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小林公述人 小林でございます。よろしく願います。
最初に私の
立場を説明させていただきます。
いま全国に六十歳以上の
地域老人が加入しておる
老人クラブというのが約十万ございます。それでお年寄りの数は六百万人でございます。まさに民間の団体としては一番大きい団体じゃないかと思うわけです。私は、この団体の代表といたしまして、全国大会その他で集約されたお年寄りの声を御報告するわけでございます。
最初に、五十一
年度予算案に対する印象を総括的に申し述べさせていただきます。
そういたしますと、日本の
老人福祉全盛
時代というものは余りにも短かった、こういうような印象を非常に強くしておるわけでございます。亡くなられた佐藤さんが、四十七
年度の
予算編成に
当たりまして、生産と輸出の好調でゆとりが出たからその分を
国民福祉に回します、こういうふうに公約して日本の
老人福祉全盛
時代がやってきたわけなんですけれ
ども、わずかに五年間にして崩壊の危機にあるというのが昨今の情勢であります。こんなばかな国はないのじゃないかと思われるわけです。特に崩壊の要因というのが
財政硬直、ないそでは振れないよというようなきわめて、申しわけないのですが、次元の低い要因でございます。
およそ一国の
老人福祉、
社会保障というような大切な基本的な
施策が、このような要因で崩壊するということはまことに残念でたまりません。ないそでは振れないよという、結果から来るこういう冷たい仕打ちではなくて、そうさせないためにという最大限の
努力、その効果、これが
国家責任のとうとい本質ではないか、こんなふうに全国のお年寄りは考えておるわけでございます。どこの国の
社会保障というものも、御承知のように幾多苦難の歴史を経てみんなでき上がっておるわけでございます。そんなようなわけで、ちょっとこれは冷た過ぎるんじゃないか、こんなふうに考えるわけでございます。
財政硬直でお金がないのならば、目的税をはっきりとつくって、それを取ったらいいじゃないか、こんなふうにも全国のお年寄りは考えております。私スウェーデンへ行きまして、若い勤労青年に会ったのですが、この青年がこういうことを言っておりました。給料はわれわれ若いから安い、その給料の中で大体税金三〇%も納めておる、だけれ
ども老後の心配がないからがまんしておりますよと、こんなことを言っておったわけでございます。日本でも、あなたの老後のために、あなたのおじいちゃん、おばあちゃんのためなんですよと、こう言って使途をはっきりした税金ならば、そうあえて反対する人はないんじゃないか。私自身もおじいちゃん、おばあちゃんいるんですが、本当にそういう感覚を実際に持っております。そんなような
意味で、ちょっと残念でたまらない、こんなふうに思うわけです。
と同時に、では日本人の税
負担の
可能性がないんだろうかと申しますと、決してそうではない。ちょっと統計を申し上げますと、これは厚生省でつくった統計なんですが、日本人の
福祉のために課税しておる税
負担の率、これは先進国の約半分。だけれ
ども、貯蓄率というものは逆に二倍になっておる。ここのところがちょっと大切なんですが、これは、国が
社会保障、老後
保障というものをきちっとやってくれないから、日本の
国民は貯蓄という個人
作業で老後対策をやっておる、こういうふうにも解釈でき得るわけでございます。そこで、国がしっかりやってくれればこういうような行動にもあらわれないのじゃないか、こんなふうにも思われるわけでございます。
以上が総論なんですが、次に各論的に申し上げたいと思います。
皆さん御承知のように、日本の
老人福祉の究極は何だといいますれば、私
たちも多くの
国民も、みんな
医療保障と所得
保障ではないか、こんなふうに考えておるわけでございます。したがいまして、各論的に
医療保障と所得
保障の不備な現況、これを申し上げまして、五十一
年度予算案に対しまして皆様方の厚い御協力を
お願いしたい、こんなふうに考えるわけでございます。
では、まず第一に
医療保障の改善していただきたい点、これを申し上げます。
第一でございます。これはもちろん仮称なんですが、退職者の
医療制度、こういうものを新設してほしい、こういうふうに思うわけです。その理由を申し上げますと、次のとおりになります。
いま日本で定年制を施行しておる企業体というのは大体六九%ございますが、その内訳を見ますと、五十五歳の定年制をやっておる企業というのが五二・七%、五十六歳というのが一一・五%、五十七歳が一七・三%、五十八歳が三・〇%、六十歳が一四・四%でございます。このような定年制がしかれておるわけでございますから、年齢が参りますと、御本人が好むと好まざるによらず、あなたはもうおやめくださいよ、私なんかもその一人なんですが、そういうふうに追い出されるわけでございます。そういたしますと、その職場におる間いろいろお世話になっておったその会社の健康保険というものとも絶縁になってしまいます。ところが日本の
