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参考人(
力武常次君) 私は
萩原先生の
お話を踏まえまして、やや詳細に現在の
地震予知技術と申しますか、そういうもののレベル及びそれを
地震警報に結びつけるときの諸問題というような点について
お話を申し上げたいと思います。
地震予知を達成するためには、私見も大分含んでおりますけれども、四つの
段階があるというふうに思います。それはまず、
日本のような二千年の
歴史を持つ国、あるいは
中国のような三千年の
歴史を持つ国というのは
大変巨大地震の
記録がたくさん残っておりまして、それを解析することによって
巨大地震の起こり方の習性というものをある程度
見当つけることができるであろうということでございます。たとえば
東海、
南海地方におきましては百年から二百年ぐらいの平均的な
繰り返し時間間隔で
マグニチュード八クラスの
地震が起こっております。あるいは北海道、千島の
沖合いにおいては、八十五、六年の平均
繰り返し周期で
地震が起こっております。で、こういうものは、ただ平均の
周期というように簡単なことではいけないのでありまして、なぜそうなるかという考察が必要でございます。最近の理論によりますと、
はるか太平洋の
沖合いで新しく生成された海底が板のようになりまして
日本列島目がけて押し寄せてくるのである、そのために
陸地が圧縮されてついに
破壊に至って反発する、そのときに巨大な
地震になるというような
理屈ができておりますが、そういうような
理屈でもってまず大体の線は説明できるようでございます。で、同様な
状況は
中米、
南米等においてもございまして、本年の二月にグアテマラで大変大きな
地震が起こって二万何千人死んだということがございましたが、あの辺は大体三十四年の
繰り返し周期で起こっております。
最後のものが一九四二年でございまして、まさに三十四年後の七六年に起こっておるというようなことで、
中米につきましては、数年の幅で物を言うならば、ほとんど決定論的に
巨大地震の
発生を、
予知といいますか、
予測することができるわけであります。残念ながら、
日本におきましては、非常にシャープにはまいりませんで、
地震予知という面からはやや残念な面があるわけでございますけれども、それでもどのぐらいの危険が差し迫っておるかということをおおよその
見当をつけることはできるわけでございます。こういうような観点から
東海地方に
巨大地震が再来する
確率というようなものを求めることができるわけであります。そうしますと、一八五四年以来すでに百二十二年ですか、を経過しておりますが、おおよそ六十何%、こういうような値が出てまいります。
次にはもう少し具体的な話になりまして、これも
萩原先生の強調されました
測量でございますが、
測量によって
地殻がどのぐらいひずんでおるかということがわかるわけであります。たとえば
南関東におきましては、一九二三年の
関東地震のときに
三角点が数
メーター南東に移動いたしまして、それがじりじりと
もとに戻っておりまして、約三分の一回復しているわけでございます。ですから、五十年の間に三分の一回復しておるわけでございますから、倍の百年をつけ加えるならば、またその
南関東、
相模湾から巨大な
地震が起こってもよろしいという
状態になるというような、いささか乱暴な議論でございますけれども、そういうようなことが言えるわけでございます。したがいまして、そういう
測量の
成果と、それから
地殻がどれだけひずんだら壊れるかというその
限界のひずみの値、両方を突き合わせますと、現在どのぐらい危ないかということは言うことができます。この
地殻のひずみがたまって壊れるという
状態は、どのぐらいたまったらポンと壊れるというようなものではないのでありまして、
場所によって違いますし、またいろいろその辺の
地殻の構成によって違ってくるわけでございまして、
地域的特徴があるかと思われます。つまり、電球を買ってまいりまして、すぐ切れてしまう場合もありますし、五年、六年使っても切れない場合もある。しかし何となく一、二年のところで切れやすいというような
状況があるわけでありまして、
地殻というのはまさにそんなようなものなんでございます。現在のひずみ
——現在
関東地震以後進行してまいりましたひずみと、その
地殻の
限界的なひずみとを突き合わせまして判断いたしますと、現在までに
関東地震が再来する
確率といいますか、そういうものはたかだか二〇%でございます。で、同様なことを
遠州灘、
駿河湾等において行いますと、これは値がずっと高いように出てまいります。私の試算ではもう八〇%、九〇%になっておるというふうに出てまいりました。これは
測量の結果の解釈といいますか、つまり陸上の
測量を実際に
破壊が起こるであろう海の底のところまで延長して議論いたしますので、やや精度が落ちるおそれがあります。しかしながら、ともかく数量的にある程度口をきけるようになったというのは、
