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政府委員(高橋寿夫君) 日米航空交渉の
経緯でありますが、当初、一九五二年に
日米航空協定ができたときからごく簡単に申し上げたいと思います。
一九五二年八月に協定が締結されまして、これによりまして、日本は中部太平洋を通りましてサンフランシスコへ行く、
〔
委員長退席、理事瀬谷英行君着席〕
あるいは北部太平洋を通りましてシアトルへ行く、こういうふうな路線を獲得いたしました。
それから二番目には、一九五九年にこの改定がございまして、ロサンゼルスが新しい地点として追加されました。さらに南米線を以遠権として獲得したわけであります。
それから三番目には、一九六五年にいわゆる世界一周路線の獲得でございますが、六五年にニューヨークからヨーロッパへ行く路線を獲得いたしました。さらにメキシコ、中米に行く路線を獲得いたしました。ただし、そのときに大きな代償を払ったわけでありまして、北部太平洋経由シアトル線を放棄いたしました。それから中米線などを獲得いたしましたけれ
ども、これも完全な以遠権ではなくて、アメリカの国内での旅客貨物の積みおろしを禁じられているかたわの権益でございました。
続きまして、一九六九年に、上記に対して若干の追加が認められまして、アンカレッジを経由してニューヨークに行くいわゆる北部大圏コース、ニューヨーク路線が追加されました。さらに、サイパン経由グアム路線を追加いたしました。
五番目は一九七二年の
改正でございますが、これは新しく加えたものはなくて、当時沖繩の返還に伴いまして、沖繩は当時までアメリカの支配下にございましたが、これが日本に返ってまいりますと那覇をめぐる路線は日本側のものになります。つまり、日本からアメリカに与えるべき路線になりますので、そのための
改正をいたしたということがございます。そしてこのときに、同時に約束をいたしまして、いまの申し上げました那覇を経由する路線の価値、こういったものを十分評価いたしまして、沖繩返還後五年の間にそれを検討して、その結果どういうふうな措置をとったら日米間の利益の相互的均衡が図られるかという点を中心に、日本に許与すべき運輸権の追加ということを中心議題としてもう一遍相談をしよう、こういう約束をいたしまして、それに基づきまして先ごろ日米航空交渉を行ったわけでございます。
それから、今回の航空交渉の
経緯を御
説明申し上げましょうか。——それでは続きまして、今回の交渉の
経緯につきまして御
説明いたします。交渉いたしましたきっかけは、いま申し上げましたように、四年半前の沖繩返還に伴う措置であったわけでありますが、そのときに日米間の利益の相互的均衡という観点から日本側に許与すべき、与えるべき追加運輸権を認めることについて議論しよう、こういうのが当時両国
政府で合意された
内容でございますが、その日米間の利益の相互的均衡という大変抽象的かつ包括的な言葉の解釈が米側と日本側とでは幾らか違っておりました。いわば双方それぞれ若干の食い違いがあったんですが、いわば玉虫色というふうな形で文書がつくられました。アメリカ側は、どちらかといいますと沖繩の問題との関連で与えるべきものを計算して与えたらいい、こういうふうに簡単に
考えていたかもしれませんが、私
どもの方は、先ほどお話し申し上げました一九五二年の第一次協定締結以来、何遍かの改善を重ねてまいりましたけれ
ども、中には新しいものをもらうかわりに、従来持っていたものを放棄するというふうなことを余儀なくされたりしたこともございましたし、全体としてまだまだ日米間の航空権益の不均衡は直っていないんだという観点から、今回の交渉を日米間の相互的な不均衡ということを是正する好機であると
考えて交渉に当たったわけでございます。
私
ども交渉の前に用意いたしました方針、そこでは、いま申し上げましたような日米間の不均衡を是正するということを
考えたわけでありますが、若干具体的に申し上げますと、
一つは日本とアメリカ両方比べてみますと、発着地点において非常に大きな制限があります。アメリカはアメリカ国内どこからでも日本に飛んでくることができます。しかしながら、日本の航空
企業はアメリカの中で発着できる地点が限られておりまして、協定上七地点しか与えられていない。アメリカは十九の地点から日本に飛んでこられる。そういう協定上の権益を持っております。バス路線でも、二つの会社が協定を結ぶときには相互乗り入れ協定を結びますけれ
ども、お互いに発着地点を共通にするというのが交通機関の間の協定の大原則であると思いますけれ
ども、この点は日米間の航空協定は発着地点の数が十九対七という非常に形の上での不均衡があるわけでございます。
それから第二番に、いわゆる以遠権という問題があります。その国内のある地点を経て第三国に飛んでいけるその権利——以遠権でありますが、以遠権につきましては、アメリカ側は日本の東京、大阪、那覇から世界じゅうどこへでも飛んでいける無制限の以遠権を持っているわけでありますが、わが国はアメリカに行きまして、アメリカから大西洋を通ってヨーロッパに行けるという以遠権を持っているほか、形式的には中南米等へも持っていますけれ
