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竹内(昭)参考人 私は、いわゆる特殊
販売に関する法
規制のあり方につきまして、二つの
審議会における審議に加わりましたので、その立場からこの
法案について簡単に意見を述べたいと思います。
一つは、
国民生活審議会の
消費者救済特別研究委員会というものでございまして、四十九年七月に「
消費者被害の現状と
対策」という中間覚書を発表しておりますが、その中で特殊
販売につきまして早急に予防的
規制を行う必要があるというふうに述べ、その基本的方向として、「
消費者利益を必然的に害することになる
販売方法、すなわち、
マルチレベル
販売、SF商法などは社会的に無価値であり直ちに禁止すべきであり」、これに対して
訪問販売、
通信販売は、「一方では
消費者の便にもなるが」他方では「悪質な
行為も横行しやすい」から、「その適正化のための
規制を進めるべきである。」ということを提言しております。
第二の
委員会は、本
法案の基礎になりました産業構造
審議会流通部会における審議であります。その答申は四十九年十二月に出ておりますが、その中でも基本的な
考え方として、
マルチ商法につきましては「その
活動を実質的に禁止するよう厳しい
規制を行うべきである。」しかし、
訪問販売、
通信販売には社会的メリットもある。しかしトラブルも生じている。そこで、
弊害防止
立法をせよということを述べておるわけであります。
そして、この
法案は、大筋としてこれら二つの
審議会の提言または答申の方向に沿ってつくられておる。したがって、私は、この
法案の成立を強く希望するものであります。
次に、やや具体的に申しますと、まず
訪問販売につきましては、この
法案は、第一に、三条において、セールスマンに対し訪問目的の明示を要求しております。第二に、四条において、
販売業者は購入者に対し、申し込みの内容、条件を明らかにする書面の交付
義務を課しております。第三に、五条において、
契約が成立したときは
契約内容を明らかにする書面の交付
義務を課しております。第四に、六条において、四日間は
契約を無条件で解除する権利を保障しております。第五に、クーリングオフ期間経過後も、購入者が
契約を解除する場合について違約金の最高限度を法定しております。これらはいずれも産業構造
審議会の答申の提言に沿うものであります。
次に、
通信販売につきましては、第一に、八条におきまして、
販売条件の広告に記載すべき事項を法定しております。第二に、九条において、
通信販売の申し込みを受けた業者は直ちに商品を発送するか、それとも申し込みを承諾するか否かの通知をしなければならないということにしております。第三に、十八条では、いわゆるネガティブオプションつきの
通信販売の申し込みの場合について
規定しております。八条及び十八条は答申をほぼそのまま取り入れたものであります。九条は答申を若干変容したものではありますけれども、代金は送ったけれどもナシのつぶてだという状態を防ごうというねらいにおいては共通であります。
以上のように、
通信販売、
訪問販売に関する
法案の
規定は答申の線に沿ったものでありますが、
法律の
運用について一、二つけ加えますと、第一に、
訪問販売も
通信販売も、政令
指定商品の
販売ということで、
指定商品制によってその適用範囲を画するという
考え方をとっております。これは
訪問販売、
通信販売というものがいわばその態様においても事業の規模においても千差万別であるというところから、
立法技術的にやむを得ないことであると私は考えておりますけれども、しかしながら、
消費者保護の見地からすれば、
指定すべき商品の範囲はできるだけ広くすることが望ましい。さらに、いままで
指定されていなかったものについて
消費者保護上問題が出てきたという場合には、直ちにこれを追加
指定するという形でこの
法律の
運用がなされることを
期待したいと思います。
第二に、表示事項及びその表示
方法につきまして
省令に任されているところが多いわけでございますが、これにつきましては割賦
販売法の
省令の例などもございますので、これを参考にして十分に実効性のあるディスクローズ、開示を強制するような
省令をつくっていただきたいというふうに思います。
さらに、これは業界ベースの問題でありますけれども、一部業者の不心得な行動が
訪問販売、
通信販売全体の信用を失墜させるということになるわけでありますし、千差万別で、しかも無数の業者のすべての行動について
通産省が全責任を負って監視するなどということは、人手の点だけから考えましても、これは
期待してもとうてい実現できないのではないかというふうに考えます。したがって、業界全体として、
行政による監督を受ける前に、むしろ自主的にその信用を向上するような
努力をすべきが当然であります。それこそが、ある意味で言えば
消費者の
期待に沿うゆえんでもあり、そのような
努力を業界に
期待したいというふうに考えます。
次に、
マルチにつきましては、第一に、十二条で、
