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1975-11-18 第76回国会 参議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年十一月十八日(火曜日)    午後一時十五分開会     —————————————    委員異動  十一月十一日     辞任         補欠選任      加藤  進君     橋本  敦君  十一月十三日     辞任         補欠選任     相沢 武彦君      白木義一郎君  十一月十八日    辞任          補欠選任     梶木 又三君     久次米健太郎君     橋本  敦君      沓脱タケ子君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         多田 省吾君     理 事                 大島 友治君                 高橋 邦雄君                 佐々木静子君                 白木義一郎君     委 員                 岩上 妙子君                久次米健太郎君                 福井  勇君                 町村 金五君                 中村 英男君                 橋本  敦君    衆議院議員        法務委員長   小宮山重四郎君    国務大臣        法 務 大 臣  稻葉  修君    政府委員        法務政務次官   松永  光君        法務大臣官房長  藤島  昭君        法務省民事局長  香川 保一君        法務省刑事局長  安原 美穂君        法務省人権擁護        局長       村岡 二郎君    説明員        警察庁警備局警        備課長      若田 末人君        運輸省海運局総        務課長      犬井 圭介君    事務局側        常任委員会専門        員        二見 次夫君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (民法等改正問題に関する件)  (婦人人権擁護に関する件)  (出入国、国籍問題に関する件) ○船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案  (内閣提出衆議院送付) ○刑事補償法の一部を改正する法律案内閣提  出、衆議院送付)     —————————————
  2. 多田省吾

    委員長多田省吾君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  加藤進君、相沢武彦君が委員辞任され、その補欠として橋本敦君、白木義一郎君が選任されました。     —————————————
  3. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い、現在理事が一名欠員となっておりますので、この際、理事補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事白木義一郎君を指名いたします。     —————————————
  5. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  質疑のある方は順次御発言願います。
  6. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは、私は本日、まず、いま問題になっております民法改正問題について、法務当局の御意見をお伺いさしていただきたいと思います。  ことしは国際婦人年世界会議の行われた年でもございまして、世界行動計画というものが採択されまして、まあ男女の実質的平等の保障のために各国の政府立法や行政の上で最大限の努力をしなければならないということが、行動計画にもうたわれているわけでございます。そういう意味で、法務省もこの男女同権を実質的に保障するために、いろいろ大臣あるいは関係局において御努力いただいているということに対して、心より敬意を表したいと思うわけでございますが、先般来、これは各地の婦人団体、特に私は大阪の選出でございますが、大阪婦人団体四十団体ほどの方々より成っておる国際婦人年大阪連絡会で、ぜひともこの国際婦人年民法改正、妻の地位を高める方向に向かって進めていただきたいという強い要望が出されているわけでございます。まず、そのことについてお伺いさしていただきたいんでございますが、まあいろいろと民法上問題が多いわけでございますが、あれやこれやと申し上げても一遍にはなかなかむつかしいんじゃないかということで、まあ私どももできるだけ要望をしぼって、ともかく実現できそうなことということでいま取り組んでいるわけでございますが、まず大臣にお伺いいたします。この民法改正の問題について、いま法務省としてはどのように取り組んでいただいているか、まず概括的に御説明いただきたいと思います。
  7. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) 御指摘民法改正問題、なかんずく婦人地位の向上に関する家族法の分野において、すでに男女の平等は理念上は確立されていると考えますが、実態を踏まえて、より実質的な平等を図るためには、法制上さらに検討すべき点もあろうかと思われます。民法上の具体的な問題につきましては現在法制審議会検討中でありますので、その結論を待って対処したいと考えています。  また、先生の言われるいろいろな問題……
  8. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは後でまた具体的に一つ一つお尋ねさしていただきます。
  9. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) それらの点につきましても、まあおほめはいただけなくとも、おしかりを受けないような程度には法制審議会民法部会等、非常に前向きに準備がなされておりますから、急いで国際婦人年の年に法改正ができればこれに越したことはありませんけれども、大体方針は今年決定して、具体的に改正法案国会に御審議を願って、議決していただくのは通常国会になろうかというふうに考えております。
  10. 佐々木静子

