○稻葉国務大臣
民法等の一部を改正する
法律案につきまして、その
趣旨を御説明いたします。
民事法の分野における男女の平等及び人権の保障につきましては、理念上のみならず、実質的にも、また
制度の上においても、確立されるべきものであることは申すまでもありませんが、わが国の婚姻に関する実情や人権に対する
国民意識の推移等にかんがみますと、妻の法的地位及び戸籍
制度については、なお改善すべき点があります。
そこで、この
法律案は、妻の地位の実質的向上を図るため、離婚復氏の
制度、婚姻
事件に関する
裁判管轄及び嫡出子出生の届け出をする者について改善を加えるとともに、
国民のプライバシー保護の観点から戸籍公開の
制度等を改善するため、民法、人事
訴訟手続法及び戸籍法について所要の改正を行おうとするものであります。
この
法律案の要点を申し上げますと、第一は、民法の改正であります。
現行民法第七百六十七条は、婚姻によって氏を改めた夫または妻は、離婚により当然婚姻前の氏に復するものとしておりますが、このことによりまして復氏する者に社会生活上の不利益をもたらす可能性もありますし、離婚後母とその養育する子との氏が異なることによる不都合を生ずるおそれもあります。
そこで、離婚による復氏の原則を維持しながら、離婚後も引き続き婚姻中の氏を称しようとする者については、離婚後三月以内に戸籍法による届け出をすることにより婚姻中の氏を称することができることといたしております。
第二は、人事
訴訟手続法の改正であります。
現行人事
訴訟手続法第一条は、離婚等の婚姻
事件の訴えは、婚姻の際氏を称した者の現在の住所地の
裁判所が専属的に管轄することとしておりますが、現在の婚姻の実情を見ますと、夫の氏を称する婚姻がほとんどでありますから、妻が離婚
訴訟を遂行するには、多くの場合、夫の住所地に出向かなければならない不便があるのみならず、証拠収集等の点からも必ずしも合理的ではありません。
そこで、当事者の便宜及び証拠収集の容易さ等の観点から、
裁判管轄を合理化するため、婚姻
事件の訴えは、まず、夫婦の共通の住所地の
裁判所、次には、夫婦の最後の共通の住所地の
裁判所の管轄区域内に夫または妻が住所を有するときは、その住所地の
裁判所、さらに、それ以外の場合には、夫または妻の住所地の
裁判所の管轄に専属することといたしますとともに、具体的事案に応じた管轄の合理化を図るため、他の管轄
裁判所へ移送する
制度を設けることといたしております。
第三は、戸籍法の改正であります。
現行戸籍法第十条及び第十二条は、何人でも手数料を納めれば、戸籍及び除籍の閲覧またはこれらの謄抄本の交付を請求することができるものとしておりますが、個人のプライバシーが不当に侵害されることを防止するため、申請件数が少なく、市町村の手数もかかる戸籍及び除籍の閲覧の
制度を廃止するとともに、他人の戸籍の謄抄本の請求をするには、一定の場合を除き、その
事由を明らかにすべきものとし、請求が不当の目的によることが明らかなときは、市町村長はその請求を拒むことができることとし、他人の除籍の謄抄本の請求は、一定の場合を除き、相続
関係を証明する等の必要があるときに限りこれをすることができることといたしております。
また、
現行戸籍法第五十二条は、嫡出子の出生届につき父を第一順位の届け出義務者としておりますが、これを改め、母も父と同順位において届け出ができることとするほか、死亡届及び
裁判に基づく戸籍の届け出について、可及的速やかに届け出がされるよう、届け出人の範囲を拡大しております。
さらに、戸籍及び除籍の謄抄本の交付について前述のような改正をすることに伴い、不正の方法で戸籍等の謄抄本の交付を受けた者に対し過料を課するとともに、戸籍届け出の遅延に関する過料額を引き上げる等所要の罰則
規定を整備しております。
以上が
民法等の一部を改正する
法律案の
趣旨であります。
何とぞ慎重に御
審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。