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参考人(
遠藤晃君)
遠藤でございます。
私は概括的に二点について
意見を申し上げたいと思います。
一つは、今日の自治体財政の危機の中で、とりわけてそれが
交付税のところにいまどのようにあらわれているかということであります。
それから第二点は、その中で今回提案をされております
地方交付税法改正案の
問題点ということであります。
まず第一番目の、今日の
地方財政危機をどのようにとらえるかということでありますけれ
ども、これは改めて申し上げるまでもなく、その基礎的な条件として、この間の自治体の行政対象、行政需要というものが著しく早い速度で変化をしながら拡大をしてきているということが基礎にあるというふうに思われます。これは、私
どもが京都の近郊などで
調査をいたしましても、行政需要の増大のテンポといいますのは、人口
増加に比例するのではなくて明らかにそれに等比級数的な形で比例する、そうした形でふくれ上がっているということがあるわけです。そうして全体的に、この間、行政水準の一方では平準化の必要というところからの行政需要の増大という面と、それからいま
一つは、そうした一方の平準化傾向を持ちながら地域間の諸条件の大変な不均等が激化をするということがありまして、それぞれの個別性——自治体の特殊なそれぞれの条件に基づいて個別的な形での行政対象、行政需要が増大をするということが進んできたわけです。
そこで、そうした条件の中で大変深刻な財政危機が起こってきたというわけですけれ
ども、その場合の原因というものは大別して
二つがあろうと思われます。
一つは、今日のこの経済的な局面からきている点でありまして、これは一口に高度成長経済の破綻というふうに言われておりますけれ
ども、そうした条件というものが、とりわけ自治体財政につきましては、
一つは国家行政支出の最終支出の部分を多く担うというところから、この間の物価の上昇による影響というものをきわめて深刻な形で受けざるを得なかったということであります。
それからいま
一つは、そうした中で、不況型の支出と言いますか、現実の地域の地場産業等の困難、住民生活の困難を打開をする、あるいはそうした中で地場産業や住民生活を守る、そういう面から平常時以上の
財政支出というものが要請されるということがございます。
そして、そういう条件に対してそれではそれに対応できるだけの税財政構造があるかということを考えてみますと、
一つは、福祉優先への転換ということが言われながら、国を含めた全体的な税財政の構造というものが依然として高度成長型というものを続けているということがございます。それとあわせて、中央、
地方の
財政関係でありますけれ
ども、ここでは極端な形で
地方の
一般財源、
自主財源の不足という現象がもたらされてきています。この点は、
地方自治体のいわば総
交付団体化というふうに言ってもいいような、そういう姿の中で端的にあらわれてきているわけでありますけれ
ども、かつてのように、富裕な地域は
交付団体ではなくて、もっぱら農山村地域を対象として
交付税の交付対象が理念としては考えられるという、そうした
状況というものは今日全くなくなってきて、ごく例外的な条件を持っているところ以外はすべて
交付税の交付対象にならざるを得ないという、そういう
状況が起こってきているわけです。
そこで、その点をもう少し深めて考えてみますと、この
交付税の機能というものは、一面
財政調整ということでありますし、それから一面
財源保障という意味合いを持っております。で、この
二つの機能が全うできるという条件は、
一定の
地方税源の
保障という中で、通例の形態であれば、その
地方税源でもって自治体のそれぞれの一般
財政需要を賄うことができるということを前提に置いて、その上でこの
交付税によって必要な
財政調整を行う、そういうことになってきているわけですけれ
ども、しかし、それがいま申し上げましたように総
交付団体化ということになりますと、これはもう基本的な税源
保障のところ、そこのところでの不十分さということがきわめて鋭く出てきておりまして、そうした中で
交付税というものが単なる
財政調整機能というところを超えて基本的な
財源保障の
役割りをきわめて大きい形で負わざるを得ない、そういう
状況になってきているということであります。
そこで、そうした基本的な
状況の中で、今回の
交付税法のこの改正というものがどのような意味を持つのかということであります。この点では私は、
交付税制度、総じて国と
地方、そして
地方間の
財政調整を含むところの
財源保障制度のあり方という点から考えてみますと、今回の改正というものは、それが本来的に持つべき機能を大幅に後退させ、そしてこの
制度のかなり基本的なところで質を変えるような結果をもたらすことになるのではないか、そのように考えるわけであります。この点は、戦後の
平衡交付金制度から
地方交付税制度へという、そうした歴史的な展開の中で私は大きく
二つの節があるように思っております。
一つは、
平衡交付金制度から
地方交付税制度への
制度改正でありますけれ
ども、それ以前の
平衡交付金制度が、そもそも、戦前以来の配付税
制度によるところの、この中央
政府の
政策によって自治体行政を支える経済的な基礎であるところの
財源というものが大きく左右されることを防ぐという、そういう意味合いをもって
平衡交付金制度というものは
創設をされたわけでありますけれ
ども、しかし、それが
地方交付税制度への移行に伴いまして例の
国税とのリンクの
関係というものが出されてくる。そこのところではこの
財源保障という点で基本的な制限の枠が設けられたわけであります。したがって、そこからは
財源保障機能というものが低下をしてこざるを得ません。そのことがやがては激しい形での
矛盾というものを露呈をせざるを得ない。そうした条件をそこに持ち込まれてきたわけでありますけれ
ども、しかし、それがともあれ三十年代以降のいわゆる
高度成長過程における税収の増ということで背後にかなり隠れて今日まで維持されてきたわけであります。しかし、そういう個別の
財政需要を積み上げていってそしてこの