    佐々木静子君 いま、婦人立場に立って、前向きに法務省が鋭意取り組んでいただいているというお話で、大変心強く思っているわけでございますが、形の上では男女平等のようになっておっても、実質的には男女平等を阻害している。その顕著な規定といたしまして、いま大阪を初めとする全国婦人団体の有力な方々が強く要望していらっしゃる点でございますね、まず、離婚した場合における氏を、婚姻によって変えた方の当事者が離婚によって復氏をしなければならないという規定でございます。これは、形の上では夫あるいは妻どちらかがどちらかの名字を唱えればいいということになっておるわけでございますから、全く形式的に見ると男女同権を阻害することはないように見えますけれども、実質的には、私の調べましたところでも九六%以上の夫婦が、これは妻が夫の方の氏を唱えているわけでございまして、そうしますと、離婚という事柄が起こると、氏を変えた方がまたもと名字に戻らなければならないということで、社会的にも非常な不利益を受ける。これは実質的には男女の平等をはなはだしく阻害するのではないか。また、未成年の子供母親親権者となって育てていく場合に、その親権者である母親子供名字が違う。これはいまの日本社会においては、必ずしも決して親にとっても子にとっても利益になることじゃなくて、そのために必要以上に社会的にも肩身の狭い思いをしなければならないということで、この離婚による復氏の強制をぜひとも改めていただきたいというのが、強い婦人団体方々からの要望でございますが、その条項についての改正について、いま法務省はどのように取り組んでいただいているのか、また今後どのようにしていただけるのか、その点について大臣並びに担当民事局長からお伺い申し上げたいと思います。
  11. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) 離婚により復氏を強制することは、婚姻中の氏で長年社会的活動をしている人にとって不利益でありますし、また子の氏と親権者の氏とが異なる場合も生ずる不都合な点も無視できません。お説のとおりでございます。したがって、復氏するかどうかを選択できるようにして、これらの不便をなくするようにした方がいいという大体の方向で、法務省としてはこの問題について現在法制審議会民法部会でそういう方向検討中でありますが、本件が国際婦人年でもありますこともあって、早急にその結論を出してもらって、先ほど申しましたように、次の通常国会改正案を提出できるよう最善の努力を傾倒しております。
  12. 香川保一

    政府委員香川保一君) 現在、法制審議会におきまして、男女平等の実を上げる点も含めまして、身分法全般について審議がされておるわけでございますが、ただ、いま大臣の御答弁にもございましたように、本年は国際婦人年でもあり、結論の容易に出る問題は早急に立法した方がいいという御指示もございまして、先ほど御指摘離婚の場合の復氏の問題につきまして、早急に法制審議会民法部会において結論を出していただきまして、通常国会のできるだけ早い時期に提案いたしたいということで、現在作業を進めているところでございます。
  13. 佐々木静子

    佐々木静子君 通常国会のできるだけ早い時期に、この部分法改正についての御提案をされるということですが、もう少し具体的に、私ども、できればことしじゅうにと思っておったんですが、これは国会情勢その他で困難だということもわかりますが、それであれば大体そのめど、いつまでに——少なくとも国際婦人年であるこの昭和五十年度の会計年度内にどうあっても出していただきたいというのが、われわれの強い要望でございますが、具体的にどういうふうな計画になっておりますか。
  14. 香川保一

    政府委員香川保一君) 法制審議会民法部会では、一定のスケジュール身分法全般審議をしておるわけでございますが、できるだけ早く国会に、できる部分から提案したいということで、実は、身分法委員会におきまして、この離婚の際の復氏の問題ともう一点、人事訴訟法離婚の場合の裁判管轄権の問題、二つにつきまして十二月、一月——一月もできれば中旬ごろまでに結論を出していただきまして、それをもとにして法案を二月のできれば早々にも出したいと、かような心組みで現在努力しておるところでございます。
  15. 佐々木静子

