○
麻生参考人 私は、いま
委員長から
紹介をいただきました
全日本海員組合組織局次長の
麻生でございます。
遠洋並びに沖合いで働いております十三万五千人の
漁船船員を
代表して、船員の
立場から
海洋法問題あるいはまたこれにかかわる
漁業問題さらにはまた船員の雇用問題、そういう
立場で
意見を述べたいと
考えております。
海洋法会議は、海を人類共通の利益に供そうではないか、こういうことで本来始まったものでございますが、その経過を逐一見ておりますと、先進国対開発途上国あるいは沿岸国対内陸国、そういう相互の利益が非常に激しく対立をいたしまして、残念ながら現在の段階ではこの行く先がどういうことになるか、必ずしも的確につかめない
状況にあります。しかも、残念なことに、
海洋法会議の現状は海洋分割の方向に
進行中でありまして、この方向が
海洋法会議の
結論として決まりますならば、海岸線が長い超大国はいまより以上の多くの利益を海から得るでありましょうし、あるいはまた逆に、貧しい小国は一層の不利益を生ずるという、本来意図した
海洋法会議の方向と逆の方向に進むのではないのか、こういうふうな懸念さえ持っております。しかもこれを
漁業問題という
立場で見ますと、経済水域という障害、かきね、このために地球上にある水産資源の有効利用というものが逆に阻害をされる、こういう結果になるのではないかということを懸念をいたすものであります。
特に
日本の場合は、
漁業の生産
規模におきましてその約半分が遠洋
漁業で
規模を立てております。したがいまして、いま申し上げましたような懸念が現実の問題となりますと、
漁船船員にとりましてはきわめて重大な雇用の問題であり、かつ職場の問題であるというふうに
考えております。
漁船船員の場合はそういうところに職場を持っておるわけでございますから、本来から言いますならば、従来どおり遠洋で、ないしはまた沖合いで仕事ができるような
状況が将来的にも定着をする、このことが非常に望ましいというふうに
考えておりましけれども、現在、
世界での水揚げ量が七千万トン、
日本が持っておる
漁業生産の
規模は一千万トン、すなわち
世界の七分の一であります。
世界人口は四十億、
日本の場合には約一億一千万、したがって人口は四十分の一であります。したがって、現下の国際情勢から言いまして、果たして四十分の一の人口が七分の一の
漁業生産というものを将来とも独占できるかどうかという点を
考えてみますと、いささか不安な
状況が
考えられるわけであります。したがいまして、われわれ船員の組合として
海洋法会議の行方として望ましい方向というものは、適正に資源の育成と保護を行ないながら、あるいは沿岸
漁民の
立場を配慮しながら、同時にまた、資源の有効利用を図るという
立場で遠洋
漁業国の
実績というものを十二分に尊重しながら、この三つの原則の中で
世界的な合意が早く生まれるということが非常に望ましいというふうに
考えるわけであります。と申しますのは、一体これからどうなるのであろうかという不安をこれから長い間持ち続けるということは、
漁船船員にとりましてきわめて不安であり、したがって、この
漁業という仕事に生涯を投じていいのかどうか、こういう不安に終始つきまとわれるわけでございます。したがって、申し上げましたように、そういう方向で
海洋法会議がまとまることを望んでいるわけでございます。しかし、先ほど触れましたように、現実はそういう方向に進んでおりませんで、依然として
各国間の利害が対立をしておりますから、このまま放置をいたしますと非常に大きい懸念があります。
と申しますのは、もし
海洋法会議が失敗に終わったとするならば、海洋無法時代の到来というものは必至でありましょうし、したがって、そういう意味から、
各国はその国の都合によって一方的な
漁業水域というものを次々と宣言をすることになり、そのことが海洋無法時代に突入をするということになるのではないかというふうな懸念を持っております。その懸念というものが現実には先ほどもお二方の
参考人からの
意見の中にもありましたように、
アメリカやあるいはカナダ、そういうところが一方的に二百海里の
