○
森澤参考人 御
紹介いただきました
森澤でございます。
私のほかにあとまだお二方の
参考人の陳述がございますので、私は主として全般的な問題及び
国際漁業に
ポイントをしぼりまして
先生方に御
説明を申し上げたい、こういうふうに考えております。
もう私が申し上げるまでもないことでございますが、
日本の将来を左右する非常に大きな問題というのは、私は
エネルギーと
食糧であろうということを常々感じております。
エネルギーはこの場の
議論ではございませんので触れませんが、最近
食糧問題というのがいろいろな場において論ぜられ、農林省におかれましても、
食糧自給率の
向上という点において、
予算面におきましてもあるいは
制度面におきましても非常に力を入れておられるわけでございます。私は、
食糧は将来石油と同じように
世界の
戦略物資になるという
考え方を常々持っておる者の一人でございますが、特に、
わが国民が摂取いたしております
たん白質の中で、
国民生活の
向上と食生活の
多様化に伴いまして、
動物たん白質のウエートというものが逐次高くなってまいりました。特に、
日本人の健康という面から見まして、
たん白の中で
動物たん白の占める
比重が上がっていきます中で、お魚、いわゆる
水産物によって
動物たん白を摂取する
比重が
世界のどの民族よりも非常に高いわけでございます。細かい
数字は申し上げませんが、要するに
日本人の摂取しております
動物たん白質の半分は
畜産に依存をいたしておりますし、半分は
水産に依存しておるわけでございます。
こういう観点から、
先生方にすでに御
案内のように、
国会に提出され、また
一般に発表されました最近の
漁業白書をごらんいただきましてもおわかりのとおり、その冒頭で「
我が国漁業の概観」をいろいろ述べておりまして、「
水産物安定供給への道」という
サブタイトルが掲げられております。従来、数回にわたり
漁業白書が
国会に提出されておりますが、こういう
サブタイトルをつけた
白書は初めてであろうというふうに私は思います。それにはそれなりの
背景があるわけでございまして、
わが国の
水産業は、
昭和四十九年度におきまして総
漁獲高は一千八十万トン余、
世界の第一位を依然として
維持をいたしておりますけれども、
内容的に見ますと、
生産面においても
金額面においても、
魚種別に見た面においてもいろいろ問題がございます。特に
日本の
水産業の
漁獲総
生産高というのは、過去十年間に約五割ぐらいアップをいたしております。
年率四%ぐらいの
成長率を続けてきたわけでございます。戦前の最高は
昭和十一年だと思います。四百三十三万トンぐらいでございますので、そのころに比べますと
日本の
漁獲高というのは二倍以上になった。これは旺盛な
動物たん白に対する
需要という
背景があるわけでございますが、最近の動向を見ますと、すでに
海洋法等を
中心とする
国際漁業情勢が
日本の
漁業生産に濃く影を落としつつございます。
白書にもございますように、
遠洋漁業を
中核といたしております大
規模漁業におきましては、前年に比べまして八%ぐらいでございますが、
生産高はむしろ減少を見せております。
中小漁業、
沿岸漁業は若干ずつ伸びておりますが、
生産全体の伸びというのは前年に比べましてわずかに〇・四%ということで、従来
年率四%
程度で伸びてまいりました
日本の
生産が非常に停滞的であるということ。特に
国際規制を強く受けます
遠洋漁業、これには
中小漁業も大
資本漁業もございますが、こういう面においてかげりが出てきたということは非常に大きな問題であり、今後、安定的に
水産物を
供給していく場合にいかにしてこういう
情勢に対応していくかということが、
先生方に
政策面において裏づけを
お願いしたい最大の
ポイントでございます。
現在、
ニューヨークで
国連海洋法会議第四
会期開会中でございますが、どうやらこの
会期中には、前
ジュネーブ会議で議長の
責任において発表されました
非公式単一交渉草案というものを修正しました正式の
草案はできそうにもない状況のようにわれわれ報道を受けております。特に、
海洋法条約の中で一番関連の深いのは
経済水域の設定問題であり、
サケ・
マスのような遡
河性魚種に関する条項並びにカツオ・マグロのような
高度回遊魚に関する問題でございますけれども、私
たち水産業界といたしましては、
海洋法会議の趨勢に重大な関心を持っておりますけれども、
ニューヨークあるいはまた夏の
