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小林国司君 本
院議員温水三郎君は、去る十月二十二日不慮の
事故によって突如として逝去されました。数日前まで、この
国会の場において、元気はつらつと
政務に御活躍になっている姿を目の当たりにしていただけに、全く
予想外のことで、まことに
痛恨の念にたえないところであります。ここに、私は皆様の御同意を得まして、
議員一同を代表して、謹んで正四位勲二等故
温水三郎君の霊に
追悼の
言葉をささげたいと存じます。
温水三郎君は、明治三十八年十月三日
宮崎県
小林市に生まれ、
法政大学法科卒業後直ちに
農業に身を投ぜられました。すなわち、単身で山林の荒地を切り開いて畑地をつくるという、実に驚くべき困難な仕事を始められたのであります。当時の
小林町の
人々は、その様子を、一体どういうことになるのかと
一種不可思議の念で見守っていたとのことであります。長い間の血のにじむような
努力が実って三ヘクタールの農地が出現し、そこに茶が植えられ、
生産高においても
経営面においてもすばらしい成果が上がったのを見た町の
人々は、大きな感銘を受けると同時に、君に深い尊敬の念を持ったのであります。そこで、町の
人々は君に説いて
農民の代表として活躍することを要望し、
昭和十七年五月、当時の
小林町の
議会議員となったのが君の
政界活動の第一ページでありました。
その後、君は一貫して
農業のために力を尽くし、
昭和二十一年には
小林町の
農業会会長、
昭和二十三年には
宮崎県
農業会会長、
昭和二十九年には
宮崎県
農協中央会会長、
昭和三十八年には
宮崎県の
農協中央会、
信用農協連、
経済農協連、
共済農協連のいわゆる四連
会長、また、同年には
全国運輸農協連会長等を歴任されました。これは、君の関係したものの一部であって、とうていここでは全部に触れるゆとりがないのでありますが、君がいかに
農協運動に力を注いできたか、
農業者がいかに君を信頼していたかを如実に示すものであります。
一方、地元の
人々の熱心なる推挙により、
中央政界に進出されることとなり、
昭和三十六年
参議院議員に当選され、以後、
昭和四十年、四十六年と連続して
参議院に席を得られたのであります。この間、
農林政務次官、
農林水産委員長、
運輸委員長等を歴任され、また、自民党にあっては
党政務調査会副
会長の要職につかれたのであります。
振り返ってみますとき、君は
農業及び
農民を愛し、ただそれ一筋に生きた人であります。
宮崎県における
畑作振興については特に力を注がれ、
火山灰地域という不利な
条件の中で、従来の
カンショ中心から、今日においては畜産、
畑作園芸、
ハウス園芸等、多彩な
発展が見られていることにつきましても、君の
努力、
指導力が大きく影響していると考えるのであります。
参議院における君の
実践力と
農政に対する深い造詣は高く評価されておりましたし、党においても、
農政通の第一人者としてだれしも認めるところでありました。
君は、信念の人であり、
情熱の人であり、また、曲がったことの大きらいな人でありまして、納得のいかぬ限り、てこでも動かぬ人でした。しかし、物わかりの
適確で早いことも抜群でありまして、また人情にもろい、実に心やさしい、細やかな神経の持ち主であったことは、君に接した人のすべてが認めているところであります。君は誠実であり、率直であり、民衆と大地に囲まれて育ち、その長所を十分発揮できた人であり、偉ぶるというところが少しもありませんでした。
君は、いつも
政界を引退してからの楽しみを口にしておりました。それは、開墾して育てた茶園に最後の仕上げをしたいということであります。茶の
品種改良に努めるとともに、早生、なかて、おくてと収穫時期が一緒にならないようにしたいというものであります。君のこの夢は、突然の
事故のために果たせませんでした。しかしながら、君の
農業に対するひたむきな
情熱と、その
発展を願う心情は、必ずや次代に担われ、引き継がれていくことを私は確信して疑わないのであります。
わが国経済はいまや
高度成長から
安定成長へと大きく
軌道修正を迫られており、
農業もそれに応じて体質を
強化し、あわせて
世界的な
食糧危機の高まりに対処して
わが国食糧の
安定的供給の
確保が重要な課題になるなど、
農業を取り巻く
状況はきわめて重要となっております。このような時期に君を失ったことは、本院のみならず、
農業界ひいては
わが国にとっても大きな損失であり、まことに
痛恨のきわみであります。できることなら君を現世に呼び戻してともに歩んでみたいとむなしい思いに駆られます。
ここに謹んで
温水三郎君の生前におけるありし日の姿をしのび、御功績をたたえますとともに、君のみたま安かれと心から御
冥福をお祈りいたしまして、
追悼の
言葉といたします。(
拍手)
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