ども、先ほどお話し申し上げましたように、それは日本から乗ったお客さんだけが通して中南米に行けるというだけであって、アメリカの国内の地点からお客を乗せることは禁止されております。したがいまして、非常に経済的価値の乏しい以遠権である、そういう不自由があります。さらにニューヨークからヨーロッパといいましても、その路線は日本から行ったときにサンフランシスコヘとまらなきゃいけないということが義務づけられております。そういたしますと、非常に経済的にも得な大圏コースを通ってヨーロッパに行くことができない。大圏コースを通る路線はニューヨークどまりということになっているわけでありまして、そういった意味で世界一周路線といっても時間的にかなりの不利をこうむらされているわけであります。
それから三番目に、
輸送力の違いが大きいわけでありますが、いま日本とアメリカの供給
輸送力では大体アメリカ側が倍の供給力を持っております。これはどうしてそうなったかと申しますと、いわゆる事前審査主義、事後審査主義という言葉がありますけれ
ども、私
どもアメリカ以外のヨーロッパ諸国などとの航空協定では、いわゆる事前審査主義という原則をとっておりまして、あらかじめ両国間の航空
企業が就航する便数を協定上明確にいたしておりまして、同数の便数の中で競争することを原則にいたしております。
日米航空協定におきましてはこれが唯一最大の例外でございまして、そういう
輸送力の調整規定がございません。はなはだしく両
企業間の格差が開いたときには相談をすることもあるべしというふうな、きわめて事後的かつ抽象的な表現でありまして、現実にそういったことを発動するチャンスは非常に少なく、限られております。現実問題といたしまして、アメリカ側は日本に対しまして自由に、いかなる便数でも投与できるということになっております。そういたしますと、両国間の航空
企業の体力の差というものが如実に出てまいりまして、現在アメリカは三つの
企業が日本の、日本航空一社に対して倍の供給力を持っているという経済的な非常な不均衡の生ずる一番の原因が、この
輸送力に対する規制措置がないという点であります。そういったことの結果、収入の面におきましても、日本とアメリカの航空
企業を比べてみますと、アメリカ側が五十年度に約千七百億円を上回る収入を上げておりますのに対しまして、日本側はこの半分しか上げてない。そういう収入面での不均衡が起こってきているわけであります。
そこで、私
どもはこういうことを是正すべきであるということから、まず路線権については双方同じように、同じ地点を獲得する権限があるじゃないかと、ちょうど鏡に私
ども顔を映しますと、鏡の向こう側に同じ顔が映ります。そういうふうに鏡に映したかのごとき平等の権益というふうなことを踏まえて交渉したわけであります。したがいまして、以遠権についても同様でございます。
それから
輸送力につきましては、事前に十分便数調整をいたしたい、こういうことを強く主張した次第であります。そして、十月四日の第一回から十月八日まで、これらの点につきまして日米双方の
意見の開陳が行われたわけでありますが、八日に終結いたしましたけれ
ども、結果としてただいま申し上げましたような日米間の総合的な不均衡を是正することにつきまして、具体的な何らかの結論が得られたということはなくして終わったわけでありまして、大変この点は遺憾でございます。
ただ、交渉前に予想されたことでございますけれ
ども、アメリカ側は現在日本に対してほとんど譲るべき実は理由を持っていない。向こうにいたしますと、ただせいぜい那覇をめぐる権益、それを評価いたしまして、その権益に見合う分だけを何かどっかアメリカの国内の発着地点を追加して済ませばいいじゃないかということであったわけでありまして、したがいまして、先ほど来御
説明申し上げましたような、日米間の相互的な均衡を達成するための
各種の問題というものを実現するということは、すなわちアメリカとしては無条件譲歩に等しいような
立場に置かれるわけでございますので、恐らく下手をすると、この交渉は全くかみ合わないで終わってしまうんじゃないかということを恐れておりましたけれ
ども、五日間の交渉によりましてそういったことはなく、両者の妥結はもちろん見られませんでしたけれ
ども、この問題についてはひとつ粘り強くわれわれは交渉したいということに対してアメリカ側も反対はしなかった。今後の、まだ日時は決まっておりませんけれ
ども、今後これを検討していこうということを向こうも言って別れたわけでありまして、私
どもこのような大きな問題でありますので、とても一回ぐらいの交渉でこれが解決するということは期待は非常に薄かったのでありますが、予想のとおりの結果になりましたが、私たちとしてはこれを第一回といたしまして、これから精力的に交渉を進めていきたい、こういうふうに
考えております。
いろいろ巷間論ぜられる
意見の中には、そういう相互的見直しということを向こうに食いつかせるためには、協定の破棄をしたらどうかという
意見もございました。ちょうどアメリカとイギリスの間の航空協定もございますが、イギリス側はこれを不満といたしまして、バミューダ協定というそれを見習いまして、わが国もそうしたらどうかという
意見もございましたけれ
ども、私
どもはそういったことをいますぐ発動する段階ではない、こういうふうな観点から、今回はそこまで行かずに、粘り強く交渉をするということを約束して別れたわけでございます。