ジュネーブにおいてコンセンサスが得られようと得られまいと、もうすでに
世界の大勢は
経済水域二百海里に大きく動き出しております。
先般、アメリカ合衆国は、
海洋法会議の合意を待たずして一方的に二百海里の
漁業専管水域法案を
議会で可決し、
フォード大統領もこれに署名をいたしましたことは御
案内のとおりでございます。来年三月一日から施行される。その
内容は、
日本の
遠洋漁業にとりましてまことに厳しいものでございます。多分この八月に行われます
日米政府間漁業交渉におきましては、私は、
政府代表の御苦労は察するに余りある、そういうふうに思いますが、アメリカがそういう
情勢でございますので、
後進国は言うに及ばず、
世界の
先進諸国もこれに対して
なだれ現象を起こすことはもう必至であろうと私は思います。もうすでにカナダは、
議会の議決を得ることなく二百海里を施行する権限を
政府に与えておりますし、
EC諸国におきましても、
内容はいろいろ問題があるようでございますが、二百海里という
方向に踏み切るようであります。
われわれの一番のライバルでございます
ソビエト、いままでは、二百海里の
経済水域は、
ソビエトが
日本と同じように
遠洋漁業国でございますので、正式には持ち出してまいりませんでしたけれども、現在モスクワで行われております日
ソ漁業委員会並びに
日ソ政府漁業交渉の成り行きをじっと見ておりますと、明らかにソ連も二百海里を前提にしてわが
代表団にいろいろ厳しい
規制を迫っておるようでございます。非常に問題になっております
索餌ニシンの
規制の問題あるいはカニの
規制の問題、
サケ・
マス、どれを見ましても、二百海里
水域を濃厚に頭に置きながら
日本との
交渉に臨んでおる、こういうふうに私は見ざるを得ないわけでございます。
いずれにしましても、
日本の
水揚げ高の約半分に近い四百四十七万トンに達する
生産が、
外国沿岸二百海里の
水域で上げられておるわけでございます。これが
海洋法の施行で一挙にゼロになるということでは決してございませんけれども、
海洋法条約が施行されますと、恐らく
政府は
各国別に
交渉を行いまして、
政府間の協定が調わなければ、
日本の旗を掲げた漁船はその
水域内では操業できなくなるということに相なろうと思います。したがいまして、この
日本の
生産の約半分を占める大きなウエートの
漁獲量が逐次目減りをしていくという懸念は、もう十分あるわけでございます。
特に、私たち非常に大きく依存をしておりますべ−リング海、いわゆる北洋海域における
生産が、その
経済水域の総
生産の中の八割を占めている。したがって、南北問題も非常に重要でございますけれども、
水産業界にとりまして
海洋法の問題はむしろ対
ソビエト問題であり、対アメリカ、対カナダの問題が
中心になるというふうに申し上げてもよろしいかと思います。
したがいまして、われわれは、
水産業界の浮沈の問題ももちろん
水産業界でございますから非常に重要でございますが、もっともっと大きい見地に立ちまして、冒頭に申し上げました
動物たん白食糧の半分の
水産物の安定
供給に対して、思い切った
政府の
施策をかねがね強く要望してまいりました。これは、単に一発でこの危機を打開する方法は私はないと思います。いろいろな手を打っていただかなければならぬ。
たとえば、まず第一には、先ほど申し上げましたように、諸外国ときわめて厳しい
政府間
交渉をお取り進めいただきまして、外交面において
日本の
遠洋漁業の実績が二百海里の
経済水域の中で急速に失われることのないような御尽力を願わなければならぬ。そのためには、その裏づけとなります国際協力、これは技術協力も
経済協力もございます。あるいは
国内的な対策、そういうものも当然必要になりますし、不幸にして大規模な
規制が一挙に落ちてまいりました場合には、私は、いわゆる体制整備、減船整理というものは当然業界がまず自主的に努力をいたしますけれども、とても業界の能力ではこなし切れないような大きな
規制が不幸にして一挙に落ちてまいりました場合には、私は
予算面におきましても、また立法面におきましても、強い
施策を
お願いしなければならぬ不幸な
事態が来るのではないか、こういうように考えております。
過去におきまして、瀬戸内海の小型機船底びき網の減船整理、これは国際問題ではございませんけれども、特別措置法で実施した歴史がございます。さらに自主減船では、北洋の
サケ・
