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国務大臣(
安倍晋太郎君) いま
お話しのように、わが国の漁業を取り巻く情勢というものは、非常に厳しいものになってまいりました。漁業について言えば、まさに国難と言っても過言ではないと思うわけであります。今回の日ソ漁業交渉につきましても、予想はしておりましたけれ
ども、予想以上にソ連の態度は厳しかったわけでございます。去年もタラバガニの漁場を失って、現在はタラバガニのかん詰めばソ連から買わなければならない
状況でありますけれ
ども、ことしはさらにニシンにつきましても全面禁漁、またカニについても全面禁漁というふうな方針を打ち出してまいったわけでございます。わが国の代表団も、そうした中にあって懸命に努力をしました。私もこちらにありまして、常に連絡をとりながら、ソ連のイシコフ漁業大臣等にわが国の立場を強く訴えておるわけでございますが、その結果、全面禁漁
措置だけは避けることができたわけでございますが、いま
お話しのありましたように抱卵ニシンについては十二隻が六隻と、これも全くの約束違反でありまして、去年はっきり十二隻ということを約束しているわけですけれ
ども、泣く子と地頭には勝てぬといいますか、とにかくどうしてもだめだと言って、これはわれわれの国際常識からは考えられないことですが、六隻に減らされてしまったし、索餌ニシンの方も半分に削減をされると、カニについても一部規制を受けるというふうなことでございました。サケ・マスにつきましてはどうにか八万トンのラインを確保いたしたわけでございます。
このような交渉の経過を見ますと、やっぱりソ連も相当これからの経済水域二百海里という水産の秩序といいますか、世界秩序、そういうものを意識しての交渉であったというふうに
判断せざるを得ないわけで、これはこれからはさらに厳しくなるというふうなことを考えて、われわれはソ連とこれから交渉していかなければならない。しかしソ連も長い間わが国との間に漁業交渉を持ちながら、お互いに相協力して漁獲量を決め合っておるわけでありますし、それから共同増殖事業等も行うわけでございますから、日ソ間につきましては私は今後密接な連絡をとり、毎年一回ぐらいは両国の漁業担当相が会って、いろいろと協力問題について話し合っていけば、今後の日ソ漁業交渉にも、わが国の操業を確保できるように、努力次第ではできないことは私はないじゃないかと、それを頭からすっかり絶望的になってしまう必要はない、ソ連の態度は相当厳しいわけですが、しかし私はこれからの漁業協力をいろいろやっていけば、ソ連側も
日本の立場というものは
理解をしているわけですから、私は
日本の北洋における操業権の確保というものについては、まだまだやっていけるという感じを持っておるわけでございます。
それから
アメリカとの問題も、
アメリカは経済水域二百海里を打ち出したと、これもわれわれとしては予想外のことでありまして、あの
アメリカが海洋法
会議の結末を見ないで、一方的に専管水域二百海里を打ち出すと、そうしていま遠藤さんが言われたように、二百海里を認めなければ交渉に入らないなどということは、これも国際的な慣例に反するものでありますが、そういうことをはっきり法律の中で打ち出しているわけです。そうして八月には
アメリカとの間の漁業交渉をしなければならぬということでございます。
アメリカの距岸二百海里の中でわが国の漁獲高は大体百七十万トンぐらいあります。スケソウダラでほとんどかまぼこの原料でございますが、これは
アメリカの二百海里水域の中でとっているわけですから、この
アメリカとの交渉はまさにこれまた大きな
日本のこれからの水産の課題になってくるわけでございますが、
アメリカはああいう態度に出たもんですから、今度はカナダとかメキシコとか、あるいはニュージーランド、オーストラリアと、
アメリカの
影響力が非常に大きいですから、これは海洋法の結果がどうなるかは別としても、
アメリカがやったもんですからほかの国がほとんどこれにならっていくんじゃないかということを私は
心配しているわけですが、そうなってきたときに、ますます
日本の遠洋漁業というものは苦しい立場に追い込まれるわけでございます。
そうした状態が予想されるわけですけれ
ども、私たちはそういう中にあっても、これからはあらゆる外交的な努力をいたして、何とかいままでの漁業の操業権だけは確保していくように、日米漁業交渉というのはその場合の一番大きな山場になると思いますが、努力を続けていかなきゃならぬと思います。しかし同時に相当やっぱり遠洋漁業における漁獲の減少というものは想像されるわけですから、それにかわる世界における新しい資源の確保とか、あるいは深海漁業等はほとんど手をつけてないわけで、
日本は世界で一番初めての「しんかい」といったような、水深千六百メートルから二百メートルの漁獲のできる、そういう船等も持っておるわけですから、そうした「しんかい」等の活用によります深海漁業の開発であるとか、あるいは南氷洋におけるオキアミの開発であるとか、そういうふうな、いまから未利用な、未開発の資源の開発、発見にはこれからも大いに努力をすると相当私は可能性もあると思います。同時にまあ沿岸漁業につきましてはこれはまだまだこれから栽培漁業をさらに進めると、あるいは漁場造成等を行えばまあ七、八十万トンの漁獲をふやすということもこれまた不可能ではないと思っておるわけでございます。
そういうことで非常に厳しい情勢にはありますけれ
ども、われわれとしては全力を尽して千百万トン近くの漁獲をいま得ておるわけであります。そして大体わが国の動物性たん白質の約五割は水産物に頼っているわけですから、この千百万トンの漁獲の維持だけは何とかこれは続けていかなきゃならないと。そのためにはただ水産庁の政策という面でなくて、本当に国政問題として水産問題を一つの国政の重要な課題として取り組んでいかなきゃならぬ。そういうふうに
国民の皆さんにも
理解をして協力していただかなきゃならないと思っております。