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参考人(
亀長友義君) ただいま
委員長から御紹介いただきました
亀長でございます。
水産三法の
審議に当たりまして、私
どもの
意見を述べさしていただく
機会を与えられまして
大変感謝をいたしております。三法の背景となっております
水産業の
実情につきまして、この
機会に時間の許す限り述べさせていただきたいと考えるものでございます。
御
承知のように、戦後、
日本の
水産業が非常な
発展をしてまいりまして、
世界一の
漁獲であり、
世界一の
水産国といわれてまいりましたが、この
発展の
過程におきましてもいろいろな問題がございました。しかしながら、現段階においてはこうした
発展の
過程というものが非常に一変をしてまいりました。非常に大きな
変化が起こりつつあるということを申し上げなければならないと思うのでございます。その第一は、私は
国際条件の
変化、第二は
経営条件の
変化、この二つであろうと考えるものでございます。第一の
国際条件の
変化につきましては、御
承知のように戦後は、
日本の
漁業というのは、
連合軍司令部によって非常に局限された
四つの島の
周辺に
限定をされておりまして、それが逐次
講和条約近くになるにつれて拡大をされまして、いわゆる
マッカーサーラインというのがございました。
講和条約の発効とともに
日本が
世界の海へ出ていけるということになりまして、近くの国の
日米加、あるいは
日ソ、あるいは
日韓、最近では日中と、こういうふうな近隣の国とそれぞれ
漁業に関する
条約を結びまして、今日までやってまいりました。
しかしながら、
世界的に
沿岸国の
資源獲得思想というのが非常に強くなってまいりまして、そのはしりは一九五八年でございますが、約十五年前、やはり
海洋法、いまのような
海洋法会議というのがありました。そこでいろいろな
四つの
世界の
海洋条約ができました。そのうち
三つは従来の
世界の慣行をそのまま紙に書いたというものでございましたが、
大陸だな
条約というのが新しくできました。これは要するに、
大陸だな
——陸の先には長いところで約二百海里、それ以上に及ぶものもあります。
日本の近くのように非常に
大陸だなの短かいところもございます。しかし、そこにある
地下資源、
鉱物、
石油、それからそこにくっついておる魚、こういうものは
沿岸国の
独占的権利だと、こういう
大陸だな
条約というのができました。これは従来の
国際法にはなかったことでありまして、新しく
世界にそういう
事態を、創設をした
条約であります。
日本は
大陸だなが小さいので、現在でも加盟をいたしておりませんが、そういう
思想がだんだん進んでまいりまして、これが今日の
海洋法会議の発端になってまいりました。
現在行われておる
海洋法会議では、最初は深い海のところに
鉱物がある。マンガンとか、クロームとか、こういうものがある。こういうものを
先進国に先取りされては困る、
深海海底を
開発する
技術というのはやはりどうしても
アメリカとかフランスとか、若干
日本とかいう
先進国に限られる。そこで
後進国としては、そういうものに
ストップをかける、
国連の
会議で
ストップをかけまして、そうして新しく海の
制度を
世界に要求をしたわけであります。その取引として、二百海里というものを
経済水域というものを認めようという、こういう機運になってまいりまして、現在でもまだ
論議が続いております。この
論議が、第三回の
海洋法会議ということになりまして、この間
ニューヨークで約八週間の
会議を終わりましたが、あれが第三回
海洋法会議の第四回会期で、それが終わったところであります。
しかしながら、これにもいろいろな問題があります。たとえば
日本のように
実績があった国はどうしてくれるのか、こういうことであります。さらに二百海里といっても、豪州や
カナダのように、
回りにどこの国もない、二百海里思う存分
自分の国のものになるという国と、そうでない国があります。地理的に非常に狭いところに面しておる、
日本でも太平洋の方は広うございますけれ
ども、
日本海とか、あるいは
シナ海、北の方というのはほかの国の二百海里とつっかかる。そうなると、真ん中で分ける、こういうことになりまして、非常に
世界的に
資源が不公平に分配される、そういう不満が依然としてあります。これが
海洋法会議がなかなか片づかないゆえんであります。またこのほかにもいろいろ
国際海峡をどうするか、たとえば
マラッカ海峡、
日本のタンカーがたくさん通りますけれ
