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1976-10-20 第78回国会 衆議院 外務委員会多国籍企業等国際経済に関する小委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    小委員会昭和五十一年十月八日(金曜日)委員 会において、設置することに決した。 十月八日  本小委員委員会において、次のとおり選任さ  れた。       石井  一君    粕谷  茂君       塩崎  潤君    竹内 黎一君       水野  清君    毛利 松平君       山田 久就君    河上 民雄君       土井たか子君    堂森 芳夫君       津金 佑近君    渡部 一郎君       永末 英一君 十月八日  水野清君が委員会において、小委員長選任さ  れた。 ————————————————————— 昭和五十一年十月二十日(水曜日)     午後一時四分開議  出席小委員    小委員長 水野  清君       石井  一君    粕谷  茂君       塩崎  潤君    毛利 松平君       山田 久就君    河上 民雄君       津金 佑近君    渡部 一郎君       永末 英一君  小委員外出席者         参  考  人         (一橋大学教授小島  清君         参  考  人         (横浜国立大学         教授)     神代 和俊君         参  考  人         (大阪市立大学         助教授)    一ノ瀬秀文君         参  考  人         (神戸商科大学         教授)     吉田  寛君         外務委員会調査         室長      中川  進君     ————————————— 本日の会議に付した案件  多国籍企業等国際経済に関する件      ————◇—————
  2. 水野清

    水野委員長 これより会議を開きます。  このたび私が多国籍企業等国際経済に関する小委員長を務めることになりました。  御承知のように、国際経済における多国籍企業の功罪が今日ほど問題化していることはかってなかったことでございます。多国籍企業が、一面では国際経済発展に寄与してきたことはもちろんでございますけれども、他面、その強大な経済力によりまして弊害が指摘され、いまや国際的にも国内的にも、その活動の規制が検討されようとしております。このような現状にかんがみまして、当小委員会においては、本問題について十分な調査を行い、必要な措置検討してまいりたいと存じております。つきましては、皆様方の格別の御協力をお願い申し上げる次第でございます。  次に、多国籍企業等国際経済に関する件につきまして調査を進めます。  本日は、多国籍企業等国際経済に関する問題調査のため、一橋大学教授小島清君、横浜国立大学教授神代和俊君、大阪市立大学助教授一ノ瀬秀文君及び神戸商科大学教授吉田寛君、以上四名の方方に参考人として御出席お願いしております。この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多用のところ本小委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。どうか、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただくようにお願い申し上げます。なお、参考人の御意見開陳は、お一人二十分程度お願いをいたすことにしまして、後刻、各小委員からの質疑の際に十分お答えくださるようお願い申し上げます。  それでは、最初小島参考人よりお願いを申し上げます。
  3. 小島清

    小島参考人 一橋大学小島でございます。私、こういう機会は初めてでございます。もちろん外国ではやったことがありますが……。そこで、最初二つの点をむしろ私の方からお聞きしたいのであります。  第一は、本委員会目的、それから同時に、御出席委員の方のねらいとかなんとかそれぞれ違うかもしれない、関心も違うかもしれない、あるいは私どもがやっておりますことについての理解がどのぐらいなされているか、それによりまして私どもの話し方も違うと考えます。たとえば、神代さんが幾つか多国籍企業についてお書きになっているのですが、そういうものをお読みになっているのか、あるいは理解されているのかというような点、それを明らかにしていただきたい、これが第一点。  第二点は、一体参考人というのは何だかわかりませんので、その規定があるかと思いますが、あるいは罰則等もあるかもしれませんが、それを明らかにしていただきたい。それと同時に、われわれきょう参りました参考人が、いかなる問題点をどの程度深く、いかなる心構えで、つまりどの程度まで言っていいのか、しかられるのか等々、困りますのでお教えいただきたい。  この二点をまず明らかにしていただきたいと思います。
  4. 水野清

    水野委員長 それでは私からお答え申し上げます。  御指摘の点でございますが、ロッキード特別委員会予算委員会で、先ほどのロッキード事件で多国籍企業の問題が出まして、あのときの証人については、いろいろな罰則のようなものがございましたけれども、実はこの委員会をつくりますに当たりまして、各党一致しまして、私ども自身も多国籍企業につきまして十分な知識調査を持ち合わせておりません。そこで、むしろこの問題について非常にお詳しい先生方に、現下の問題点をまず御指摘いただく。それぞれ個々の問題その他については皆さん方かなり調査をなさっていらっしゃいますけれども、それはそれとして、一般論でも結構でございますし、具体論を通じて一般論に及んでも結構でございますし、諸先生方の日ごろの御調査とか御見識を開陳をしていただいて、それに対して御質問を申し上げる、わからないところを教えていただく、こういうようなつもりで、この小委員会はまず最初参考人の御意見を承るという形で出発したわけでございます。非常に自由な気持ちでやっておりますので、その点は余りこだわらないでお話しをいただければ幸いであると思います。
  5. 小島清

    小島参考人 私は非常に口幅ったいことを申しましたが、私もこのような委員会が有意義なものであり、日本経済あるいは日本国家政策のために役に立つようになることを心から希望しているものです。しかし、私の経験によりますと、外国で私がいたしましたときには、相当期間前に、何について話してくれという問題点がはっきり指摘されまして、われわれとしてはそれに対してちゃんとペーパーを用意いたしまして、そこで読むというような形であったわけであります。その方が能率的であり正確を期せられると思う。でありますから、私どもとしては少なくとも一カ月ぐらい前にちゃんとした、何を話せというような目的あるいは項目まで御指摘されれば、十分なお役に立つと思うのでありますが、そういうことがないのははなはだ私としては残念であります。
  6. 水野清

    水野委員長 まことに申しわけないことでございますが、小委員会審議事項につきまして各党で合意したものがございます。これを先生方に御配付申し上げますが、簡単に読んでみます。  この小委員会外務委員会の中に設けられた小委員会でございます。外務委員会所管事項と判断される次の事項について実情調査を行う。イは、国際機関、OECDや国連などでございます、における多国籍企業問題検討現状。口は、主要国政府議会等における多国籍企業問題の検討状況。括弧して、検討対象となった具体的事例についてのケーススタディーを含めている。それから、二番目でありますが、上記1の調査の結果を参考としながら、わが国に進出し、またわが国から海外に進出しております多国籍企業全般にかかわる国際経済上の問題点調査を行う。それから3は、上記各項調査の一環として、あるいは調査の結果とるべき措置検討のために、必要に応じて学識経験者意見を聴取する。実はこの3から始めた、こういうことなんでございます。この1、2は、実は私ども資料を外務省その他からもらいまして見ておりまして、その資料自身をここで討議することは、まあ勉強しておればよろしいということで、省いたわけでございます。それから4は、上記各項調査の結果、当面わが国において多国籍企業問題として取り上げるべき問題点が整理された段階において、小委員会外務委員会にその審査結果を報告する。こんなような非常に概念的でございますが、ようやく各党間に合意ができて出発するわけでございますので、きょうのところは、御指摘のとおり、事前に非常に不備なお願いをして出発するわけでございますけれども、日ごろの御研究のあるいは御研さんの結果をお話しいただければ幸いだと思う次第でございます。
  7. 小島清

    小島参考人 いや、私もそんなにこの問題をいろいろアーギューする気はないのですが、この中でも3に「必要に応じ」とありますが、どういう必要であるのか。われわれとしてもやっております専門は多国籍企業についてもいろいろ違いますので、もう少し話すべき問題点をはっきりアサインしてくださると非常に助かるということであります。その点は御同意いただけると思うのです。まあそれはそれとして、それじゃ多国籍企業問題というようなものについての私の一般的な見解をごく簡単に申し上げさしていただきます。  まず、多国籍企業定義というようなことが問題になるかと思います。  それを考えますには、私は、海外直接投資というものと多国籍企業というものとは一応区別して考える必要があると思います。  海外直接投資というのは、これは間接投資、つまり証券を買ったら外国投資したことになりますが、また言いかえれば、一般的購買力としての金の移動というのが間接投資になるわけですが、それと比べまして、直接投資と申しますときには、いわば経営移転ということになろうかと思います。つまり、外国販売拠点とか生産工場をつくる。したがって、そこでは資本だけじゃなくて、技術も、それから経営知識といいますか、スキルといいますか、そういうものも一体になって外国へ移っていくということでございます。これが海外直接投資です。  その海外直接投資をやるのが企業であるわけですが、その場合、広い意味での多国籍企業定義では、複数国——複数国といいますから、二つ複数かもしれませんが、あるいは三つ、四つ以上だとかいう複数国にまたがって事業活動、つまり直接投資をやっているものを多国籍企業と言っております。これは国連がその事務局ペーパーとして出しましたものの中に出ております非常に広い意味の多国籍企業でございます。  これに対してやはり問題なのは、そのような一つ二つ小さな直接投資をやっているのが問題であるわけでなくて、いわゆる巨大多国籍企業であります。たとえば石油メジャーとか、あるいはITTとか、あるいはIBMとか、いろいろありますが、そういうような非常に巨大な多国籍企業をいわゆる多国籍企業として私は受け取りたい。つまり狭義の多国籍企業であります。  それは何かと言うと、単に一つ二つ海外直接投資をやるんじゃなくて、世界じゅうにいろんな拠点をばらまきまして、それをグローバルなストラテジーによって、そこからいろんな利益が上がるように、そしてそれは大体寡占企業あるいは独占的な企業によって行われるわけでありますから、そういう寡占利潤極大化を求めて世界戦略を行う大きな企業、巨大な企業、こういうことになろうかと思うのであります。  そこで、問題は巨大多国籍企業ということにまず限りたいのであります。そこにメリットもあり、デメリットもあるわけですが、その巨大多国籍企業というものの性格とか本質というのは、私の解釈するところでは、つまり規模が巨大になり、それから世界じゅうにわたって生産拠点とか販売拠点を設けることからいろいろな、経済学のタームで言いますと、規模経済というものが生まれる。また、その規模経済をうまく組織化することから、さらにアディショナルな利益が生まれてくるわけであります。それをねらっているのが巨大多国籍企業だと考えてよろしいかと思うのです。その規模経済というようなものはどこから生まれるかと申しますと、それはやはり最近における交通機関あるいは通信機関、これの発展、いわばそういうもののグローバリゼーション、これが巨大なそういう世界をまたにかけた活動を可能にするようになったわけであります。  生み出される規模経済というのをもし分けますと、大きく分けますと二つになるかと思います。一つは、生産をやる面での規模経済ですね。これは自国でつくるよりも安いところで生産するようにする。一番わかりやすいのは石油とかなんとか、日本では石油が掘れないことはないのですが、非常に高くつく。それよりもうんと安いインドネシアで掘るとか、あるいはアラブで掘るとか、こういうことになるのですね。あるいは一つ一つ工場規模を適正な規模にすることができる。これは世界市場をまたにかけて大きな需要を集めれば、それに見合った大きな規模生産、しかもその生産プロセス幾つかあるわけですが、その中のある部品はある場所で最適規模でつくらせることができるようになる。これも、全体としての需要が非常に大きくならないと、そういう一つ一つプロセスを最適な規模でつくらせるような工場を持つことはできないわけですね。また、そういう一つ一つの最適な規模工場を一番安くできるところへうまく、つまり自国だけに限らず、世界にまたがってうまく置くことができるといいますか、そういうところから生産面規模経済というのが生まれてくると思います。  それに対してもう一つは、私は商業的な規模経済と名づけたのでありますが、要するにそれは販売とそれから財務面におけるいろいろな規模経済が、巨大企業化することによって生まれてくるのであります。それはまた幾つかあります。つまり、まず第一に世界にまたがる情報網を持つ、そこからどこへ売れるかとか、あるいはどこで生産するなら安くできるかというような情報が的確に得られる、まずこれが必要であるわけですね。これもやはり大きな企業にならなければ産み出せない一つ利益であるわけですね。それから、相手国の関税その他の貿易障壁がありますが、それをくぐってその内側にいまの生産拠点を設けるとかあるいは販売拠点を設けるということができます。これも資力の大きな企業でないとできないということになりましょう。あるいはパテント制度をうまく使うわけですね。それから、輸出先制限なんという、これは主に例の制限的商行為の問題でありますが、それも大企業、しかも世界にまたがって拠点を持つような大企業だとうまく使えるわけであります。それから、広告とか販売、宣伝あるいはアフターケアというものも、やはり大企業だとうまくやれる。あるいはブランドネームがある。あるいは税制上のいろいろな特典をうまく使う。あるいはトランスファー・プライシングと言われるもの、あるいはタックスヘブンというようなもの、これも世界にまたがって幾つかの拠点を持っていないとやれないわけなんですが、そういうのも巨大多国籍企業だとうまく使える——うまく使えるというかあるいは悪用できるというか、そういうわけであります。それから資金調達上優位がある。巨大企業であるから信用があって安い金利の金を調達できる。あるいは日本金利が高い場合に、アメリカの安い金利あるいは中近東の安い金利の金を調達できる、こういうような便宜もあるわけであります。  さらには、相当大きな運転資産を持っておりますから、為替相場の変動とかいうようなことを利用いたしまして為替操作あるいはときにはスペキュレーションもやることができる。さらには、問題になりましたことでありますが、相当大きな政治力を発揮でき、そして投資母国あるいは投資先政府に対して圧力を加えまして、自己の企業に有利なように動かすことができる。そういうような幾つかの販売財務運営面におきましての規模経済が得られるわけであります。  しかし、結論的に申しますと、どうも生産上の利益というのは、これは私ども経済学ではリアル・リソーセス、つまり生産要素ですね、投下する生産要素節約になるわけなんですが、そういうようなリアル・リソーセス節約になるような海外直接投資は推奨されるわけです。また、そこから生まれるのは私は真正規模経済と呼んでいるのでありますが、その真正規模経済というのは、現在のようなアメリカ——主アメリカのでありますけれども、巨大な多国籍企業においてはすでに大体実現し尽くしている。むしろ巨大になり過ぎて、非経済、不経済といいますか、ディスエコノミーズに陥りつつあるように思います。そして他方、シュードーといいますか、私は擬似規模経済と呼びたいのでありますけれども、そういう生産要素節約には役に立たぬ、しかし、さっき言った販売財務の面におけるやりくりによりまして、企業としてはかなりまだもうかるわけであります。たとえば為替操作をやる。あるいは場合によってはスペキュレーションをやる。しかし、これは社会的には何ら利益を生み出さない、つまり生産要素節約にはならぬわけでありますけれども企業としては非常にもうかる。どうもアメリカの巨大多国籍企業が陥りつつある現在の状況は、生産面における生産要素節約に役に立つという段階は過ぎてしまって、本当はしたがいましてつぶれるべきであるのがつぶれないように、いま言ったような擬似的な規模経済を得るように、場合によっては政治力まで発揮いたしまして生き延びている、あるいはますます拡大しているというのが一つの真相でないかと思うのであります。  そこで巨大多国籍企業ということからもう一遍もとに戻りまして海外直接投資の問題に返って考え直したいのでありますが、海外直接投資というのは、うまくあるいは正しくやれば、投資国あるいは投資受け入れ国双方に対して大きな貢献をすることができるわけであります。先ほど申しました資源の開発石油開発、これは、仮に、インドネシア石油の鉱脈があったわけですが、しかし、だれも手をつけなければそれはウエーストであるわけですね。しかし、それがアメリカなり日本投資が出ていって開発することによって初めて経済財になり、インドネシア国際収支貢献し、その経済発展貢献できるということになるわけであります。それから工業部門につきましてはいわゆる技術移転を行うことができる。この技術移転も非常に定義を正確にしなければならぬことであります。つまり大きな石油リファイナリーがたとえばタイならタイに行く。そこに石油リファイナリーができたということだけでは技術移転にはならない。それは技術がちょっとそこへ駐米大使のように駐在しているだけですね。向こう技術を移したことにはならない。エンクレーブ、つまりそこだけがタイ経済と離れて飛び地になっている。それは技術移転にならない。そうでなくて、日本繊維工業が行き、そして労働者トレーニングをやる。あるいは経営者トレーニングをやる。しばらくすると向こう自身繊維工業を起こすことができる。それは、いまのトレーニングした労働者向こうがつくった企業で十分働けるようになる。あるいは経営者もいろんなことを経営を学びましてみずからの資本でやれるようになる。そして繊維産業というものが全部やがてタイ資本であるいはタイ経営でできるようになる。あるいは場合によってはその繊維においてタイにもっと向いたような技術タイ自身がつくり出すというか改善することができる。そういう段階までいって初めて技術移転と言うことができるかと思うのです。そういうふうにいたしますればこれば開発途上国工業化を促進し、雇用をふやし、経済発展貢献するわけであります。私の言ったいまの繊維工業というものから始めて、つまり向こうに向いたもの、そしてそれは向こうで、これはタイですと労働力が豊富で賃金日本に比べて非常に安いわけですから、うまくやれば必ず輸出可能になるような産業であります。逆に日本では賃金が高まり、労働力不足でだんだん割り高で引き合わなくなる。そういうものから順次外国へ移していくべきだ。これを私は日本型あるいは順貿易志向型の直接投資と言ったわけです。  ところがその一つの矛盾は、いまのように技術移転はわりにやりやすいわけです。またそういうものであるから、そして向こうでの波及効果といいますか、技術移転が済むように、向こう自身でその産業が興される。それを私は教師、われわれチューターの役割りだ、こう考えております。ところが技術移転がわりにやりやすいものですから、しばらくすると向こうでみんな習得してしまう。向こうでみずから産業を興される。そうすると日本産業企業が行っているのがもう不必要だ、あるいは邪魔だ、こうなるのですね。そこで私は、確かにそれは教師としての役割り十分成功裏に果たしたのだから、その段階に至ってはタイから引き揚げるべきであろうというふうに考えるわけです。その繊維工業は、タイから引き揚げればその次はたとえばアラブ諸国へ行けるとか、幾らでもまだ歓迎してくれるところはあるのですね。つまり技術移転をやるべき対象国幾らでもまだ世界に残っておりますから、そこへどんどん行くべきであろうというふうに考えております。  それに対してアメリカ型の巨大多国籍企業のやっている方法はどうかといいますと、非常に進んだ、アメリカだけにしかないところの技術を低開発国にも持っていく。先ほどの巨大化学工業もそうでしょうし、あるいは名前を挙げるとやはりいけませんが、いわゆる清涼飲料というもの、これはインド、メキシコでも、水を飲む金さえないところにそういう清涼飲料を売りつけるというのは果たして歓迎すべきことであろうかどうか、非常に疑問に思うのでありますが、そういうものから持っていって、そしてそれが先ほど言いましたエンクレーブになるわけで、決して低開発国技術移転するわけじゃない。またそこでたくさんの雇用をふやして、あるいは低開発国自身がその産業を持てるようにするわけでもない。では何をそういうのはねらっているかというと、そうでないのもアメリカの直接投資にいろいろありますけれども、大筋として、大体においては結局そういう巨大多国籍企業がどんどん大きくなり、その産業においては世界を支配する、アメリカ巨大企業世界生産を支配するということを、これは実態というよりはアメリカ学者どもが言っている意見でありますが、そういう結論になる。二百かそこらの巨大なるアメリカ型の多国籍企業生産が二千五十年かには世界生産の八〇%を支配してしまう。私はそうならぬと思います。いろいろな対抗力ができまして、そのようなアメリカ型の多国籍企業の支配を許すわけではないと思いますが、そういう恐るべき予測さえ出ているわけでありまして、したがって問題としては、そこでそのようなアメリカ型というのは歓迎できないので、これをどう規制するかということを考えなければならないという問題になっている。  他方日本がいままでやってきたような形の海外直接投資は、低開発国工業化を順次高めていくのに非常に有効に働いているわけでありまして、それは歓迎されるべきことであると私は思います。ただ、アジアなどで若干ときに反動が起きましたが、それはどうも日本外貨事情に応じて日本政策対外投資をプッシュしたり、やめたりするという政策が非常に大幅動揺であったということもあり、特定の地域、特定の国へ、また同じ種類の産業がある時期に一挙にラッシュする、オーバープレゼンスになるということから主に起こっていると私は思います。これは何かの方法で、もう少し秩序ある方法で出ていくように考えるべきでありましょうが、しかし全体としては日本海外直接投資あるいは企業進出というのは正しい方向にいっており、低開発国経済発展に対する非常に有効な貢献をしていると私は評価しております。  また後で追加させていただきますが、一応終わります。
  8. 水野清

