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中島参考人 私は、
財団法人運輸調査局の
中島でございます。
私は、
国鉄の
財政再建を目的とするこの
法律案に基本的に賛成の
立場に立ちまして若干の私見を述べさせていただきたいと思います。
私は、ここで基本的に賛成とただいま申し
上げましたが、その
意味は、この
法律案に基づきましていろいろ今後とられようとしている
措置の基本的な
考え方といいますか、その大筋につきましては私は全く同感でございます。賛成でございます。しかし、部分的の問題になりますと若干割り切れない問題が残っている。こういう
意味で私は全面的に賛成ということを言わないで、基本的にという言葉を使ったわけでございます。
御承知のように、
国鉄の
財政再建計画はこれまで再三にわたりまして失敗を重ねております。このことは、この
計画の立案に参加されました方々はもちろんのこと、これを批判する
立場にありますわれわれにとりましてもまことに貴重な体験であったと私
どもは考えております。したがいまして、今回のこの再建方策を考えるに当たりましても、その体験を踏まえて賛成すべき点は賛成するけれ
ども、問題のあるところは率直に指摘して忌憚のない
意見を述べさせていただきたいというふうに私は考えます。
ところで、これまでの
再建計画が成功しなかった。それには予想しなかった経済変動その他いろいろな
原因があると思いますが、私は私なりにこれを次のように総括しているわけでございますけれ
ども、まず、その第一点は、従来の
再建計画というものは十年という非常に長期の期間をとらえて、その中にはいろいろな不確定要素がありますけれ
ども、それらの上に立って
計画がつくられておる。この
計画期間を長期にとるということは、内部的には
経営合理化のショックをやわらげる、対外的には
運賃値上げによる国民
一般へのショックを緩和するというような
意味で長期的な
計画というものが効果があるわけですけれ
ども、その反面において、やはり
計画時に将来についての的確な予測ができなかった、それが破綻の大きな
原因となっていたというふうに考えられます。
それから、これまでの長期
計画の失敗の
一つの大きな
原因は、
国鉄財政の復元力といいますか、回復力といいますか、要するに黒字への転換の源泉を大幅な
輸送量の
増加に期待をしていた。十年間に貨物
輸送量などは数倍にふえるというようなことが
前提になっていたわけですけれ
ども、現実には逆に減っているわけです。こういうところに
一つの大きなつまずきがあったと思いますけれ
ども、このような
輸送量の
増加というものは、当時の高度経済成長というものを
前提にし、しかもそれが永遠に続くような期待を持ってこの
計画が立てられたというところに
一つのつまずきがあったのではないかと、私はこういうふうに考えております。
いままでの
再建計画に比べまして、今回の
計画はまず第一に短期決戦で問題を解決しようという基本的な姿勢が出ているわけです。短期間のうちに
国鉄財政に確実な
企業的な復元力をつけようということであります。第二点は経済の低成長、高度成長が終わって成長度合いが非常に低くなりましたので、それを
前提といたします
関係から
輸送量の
増加に余り多く期待していない。それから第三番目には、したがいまして
財政の復元力の源泉を主として
運賃水準の引き
上げに置いている。こういう点であります。このことは、期間が短い、しかも
財政の復元力の根源を
運賃値上げに置くということは必然的に対外的に非常に大きなショックを与える。これは覚悟してかからなければならない問題であります。それから、この再建案の特色は、国の助成によって
国鉄財政の構造的欠陥に抜本的な是正
措置を講じようとしている。
赤字債務のたな
上げとか
赤字ローカル線の運営費の助成といったような問題に踏み切っているという点でございます。
この特徴というものは主に以上四点でございますけれ
ども、私は、ここで、このような発想の転換を図った際にもう
一つここで注意しなければならない問題点があると思う。それは、
企業というものは、業務量がどんどんふえていくとき、操業度が上がるときには
経営の合理化というものは非常にやりやすいものですけれ