医療保障の年齢、これは御承知のように七十歳でございます。もっと生きたいというのが人間本来の欲望でございます。この欲望を維持するために、ここからはみ出された多くの定年者というものは当然国保に加入していきます。このようなお年寄りが国保にどんどん入っていきます。そして、自分の生命を長く保ちたいから
医療機関を訪ねます。ところが、この
人たちの
医療費は御承知のように公費
負担でございます。そんなようなわけですから、高齢者をまる抱えにしておる国保というものは毎年毎年
赤字が累積していってしまう。ところが、一方を見ますと、企業側の健康保険組合というものは
財政が非常にだぶついておる。観光地にホテルまがいのような保養所を建設しておる。そしてこの
財政の
内容につきましては、去る四日の日に厚生省が各新聞に正式に発表しておりますね。その積立金が三十五年後には実に三百四十八兆円になりますよ、こういうことを言っている。この裕福な
財政に私
たち目をつけないわけにはいかないのじゃないか。この裕福な大企業の保険組合に定年後の退職者の
医療保障を引き受けていただきたい、つまりやめてももとの職場の健康保険にめんどうを見ていただきたい、退職者
医療制度、こんなものをつくっていただくと非常にいいのじゃないかな、こういうふうに思うわけでございます。そして、これをきっかけにいたしまして
医療保険
制度の根本的な手直しに着手していただきたい、こんなふうに思うわけでございます。
それから第二の
お願いの点でございます。これは私
たちとしては非常に大切な問題なんでございますが、いろいろ論議されておりますが、
老人医療というものは多少の修正はあっても本質的には無料化であるべきではないか、こんなふうに私も考えるし、多くのお年寄りもそう願いたい、こう言っておるわけでございます。ところが昨今は
財政硬直、低
成長、こういうような理由によりまして、お年寄りの資産それから所得、
生活状態、こういうものがよければ有料化するのは当然じゃないか、こんなふうに多くの人が考えておるわけでございます。また大蔵省なんかも
政府も、そういう方向に五十二
年度は持っていこうじゃないかというふうに態勢をじわじわと固めておることは皆さん御承知のとおりでございます。ところが、無料化が実施されておる現段階でも
所得制限というものがございまして、その
内容は、たとえば本人が年収百五十三万円、東京はちょっとそれじゃ低過ぎるというのでこれを二百万円にしておるわけでございますが、いずれにいたしましてもこういう
所得制限がありまして、豊かなお年寄りに対する
医療というものは決して無料ではないのです。そういうようなわけで現行法で結構じゃないか、こんなふうに考えられるわけでございます。
その次の
問題点、大蔵省は
財政悪化の防止策としてこういうことを言っております。つまり、お年寄りも
一般患者と同じように六百円の初診料を支払いなさい、一日二百円の入院料を納めなさい、そうすることが
財政悪化の防止策なんだ、こういうことを言っており、そしてまた五十二
年度は恐らくそういう方向に向かっていくのじゃないかということが心配されるわけでございますが、お年寄りというのは大半は職がありませんね。ですから無
収入、あっても九〇%近くは低所得者である、こういうことは当然考えられるわけです。そのようなお年寄りに、お金がないから払いなさいよ、入院料も払いなさい、そういう
一つの
方法論が果たして
財政硬直の防止策になるのか、ここが
問題点でございます。私
たちは、また多くのお年寄りは決して歯どめにはなりませんよ、こういうふうに考えておるわけです。
そしてまた、その実証を厚生省統計から申し上げますとこんなふうになります。これは国保の中に占める七十歳以上のお年寄りの
医療費の統計でございます。
医療費の大半を
老人医療が食ってしまうのだ、こんなふうに言われておるわけなんですが、国保の中でその実態を見ますと、たとえば
昭和四十七
年度は全体の中の一七・五%きり
老人医療ではなかったわけでございます。四十八
年度には二二・五%、四十九
年度には二三・二%、この
数字を見ましても無料化ということが決して
財政を圧迫している原因ではない、こんなふうに私も考えるし、多くのお年寄り
たちもそう言っておるわけでございます。
その次に
医療機関の乱診乱療、これが問題だ、こういうふうに言われておるのでございますが、こういうふうに立ち至ったのを直す
方法は、お医者さんに対する
医療報酬
