確にしておく必要があると思いますが、御承知のように、一九七三年にモスクワにおきまして、田中当時の首相とブレジネフ書記長、この最高首脳間で会談をいたしまして、共同コミュニケが発表されました。その中には、戦後未解決の問題を解決をして、そして日ソ平和条約を締結する交渉を今後継続をする、こういうことをはっきりうたっておるわけでございます。
これに基づきまして、その後日ソ両国の外務大臣間で話し合いが行われ、戦後未解決の問題という中には、北方四島の問題を含むものであるということが確認をされておるわけでございます。したがいまして、在日のポリャンスキー大使が、いかようなことを申そうとも、この両国首脳によって確認された戦後未解決の問題、これは今後継続して日ソ間で交渉していくんだ、こういうことでございます。
したがいまして、私は、イシコフ大臣との漁業交渉におきましても、領土の問題は公式、非公式にも、イシコフさんからも私の方からも一切出ておりません。これは、領土問題に触れますと、もう初めから暗礁に乗り上げて、漁業交渉などというものは成立するはずがない。そういうようなことで、私
どもは、この問題は今後継続して日ソ間で交渉し、処理されるべき問題であるということで、たな上げをいたしまして、そして日ソの新しい今後の漁業
関係の長期に向かっての安定的な枠組みと体制というものをつくることについて隔意ない
意見の交換をした、こういうことでございます。
私が交渉に臨みまして一番頭を悩ましたことは、モスクワに着きましたのが二十七日で、二十八日にイシコフさんとテーブルに着いたわけでございますが、翌三月一日から二百海里を
実施するということを宣言いたしております。その時点におきまして、日本の中小
漁船を初めといたしまして千数百隻の日本
漁船が、あの海域で操業しておるということでございまして、この操業の安全を
確保する、漁業の安全を保障してもらう、このことが
最大の問題でございました。
そこで、ソ連の二百海里設定というものを前提として、そして長期の漁業協定、その漁業協定は国会の御
審議、御承認も得なければ発効できないわけでございますから、その間を暫定取り決めでつなぐ、こういうことで向こう側も了承いたしまして、それならば暫定取り決めができるまでの間は、従前どおりの操業を認めよう、こういうことになったわけでございます。ただ、その際、暫定取り決めは三月十五日からモスクワで交渉し、三月中に暫定取り決めを取り結ぶ、その間、三月中はサケ・マスとニシンは、日本は操業を中止する、こういうことでございます。
この問題は、かねて、日ソ漁業合同
委員会で両三年前からソ連側から強く打ち出されておった問題でございます。当該
年度のサケ・マスなりニシンの漁獲量を、資源の評価をして、そしてその
条件、方法を取り決めようという交渉が始まる前に、日本がお先に失敬をして、どんどん失礼をするというようなことは、条約の精神から言っておかしいではないか、こういうことで、執拗にその点を日本に改めるようにということを迫られておった問題でございます。
今回、ソ連の二百海里設定に伴いまして、日本が強行出漁をする、一方的に出漁するということになりますと、拿捕その他の不祥
事態も起こる可能性があるわけでございまして、私は、この
条件はのむことにいたしたわけでございます。
サケ・マスは、日本海のサケ・マス漁業から始まるわけでございますが、三月中は北海道沖まででございまして、実質的にソ連の二百海里水域には船は入ってまいりません。でありますから、サケ・マスにつきまして、三月の出漁を取りやめということは、こちらは実質的に何の損害もないわけでございます。しかし、ニシンにつきましては、オホーツク海域でニシンをとるわけでございますから、ニシン漁業者に対しましては、非常に気の毒な結果になったわけでございまして、これらの救済
措置等につきましては、今後十分考えていきたい、私はこう考えております。
そこで、東京とモスクワの交渉が並行して行われるのだが、モスクワの交渉、東京の交渉では、どういう点に重点を置いて交渉するのか、こういうお尋ねでございます。
東京における日ソ漁業条約に基づく合同
委員会、ここは条約に基づきまして、五十二
年度のサケ・マス並びにニシンの漁獲量、それから操業の
条件、方法、これを正しい資源の評価の上に立って両国で取り決めをする。こういうことで、ことしは何と言っても、サケ・マスは豊漁年の年に当たるわけでございます。そこで、豊漁年には八万五千トンから七千トンという漁獲割り当てを
確保しておったわけでございますから、ことしは豊漁年であることを踏まえまして、できるだけの漁獲量を
確保することに全力を挙げたい。また、ニシンにつきましても、学問的、科学的な資源の評価の上に立って、これも四月からの操業ができるように最善の努力をいたしたい、こう考えております。
モスクワにおける交渉は、暫定取り決めの交渉になるわけでございますが、サケ・ニシンを除いた魚種が
対象になるわけでございます。商業的に価値のある主要な魚種はすべて
対象になろうか、こう思うわけでございますが、これはなかなか厳しいものがあると私は考えております。
御承知のように、ソ連は、アメリカ、カナダ、ノルウェー、EC、これらの国と交渉しており、すが、いずれの国からも相当の漁獲量
実績の削減を受けておる。こういうようなことで、その失った分を自分の北西太平洋の極東の二百海里の中でできるだけ補おうという意図が十分うかがわれるわけでございまして、今後の日ソ交渉は、私は非常に険しいものがある、こういうぐあいに受けとめておるところでございます。