ども、あれが全部
領海になってしまう、十二海里にすれば。その際に
外国船舶はどういう通し方をするのか、一々その国の許可が要るのか、あるいは従来どおり自由に通れるのか、いろいろな海の問題ございますが、問題を
漁業だけに
限定をして申しましても、
実績国の
実績というのはどう考えてくれるのか、こういう問題が依然としてくすぶっております。現在のところの
海洋法の草案では、
経済水域の中では、
沿岸国が優先的に利用をする、そうして
資源が余った場合には、
後進国であるとか、あるいは
入漁の
実績のある国について、
経済的打撃を与えない
程度において
配慮をする。こういうきわめてあいまいな条文でありまして、よく新聞などが
実績確保というようなことを書いてありますけれ
ども、
実績確保という言葉には、ほど遠い、
実績を
しんしゃくする、こういう
程度の条項があるにすぎないのであります。当然、
経済水域二百海里ということになれば、これは
地下の
鉱物並びに
生物資源——魚でございます。そういうものは全部
沿岸国の所有と申しますか、
行政管轄に入る、
警察権も全部その
沿岸国のものになる、こういうことになるわけであります。こういうものが現在まだ
海洋法会議というものが終わっておりません。またこの八月から
ニューヨークで
会議をやる、恐らくそれでもむずかしいので、来年あたりまたもう一回やる、その辺でまとまるだろうといわれております。しかしながら、
アメリカ、
カナダ、こういう国は非常に拍車をかけて、一日も早くこれを実現しようとしておる。そういう
状況でありまして、
日本の国が仮に、そういう
経済水域というものができる、そうして
実績に
しんしゃくをするとありますが、初めのうちは、
しんしゃくの度が大きくても、だんだんこれは
しんしゃくの度が少なくなっていくのじゃないか、そう心配をいたしております。一体そういうふうになると、いま
日本の国は一千万トンの
漁獲を上げておりますが、どのぐらい
漁獲が減るのか、仮に将来全部追い出されると仮定をいたしますと、約四割減る。四割減って六百万トンに
減少するであろうというのが、いままでの
漁船の
稼働実績から、資料から推定した数字であります。もちろん一挙にそこまでいくわけではないと思いますが、
実績に対する
配慮というのが少なければ少ないほど、そのスピードが速くなる、こう考えざるを得ないわけであります。
こういうことを考えてまいりますと、まず第一にそういう
条件の
変化というのが、
日本に非常に大きな
影響を与えるわけでありまして、もしそういう
状態になれば、
日本の
漁業というのは、まさに
占領下の
漁業に返るわけでございます。大体、
外国の二百海里を
日本の
回りに引いてみますと、
占領中に
マッカーサーラインというのがありまして、そこから外へ行っちゃいけない、こういうのがありまして、
面積に、地図の上では多少の移動がありますけれ
ども、
漁場の
価値と、こういう点から見れば、
漁場だけは
占領中に返る、こういう
事態が発生をするわけであります。戦後は終わったとよく言われますけれ
ども、
漁業だけは戦後に戻ると、こういうことになるわけであります。もちろんこれにはいろいろな問題がございます。
日本の
周辺でも、余り、私は政治的な問題でここで申し上げるのもどうかと思いますけれ
ども、たとえば北方領土がどうなるか、
竹島がどうなるか、
尖閣列島がどうなるか、ということも非常に
影響するわけでございまして、その帰属の
いかんによっては、島だけではなくて、その
周辺の二百海里というものがいずれかの国に帰属するわけでありまして、もし
日本に帰属しないときには大変なことになるわけであります。
竹島も、御
承知のように、
竹島自体は余り
経済価値はございません。ですから、いまそのことだけで大きな問題になっておりませんけれ
ども、この周りに二百海里がくっつくわけでございまして、たとえば
山陰地方の
漁業というものはその帰趨の
いかんによって大変な
変化を受けるわけでございます。そうなりますと、この領土問題というものが非常にクローズアップされて
影響を持ってくる。これは
日本に限りません。
世界至るところにそういう問題が出てまいるわけでございます。そういう
状況のもとで
海洋法の成立を待ち切れずに一方的に宣言する国があります。昔から二百海里と言っております国がチリ、ペルーとか、南米にもございますが、最近は
世界の一番大国である
アメリカですら
国内立法をつくりまして、
海洋法を待たずして来年三月には二百海里を施行する。言うことを聞かない国は
入漁を認めない。
