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中江政府委員 これは
北朝鮮が特に最近
板門店事件で示した態度、それの前に八月のスリランカのコロンボにおける非
同盟会議での
北朝鮮代表の
行動、それから国連に対する
議題要請及び
決議案の撤回、そういう一連の事実をつなげてみますと、
北朝鮮というのは何か少しいままでとは違ってきてはしないかという疑問はだれしも持ったわけですし、私
どももそれをいろいろ検討してみたわけですが、
冒頭にお断りしておかなければならないと思いますことは、あの国が、閉ざされた社会という言い方がいいのかどうか知りませんけれ
ども、いわゆる
自由主義諸国のように自由に
情報が取材できないし、またそういうふんだんな
情報が手に入るわけでもなくて、実は向こうの
政府の
正式発表とか
ピョンヤン放送とか、そういったたぐいの限られた、非常に制約のあると思われるような
情報が主として
情勢判断の
前提になる。これはやはり相当注意しなければならないだろうと思いますが、
他方、
日本と
北朝鮮との間には、
貿易、文化、スポーツ、その他の
人事交流もおいおいあるわけでございますので、そういう
北朝鮮を訪れた
日本の方々から現地の生の空気を聞く、あるいは
貿易に従事している商社なり
企業の受けている感触、そういったものをいろいろ総合して
考えざるを得ないわけで、それでもやはり他の
自由主義圏諸国における
情報の把握とは比較にならないぐらいに
情報不足ということですので、にわかな
情勢判断はなかなかできにくい、これは
冒頭に申し上げておかなければならぬと思います。
そういうことを
前提といたしましても、最近の
北朝鮮の
情勢について注目される大きな問題は、まさしくいま
水野先生も御
指摘になりました
北朝鮮における経済的な困難、これがやはり相当深刻なものではなかろうか。これはもう
日本に限らずそのほかの
ヨーロッパ諸国でも、
北朝鮮と何らかの経済的な
交流を持っている国が等しく得ている印象でありますし、相当の債権がこげついているということも、これは事実の問題としてあるわけです。
もう
一つは、
内政の
後継者争いと普通言われておる問題ですが、これは私
どもとして一番掌握しにくい問題で、未
確認情報の積み重ねでしか
判断ができないということでありまして、これはもうしばらく見守らないと、果たしてどういうことになっているのかということはわからない。
いずれにしても、そういった経済的な困難、それからもう
一つ、あるいはあるかもしれない
国内における
政治権力闘争、そういったものが
北朝鮮の当局のこの夏以来のいろいろの
行動、その
行動の変化、激変の中にどういう影を落としているのだろうかということを
考えますと、どうも私
どもは、ただ
北朝鮮内部のそういう問題だけでは説明し切れない面があるのじゃないだろうか。といいますのは、やはり
朝鮮半島の平和と安定というのが、御
承知のように、非常に複雑に絡み合った大国のバランスというものがある程度の抑止力になり、現在における平和と安定の
一つの要素になっている。そういたしますと、この背後にある大国の
関係あるいはそういう大国の思惑というものが、あるいは
北朝鮮の側の動きの中に反映されている面があるかもしれないということも
考えてみたりしておるわけですが、これにつきましても、ちょうどサイゴン陥落の直後に金日成
北朝鮮の主席が北京に行って、中国に何らか教えられるところがあったというようなことが言われたり、その後モスクワ訪問が実現される、されると言われながら、まだそれが実現していないというような問題もありますし、この数年の期間でとってみますと、
北朝鮮の動きというのはなかなかわかりにくいし、どうもやはり
朝鮮半島全体を支えている米、中、ソという大国の間の均衡の中に、もう
一つこのなぞを解くかぎがあるのではないかというような気もしております。
ただ、そういう問題になりますと、各国とも極東の安全全体に非常に関連いたす問題ですし、その中には米中の問題も中ソの問題も入ってくるわけで、私
どもの限られた
情報で即断することは非常にむずかしいというようなことで、いまのところ、
北朝鮮にはいままでとは違った
情勢があるようだ、それのよって来るところには、経済的危機だとか背後にある大国の間のいろいろの配慮、考慮とか、あるいは場合によっては
国内政治の
権力闘争というようなものが一応要素としては
考えられるけれ
ども、まだ、これだ、あるいは、こうなるだろうと言うところまで断定するには至っていない。要するに、
北朝鮮がいままでと違ったアプローチを、
板門店事件の直後、それから国連における朝鮮問題の討議というところで示している。それをもう少し見守って、どういう路線になっていくのだろうかということを慎重に検討していきたい、これが現状でございます。