○
武藤(山)議員 私は
提出者を代表いたしまして、ただいま提案されております
昭和五十一年分の
所得税の
臨時特例に関する
法律案、
所得税法の一部を改正する
法律案、
有価証券取引税法の一部を改正する
法律案、
法人税法の一部を改正する
法律案及び
租税特別措置法の一部を改正する
法律案につき、提案理由及びその概要を御
説明いたします。
政府が今回実施した
税制改正の
内容は、インフレと不況の下で拡大している社会的不公正の是正という緊急課題に取り組むことなく、従来の高度成長型税制を温存し、かえって巨額の
税収不足を理由に
所得税減税を見送り、勤労者に対して実質
増税をもたらすきわめて反動的性格の強いものであります。しかも、
増税対策も選択的
増税の
方針をとり、法人関係の租税特別
措置の若干の手直しと自動車関係税の引き上げを行うにとどめ、大企業優遇税制はそのまま存置されています。これは景気回復の名のもとに、勤労所得重課、資産所得、大企業優遇の税制を継承するものであり容認できません。高度成長型税制が引き起した事態を打開するには、その税制自体を改革しなければなりません。
インフレと不況の結果生じた
国民生活の被害を救済し、税の公平を実現し、富の再配分を行うため、法人課税の改革、租税特別
措置の廃止、
資産課税の強化など、高度成長型税制の根本的転換の展望に立って、生活優先の
経済、福祉型税制の確立を指向すべきであるにもかかわらず、その姿勢は見られないのであります。
このような
政府の
税制改正では、不公正は拡大しても、その縮小、是正は行われず、勤労
国民のための税制改革の布石とは言えないのであり、これが五法案
提出の根本理由であります。
まず、
昭和五十一年分の
所得税の
臨時特例に関する
法律案について申し上げます。
本
臨時特例法案は、インフレによる課税最低限の実質低下、名目所得増加による実質
増税の実態を考慮し、低所得者層中心の緊急調整減税を実施するものであり、しかも、従来の課税最低限の底上げ
方式では、高額所得者優遇の減税となり、税
負担の不公平を拡大し、税の再分配機能を弱化させる結果を招き、かつ、インフレ刺激的効果をもたらすことになるので、この点を配慮した減税方法をとるものであります。
このため、生活費非課税の
原則に立ち、
所得税は四人家族年収二百九十万円まで無税とするよう世帯構成に応じた税額控除を行い低所得者層中心の減税を行うこととしたものであります。また、同時に、高額所得者層の税
負担を強化しようとするものであります。
まず第一に、
昭和五十一年分の
所得税については、
現行税法で算出された
所得税額から居住者につき三万円、居住者が控除対象配偶者または扶養親族を有する場合には、その控除対象配偶者または扶養親族一人につき一万五千円を加算した金額を控除するものとしております。したがって、四人世帯の場合の税額控除額は七万五千円となり、これにより給与所得者は年収二百九十万円まで無税になります。なお、この税額控除は課税所得五百四十万円、年収約八百五十万円以上に対しては適用しないことにしております。
第二は、給与所得控除の控除
限度額の設定であります。
現行制度では給与所得控除額はいわゆる青天井で高額所得者優遇の制度となっておりますので、この不合理を正すため控除
限度額を百九十万円とし、いわゆる控除頭打ち制度を設けることとしております。この結果、年収八百五十万円以上の給与所得控除額は百九十万円の一定額となります。
第三は、課税所得一千万円以上の
部分に対する一〇%付加税の新設であります。インフレのもとで、所得格差は拡大し、しかも低所得に重い
現行所得課税の不公平により高額所得者の税
負担は相対的に軽減されております。物価対策の上からも、不公平課税の是正の上からも付加税を課すことにいたしたわけであります。
第四は、内職
収入について、その実態を考慮して配偶者控除の適用要件である配偶者の所得限度を五十万円に引き上げるとともに、勤労学生控除についても、学費、生活費の高騰を配慮して、その所得要件を七十六万円に引き上げることにしております。さらに、寡婦控除についての所得要件も六百万円に引き上げることにしております。
次に、
所得税法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
この
法律案は、さきの
昭和五十一年分の
臨時特例法案とあわせて、
現行法のもとで税
負担が他の所得者に比べて重くなっている給与所得者について、
各種の所得控除または非課税
措置を設けて税
負担の軽減を図るとともに、他方、ある種の資産所得について課税を強化しようとするものであります。
まず第一に、通勤費の非課税であります。
現行制度では、実際に支給した通勤手当のうち一定限度までの金額について非課税としておりますが、通勤費は明らかに必要な経費でありますから、その制限を外し、通勤費の実費相当額は全額これを非課税とすることにいたしております。
第二は、夜勤手当の非課税であります。警察官、看護婦等のように夜間勤務をする者の場合は、心身の消耗が激しく、その回復のためにはかなりの経費が必要でありますが、この点を考慮して、一定額の夜勤手当についてこれを非課税とすることにいたしております。
第三は、キャピタルゲイン課税として有価証券の譲渡による所得に対する課税の強化であります。