勧誘の際に重要事実を告げず、また不実のことを告げてはならないというふうに定めまして、これにつきましては直罰を用意しております。第二に、十三条は、不当
勧誘が繰り返されるときは、主務大臣が停止命令を出すことによって、その違反に対しましてはやはり罰則を用意しております。第三に、十四条では、広告記載事項を法定し、第四に、十五条で、
マルチに参加しようとする者に対して、どういう事業であるかを示す書面や、またどういう条件で参加するかを記載した書面を交付する
義務を課しております。第五に、十六条では、
マルチに加入する
契約をした者に対しては、
訪問販売の四日間よりも長い七日間のクーリングオフを認めております。いわば集団催眠状態の中で
勧誘された者も、七日あれば目が覚めるだろうという
考え方であります。
これらはほぼ答申の線に沿った、ものですが、ただ、答申では、クーリングオフ期間経過後も、
マルチの参加者がもうやめたいと思ったときには、仕入れた商品を
一定の割合以上の値段で買い戻す
義務を課そうということにしていたわけでありまして、この点がこの
法案では落ちております。イギリスの公正取引法やアメリカのマサチューセッツ州法などは、仕入れ値の九掛けで買い戻させるということにしておるわけでありまして、こういう
規定がありますと、ともかく
マルチの参加者にたくさんの商品を仕入れさせてしまえば、そこで勝負あったというようなことはなくなるわけでございますから、私はこういう
規定があった方がよくはないかと思っております。
しかしながら、そのかわりと申しましてはあれですが、この
法案では、十二条の重要事項の不告知、不実告知に対する罰則などについては、この答申より強くなっているわけであります。その意味で、十二条、十三条を活用して
マルチに対処しようとするのがこの
法案の基本的な
考え方ではないかと考えております。したがって、答申が申しておりますような実質禁止という目的を達し得るかどうかということは、十二条、十三条の
運用に大きくかかっているわけでありまして、その意味で私はこの条文の活用を大いに
期待したい、このように考えるわけでございます。
これと関連しまして、一条の「目的」のところを見ますと、
連鎖販売取引、つまり
マルチ取引を公正にするということが書いてあります。
訪問販売、
通信販売につきましては、これを公正にするということはよくわかるのでありますけれども、公正な
マルチ商法というものは一体あるのだろうか。それは安全な。ペスト、無害なコレラと言うに等しいものではないかと思われるわけであります。ある程度の規模に達しますと、もう参加者を募るということは不可能になるわけでございますから、わが社の商売はある程度発展していくとデッドロックに乗り上げてもはや発展しなくなります、そのときには非常に多くの人が泣くことになりますということを告げませんと、十二条にいう重要な事実を告げないということになるのではないかと私は考えるわけであります。そうだといたしますと、
マルチを公正なものにして残すという
考え方ではなしに、
マルチに対して公正であることを求めれば
マルチは必ずなくなるはずだという
考え方に立っているのが、この
法律の
考え方であります。そういう精神に従ってこの
法律の
運用をしていただきたいというふうに思うわけであります。
それから、
マルチのような伝染性の強い取引は、一刻も早く手を打つべきであります。本来この
法案は昨年
国会に
提出されるはずだと私は考えていたわけでありますけれども、それが諸般の事情でことしになりました。この
法案も、
先ほど申したように、いろいろ御意見があるかもしれませんが、これがことしまた成立しないということになりますと、喜ぶのは業者だけであります。したがって、私はともかくこの
法案を早く通して、
マルチの絶滅を期するということにしていただきたいと思うわけであります。
最後に、一言つけ加えさせていただきますと、
マルチを
規制する以上、当然
規制しなければならないのはネズミ講であります。ネズミ講は、いわゆる送金ごっこを繰り返しておればお金がふえてくるというわけでありますから、もしこれが本当なら、
政府が先頭に立ってやったらいいわけであります。その意味では、これは一〇〇%うそであります。それに比べれば
マルチというのは、他人を
組織に引っ張り込むことによって得る利益だけではなしに、商品
販売による利益もあるという意味で、まだましなある要素を持っております。まだましな要素を持っているからひっかかるという面もあるわけでありますが、このまだましな
マルチに対してこういう
規制をするというのならば、ネズミ講に対して
規制をするのは当然のことでありまして、私は、ネズミ講を野放しにしておくごときことは、
政府としても
国会としても許されることではないのではないかというふうに考えるわけであります。われわれがこの
マルチ販売について
規制をしようとする場合に、ネズミ講について厳しい
規制があれば非常に楽だったということを痛感しておるものでございますから、この点につきましてもしかるべき御処置をぜひお願いしたいというふうに考えております。