    水野委員長 どうもありがとうございました。  次に神代参考人お願いいたします。
  9. 神代和俊

    神代参考人 私も、先ほど小島先生が冒頭に提起されましたような、今回のこの小委員会にわれわれが呼ばれた趣旨についてかなり疑念を持っておりましたが、先ほどの御説明で一応納得をいたしました。ただ私は、ほかの先生方と少し専門が異なっておりまして、国際経済とかあるいは企業会計等の専門ではございませんで、労働経済、労使関係の専門という立場から従来この問題にアプローチをしてまいりました。したがって他の先生方とは少し違った角度から問題をとらえてみたいと思います。しかし余り専門に片寄った意見を申し上げても御参考にならないかとも思いますので、私自身が現地の調査等に携わったものを踏まえまして、なるべく一般化した形で総論的な印象を申し上げたいということであります。それと、外務省の方から出されておりますOECDのガイドライン等の資料も拝見をいたしましたが、結局私の全体の意見は、OECDのガイドラインに示されているような考え方の有効性と実行可能性がどの程度あると考えられるのかということを中心にして、少し感想を申し述べたいわけであります。私は三つの点に限りたいと思います。一つは多国籍企業の発生なり発展の必然性あるいはそのメリットはどういうふうに考えられるのかということであります。  二番目は、にもかかわらず、多国籍企業発展に伴いまして、世界各国でいろいろな摩擦が発生しております。その摩擦自身をどのように評価し、理解するのか。  三番目に、そうした問題の解決に当たって、OECD、国連、ILOその他で問題になっておりますようないろいろなガイドラインなり行動基準という考え方の有効性、あるいは問題点がどこにあるかというようなことについて、ごく簡単に申し述べたいわけであります。  第一の多国籍企業発展の必然性なりメリットを考えます場合に、私は、日本の場合にはロッキード等でいろいろ被害者の立場に置かれたように見えますが、同時に、日本企業海外進出も大変に盛んになってきているわけでありまして、そうしたものの経済的必然性なり合理性というもの、あるいはわが国の今後の経済発展にとって、そういうものがどういう意味を持っているのかということを無視した議論は余り適当でないと考えております。恐らく今後の数十年にわたって、わが国企業を含めた多国籍企業というものはさらに量的な発展を見るであろうというふうに考えております。  その理由をごく簡単に申し述べますと、第一は先進諸国における労働費用の急激な上昇であります。これを回避するためには、利潤追求をしている企業体としては、当然より有利な投資機会を求めて海外に出ていかざるを得ない。二番目は関税障壁あるいは非関税障壁、輸入制限、いろいろとありますが、そういうものを乗り越えて市場の確保、拡大を図る必要性というのは、たとえばECに対してアメリカの多国籍企業が進出しなければならなかった事情等から当然に理解できることであります。さらに日本の場合には、今後の経済発展にとって不可欠な資源の確保の必要性という点からも、どうしても海外投資というものはもっと強化せざるを得ないであろう。ただ今日の特徴は、それが平和的な手段をもって実行可能であるし、またやらなければならないということであろうかと思います。  第四の必然性としまして、経済理論で申しますプロダクトサイクル論というような考え方がございますけれども技術の進んだ国で開発された新しいテクノロジーが、時間を置いて次第に日本のようなかつては中進国であった国、さらにそこから開発途上国にと移転されていく過程、それを通じて開発途上国経済発展が促進をされるというこの論理は無視することができない。恐らく今後もそうしたサイクルが繰り返されるごとに新しい形で続くであろう。  第五に、多国籍企業の発生の基本的な理由は、資本及びもろもろの経営資源の国際的な移転を通じて、グローバルな規模での資源の最適配分を促すということであります。特にわが国の場合に、国内における有利な投資機会が次第に縮小をしてきているわけでありますから、今後、国際的な観点でより有利な投資機会を求めて海外に出ていくものが当然にふえてくるであろう。こうした必然性というものを無視したところに感情的な議論というものは成り立ち得ないというふうに基本的に考えております。  しかしながら第二の柱といたしまして、にもかかわらず、わが国企業を含めて多国籍企業海外に出ていくに伴いまして、政治的、文化的あるいは社会的、経済的にもろもろの摩擦を従来伴ってきたわけであります。そうした摩擦が何ゆえに発生してきているのか、その原因を正確に理解をいたしませんと、これもきわめて感情的な議論に流れやすい。従来新聞報道等、いろいろ日本企業の東南アジアにおける所業がよろしくないという形で批判が多いわけであります。もちろん特定の国における特定の個人や企業がやったことの中に少なからぬものがあったとは思いますけれども、そうした個々の企業の悪行が、多国籍企業に対する批判の根本的な原因であるというふうには考えるべきでないであろう。多国籍企業によって引き起こされている摩擦の根はもっと深いところにあるし、したがって解決がそう容易ではないということであります。  この点につきましても、私は個々の問題として挙げるならば五つほどの原因が考えられるのではないかと思います。  第一は、いわゆる国家主権との衝突の問題でございまして、これについてはすでにいろいろな書物に書かれていることでありますが、多国籍企業が巨大なキャッシュフローを操作しまして通貨危機を利用するとかあるいは引き起こすとか、あるいは各国の自主的な金融政策に対して撹乱的な作用を及ぼすというようなことから、あるいは国際的な寡占体として市場支配的な行動をやる可能性があるとか、あるいは先ほども出ましたトランスファー・プライシングとかタックスヘブンを利用した租税上のいろいろな操作が可能である。これも世界に三十カ国あるいは三十カ所以上のタックスヘブンがすでに名前が挙がっておりまして、わが国企業幾つか絡んだ形で名前が出てきておりますが、そうした国家主権との衝突をどのようにして回避するかということは非常にむずかしい問題で、タックスヘブンにいたしましても、タックスヘブンを与えている国もまた国家としての主権を持っているわけでありまして、それを尊重しなければならない。そういう制約の中で一体どういう形の規制が可能か、はなはだしく困難な問題を含んでいると思います。  それから摩擦の原因として考えられます第二の大きな問題は、開発途上国経済発展に対する欲求が非常に強くなってきていて、それが一面で多国籍企業によって助けられながら、逆にかえってそうした機会が与えられることによって不満が助長されてきているという面も見逃すことができないと思います。  先ほども出ましたエンクレーブエコノミーというような、飛び地経済のような形で、多国籍企業開発途上国経済的な発展と必ずしも両立しないような形で、飛び離れた先進的な技術部門を移植してそこで利潤を上げていくというようなことも、基本的には開発途上国自身産業政策のあり方の問題であり、また現地資本の弱体性あるいは商業資本的な前期的な性格というものと切り離しては論じられない問題でありまして、必ずしも外から入っていった多国籍企業だけに原因があるというふうには考えられない。その両面からやはり評価をする必要があろうと思います。しかし、しばしば多国籍企業の進出に伴って、そうしたゆがんだ工業化が引き起こされる可能性なり危険性がかなり大きいということは十分に留意しておく必要があろうと思います。  摩擦の第三の原因は、先進諸国において高度に発達した労働組合運動の既得の利益との衝突という面がございます。これはすでにアメリカのAFL・CIO等が強く主張しておりますような、たとえば一九六六年から七一年までに九十万人の雇用の機会が失われたといういわゆる多国籍企業による雇用の輸出という問題、これも賛否両論いろいろありまして、議論は必ずしも容易でありませんが、労働組合の側から見れば先進国で多国籍企業外国へ出ていくことによって、そうした国内における雇用機会の喪失ということが個々のケースとして現実には発生していることば否定できないわけであります。ただそのトータルな効果との総合的な秤量が非常にむずかしい。さらに労働組合の立場から見ますと、多国籍企業が人員整理とか工場移転ということを世界戦略の中でかなり一国企業に比べて容易に行うことができます。これも容易というのも相対的な意味でありますけれども、特にイギリスとかベルギーで現実に起こりましたケースとしましては、労働争議等が激化した場合に、そうした事態が改善されなければ他国に資本移転してしまうというような威嚇がしばしば行われて問題にされているわけであります。  また、多国籍企業が外に出ていった場合、たとえばわが国でオーストラリアにすでにかなり投資をしておりますが、イギリスでアメリカ特定企業が問題になったようなどぎつい形でなくて、オーストラリアにはアメリカ系の自動車が三社出ており、日本から少なくとも二社が現地で生産している。その場合に、別にわが国から出ていっている企業が、アメリカ企業がイギリスでやったような威嚇をやったことは一度もないと思います。しかしながら、では何も問題がないかというと、そうではなくて、わが国企業が非常にすぐれた技術を持ってオーストラリアに出ていったために、現地に出ている米系の多国籍企業が左前になってきて、そこから雇用不安の問題が発生してくるというような摩擦は、やはり避けることができない形で出てきております。これもやはり問題が非常に多様であるという一例であります。  さらに、労働組合の立場から見ますと、そうした雇用の輸出とか工場移転等を伴うような重要な意思決定が、自分の国から非常に遠く隔たったニューヨークなり東京なりというところの本社で決定をされてしまって、自分たちの交渉力が及ばないところでリモートコントロールをされている、そういうことからくる不安と情報不足に基づくいら立ち、こういう問題の解消ができない限り、疑心暗鬼に基づく批判というのは絶えることがないわけであります。  それから、さらに、そうした摩擦は何も先進国から開発途上国資本が出ていった場合に限りませんで、実は労働面で従来発生しております紛争のマジョリティーは先進国相互間で起こっている。特に、アメリカ資本がイギリスやヨーロッパに出ていった場合、一番近しいはずの米英間でそういう紛争が非常に多いということを無視できないわけであります。この辺もやはり文化的あるいは制度的な違いに基づく紛争の発生が避けられないという一例かと思います。細かい点は後の御質疑のときに譲りたいと思います。  多国籍企業によって生じている摩擦の第四の大きな原因として考えられますのは、特にわが国の場合、多国籍企業と言われているものの中に商社の比重が大変に大きいということと不可分の問題でございます。  いわゆる商権の拡大のためにしばしば現地の特権層との癒着や腐敗の問題が生じておりまして、こういうものは可能性としてどこの国にもある。ただ程度の違いがいろいろあるということかと思います。  わが国経済発展の将来を考えた場合に、商社の持っております総合的な調査力、企画力というものを大幅に活用していかなければならない、あるいは場合によってはその情報力にも頼らざるを得ないというような面があることを否定するものではありませんが、現実には、やはり、この商権の拡大というものに伴って、かなり単純な技術、先ほど小島先生が御指摘になった陳腐化しやすい技術でありますが、そういうものを持ったメーカー、関連企業のようなものを連れてしばしば商社が出ていって、しかも現地で操業する場合に現地の商業資本等とのジョイントベンチャーを行う、そういうことになりますと、これが多国籍企業のあり方として望ましいやり方であるというふうに必ずしも判断できるかどうか。現実にそういう形態をとらざるを得ないことはよくわかるのでありますが、そうしたわが国海外進出の特殊な形態に伴って発生してきている問題もまた無視ができないと思います。  紛争の原因の第五として考えられますのは、以上のような一般的なものを踏まえまして、特にもっと大きな文化的な衝突といいますか、多国籍企業経営資源の全体的な移転を行うに伴いまして発生してまいりますカルチュアショックのようなものがある程度避けることはできない。どんなにガイドラインで規制し、個々の企業が注意をしてやってもなおかつ発生してくる文化的な衝突というのは、言語、宗教、価値観等を異にする国に企業が出ていった場合に、相当程度避けることはできないものでございます。  よくわれわれの専門分野で問題になりますのは、日本経営のトランスポナビリティー、移転可能性という問題でありまして、たとえばアメリカに出ていった日本企業はわりあいに好評なものが多いようであります。ところが、東南アジアに出ていった場合に、同じ企業が出ていっているのに必ずしもそうでない。同じような経営方針なり人事政策をとりながら、一体なぜそうした国別の違いが出てくるのかという大変に厄介な問題がございまして、そういう文化的衝突という次元を抜きにして論ずることはできないのではないかと思います。  さて、最後に、第三番目の柱といたしまして、以上のような認識を踏まえて、多国籍企業に対する規制のいろいろな方策、そのフィージビリティーということを考えてみますと、一言で言えば、今日までいろいろな機関で、国連、OECD、UNCTAD、ILO等いろいろな機関で国際的な議論も行われ、国内におきましても、財界五団体あるいは労働組合の研究集団等から種々の提言が行われております。しかし、そうしたものを比較総合してみまして、今回OECDから出されたガイドラインというものは、恐らく現状で考えられるかなり常識的な、かつそれ以上は言ってみてもなかなか実行のできないものを提示しているのではないかというふうに考えます。  ただ、問題ばやはりそれがどこまでフィージブルか、実行可能かという点にかかっているのではないかと思います。国際的な次元で、ああいう考え方に基づいて、それをさらに進めて二国間協定のような形に進めることに私は全面的に賛成でありますけれども、しかし、恐らくそれだけでは多国籍企業に対する有効なコントロールの手段にはなり得ないであろうと思います。何かもっと補足的な手段が必要ではないか。  補足的な手段としていろいろございますが、ごく簡単に羅列をいたしますと、一つはやはり、多国籍企業の自己規律を強化せざるを得ないようなアトモスフェアをつくっていくということではないかと思います。  たとえばわが国では、労働の分野で申しますと、労働省を中心にしまして、三年ほど前に多国籍企業労働問題連絡会議という、政府労使三者構成による一種の研究調査的な機関が発足をしておりまして、十四カ国についてすでに実地調査を行い、九カ国について実態調査報告が出ております。こうした方式は、これまで各国がとってきた多国籍企業のコントロールのためのアプローチとして見た場合にかなりユニークなものでございまして、私自身アメリカを初め各国のそうした専門家と意見を交換した場合に、特にアメリカの国務省等はこれに非常に注目をしております。こういう三者構成の機関によって、多国籍企業の、あるいは情報の収集ということを含めまして、非常にソフトなコントロールでございますが、これが果たして直接的な効果があるかどうかかなり疑問ですが、間接的に持っているモラルパーシュエージョンといいますか、そうした効果は非常に大きいのではないか。特にわが国世界に先駆けて考え出した方式だけに、今日わずか四千万ちょっとの予算にすぎませんけれども、こういうものは将来もっと強化される必要があるのではないかと思っております。  それから二番目の補強手段として、私はやはり基本的には、多国籍企業と一番利害を面と向かって争うのは、国際的な労働運動であろうと思っております。多国籍企業の巨大な寡占的な力に対するカウンターべーリングパワーとしての、拮抗力としての国際労働運動の持っておる役割りというものを無視するわけにはいかない。すでに国際金属労連、IMFとかあるいは化学のICFでありますとか、全体を集めました国際自由労連、ICFTUでありますとか、そういうものが国連あるいはILOに働きかけまして、こうしたガイドラインの策定に従来もいろいろ力を尽くしてきたわけであります。もちろん労働組合の要求の中に、特に先進国労働組合の中に雇用の問題を中心にしてかなり保護主義的な要求が強まっていることは、わが国の立場として十分に注意をしておかなければならない問題であります。労働組合の言うことがすべて合理的とはとても言い切れないわけでありますが、しかし、国際的な次元でやはり発言力を持った勢力と申しますと、国際労働運動の持っておる役割りを無視するわけにはいかないし、それをある場合には十分に利用すべきであろうと思います。  それから第三は、やはり情報の公開を促進するという、OECDでも言われていることでございますけれども、これは実は現実にわが国でどういう手段をとるかということは、後ほど御専門の先生からも御指摘があろうかと思いますが、非常に困難な問題を多くはらんでいるかと思います。望ましいことであるが、現実にどうやるかという次元になりますと、やはりむずかしい問題であろう。内容については申し述べないでおきます。  それから、もう一つ四番目に、私は多国籍企業の発生に伴って、特に日本海外企業進出に伴って発生しておりますいろいろな摩擦というものを緩和をしていくということはどうしても必要なことであろうと思います。その摩擦を緩和する上でいろいろなガイドラインをつくることも結構でございますけれども、何よりも大事なのは、やはり国の文化的な外交による側面的な援助というものの必要性であります。これは従来アメリカが、たとえばフルブライトという奨学金の膨大なものを持っている。ドイツもエーベルト財団を持っている。最近ではイギリスの雇用大臣が中心になって、労働組合会議、TUCを動かして、そうした国際的な援助プロジェクトをつくっております。わが国もジャパンファンドができましてから少し事情が改善されてきたと思いますが、他の先進諸国に比べて企業が出ていった場合に、先ほど申し上げたような文化的な摩擦というのは、どんなに他の面がうまくいっていても必ず起こる問題であります。そういうものが起こってきたときに、それを緩和するにはやはり国のレベルでの文化的な外交による側面的な援助というものがどうしても不可欠でありまして、たとえば留学生はしばしば重要な役割りを果たします。日本からアメリカに行った留学生でまずアメリカがきらいになってくる人はほとんどいない。批判的な見解を持ってくる人はいるにしても、理解の上に立った批判者であります。ところが従来日本に招かれた留学生はほとんど——特に東南アジアから来ている人々は強い日本に対する不満を持って帰る可能性が非常に多いわけであります。これは別に文部省が従来満足なことをやってこなかったと非難するつもりはないのでありますが、たとえば駒場にあります留学生会館のきたなさを一つとってみても、とうてい巨大なGNPを持った日本にふさわしいポリシーであるとは思えない。そういう人たちがやはり日本海外企業進出にとっては重要な一つのきずなになるのですね。そのきずなになる人たちを満足させるようなことを考えていかなければいけないのではないか。そういう面で文化外交のあり方ということをぜひ御検討いただきたいと思うわけであります。  最後に、国際諸機関によるコントロールの中で、国連やOECDの次元の議論というのはかなり皆さま御注目のことかと思いますが、労働の分野におきましても国際労働機関、ILOにおきまして、ことしの五月に多国籍企業と社会政策に関する三者構成会議というのが開かれまして、労働省からも代表が出ておりますが、そこで多国籍企業のための社会政策に関する国際的な原則の宣言をつくることに意見の一致を見ております。政府、労使の代表の三者の一致を見ているわけであります。この十一月のILOの理事会でこれが承認されますと、それに基づいて具体的な原則の宣言の起草作業に入ることが予定されております。そこで、私は公正労働基準というふうに略称しておりますが、一群の選ばれたILO条約を中心にした多国籍企業の行動基準のようなものが考えられるのではないかと思います。それと国連の予想されておりますガイドラインとの関係が非常に微妙な問題として提起をされておるわけであります。その辺に、ぜひ御注意をいただきたい。  以上でございます。
  10. 水野清