制度の改善で直せる、こんなふうなのが実態でございます。御承知のように、多くのお年寄りがどこのお医者さんに参りましても、これはちょっと言葉が悪いのですが、余り親切な診療をしてくれないで、しかし帰りには持ち切れないほど薬を持たせてくれる。こういうふうな
現状であれば、お年寄りの
医療人口が七百万を超しておる現在でございますが
医療費がかさんでしまうのは無理ないのじゃないか。したがいまして、
医療の報酬
制度をきちっと変えていく必要があるのじゃないか、こんなふうに思うわけでございます。
以上申し上げましたことを結論づけますと、
医療財政の悪化の主因は
老人医療の無料化と現行法の中にあるのではない、もっと大きな要因というのは別の面にある、こういうふうに私
たちは考えておるわけでございます。その証拠をちょっと、簡単でございますが次に申し上げることにいたします。
まず、各
医療機関が
老人クラブ化してしまって困るのだと、どこへ行ってもじいさん、ばあさんの集まりだ、こういうふうに言われておるのですが、では実態は果たしてそうなんだろうかということを厚生省統計で申し上げます。これは七十歳以上のお年寄りが病院を占領しておる率でございます。これを見ますと、
昭和四十六
年度八・〇%、四十七
年度一〇・二%、四十八
年度も同じく一〇・二%、四十九
年度一一・九%、五十
年度一八・四%、これでお年寄りが
医療機関を全部占領しておるというのは余りにも大胆な物の言い方ではないか、こんなふうに考えるわけでございます。
なぜお年寄りが病院に集まるかという、今度は必然性をここでちょっと見たいわけでございます。そういたしますと、
老人の有病率、お年寄りが病気にかかる率、これを申し上げますと、これは人口百人
当たりでございますが、六十四歳までの有病率、これは日本の場合一二・七%、六十五歳から七十五歳未満が三三・五%、七十五歳以上が三五・八%、こういう有病率になっておるから、まあ長く生きたいという人間本来の欲望から、当然病院を訪ねるわけでございます。したがって、こういうお年寄りを温かく迎えてやるというのが、やはり先進国の
社会保障制度ではないか、こんなふうに考えるわけでございます。
第二番目、病院の
老人クラブ化という原因、もう
一つあるわけでございます。これはなぜこんなふうになってしまったかと申しますと、
老人医療の需要と供給がアンバランスである、つまり国は
昭和四十八年に無料化を実施したのでございますが、
医療体制を整備しないうちにこの無料化を実施してしまった、原因はむしろこれを実行した
政府側にあるのであって、お年寄りの側にあるのではない、こんなふうに言いたいわけでございます。
こういうような現象を直していく
一つの
方法論、これは
老人専門の病院を各地に新設してほしいということ、それから
老人ホームとか
老人の施設、そういうものの
社会化を図りたい、そういう
医療機関をその
地域のお年寄りに開放するようにしてやったらいいじゃないか、こういうことでございます。
御承知のように、
福祉の
方法論が昔の施設ケアという古い
考え方から、いまやコミュニティーケアという新しい方向に向かっていっておるわけでございます。こういうことを考えますと、やはり現在の
老人施設というものの
社会化こそ非常に大切なんじゃないか、こんなふうに思うわけでございます。
以上で
医療の点を申し上げまして、第二番目の各論といたしまして所得
保障、特に
年金について申し上げます。
これは御承知のように、七十五国会の
国民に対する
一つの公約みたいなもので、
年金を所得
保障化いたしますよというふうな印象を非常に
国民に強く与えたわけでございます。ところが、この善政がいまや崩壊の危機にある、こういうことが言えるわけでございます。たとえば七十歳以上のお年寄り四百三十万人がいただいておる老齢
福祉年金の場合でございます。現行では月一万二千円、これが十月から一万三千五百円にアップするんでございますけれ
ども、アップしたものの
生活のでき得る
年金ではありません。ですから、七十五国会で所得
保障化をいたしますよという公約はどうなったんだろうか、こんなふうに多くのお年寄りが言っておるわけです。私が言っておるのではありません。したがいまして、たとえば
所得制限があっても軽費
老人ホームに入って暮らせるくらいのお金、
生活保護費に匹敵するくらいの金額、つまり
最低生活を
保障するくらいの
年金は
お願いしたい、こんなふうに多くのお年寄りが願っておるわけでございます。
ところが、この
年金のアップに対しまして、大蔵省は、
財源難だからだめだよ、こういうふうに言っておるわけでございますけれ
ども、これではちょっと冷た過ぎるんではないか、こんなふうに思うわけです。
そういうような関係で、では日本の
年金の額、最近は九万円
年金なんということを非常に調子よく宣伝しておるわけなんでございますが、おしなべて日本の