ども、逆に業務量が横ばいになったりあるいは後退するというときには
経営合理化というものは非常にむずかしいものです。特に、固定費の多い
企業についてはそれが特色でありまして、これは
原則的に発生する
一つの現象であります。われわれはこれをラグセオリーと言っておりますけれ
ども、これは
一つのコストの慣性といいますか、下がるときには上ったときと同じカーブで、必ず緩いカーブでしか戻れない。こういう点を考えまして、今度の長期
計画の中で合理化に大きな期待を求めるということは、いままでのように十年
計画で、そして
輸送量が一倍にも三倍にもどんどんふえていくというときの合理化とは
考え方を基本的に変えてかからなければならないのではないかと思うので、この点を注意しておく必要があると思うのです。
ところで、ここで今回のこの法案に関連した
再建計画を見渡してみますと、いろいろの問題がありますけれ
ども、その中で大きな問題点というものは
四つあると思うのです。まず、第一点は平均約五〇%の
運賃水準の引き
上げ、第二点はいわゆる
赤字債務のたな
上げ措置、第三点は
赤字ローカル線の運営費の補助、第四点は工事
経費あるいは合理化促進のための助成、この四点であろうと思いますが、そこで、まずこの
法律案に対する反対論の多くは、この第一点の
運賃引き
上げ問題に集中されるだろうと思います。
私も
国鉄利用者の一人としても、また、インフレを抑えて一日も早く景気の回復を願う国民
一般の中の一人といたしましても、個人的にはこの際の
運賃値上げというものは決して好ましいものではないと思いますし、こういうような
一般論としての
見地から申し
上げれば、
運賃値上げ反対論というものは無
条件に大衆に受け入れられる議論であると私は考えます。しかし、
国鉄の現在の
財政状態を考え、これを立て直し、そして
国鉄運営の円滑化、正常化を図り、さらに国民の期待するような発展を願う、こういうことを真剣に考えるならば、この際ここでこの反対論に安易に妥協することは許されないんじゃないかと思います。と申しますのは、
国鉄が今日のような破綻的な
財政状態に陥りました根本
原因は、やはり、過去長年にわたりましてのそういう
政策的な
運賃の抑制というものの産物である。もちろんそれだけではございませんけれ
ども、そこに大きな
原因があるというふうに考えるからです。したがいまして、またここで同じようなことを繰り返していくならば
国鉄の
財政再建の方向というものは永久に少しも前進しない。また、そういったような影響が果たしてどこまで言えるかということは、これは指数その他数字的に見れば明らかであります。ここで詳しく申し
上げるまでもないことだろうと思います。
そこで、この
運賃問題について私は少しく詳しく述べておきたいと思いますが、
運賃問題につきましては問題が三つ含まれていると思います。
まず、その第一点は五〇%という今回の
値上げ幅の問題であります。
一般の諸物価、賃金、また電気料金とか郵便料金とか、あるいはガス、水道など、一部の公共料金も石油ショック以後の新価格体系に入ろうとしておおむね足をかけている。あるいはすでに入っている。電力料金のごときは第二次の
値上げの動きさえもうわさされております。
ここで改めて新価格体系というのは一体何なのかということを考えてみますと、これにはいろいろな
解釈の仕方があると思いますけれ
ども、私はきわめて素朴にこの問題を考えますと、他の諸物価あるいは賃金などの動きを反映したコストをカバーする価格水準を相互に維持し合う、そういう形が総合されたものが新価格体系であろうかと思います。と申しますのは、価格というものが最低限においてコストをカバーすることは
企業としての存続の基本的な要件であり、
条件であるからであります。もちろん、交通産業といえ
どもこの例外ではあり得ないわけであります。
このような
見地から
国鉄運賃を考えますと、
国鉄運賃の沿革というものを振り返ってみれば明らかなように、石油ショック以前からの積み残しがまだ十分に回復されていない。ここで五〇%といいますと非常に大幅の
値上げのように感じますけれ
ども、基礎となる
運賃の絶対額そのものが、新価格体系どころか、それ以前の積み残しを含んだものの五〇%である。そういう