    水野委員長 どうもありがとうございました。  次に、一ノ瀬参考人お願いいたします。
  11. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 私は、多国籍企業に対する規制の制度的確立と情報入手体制の整備の必要性という問題について意見を述べてみたいと思います。  多国籍企業活動につきましては、受け入れ国の方の国民経済やあるいは政治的民主主義、あるいは政治、経済的主権、こういう問題にゆゆしい侵害が起こり得るので、これを自由に放任しておくことは許されない。弊害を防止するためには何らかの対応的措置を講じなければならないということが今日では国際的な共通の認識になりつつある。先ほどからの小島先生の御意見やあるいは神代先生の御意見によりましても、アメリカの多国籍企業に対する何らかのコントロールが必要であるというふうにお述べになっておられるわけでありますけれども、そのように今日では野放しにはできないというところに来ておるわけであります。  先週十六日付の朝日新聞の夕刊によりますと、例のアメリカ外交委員会国籍企業委員長のチャーチ氏が、ハーバード大学で開かれた東アジア会議での講演の中で、ロッキード社の賄賂商法というものを厳しく批判するとともに、多国籍企業の行動を規制する立法の必要性、特別の立法による規制ということを強調したというふうに伝えられております。  ここで問題になりますのは、二つの対立する立場がある心一つは、神代先生もお触れになりましたが、コード・オブ・コンダクト、行動規範、あるいはガイドラインといったものを作成して、多国籍企業の自発的自己規制に期待するという立場と、もう一つは、各国で特別の立法措置、これには既存の諸法律の改正ということも含むと思いますが、こういった措置を講じて強力な法的規制あるいは監視の制度的体制の整備、確立を行うか、この二つの原理上の対立といったことが問題になってくると思うわけであります。  委員会事務局からお送りいただきました本年六月のOECD閣僚理事会で決定、採択されました国際投資及び多国籍企業に関する宣言及び同付属書であります多国籍企業のガイドラインというのは、いわば前者の立場をとっておりまして、このガイドラインを多国籍企業が遵守するよう勧告するということであり、法的規制を目指すものではないといった性格のものであります。このガイドラインの第六条には、はっきりと、「行動指針の遵守は、自発的なものであり、法的に強制し得るものではない」というふうに明記されているわけであります。また、事務局からいただきました国連の文書を見ましても、やはり多国籍企業の腐敗行為、こういうものに対してどういうふうに防止していくかということが現在作業されておるようでありますけれども、やはりこの国連の方式を見ましても、コード・オブ・コンダクト方式、行動規範を提起しておりまして、これがどういうふうに扱われるかが問題でありますけれども、もしOECDと同じように、法的規制によらずに多国籍企業の自発的自己規制に期待するというものであるならば、やはりその効果は非常に疑わしいというふうに考えるところであります。  こういったガイドライン方式に原理的に対立する考え方を示す典型的な一つの例は、一九七二年四月の第三回国連貿易開発会議、UNCTADで、メキシコのエチェベリア大統領が提案しました経済権利義務憲章というのがありますが、それの第二章の第二条、ここは「天然資源の恒久主権、民間投資、多国籍企業」について規定をしておるわけであります。  これは全文読みますと長くなりますが、その趣旨は、国際的規制というよりも自国の国家管轄権及びその範囲内において外国投資を規制し、それに対して権限を行使する。その場合に、やはり規制、監督ということが問題になっております。そして、多国籍企業が「国家の法令及び規則を遵守し、かつ自国経済社会政策に合致することを確保するための措置をとること。」これはガイドラインというのではなくて、規制、監督という見地からそういう問題を提起しているわけであります。  さらにその(C)項では、特別な場合には「外国人資産を国有化し、収用し、又はその所有権を移転する」という問題が提起されております。ただし、この場合には、いわゆる無償収用ということではなくて、「妥当な補償を支払わねばならない。補償問題で紛争が生じた場合は」、その紛争は当該国すなわち「国有化した国の国内法にもとづき、かつその法廷において解決されなければならない。」これはラテンアメリカ諸国ではいわゆるカルボ原則ということで一般化されておる考え方であります。国有化問題については関係国が平和的手段でこれを解決していくべきであるということを提起しておるわけであります。  このエチェベリア大統領が提案しました憲章の見地というのは、決して社会主義的な立場というものではなくて、あくまで民族の主権を守っていくという意味で、民主主義的措置の範囲で、そういった性格を持った形で提起をされておるものというふうに考えられるわけであります。  以上のように二つの見地があるわけでありますけれども、こういったガイドライン方式あるいは規制、監視という方式の立場の相違の底には、多国籍企業の基本的特質あるいは性格、役割り、機能、行動、これをどのように見るかという認識の基本的相違というものがあるわけであります。この問題は、単に多国籍企業の本性が善か悪かといったようなことだけにとどまるものではなくて、多国籍企業そのもののメカニズム、客観的なインパクト、こういったことの検討の上にいま言った問題が提起されているというふうに思うわけであります。  さきに紹介しましたチャーチ氏の多国籍企業の行動を規制する立法の必要性の強調の底には、やはり特別の立法的措置を講ずることなしには、多国籍企業活動をコントロールできないという考え方があり、そこには多国籍企業についての客観的な認識というものが背景になっておるというふうに考えるものであります。もちろんチャーチ氏の場合はアメリカの多国籍企業の規制でありまして、多国籍企業が出ていく本拠になっている米国における規制が問題になっておるわけであります。私どもが問題にいたしますのは、日本に入ってくる外国の多国籍企業の規制及び日本から出ていく日本企業の多国籍的活動の規制というふうな両面があるわけでありますけれども、多国籍企業受け入れ国としても、チャーチ氏と同一の基本的認識を持っても一向に差し支えないというふうに考えるものであります。  第二の問題としまして、多国籍企業のコントロールをめぐりまして、ナショナルコントロール、それからインターナショナルコントロール、その中間のものとしてリージョナルコントロールといったような問題の議論がございます。  国際規制の方式につきましては、国連経済社会理事会におきましていろいろな方式が提案されているわけであります。たとえば各国あるいはいろいろな機関でつくられた種々のガイドラインあるいは行動規制、これを多国間交渉を通じて憲章に仕上げていく、この憲章を管理するための国際貿易機構、インターナショナル・トレード・オーガニゼーションといったものを設置してこれを実行していくといったような考え方でありますとか、あるいはガット形式を踏んだ多国籍企業に関する一般協定、こういったものをつくり、さらにこの協定を実施するために調査権と勧告権を持つ機関を国連あるいはその他のところで設立するといったような方式でありますとか、あるいは世界企業法といったものを制定して、特定の行動規範等々の条件を遵守することを約束した企業世界企業として国連内の機関で登録するといったような考え方とか、いろいろな方式が提案されてはいるわけであります。  こういった国際的規制につきましては次のような批判があります。  アメリカのエール大学の講師で、あるいは元国務省顧問をしておりましたバーネットという人と、ワシントンのアメリカン大学の教授であるミュラーという人が共著で出しました「グローバル・リーチ」という本がございます。これは「地球企業の脅威」という訳名で日本でも出ておるわけでありますけれども、その中で次のように述べられているわけであります。   国際機関による地球企業の規制は、一応もっともで、進歩的に聞こえる。つまり国際的な政治機構を設け、地球企業に対応および対抗する勢力とすることはできないか、というわけである。もちろん、その場合に問題となるのは、既存の国際機関、あるいは将来にさし当たり予想される新設機関がいずれも弱体で、巨大企業を規制できそうもないことである。それを、いかにもできるかのごとくいうのは、規制の“体裁”だけで妥協し、実態をおろそかにすることにほかならない。実際のところ、企業の観点からすれば、内国歳入庁や独占禁止局のような古くさい“一国機関”による規制から逃れる最良の方法は、実施不可能な広い権限とわずかな予算の国際機関に、規制任務を肩代わりさせることであろう。 多国籍企業にとってはそれの方が都合がいいだろうという意見であります。  さらに、これに続きまして二人は次のように言っております。   逆説的だが、筆者らの考えでは、効果的な国際規制を行なうには、まず各国の政府や地方自治体にそれぞれの管轄地域を治めていく能力を回復させることが前提になる。各国が主権の衣を脱ぎ捨てた場合、そのあとに建設されるのは、見かけ倒しの危険な国際主義に過ぎない。こういった批判をしておるわけであります。私は、国際的規制そのものが全然無意義であるといったような考え方を持っておらないわけでありますけれども、やはりこの著者たちの考え方と同じように、まずその前提になるのは、やはり各国がまず一国内で単に多国籍企業のみにとどまらず、国内の巨大会社、トラストの独占的行為あるいは不正行為、反社会的行為、こういうものが十分に規制できる体制を持つということと並行しつつ多国籍企業に対する規制を行うということでなければ、やはり絵にかいたもちにすぎなくなるのではないかというふうに考えるものであります。  具体的な方向としましては、やはり国内巨大企業、独占企業集団に対する反独占的その他の規制と多国籍企業に対する規制というのは、当面まず異なった平面ではなくて、独占禁止法体系といったことを基本にしつつ、やはり同一平面の上で行わるべきではないかというふうに考えるものであります。  では、具体的にどのように規制と監視を行っていくべきであろうかという問題になるわけでありますけれども、当然のことながら、これは現行の憲法体系の枠の中で実現可能な規制と監視の制度的確立ということが前提になるわけでありまして、それ以上のことは当面は問題となり得ないと考えるものであります。  その場合の検討の素材となりますのは、事務局お願いいたしましてお配りいたしました一九六八年にカナダ産業構造特別委員会の報告、ワトキンス報告というのがございます。それの第II部の第IV章ということになりましょうか、「情報の利用可能性」という項がございます。ここでは多国籍企業に関する情報政府その他がどのように入手していくかという問題が具体的に述べられております。これは独占禁止法を初め証券取引法、会社法あるいは税法等々の現行の法律の改正及び特別の立法措置を講じて、特別の機関を設立していく問題等々が提案されているわけであります。この報告の最後の第V部の「提案」のところに具体的な措置が提起されておるわけであります。これらもこの委員会で御検討いただければ非常に幸いだと思うわけであります。ただ、このカナダのワトキンス委員会の報告の考え方でありますが、これは七二年には、さらにグレー報告という非常に膨大で詳細な報告が出ております。非常に大きいものですからきょうは持ってこなかったのでありますけれども、これも基本的にはワトキンス報告の延長線上のものだというふうに考えるわけでありますが、いずれにしてもカナダでの考え方は、ガイドライン方式ではなくて、やはり規制という立場というふうに考えるものであります。しかし、ここで提案されておる見地あるいは方式というものが必ずしも明確なものではなくて、幾らかあいまいな部分が存在しておるわけであります。カナダにおきましては産業経済における外国資本、とりわけ米系の多国籍企業の浸透というのは非常に深いわけでありまして、構造的にカナダの産業経済というものが多国籍企業によって左右されるような構造になっておる。そこから、ワトキンス報告を見てもわかりますが、単に規制にとどまらなくて、多国籍企業子会社の所有そのものを問題にせざるを得なくなっているわけであります。ただし、これは国有化とかなんとかいうのではなくて、カナダ開発公社というものを設立して、外国資本に対して少数持ち株参加をして経営情報を入手するとか、場合によっては企業の買い取りを行っていくといったような苦肉の策が提起されているわけでありますけれども、いずれにしても情報の入手につきましても非常に厳しい、強力な立法をつくらなければいけないということはここで強調されておりますので、参考になるかと思います。  委員長、時間はいいですか。
  12. 水野清

    水野委員長 どうぞ。
  13. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 では、わが国においてどういうふうに考えればいいだろうかという問題でありますけれども、時間がありませんので具体的にはいま展開できないわけでありますけれども、独占禁止法の改正を初め税法、証券取引法、外資法その他の法改正を行って、多国籍企業に対する情報の公開義務あるいは報告義務というものを再検討して、それを整備していく必要があるだろうというふうに考えるわけであります。ワトキンス報告では、特別の機関というものを特別の立法によって設立すべきだ、そしてその任務はこれこれということが出されておるわけでありますが、わが国においては当面まず公正取引委員会の権限を強化して、情報入手、監視、調査、規制といったような権限をここに与えていくということが必要かと思います。ところが現実のこの数年来の動きを見ますと、むしろ逆で、公正取引委員会の権限が弱体化しているような印象が感じられるわけでありますけれどもアメリカ状況を見ますと、上院の法務委員会の反トラスト・独占委員会の一連の公聴会、調査報告、こういうものは全部公開されております。これは単に一般的な数字、データに加工されたものではなくて、個別巨大企業の非常に詳細なデータまで追及をして、それが公表されているわけであります。これは国民的監視という見地から見ましても非常に重要でありますが、さらにこれと並行しまして連邦取引委員会、FTCのスタッフの膨大な調査報告が出ておるわけです。六九年に出されました会社合併に関する経済報告、これはアメリカのコングロマリット合併に関する研究では不可欠の基本資料になっておるくらいであります。わが国経済研究者の中では、日本ではどうしてこのようなことができないのだろうかというふうに非常に残念がっているような状況があるわけでありまして、やはり独立的機関としての公正取引委員会の権限強化及びスタッフ、人員の増強、予算の裏づけ、こういったことが当然考えらるべきだろうと思います。場合によっては公正取引委員会だけでできないような問題が考えられるかもしれないわけでありますので、その場合にはカナダと同じように特別の立法による特別の機関、こういったものが必要になってくるだろうと思うわけであります。  もう一つは、国会の国政調査権に基づく国会の中の何らかの委員会、本委員会のようなところで、多国籍企業日本子会社及び日本企業の多国籍活動についての調査及び規制の方向を考えることが必要であろうと思いますが、その場合に、国会のこういった委員会と公正取引委員会との間の任務、権限の分担というものが画定されることが必要であろうと思います。  時間を大変超過いたしましたが、日本企業海外進出の問題につきましては、これは海外での活動日本の対外関係、たとえば発展途上国との真の経済協力でありますとか、あるいは政治的友好関係を損ねるといったようなことが起こり得る可能性、そこから監視、規制が必要だというだけではなくて、やはり価格操作でありますとか、あるいは税回避でありますとか、あるいはその他いろいろな一連の問題、通貨投機も含めまして、やはり日本経済及び社会生活の安定的発展、こういったことにも関連をしてくるという意味で、やはりこれの規制、監視ということが必要になるだろうというふうに考えるわけであります。  それから、この規制の範囲につきましては、これは小島先生もおっしゃられましたように、国際収支に対する影響でありますとか、あるいは貿易収支に関する影響、通貨問題、それから信用、価格操作、さらに国際カルテル行為、これについても述べたいのでありますが、時間がありませんので、後ほど時間があれば補わさせていただければ幸いでありますが、技術移転問題、それから会計情報、これはまた、吉田先生が詳しく述べられると思いますのであれですが、税制、労働、社会、さらに政治の問題、あらゆる分野にわたっております。あるいは便宜置籍船のような分野の問題もございまして、高度の専門的知識を要するわけでございます。しかも、国際的なマンモス会社、こういうものを相手にして勝負をしていかなければならないのでありますので、十分に御検討いただきまして、有効な制度が確立されますよう、心から期待いたしまして、まずい報告を終わらしていただきます。
  14. 水野清

