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公述人(加藤睦夫君) 私、御紹介にあずかりました立命館大学で
財政学をやっております加藤でございます。よろしくお願いいたします。
私のテーマは
財政ということでありますが、これは言うまでもなく非常に広範囲にわたりますので、要約的に三点ないし四点ぐらいで私の
考え方を申し述べさしていただきたいと思います。
まず第一点は、これは今
年度の
予算の、十二月に
予算につきまして編成方針が最終的に決定になりました、その編成方針に従って明らかでありますが、実はその編成方針の順序と少し逆になりますが、第一に
不況対策予算の問題について申し上げたいと思うわけです。
御承知のように、この
不況対策予算は必ずしも公共
投資だけじゃなくて、
減税、まあ
減税にも
企業減税と一般の
減税と二通りあろうかと思うのですが、要するに
減税政策と、それから社会保障を中心にいたしました
政策と、大まかに言いまして、
公共事業、公共
投資だけじゃなくて、その三つの柱ぐらいが今日の世界の常識だろうと思うのですが、五十一
年度予算はそれに対しまして非常に明確な性格を持っておる。といいますのは、
公共事業中心ということで徹底した性格を
不況対策の面では持っているわけであります。
これはちょっと数字を申しますと、
公共事業予備費を入れますと前
年度に対して二六.五%の増。
予算全体は一四・一%の増でありますから、いろいろ細かいことは別にいたしまして、非常に大局的に言いまして、この
公共事業あるいは公共
投資の比重の大きさというものを知ることができるかと思うのです。
しかも、その
公共事業の中身を見ますと、もちろんこれは一般に言われますところの社会資本の中でも一、産業
基盤と私たちも普通呼んでいるわけですけれ
ども、それだけではなくて、生活
環境、下水道であるとか、それから住宅などの
予算が組まれていることは事実でございますけれ
ども、しかしそれはよく中身を
考えてみますと、いま言いました二つの生活
環境なり住宅
予算というものは、実は国家
予算がひとりだけで歩けない、そういう性質の公共
投資である。つまり生活
環境予算ですと、これは地方
財政を通じましてほとんど行われますので、地方
財政の
財政状態というものの中で行われる。
政府はそれに対する補助金あるいは起債を認めていくということになるのですけれ
ども、やるのは地方
財政である。それから住宅
予算の場合にも、これは公営住宅というものもありますけれ
ども、その大半は一般の庶民のつまりふところにかかっているということでありまして、これについていろいろの
考え方ができるわけですが、つまりこれはある程度ある
意味で人のふんどしでやらざるを得ないという面がありまして、帰するところはその
公共事業の中でも
政府の
予算を中心としたものになっていることは争いがたいと思うわけです。
この数字をよく見ますと、まだ額は小さいのですけれ
ども、やはりいわゆる大型プロジェクトと申すもの、それは何といいましても列島改造
計画で、あるいはその前の、列島改造
計画だけじゃなくて、あれは何と言いましたですか、
経済計画の中でも出てくるあれにありますけれ
ども、それが総
需要抑制の中で二、三年の間繰り延べられていたものが復活した形としか受け取りようがないわけであります。今
年度予算で出てくる額
自体を見ますと、まだそれほど大きいということは言えない面もありますけれ
ども、これは全体かなり長期の、しかも大量の継続事業であるということで、将来を
考えますと、また大蔵省でお示しになりました中期
財政計画、これは非常にちょっと読むのもむずかしい数字でありますけれ
ども、トレンドから言いましてもこれはかなり重要な位置に育ってくることは間違いないかと思いますわけです。
そこで、このような大型プロジェクト、しかもそれが、いわゆる産業
基盤中心の大型プロジェクトを中心に組み立てられた
不況対策予算というものは、実は私はここで二つの問題をそれについて出してみたいと思うのですが、その
一つは、これは大型プロジェクトというものは、特にこれは列島改造型で言いますと、これの前提になる
経済計画というものがありまして、非常に何といいますか、国際的な
関係でも楽観的な
見通しのもとでつくられて、御承知のような素材型工業に中核を持ちます
日本の産業構造がかなり飛躍的に発展してくるという、その前提でつくられたものであります。で、今日、ことしの
予算でそのような形態の
不況対策予算が出てきましたということは、このことをどう
考えておるのか。つまり高度成長の反省ということが、これはいろんな
言葉で言われるわけですけれ
ども、一体こういう大型プロジェクトの復活ということで一体何が反省されて、その結果、同じ産業