萩原先生を
中心として進めてまいりました
地震予知計画の十年間の
成果だと思います。で、現在までに
地震が起こらなかったわけでございますから、今後十年以内に
地震が起こるであろう
確率というようなのは計算することはできるわけでありまして、
関東地方では一〇%ぐらい、それから
遠州灘等においては五十何%というような値が一応計算されております。で、こういう値をどう評価するかということは、これは各人の
世界観に基づくようなしろものでありまして、非常にこわいと思う人もありますし、まだ大丈夫だと思う人もある。しかしながら、
行政等の立場からは、その数字を
参考としてどこに
防災の
対策費をつぎ込むというようなことができるのではないかというふうに私は思っております。
さて、そのようにして
地殻のひずみがたまってまいりまして、
限界値に近づいてまいりますといろいろなことが起こってまいります。
地震の
先行現象というものが出てくるわけでございまして、土地が異常に隆起するとか、
地震波のスピードが
変化するとか、
電気抵抗が減るとか、そういうようなことが出てくるわけでございます。そういうものをたくさん、ありとあらゆる例を調べてみますと、大きな
地震ほど早く
先行現象が出てくるということがございます。
マグニチュード七とか七・五というようなものですと、もう七、八年前からおかしくなってまいります。
新潟地震、一九六四年のときの例はまさにそうでございます。
マグニチュードがずっと小さい
地震、
マグニチュード三なんというこんな小さいものを
予知してもしようがないのですが、こ場合には二日ぐらい前には変になるというようなことがございます。で、幸いにしてそういう
現象の
広がりをつかまえますと、おおよそのその
マグニチュードの
見当がつくという
経験則がございますので、何かおかしいことが出てまいりましたら、まずその
広がりを調べる。そうすると、来るべき
地震の
マグニチュードがわかる。そうすると、
先行時間と言いまして、
異常現象が出てから
地震が起こるまでの時間というものがほぼ
見当ついておりますから、何年先ぐらいだということが出てまいります。したがいまして、それを目途といたしまして非常に
観測を強化して集中的にやりまして、その
地震直前の
現象をつかまえるのだというふうに
考えられるわけでございます。で、いろいろ調べておりますと、
地震の
直前にあらわれる
先行現象、これを第二種の
先行現象と私は名をつけておりますけれども、たとえば海水が急に引いた、つまり
陸地が急に増加したわけでございます。あるいは
電気抵抗が急に変わった、
地下水が急に
変化したというような例が
幾つかございます。したがいまして、
地震直前、これは大体数時間前のものが多いようでございますが、に徴候をつかまえることが決して不可能ではないと思います。以上のような
研究結果を総合いたしまして、
地震予知の戦略と申しますか、手順といたしましては、次のようなことが
考えられると思います。
まず、その
予備的段階では、
歴史の
記録等を調べまして統計的に
見当をつける。大体どこではどのぐらい危ないのだ。それから実際に
測量によるひずみの蓄積を調べまして
長期的に
予測をするという
段階がございます。それから第三番目には、その第一種の
先行現象をつかまえまして、中・
短期的に
予測をして何年先に
地震があるだろう、その
地震の大きさはどのぐらいだろう。そうしてそこに
集中観測をして、その
直前の第二種
先行現象をつかまえて
短期的な
予測を行う。これは私の調べた限りにおきましては、一週間、十日というようなものは余りございませんで、大きな
地震ですと、まず数時間前のものが多いようでございます。しかし、うまくこれをつかまえれば人命だけはともかく助けることができるというふうに判断します。で、
考えてみますと、
中国が成功した
地震予知の
やり方というのはまさにこの
やり方でございまして、
長期、中期、それから
短期、それで
避難命令を出したというわけでございまして、恐らくこういうような前兆の出方というのは世界じゅうどこでもそうなんだろうというふうに私は
考えております。ただ、ここで問題になるのは雑音の問題でございまして、たとえば異常な隆起だけをつかまえましても、それが果たして
地下水その他によるものであるのか、
地震によるものであるのか判断する材料に乏しいわけであります。
地震予知のための
先行現象というのは
幾つかの
種類がございますから、その三つ、四つ独立なものがみんなおかしくなったというふうな
状態をキャッチいたしまして口をきくべきではないかというふうに判断しております。
さて、そのようにして情報、
地震予知がある程度できたということになりましても、これを直ちに世の中にどうやって知らせるかという問題が決まってないわけでございます。
地震予知連絡会の方でも、
連絡会でございまして、
警報を出すような
権限はないというふうに私は思っております。で、私の
考えでは、
予知と
