○沖本
委員 そこで、もう余り時間もありませんので、
青柳先生は後で全般的に
簡易裁判所をめぐる諸問題の面での
シンポジウムの
内容が出るからということをおっしゃっておられましたので、
部分的に私なりにとらえたところを申し上げてみたいと思うのです。
「審理
手続の実態」で、
簡易裁判所創設時における民事
訴訟取扱の理念は、「
少額軽微な
事件の簡易迅速な処理」であった。しかし
現実には、必らずしも「
少額軽微」とはいえない
事件が
簡裁に流入している
現状にあっては、簡易迅速な処理にふさわしい
事件も、それに応じた取扱をうけるのが困難となっている。
口頭起訴はごく一部の
簡裁で実施されているほかは、例外的に年数件以内の取扱例ある庁が散見されるのみである。任意出頭弁論の実例は絶無といってよい。また起訴
手続の便宜のための訴状様式の記載例の備付は、
最高裁の通達にもかかわらず、励行されていないところが少なくない。
簡裁としては
事件数と
職員配置の
現状を前提とする限り、口頭受理制の拡充に対しては消極的たらざるを得ず、
訴訟提起を求める本人に司法書士を利用しても訴状を
提出するよう指示するということになりがちなわけである。いわば「当事者・
国民にとっての簡易迅速」よりも「
裁判所にとっての簡易迅速」が優先するのである。
同様なことは審理の
内容についてもいえる。
簡裁民事
訴訟の問題点として、
裁判官の本人
訴訟の取扱方が不適切(ないし不親切)と
指摘する声が意外に多いのは深刻な問題である。
現実に
簡裁事件のうち、双方を
弁護士が代理しているのは約一割内外で、約七割は双方共本人の
事件である。もちろん、
裁判官の立場からすれば、法廷において素人の錯雑した陳述を即座に整理し、不公平感を与えないように必要な釈明を加えることは相当な努力を要するであろう。管轄拡張により間口を拡げ、小型地裁化した現在の
簡裁にあっては、いわば手数のかかる本人
訴訟の存在は審理の流れを妨げるものと感ぜられ、いきおい本来
簡裁に要求さるべきキメの細かな審理とは逆に、一方的独善的とも評されるような審理態度となってあらわれるのではなかろうか。
簡略判決はかなりの
範囲で利用されているが、なかには複雑な事案について簡略判決をし、いわば
裁判官の判断のあいまいさをカムフラージュするような事例もいくつか報告されている。本来簡略判決とは、いわゆる筋の明らかな
事件について、簡易迅速な
裁判を可能ならしめるものであろう。右のような事例はまさに「
裁判所のための簡易迅速」が当事者の利益を無視した実例といえよう。
こういう点の
指摘、それから、
交通事故
関係の
事件の増大により、新受人員は、著しく増え、
昭和三〇年には二〇〇万人の大台に乗り、
昭和四二年には、四七六万人余を数えるにいたった。
昭和四三年七月、いわゆる交通反則通告
制度が施行され、その結果、翌四四年には、一九二万人と減少したが、その後再び漸増の傾向をたどり、
昭和四九年には、二、五〇三、三九一人にのぼっている。この年の
地方裁判所の第一審としての新受人員が二三五、二一八人であるから、この対比だけでも、
簡易裁判所は
地方裁判所の一〇倍以上の
刑事事件を扱うことになってきている。
それから、
簡裁発足の年である
昭和二二年は罰金以下の刑しか科することができなかったが、
昭和二三年と二五年の二回にわたる刑事
事物管轄拡張により、窃盗罪等につき三年以下の懲役刑も科することができるようになった。
科刑
状況をみても、管轄拡張前の
昭和二二年における
訴訟事件の科刑はすべて罰金以下であったのに対し、
昭和四七年における通常第一審
訴訟事件の有罪総数二〇、六三六人のうち、罰金以下のものは三、五六五人にすぎず、残りの一七、〇七一人(八二・七パーセント)は懲役であり、しかもそのうち三九・五パーセントに該る六、七四九人は実刑である。
これらの事実は、
簡裁が軽微
事件を取扱う
裁判所としての
性格を変えていることを如実に示している。
ここで大事なことは、「審理の実態」として、アンケート調査で得た
内容が報告されているわけですけれ