    水野委員長 どうもありがとうございました。  次に、吉田参考人お願いいたします。
  15. 吉田寛

    吉田参考人 吉田でございますが、いますでに三先生から総論並びに各論にわたって、大変内容のある御報告がございましたので、私の場合は、自分の専攻が国際会計論でございますので、それにかかわる範囲で報告をさせていただきたいと思います。  まず、環境状況といたしまして、私はこの八月にアメリカの会計学会に出席をいたしまして、そこで多国籍企業をめぐる会計問題に関するセクションを初めて創設いたしました。これを創設するまでには、準備行動を起こしてから、アメリカにおいても十年かかりました。  その中で、きょう皆様方の方に御配付願っている資料がございまして、それはアンソーベン教授がそのときに報告いたしました「多国籍企業の第三世界に対する社会的、政治的影響とその会計的な意味」という内容のものでございます。これについては直接触れることはできませんが、そういうものに参加した結果として、現在私が持っている印象なり考え方なりを中心に報告いたしたいと思います。  まず最初に、多国籍企業の問題は、何といっても政治が経済によって試されているということであろうかと思います。アンソーベン教授ペーパーにもございますが、経済は進歩したが、政治は百年変わっていない、こういう問題がございます。これはナショナリズムとインターナショナリズムという形の対立として取り上げることも可能でございますが、もっと根本的に、われわれ人間の地球的な規模での活動の理念なり技術なり、そういったものが根本的に変化をしている、こういう認識に立たなければならないだろう、こう思うわけでございます。  まず、一九五七年にEECが誕生いたしましたときに、その一つの理由といたしまして、アメリカの多国籍企業のヨーロッパ経済に対する強力な進出に対する対抗という問題がございました。そこで、地域経済主義、リージョナリズムというものによる対応というものが見られたわけでございますが、そういう枠をさらにまた超えて、現在第三世界に対する先進国の多国籍企業役割りというものは、よきにつけ、あしきにつけ、非常に大きいものがございます。  その中で、まず多国籍企業に関しましては、私はこれはもはや後戻りすることのない必然的な方向であるという位置づけをしております。したがって、そこに残されておるのはそれに対する対応策であるということでございます。この対応いたしますときに、問題は先進諸国と発展途上国との関係をどうするかという問題でございます。多国籍企業が演じております役割りは、単純に経済的なものではなくて社会的、文化的、政治的なシステムを第三世界にあるいはそれ以外の進出国に移していくということでございます。したがって、経済問題としてのみ論ずることはできない、ソシアルシステムの問題として取り上げなければならないというのが私の受けとめ方でございます。  そこで、まず多国籍企業のビヘービアというもを考えてみますと、そこには三つのタイプがございます。一つは、あくまでも本国中心の考え方でございまして、ドメスティック・オリエンテードという言い方をしておりますが、日系企業であれば、日本というものを中心にしか行動を起こさないということでございます。その反対にあるものは、全く国籍を無視いたしまして、無国籍企業とすら表現される企業のビヘービアでございます。これは現実にはそんなに多くございません。現実に存在しておりますのは、この両極端の真ん中でございまして、ポリセントリックという表現を使っておりますが、多極的な多国籍企業とでも申しましょうか、そういうものでございます。それで問題を起こしておりますのは、ドメスティック・オリエンテード、つまり本国志向型の多国籍企業であろうかと思います。  その場合に、まず経営上の問題としてどういうことがあるかと申し上げますと、所有と経営との関係がございます。私が行きまして調べました日系の在米法人の中でも、一〇〇%子会社であり、一〇〇%のマネジメントを握っているというのがございます。そういう企業につきますと、まず社長は日本人であるということでございます。経営権も本国、日本の本社からの一切の指示に従う、こういうことでございます。こういう企業が全く受け入れられていないということでございます。そして、他のある日系企業につきましては、一〇〇%子会社ではなくて若干の持ち分は現地に任してある。それから経営者につきましても現地人をかなり高いレベルに登用していきます。まあ、その企業のケースにおきましても、社長は依然日本人であったわけでございますが、本来の志向といたしましては、アメリカにおける日系企業であれば、そこの社長をアメリカ人にするといったような、一つのサンプルでございますが、そういったような方向が望ましい。そして、所有による支配を排除し、経営権を確保するというタイプが現実的であろうかと思いますが、この経営権を確保するといいますのは、先ほど小島先生の御報告にもございましたが、チューターとしての役割り、指導者としての役割りを果たすという機能が一つございます。そういう形で多国籍企業を展開しなければならない。その場合に、価値観の相違というものが抜きがたいものでございまして、日本人の考え方を外国にそのまま強制する、あるいはアメリカ人の考え方を外国にそのまま強制するというようなやり方は全く好ましくないわけでありまして、そこに一つの摩擦を生ずるわけでございます。  次には経営形態で、単なるマーケティング戦略の拠点としての企業という形では十分に受け入れられない。これはニューヨークにありますコンファレンスボードというのがございますが、経営問題の調査研究教育機関でございますが、そこでも話しました中に、現地化を完全に行うということが今後必要であるという意味においては、経営権の大切な部分は握っておるとしても、他はすべて現地に任すべきである。そして単なるマーケティング企業でなくて、現地生産、現地の中での雇用、こういう形でアプローチすべきである、こういうことでございました。それに対しては、日本の多国籍企業アメリカ系の多国籍企業に若干おくれているのではないかというアメリカ人の意見でございました。真偽のほどは十分データを見なければわかりませんが、一応意見として反映されております。  そこで、私としては、そういういろいろな問題を抱えました多国籍企業をどういうふうに管理していくべきかという問題について若干次に申し上げたいと思います。  まず多国籍企業につきます貢献とその罪悪というものを明らかにしなくてはならない。それにつきまして一つの手だては、情報開示制度の中に、現地に対してどれだけ貢献をしたかという一つの評価レポートを出すわけでございますが、お配りしました資料の中に、後日見ていただきますと載ってございますが、現地に対する付加価値生産にどのように貢献をしたか、現地の資本収支に対してどのように貢献をしたかという一般勘定での問題、これをその源泉を明らかにして公表すべきである。それから資本勘定におきましては、その所有関係それから金融関係を貸し方といたしまして、つまり源泉といたしまして、借り方ではそうした投資が資産の形でどのように展開されているかということを明らかにすべきである。こういうのも一つの提案として、情報開示制度として必要であろうかと思っております。  次には、社会監査の導入ということを特に多国籍企業の場合には望まれます。この社会監査につきましては、それぞれのホストカントリー、多国籍企業を受け入れておる現地国におきまして、多国籍企業が従うべき監査基準を明らかにする。そして単なる財務上の情報の公開だけでなくて、社会的な諸影響に関しても報告をさせる、それを監査する機関として独立のCPA、公認会計士を使うなり、あるいは政府機関の監査人がそれを監査するなりいたしまして、その国に対してどのように貢献し、どのように悪い結果を与えておるかということを明らかにすべきである。一つの例としては、インドにおきまして事実、政府機関による多国籍企業監査が行われている、こういうことでございます。同時に、その監査の対象となるインディケーター、指標を選択する必要がございます。そこで、ソシアルインディケーターとわれわれは言っておりますが、その国の社会福祉に対して貢献した程度を明らかにさせるということでございます。こういう報告制度が情報開示制度の中で強く望まれるのではないかということでございます。  そして、外部環境に対する問題については、さらに直接的な規制の方法も必要であろうかと思うわけでございますが、それは多分に行政的あるいは政治的課題でございまして、私の専攻上は若干外部に属する事柄でございますので、深く申し上げることは差し控えたいと思いますが、やはり明確に確立しなければならない概念がございまして、それは、現在国際的にもわれわれの分野では確立をしつつある社会的アカウンタビリティー、ソシアルアカウンタビリティーという概念がございます。この概念はラルフ・ネーダーが実際に使っておりますが、企業の社会的責任を具体的に勘定、アカウントの上で明確にせしめるということでございます。このためには会計の内容を改める必要がございますので、最近は社会会計を企業の中に導入するということを行っておりますので、企業社会会計という形で、多国籍企業の現実の行動を情報化するように期待したいと思っております。  そしてさらに、多国籍企業問題につきましては、これがひとり先進資本主義国、日本を含めました先進国の課題であるだけではなくて、特に多国籍企業問題というものを十分に利用しようとしておりますのは、東ヨーロッパあるいはソビエト・ロシアのようなソシアリズムのもとに存在している国家でございまして、そこではガバメント多国籍企業といいますか、政府の多国籍企業、こういうものが現実に存在をしておるということでございまして、この多国籍企業問題は、ソシアリズムであるかキャピタリズムであるかという問題を超えておるということを確認しておきたいと思うわけでございます。具体的な例としてユーゴの市場経済体制の導入、ユーゴにおける多国籍企業の活用という問題が挙げられておりますが、こういう事実にも照らしまして、私は多国籍企業問題を前向きにとらえていきたいと思っております。  そして何よりも、この問題に対して対応する人人の姿勢というもので、これに違う一つのファクターがございますが、これはアメリカにおきます政治に対するアプローチは、ムーブメント、運動がその伝統をなしているということでございます。  先般ニューズウイークという雑誌にも出ておりましたが、ドイツ並びに日本では投票率というのは八〇%から九〇%である。アメリカの場合は一九七二年に五五%である。その理由として、本来選挙で意思表示をするよりも運動を通して政府に影響を与えるということの方が、黒人解放以来ずっとアメリカ社会の一つの社会的価値観の選択のための行動であるということを言っておりましたが、それに対して日本の場合には、現実にそういう運動というものはアメリカのような形で根づいていないのではないかと思うわけでございます。この一つの例でございまして、その社会を構成している価値観の発展に対して、どういう手段で具体的な行動がとられるかということを見ておかないと、多国籍企業に対する対応策を誤るのではないかという意味におきましては、先ほど一ノ瀬先生から規制の方法についてかなり詳細に御意見開陳がございましたが、これも単なる立法主義に依存することは危険であるというふうに私は理解しております。まず自主規制という形で試してみる必要がある。そして、その上に立って、矛盾がなお存在する場合に強権的な措置というものが考えられるのではないか、こういうふうに思っております。  時間が二十分でございますので、この程度で発表を終わらせていただきまして、後で御質問のときにまたいろいろお答えしたいと思います。
  16. 水野清

    水野委員長 どうもありがとうございました。  以上で各参考人意見開陳は終わりました。     —————————————
  17. 水野清

    水野委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。石井一君。
  18. 石井一

    石井委員 自民党の石井でございます。  大分時間が延びまして、時間がさらに短縮されてきたようでございますが、私、与党でございますし、ごく基本的な問題についてお伺いをいたします。  その前に、非常に見識のある御意見を四先生ともに発表されまして、特に具体的な今後の改善策等々についてのお言葉もございました。先生方が多国籍企業の特別な委員にでもなっていただいて、法案をまとめていただければ、たちどころに世界の標本になるんじゃないかな、こういう感じさえいたしました。  そういうことはあれといたしまして、ロッキード問題等で賄賂商法であるとか、あるいはまたアジェンデ政権の転覆というふうな、ITTの問題等々で、多国籍企業の各国における行為が国際世論の中で犯罪性を追及される、こういうふうな風潮を見せておることはまことに遺憾でありますが、最初小島先生に私はお伺いしたいと思うのでございますけれども、多国籍企業というのは、賄賂商法なり政府転覆を企てるような不当な活動をする、そういう本質的な性格があるものなのかどうか、メリット、デメリットの両方をお述べになりましたけれども。それからまた、仮にそういうふうな行為がないにしても、独禁法や税法や外為法等々、幾多の問題が常につきまとって、結局はこの経済活動を野放しにしておるということは、基本的な問題が含まれておるのかどうか。この点をまずお答えいただきたいと思うのです。
  19. 小島清

    小島参考人 神代さんその他のお話に私はいろいろ異論、反論があるのですが、それは別として、恐らく問題は、この小委員会一体どういう問題を今後検討したらいいんだろうかというようなことが今回の中心目的でないかと思います。したがって、そういう意味で少しホットな問題にも、私個人として、あるいは学者として自由な態度で発言させていただきたいのであります。そういうものについて議員先生方がどういうお考えを持たれるのか、私どもの研究にも非常に役に立つので、むしろそちらの御意見を承りたいと思います。  まず私どもの同僚で、ロッキードというのは、正確に言うと多国籍企業でないというような意見を出した高名な学者がいるわけであります。しかし私は、販売活動だけやっている、販売拠点世界じゅうに持っているという体制の会社でも、これは多国籍企業だ、またロッキードは事実巨大な会社でありまして、私の言う巨大多国籍企業に当たります。  要するに問題は、私の知る限りでは、ロッキードあるいはその他の航空機会社は、もちろん海外でも生産した方が安くつくわけでありますし、したいのでありますけれども、軍事機密ということから、多分アメリカの法律によって海外生産することは許されていない。だから海外生産はやらないわけでありますが、その性格は明らかに巨大多国籍企業であると私は理解しております。  問題は、やはり対抗力といいますか拮抗力——拮抗力は労働組合だけではないわけなんですけれども、拮抗力がない場合には、市場の不完全性がいろいろある、それをうまく活用してその企業の成長を図るというのは、これは企業としてやむを得ないといいますか、企業本来の活動であるように思います。  そこで日本のケースを見ますと、後の方で規制の問題が出てくると思いますけれども、私は日本が外資規制をやったのは、これは非常にうまい、あるいはすぐれたやり方であったと思うのですね。つまり、それは外国からいろいろ非難されておりますけれども、要するに入ってくるところで選択する、これはもうやむを得ないことだ。入ってきてどういうビヘービア、行動をするかは、逆に言って、これはまた規制のしようのないことだ。入ってきた以上は、自由にさせるよりしようがないと私は考えております。  大体それでうまくいったわけですが、どういうわけか、たとえばまず自動車の問題にしろ、あるいはその次の電算機の問題にしろ、必ず対抗力をつくりまして、入ってきても勝手な行動ができない体制にした。そしてその外資の流入をだんだん自由化してきたわけですね。現在の低開発国にも勧められるのは恐らくそういう方法であるべきだと考えます。しかし、入ってきた以上は自由にさせるよりしようがない、またその取り締まりのやり方もないわけです。  非常に残念に思うのは、どうして航空機産業についてわれわれは対抗力を持たなかったのか。つまり、そういうロッキード事件が起こった根本的な原因は、日本対抗力がない、そしてアメリカの数社に世界の航空機生産、また販売の独占あるいは寡占を許したということでないかと思うのであります。  ですから、われわれとしてあるいはこの委員会としてお考えいただきたい問題は、対抗力をつくる、そのために日本の航空機産業をどうやって振興するか。これはもちろん軍需機の意味ではありません。ジャンボ機一機が二十万トンのタンカーよりちょっと安いぐらい、大変な大きさですね。そして将来の日本の輸出品と考えますと、一番有望なのは民間航空機の輸出であるのですね。そういうように思うわけですね。お答えになったかどうか知りませんが……。
  20. 石井一

    石井委員 善悪両面がある。またそれは企業の立てかえ等々でやっていけるのじゃないかというふうなお考えじゃないかと思います。  私自身の質問自体も少し極端ですからその程度にいたしまして、神代参考人と一ノ瀬参考人にお伺いしたいのですが、これはまた非常にマクロな問題ですけれども、こういう企業が非常に世界的な規模で大きな資本を持って経済活動をやっておる、世界経済に非常に寄与しておるというふうにも見えるけれども、その反面、何か資本主義体制というふうな、自由主義経済というものに対して、結局は非常な不安定要素をもたらすような役割りなり行動を結果的に現実に果たしておるのじゃないかな、極端な言い方をすれば、そういう体制を支持されない人々から見れば、こういう企業の進出というものはかえって非常に結構じゃないかな、こういうことすら言えるのじゃないかな、こういうふうなことにも思うのですが、この点に対しまして簡単で結構ですから、何か御見解があればお伺いしたいと思います。
  21. 神代和俊

    神代参考人 むずかしい御質問なんでどういうふうに答えていいかちょっとあれなんですが、多国籍企業国際経済発展にとって基本的に貢献をしているという事実は、先ほど私冒頭に申し上げたように認めなければならないし、またわが国企業もそうした意味世界に受け入れられる必要があるというふうに考えておりますが、にもかかわらず、先ほど申し上げましたようないろいろな理由で外国企業が出ていった場合には当然一定のトラブルは発生してくるものであって、その中にたまたま今回の事件のような、政治的な構造の方にむしろ主たる原因があって生じた腐敗事件等に巻き込まれることもあろうかと思います。多国籍企業というものは、本来そういう汚職と切り離せないものだというふうに考えるのは私は適切ではないと思っております。そういう場合もあり得るということで、問題はやはりその国の政治構造のあり方の方に問題があるわけでありまして、それをいかにして正すかということが、これはおのずから別の問題であろうと思います。にもかかわらず、多国籍企業のもたらしてくれる新しい技術とか経営上のノーハウとか、そういうものがその国の経済発展にとって有効であるならば、その国の自主的な判断においてそれを進めるべきである。ただ、わが国のようなかなり経済的な意味では高度にそうした力を持っている国の場合は、小島先生もおっしゃいましたように余り問題がいままでなかったかと思います。政治的以外の部面ではなかったかと思いますが、開発途上国にまいりますと、必ずしもその国の産業政策そのものが確立しておりませんし、経済発展の方向そのものが見定められていない、そういうところにたまたま求められて入っていった技術が本当にその国の経済発展に適切なものかどうかということは絶えず問題になり得るだろう、そんなふうに考えております。
  22. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 ただいまの御質問に関連しまして、多国籍企業の性格は本来善か悪かという議論の立て方は誤りである、多国籍企業の中にはいいものもあれば悪いものもある、だから一律に規制するという考え方は間違いではないかという意見と、それからもう一つは、規制という方式をとった場合には、外国資本が入ってこなくなる。その場合に外国の優秀な技術だとかいろいろな経営支援等々も入ってこなくなった場合に、その国の経済成長に悪影響を与えるのではないかといったような見地から、規制方式に対して反対する見解があります。これは名前を挙げると悪いんですけれども国連の有識者グループにわが国から参加しておられる高名な先生は、そういうふうに問題を出していらっしゃるわけであります。ただいまのロッキード社のような非常に多国籍企業が悪意ある行為をするかどうかといった議論もあるわけでありますけれども、私は最小限次のような点を少なくとも考慮すべきではないかと考えるわけであります。  まず多国籍企業の本来の活動のメカニズムでありますけれども、これは小島先生最初に申されましたが、やはりスケールメリットというものを多国籍企業が追求するわけであります。各国にその海外子会社を無数に配置をして、そこで生産販売行為をやっていくわけでありますけれども、その場合に決してフルライン、一貫生産体制をそこへ移していくのじゃなくして、その一部分だけを持っていく。各国で企業内国際分業というものをやっていくわけであります。これはIBMの場合でも、イギリス、フランス、西ドイツあるいはその他の国に、一つは電算機の機種をそれぞれ限定をしますと同時に、決して材料、部品から完成品に至るまでの生産ラインをその国に持っていかない。イギリスで二工場ございますが、そこで電算機を組み立てる場合に、その部品はフランスとか西ドイツでつくったものを持っていく。それから西ドイツやフランスで組み立てる機種にはイギリスその他でつくった部品を持っていくといったような仕組みになっているわけです。そして最高級の大型機種については外国ではつくらないで、アメリカ本国から輸入しなければならないといったような仕組みになっております。この場合には、いわゆる企業間の部品あるいは材料あるいは完成品の企業内取引というものがそれぞれの国の輸出、輸入を構成するわけでありますが、こういった方式は、フォードの場合でも、あるいは韓国や台湾、香港、シンガポール等々における電子工業なんかの場合も、すべてこういった方式をとっておるわけであります。こういった場合には、多国籍企業企業内取引がその国の輸出入を大きく左右するわけでありますし、これはアメリカ本社が決定するわけであり、それぞれの多国籍企業の進出先の国の貿易統制その他をうまく乗り越えて動いていくわけでありまして、これは資金操作を含め、あるいは多国籍企業が通貨ヘッジ、通貨の動揺した場合にヘッジ行為をやるわけでありますけれども、一斉にいろいろな企業がやりますと、これが通貨に対する為替コントロールを掘り崩していくといったような機能を持ってくるわけであります。そういうようなことが一つございまして、やはり経済主権を侵していくという問題が出てきます。  さらにカナダのような場合になりますと、基幹産業のほとんど七〇%とか八〇%が外国資本によって、とりわけアメリカ一国の多国籍企業によって支配されていくようになります。これがいま言ったような国際分業方式でやります場合には、その国の経済構造そのものが多国籍企業に依存するような構造になってくるわけでありまして、したがって、もはや規制の枠を超えて、それをカナダ政府のコントロール下に所有を移さざるを得ないといったようなところまでいってしまうわけであります。そういう意味で、単に一つ一つの多国籍企業の行動ではなくて、多国籍企業全体、外国資本全体がその国の経済構造にどういった影響を与えるかという問題を考えなければならないと思います。  わが国の場合には、先ほど小島先生もおっしゃいましたように、資本自由化の段階措置によって規制されてまいりました。主として技術導入の方式によって経済成長が達成されてきたわけでありますけれども、最近ではダウケミカルの進出といったような問題がありまして、これが果たしてわが国経済に役に立つかどうかといったような議論がございますけれども、さらに日本の場合には、やはり石油の場合にはカナダと同じような問題点があるかと思います。これはやはりそういった依存構造ができ上がっておるわけであります。ただ、それが日本の六〇年代の超高度成長を支えた基礎ではありますけれども、同時に、日本のエネルギー構造の基盤というものがやはりメジャーに依存せざるを得ないようなことになってきて、石油危機の段階でいろんな問題を発生させてきたという問題があると思います。  時間をとりますが、さらにもう一点加えますと、ロッキードが多国籍企業かどうかという問題については、小島先生と同意見でありますが、本来的な狭い意味での多国籍企業だけではなくて、やはり多国籍企業的な活動ができる国際的な経済メカニズムができ上がっているということに留意すべきだと思います。これは、ユーロダラーでありますとか、あるいはタックスヘブンでありますとか、あるいは多国籍銀行網でありますとか、いろんなメカニズムがございまして、こういったことをいろんな会社が利用できる。ロッキードの場合ですと、ID社とかディーク社というのがございまして、これがスイスの銀行の秘密口座を使って香港に送金し、それから日本に運んでくるといったようなメカニズムがあるわけでございます。これは単に一つの多国籍会社のメカニズムではなくて、こういった構造を利用できるような仕組みがすでにでき上がっておりますので、本来的な完全な多国籍企業というものでなくても、こういった行動ができるということに留意すべきだ。これをどういうふうに規制していくかということが問題になってくると思うのです。以上です。
  23. 石井一