基盤にいたしましても、もう少し国民がそこらがわかるようなものになっていいのじゃないかということであります。つまり、高度成長
方式というものが公共
投資の面では変わっていないのじゃないかということがあります。
それから第二点に、これらの大型プロジェクトというものが、実はいま申しましたのは
一つの
基盤投資なんですけれ
ども、他方では、非常に直面する問題といいますか、当面の問題としての有効
需要の創出ということがあるわけですが、このような
不況対策予算のつまり性質が、有効
需要創出という面からいきますと、大変
需要の及ぶところが一定の産業あるいは一定の
企業、あるいは大
企業に偏った効果しか持たないということになりはせぬかということであります。
そのことは、同じ
公共事業というものを中央、地方を通じて見ますと、ここにかなり、つまり中央重点の形が、有効
需要の面でも非常に限られた、しかもかえって産業構造その他を改編しなきゃならぬときに、その問題を、いままでの高度成長過程で発達してきた
企業あるいは産業構造をそのまま維持し、延命するというような結果になりはしないかということで、したがって、この
需要というものも国民全体との
関係、あるいはもっと直接には
中小企業などの
関係でいきますと、非常にこれの効果というものがどれだけあるかということについて疑問を持たざるを得ないということを申し上げまして、これが第一点でございます。
それから第二点は、これも
予算の編成方針の中ではっきり出ている問題でありますが、つまり
不況対策と、他方でこれは行
財政の新しい
段階に相応するところの、一言で言いますと合理化ということであろうかと思うのですが、そこで、ここで二点か三点ほど問題を申し上げさせてもらいたいわけですが、その第一点は、これは一般行政費を厳に
抑制するという、表現を使いますとそういう表現になっておるわけですが、これはまあ全体として非常に問題が具体的に話しにくい面がありますので、私はここでは人件費について
考えてみたいと思うわけですが、つまり、この人件費は、単に公務員の給与ということだけでなくて、社会保障から、あるいはすべての
公共事業にまで及ぶところの
一つの行政のベースをなす問題だというふうにつかまえまして、それで申し上げるわけですが、ここで本
年度の
予算では人件費のアップ分を五%というふうに計上いたしまして、それで
予備費を他方で——これはアップ分で約二千億足らずだと思ったですが、他方で
予備費を三千億取るということで、なっているわけであります。そのことは、さらに編成方針にも出てくるわけですが、総合
予算主義を堅持するということで、つまりこれは補正を組まないことを目指すということであるわけですが、そういう中で
考えますと、これはもちろんこの
予算というものは、実際に給与が決まりますのは
予算で決まっていくという、私はこの点は余り詳しく申し上げる自信はありませんけれ
ども、ことではない。また独自の面があるわけですけれ
ども、しかし、
予算の態度としては五%にプラスアルファという、こういう態勢というものは、名目国民
所得が一三%増大するという、それとの
関係でどういう
考えなのかということであります。先ほど言いましたように、これは単に給与問題という狭い
意味じゃなくて、行政のベースとしての
意味で私は言いたいわけですが、その点は、これはあるいはことしの実情から言いますと、御承知のように一けたということでおさまっているということに、春闘はこれは終わったわけじゃありませんけれ
ども、いまの情勢はそういうことでありまして、
民間賃金との比重といいますか、つり合いということからいきますと、この
予算で出ている数字は大過なくいけそうでありますけれ
ども、しかし、こんなことは何年も続けてできる、あるいは来年またこういうことでやれるような性質のものでは全くないということを申し上げておきたいわけです。
それから第二点は、一般行政費と並びまして
社会保障関係、これから後でまた安恒さんの公述がございますので、私は簡単に申し上げるわけですが、ここではこういう認識になっているわけですね、つまり、
日本の社会保障あるいはもう少し広く社会福祉を含めまして、
制度的にはすでにヨーロッパの発達した資本主義の国のレベルに達している。しかし
予算を見ますと、ヨーロッパレベルですと一般会計の三分の一が社会保障、広義の社会保障
支出に充てられているわけですけれ
ども、
日本ではとてもそこまでいっていない。二十数%を幾らも超えてないという実態でありますけれ
ども、これは結局、たとえば老人で言いますと、年金の対象となる老人の数がまだそれほどでないんだというような事情で、同じ
制度をとりましても、行く行くはヨーロッパレベルの
支出がいまの
制度は必要になる、そういう性質を持っておるんだということのようであります。このことは、実はことしの
予算案を見ましても、大まかに見まして、