コーストガードの
予算を大変ふやしておりまして、
コーストガードで
警備をして、言うことを聞かなければ拿捕なり何なりすると、こういう
姿勢をとっておるわけであります。いずれ
日本と話し合いに入るということになりましょうが、そういう威圧のもとでの
交渉ということになるわけでございます。
ソ連——私も先日
ソ連から帰ってまいりましたが、
ソ連は私は二百海里にはそれほど積極的でないというふうに見ております。と申しますのは、
ソ連は
日本以上に
遠洋漁業国でありまして、六割を
外国の
漁場でとっております。
日本は大体先ほど申し上げましたように四割。そういうこともありまして、しかしながら体制というものはやはり踏まえておりましょうし、また
日本、この北洋では何としてでも
日本より、少なくとも
日本ぐらいの
漁獲を上げたいと、こういう強い希望を持っております。また、御
承知のように、食糧問題が非常に窮屈な
情勢にある国でございまして、先ほどの
ソ連の
経済計画でも
漁業の、
水産物の
供給高を三割上げるということが決定されております。一体その
海洋法で
ソ連も、アフリカあるいは
アメリカから追い出されそうな
時代にどうしてそういうことをやるのかという非常な疑問を持ちますが、
イシコフ漁業大臣は三割は全部
漁場の魚の増産だけで賄おうとは思っていない、やはり流通の
合理化、加工の
合理化、こういうことによってロスを少なくして達成するんだと、こういうことを言っておりますが、やはりみずから
漁業をやりたいという
意欲は大変なものでございます。
漁獲高においても
日本にいまや追いつかんとしておりますし、
国営漁業でもございますし、大変な熱の入れ方をいたしております。この点
アメリカは、非常にやかましいことを言いますけれ
ども、
国内に
漁業をやろうというそれほどの
経済的意欲はないと、こういうふうに私は
判断をしておりますけれ
ども、
ソ連の場合はみずからこれをやりたい、そういうことで、
日ソ交渉に当たりましても、
アメリカとはまた違った
意味の
姿勢がございます。そういうふうな
状況でございまして、もうお隣の
中国、
中国は
海洋法会議では本来
領海二百海里が妥当である、
領海とするのが妥当であるという
基本的主張を持っております。しかしながら、大ぜいの国をいざなって積極的にその
主張を通すという
姿勢ではございませんが、
自分の
原則的立場ははっきり述べております。
そういうふうに考えてまいりますと、将来
日本の
漁業というのは少なくとも
現状より縮小していくという
過程をたどらざるを得ないということははっきりしておるわけでございます。しかしながら、
漁獲高の
減少を
漁獲の面で防ぐということになりますと、やはりどうしてもこれは
海洋法というものを踏まえたとしても、二国間の
交渉でできるだけこの
実績を維持していくという
方向を私はとらざるを得ないと思います。もちろんこれは
沿岸の
開発ということも必要でございます。海外の
開発ということも必要でございます。ただ
沿岸の
開発にはこれは相当な
国家投資をしていただかなければ
沿岸の
開発ということも大変むずかしい問題である、大いにやらなければならないが、むずかしい問題があると思います。
それから、先日も
東大の、名前を申し上げると失礼なので私申しませんが、
東大の助教授の方が、二百海里などに
実績確保などとつまらぬことは言わないで、大いに
外国に
資金援助をして、
技術援助をして、そこで魚を確保すればいいということを論文に発表していらっしゃる。まことにけっこうな話でありますが、二百海里の
外国との
交渉で、
実績を確保することよりも、
外国に
技術援助や、
資金援助をして
外国で
漁獲高を確保することの方がはるかにむずかしいのであります。私
どもは実際にタッチをした経験からそういう
判断をいたしております。現に、現在でも
日本の
漁業会社あるいは商社で
外国との
技術提携いろいろなことをやっておりますが、そろばんにのっておるものは余りありません。むしろ
縮小ぎみであります。ましてそこへ
海洋法ができれば、
開発途上の国にしても非常ないわゆるナショナリズムというものが強くなってまいります。それだけのまた裏づけを
海洋法で与えられるわけでありますから、私はその大学の先生の論旨には難易の度合いというのを余りお考えにならない議論でないか。私は、
海洋法で
実績をがんばる、大変なことでございますが、それと
外国の
後進国に
資金援助をして
漁業を確保する、どっちがやさしいかと言えば、私は、問題なく
実績を確保する方に