    石井委員 次に、吉田参考人に御意見をお伺いしたいのは、アメリカでも今回の問題等々で多国籍企業の腐敗行為を不法化するための国際協定を締結する用意があると言っています。この腐敗行為というものに対してどう定義づけるのか、これは各国によって慣例があったり、発展途上国では発展途上国のならわしがあり、また各国によりまして非常に違うと思うのですが、これは何か世界共通の一つの概念というようなものがあるのですか、これはいかがですか。
  24. 吉田寛

    吉田参考人 事実関係をお尋ねだと思いますが、世界共通でという問題については、まずそういうものはいまだ存在していないだろうということと、それから、アメリカにおいてと申しましても、これは現に存在しているいろんな規制、立法、こういったものを超えて商慣習というのが存在すると思います。したがって、法の範囲内ということは明確ですけれども、商慣習ということになりますと、弾力的であります。そういうふうに理解しているわけでございますので、特に法の範囲内ということでございますと別でございますけれども、商慣習を含めるということになりますと、これは弾力的に解釈せざるを得ない。わが国においても同様であろう、こう思っておりますが、なお詳しい法の内容については私はまだ不案内でございますから。
  25. 石井一

    石井委員 このロッキード問題が起こりましてから、特にわが国資本自由化以降これらの企業がどれだけの収益を上げて、あるいはさっきいろいろ申されておりましたけれども、どれだけの貢献をしたか、こういうふうな学術的研究とかあるいはそういうふうなものが存在しておるんでしょうか、どうでしょうか。これはどなたでも結構でございますが、小島先生いかがですか。
  26. 小島清

    小島参考人 いま、これらの企業とおっしゃるのがちょっとわかりませんが。
  27. 石井一

    石井委員 要するに、多国籍企業と考えられる企業外国から日本の中へやってきて経済活動をやっておる企業です。
  28. 小島清

    小島参考人 それは、山崎さんあたりの書いた小さな本に多国籍企業の業績等々書いてあります。どこでしたか、最近出た毎日ですか、ございますね、日本に来たものについては。
  29. 石井一

    石井委員 それにはどこの企業がどれだけの収益を上げというふうなそういうしさいにわたる……。
  30. 小島清

    小島参考人 それが日本の国内企業よりも収益率が高かったかどうかとか、その辺まで数字が出ております。
  31. 石井一

    石井委員 そうですか、そうすると、日本海外に進出しておる企業外国においてどういう行動をし、どういう貢献をしという、そういうふうな研究もあるのですか。
  32. 小島清

    小島参考人 その一番詳しいのは通産省で在外企業実態調査と申しましたか、これは毎年出ておりまして、最近で五回くらいになっておりますが、その中に出ております。そうしてどれだけの赤字であるのか、もうやっと収益が出るようになったのか、あるいは収益が相当上がっているのか等々、詳しい調査がございます。
  33. 石井一

    石井委員 ただ今回わが国で問題になりましたような、こういう賄賂性を帯びたそういうふうな問題等々の実態の調査、こういうものは当然最初の書類にも後の書類にも出ておらぬと思うのですけれども、こういうことに関する実際の事態の掌握とかなんとかということは、これは非常にむずかしいことなんでしょうね。
  34. 小島清

    小島参考人 そうですね。ただ、向こうの言論人なりあるいは学生なり等々のコンプレイントの中に出ておりますが、しかしそれは全体を代表するものではない。むしろそういうのは日本企業——日本企業だけじゃございません、もっとアメリカ企業に対するコンプレイントが強いのでありますけれども、しかしある時期に、ある時期というのは要するに日本外貨事情が非常によくなりまして、途端に政府政策によって海外投資を促進するというようなことがありまして、そのためにラッシュした。それがこのラッシュというのは非常に困るのでありまして、というのは金あるいは企業だけ行っても、それと一緒になる労働力なり、資源、原料なりなんなり伴わないと、行っても何ら生産を上げるわけにはいかぬ。むしろ行った金が向こうでのインフレを導くだけのことで、つまり企業が出ていって、特に私の言ったような技術伝播まで起こるには、一定の率で徐々に、そうしてたとえば十年間くらいかかってやっとそれが定着するわけなんですね。そのスピードを超えていけば、かえって企業進出というものは向こう経済にインフレを起こすだけで、余り益がないという問題も起こるわけですね。それと、恐らくそのラッシュするために現地のパートナー、よいパートナーを見つけるのは非常にむずかしいわけですね。それで特に向こうでそういう何と言うか、インドネシアインドネシアナイゼーション、これはインドネシア民族でなければいけない。ところが華僑系と主に手を握ったとか、あるいはそういう問題はもちろんマレーシアにもございますし、つまりなかなかいいパートナーが見つからない。見つかるのは、やはり企業能力から言いますと、華僑系が強いわけですね、優秀である。そういうことから対日批判が非常に深刻な形である意味で出てきたというような問題があると思います。
  35. 石井一

    石井委員 時間が来ましたので……。どうもありがとうございました。
  36. 水野清

  37. 河上民雄

    河上委員 社会党の河上民雄でございます。  大分時間もたっておるという御注意がございましたので、できるだけ具体的なことも伺いたいと思っておりますが、まずきょう四先生から非常に有益な御報告をいただきまして、本委員会といいますか、われわれ自身としても今後検討すべき方向づけが、完全についたわけではありませんが、そういう意味で非常に参考になりましたことを厚くお礼を申し上げたいと思います。  まず小島先生に一、二お伺いしたいと思うのでございますけれども、先生は先ほど、多国籍企業で、アメリカ型の巨大企業に比べて、いわゆる日本型多国籍企業と申しますか、そういうものが低開発国での経済発展に有効な効果を持っているというようなお話がございました。私どもそのとおりではないかと思いますけれども、しかし、先ほど先生も御指摘になりましたように、田中前総理の東南アジア訪問があのようなリアクションを起こしたことが示しておりますように、非常に多くの問題があるのではないかと思うのでありますが、どういうところからああいう非常に強いリアクションが起こったというように考えたらよいか。  それから、特に日本の場合、日本の国内では公害企業というのが非常に大きな問題になっておりますけれども、韓国とかそういうところへの企業の進出の場合、公害産業の輸出という形になるきらいが非常に多いことが指摘されておりますし、事実、日本ではもう許されないような公害企業向こうへどんどん出ていっているというようなこともあるように思います。こういう公害企業の輸出というような現象をチェックしなければいけないと思うのでありますが、そういうような点について、先生の御意見を承りたいと思います。
  38. 小島清

    小島参考人 日本型の方が向こうの順序ある経済発展にとって非常に役に立ち、能率的に貢献すると私は信じております。それに対して、田中前首相のビジットのときにどうしてああいう大きなリアクションが起こったのかということでありますが、それは先ほど来幾つか理由を挙げました。それにつけ加えてもう一つ申し上げれば、日本のそういう小さな、それから向こうに向いた労働集約的な企業というのが、私の言うチューターの役割りを非常によく果たした。それで非常に成功した。だからこそよけい今度はリアクションが起こったというふうに私は解釈しております。  ただ、そこで問題は、これは私なんかが一番問題に思っていることで、あるいはここの小委員会でも議論していただきたい問題なんですが、つまり、どうも風潮として、日本もやはり海外直接投資をうんとふやさなければいけない、こういう考え方が底流にあると思うのですね。私はそうではなくて、海外投資というのはなるべく少ない方がよろしい。むしろ、日本の生きる道は貿易であると考える。ただ、貿易をするには、向こうの相手方諸国で安く生産できて、日本にあるいはさらにはほかの第三国にも輸出するものがたくさんできてこなければならない。それをやるのには、私の言うような日本型の直接投資をやって向こう生産力をつけることが、その次の段階としての貿易拡大に大いに役に立つ。また向こう自身生産力が育ち、一人立ちしていけるということならば、それは向こうに全部移譲するのが当然であろう、こういうように考える。けれども企業もそうでありますけれども、どうしても日本はいろいろなフリクションを起こすところの海外直接投資を、アメリカに見習ってかどうか知りませんが、ふやさなければならぬという考え方が根本にある。これは一遍反省し直すということが大いに必要だと思うのですね。  また、海外企業としてのあり方、やり方でもアメリカがやっているやり方がいいんだ、それを見習わなければならぬという風潮が非常に強いわけですね。私はそれは誤りだと思う。アメリカのやっているのは、明らかに独占的、寡占的な利潤拡大、そしてできれば世界を支配したいということでありますね。ところが、アメリカ自身も最近は反省が生まれているように思うのです。アメリカがことにこの直接投資が問題になったのは、ECができましてとうとうとして対EC直接投資がふえたのですね。また、アメリカ政府もそれをバックアップしていた。それは結局アメリカのパワーの象徴である。いままで持っていた貿易力とかあるいは国際通貨の面におけるパワーが非常に失われて後退してきた。それにとってかわるもう一つのパワーが海外直接投資だというので、多国籍企業活動をいろいろな形で援助していく、そこに政府と癒着もあったと思うのですね。そして、そのことが御承知のとおり労働組合から非常な反発を食ったわけですね。特に、アメリカの本来輸出できる先端産業をどんどんヨーロッパにあるいは日本に進出させるということはアメリカ自身の輸出力を失うことであり、またそのためにアメリカの国内投資が非常に減少したのですね。それはアメリカ労働者雇用を奪うものであり、雇用の輸出であるということで反発が出たのでありますが、私はその論理は正しい、つまり労働組合の論理は正しいと考えております。ところがその後、最近はヨーロッパからもかなり引き揚げるという話を聞いております。そして、逆にアメリカの国内投資をふやし、やはりもう一回新製品をつくり出すとか、あるいはいままでの商品でももっと競争力を強める、そのための設備投資が要るという考え方に戻ったようでありまして、いまのそういう態度の方がアメリカにとっても正しい。それなのに、日本が依然としてまた海外投資をふやさなければならぬと考えるのはどういう理由であるのか私にはよく理解できないところで、大いに検討してしかるべき問題だと思います。  それから、第二の公害企業の輸出になるのじゃないかということでありますが、私はそう思わないので、むしろ韓国なり何なりというのがそれを歓迎するから行くわけであります。と同時に、私の見たところ蔚山その他のそういう化学工業なんかでも、日本におけるよりももっと公害防止のための設備に投資しておりまして、日本よりひどい公害を現地でたれ流しているというふうには考えておりません。が、ただ、やはり直接投資でいくとなると、そういう非難が出るかもしれない。ですから、そういうことじゃなくて、直接投資というかっこうじゃなくて別の形をおいおい考えるべきでないかということは思います。ことに、そういう巨大なプラントあるいは石油開発等々、それについては——もちろんインドネシア石油開発というのは、私の理解が正しい限りプロダクトシェアリング方式であって、直接投資ではないですね。金をある程度出すのですが、それに見合った分を——これは向こう側の企業であってわれわれの企業じゃないですね。それで、生産物で、出したあるいは貸した金を返してもらうという方法。ですから、これは向こうが喜んでそういう産業を興したい、そのためにやったことで、直接投資ではない。あるいは中近東諸国が金があるからいろいろ大きな装置産業をつくりたい。しかし、私はどうも競争的に幾つか大きな装置産業をつくったら、きっと引き合わなくなると思うのですね。そういう場合に直接投資というような危険を冒すことは、日本としても望ましいことでない。また公害企業の輸出だなんて言われたら、こっちは喜んでやったわけじゃないのに非常に腹が痛む。ですから、やはりそういう場合には、私はターンキー方式で、それをうまく運営するまでめんどうを見て、後は向こうへ渡すというような別の方策を考えた方がよろしいと考えております。
  39. 河上民雄

    河上委員 神代先生にお伺いいたしますが、先ほど先生が多国籍企業に関する情報の公開を義務づけるといいますか、多国籍企業の弊害を規制するためにそういうことを強調せられていたように思うのでありますけれども、それは具体的に言えばどういうふうになりますか。たとえば日本の国会への報告とか、あるいは先ほど一ノ瀬先生のお話がちょっとありましたが、公正取引委員会への報告とか、先生はどういうようにお考えになっておられますか。  それから、情報公開という場合、公開すべき情報の内容というのは一体どんなものを考えておられるのか。  それから、これは一ノ瀬先生にもあわせてお伺いしたい点でございますけれども、先ほど来、自己規制の効果というものと直接立法規制の効果という問題が、それほど論争というわけではございませんけれども、若干のニュアンスの違いで先生方からそれぞれ出されておるように思いますので、これはどちらにウエートを置いたらいいのかというようなことについて、御意見を承りたいと思います。まず神代先生から。
  40. 神代和俊

    神代参考人 先ほど御報告申し上げましたときに、情報の公開ということはOECDのガイドラインでもかなり重要な項目としてうたわれておりますが、実際にこれをやろうとなると非常にむずかしいということだけ申し上げたわけであります。  御質問の内容なんですけれども、たとえば日本に現在進出している多国籍企業につきましても、私の知る限りでは、わりに小さな一つの金銭登録機をつくっている会社が、あれは多分一部上場ですか、それで有価証券報告書が出ておりますが、その他は有価証券報告書さえも出ていない。つまり出す必要がない状況であって、要するに証券取引法の適用対象になればおのずとそのルートで出てくるべきような情報さえも、一番大きなコンピューターを売っているような会社についても得られないというのが実態でありまして、そういう実態を踏まえて、証券取引法をどういうふうに改正するかという御議論がいろいろ専門家の間であろうかと思いますが、私、これは本来の専門領域ではありませんので、こういう責任のある場でお答えするのはちょっと控えさせていただきたいと思います。  連結決算制度が五十二年度から適用されますから、それが国外企業にまでどういうふうに及ぶのか興味を持って見ておりますが、恐らく、そう画期的なことはすぐは期待できないだろうと思っております。それと、海外投資保険の制度と引っかけて、契約の更改の際にある程度海外事業活動についての報告を求めるという可能性も抽象的には考えられますが、これは輸出入銀行が当事者としてやっておられると思いますが、それを外部に公表するということは、非常な困難を伴うだろうと思います。取引銀行に対しても公にしないような企業内の情報をパブリックにすることは、私企業体制を前提にする以上は、きわめて一般的に言えば困難だ。その壁を越えて何かやろうとするには、ちょっと技術的ないろいろな方法について私は専門外でありますので、直接のお答えを控えさせていただきたいと思います。
  41. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 企業情報の問題でございますが、多国籍企業わが国企業企業情報については、これはそれぞれの政府機関、通産省企業局でありますとか、あるいは日銀でありますとか、あるいは大蔵省、国税庁、いろいろなところに企業の報告が来ておるはずであります。統計調査局にも来ておるかと思いますし、それが具体的にどこまでの報告になっておるのかは、私どもはうかがい知らないところでありますので、国会の権限でお調べいただく以外に方法がないわけであります。私どもが目にしますのは、日銀の法人企業統計月報とか年報でありますとか、あるいは通産省企業局の外資企業の動向でありますとか、あるいはわが国企業海外事業の活動でありますとか、あるいは国際収支の統計とか、通関統計とか、そういう一般化されたものしかわからないわけであります。したがって、個別企業のところまでおりたデータというのは、東洋経済の「海外進出企業総覧」でありますとか、あるいは経済調査会の海外直接投資アメリカ編とかヨーロッパ編とかございますが、これは個別企業のデータが出ているわけです。そういったものを通じてしか利用できないわけでありますけれども、それでもやはり余りにも一般的過ぎまして、深い分析というのはできないわけです。とりわけ、多国籍企業の場合でありますと、利益の本国への送金の場合に、たとえば技術料とか、あるいは本社から借り入れた借入金に対する支払い利子の形で利益を送金するような場合があるわけであります。これはつまり利益を費用として会計に計上するわけでありますけれども、こういったことについて、外資系企業あるいは合弁会社、あるいは外資会社、準外資会社といったものは、これは全部株式を上場しておりませんので、公開義務はないわけであります。国税庁への報告義務がどういうふうになっているのか私はわからないのですけれども、カナダでは同様に二十人以下の株主の場合には公表義務がなくて、外国企業の子会社は株主一人とみなすので、公開義務はない。こういったのをどうするか、法改正をしてやはり報告をさせるべきであるといったことが出ておるわけでありますけれども日本の場合にもそういった点をどういうふうに考えたらよろしいか。これは国会の国政調査権の場合にも絶えず守秘義務というのが問題になりまして、個別企業の中までタッチできない仕組みになっているわけなので、だからこれを一般に公開するというところまでは、どういうふうなことになるのか、私にはまだ具体的にどうしたらよいかはわからないわけでありますけれどもアメリカの場合には相当のところまでやっておるように見受けられますので、そういった点を御検討いただければよいかというふうに思うわけです。
  42. 河上民雄

    河上委員 吉田先生にお伺いいたしますが、先生は会計の方の御専門と伺っておりますけれども日本における多国籍企業の会計ですね、たとえばIBMなんかはどういうふうに明らかにされておるのかも、いまお話のあったように全然わからないのか。  それともう一つは、多国籍企業活動のデメリットとして、為替差益の問題とか、賄賂の問題とか、政治介入の問題とか、いわゆる税金逃れの方策が問題になっておるんですけれども、先ほどほかの先生の御報告かと思いますけれども、タックスヘブンの問題がちょっと出てきましたけれども、これの実態といいますか問題点、ちょっと御指摘いただければ幸いです。
  43. 吉田寛