現行制度では年間取引五十回二十万株未満については非課税になっておりますが、これを改めて、年間取引二十回十万株以上に対して課税をするものといたしております。
第四は、退職金の退職所得控除額の大幅引き上げであります。退職所得控除額を
現行の勤続年数一年につき
現行の二十五万円から五十万円に引き上げ、二十年勤続で一千万円まで非課税とするものであります。なおあわせて退職所得控除額の最低保障額、障害退職の場合の加算額を、それぞれ引き上げることといたしております。
第五は、労働組合費控除の創設でありますが、労働組合が労働者の
経済的地位の向上、福利増進を図るものであることは明らかであり、組合費はそのための費用でありますから、今日の社会通念から見て当然給与所得者の必要経費と
考えられるのであります。したがって、組合の経常的な費用に充てられる組合費につきましては、所得控除を認めることといたしております。
第六は、寒冷地控除の創設であります。寒冷地域におきましては、暖房費等の生計費が他の地域に比べて
多額にかかることは言うまでもありません。これに対し、公務員等の場合は寒冷地手当等が支給されておりますが、これは課税所得の中に含まれており、また、それ以外の所得者の場合は所得の中からその経費を賄わなければならず、いずれにいたしましても、他の地域の居住者との
バランスを欠くものと言えるのであります。そこで、本改正案におきましては、その経費相当分を総所得金額等から控除する制度を新たに設けることといたしております。
第七は、配当控除制度の廃止であります。
現行制度は、いわゆる法人擬制説に立って、
所得税の前払いである法人税を清算する
意味で配当控除が行われておりますが、この制度によれば、配当のみの所得者は夫婦子二人の場合、課税最低限が四百五万円となり、給与所得者と比較して著しく不均衡を生ずる資産所得優遇の制度となっております。したがって、法人擬制説を維持するという
考え方をやめて、税
負担の公平を図るため、配当控除制度を廃止することといたしております。
次に、
有価証券取引税法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
有価証券取引税は、
昭和二十八年に有価証券の譲渡
所得課税が税務執行上の理由等で廃止された際に、この課税廃止に伴う代替課税の
趣旨で設けられたものであり、
昭和四十八年にそれまでの二倍に改正されたとはいえ、税率はきわめて低く抑えられておるのであります。これは資産家優遇の制度であると申さなければなりません。有価証券を譲渡した場合、何十億もの所得があってもわずか〇・三%のきわめて低い税率の有価証券取引税しか課税されないという不公平な税制では、
政府みずから納税道義の低下に一役買っていると言わなければなりません。この認識に立って有価証券取引税につきましてはその税率を大幅に引き上げる必要があると
判断したのであります。
その
内容は、株式等を譲渡した場合の税率を
現行の三倍に引き上げ、一般の譲渡の場合は
現行の一万分の三十から一万分の九十に、
証券会社が売買により譲渡した場合は
現行の一万分の十二から一万分の三十六にそれぞれ引き上げることといたしております。
次に、
法人税法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
この改正案は、法人税についても
負担能力に応じた課税を行うため、
現行の比例税率を廃止し、所得区分による超過累進税率を採用するとともに、大企業に有利な受取配当の益金不算入制度を廃止する等の改正を行うものであります。
まず第一に税率の改正でありますが、
現行の普通法人に対する四〇%の税率を、年所得一億円以下の金額については三七%、一億円超十億円以下の金額については四二%、十億円超の金額については四七%の税率に改めることとし、解散または合併の場合の清算所得に対する税率についても、これに準ずる改正を行うことといたしております。一方、軽減税率の適用幅を拡大し、資本金額等が一億円以下である法人の所得の金額のうち百分の二十八の軽減税率の適用を受ける所得の金額を、
現行の七百万円以下から一千万円以下に改めることといたしております。
第二に、
現行の受取配当の益金不算入制度は、法人間の配当について二重課税を防止するという見地から設けられているものでありますが、大法人の株式投資が増大し、その持ち株比率がきわめて高くなっている現在におきましては、いたずらに大企業の税
負担を軽くする制度となっておりますので、これを廃止し、配当金はすべて課税所得の中に含めることといたしております。
第三に、法人の寄付金につきましては、資本金基準及び所得基準による一定限度の範囲内で損金算入が認められることとなっておりますが、昨今では資本金または所得の増大によりその
限度額が相当巨額となり、法人の寄付金支出を容易にしております。そこで改正案においては、両基準をいずれも大幅に引き下げて、適正な限度といたしております。
第四に、法人の貸倒引当金の繰入限度は政令で定められておりますが、そのうち、金融及び保険業につきましては、貸し金の千分の八・五の繰入率となっております。
金融機関等の貸し倒れがきわめて少ないことは周知の事実であり、それに対して
現行の繰入限度ははるかに
多額となっており、これでは利益留保の色彩が濃厚でありますから、その繰入率を千分の五に引き下げることとし、また、その他の業種の引当率につきましても同様の理由により、