警報とは全く違うものである、
警報には
行政が入っているべきものであるというふうに思います。ですから
予知をしても
警報を出さない場合もあるかもしれない。いきなり大きな
地震が来るぞというような
警報を出しますと、いろんな混乱が起こると思います。多くの人々がその
地域社会に密着して生活をしているわけですから、
長期的に、
長期間疎開するなんていうことは当然できませんし、
危険防止のため
原子力発電所とかあるいは溶鉱炉であるとかあるいは
石油精製装置などの操業をストップさせる、あるいは新幹線をとめるというようなことも必要となると思いますけれども、その
経済的損失は大変なものでありますから、一体だれがそういうことを命令する
権限があるのか、あるいはその経済的な
損失はだれが補償するんだというような点が全く何もわかっておらないわけでございます。ですから何か
立法措置でも講じない限り
警報は出せないんではないかというふうにも思えます。しかも
地震警報がいきなり完璧なものとなるとは思えません。試行錯誤的にだんだんとよくなっていくようなものだと思いますので、初めのうちは失敗することも多いかとも思います。そのたびに
地震予知の
専門家をやめさせることはたやすいことですけれども、すぐ種切れになってしまうだろうと思います。
で、そのような欠点にもかかわらず、これは事柄は人命に関することでございますから、何としても
警報のようなものを出さにゃいかぬだろうと思います。そういうようなことは十分な
研究を積んでから出すべきだというふうに私は
考えておりまして、
アメリカにおきましては
地震予知は現実のものになるということを踏んまえまして、どうやって
地震警報を出すかという
研究が始まっておりまして、ある程度予備的な
成果も出ております。その結果を見ますと大変興味がございまして、
アメリカの国情が違いますし国民性も違いますから、直ちに
日本に適用できるというふうには思いませんけれども、非常に
参考になる点がございます。たとえば
マグニチュード七ぐらいの
地震が起こるというようなことが数年前に警告が出たというような場合に何をするかということを、
行政の担当の方、企業のトップの方ともにインタビューして聞き歩いて、それをまとめたような結果がございます。そういたしますと、政府
機関は、まず大規模な損害
予測を行いまして、その分布といいますか、そういうようなものも一般に知らすようなことが行なわれるだろう。ダム、貯水池、それからビルディングの安全性に対して診断と補強が行われる。必要な弱体な施設はある時期において疎開が行われるであろう。たとえばコンピューターシステムのようなものは非常に強力にするかあるいは安全な地帯に移す。それから知事等が用います無線、有線の通信施設等も、そのセンターは外に出るだろう。それからいろんな土地の登録のものの用紙であるとか、そういうようなものはマイクロフィルムにおさめてコピーをつくるであろう。それから震災保険といいますか、
地震保険に非常に殺到するであろう。そのために新規加入はもう認められなくなって、政府が保証するような保険がつくられるであろう。それからそういう
地域の資産価値は六〇%程度下落して、今度はそれが下がったところで買い占めて、
地震が済んだ後高く売ろうというような思惑買いが行われるであろう。土地・住宅ローンのようなものは全く停止されてしまう。そのために建設業は非常にストップされまして、不況に陥って、いろいろ
対策でお金を必要とするにもかかわらず、地方自治体の税収は減るであろう。大企業は
幾つかは永久的に移転してしまうし、いろんなマーケットでは在庫を減らして安全を図るであろう。クレジット販売というようなものは全く制限されてしまうだろうというようなことが出てきたそうでございまして、そんなこと私余りよくわかりませんけれども、つまり非常な不況が起こるだろうということでございます。したがって、その
地域だけでなくて、
日本のような場合には、仮に東京のようなところがそういうことになりますと、これはもう
日本全国がおかしくなるというような、そういうことになるんではないかと思います。
したがいまして、
警報のタイミングを非常にうまいことやりませんと、不況によって受ける打撃というものが
地震の損害を極端に言えば上回る場合もあるかもしれぬというような議論がなされているそうでございます。というわけで、
警報を出すにはそれ相応の
研究をしなきゃいけない。で、どういう
地震にはどういう
対策でいくんだというようなことをあらかじめ作戦第何号というふうに決めておかないと、実際に
警報が出せないだろうというふうに判断いたします。
そういうようなわけで、
地震予知の方もどんどん進歩するでしょうから、それを
警報として、
行政を通じて実際問題に生かすための社会科学的な
研究と申しますか、これはもう
地震学者の手に負えないものでございますが、その方も至急始めなければいけないというふうに判断しております。
以上、私の
地震予知の現状に対する評価と
警報に関する
考えでございます。