マスにつきましては三回にわたり業界自体の努力でやってまいりましたし、また
昭和四十六年には、厳しい日ソ
漁業交渉の結果きましたオホーツク海の抱卵ニシンの全面禁漁に対しまして、
政府からいろいろ、これは立法措置ではございませんでしたが、財政上の御援助をいただいて後始末をしたこともございます。また、最近は以西底びき網
漁業の減船整理等につきましても利子補給等の御援助を得たこともございますが、そういう
海洋法を
中心とする厳しい
国際規制が急激に来た場合の措置というものは、新しい
政策としてぜひ御考慮おきいただかなければならないときが近く来るのではないか。二百海里はもうすでに、開発途上国はもちろんでございますけれども、先進国に対しても動き始めております。したがって、
海洋法会議が終わってからどうこうということでは非常に立ちおくれるわけでございまして、
行政がなかなか先取りはしにくいという特質は十分存じ上げながらも、
食糧の安定
供給という
立場から、ぜひ
政策面の御
検討を
政府並びに
国会にこの際強く
お願いしたいと思うわけでございます。
それから、もう一点特に申し上げたいことは、いろいろ厳しい国際
情勢で
日本の
漁業は危機に直面をいたしておりますが、
遠洋漁業だけでございませんで、
沿岸漁業から
資本漁業に至るまで、最もわれわれ頭の痛いのは、オイルショック以後の
経営危機でございます。オイルショックが参りますまでは、
日本の
漁業というのは、広い公海と安い重油をベースにして、沖合い、遠洋へと伸びてまいりましたことは御
案内のとおりでございます。しかし、広い公海も安い重油もすでに過去のものと相なりました。したがいまして、オイルショック前に比べて油の値段が三倍、漁網綱等の資材が二倍、こういうふうな状況に相なりました。人件費はもちろん
水産業だけの問題ではございませんが、やはり高騰してまいります。ところが、
漁業のコストがこういう形でどんどん上がりますのに比べて、いわゆる
生産者の手取りがそれに並行してアップしていく何らの保障もないわけでございます。
水産物は、御
案内のとおり、市場という機構を通しまして
価格形成がなされます。したがって、原価を
販売価格に反映する機構がないという特質を持っております。これは農産物についても同様でございますが、米を初めとする農産物あるいは
畜産物には、
政府の
政策による
価格安定制度がございます。ところが、
水産物につきましては、従来そういう制度は全然ございません。したがって、
生産コストのアップが
漁業の
経営を非常に強く圧迫をしているという状況があらわれておるわけでございます。
昭和五十一年度の予算におきましては、幸いにしてこういう面に
水産庁も力を向けられまして、業界の自主的な調整保管を前提とする魚価安定基金の制度を打ち出されることになりました。これは私は大きな前進だと思いますが、
海洋法等で、
国際規制等で
日本の
水産業が危機に立つ前に、
日本の
漁業の
経営全体が崩壊をするということがあってはなるまい、こういうふうに私は申し上げざるを得ないわけでございます。したがいまして、
供給の担い手でございます
漁業の
経営者、こういう者の自主的な努力は万全にわれわれさせますけれども、さらに
政策面でこれを大きく裏打ちをしていただくということがございませんと、とても
水産物の安定
供給ということは図られないであろう、私はこういう危惧をするものでございます。
過半、農政審
議会が
政府に
水産物の
需給の予測を答申しておられますが、
昭和六十年で千三百五十二万トンという
需要の予測が出ております。これに対して、
生産が一千二百万トン余、これは予測でございますから
数字に別にこだわっているわけではございませんが、そういう
数字がございますが、きわめて率直に申し上げまして、私は、一千二百万トンの
供給というのは、現在の
情勢の中ではとうてい無理である、少なくとも私たち業界としましては、ミニマム一千万トンを
国民の
皆様に
供給する努力、これは外交
交渉もございますし、新漁場の開発もございますし、魚の有効利用、そういうこともございますし、また沿岸の再開発という問題も含めて努力をいたしますが、目標はその辺に置くのがぎりぎりではなかろうか、こういうふうに感ずるわけでございます。
ごく全般的なことを申し上げましたが、
水産業の現下の問題点の一側面について申し上げまして、私の
意見陳述を終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)