意味からいきまして、先ほど申し
上げましたように、新価格体系というものはコストをカバーし得るような価格水準を相互に維持し合うという
原則からいきますと、
国鉄の
運賃水準というものは、ここで一〇〇%以上
値上げしなければそういったような
原則には恐らく合わないわけであります。もちろんそれが許されることではないと思いますけれ
ども、
一つの見方として、そういうことを
前提にこの五〇%というものを考えてみる必要があると思います。
運賃問題の第二の
一つのポイントは、
国鉄運賃は他の交通機関全般の新価格体系への移行を阻害する
一つの壁となっている。非常に遠回しの言い方ですけれ
ども、
国鉄運賃が低位にあるために他の交通機関全部がそれに押さえられているという面がある。この
状態をこのままにしておきますと、交通機関
一般、特に公共交通機関というものはますます押さえられてしまう。
国鉄の場合には国の
財政援助によって安い
運賃でやれるとしても、他の交通
企業がすべてこれと同じような扱いを受けるというわけにはいかない。
総合交通体系云々と言われておりますけれ
ども、私自身は、総合交通体系というものはでき上がったものの写真であって青写真ではないというふうに考えておりますけれ
ども、しかし、そのような
意味からいきますと、でき上がった総合交通体系というものは非常にいびつなものになる。結果的にはそれが国民、
利用者一般あるいは国民経済にマイナスの面となってあらわれるであろう。あるいは、それを是正しようとすれば
国鉄と同じように国の
財政援助が必要となる。民営
企業にまで国の
財政援助が必要となる。これは切りがなくなってしまう。そういう点からいきますと、この壁を
一般交通市場のバランスがとれるような水準まで引き
上げることがどうしても必要なことではないか、と、こういうふうに私は考える次第でございます。
そこで、第三の問題は、五〇%まではいいけれ
ども、次の
値上げ段階が非常に問題である。今回の
国鉄再建方策の中では次の問題をどのように扱おうとしているか、その点は私
どもまだ十分に理解しておりませんけれ
ども、この次の
運賃値上げの段階というものは非常にむずかしいであろう。と申しますのは、私は、先ほど、現在の
国鉄の
運賃レベルは交通業界全般の
一つの壁になっている、新価格体系移行の壁になっていると申しましたが、今回この壁を外すといたしましても、次の段階に来る壁はそういうような人為的、歴史的、
政策的なものではなしに、経済的かつ自然発生的に競争の中からあらわれる壁であろうかと思います。この壁を突き破って、あるべき
鉄道運賃の形というものを形成してなるべく低位に据え置くことが望ましいけれ
ども、いずれかの形にしてこれを新価格体系の中に合理的に組み込ませるには、ここで十分に考えておかなければならない点があるのじゃないか、
運賃制度の問題にしてもあるいは
運賃決定機構の問題にしても、きめの細かい配慮がここで非常に必要になるのじゃないかということを申し添えておきたいと思います。
それから、今回の
再建計画とこれまでの
再建計画と大きく違う点は、先ほ
どもちょっと触れましたが、いわゆる
累積赤字のたな
上げ措置を思い切って断行したという点であります。私はこの点は非常に高く
評価すべきであろうと考える次第でございますが、
累積赤字といいますのは、より常識的に言いかえますと、もともと実質的な資本の食いつぶし額の
累積であるというふうに考えることができるかと思うのです。したがいまして、内部的にはこれに伴う資金不足は当然借入金によって補われている。そこで、この借入金から発生する
利子負担あるいは元本償還の
負担というものがこれまで
国鉄の
財政を圧迫していたわけでありますが、これをそのままにしておきますと、先ほ
ども新井先生から御指摘がありましたように、過去のコストを将来の
利用者に
負担させるという不合理がある。これを取り除くことは一面においては
財政の健全化であり、他面においては、そのような
意味のコストの適正配分の基本的基礎を明確にしたという点で非常に
意味があるだろうと思います。
こういう
意味で、この
措置そのものは国の助成によって解決するということは非常に望ましいことですけれ
ども、ただ、私がここで