    吉田参考人 それでは最初日本における多国籍企業でございますね。たとえば例としてIBMをお出しになりました。この問題につきましては、一ノ瀬先生もお答えになりましたように、満足なものは得られていないのが現状でありますが、これは多国籍企業に対する日本側の対応のおくれというものが完全に利用されているということは言えると思います。したがって今後の課題であって、同時にこの問題は、日本外国へ進出している多国籍企業の規制の問題と表裏一体をなしておりますので、多国籍企業問題全体としての情報開示制度を国際的なアグリーメントの中で行う必要があると思います。現在国際会計基準委員会におきましては、限られた範囲ですけれども財務情報開示につきまして、国際的な統一基準を作成するという行動をいたしておりまして、日本の公認会計士協会もその中に参加いたしておりますが、この活動を拡大する必要がある。その中で特に多国籍企業情報開示制度という項目を積極的に取り上げるように、日本政府が公認会計士協会等にサゼスチョンするのも一つ方法かと思います。  第二の為替の問題とか政治介入とかタックスヘブンの問題につきましては、一々事実関係とかデータを挙げるのは非常に困難でございますが、タックスヘブンというふうなこと自体も、それが可能であるような状況をつくり出しておる国にはその必要性があるのではないかということ。したがって、一概に言えないのではないか。その国の産業政策上、そういうことを行う場合がある。とすれば、その国にとってはそれがメリットである。これは抽象的に見ると、非常に悪いことをしているように思うかもしれません。ですから、それぞれの国の実情に応じまして判断する以外にない。ちょうど産業保護政策をしたり誘致政策をしたりするというのも、そのときの必要に従って行われているんだ。したがって抽象論で処理はできない。具体的なその国の経済政策、社会政策というものとの絡み合いで、ケース・バイ・ケースで判断せざるを得ないと私は理解しております。
  44. 河上民雄

    河上委員 どうもありがとうございました。時間が来ておりますので、私はこれで質問をやめますが、いろいろ御指摘をいただきまして、なおあと一分ほどございますけれども生産会社の多国籍企業と商社の活動というものとは、多国籍企業問題を論ずる場合にかなり違いがあるのか、それとも同質的なものとして理解してよいのか。本当に短い時間しか残っておりませんので、どなたか先生に教えていただきますれば……。
  45. 小島清

    小島参考人 商社の問題が出てきたわけですが、一体日本で多国籍企業と呼ぶに値するものがあるか、私は余りないと思っております。ただ、アメリカのハーバードでやったような基準と似たもので、日本の多国籍企業と言えるものがあるかどうかという新しいいい研究が、神戸大学の経済経営研究所の吉原さんと思いましたが、まだガリ刷りのレポートでありますが、非常にいいレポートが出ております。そこを見ますと、つまり海外へ子会社といいますか生産拠点をたくさん持っているとなると、あるジッパー会社、皆さんも御存じだろうと思いますが、そういうようなものがトップに上がってくるわけですね。しかし、これらは全体として大した生産額でもありませんし、果たして典型的な多国籍企業と考えたらいいかどうかということは、また疑問になってくるわけですね。ですが、もし生産を伴わなくても販売拠点幾つか持つ、しかも世界的なネットワークを持ち、また世界的なそういうものの流通、交換によって、つまり世界戦略によって能率を上げるという点から考えますと、日本の総合商社というのは多国籍企業と言ってよろしいものだと私は考えております。しかも、それは販売に要するコスト、輸出あるいは輸入に要するコストを非常にリデュースする、節約するという意味で、本来の私の言った実質資源の節約に役立つ限り、これは正しい貢献をしていると私は考えております。  また、恐らく日本の多国籍企業的な活動というのは、ぼくはやはり分業でやっていくべきで、日本の会社、メーカー、大きいと言ってもそう大きくないわけで、とうていアメリカの巨大メーカーには太刀打ちできない。したがって、一つ二つ小さなのをばらまくぐらいである。それを総合して日本の対外活動全体として多国籍企業的な活動をやれるのは、やはり商社の機能を媒介にしてやるよりほかにないだろう。これは三人四脚型とか言われておりますが、三人四脚型の一体になった多国籍企業活動、集団としての活動になるわけですが、それが日本経済としてアメリカ型の多国籍企業に対抗できる唯一の方法でないかと私は考えております。
  46. 河上民雄

    河上委員 どうもありがとうございました。
  47. 水野清

    水野委員長 次に津金佑近君。
  48. 津金佑近

    津金委員 共産党・革新共同の津金でございます。きょうは貴重な御意見をいただきまして、厚くお礼を申し上げたいと思います。時間の点もありますので、私も簡単に二、三御質問を申し上げたい、こういうふうに思います。  最初に一ノ瀬先生にお伺いいたしますが、先ほど多国籍企業の問題に関するいわゆる規制措置について、かなり詳細ないろいろな御見解がありまして、大変参考になったわけでありますが、それを進めていく上でもいろんなまだ解明をしなければならない問題点が多々残されているように思います。しかし、その規制を非常に効果的に行うためには、やはり多国籍企業現状、実態に対する的確な調査というものを当然前提としなければならないということは言うまでもないことだと思いますが、その点で今日国際的な視野から見ましても、他国の主権に対する侵害行為であるとか、神代先生からも幾つかのパターンを整理されてお話がありましたが、先生が言われた規制を必要とする今日のこうした多国籍企業現状、実態、問題点ですね、それをどういうふうに把握されておられるか、その規制をされる前提となる……。その辺の問題について、もう少し補足的に御意見を承りたい、こういうように考えるわけです。
  49. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 すでにいままでの御発言の中にもいろいろ出たかと思うわけでありますけれども、多国籍企業というものが単なるビッグビジネスということだけではなくて、さらにそれを超えた新しい特徴を持っておるということは小島先生もおっしゃったと思います。その領域というのは、私も報告の中で申し上げましたが、経済的な面に限りますならば、一つはやはりスケールメリットであって、これは利潤追求ということが当然前提になるわけでありますが、国際的な経営視野から各国に子会社を配置していく、その生産拠点あるいは販売拠点を各地に配置するわけでありますけれども、そういったことを基礎にして企業内国際分業といったものをやっていきます。それが国際収支や貿易収支、その他いろんな分野にわたって新しい問題を提起していることは先ほど申し上げたわけです。  一つもう少し具体的な問題を申し上げますならば、多国籍企業の国際カルテル行為というものが既成の国際カルテル概念を超えてきておる。これはいわゆる多国籍企業同士の間の国際的な合弁会社綱を形成する。普通、国際カルテルの場合ですと、談合行為というものがありまして、各企業の代表が寄って、そこで販売価格でありますとか販売量であるとかあるいは販売地域等々の確定をしていくわけでありますけれども、たとえばサウジアラビアのアラムコの場合ですと、メジャーが全部共同株主になって、そこで石油を掘るという場合には、価格は談合しなくてもアラムコ一本の価格になるわけです。共同の販売会社をつくる場合もございます。それだけでなくて、石油化学工業やあるいは医薬品の場合には、各国に多国籍企業同士の合弁会社綱ができ上がりますと、情報が各子会社の間にすぐに伝わりまして、いわゆるリーダーシップの価格が形成されていくといったことが出てくるわけであります。こういったことは医薬品工業についてECEの独占禁止で最近暴露されたことであります。こういった方式を、たとえばアルミニウムの原料開発、ボーキサイト開発世界各国でジョイントベンチャーをやる。カナダのアルキャンでありますとかあるいはスイスアルミでありますとかあるいはアメリカのアルコアでありますとか、こういったのが共同開発をやる。これに日本軽金属とかいったような日本のアルミ会社も参加しているわけですけれども、特にオーストラリアなんかでこれが非常に高度に進められておるわけです。これが、つまりそこで自然にカルテル行為が行われていく可能性があるわけでございます。  こういったものをどういうふうにとらえていくか、これは非常にむずかしい問題だと思うのですけれども、そういうように多国籍企業のメカニズムというのは単なるビッグビジネスの枠を超えた非常に複雑な問題がありますので、こういった情報をどういうふうにキャッチしていくかというようなことが非常に問題になってくると思います。  そういった事例についてもっといろいろ述べなければならないわけでありますけれども、あるいは技術導入をやりました場合に、大抵ひもつきの技術導入、これはラテンアメリカの諸国では絶えず問題になっておりまして、国連のUNCTADの会議ではそれに対する決定ができて、日本でも膨大な翻訳が出ておりますけれども、たとえば技術を入れた場合にはそれに関して親会社から材料、部品を買わなければならない問題とか、その技術生産した製品の輸出範囲が制限される問題とかいうことが出てまいります。結局それがそういう国の技術貿易収支を悪化させていくということで非常に重大化しているわけでありますけれども日本では科学技術庁の外国技術導入年次報告書というのがありまして、それを見ますと、やはり日本技術導入の場合にそういった制限条項が出てきておるといった問題があります。しかもその技術を導入した場合には、親会社と子会社の間では、企業内取引でありますからパテント料とか技術料は要らないはずでありますけれども、子会社が親会社に対して技術料を支払うという形で利益の送金を行うわけですが、これはつまり会計的には技術料の支払いという形でいくということで、こういった会計操作が行われるわけであります。  それから先ほど神代先生もおっしゃいましたが、連結財務諸表という問題もあるわけですけれども、連結財務諸表の公開というのは本国で行われるわけでありまして、子会社がやるわけではありません。日本企業外国に進出していった場合の連結財務諸表は日本で公表されるわけでありますけれども、これは連結された、非常に一般化されたデータだけが出てまいりまして、親会社と子会社の間の取引の具体的な内容でありますとかそういったものは全部消えてなくなるわけであります。しかも現在連結財務諸表の基準が日本でも決められまして、これが大蔵省で納税のデータとして使われるという場合に、子会社で損失が出た場合には、親会社の利益と相殺して利益を小さく公表して税金が小さくなるといったような効果が、実際には連結財務諸表でねらわれておるわけであって、公表というところに重点はないわけであります。  だから、こういった連結をする場合には、それぞれの子会社と親会社の取引の具体的な内容がどうであるかとかいったことまで含めて詳細なデータが必要になってくると思いますけれども、いずれにしましても、津金先生がおっしゃいますように、調査情報なしに規制はできないわけであります。多国籍企業活動について、アメリカの内国歳入庁のスタッフがスイスその他へ出かけていってキャッチしようとするわけでありますけれども、なかなかわからない。国際的な取引の会計の仕組みというのは非常に複雑でありますので、やはり税務の専門家がこれに熟達しなければならないといったような問題もあると思いますし、こういったことを含めまして、とにかく調査を十分にやらなければ完全な規制というものは効果的には行えないということは、おっしゃるとおりであります。  実態そのものについては非常に不十分でございますけれども、そういうことでお答えとさせていただきます。
  50. 津金佑近

    津金委員 いま問題になりました情報のキャッチと公開に関する問題でありますが、この点につきまして、今度は小島先生吉田先生にちょっとお伺いしたいというふうに思いますが、ロッキード事件が起こりましてから、多国籍企業というものに対するいろいろな意味での国民の関心というものが大変高まりまして、率直に言って余り好感を持って見ていないというのが、国民のいまの心情だと思うのです。それだけにやはり多国籍企業の実態というものに対する正確な判断というものを国民的に持っていくということは、今後大事な仕事になっていくというふうに考えるわけですが、そういう意味では、私は、いろいろな方法がありますが、その基盤としては、やはり国民的な監視体制とでもいうべき方向をやはりどうしてもわれわれの分野では考えていくことが大事になっているのではないか。その場合に、一つの前提として、いま言った情報のキャッチ、その公開、報告、こういうふうなものがどうしても必要ではないかというふうに考えるわけです。その中では、特に政府機関の果たす役割りというのもかなり大きな部分を担ってくるのではないかというふうに私は考えるわけなのです。これはまだ思いつき的なものですが、多国籍企業白書といったようなものを、やはり政府が将来出していくというふうなことがあってしかるべきではないかという気もするわけですが、その辺の問題についての御意見を賜りたいと思います。
  51. 小島清

    小島参考人 私は、先ほども申しましたように、直接投資が入ってくるときにそれをセレクトする、選別する、望ましいもの、まだ早いものはまだ待ってくれ、それしかないので、入ってきたものを何とかコントロールするということは不可能だと思います。基本的に言って、会社というのは法人格を持ったもので、われわれプライバシーを侵されたくないのと同じで、できないことだと思うのです。法人格を認めていて、そのすべてを知ろうなんて、どういう権利があって国家がやるのか知りませんけれども、それは不可能なことです、法人格を認めているわけですから。また、情報をよこせと言っても、それは違った情報を出すかもしれませんし、不可能なことだと思います。  ただ、もう少し具体的に言いますと、さっきから出ておりますが、要するに、それは望ましくないとかなんとか言いますが、あるいは出ていってほしいとか言いますが、企業としてはもうからなくなればすぐ死ぬわけで、出ていくわけですね。それ以外の対応策はないわけであります。情報を公開するとかなんとかというと、私の寝ているところを見られるのがいやなのと同じで、それはとてもプライバシーの問題で、できないことだと私は考えます。  もうちょっと細かく言いますと、いろいろな規制したいというような問題があると思うのですけれども、たとえば、先ほどから出ているトランスファー・プライシングとかあるいはタックスヘブンという問題があるわけですが、タックスヘブンの問題でも、これは要するにそういうタックスヘブンになるような、それをウエルカムしているような小さな島とか国がある。ところが、最近の世銀、IMF合同の「ファイナンス・アンド・ディベロッブメント」に出ていたアーティクルでありますが、それによれば、つまりそういうのを引き受けることが、必ずしもその小さな国にとって引き合うことではないということがいろいろ実証されておる。そうすると、そのタックスヘブンなどをなくす方法は、結局それを受け入れる国がなくなるということしかないわけですね。恐らくそういう方向にいくのじゃないかと私は考えます。あるいはトランスファー・プライシングが悪い悪いと言われますが、本当にどのぐらい悪いことをしているのか、これは非常に疑問だと思います。  たとえばある問題で、ちょっと別の問題になるかもしれませんが、具体的な問題になっているのは、ブーゲンビルの銅鉱山がある。これはもうけ過ぎだ。しかし、企業としてはそのブーゲンビルの銅鉱山がもうかるというのは、つまり幾つか知りません、三十か何かのトライアルをやりまして、その中の一つがもうかる。したがって、このもうけはあと二十九の損失をカバーしなければならぬわけですね。それを、ここではもうかっているじゃないか、全部吐き出せと言われたのでは企業は成り立たなくなる。同様な問題があると私は思うのですね。むしろ受け入れ国の方がその企業を誘致したいために特別の優遇税制等々、特別のインセンティブを企業に与えていることこそ間違っているというふうに私は考えます。  それから、もう一つ為替操作というような問題がございましたが、これはいまのタックスヘブンなんかと問題が違うと私は思います。これはやはり悪いことだとは言い切れないのでありまして、為替操作というのは、もうかるときもありますが、うんと損をするときもあるわけです。企業の負担においてやるわけでありまして、また事実幾つか起こったわけですね。銀行がつぶれたのもございますね。ところが、本来つぶれるところをつぶれないようにまたサポートする、ことに日本の場合はそうなると思うのですが、そこはまた問題だという感じはします。  それから、やはり問題だと思いますのは、パテント制度というのは、先進国間ではいいのかもしれませんが、開発途上国との関係では大いに改善しなければならない。つまり、彼らは対等な発明を持たないわけですね。先進国側は一方的に持っているわけです。そのときにパテントで縛りつけて、向こうではそういうものを起こし得ないというような体制にする、ここは大いに考えなければならない。パテント制度の改善というのはやはり非常に重要な問題だと思います。  それに関連いたしますが、最近の多国籍企業というか、あるいは直接投資の問題というのは、開発途上国からいえば、いろいろな資本技術経営能力というのが一体になって入ってくる、それが直接投資なんですね。それをパッケージトランスファーと言っております。それがいろいろなわからぬことをし、うんともうけておる、それはけしからぬ。そうじゃなくて、技術だけを分離して、アンパッケージでトランスファーしてくれ、こういう要求があるわけですね。国連の中にも出ているわけです。しかし、技術というものだけをアンパッケージでトランスファーするというのは非常にむずかしい。つまり、ある利潤というか、そのインセンティブと結びついてでなければ、技術もトランスファーできないわけであります。ですから、能率的にある産業を低開発国に移すには、直接投資がやはりいい方法だと私は思います。しかし、それが永久にそこに居座るというのはまたおかしいことだと思うのです。したがって、最初に申しましたように、撤退と申しますかフェードアウトといいますか、そういうものの公正なルールをつくって撤退を考え、完全に向こうでやっていけるような方法を考えるということが必要ではないかと私は考えております。
  52. 吉田寛

    吉田参考人 御質問は、情報開示の問題でございましたね。いま小島先生から、情報開示以前の問題、つまり多国籍企業の行動に直接関係のあるようないろいろな政策あるいは基本的な考え方の方にむしろ問題がある、そこで改善しなければならないものもある、こういうような御発言であったかと思うのですが、御質問は情報開示でございますので、まず、私の方で関心のありますのは、一つにはインターナショナル・カンパニーズ・ロー、国際企業法というもの、これをつくってはどうかということが考えられ、議論の対象になっている。ということは、これは確かに意味がある。どういう形でそれができるかということについては、これは法律の専門家の領域に属しますので私は何も申し上げられませんが、要するにそういった方向で、インターナショナルな共通の会社法というものができ上がるということが、何よりも一番かたい規制のシステムをつくることであろう。しかし、それは何もすべての細かい問題までコントロールすることはできません。法律でございますので、かなり骨格的なものだけになる。そうしますと、あとは企業の慣習、その社会の慣習にゆだねざるを得ないと思います。したがって、この問題はひとり多国籍企業だけではございませんが、その慣習をどのように尊重していくかということ、このときに公正な国際的慣習と言い得るものが承認されるかどうか。国内的には公正なる慣行というものが承認されるとしても、国際的に公正な慣行というものがどのようにして理解されるか、ここに一つ問題があろうかと思います。  そこで、こういう問題に対するアプローチとしまして、われわれの方では先ほどアカウンタビリティーということを申し上げましたが、インターナショナルアカウンタビリティー、国際的な会計責任という概念を持ち出しております。国際的な会計責任に関するものは、少なくともリポートしなければならない、報告しなければならない。こういう形で、情報公開に対する一つの勧告というふうなものが出せるであろうと思うわけでございます。  そういう勧告をどういう機関が出すかについては、いろいろ議論もございましょうが、それは勧告の実効性をどの程度期待するかにかかっておると思いますが、少なくとも多国籍企業に関する国際的な協議機関においてお出しになるのが妥当だろうと思いますが、OECDのお出しになっている行動基準というのもその線に沿うものであろうというふうに理解はしておりますが、かなり骨格的なものであって、私どもの理解しているアカウンタビリティーとはほど遠い。この場合のアカウンタビリティーと申しておりますのは、財務的な問題以外に社会的な問題を含んでいるわけでございます。われわれはファイナンシャルアカウンタビリティーとともに、ソシアルアカウンタビリティーということを言っております。そのソシアルアカウンタビリティーというものは、その社会に対する企業貢献、あるいは責任の履行という問題でございます。  多国籍企業の問題について考えますと、その多国籍企業が所在地国にどういう貢献をしたか、どういうマイナスを与えたかということは報告する必要がある。たとえば、一例といたしまして、もっぱら外国へ輸出される品物だけをその国でつくる、生産しておる国では何ら消費しないのに、もっぱら輸出するものだけをつくっている、こういうふうな場合は一つの問題があるということが指摘されておるわけです。
  53. 小島清

