○稲富
委員 私は、与えられた時間がわずか二十分間でございますので、詳細に承っておりますと時間がありませんので、ただ
日ソ外交の基本的な性格に対しまして、
外務大臣に二、三の質問をいたしたい、かように
考えるわけでございます。
ただいま議題になっております
日本国政府と
ソ連邦政府との間に結ばれました
日ソ漁業暫定協定の
内容を私たち検討いたしますと、その検討を深めるほどこれに対する疑惑と将来への不安と不満というものを感ずる、さらにまた、一方には一種の義憤さえ感じざるを得ないというような気がしてならないのであります。
その理由は何であるかというと、この
協定が
ソ連の一方的な
主張のみが主体をなして、
わが国はこれを押しつけられたというような感じがするからであります。その理由は、御承知のとおり、本
協定はその前文において「千九百七十六年十二月十日付けの
ソヴィエト社会主義共和国連邦最高会議幹部会令に
規定されている」云々、最後に
ソ連の主権的
権利を認めると明記してあるからであります。
そのような
前提のもとにこの
協定をなされ、ここまで
締結することに進められました
鈴木農林大臣の苦労というものは並み大抵ではなかったのだろうというその
努力に対しては、私はいささかも不満を持つものではなく、むしろこれを高く評価して感謝する気持ちでいっぱいであることは当然でございます。
そこで私は、ここで
外務大臣に特に申し上げたいと思いますことは、今回のこの
漁業交渉がかくも困難をきわめた大きな原因は何であったかというと、従来
わが国がとってきた
ソ連外交に対する弱さあるいは
ソ連の
考え方に対する読みの甘さというものが大きな原因ではなかったのであろうか、何だかソビエトに対する外交
交渉というものが敬遠されておった、こういうようなことがあって、従来の外交に対する非常な弱さというものがついこういうような状態に置いたのではないかとさえもわれわれは
考えざるを得ないのであります。
〔山田(久)
委員長代理退席、
竹内委員長着席〕
私は、その具体的な例を示しますならば、今回の
交渉で
鈴木大臣が最も苦労なさったと思われますのは、
ソ連が
わが国領海内における
漁業の継続を強く望んだことであり、これをいかにして拒否するかということに当たって
鈴木農林大臣が非常に
努力をされたということであります。ここで、私たちが
考えなければいけないことは、
ソ連は
領土に対しましてもあるいはまた
漁業の
操業に対しましても、相手方の
立場等は何ら考慮することなくしてみずから既成事実をつくり上げ、これを既得権であるかのごとく
主張する、そして話を進めてくる、こういうようなことがあるからであります。
何ゆえに
ソ連がこれを強く
主張したかということは、これは具体的に申し上げますと、
ソ連は昭和四十八年十月以来
日本近海、すなわち
日本国の
地先沖合いにおいて無謀な
漁業の
操業を始めたのであります。これを詳細に申し上げる時間がありませんので、結論だけを申し上げますと、これは農林省の調べによりますと、昭和四十八
年度十月から三月までの六カ月、四十九
年度十月から三月までの六カ月、五十
年度は五月から三月までの十一カ月、五十一
年度は六月から十二月まで七カ月問、すなわち三十カ月の間にこれは判明した分ばかりでございますが、これだけでも
わが国の漁民が
ソ連漁船のために漁具、
漁船の被害を受けた件数というものは千七百九十三件に及んでおります。その被害総額は実に五億六千四百十九万円に及んでおるのであります。それのみか、彼らの無謀な
操業のために、あるいは内臓が捨てられ、頭は切り捨てられる、こういうことで
漁場は汚染されるという事実、傍若無人な振る舞いというものは全く目に余るものがあったのであります。よって私たちは、
政府に対して
ソ連のこの不当な行為に対してはしばしば強く抗議するとともに、
わが国の漁民に与えた損害に対しては当然被害の
補償を要求すべく強く要望してまいったのであります。それと同時に私たちは、一日も早く
日本は
領海十二海里を設定して、四十九年カラカスで開催されました海洋法会議に臨む際にも、すでにこれを設定して臨むべきであるということを
主張したにもかかわらず、
政府は何に遠慮をされたのか、これさえも実現することができなかったのであります。そして、今回のこの
領海法の制定と相なったのであります。そういう中に
ソ連漁船団はますます
操業を、理不尽な行為を続けてまいっている、漁民への被害はますます増大するのみの、こういう結果になったのでございます。
それで、そういうことが今回の条文を見ましても、
協定の第二条に「
日本国の
地先沖合における
伝統的操業を継続する
権利を維持するとの
相互利益の
原則に立って与えられる。」とまで明記されたことは、全く以上述べましたような
ソ連の行為に対する
日本政府の従来とり来った外交の弱さを物語ったものである、かように申し上げましても当然ではないか、こういうことさえも私は
考えるのでございます。
私は、これに対して
政府はどういうような反省を今日なさっておるのであるか、またこういうような無謀な数年間にわたるソビエトの
日本近海における
操業に対しまして外務省はいかなる
考えを持たれておるのであるか、またこれに対していかなる抗議をなされたのであるか、その抗議の結果はどういう結果になっておるのであるか、その
経過があればこの際承りたい、こういうことをまず
お尋ねしたいと思うのでございます。