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公述人(清水
義汎君) 明治大学の清水でございます。
私は、
国有鉄道運賃法に対しまして、現在審議されております内容に
反対の
立場で
意見を申し上げたいと思います。
まず第一に、現象面から申し上げまして、現在の
国鉄の
運賃には非常に大きな矛盾が出てきたということであります。
そのまず第一点は、運資と
料金の問題であります。
この
運賃が審議されますときに、他の
物価指数と比べまして
運賃の
倍率というものが低いんだという主張がたまたま行われますが、現在
国民が
旅客運賃で
負担をしておりますのは、
運賃と
料金を合わしたものを払わなければ列車には乗れないというのが現実の姿であります。しかも、この
料金の場合には、
国会の審議の対象から外されておりますために、
料金がきわめて
運賃よりは安易に上げられてしまう。しかも、ダイヤ
改正のたびごとに優等列車の増発という形で
特急、急行がどんどんふえておりますので、現実に中長距離の
旅客の場合には、特別
料金を払わないで乗れる列車はほとんど機能していないというのが現実の姿だと思います。しかも、
運賃を
国会にかけて、
料金を
国会の審議対象から外しているということは、
国鉄の基本的な営業収入の基礎は
運賃である、
料金は使用料としてさほど大きなウエートを占めてないということで、私は
運賃法から除外をされているのではないかと理解をされる。
ところが、現実に
東京−大阪間の
新幹線を見ましても、
運賃部分が二千八百十円、
料金部分が二千七百円という形になっております。在来線を見ましても、上野−小千谷間が
運賃部分が千二百八十円、
特急料金が千二百円。これが近距離になりますと、在来線でありましても上野−宇都宮間が
運賃五百七十円で
料金が九百円。
新幹線になりますと、熱海−
東京間が
特急料金が千百円、
運賃が五百七十円。いわば
運賃の倍の使用料を払わなければ乗れないという、きわめて奇形的な
運賃体系が出てきたということであります。ここで論議されます
運賃というのは
基本運賃のことを言っておりますが、
国民にとりましては、
料金と
運賃を合わせてが
運賃であります。こういう矛盾をそのまま放置した中で、現在の
運賃体系だけをいじくるということにはきわめて問題があるというのが第一点であります。
第二の点は、他の
交通機関との
運賃の関係がきわめてでこぼこが出てきたということであります。
これは、
国会に提出されました
国鉄の
資料を見ましても、たとえば新宿−小田原間が
私鉄が四百円、
国鉄の場合は現行で四百四十円であります。これは改定案になりますと、
国鉄が六百八十円で
私鉄が四百円。大阪−三ノ宮間を見ますと、現行
私鉄が百八十円で
国鉄が百七十円。改定になりますと二百七十円という形で
国鉄が上がってまいります。大阪−京都間の並行
路線をみましても、これは
国鉄四十三キロ、京阪五十キロの営業キロでありますが、現在
国鉄が二百二十円、
私鉄が二百二十円、営業キロでは京阪の方が多いわけでありますが、この金額が同じである。ところが、改定案になりますと、これは三百四十円という形で、いわば常識的には
国鉄の方が
私鉄よりも少なくとも安くなければならない。高くなるということは常識的に考えられないんですが、現実には
私鉄より高い
国鉄の
運賃ということになってしまう。
また、航空
運賃との比較を見ましても、現在
東京−大阪間が五千五百十円でありますが、これが改定案では八千三百円になる。そうすると、一万四百円という航空
運賃ときわめて接近をしてまいりますし、この場合も
グリーンのA寝台車を使いますと、
国鉄の
鉄道の方が飛行機より高い。これは
グリーン車のA寝台を利用いたしますと、改定案では一万四千三百円というふうになってまいります。それから
東京−博多間を見ましても、
グリーン車のA寝台を利用いたしますと二万三千円、飛行機の方が二万百円、それから
東京−仙台間を見ましても、