ども、この辺が私の問題にしたいところであります。
(1) 被告人を「お前」とあたかも罪人と決めつけた態度で臨み、有罪推定の原則に立っているとしか理解できない
裁判官がいること。
黙秘権を告げず審理をするということで弁護人から抗議を受ける
裁判官、黙秘権の告知が適切でなく、黙秘は不利益とのみ被告人に理解させる
裁判官、審理の冒頭に被告人質問を強行し、特に否認する被告人には執拗に質問する
裁判官等が全国的に存すること。
(2) 検察官の証拠調請求の供述調書等の取調べに同意しないと弁護人に対し執拗に理由を尋ね結果的に同意を強く求め、また、検察官の法三二八条にもとづく請求は安易に採用する
裁判官が全国的に存すること。
(3) 公職選挙法違反被告
事件で、
裁判官が争点についての理解が充分でなく、それが審理の長びく一因ともなっている事例があり、
裁判官の中にも公選法
関係事件につき管轄を有することに疑問をいだいているという事例が存すること。
(4) 検察官に再三にわたり訴因の変更を促がし、有罪判決形成に最善を尽しているとしか
考えられない
裁判官がいること。しかも、控訴審で無罪になりこれが確定した例もある。
(5) 前科のない被告人の執行猶予の判決に必ず保護観察を付す
裁判官、検察官の求刑
意見どおりの量刑に終始する
裁判官の存すること。
(6) 略式命令に対し、
異議申立をし、正式
裁判の結果無罪になった事例で、当初から略式命令不適当の事案と
考えられるものが存すること。
それから「令状
事務の実態」として、
(イ)、逮捕状発付の必要性が明らかにないと
考えられる
事件につき逮捕状が発付され、また、
地方裁判所で一度却下され、その直後に
簡裁で、これについて逮捕状が発付されているという事例の存すること。勾留状についても、勾留の必要性がないと
考えられる請求について安易に決定され準抗告で取消されるという事例があること、そして、これらが特定の
簡裁に極く限定されるというものでないこと。
(ロ)、保釈については、第一回公判前は、検察官の
意見に盲従し、却下という原則に立って処理しているとしか解せられない
裁判官が全国的にいること。このような
裁判官は、被告人が否認し、また、弁護人が検察官の証拠請求につき同意しない
部分が存すると保釈請求は却下するという傾向を有していること。
保釈保証金は、
一般に高額化の傾向にあり、権利保釈の場合でも、保証金の捻出に家族が苦労する例の存すること。具体的に三〇万円から一〇〇万円の間で決めることを明らかにしている
裁判官、一〇万円以下では出廷確保が
心配であると述べる
裁判官のいることも
指摘されている。
「問題点」として、
(1) 令状
事務についてみれば、令状
裁判所といわれた
簡易裁判所の令状
事務における司法抑制
機能は、その実質を失っていると
考えざるを得ない。
(2)
裁判官の審理態度についても問題であり、
簡易裁判所裁判官としての基本的資質を問われていると
考えざるを得ない。本来
簡易裁判所裁判官には、庶民の立場に立った常識豊かな、資質に富む
裁判官が期待されていたにもかかわらず、
現状は必ずしもそうではない。現在の
簡易裁判所裁判官の登用・処遇等に問題があろう。
(3)
裁判官が、検察官の
意見を容易に容れる傾向にあり、科刑においても、実に多くの比率で懲役刑、しかも実刑を言渡していることは極めて問題である。この点からも
簡裁刑事事件の科刑限度は罰金刑以下という、創立当初の形に戻すべきではないかとの問題を
指摘せざるを得ない。
それから略式命令のことにも触れておるわけです。
これはさらさらっと、私自身が疑問に思い、これはこうあるべきだと思ったような点について拾って申し上げた点でありますけれ
ども、やはりここには人をふやしていき、質を向上していただく以外にないんではないか。これはいわゆる
裁判官、
職員すべてに触れる問題だ、こう
考えます。
そうしてきますと、この
事物管轄を引き上げた点についての附帯決議については実行されていないということになるわけですけれ
ども、この点についてお
考えをお述べいただきたいと思います。