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公述人(中川順君) 中川でございます。
最初に、公述に入ります前にひとつお断りしてお願いしておきたいことは、私、マスコミの
関係の仕事を現在しておりますが、これから申し上げますことは、私の所属しております業界の
意見でもなければ、また
財政制度審議会の
意見を代表するものでもございません。民間に籍を置きます一
経済人の
意見としてお聞きくだされば幸いでございます。
まず最初に、重要なる法案の審議の公聴会の場で
意見を述べさせていただく機会を与えられましたことを非常に光栄に思っておる次第でございます。
結論的に申しまして、今回の
財政特例法の法案の内容につきましては賛成でございます。私、民間の
経済関係をやっております立場から申しまして、一日も早く本法案が成立いたしますことを強く熱望しているものでございます。その理由について申し上げたいと思います。
現在の
経済状況につきましては、
皆様すでにもう熟知しておられることと思いますが、現在のいわゆる戦後
最大の不況と言われております
経済の現況は、私ども日常その中におります者にとりましては、非常ないわゆる構造的な不況と申しますか、従来の循環的な方法によってこれを解決するということがなかなか困難な
状況にあるように見受けられるのであります。はだで感じている実感と申しますか、その
観点から申しますと、まさにこれは戦後初めて経験する現況ではないかと思います。もちろん、最近業績の回復等が見られることは事実でございます。しかしながら、その業績の回復と申しましても、それはよく言われておりますように、水面下の業績の回復の気配でございまして、これが定着をしているわけではございません。恐らく大多数の企業の期間損益、業績をとりました場合には、実質的には期間損益は
赤字であるというように私は見受けられるのであります。数字の上では黒字になっておっても、これは資産の売却であるとか、過去の蓄積を食っておるとか、そういうようないろいろな操作によって業績を出しておる会社が多々あるやに見受けられるのでありまして、私どもがはだで感じますところにおきましては、
経済のいまの現状というものは非常な深刻な
状況にあると私は思います。かかる
状況を放置しておくことは、
日本の
経済の将来にとりまして、ゆゆしき問題であろうかと私は思います。これをこの際何らかの方法によって解決しなければならないわけでございますが、その
観点から申しまして、今後の
経済運営の急務と申しますか、
景気の安定的ないわゆる回復をいたすためには、在来の方法ではなかなか困難であろうかと思います。その根幹となりますものは、一言で申しますならば、
財政政策の発想転換というものが要請されていると思います。民間の自力回復ということでは不可能であると私は思います。しかるがゆえに、
財政による
政策転換というものが要望されているし、また必要であろうかと思うのであります。そうは申しましても、現在の
景気の局面と申しますか、現状は、長いトンネルの先に少し光が見えてきたという
状況で、悪い方へは進んでいないように見受けられます。直接
景気回復の
原因になっておりますのは、輸出の回復であるとか、あるいは住宅建設の回復の気配であるとか、そういうものに支えられまして、マクロ的に見た場合の
経済の回復というものは率直に申しまして、私どもも明るさの気配を感ずる次第でございます。
しかしながら、先ほど来公述の方から御指摘になっておられますように、現在のデフレギャップというものの
残りと申しますか、うねりは、非常に大きなものがございまして、もっと端的に申しますならば、各企業が抱えております過剰雇用あるいは過剰
設備、こういうものは解消していないのであります。大きな荷物としてしょっておるわけでございます。一方最終
需要の方を見ますと、輸出は引き続き好調が予想をされております。これはある
程度の見込みがあると思いますが、
個人消費とか、あるいは民間
設備投資などは依然として盛り上がりと申しますか、勢いというものが出ていないのが現状であります。したがって、今後の
景気回復を円滑にして進めてまいりますためには、何と申しましても、先ほど申しました、
財政面からする
景気回復、
経済の刺激と申しますか、その構造的な
政策が展開される必要があろうかと思います。本来、
財政政策というものは、
景気回復的な直接のもちろん
効果はございますが、基本的にはやはり構造
改革的な要素というものを多分に持っていると思います。したがって、構造変化からくる現在の体質を改善して、将来の安定的な発展につなげていくためには、ここで
財政の出動というものが要請されるわけでございまして、その基本になるのは公共投資の
伸び、