グリーンでまいりますと改定案が八千九百円、飛行機が八千百円、いわば航空機とそれから今度は
国鉄の
運賃というのが、きわめて
運賃の金額の面では激しい競争関係に入ってくる。このことは、上級
旅客を従来までは航空機にとられておりましたけれども、一般
旅客までますます転移をしてしまう。しかも国内航空機については、エアバスの導入等でますます大量
輸送性が高まっておりますので、この辺でまた新たなる矛盾が一層激化をするという点が他の
交通料金との関係で出やしないか。これは現象面でございます。
そこで第二は、一体この
運賃というものを考える場合に、
国鉄という企業の中で出された損益計算書の帳じりだけでどうするかという議論をしていいか悪いかという問題であります。私は、損益計算書の内容から見ますれば、当然大幅な
赤字でございますし、これを埋めるのには営業収入をふやさなきゃならぬ、これは何も議論をする必要がないぐらいきわめて簡単な問題であります。しかし、重要なことは、
交通政策と
運賃政策との関係の整合性にもう少しの配慮が必要ではないかということであります。
一体、今日の
国鉄の
赤字の原因というものを見ますと、単に
国鉄の経営者の経営のやり方が悪かったというふうに私は言えないと思います。むしろ
国鉄の内的な要因よりも、
国鉄を取り巻くところの外部要因の方が、きわめて
国鉄の経営を悪化をさしてきたというところに基本的な問題があるのではないかと思います。もしそうだといたしますと、
国鉄の
赤字経営の失敗は経営者の失敗ではなくして、
交通政策上の失敗と言わなければなりません。それを前提にいたしますと、
交通政策なり
運賃政策の転換がないままに賃率の
改正をしても、基本的な解決にはならないということであります。
そういう角度から物を考えますと、今日の
交通の混乱、
国鉄の危機の最大の要因は、私は競争政策の矛盾に起因するというふうに考えております。確かに大手荷主にとっては、
交通機関相互間の競争には大きなメリットがございます。莫大な設備投資をして
輸送の近代化をやることも、産業資本にとっては大きなメリットがございます。すなわち、競争政策や莫大な設備投資は流通経費の削減、それからピストン
輸送体系の確立によって、
交通機関を倉庫としての機能を持たしてしまうということであります。そのことは当然産業資本の回転率を高めてまいりますから、産業資本は、当然
交通に対しては規則的な、しかも低廉な、しかも大量な
輸送を求めるわけであります。この形を別な表現からいたしますと、産業に従属した日本の国有
鉄道というよう表現もあながち否定できないわけであります。このことが特に
貨物運賃については典型的にあらわれたということであります。
しかも現在、この
貨物の問題を議論いたしますときに、七百万台というトラックの
輸送の問題を除いて
国鉄の
貨物運送の問題は議論をできないと思います。七百万台のうち営業用のナンバーを持っているトラックは約五十万台弱であります。いわば自家用トラックを含めた激烈な競争の中で、この
国鉄は当然
貨物輸送体系は大混乱を起こしてきた。それが今日の一三%まで
シェアが下がったという基本的な背景であります。確かにそのことは、日本の産業資本の発達に大きく寄与したかもわかりません。しかしその反面、
国鉄の経営は苦しくなる、そして、大衆
旅客運賃にそれが全部転嫁をされてきたというのが、過去二十年間の私は歴史的な事実関係ではないかと思います。
そういうことを考えますと、今後の
交通政策と
運賃政策との関係の中では、特に調整政策の確立が必要だということであります。いわばそれぞれの
交通手段の特殊性と、それから一定の条件の中での競争関係というものを確立いたしませんと、全く自由な競争の形に置いてまいりますと、小回りのきかない
国鉄の場合には、きわめてその
輸送範囲と守備範囲が限定をされてしまうということであります。
特に調整政策の中で必要な点は、私は二点あると思います。
一つは外的要因の除去であります。それからもう