調整を考えるというあり方と、総枠
財源において枠がはまっているというそうした
矛盾というものが、補正
方式を含むところのその後の具体的な
交付税の
算定方式の中で何とか
調整をするというそうした方策が重ねられてきた結果、その中で、特に事業費補正等々でありますけれ
ども、その
調整の必要というところから、この
交付税制度の本来的な姿を徐々に変質させるようなそうした傾向が進んできたということは、これは否定できない事実であっただろうと思うのです。
そこで、そういう第一番目の段階での変化の上に、二番目の段階というのが、これは昨年以来、とりわけて本
年度の
交付税制度の改正の中で持ち込まれてくる、そういうことではないかと思います。その中で特に重視をしたいというふうに考えますことは、もともと
基準財政需要額の算入の基礎であった部分のかなり大きな部分というものが
操作の上から起債の対象に振りかえられるという
事態であります。それとあわせて、昨年来の資金運用部
会計からの
借り入れの増大ということが起こってまいりまして、そのことの
問題点ということは私は次の三つに整理できるのではないかと思います。
一つは、
解決をすべき
地方財政の危機と
解決というものを
借り入れあるいは起債ということで先延ばしをする、そういうことであるということです。ここではますます将来にわたって
事態は深刻でありますし、ここで抜本的な
制度改正がなければ、一年、二年はさしあたってそういう形で当座のやりくりは仮に可能であったとしても、より重大な形で
矛盾の爆発という
事態を迎えざるを得ないことになるだろうと思います。
それから第二点は、その起債
方式という形で
交付税の交付対象とされるべきそうした事業が、そのときの国家財政の条件いかんによって安易にその対象から外されていく、そういう前例をつくることの意味であります。そういうことが仮に許されるということであれば、今後も国家財政の動向いかんによりましては、
交付税という形で自治体の
一般財源、
自主財源として
保障すべき部分、そうしたものをどんどんそうではないという、まあ本来ミニマムとして
保障すべきそうした行政水準というものがミニマムの対象ではないという形で外されていく。そうしたことは、これは戦後の
地方自治
制度の根幹にもかかわるような、そういう
性格を持っているんではないかということであります。
そして第三番目に、同じ起債への振りかえということが、ますます自治体財政における
補助金依存、
補助金行政の統制下に入るという傾向を強めるということであります。もちろん今度の振りかえられました分の中には、事実上の運用の中ではそのうちの一部分は
交付税的な運用がされるということにはなっておりますけれ
ども、しかし、多くの部分はそうではございませんし、また、そういう
交付税的な運用というのはあくまで臨機の
措置でありまして、起債というものは、現在の
制度のもとでは基本的に中央
政府の統制のもとで左右される、そういう
財源であります。ですから、そうした中で、本来戦後の
地方自治
制度を裏づける財政
制度というものは、
補助金制度をできる限り排除していく、
補助金依存を排除していく、そういう考え方のもとに立てられてきたわけでありますけれ
ども、そうした
性格をゆがめる、そういう結果を招くということを大変危惧するわけであります。
そこで、そうしたことを総体的にまとめて考えてみますと、これは
昭和三十年代以降の
地方交付税制度が、私は残念ながら基本的には形骸化してくる、そういう動向をたどってきたというふうに考えるわけでありますけれ
ども、そうした形骸化の動向の
一つの到達点というものが今回の改正の中に見られるのではないかと、そのように思うわけであります。
そこで、ではどうするかということでありますけれ
ども、私、さしあたって緊急に必要なことという点では、
一つは
交付税率を少なくとも四〇%以上に
引き上げるということはなされなくてはなりませんし、これは本
年度の起債への振りかえ分も含めて
国税三税に対する比率というものを計算をしてみますと、五〇%をすでに突破をしているわけであります。そういう
状況そのものが
引き上げの必要性というものを浮き彫りにしているということがありますし、それからあわせてこの間、
政府の
国債発行政策によって
政府の
財源の中では税の落ち込みが国債によって補てんされる、しかしそれはこの
地方交付税の計算の基礎に算入されないという、そこのところの
矛盾というのが非常に激しくなってきておりますし、そしていまのところこの
国債発行の
政策というのはなおしばらく続くようであります。したがって、
交付税率の
算定に当たっては、従来の
国税三税のみを基礎にするということはこれは是正されなくてはならないし、その是正に当たっては国債を
算定の基礎に含めるということはぜひ考えなければならないことではないかというふうに思っております。
そして、そういうさしあたっての対応だけではなくて、
地方交付税制度を本来的な機能を担い得るような形に戻していくということ、それは抜本的な方向として考えていく必要があります。その場合は基本的な点は三点だと思いますけれ
ども、
一つは
地方の税源を
保障するという、一方でそういう方策というものが強力に進められる必要があるということであります。そしてその上に、この
交付税の
算定に当たりましては、特に科学的に国民に
保障すべきミニマムの水準を積み上げていって、そこのところから
交付税の全体的な所要額を算出をしていくという、かつての
平衡交付金制度のときのようなそうした積み上げ
方式に戻るということが必要でありまして、本来的な条件の場合は、国の財政収入とのリンク
関係というのはこれは断たれるべきだというふうに私は考えております。そして第三点として、そうした
交付税制度を運用する機構でありますけれ
ども、ここでは
交付税が本来的に
地方自治体の
自主財源であり
一般財源であるということの限りでは、
地方自治体の側がこの主導権を持ち得るような、そうした機構が
交付税の
算定あるいはこの
配分に当たるという、そういう
状況がつくられることが必要であろうというふうに考えているわけであります。
大変雑駁でありますけれ
ども、以上で私の総括的な
意見を終わりたいと思います。