増加、これが決め手になると私は思うのであります。
ところで、先般成立いたしました五十一
年度の
予算は、前
年度に比較いたしまして、いま申し上げました公共事業費の
伸びを前
年度の五十
年度の当初
予算に比較いたしまして二一%というのを
増加と見込んでおります。このこと自体は非常に時宜に適した
予算であると私は思いますし、きわめて適切な措置であるというように評価いたします。ところが、その
財政支出の裏づけとなるための財源は、財特法案が、仮にこれが未成立に終わりますと確保をされないということになるわけでございます。これはきわめてあたりまえの事実でございますが、財源が確保されないということになるわけでございます。
たとえば、非常によくないかもわかりませんが、
予算を自動車にたとえますならば、自動車が動くためにはガソリンが必要であるわけでありますが、そのガソリンが足りない。ですから、自動車は
予算全体の航続距離を走れないということで、世上一部にはガス抜き
財政という表現もあるやに聞いておるのでございます。そして、その
特例法のいわゆる
特例公債の全体に、
歳出の中に占める割合は一五%に達しているわけでございますし、さらに建設
公債の対象の事業費を差し引きますと一九%に達するわけでございます。したがって、大ざっぱに申しまして約二割というものが
歳入欠陥の
予算としてここに成立しておるという現実があるわけでございます。もしこの財特法が不幸にいたしまして万一成立しないということになりますと、財源がそれだけ不足して公共事業の事業量も減るということになりますし、ひいては一般的ないわゆる社会保障費であるとか文教施策その他の国政が停滞し、
国民生活に重大な影響が出てくるというように私は単純に考えるのであります。
現在の
経済の現状というものは、冒頭にややくどく申しましたけれども、先般行われました、現在まだ最終的には終了しておりませんけれども、春闘、安恒さんがここにいらっしゃいますけれども、春闘の結果を見まして、世上経営者が勝ったとか組合が負けたとか、あるいは逆の言い方とか、いろいろなことが言われております。私は、それはどれも当たっていないのでありまして、経営者が勝っているわけでもないのであって、いわゆる一けたの賃上げに終わったのは、何と申しましてもこれは
経済がそうさしているのでございまして、この
経済の実態というものはいかんともしがたいのであります。この
経済を早く正常化していかなければならないというように思うのでありまして、この点からとにかく
歳入面の完備と申しますか、完全にそろった、その積極的な五十一
年度財政というもののすべり出しを、私は一日も早いことを期待するのであります。素朴な見方でございますが、とにかく
財政は成立している、しかしその裏づけがないということは、どう理屈をやって説明しても、いわゆる素朴な民衆の、大衆に対して説明し切れないんじゃないかというように私は実は思うのでありまして、これは素朴なその大衆の疑問というものも、私はうなずけるのであります。
それから、
赤字公債を
発行すると
インフレになるという議論が、先ほど
館公述人からもそうじゃないというお話がございました。私は同じ
意見でございます。もちろん
赤字国債というものを放漫に出して
日銀引き受けでいけば、それだけ信用
膨張になって
インフレになることは言うまでもございませんけれども、すべて
経済政策というものは手放しでやる
政策というものはないのでありまして、厳重なる
公債管理あるいは市中
消化の方法について万全を期していくということであるならば、また
特例法は単
年度主義をとっておりますから、毎年厳しい
予算、国会の審議を経て決定されるものでございますから、それほど放漫なものが成立するとは私は思いませんし、歯どめ措置と市中
消化の
原則が貫かれるわけでありますし、しかもいろいろな手を当然とるという前提で考えますならば、先ほどもお話出ておりましたように、
赤字国債即
インフレという通念は間違っていると私は思います。したがいまして、その歯どめにつきまして善良な管理が行われるならば、いわゆる
赤字公債を
発行して
インフレになるということにはならないと思います。もちろん
景気の基調が過熱
状態になっておって、その上にさらに
国債を
発行する、それで新規な追加
需要が出てくるということになれば、当然
インフレにつながるという心配もございますけれども、先ほど来の御指摘にもありますように、わが国の
経済は高度成長から低成長へ転回しつつあることは、これは万人の認めるところであります。これは
日本だけでなく世界的にそうであります。その中でのビルトインされた
日本の
経済の前途を考えます場合に、いわゆる戦後の高度成長時代は終わったということになるのでありまして、
国債発行が
経済に対して撹乱要素になるというようには私は考えないのであります。