公共事業に次いで、いわゆる
社会保障関係費ということで約二二%前年増になっているわけですが、しかしこれを見ますと、いま申し上げましたような、基本的には
制度改正というものは行わない、しかも将来の負担になるような
制度改正を行わないということは、特に
言葉の性質上、社会保障の面がかかわっていると思うんですけれ
ども、にもかかわらず、二二%の増があったということ、計上せざるを得なくなったということは、これは実は対象となる老人人口が上向きといいますか、相当顕著にふえてきている結果なわけであります。
そこで、そういう事態の中で、先ほど言いました大蔵省の中期
計画を見ますと、これは
制度改正がなくても、一般会計の負担というものは、大まかに言いますと約三割、三分の一の比重に達するはずでありますけれ
ども、中期
計画はどのような
計算で、あるいは
計画でおられるか、よく細部はわかりませんけれ
ども、とてもそういうことになっておらないわけです。いまちょっと数字が手元にないので省略いたしますけれ
ども。ということは、実は今
年度の
予算ではっきり出ているわけですが、つまり一般会計の負担というものをできるだけ
抑制していって、それで社会保障部面での受益者負担を強化していくということとこれは非常なかかわり合いがあるであろうと思わざるを得ないわけで、したがって、ことしの
予算を延長して
考えられますところの中期
計画を通して、このことをどういうふうに理解したらいいかということを
考えますと、これは受益者負担の強化ということを非常に大きなウエートで
考えているとしか思えない。それで、ことしの
予算はそれのいわば幕開きだというようなことにどうもなってくるということで、大変これは不安でありますし、不安であるどころじゃなく、そういうことで、自由世界といいますか、資本主義世界といいますか、そこで
GNP二位の、二番目の
経済力を持つようになった
日本の
財政というものがそのような社会保障の負担で済むかどうかという点につきましては、これは非常に現実性が乏しいのじゃないかということを言わざるを得ないわけです。以上が第二点です。
それから第三点は、一点、二点とかかわるわけですけれ
ども、その両方の前提には、つまり、
財政危機あるいは
財政の直面する困難な実態をどう
考えるかということがあるかと思うのですが、時間もございませんで、私の
考えを簡単に申しますと、今日の
財政危機、象徴的には国家
予算で言いますと、七兆円あるいは六兆円の
規模の
公債を発行せざるを得なくなるということで端的に示されます
財政危機の、最大といいますか、基本的な原因、理由というものを
考えますと、その第一は、何をおきましても、
日本の税制がやはり高度成長の過程でやってきました税制、つまり、これはできるだけ税負担というものを軽くしていって成長の促進力にしていくということが言えるかと思うのですけれ
ども、そのために、これはあえて言いますと、自由世界で最局のいわゆる資本蓄積の税制ということになっているわけです。これは西ドイツと相並ぶか、あるいは西ドイツを超えるというようなことでありまして、実は
経済環境はもうすでに高度成長の条件というものを前提に
考えるわけにはいかなくなっている、いろいろな面でそういうわけでありますけれ
ども、にもかかわらず、税制はまだ基本的な転回を見せていないということであります。
ことしの
予算案が、そのことにある
意味で着目されているということは否定はいたしませんけれ
ども、しかし、これを実際の数字で見ますと、たとえば悪名高い租税特別
措置を中心にした税制改正によってどれだけの税が増収になるかと言いますと、大蔵省の
計算によりますと百五十億円であるということであります。実際には、実情はどうかということを
考えなければならぬわけですけれ
ども、これはいろいろ数字のはじき方がありまして、まだ確かなところはわかりにくい点がありますけれ
ども、御参考にちょっと私のごく概算を申し上げますと、いわゆる租税特別
措置を中心にいたしました、狭義の租税特別
措置ではなくて、
実質的な
意味でのそういうものが、法人課税のところでもって約二兆円、これは法人だけではなくて、
個人課税のところでも決して見逃がすことのできないウエートを持っていると思うわけで、これが約二兆円。それに加えますに、世間では余り言わないのですけれ
ども、私は償却
制度というものが非常に重要な
意味を持っておると思うのです。これは特別償却などのことを言うておるのじゃなくてであります。
ちょっとそこのところを説明いたしますと、ちょうどまた不
景気のあれで、いわゆる
昭和の世界大
不況のあのころの
日本税制は、いわゆる減価償却率という
言葉で申しますとどのくらいだったかといいますと、要するに、償却資産を分母にしまして、年々の償却額を分子にしたというふうに大体
考えていただければいいわけですけれ