漁業水域というものを現在宣言をし、来年の一月あるいは三月に実施に踏み切ろうとしているわけでございまして、このことは今日、
日本の
漁業にとって、特に遠洋
漁業にとっては最大の
漁業問題であるというふうに
考えておるわけでございます。
アメリカは御存じのように
世界の超大国であります。非常に力も強いわけでありますが、同時にまた、
アメリカは
世界のリーダーシップを、どの国も
アメリカが言っておることは本当に正しいというような
立場のリーダーシップをとることを
アメリカに対して望むわけでございますけれども、この
漁業問題に関して
アメリカやあるいはカナダがとっている態度というものは、少なくとも先進国あるいは
世界の超大国としてとるべき態度ではないと
考えております。こういう態度を仮に
アメリカがいつまでもとり続けるというようなことになりますと、
世界の
アメリカに対する信望というものは失墜をしてしまうのではないかというような
考え方を持ちますし、現に
漁船船員の
立場では、この
アメリカの態度に非常に強い憤りを持っておるというのが現状でございます。
仮にもう少しこの
アメリカ問題を申し上げますならば、いま
アメリカが言っておるようなことが現実になったとした場合に、約千二百隻の
漁船、三万数千人の
漁船船員が
たちどころに職場を失うという現実に逢着をするわけでございまして、
漁船船員にとりましてはきわめて大きい問題でございます。恐らくそういうことはないであろうというふうな希望は持っておりますけれども、そういう強い不安に、
海洋法会議が始まったときから将来どうなるんであろうかというような
考え方を持っていた
漁船船員が、この
アメリカの
漁業保存管理法によってさらに大きくその不安を増大をさせているという現状でございます。
年をふるごとに
日本の
漁業を取り巻く国際
環境というものは厳しさを増しておるわけでございますが、そういう中で、
漁船船員がこの国際
漁業規制によって過去数年の間にどういう
状況にさらされてきたか、そうして国際
漁業交渉の結末によって職場から去っていった
漁船船員に対してどういう施策がとられてきたか、その辺の問題につきましてこれから
意見を申し述べたいと思いますが、この点が特に私がこの水産
委員会の中で申し上げたい中心でございます。
昭和四十七年ぐらいからの統計を見てみますと、
日本と
アメリカの
関係で取り結ばれておりますブリストル湾のカニの事業がございますが、四十七年にはこのブリストル湾のカニに従事をしていた船員総数は千三百六十五人でございました。
昭和五十年にはこの数が五百五十七人というふうになっておりまして、
昭和四十七年の数を仮に一〇〇といたしますと、
昭和五十年には四〇・八という
状況に相なっております。あるいは、かつて
日ソの間で締結をされておりましたカニの
関係で、西カムチャッカ海域に出漁していた船員は、
昭和四十七年には千百十四人いたわけでありますが、これもソ連との交渉の結果、
昭和五十年にはゼロになっております。一〇〇とゼロであります。あるいはまた南氷洋
関係の捕鯨問題で申し上げますと、
昭和四十七年には捕鯨に従事をしていた船員は三千四百七十人ございました。ところが、いろいろの国際捕鯨
委員会による規制によりまして、五十一年段階では千四百六十七人に激減いたしておりまして、
昭和四十七年を一〇〇といたしますと、五十一年には四二・二という
状況になっているわけでございます。
あるいはまた
海洋法その他の国際
関係の厳しい
状況の中から、たとえば遠洋マグロ
漁業でございますが、その
規模が大きいというような観点からか、自主的に減船をしていこう、こういう動きも現在ございまして、千三百隻ございますマグロ船を二割、三年計画で
削減をしていこうということになっております。二割は約二百六十隻でございまして、これを船員数に直しますと約六千人の船員が、その自主的な産業構造の変革といいますか、マグロ
漁業の
規模の縮小によって失業の憂き目にさらされる、こういう
状況にもあります。
申し上げましたような二、三の例のように、毎年毎年厳しくなってまいります
漁業規制によりまして船員は職場を去っていっておるわけでございまして、現在遠洋並びに沖合いで働いておる船員諸君の気持ちは、いつこの