結論的に申しまして、そういう
観点から申しまして、
財政特例法案が早期に成立して、公共事業投資が順調に行われるようになることを期待するのでありますが、仮にそうなった場合には、現在の水面下の回復と言われます業績の回復にもつながってまいりますし、その結果がまた税の自然増収にもつながってくるわけでございまして、まさにガソリンが入って動き出すという形になって、結局それが回り回って
公債の
発行を減額してくるということになろうかと思うのであります。
きょうの新聞によりますと、昨日のこの大蔵
委員会で大蔵大臣が答弁されている記事が出ておりまして、それによりますと、公共事業費の予備費として計上されている千五百億円は不用になるんじゃないかというニュアンスのことをおっしゃっているように私は新聞で拝見いたしました。その分は当然そういう場合には
特例債の減額に充てられることになるんじゃないかと、これは私の推測でございますが、そういうことにもなるのでありまして、要はこの沈滞し切ったるこの現在の不況の
経済というものを、
財政の面からの構造的な抜本的な
政策によって、これを狂瀾を既倒に返すという言葉がございますが、それほどでないにしても、それほどのインパクトを与えて
経済の
上昇を図るということが、この際一番大事であろうかと思うのであります。ただ総論的には申し上げましたとおりではありますが、ただ私見として……。
それからもう
一つ、よく世上言われております仮に万々一この法律が成立しなくても、財源的に建設
公債があるからつなげるじゃないかと、したがって、それほど心配する必要はないという議論が世上一部にあるように聞いております。私はうでないと思うのです。実際の
経済を運営しております者にとりましては、不安定な要素というものが非常に経営上の支障になるのであります、
経済を運営していく場合の。したがって、それがいつ仮に夏なら夏の臨時国会で成立するとか、あるいは秋には必ず成立するというようなことがあればともかく、そういうものはあらかじめ国会で決定することはできないわけでありましょうし、したがって、そういう不安定な要素が大きく未解決のまま残るということは、非常に民間の
経済界から見ますと、不安定な要素として
景気回復にマイナス
原因として作用するということになると思いますので、そういう面からも今国会での成立を強く希望しておきたいのであります。
ただ、これは私のまことに私見でございますが、この
特例法は本来
予算と一体的に運営審議されて可決成立すべきものであろうかと私は思うのでありますが、これが分離されておりますとこういうことになって非常なそごを来すということにもなりかねないというように感じます。そういう点もございますし、これから数年間というものは、大蔵省の表現によりますならば、
昭和五十
年度の前半までには
特例公債から、
赤字公債から脱却するといり計画をお持ちのようでございますが、仮にそうだといたしますと、この二、三年というものは毎年
特例法によって国会の御審議を願っていくということになるわけでございましょう。そうしますと、やはり毎年
歳入欠陥的な問題は起こらないという保証はないわけでございます。そういう点を私ども民間の立場から見ますと、ことしだけの問題じゃなくて非常に不安定な要素というものを感じるのでございます。したがって、こういうことができるのかどうかは知りませんけれども、
特例公債はむしろ二、三年を一遍に
発行できるような制度が可能なのかどうか、そういうことができるのかどうか、これは
財政法の言う単
年度主義と真正面からぶつかりますから相入れないことになりましょうけれども、とにかく少なくとも
予算と一体的に御審議願って成立させていただくということが必要なんじゃないかと思います。それからもう
一つは、
最後に、
公債を
発行していく場合に何といっても
消化の問題がございます。これが
日本銀行引き受けで
通貨の乱発に直結するということではいけないわけでございますから、中でも
個人消化というものが非常に大事になることは言うまでもないわけでございます。この場合に、いまの十年タームの
国債ではやや投資物件としては魅力に欠ける点があるんじゃないかというような気もしないではない。したがって、中期的な割引
国債であるとか、あるいは欧米等でやっております
貯蓄国債の
発行というようなことも考えられないのかどうかというようなことを考えるのであります。
〔理事中西
一郎君退席、
委員長着席〕
いずれにいたしましても、以上によりまして、私はこの重要なる
財政政策の転換の根幹をなします本法案の一日も早く成立いたしますことを希望いたしまして公述を終わります。
以上でございます。
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