ども、実はここで正確な数字を持ってないのですけれ
ども、もちろんこの席上で申しますので本筋において間違っていないと思いますが、二、三%ということなんですね。ところが、これが満州事変といいますか、それから太平洋戦争の過程の中で一二%になる。今日はどうかといいますと、一八からたしか二〇%になっているということで、今日の償却のスピードというものは、
日本の太平洋戦争のときのあの軍事工業の育成
政策に償却
政策が最大の手段になった時期に比べましても、それの五割アップというのが実態であります。
これをことしのこの数字で見ますと、設備
投資が減った減ったといいましても、これは自治省のあれですけれ
ども、地方
財政計画の後ろにあります数字でいきますと、二十二兆円の
企業の設備
投資が行われておるということであります。これから、まあ
計算の仕方は略しますけれ
ども、引っ張っていきましても、大体第二次大戦中の軍事工業育成と同じ程度にしても、おおむね二兆円の税収増がある。これは素人の
計算でありますのであれですが、本質的には私は、数字の若干のあれは別としまして、そういうことが事実じゃないかと思うわけであります。くしくも、これは足しますと六兆円ということになって、国債発行額に、実は特例
公債をオーバーして建設
公債の分まで含んでしまうということであります。
私は、ここでは歳出の方のことは申し上げませんが、
財政危機というものを
考えます場合の第一の材料として、民主的な税制への追求が要るということを申し上げたいわけであります。そんなに
税金を重くしたら
企業は生産活動ができるかという御疑問につきましては、これは実は普通の税制で、資本主義
経済がつくり上げてきた、まあ資本主義的に妥当な税制でこういうことであるということで、何もたくさん
税金を取ればという
意味では全然なくて、公平な税ということで、そういうことになろうかと思うのですが、私は端的に収入のところだけ申しましたのですけれ
ども、そのようなものですね。つまり、実際に高度成長の中で
企業の利潤がかなり大幅に減少したこと
自体は否定すべくもありませんけれ
ども、しかし、そういう中で税制は基本的にここ二十
年間行われてきた。最近特に十
年間で非常なピークに達しました高度成長税制というものを基本的には変えるところまでいってないところに、まず最大の原因があると言わざるを得ぬわけですが、そこで、その結果、つまり私の言います税
財政、行
財政の合理化
措置によって歳出が
抑制されましたにもかかわらず、御承知のように六、七兆円の
公債の発行を余儀なくされたということでありまして、これは市中消化で大丈夫かというと、そういうことには全然ならぬわけであります。御承知のように、
日本の金融の
関係でいきますと、
公債というのは割り当てであるということで、銀行なり
企業の側が——銀行でありますけれ
ども、そろばんをはじいて
公債を引き受けているわけでも何でもないわけでありまして、それで、その結果、中央銀行はどうしてもそこに信用膨張の手段に訴えないとうまくいかなくなるという現実があるわけです。そのことが、御承知のように、一番大きな原因になって、昨
年度に比べまして二〇%の
過剰流動性の発生を見ているのが現在であります。これは狂乱
物価のときの
過剰流動性の
増加傾向と同じだということであります。
これにつきましてはもうこれ以上申しませんけれ
ども、最後に、そういう中で、新税としての付加価値税が、これは言うまでもなく、といいますか、どこが
考えておるかというふうにおっしゃられましても困るわけですけれ
ども、問題になっているわけですが、しかし、この付加価値税は、第一に、現行税制の民主主義的な改変をおくらせることになることが第一ですね。もちろんこれは新税である。ECですと、売上税とか、そういうものはすでにあったものを改変したわけですけれ
ども、
日本では新税であるということ。それから三番目に、これは
消費税でありますけれ
ども、
投資を非常に優遇する構造を持っている。それから最後に、
日本の
中小企業がこのような複雑な記帳になじまない、だから
中小企業に必要以上の煩瑣な手数をかけると一緒に、
中小企業は首尾よくそれを
消費者に転嫁できるという保証がないということで、大変むずかしい税である。原理的にこれが大衆負担だということは言うまでもなく、また、税制民主化をおくらせる実際の効果を持つしかないのが現状だと言わざるを得ぬということ。まだありますけれ
ども、最後に、これは非常に
日本の社会になじみがたいもので、したがって、そう簡単にできないという
意味で、またこれは悪税であるということを申し上げまして、大分時間が超過いたしましたですが、私の
考え方を述べさせていただいたわけです。(拍手)
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