一言疑問をはさみたいことは、バランスシートの上で三兆一千億円という
累積赤字がある中で二兆五千億だけたな
上げ措置を講じて、あと約六千億の積み残しをしたことは、この先にも述べますが、いろいろな国の
財政上の都合があってのことかとも思いますけれ
ども、やはり、その
認識が一貫していないのではないかと思います。
また、
赤字ローカル線の運営費補助につきましても、予算
計画の上では百七十二億円という
金額が計上されている。
赤字ローカル線問題というのは
国鉄経営の上の
一つの非常に大きな問題で、これを取り外すかどうするかということにつきましては、社会的、政治的な問題にもなる大きな問題であります。しかし、この問題を百七十二億円の国の助成だけで果たして解決できるかどうか。
昭和四十九年度の
国鉄の内部
計算の示すところによりますと、
運賃収入で
人件費さえも賄えない線区が二百二十一線区ございますが、その二百二十一線区の
運賃収入と作業費、つまり直接費との差額、その
赤字だけでも三千億円を超えております。
今回の
運賃値上げで五〇%
収入がふえたといたしましても、
人件費さえも賄えないローカル線の
赤字がやはり二千億以上残ることになります。この問題も先ほどのたな
上げ措置の積み残しと同じように、地域的に見れば分配の不公平になる。
赤字線のいわゆる公共的な
負担を他の地区の人が
負担する。これは先ほど申し
上げましたように、合理的なきめの細かい
運賃制度を立てて、そして他の交通機関と公正な競争をしながら発展していくという際の
一つの重荷になるだろう、こういうふうに考えるわけでございます。
しかし、この
二つの問題は、今日の国の
財政状態というものを考えてみますと、あるいはそのような点から今年度の
措置としてこういうような結果がとられたのではないかとも想像いたします。先ほど申し
上げました第二次の
運賃値上げ問題と絡み合わせまして、この点は将来十分に御配慮いただく必要があるのじゃないかという点を申し
上げておきたいと思います。
今回の
措置につきまして、基本構想としてはいいけれ
ども、私は若干不満なところもあるが、しかし、今日の
国鉄財政の実情というものは非常に窮迫していると伺っております。私
ども部外の者にはどこまでどういう
状態で苦しいかはわかりませんけれ
ども、新聞紙などの報道するところによりますと、もしこの
法律案が成立しなければ仲裁裁定の実施も困難である、工事費の大幅の削減をしてもなお
職員のボーナスをストップするというような非常
措置さえ講じなければならないという、そういうようなきわめて切迫した
状態にあるというように伝えられております。もちろんこれだけで
収入不足はすべて
職員にしわ寄せするというわけにもいかないと思いますので、勢い、日常の業務運営に必要不可欠な修繕費とか業務費にその影響が及ばないとは申せません。われわれが安全性の確保を要望し、あるいはさらに輸送力の増強、サービスの向上を要求する
国鉄をそこまで追い詰めて、なおかつそれでもがまんしろというのは、これはどう考えても少し無理があるのではないかと私は思います。
国民
一般の側に立って考えればいろいろな
考え方もあるし、あるいは言い分もあろうかと思いますけれ
ども、これ以上
国鉄を追い詰めるということは、その結果が必然的にいやおうなしに国民にはね返ってくるのではないかと思います。口では国民の足だ国民の足だと言いながら、しかし、その足をけ飛ばすような仕打ちのように思えてならないわけです。その
意味で、今回のこの
法律案というものは、次善の策であっても早急にこれを実施して
国鉄の窮状を救うということを私は強く皆さんにお願い申し
上げたい。また、同時に、どんなりっぱな
再建計画が出ましても、その魂は
国鉄職員の意欲がなければ入らない。私は、労使一体となってこの
再建計画を推進することこそこの法案の最も大事なポイントじゃないかと思います。
それにつきまして私は
関係者の皆さんにぜひお願いしたいのですが、この法案を生かす
意味において、そうして
国鉄の健全なる将来を築く
意味におきまして、労使
関係に十分な御配慮をいただくことこそこの法案を盛り立てる
一つの大事なポイントではないかということを蛇足ながら最後につけ加えまして、私の
参考意見を終わりたいと思います。