一つは環境問題、省資源エネルギー問題を、日本の長期のエネルギー対策等も含めて効率的な
輸送体系をどうするかという角度からの調整政策であります。こういう
観点を抜きにして、私は
国鉄の
再建論、あるいは
赤字論というものを議論をしてきたところに問題があるというふうに考えております。
それから三番目は、
公共料金政策と
運賃政策との整合性であります。
諸先生方御
承知のように、最近自由諸国におきましても、
交通部門に対するところの一般会計からの補助率というのは非常に高まっております。また、
交通そのものを独立採算制という角度からだけでは見ないという角度も高まっております。アメリカですら国家大衆
輸送法の制定が行われたことはすでに御
承知だと思います。
そこで、先般十月二十三日に、
国民の足を守る会が
東京で
国鉄問題民間広聴会を開催をいたしました、これは広く聴くという意味の広聴会。そこで
国鉄の幹部の方が御
出席になりまして、
国鉄の収入をどういう形でバランスをとっていかなければならないのかという御説明がございました。非常にわかりいい説明でございまして、一億人の日本の
国民というものを
国鉄の必要の経費、こういうものを一億で割りまして、一人頭幾らにしたらわかりいいかという
数字ではじき出されたのでありますが、これで見ますと、現在
運賃収入というのは
国民一人
当たり一万七千七百円である、それから一般会計から補助を受けるのが三千六百円である、それから
運賃値上げ分で見られるのが五千三百円である。その他もろもろの
数字が出ておりますが、この
数字を
一つ見ますと、これは大体日本の場合には収入の中に占める国家
助成の比率というのは数%である。ヨーロッパが一五%から三〇%、わが国の三倍近くであります。一般会計の三千六百円をこの三倍にするという形になると約一万円になる。そういたしますと、
運賃の
値上げ分は、ヨーロッパ並みにすれば
値上げは必要なくなるという数値が単純計算の中では出てまいります。そこで、いわば補助、
助成政策というものの基準、
原則、こういうものも
運賃値上げの問題なり
運賃改定の問題と絡めて、やはり基本
原則をぜひひとつ
国会の方でもお立てをいただきたいというふうに考えるわけでございます。
限られた時間でございますので、
最後にもう
一つお願いをしたいと思います。それは、現在
法定主義も廃止をしていきたい、
国鉄の
運賃問題に弾力性を持たせたいという議論がされております。現行では
国会における審議が中心になっておりますが、その中でも
公聴会という制度があり、あるいは参考人から
意見を求めるという制度が持たれております。この制度は私はきわめて大事なことである、必要な制度だと理解をいたします。ただ、ここで
公聴会のあり方についてぜひお願いをしたいと思います。
一般の認識では、
公聴会が始まると、
法案の打ち上げの前段のセレモニーだという声も聞かれております。もちろん
法案についての賛成論、
反対論、同数で出てまいりますので、従来の
公聴会の公述の中では、賛成論の
意見は確かに反映されておる。それがいけないということは私は決して申しません。しかし、賛成論の中でもいろいろな条件がつけられた議論がたくさん出ております。あるいは、
反対論の中でもいろいろな議論が中に含まれているというふうに私は理解をいたします。そういう
公聴会の議論がこの
国鉄の
運賃改定問題の中で、もし私の理解が誤りであれば訂正をさしていただきたいと思いますが、余り従来まで採用されたということを具体的に私は知りません。ぜひ今後、この
国鉄運賃の議論をする制度の改定の問題とあわせまして、
公聴会のあり方について抜本的に御検討をいただきたい。
一つは、広範に
国民の
意見を聞いていただきたい。第二は、
公聴会の
意見が諸先生の正しい御判断の中で、たとえ特定
政党の
意見とそれがかみ合わないとしても、それが常識的に、あるいは客観的に必要であれば、十分それが活用でき得るような形でこの
公聴会を御利用いただきたいということを
最後に申し上げまして、私の
意見を終わらしていただきたいと思います。