現行の引当率の八〇%まで一律に引き下げることとし、これを本法に
規定することといたしているのであります。
第五は、資本金額等が一億円を超える法人及び保険業法に
規定する相互会社については、欠損金の繰り戻しによる還付を行わないこととするものであります。
企業が赤字を出したときなどに払い戻される法人税は、このところ大幅にふえており、法人税の還付、払い戻しは、五十
年度に入ってから、毎月、前
年度実績の三−八倍の高
水準で推移し、その結果、五十年一月
——十二月分の法人税関係の還付は合計三千七百四十八億五千六百万円で、前年の三・三七七倍にも上っております。その中でも、大法人の占める比率は高いものになっております。言うまでもなく、大企業は、さまざまの税法上の優遇
措置を受けており、それがわが国の税体系をゆがめ不公平を拡大してきており、それに対する
国民の怒りも大きなものとなってきておるのであります。
今日の深刻な
財政危機の中で、さらに歳入欠陥に拍車をかけるこのような制度は、一般の
国民感情から見て、また、税
負担の
バランスから見て、大法人には適用しないことといたしております。
最後に、
租税特別措置法の一部を改正する
法律案について申し上げます。
この
法律案は、現在三大不公正税制と称されている利子配当課税の
特例、社会保険診療報酬課税の
特例及び個人の土地譲渡
所得課税の
特例のすべてについて徹底的な是正を行うとともに、大企業と中小企業の税
負担に大きな差をつけている支払い配当軽課制度を廃止する等の改正を行おうとするものであります。
まず第一に、利子配当課税でありますが、
現行の源泉分離選択課税制度、確定申告不要制度等は、資産所得優遇の最たるものであり、
所得税本来の姿である総合課税の
原則に反するものでありますから、これを廃止することといたしております。
第二に、医師の社会保険診療報酬課税の
特例につきましては、一昨年十二月に
税制調査会から具体策を示して答申があったにもかかわらず、
政府は改正を見送っております。答申案は不完全なものでありますので、この際、税の不公正を是正するために、社会保険診療報酬の課税の
特例については、これを廃止することといたしておりますが、その
立法の経緯にかんがみ、
政府に
昭和五十二年三月三十一日までに抜本的な社会保険診療報酬の適正化を行うことを求めて、施行日を、
昭和五十二年四月一日からとしております。
第三に、個人の土地譲渡
所得課税につきましては、長期譲渡所得に対して一段と課税の強化を図ることといたしております。すなわち、短期譲渡所得に対する重課制度はこれを存続し、長期譲渡所得に対しては、譲渡益二千万円以下の
部分は二〇%の税率で課税し、二千万円超の
部分については全額総合課税とすることといたしております。
第四に、法人の支払い配当軽課制度につきましては、この
特例が、当初の目的である法人の自己資本の充実に何ら貢献せず、いたずらに大企業の税
負担を軽減する役割りしか果たしていないことにかんがみ、この制度を全廃することといたしております。
第五に、長引く不況とインフレの中で、中小零細企業は深刻な状態に追い込まれております。このような状態の中で、中小零細企業の税
負担を少しでも緩和するため、中小零細企業に対する不況期における法人税の延納の
特例を設けることといたしております。
以上が、
租税特別措置法の一部を改正する
法律案の
内容ですが、なお、次の二点を特に、強調しておきたいと思います。
その
一つは、交際費課税についてですが、
政府も今回、課税強化の
措置を行いましたが、まだ十分とは言えません。社用支出の実情にかんがみ、損金算入
限度額の定額
部分を三百万円に引き下げ、限度超過額の全額を損金不算入とするなど、一層の強化を図ることが必要であります。
いま一点は、
各種準備金制度についてであります。
現行の準備金制度は、将来に予期される偶発的損失や危険に対応して、
多額の留保利潤を非課税のまま社内に蓄積しておく手段で、いわば将来の費用の繰り上げ計上でありますが、実際には、現実に発生する損失額を上回って過大計上される傾向が顕著となっております。したがって、実際の費用的支出を上回る計上分は、利潤の免税もしくは国からの補助金的支出と同じ効果を持つことになっており、利益隠しであるとの批判もあり、制度の既得権化の問題が現実化しており、弊害が目立ち始めているのが実情であります。
このような状態を前に、
政府も若干の整理縮小を行いましたが、とりあえず、価格変動準備金、海外市場開拓準備金、公害防止準備金、商品取引責任準備金、海外投資等損失準備金、証券取引責任準備金、原子力発電工事償却準備金、株式売買損失準備金、渇
水準備金、保険会社等の異常危険準備金、原子力損害賠償責任保険または地震保険に係る異常危険準備金を廃止することが必要と
考えます。これ以外でも、技術等海外取引に係る課税の
特例、増加試験研究費の税額特別控除制度さらに特別償却等抜本的改廃を必要としております。
これらの項目については一事不再議の
原則から改正案に盛り込むことができませんでしたが、不公正税制の是正の観点から早急に実施すべきものであり、次
年度税制改正にあっては欠かせない課題であります。
以上が税制による所得再配分と社会的不公正の是正を目的とした五
法律案の
内容であります。
何とぞ御審議の上、御賛成賜りますようお願い申し上げます。(拍手)