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国務大臣(坂田
道太君) われわれが核の脅威に対しまして、この点については
アメリカの核抑止力に依存せざるを得ないということは、
戦争を未然に防止するという
意味だと私は思うのです。
戦争を起こさしめない、核の
戦争に至らしめないということです。第二次大戦後の世界の戦略というのは、これは釈迦に説法かもしれませんが、やはり核というものが非常な人命の破壊力を持ち、一千万とか一億とかいうものを一挙に死滅させるという、そういう恐怖が結局この核の競争になったわけでございますが、しかし、この核競争の結果としましては、一億も殺傷する核は使えない、使うことはなかなかむずかしいというふうになっております。朝鮮半島のときにもそうでございますし、中東
戦争のときにも一度は使おうかという可能性は検討されたようでございますけれ
ども、しかしそれは使えなかった。そうすると、それじゃ戦術核は使えるかといいますと、戦術核を使えば結局戦略核につながっていくということで、戦術核も使えない。逆に、このような核競争をやった結果として、むしろ核は使えなくなったというのが今日の傾向であろうかと思います。
だからといって、それじゃ核競争をやめてしまえということではないわけであって、特にヨーロッパにおきましては、NATOとワルシャワ体制においては戦術核を西側が保持しなければ均衡は保てないということで、むしろ、通常戦力はワルシャワ体制の方がはるかに多い、しかし、これによってヨーロッパにおける平和は維持されておるということだと思うのでございます。でございますけれ
ども、現在ヨーロッパにおいては平和が維持されておる。最近の傾向としましては、むしろ西側においては、使えないとするならば、通常兵力をやはりワルシャワ体制に、そこまではいかないにしましても現状よりもやはり増強しなけりゃならないと、こういうふうになってきた。あるいはアジア等におきましても通常兵力というものがやはり
意味を持つということになってきておるわけで、私から言いますと、核のかさが高まることによって、逆に通常兵力でもって勝負をしようという世の中にまた立ち返りつつあるのではないだろうか、こういうことも言えるわけでありまして、そういう世界戦略の一環として
日本列島を守る安全ということを
考えた場合に、この
アメリカの核抑止力が働いておる限りにおいて、しかも、中ソにおいては対立がある、あるいは米ソにおいてはデタントの一応の傾向がある、そして米中
関係はいままでよりもいい、あるいは
日本に対しても中国及びソ連はわが自衛隊を認めるというか、あるいは自衛力をとやかく言わないというふうに中ソとも
考えるようになってきた、こういうような状況において、起こり得べき、生起すべき侵略事態というのは、直接侵略事態というのはやはり小規模以下のものであるだろう、そのことに対しては十分の即応力を持った基盤的防衛力を充実すればいいんだというのが、
わが国の
一つの平和維持のあるいは安全保障の
考え方に
考えておるわけでございます。
その
意味合いにおきまして、非核三
原則を
日本がとり、しかも
アメリカの抑止力に依存するということのメリットというものは非常に大きい。なぜならば、先ほど
法制局長官と
源田先生との間に取り交わされたような形において、
国民は専守防衛という、他国に侵略をしないという
憲法のもとにわれわれは生きておるわけでございますから、また、
防衛庁長官としましては、その
憲法のもとにおいて
日本国民の生存と自由というものを守らなきゃならぬ責任を
国民から負託をされておるわけでございますから、その
意味合いにおきまして、私といたしましては、この非核三
原則というものがはなはだしくわれわれの安全を脅かすというふうには思わない。
それから、先ほどの持ち込ませずという、この問題につきましても、
源田先生は、
わが国の安全保障体制に
矛盾するのではないか、あるいは米国の核抑止力を著しく減殺するのではないかという議論があるがどうだということだと思いますけれ
ども、米国の核兵器の持ち込みを制限することは、純軍事的に申しますと、あらゆる核の脅威のスペクトラムに対応するという点においては多少なりとも私は制約を与える、したがいまして、米ソ間の核均衡にたとえ部分的にしろ影響を与えることは事実であるといたしましても、それが
わが国、ひいては極東の防衛上決定的な制約要因というふうにはならないというふうに
考えているわけでございます。これは、昨年のシュレジンジャー前国防
長官が参りました際、記者会見におきまして、核兵器が持ち込まれなくても、
日本はいわゆる核のかさの下で安全に保障されるのかという質問に対しまして、米軍は世界全域に配備されており、したがって、
日本以外に展開する米軍によって核の分野において十分な対応ができないような場所や任務は存在しないというふうに言明をいたしております。
わが国の安全にとって核抑止力の有効性と非核三
原則が両立するということを私は示唆をしておるというふうに承知をいたしておるわけであります。