    佐々木静子君 二月早々にでも御提案いただけると、そういうことに承ってよろしゅうございますね。
  16. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) よろしゅうございます。
  17. 佐々木静子

    佐々木静子君 大変に力強い大臣並びに局長からの御答弁をいただいて、ありがとうございます。  そして、いま私、離婚による復氏の問題だけを先にお尋ね申し上げましたが、いま局長からもお話がございました、婦人団体方々日本婦人の大半の方々が強く要望しておる、離婚による復氏の強制を、復氏することもできれば婚姻中の名字も唱えることもできるというふうに、事実上選択制にしていただく、これは私も、実は先日メキシコの国際婦人年の大会にも、政府顧問としてやらしていただきまして、いろいろな国の代表方々と、そこの国の民法がどうなっているかということでお話ししたときに、この離婚による復氏の問題が大変に話題になっておりまして、そして——これは法務当局は御承知のとおりでございますが、アメリカ合衆国はもとより、それからソビエトや東ドイツは無論、西ドイツもフランスもあるいはイギリスも、大抵の欧米諸国は選択できるというふうになっておるのに、日本だけが非常におくれているということを痛切に感じたわけでございますし、また、既婚婦人で働く人が六〇%という数にも上っている。これは、働く婦人社会的に活動する面において、非常にこの氏が変わるということは活動を阻害されると同時に、母子家庭がそのことによって大変に困る。子供に不必要な肩身の狭い思いをさせるということは、これは大変なゆゆしい問題であると思いますので、いろいろと法制審議会で御議論いただくことも結構でございますけれども、それによって現実に多くの母や子が泣き、また、働く婦人が困っているという実情を少しでも少なくするために、ぜひともこれは法務当局において全力を挙げて取り組んでいただきたいと思うわけでございます。  さらに、人事訴訟法の問題でございますが、これは妻の権利を守る人権の最後のとりでとしての訴訟でございますが、これが、人事訴訟手続法の第一条によりますと、その裁判管轄専属管轄になっておりまして、夫の氏を称する夫婦の場合は夫の住所地、妻の氏を称する夫婦の場合は妻の住所地というふうに限られておりますね。ところが、いまも申し上げましたように九六%以上の夫婦が夫の氏を称している。そうすると、経済的にも困難な立場にある妻がわざわざ夫の住所地に出向いて裁判をしなければならないということで、非常に妻に不利益を強いる規定だと思うわけでございます。その件について、ぜひとも夫または妻というふうに改めていただきたいというのが強い婦人方々要望でございますけれども、その点についてもどのようにいま検討いただいているのか、具体的に民事局長から伺いたいと思います。
  18. 香川保一

    政府委員香川保一君) ただいま御指摘離婚裁判管轄権の問題は、厳格に申しますと身分法の問題ではないわけでございますけれども離婚の関連問題でございますので、先ほど申しました法制審議会身分法委員会におきましてあわせて御検討願って、先ほど申しました復氏の問題と同じスケジュールで、あわせて国会に提案したいと、かように考えておるわけであります。その場合の内容は、恐らく身分法部会におきましても、いま佐々木委員指摘のように、夫または妻のいずれかの住所地ということに相なろうかと思います。
  19. 佐々木静子

    佐々木静子君 ともかく、さしあたりこの二つをぜひとも、いまお話にありました二月初旬に間違いなく御提案いただきたいということを、これをいま大臣からも力強い御答弁ございましたので、ぜひともお願い申し上げたい。きょうも全国から婦人団体代表方々が、これを本当にやっていただけるだろうか、そして何とか大臣担当局長の方あるいは担当方々にお願い申し上げたいということで、全国から集まってきていらっしやるわけでございますので、ぜひとも人口の半分を占める婦人要望を率直に受け止めていただいて、鋭意これをぜひ立法化を進めていただきたい、そのことを重ねてお願い申し上げたいと思います。大臣いかがでございますか。
  20. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) 私は、いまの二点は実行可能なわけでありますから、ほかにいろいろな点でまだ論議がまとまっていない点がありますけれども、これは問題がないというふうに判断するものですから、それからまた、いいことだと心から思うものですから、先ほど申し上げましたように、二月上旬間違いなく出すと理解していいか、よろしゅうございますと、こういうようにお約束いたしましたことですから、お約束しましたことは実行いたします。
  21. 佐々木静子