    小島参考人 しかし、韓国なら韓国がそういうふうにしろ、もっぱら輸出せよと命令したらどうしますか。
  54. 吉田寛

    吉田参考人 いやいや、これは勧告じゃなくて……
  55. 小島清

    小島参考人 韓国ではそうなっているわけですよ、外資企業に対して。あなたのおっしゃったのと、ちょうど逆なんです。
  56. 吉田寛

    吉田参考人 ここで言っているのは、われわれの方ではもっぱらそういうものをつくることはむしろデメリットが生ずるのではないか。というのは、国内に対する影響を評価する尺度がいま違うからです。われわれの場合には、そういう問題ではいけないのではないかということとか、あるいは労働者雇用状況、それから先ほどソシアルシステムの移転だということを申し上げましたように、多国籍企業がその地域の教育制度とかハウジングだとかホスピタルだとか、そういった一つの社会システムに対してどういうコントリビューションを行ったかというふうなことも報告する必要がある。そういうことをわれわれはソシアルリポートと言っております。この内容については、いま小島先生からある一つの項目について反対の意見がございましたが、これは検討する余地がございますが、われわれはそういうものを拾い上げて勧告をつくる方向へ持っていけばどうかと思っているわけでございます。これが一つでございます。  それから、白書ということでございますが、そういうものがっくり得るならばつくった方がよろしいということでございます。しかしながら、白書というのは、私どもが申し上げておるアカウンタビリティーリポートとはまた異なるわけでございます。いわゆる統計的な情報でございます。われわれはそれ以前の統計のもとになるような責任報告書、そういうことを言っているわけでございます。
  57. 津金佑近

    津金委員 時間がなくなりましたので、神代先生に一つだけ、簡単にお答えいただけば結構です。  先ほどの国際的摩擦についていろいろな御見解を述べられた中で、文化的な衝突の問題について触れられて、こういうものを緩和していくために、やはり外交面での文化政策上の側面援助というものが必要だというふうな意味のことを言われましたが、その点、もうちょっと内容的に御説明いただきたい。
  58. 神代和俊

    神代参考人 これは先ほどの報告の中でちょっと触れました、多国籍企業労働問題連絡会議の政労使の三者構成の調査団で私は一昨年シンガポールへ参って、報告書もすでに刊行されておりますけれども、その中でも指摘をいたしましたが、シンガポールなんかは日本企業進出の形としてはわりあいにうまくいっておりまして、幾つか新聞で報道された小さな事件はありましたが、全体として日本の進出は現地では非常にうまくいっている例だろうと思います。にもかかわらず、人口の四分の三を占めます中国系の人たちの持っております文化的な価値観、あるいは労働についての考え方、あるいは企業忠誠心というものが全くないわけで、非常に移動が激しい社会で、能力主義に徹しておりまして、適当な職場があればどんどん移動していく、そういう中で出世していきたい。そういう社会で、日本の持っておりますような年功的なシステムとは全く違った価値体系を持っている国であります。そういうところに参りますと、日本企業は極端な日本システムはもちろんとれないわけで、とろうともしていないわけでありますが、かといって、現地のやり方そのものをまるのみにしてもうまくいかないので、結局は同化政策のようなものを、適応政策のような形で折衷的なポリシーをとらなければならない。細かい点はその報告書でもごらんいただければありがたいと思います。  そういう中で特に指摘されておりますのは、ほんの一例ということなので一例だけ申しますが、日本に留学をしてきた人が日本系の企業に就職をしているわけです。そういう人たちと座談会等を持っていろいろな意見を聞いたわけであります。その座談会の記録もその報告書に載せてありますけれども、実は、日系企業に対して一番強い不満を持っておるのはそういう人たちだということなんですね。外国アメリカ糸の石油会社等もたくさん出ておりますが、そういうところではアメリカ的な人事管理制度をとられておるために昇進も早いわけです。ところが、日本の年功システムの中では、日本から派遣しております幹部社員がおりますので、そういうものとのバランス上、どうしてもそれがとれないわけです。問題のあることはわかっていながらとりきれない。そんな辺から非常に問題が出ておりまして、これは企業だけでは短時間にはなかなか完全な解決は得られない問題です。そういう不満が潜在しておりますので、もし何か現地の商取引慣行に反するようなことがありますと、これは実際に二、三あったわけでありますが、それをきっかけにして非常に不満が表面化してくるというような形が見られたわけであります。そういうものを防ぐには、やはり留学生の受け入れ体制を含めまして、たとえば現地に熱帯病の研究所のようなものを日本政府がつくってやるとか、直接その企業に金をねだってくる場合もあるのですが、これは私は余りいい方法じゃないと思うのですが、何かそういうもっと大きなところで、現地の持っているそういう価値観の衝突から生ずるような不満なり違和感を緩和するような措置がとられる必要があるのじゃなかろうかと思います。
  59. 津金佑近

    津金委員 それでは、時間ですから終わります。
  60. 水野清

  61. 渡部一郎

    渡部(一)小委員 公明党の渡部でございます。大変御苦労さまでございました。  私は、この多国籍企業小委員会の設立に当たりまして強く主張した委員の一人といたしまして、本日の先生方のお話の多くの参考点の中から、次のステップへ向かってまた前進をする可能性を先ほどから考えてみておったわけでありますが、一番問題になる点について、ちょっと心配な点について御相談というか御質問したいと思います。  どの先生でも結構なんですが、まず多国籍企業問題を当外務委員会が論議するに至った最初のスタートは、各国の主権に対する独立不介入をいかにして達成するかという一つの大きな命題があったわけであります。特に戦争に巻き込まれないように、わが国の場合は極端な神経を使わなければならぬ国であります。しかし、正直言って、多国籍企業のある種のものはわが国の持つ力、国際的なポテンシャリティーよりもはるかに強力な能力を持つ多国籍企業というものが成長しつつあるわけであります。それからどう体をかわすかは、大きなわが国としての命題であります。それをどう達成していくか。もう一つは、国民の中に沸き上がってくる不公平感というものに対して、日本の政治は答えを出していかなければならぬわけであります。これは大企業対中小企業の対立で国内では大きな政治論争になっているわけでありますが、多国籍企業と多国籍企業の間にも、外国国籍企業日本出生の多国籍企業との間にも差があるし、先発、後発の間に差があるし、そういう多国籍企業のビヘービアの中で公平感を回復していくためにはどういうポイントに着目をすべきか、まさにその二大項目に答えを出していかなければならぬ、こう考えているわけでありまして、これほどの大型の言い方をいたしましたから先生方お答えになりにくいかと思いますが、恐縮ですがヒントだけでも御見識を各先生方お述べいただければありがたいのでございますが、お願いいたします。
  62. 小島清

    小島参考人 小島でございます。  私がさっきから発言しているのは、仮にこの小委員会が続くとすれば、どういう問題を取り上げられるのが価値があることであろうかというような観点から申し上げている次第です。それにやはりつながるわけでございます。  結局、一番究明しなければならぬのは現在の資本主義経済とは何ぞや、またそれをリードしているアメリカ政策世界経済政策を徹底的に究明してみなければならぬ。私の解釈するところは、結局、アメリカのはパワーポリティックスだと思うのですね。すべてがパワーのタームに還元されている。もちろんミリタリーなディフェンスの問題はいまでもありますが、すべてはそこにくるわけですね。大統領選だって同じです。あるいは援助だって、全部明らかにパワーのために出されたり引っ込められたりしているわけでしょう。そして同じタームで輸出もパワーの象徴であり、通貨もドル、直接投資も同様、そして、つまり直接投資がどんどん出ていったことがアメリカのパワーの一つである。是認し、それを後押しするような政策をとったわけです。そういうアメリカのパワーポリティックスを基本とする資本主義体制にいまある。それがおっしゃるような問題を生んでいると私は解釈します。したがってその点の究明をすればあるいは対策が出てくるでしょうし、いまの主権に対する不介入の問題とかいうのをそう考えます。  それから国民の中の不公平感という問題がございますが、やはり私は、確かにアメリカの余りにも巨大過ぎる多国籍企業というのは好みません。本能的に何か嫌悪感を感じます。が、現代の進んだ技術、それにさらに最初に申しましたように、交通、通信機関発展というようなものを活用して、そして人々の福祉に貢献できるようにするにはある程度規模企業が必要であり、あるいはそういう企業が必要な部門があると思います。それはある意味技術的に確定できると思います。もしその規模を超えてもっと巨大化すれば、これは今度は逆に規模の不経済に陥るわけであります。その規模の不経済に陥ったのを、逆にいまの資産の操作とかあるいはトランスファー・プライシングとかあるいはタックスヘブンとかいうようなことで、資産運用で実はより大きな利益をかせいで生き延びている。その部分は社会的貢献がないわけです。だから、その辺の確定をいたしまして、これは巨大過ぎるとかなんとかいう、それはある意味で独占禁止法の問題になるかと思うのですけれども、その辺の確定が必要である。つまり、単純に巨大だからいけないというわけではなくて、現在のやはり進んだ技術を利用するにはある程度の大きな規模企業も要るのだ、これも認めなければならないと私は考えております。
  63. 渡部一郎

    渡部(一)小委員 先生方、もし御意見ございましたら、よろしくお願いいたします。
  64. 神代和俊

    神代参考人 非常に大きな問題なので、適切なお答えになるかどうか懸念いたしますが、二つだけ考えられます。  一つは、やはり国家主権を侵害するような形で多国籍企業をどんなにコントロールしようとしても、これは無理だ、それはしてはならぬ、これは当然の大前提であるべきでありますが、その場合に問題になりますのは、もしわれわれが単に多国籍企業にかかわらず、一般的に企業の行動というものに関してかくあるべきであると考えている理念的なノルムがあるといたします。たとえば基本的な人権というようなもの、そういうものと、国家の主権というものとがしばしば対立することがあり得るわけであります。私の専門の領域で申しますと、一番問題になりますのは、たとえば多国籍企業外国に出ていった場合に結社の自由とか団体交渉権というものを尊重しなければいかぬ、あるいは雇用上の差別をしてはならないというようなことがILOの場においてはすでに共通の理解に達しているわけであります。ところが、多くの開発途上国においては、しばしばそうした権利が著しく制約をされているという実態があります。そういう場合に、日本の国内においていかにそれが望ましくないことであろうと、現に出ていく企業は、日本の世論に従うのではなくて、出ていった現地の法律に従って、その法律の枠の中でできることは全部やるわけでありまして、それが利潤極大化にプラスになればやるに違いない。実は問題になりますのは、そうした国家主権を尊重しなければいけないということと、われわれが国内的にあるいは国際的に、特に先進国の価値観として当然に守られなければならない基本的な諸権利というものとがしばしば抵触をすることがある。それをどういうふうに調整するかということが、たとえばいまILO等で非常に回を重ねて論議されている問題でございまして、これはもちろん強制的な方法でやるわけにはいかない。しかし二つの大戦を経て世界の先進諸国が共通の理解に達してきているのは、やはりもし言論の自由とか結社の自由とかいうようなものを侵犯する国が、そういうものを武器にして多国籍企業を誘致するような行動をとるならば、長い目で見てそれは恐らく正常な国際的な秩序の発展にとってマイナスになるであろう、そういうやはり道徳的な批判、圧力というものは国際機関を通じて十分にやっていかなければならないだろう。条約や勧告を批准してくれる国はまず問題がないわけで、実は問題があるのは、そういうのを批准できないし、するつもりもないような国が現に国際社会の構成員として連なっているという状況でありますので、これはすでに微妙な問題はそれぞれの国際機関における討議の場においてむずかしさが那辺にあるかということは十分に明らかにされている点でありますが、やはり国家主権を侵してはならないのはこれは当然なんですけれども、そこにやはりわれわれの理想とする国際秩序なり、先進国における産業秩序なり、そういうものとしばしばあつれきを生ずることがある。その調整は、国際機関における合意に基づいてやらざるを得ないけれども、その合意を得るプロセスでは恐らく企業、労働、政府というような、そういうそれぞれの持っている利害関係から相当激しい意見のやりとりがあってしかるべきであろうと思います。  それからもう一つは、やはり国家主権を侵すことができないし、侵してはならないことは当然でありますけれども、私はいままでの歴史を見て感じますのは、企業が現実の利潤追求の行動の中で、絶えずそういう既成の国家秩序なり国際秩序というものを先取りして変化を起こしてきている。今日の多国籍企業という問題もやはりそうした大きな問題の一つのあらわれではないかと思いますので、国家主権というものそのものも、国会の場でこういうことを言ってもしようがないのかもしれませんが、長い目で見れば、そのものがやはり変わっていくものであろう、そういう大きな調整に対する挑戦を多国籍企業が提起している、文化的にはそのように理解すべきであろうと考えております。
  65. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 まず、主権の問題でございますけれども小島先生がおっしゃいましたアメリカのパワーポリシーの問題は私、省きまして、経済面に限りますと、たとえばカナダの場合について、現在問題になっておりますのは、アメリカの通商政策やあるいは独禁政策で、いわゆる独禁法の域外適用といったようなことがカナダの主権を侵しておるということが問題になっております。お配りしました資料の最後の提案のところにはその問題が具体的に述べられておりますけれども、たとえばカナダの場合には、次のような三段階措置によってカナダに対する海外諸国の独禁法の適用が排除されることを提案するということで、たとえば国外の裁判所の命令を理由にカナダの連邦管轄地域内の企業から業務上の記録、データ類を持ち去ることを禁止するような法律を制定すること、つまりカナダの子会社を規制しようとしても、アメリカの方の裁判所の命令で子会社の資料を全部持って帰っちゃうというようなことをさせないようにしなければいけない。それから海外の……。
  66. 渡部一郎

    渡部(一)小委員 先生、それは拝見しましたから結構です。
  67. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 そういった問題は決してカナダだけにとどまらずに、日本の場合でも起こり得るだろう。したがって、情報収集や規制の場合にそういったことを検討しなければならない。  それから戦争に巻き込まれる危険性の問題につきましては、たとえば南アフリカ共和国あるいはブラジルに対してヨーロッパ、アメリカの多国籍企業が原子力開発機器を輸出している。そうしてウランを開発して持って帰るといったような問題があるわけです。こういった問題が最近非常に進んできたことが、世界の平和と安全に非常に危険な状況をもたらしていることは御承知だと思いますが、日本の場合につきましては、いわゆる原子力開発計画では大体一九八〇年、八五年ごろには世界で第二位、第三位の原子力発電の能力を持っていく。それで膨大なプルトニウムができるわけですが、そうして結局、核燃料の再処理機構を今度持つという方針が出ているわけですけれども、そういったことが特にゼネラル・エレクトリック、ウエスチングハウスによる日本のエネルギーに対する市場分割支配、こういった問題を同時に考慮していかなければならない。その背後にはモルガン及びチェース・マンハッタンといったような財閥中核銀行がそれに融資をしているといったような機構があるわけでありまして、こういったこともまた日本のエネルギー問題に対する主権の問題であると同時に、やはり平和と安全の問題に非常にかかわってくる問題ではないかというふうに考える次第であります。  時間がなくなりましたので、第二の問題、資料がありますし、述べたいですけれども、これで省略いたします。
  68. 吉田寛

    吉田参考人 大変むずかしい御質問で、二つです。  一番最初の国家主権の問題というのは、私、最初意見開陳するときに申し上げましたように、多国籍企業自体が国家主権に対して挑戦しているわけで、というのは、われわれの方で言いますと、連結財務諸表をつくるというような具体的な場合に、エンティティというか、主体をどうとるかという場合、リーガルエンティティ、法律的な主体じゃなくて、エコノミックエンティティ、経済的主体というものをとる。そうしますと、アメリカの松下も日本の松下も一つになるという、一つの例でございますが、そういうふうに一つのエンティティになる。ということは、国境を越えて一つの主体である。これが強度に進んでくるのが多国籍企業でございますね。そうすると、国家主権というものがその面でエスケ−プされているということは確かである。それで、エスケ−プされたからといってそれに対してどう対応していくかというと、国家主権としてはその国民の何らかの権利、福祉、そういった問題がないがしろにせられたとき、つまりそれに対してダメージが与えられたとき保護しなくちゃならない、あるいは威信にかかわるような事件が生じた場合、それに対して対応しなくてはならない。こういうことになりますと、私は多国籍企業政府との間の調整問題というのは、まず最初に出てくるだろうと思います。そういう調整ということを通じて、この場合は具体的なケースを通じて解決を多国籍企業特定政府の間で行う。しかしそういう問題だけで片づかないから、国連というのは一つの場所だと思いますが、そこで国家主権に対する侵害をどういうふうに防ぐかということを検討したり、アグリーメントを使ったりするということはございますが、ここで私はいつも思うのですが、ヨーロッパ議会の誕生ということですね、あれは多国籍企業の問題と非常に深くかかわっている。したがって、ヨーロッパ議会というふうなものの今後の行方というものが多国籍企業問題に対する一つの答えを出すのではなかろうか、こういう印象を持っております。  パワーポリティックスで押しまくるという多国籍企業、これにつきましては、私、最初申し上げましたように、三つの多国籍企業タイプがある。特に本国志向型の場合は全くこれで押し切ろうとする。そういうのがなお依然きわめて強力なアメリカ企業にある。ここが問題なのですが、第三のタイプである無国籍企業と言われるような、完全にインターナショナルに溶け込んだような企業として多国籍企業を育成する方向を各国政府検討すべきでないか。つまりこれからの各国政府の発言というのは、その国内を治めるということだけでなくて、国際的なそういう問題に対して方向性を与えるような、そういう国際議会的な活動ということが必要になるであろう。このエグザンブルがヨーロッパ議会である、こう申し上げておきたいと思います。  第二の御質問の不公平感、これはいろいろなレベルがあることは事実でございますが、これについては一つの方策は所得の再配分でございますね。所得を再移転させるという政策をどのように導入することができるかということでございます。たとえば先進国と開発途上国との間の所得の再配分ということを具体的なプログラムにのせていく、こういうことが必要でございます。これはまさに一つの外交的な課題を含んでいるわけだと思います。  それと第二に、これはハーバードのプロフェッサーが言っておる一つの言葉の中に興味のあるのは、今日はアメリカ社会も道徳主義的政治の時代である、それが一九七〇年代以降の課題であるということを言っておるわけですね。これはガルブレイスの出現以後かなり高いトーンで出てきている形でございます。そういうふうな政治理念の転換ということを各国政府検討されるならば、そういう方向からも救う余地が出てくるのではないか、こういうふうに思っておりますので、何よりも政治の意識の転換ということが国際的レベルで行われるべきである。これは多国籍企業を推進している指導者たちが常に願っていることなんですね。それがおくれているから国家主権問題と衝突する。何も悪いことばかりしているのではないけれども悪いやつだと言われる、それはまことに困ることだ、こういうことを言っております。それで私は最初に、社会システムの移転が多国籍企業活動だと申し上げた。その観点からとらえていただきたい。  以上でございます。
  69. 渡部一郎