年金額というものを外国とちょっと比較してみますと、こんなふうになるわけです。きわめて
水準が低いということでございます。たとえば日本の
年金の指数を一〇〇といたします。その場合、西ドイツ、同じ戦争に敗れた国でございますが、その国でございますけれ
ども、五六五、アメリカ五四三、スウェーデン四五九、イギリス二八一。そしてこの
年金を受けておる受給者の率でございます。日本はわずかに一〇%、西ドイツが八二・五%、アメリカが八二・六%、スウェーデンは御承知のように一〇〇%、イギリスが八四・二%。ですから、
政府は非常に勇ましいことを言っておるんですけれ
ども、
内容としてはこういうふうに非常に低いし、その
年金制度はきわめて未成熟である、こんなふうに言えるわけでございます。したがいまして、よく多くの方々から望まれておる、現在のいままでの積立方式、こういうものから賦課方式への転換、これをやはり多くのお年寄りが非常に望んでおるわけでございます。よろしく
お願いしたいと思います。
そして御承知のように、日本の老齢化のスピードというものは全世界にないほどそのスピードが速いわけですよね。老齢化と申しますれば御承知のように六十歳以上の人口の総数が全人口の八%から一八%に達することを言うわけでございますが、たとえばフランスの場合は八%から一八%に達するまでに百七十七年かかっておった、スウェーデンは百三年かかっておった。ところが、日本はわずかに四十年でいってしまう。こういうように日本のスピードは速いわけですよね。こういうときにやはり早く
保障制度をきちっとしておかないと大変なことになってしまうんではないか、老齢化
社会の到来に追いつかないんじゃないか、こんなふうに思われるわけでございます。
それから第二の
お願いしたい点でございます。
これは、いま日本には御承知のように
年金制度というのが八つもありますよね。ところが、この八つある
年金のお互いの給付の額、それから給付が開始される年齢、これが全部ばらばらですよね。たとえば老齢
福祉年金の場合は年齢が七十歳、
国民年金が六十五歳、
厚生年金が六十歳、と申しますが、この六十歳も職について、お年寄りがやはり
生活に苦しいからといって再就職すれば、六十五歳から。共済
年金、これは
国家公務員、
地方公務員が入っておる
年金でございますが、これは五十五歳。
年金をいただく年齢、みんなこんなふうにばらばらでございます。そういたしますと、この間私
たちは、多くのお年寄りは実際どうして暮らせばいいのか、こういうふうに考えられるわけでございます。どうしてもこういうような年齢になっておるわけでございます。
そうして先ほど申し上げましたように、定年制によって出される年齢、定年制の年齢というのは五十五歳ですよね。したがいまして、
年金をいただくまでに十年あるいは十年以上もあるわけです。どうか、この点につきまして、六十五歳以上の
老齢年金というものに対しましては、所得
水準に関係なく、加入者すべてが一律に同額の給付を受けるような、そんなふうに調整をとっていただきたい、こんなふうに多くのお年寄りが皆様方に
お願いしておるわけでございます。
最後に、高齢者の
雇用対策と定年制についてちょっと
お願いいたします。
これは、いま東京にはお年寄りに職業をお世話をする高齢者無料職業紹介所というのが九つございます。全国では百十一ヵ所あるわけでございます。ここへお年寄り
たちが非常に希望に燃えて訪ねておるのでございますが、昨今の就職率、定着率というものは
平均しましてわずか一二%前後にがた落ちしておるわけでございます。
その理由を聞いてみますと、こういうことでございます。これは非常に大切な問題じゃないかと思うわけでございます。御承知のように、いま日本の各企業というものは資本主義
経済の原理によって、つまり生産性、合理性を基本として
運営しておるわけでございます。ところが、お気の毒にも、悲しいことにはお年寄りには理想的な生産性、合理性はありませんよね。そうしてさらに各企業というものは石油ショック以来非常に
内容が苦しくなっておる、自分の企業の経営さえも苦しいのに生産性、合理性の落ちたお年寄りを、
福祉ですよ、こんな甘い
考え方でわれわれは雇うことはできないのだ、こんなような
考え方で、非常にもう希望に燃えておるお年寄りの定着率、就職率というものもがたがたに落ちておるわけでございます。
したがいまして、お年寄りに対する理想的な
老人雇用対策というのはやはり定年延長ではないか。そうしてなれた職場に健康な間は働いていただく、定年が来たらば、六十五歳以上はどの人にも一律の定額の
年金を与えられる、こういうのが日本全体のお年寄りが望んでおる
社会保障、
老人福祉である、こんなふうに多くのお年寄りが皆様方に
お願いしておるわけでございます。よろしく
お願いいたします。
どうも御清聴ありがとうごさいました。