状況が自分の身にふりかかってくるか、こういう不安でいっぱいであるわけでございます。そういう中で、雇用対策として船員にはどういう対策がとられてきたか、これもまた非常に重要なことでございまして、その辺につきまして、二、三陸上との
関係におきまして
考え方を申し上げておきたいと思います。
陸上労働者の場合には、雇用対策法という
法律を基本法にいたしまして、職業安定法あるいは職業訓練法、さらには雇用保険法、こういう
法律がつくられており、それらの実現に当たっては雇用促進事業団法という
法律によって、それぞれ職業安定、職業訓練あるいは失業の救済、そういうことが行われているわけでございますが、海上、特に
漁船船員の場合、陸上にそういう
法律があるにもかかわらず、これに該当する
法律は職業安定法一本でありまして、訓練法あるいは基本法である雇用対策法もなければ、もとよりこれらを実現する雇用促進事業団法というものはないわけでございまして、率直に船員の
立場から
考え方を申し上げますならば、憲法のもとにこれほど不平等な
状況はないのではないかというふうにわれわれは
考えておるわけでございます。
そういう現状からいきまして、私
たちはいろいろと
関係各省庁に対してお願いをしてまいっております。
その第一は、かつて炭鉱があるいはまた駐留軍の労働者が、石炭が石油にかわっていく段階で、あるいは駐留軍が撤退をしていく段階での
規模が非常に小さくなっていきました。そのときに
政府は、炭鉱離職者臨時
措置法あるいは駐留軍の労働者に対しても同様の
考え方でその失業の救済あるいは職業の転換、そういうことについて積極的に施策をとってきたことをわれわれは知っております。したがいまして、
漁業労働者につきましても、数々の国際
漁業規制によって、
漁船船員に全くその責任がない
状況にあって職を離れていくという
立場から
漁業従事者臨時
措置法というものをわれわれは要求をしてまいりました。これもいろいろ問題があったようでございまして、現状では、本年の春の
国会に
漁業再建整備特別
措置法という
法律の中で転換給付金を支給する根拠条文が初めてつくられたわけでございますが、これとても炭鉱離職者臨時
措置法等に比べますと、中身はまだまだ十分とは言えないというふうに判断をいたしておりまして、したがって、われわれは現在船員雇用保険法という
法律の制定を強く望んでおるわけでございます。
内容は、雇用の安定、失業の防止あるいはまた失業の救済というようなものを柱にいたしまして、陸上に見合うような雇用に関する
法律の諸体系をこの中にすべて盛り込みまして、陸と同様に海の労働者に対してもそういう施策がとられるように現在強く望んでおるわけでございまして、どうかそういう、これから一体どうなるんであろうかというような非常な不安にさらされております
漁船船員に対しまして、諸
先生方の
努力によって、われわれが求めておるこの船員雇用保障法というものが早期に実現されるように強く望んでやまない次第であります。
そのほか、
漁船船員の場合にはたくさんの雇用問題がございまして、一部には
外国人
漁船船員を雇おうといったような動きも二、三年前にはありました。昨年、そういう
事態の中で
水産庁長官の通達によりまして、国際
漁業規制によって
漁船船員の雇用というものが非常に不安にさらされておる中で、そういうことはやってはいかぬ、こういう通達が出た
関係もあってか、現在は必ずしもこういう傾向は顕著ではありませんけれども、依然としてそういう
状況もあるわけでございます。
食糧自給体制ということがいろいろと言われますが、食糧自給体制というのは、
日本の船で
日本人の船員がそこで仕事をしてとること、これがいわゆる食糧自給体制の本筋であろうというふうに
考えますので、一面、国際規制で不安にさらされておる
漁船船員の雇用なり職場が、そういう
外国人の
漁船船員を雇うといったようなことで一層拍車がかからないようにこれまた特段の御
努力をお願いしたい点であります。
以上、
海洋法に
関係をいたしまして
漁船船員の
立場で申し上げましたことは、雇用、生活、職場、そういう点に非常に不安にさらされておるということを申し上げまして、私の
意見にかえたいと思います。どうもありがとうございました。