    渡部(一)小委員 大変おもしろい話を続々聞かしていただきまして、私、皆さんのお話をもう一回確かめ直していただきたいと思いますし、また小委員会にお出ましをいただくなりして聞かせていただきたいとさっきから思っておったのです。  たとえば、先ほど小島先生が、直接海外投資というやり方がいかにフリクションが多いかというお話をされて、技術を完全に移転し、考え方を移転させるためにはそれは効果的だが、しばらくしたら摩擦を避けるためにフェイドアウトしてくる方法を考えていいのじゃないかとおっしゃいましたね。私はあれは非常におもしろい案だと思う。わが国経済協力に関する原則の一つとしてチェックしてみていいのではないかというふうに私は思ったわけです。  それから、先生はパテントのお話をされました。後発国においては、パテントの重要部分というのは全部押さえられて身動きつかないほど堤防ができておる。新パテントに手が出ない。私も工学部の出身なものですから、そういう後発国で、パテントの波で工業化が完全にストップする国をたくさん見ているわけですね。その完全後発国に対しては国連なり先進国の援助の対象として、パテントのある部分、必要パテントというものは供与するというようなことも当然、経済協力の一観点として考え、提案をわが国としてしたらいいのではないかということも、私はお話を伺って思っていたのですが、こうした日本企業の後発国に対する投資、これは余り大きなのではないのが行っているわけですが、中小企業ぐらいのが出ていっても多国籍企業の大型と同じような相当のショックを与えておりますから、とりあえず日本企業が東南アジアその他の南の国々に対して、行儀作法としてどういうことを行うべきであるか、個条にして簡単にお話しいただけませんか。
  70. 小島清

    小島参考人 経済発展というのはやはり同じような段階的な発展プロセスを経るものだと思います。それは日本でも明治以来百年余たっているわけですね。その間に、最初は生糸だとか茶を出して、そして綿製品を買っていたのですね。その綿製品にかわる綿業を興すというのから始まって、その次に、ある段階まで来て、八幡ができましたのは一九〇一年ですか、その次の主要産業である鉄鋼業を興す。それからいろいろな重化学工業を一九三〇年代後半に興そうといたしましたが、これは不幸にして戦争で中断されまして、その重化学工業の花が咲いたのは戦後であって、一九六五年くらいまでで一応重化学工業化が終わって、そしてその後はもう一つ、いわゆる知識集約産業ですか、何か新しいものに移ろう、移らなければならぬという段階になって、その間に教育も進み、一般の技術も進みというので、次の段階産業がとれるようになるわけですね。そういう順序を経て行くべきだ。大体において日本のやってきたような産業発展の順序を経るように、近くの開発途上国に順次産業を移植するというか教えていく、向こうでやれるようになったら引き揚げるというのがよろしいことだと思います。これはもちろんコリア、台湾とタイではもう段階が違いますし、あるいはフィリピン、あるいはインドネシア、またそこにある資源の賦存状態等から違ってくるわけでありまして、それは十分に、しかもいまだけじゃなくてこれから十年先を見通して判断しなければならぬということになります。  具体的に言うということは、これは実はある意味で一般知識でありまして、しかしそれは企業にとってはインフォメーションにならぬわけです。みんな知ってしまうというインフォメーションは企業のもうけにはつながらない。それじゃだれがそういう正しい出ていくべき産業を判断するかと言えば、血のにじむ思いを持ってこれならうまくいくという判断をする。しかし、それは自分のところの企業だけを考えている人では判断できない。幾つかの産業を見回して、現在はこれがいいだろうという判断をする人が要るわけですね。しかも、それは損益に結びついた計算でなければならぬですね。それができるのは何かと言えば、私はやっぱり総合商社と大銀行というようなものの機能だと考えております。われわれ学者の言うのは、一般的に言えばたとえば労働集約財がいいだろうということしか言えない。その中の繊維だ。繊維の中で何かという判断は結局企業がすべきものですね。しかし、その企業に、彼がやっている種類の生産とほかの産業と比べて、いまこれが行ってもいいというようなアドバイスができる者が要るわけですね。そういう意味で私は、商社、銀行とメーカーとが組んでというのは、つまりそういう計算、情勢判断を一般的な情報じゃなくて本当に生きるか死ぬかの判断でやる。そこに初めて正しい進出企業が選ばれる、そういうふうに考えております。
  71. 渡部一郎

    渡部(一)小委員 委員長が御発言になりたいというお話でございますし、私の持ち時間がいっぱいになってきましたので、それでは一つだけお願いいたします。  先ほどの第一問で私が申し上げたのに対して、国家主権と多国籍企業の利害というのが衝突した場合に調整する必要があるという御意見もありましたし、お話伺っておりましたら、要するに国家主権のある部分というものについて多国籍企業と話し合うことによって、だれに利益を与えるかという観点から調整をなすべきだという御発言があったということは私は非常にいい意見だったと思う。織田信長が楽市楽座をつくったときに抵抗があったのに、ある意味では強行することによって近代経済に道を開いたという面もあるわけですから、その意味で非常におもしろい意見だと思っているわけです。先ほど吉田先生がお話の最後のところで、多国籍企業自体としてこれ以上の発展については自主規制を自分でやるという雰囲気もあるし、そうしたことも考慮されつつあるというようなところで時間切れになりました。その部分少し話していただけませんか。  それから、国と多国籍企業間の調整、これは考えてみたら私は大きなことだと思うのですが、もう多国籍企業の大部分のものは、国連に出てくる小さい国よりはるかに強力な力を持っている。神代先生にその部分ですね、多国籍企業というものが、会社とか商社とかという、昔は小さいということで見くびられた、国の権限からするとはるかに小さいものが、いまははるかに巨大なものになっている。わが国外交官も正式に多国籍企業一つずつに大使館を出した方がいいぐらい大きな力を持っている。ですから、大使館を置くとか接触するとか、先ほどカルチュラルショックとおっしゃいましたが、カルチュラルショックを調整するために政治のアプローチをとおっしゃいましたが、そういうものが考えられるのは、一つの多国籍企業の力なり権能なりというものが、旧式の企業の範疇を超えてきて、国家以上の国家として登場してきたことを示しつつある。それに対して外務省というのは、企業はおれは知らぬ、企業というのは通産省の所管であるというように非常におくれたスタイルで来る。そこのところを見直して、要するに地球上の強力国家グループに対してアプローチをするという姿勢で臨まない限りはうまくいかないのじゃないか。そのためにはどういう手続と、どういう最初のアプローチが要るか、その辺を先生にはひとつお伺いさしていただけないかなと私は思うのです。  それから、お三方に一遍に言ってしまいますが、一ノ瀬先生は先ほどから法的規制を非常に強くおっしゃっておられます。われわれが経済活動を見ておりましたときに、法的規制を大量に加えたところほど、むしろ言うなれば逆効果というものが非常に多く出るケースというものがある。たとえば、官僚統制下にあって身動きつかなくなったソビエト経済みたいな動き方を見ると、官僚統制を増強する方向というのはきわめてマイナス的な部分が多い。むしろ官僚統制でない方式をとった国の方が、社会主義的政策を実質的にうまく生かしたというケースが多く見受けられるように思うのですね。そうすると、法的規制による限界というものは当然出てくるだろうと思う。その部分について、先生はそうした方面について御専門で、十分お考えだと思いますので、どの辺のところは強く規制をしてどの辺のところは残すのか、要するに規制のかけぐあいいかんによっては、多国籍企業をますます怪物化することもできる。変なところを抑えるとそうなるし、いい点を助長するならば、いい意味発展をさせることができる。その縦分けをどの辺に置かれているのか。私、舌足らずでありますが、お三方の先生に恐縮でございますが、簡略に一つずつお願いいたします。
  72. 神代和俊

    神代参考人 確かに御指摘のように、多国籍企業は国家をしのぐような力を持ってきているので、そういうものを相手にして、一体それぞれのか弱い国家が自分の国家主権を侵されないようにどうしたらいいかというこの答えが出れば非常に簡単で、出せればここへ来る必要もなかったのだろうと思いますけれども、一番私が痛感しますのは、わが国の場合に限って言えば、よくわかりませんけれども、一般にわれわれ研究者の間で言われておりますのは、日本の商社なり巨大な多国籍企業に限ってみても、日本の大使館の持っている情報量よりもはるかに多いのではないかということです。現に日本の東京にあります本社でいろいろな形で接触をしてみますと、大変な情報を持っていらっしゃいます。われわれが特定の研究目的に使う場合に利用させていただくこともありますけれども、まあ日本政府の各省庁間のなわ張りがどうなっているのかよく存じませんが、的確な情報をなるべく早く大量に収集して、それを特に国会議員等の皆さんに適切迅速な形で提供するシステムができているのかどうか、その辺がむしろ一番知りたいところでありまして、その点で改善がないと、とてもエンティティーとして活動している多国籍企業の力には対抗し得ないのではないかという印象を持っております。
  73. 一ノ瀬秀文

    ○一ノ瀬参考人 法的規制が強化された場合には、経済発展にいろいろ否定的な影響を与えるのではないか、あるいは官僚主義を助長するのではないかという御質問であったと思うのですが、第一の問題につきましては、やはり私はカナダの場合が非常に教訓的な例ではないかと思います。カナダの場合は、最初は規制なしに野放しで外国資本を導入したわけでありますけれども、いまでは、確かに一面ではカナダの経済発展というものが出てきたわけです。ところが、逆にカナダのアメリカに対する非常に強い従属的構造というものができて、それがカナダの貿易収支やあるいは国際収支、通貨といったところに大きな影響を与えておりますし、あるいは価格の動き等々についてもワトキンス報告では分析されておりますけれども、そういった独占的行為というものがあらわれてくる。そういう意味で、これはガイドライン方式で多国籍企業の善意に期待するということで始まったのだと思いますけれども、それはやはりそういった結果をもたらしたというふうに考えられるわけです。  さらに、今度は発展途上国の例で見ますならば、韓国あるいは台湾等々、シンガポールもそうでありますけれども、韓国の場合には、単に古い産業だけではなくて、高度技術産業を導入するということで、とりわけ電子工業の導入というのを図りまして、韓国での産業生産高の第一位は電子工業であります。これは馬山自由貿易地域でありますとか、ああいった保税加工地域を設定して外資を積極的に導入したわけでありますけれども、ところがそこへ出てくるのは決してフルラインの生産が来るわけではないわけで、単なる組み立てでありますとか、あるいは部品生産といった一部分だけがやってくるわけで、基本的な部分はやはりアメリカの本国で握っている。つまり、労働集約的な部分だけが出てくるわけであります。だから、これをフェードアウトで、その国にたとえば所有権を譲り渡したとしても全然役に立たないという、こういった相互補完方式というものがあるわけです。わが国企業の場合でも、電子工業や繊維工業、あるいは最近では自動車工業が東南アジアでアジアカー計画という形で国際分業体制をつくるわけですけれども、ほんのラインの一部分だけがその国にあるわけでありますから、国有化しても全く役に立たないわけであります。そういったことを企業の方は非常に厳密に計算してやっておりますので、これ自身が多国籍企業に対するその国の経済的依存という体制を強めてまいるわけです。韓国では労働争議そのものすら自由貿易地域では禁止されておりますし、シンガポールでは労働組合法を改悪して、やはり多国籍企業の進出を容易にするということでやったわけであります。これは石油ショック以後電子工業が不振、つまり日本などへの輸出が減りまして、数万人の失業者が一挙に出てくるといったような、そういった構造ができるわけであります。そういう意味で、必ずしもガイドライン方式でよくて、規制はしなくてもいいというだけでなくて、もっとそこにそういった問題も考えなければならないだろう。そういった構造の上で企業が行動いたしますので、全然規制しなくてもいいとかいうことじゃなくて、あるいは善意に期待するということじゃなくて、やはり規制というものはしなければならぬ。野放しにしていけば、その国の経済構造は非常に変っていく。だから、産業構造政策の観点からも、外資をどういうふうに扱うかということを考えなければいけないだろうということが第一点でございます。  それと同時に、立法規制が必ずしも官僚主義をもたらすものではないだろうということは、カナダのケースでも、恐らく法改正をして、あるいは特別立法をしてまでも強化しなければならぬという——あそこは非常に自由民主主義の国であって、決して官僚主義が強化されておるというふうには考えないわけでありますけれども、しかしそれは何もまるで犯罪人扱いにしてしょっちゅう監視をしているという意味ではなくて、定期的に情報を公開させつつチェックをしていくということになるかと思います。  さらに、企業内の労働組合などが不当労働行為に対して告発していくというようなこともあり得るわけで、日本のIBMその他外資会社における不当な労働行為がありますので、こういうものを自由に国民が告発していくという自由も必要かと思います。
  74. 吉田寛

    吉田参考人 私に対する御質問は、自主規制論、こう理解いたしますが、時間が余りないようでございますが、まず簡単に根拠を申し上げます。  経済人の価値観に、時代に対応できるような変化がないと考えられるかということでございます。あれだけ激しい国際競争をしている経済人が、時代に対応できないような、価値観の適応能力を全く持たないとは考えられない。そうしますと、経済人の世界情勢に対する対応に信頼してよろしいのではないかということが一つでございます。  そして、世界的な資源の有効利用を図るということのためには多国籍企業がきわめて有効である。それを有効たらしめておるのが、そういう経済的な指導者であるはずなんです。それに対する信頼性というものがあってしかるべきだと思うということでございますが、以上申し上げましたのは、国際情勢に対応する適切性と適時性というものがございます。このタイムリーであるということと適切であるということは、法規制、立法による規制というものではとても果たすことができないような、弾力的な、融通的な自由度の高いものである。そういう問題がございます。  たとえば多国籍企業の問題ではございませんけれどもわが国の商法が改正されたときに、第三十二条で「公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」というしんしゃく規定を入れました。これなどは、立法主義に対して一つの弾力的な条項を設けたわけでございます。これによって対応することができるわけです。したがって、私は、将来国際会社法というものができるとしても、必ずそういった弾力的な条項というものが設けられるべきだと思う。そこに私は経済人に対する信頼性の原則というものを復活をして、そして自主規制というものを考えるべきである。その根底に、アメリカの多国籍企業が現在パワーポリティクスを非常に横暴に振る舞っているという事実がたくさんございますけれども、将来ともそういう状況でいけないということは、今度のロッキード事件等を通じてSECがかなり積極的に機能したということであります。  このSECが積極的に機能したということは、私は高く評価できると私の専門の方から言えるわけでございますが、その背後にコモンロー思想というものとそれをさらにチェックするエクイティーロー、公平法の思想というのがございます。この思想というものを多国籍企業世界戦略の中でも十分に生かすような、道徳主義的な政治、経済というものを推進させるべきだと思うんです。つまり、現在アメリカの民主主義はアメリカ国内だけであって、国外にはむしろもっと荒い、封建主義的といいましょうか、全くアメリカの自由の精神と反するようなことをやっておると仮にいたしますと、そういうふうな考え方は徐々に排除していくべきである。それだけの健全な精神というものがアメリカ型の自由主義の中に存在しているはずであります。これは英米の資本主義の精神の根底にあると思う。したがって、カルビニズムが支えたところの資本主義という考え方が、新しい社会的な資本主義として機能する余地がある。現にお配りしました報告書の中でも、このプロフェッサーは、ソシアルキャピタリズムの時代ということを言っておるわけです。社会化された資本主義という形でアカウンタビリティーをとらえようとしている。こういうもので自主規制論に対しては、私は、思想的な背景も持って信頼を置いているということでございますが、もっともそれが実現するまでには相当の紆余曲折があることは、十分に了解できることであります。
  75. 渡部一郎

    渡部(一)小委員 ありがとうございました。
  76. 水野清

    水野委員長 本小委員会の今後の運営について方向づけのために、ちょっと私から一、二承りたいのですが、さっきもタックスヘブンのお話がございましたけれども、たとえば具体的に申し上げますと、ニューヨークに日系のある現地法人の企業がございます。そこは為替差益をそこに置かないで、さらにタックスヘブンのあるカリブ海とかどこか小さな島のペーパーカンパニーに送ったとします。こういうものを日本の国家としては、これは主権があって捜査はできないわけでありますけれども、たとえば日本の国内でそれを何かの形で課税することができないであろうか、これは一つ問題が今後出てくると思います。  もう一つ、これは全然別の問題でございますが、よくあるのは、これは神代先生なんか御検討だと思いますが、日本の船会社の船なんでありますが、実際はパナマ籍を持っておったり、リベリア籍を持っておったりする船が非常に多いわけであります。こういう船は、もちろんこれは税金が安いからそういうところに船籍を履くわけでありますけれども、これも多国籍企業一つだと私は思いますし、これに例の東南アジアやインドやフィリピン人なんかを使って、低賃金で船を運航しているという問題がございます。こういう問題についても、時間がございませんのでごく簡単に、これは後のは神代先生、前の方は吉田先生が御専門でございますが、ちょっとお話しいただきたいと思います。
  77. 吉田寛

    吉田参考人 それでは時間がございませんようですから簡単に申し上げますと、まずカナダがやっているようなワールドインカムに対する課税という制度を日本の場合に再検討する、その中で連結決算という問題を取り入れる、そして日本で捕捉できる資料を整備するということが一つ方法かと思います。  もう一つは、タックスヘブンを提供している国に対して、通常の課税を行った場合に支払うべきタックスについての情報提供を依頼する。こういうふうな国際間の協定というものも確立されてよろしいのではないか。  以上、二点でございます。
  78. 神代和俊

    神代参考人 海員の問題は、労働問題の中でちょっと特殊な領域なものですから、私必ずしも直接研究をしておりませんが、私は最終的な形はよくわかりませんけれども、当面はやはり海員組合が非常にいまその問題を重視して取り上げておりますが、労使の団体交渉の中で一番適切な道をやはり見つけさせる以外にないと思います。その過程で、恐らく労働組合の方から当事者間では解決し得ない問題点が浮かび上がってくると思いますから、その点について国会等で側面的な援助ができるのではないかと思います。まず当事者間で争わせた方が、日本の法律上のたてまえからいきまして、その中でどうしても国内的に解決し得ない問題点が煮詰められた段階措置を考えられた方が適切じゃないかと思います。
  79. 水野清

    水野委員長 どうもありがとうございました。  この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、長時間にわたりまして貴重な御意見をお述べいただきまして、本問題調査のため大変参考になりました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)  次回は、来る二十七日水曜日、午後一時から小委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後五時十一分散会