努力する方が、はるかにそれに比べれば効果的だと、こう考えるものでございます。もちろんそういうことも大いにやらなければなりませんが、
代替性のあるというものではない、かように考えております。いずれにいたしましてもそういう
日本の
漁業をめぐる
条件というのは非常に
変化をしてきておりますし、大きな流れというのは好むと好まざるにかかわらず押し寄せてまいります。できるだけの
努力をして、その悪
影響を防止をするという
努力をしなければなりませんけれ
ども、現実にこれは
漁業者の面から見ますれば
減船であるとか、あるいは
漁獲高の
減少であるとかという
経営面のいろいろな問題になってまいります。さらには
離職者を出さなきゃならぬ、こういうことにもなってまいります。今回の
日ソ交渉でも、現に船に乗って用意しておる者をおろしたというような、まあニシンの例もございまして、そういう例が今後ますますふえてくる、あるいは来年はやめなきゃならぬ、こういうふうなものがだんだんふえてくるという
情勢になってまいりますと、やはり
日本の
漁業の
再建ということをどういう
方向に持っていくかということを考えなければなりません。そういう
意味で今回この
再建整備法というものも出ておりますが、もちろん私
どもから見れば非常に微温的ではございますけれ
ども、従来に比べれば非常に
政府の御
努力もありまして大前進があった。しかしながら、まだまだこれには私
ども次の手が、今後の年にも次次と打たれていくであろうというふうに考えて、大いに
期待をいたしておるものでございます。
それから第二は
経営条件の
変化でございますが、御
承知のように
人件費も上がるが魚も上がるという
時代が大分続きまして、ところが、
石油ショック以来
人件費は上がるが、油は上がるが、魚は余り上がらぬという
状況になってまいりまして、いわゆるコストで値段が決まるというしろものでは魚はございません。全くの
需給関係、その
需給の給の方も
農業のように
作付面積から大体の予測がつくというのでなくて、ときに大漁、ときに不漁というふうな非常に変動の激しいものでございまして、
漁業は不況に非常に悩んでおります。
国際条件の悪化ということも重なりまして、資材の高騰ということもございます。また非常にこの
漁業の
発展期に船を大きくした、同時に
乗組員の居住区、
待遇改善、こういうこともありまして、かなり
日本の船は船の
構造からいきましても他の国に比べましてりっぱな船になっておる。そういう面のいろいろ
金利負担、
経費負担というものもかなりかかっておりまして、
宵越しの金を持たないと言われますけれ
ども、本当に表向き、はでなようでも、余り漁師というものは
宵越しの金を持っていないのが
実情でございます。今回も
政府の方でいろいろ
融資制度を考えていただきまして苦境を切り抜けておりますものの、
経営条件の大きな
変化というものになかなかたえがたい階層、あるいは
経営体というものが出てまいりました。そういう面から、私
ども、
政府にかねがね要望しておりまして、まあその一端と申すと失礼でございますが、ようやく本
年度の
予算では従来に比べますとかなり新しい
項目が
政府によって採択をされる結果になっております。
時間の
関係もございますので私もう要約をいたしたいと思いますが、とにかく二、三年前とがらっと変わった
状態がこの
漁業をめぐる
状態でございます。もちろん、
漁業者みずからも大いに
合理化をし、
企業経営の不
採算部門は切り捨てる、あるいは
企業合理化を図るという
努力をみずからしなければならないと思います。しかしながら、どうしてもこれは
——従来、
漁業は余り
政府に、
補助に頼らずにやってきた。金融は非常にめんどうを見ていただきましたが、
補助というものは非常に少なくやってまいりましたが、だんだんそういう
時代でなくなるわけでございます。まあ
外国でも
日本より
漁業が盛んでない国でも
漁業に対する
助成が手厚い国もかなりございます。でき得べくんば独立してやりたいというのが私
どもの気持ちでございますけれ
ども、こういう
状況になってまいりますと、なかなかそうもいかない面もございます。いろいろ本
年度予算で新設された
項目をさらに私
どもは拡充して、今後
政府並びに国会の御
援助を得て施策を拡充していきたいと考えておるものでございますが、当面この三法につきましては、私
どもいろいろ将来に望みをかけまして、第一歩でございますので、
業界の大きな
期待を持っておる次第でございます。よろしく御
審議のほどをお願いいたしまして私の
意見の開陳を終わりたいと思います。ありがとうございました。