    佐々木静子君 大変ありがとうございました。  国際婦人年の、私の知っている範囲では第一号の婦人のための立法改正をこの法務省でやっていただけると、大臣のお力によってやっていただけるということ、大変私ども婦人として心強い限りでございまして、多くのこの改正を切望している婦人——代表と言うとおこがましゅうございますけれども代表いたしましてお礼を申し上げるとともに、もう間違いなく実行していただくように、ぜひともお願い申し上げます。  さらに、いま民法改正の話が出ましたので、あわせて若干その点についてお尋ね申し上げたいと思います。  八月一日に法務省民事局から法制審議会民法部会身分法委員会中間報告というものが出されたわけでございまして、また私どももいまその中間報告についていろいろと勉強さしていただき、検討中でございますけれども、この概略を、時間の関係もございますので、簡単に民事局長から御説明いただきたいと思います。
  22. 香川保一

    政府委員香川保一君) 大分大部なものでございますので、ごく要点だけかいつまんで御説明申し上げます。  まず第一点は、相続人相続分に関する問題でございまして、これは現在、非嫡出子相続分嫡出子よりも不利になっておるわけであります。この辺がこれでいいのかというふうな点が中心の問題、第一点でございます。  それから、相続関係では、配偶者の代襲相続権を再検討すべきでないかと。これは先生承知思いますが、代襲相続権についてはいろいろ問題があるわけでございます。これは主として妻の代襲相続権を拡大するというふうな意味で問いかけておる問題でございます。  それから養子の相続権あるいは兄弟姉妹相続権、この辺を再検討する必要はないかというふうな問題が中心でございます。  それからさらに、相続分の最たる問題としまして、配偶者相続分が現在三分の一でございますが、これを二分の一にしてはどうかというふうな点を中心にいたしまして、これも主として妻の関係になろうかと思いますが、相続分を引き上げるというふうな点を中心にした問題でございます。  それから、第二番目の柱といたしましては、夫婦財産制に関する問題点でございます。この点につきまして現在いろいろの意見があるわけでございますが、夫婦財産をすべて夫婦の共有にすべきではないかとか、あるいは現行と同じように別産制を維持するかどうかというふうな問題を中心にして検討されておるわけでございます。  それから、夫婦財産制の問題で婚姻中における財産の処分、これを配偶者——相手方の同意を得るようにしてはどうかというふうな、そういったきめ細かな問題も含めまして問題にしております。  それから、離婚の際の財産分与の制度について再検討すべきでないかというふうな点が問題になっております。  第三番目の柱といたしまして、これは夫婦財産制関係するわけでございますが、夫婦財産制についていろいろ問題があることから、夫婦間の財産取得関係での寄与分の問題、これを立法化する必要があるのではないかという点で問題にしております。  それから、この寄与分につきましていろいろの意見がございまして、相続の際にだけ限ってはどうかというふうな、いわば遺産分割の特別的な措置として検討すべきではないかというふうな問題も取り上げております。  大体主な柱、要旨で申しますと、以上のとおりでございます。
  23. 佐々木静子

    佐々木静子君 いま御説明いただきました中間報告について、法律関係者のみならず、婦人団体あるいは、いろんな業界での婦人部会などで、大変に興味を持っていま検討をさしていただいているわけでございますが、非常に事柄が広範囲にわたるものであり、かつ大変に民法の基本的な問題でございますので、今後とも私どももこの問題について幾たびか法務委員会でも質問さしていただきたいと思っているわけでございますが、いま主として、先ほど申し上げました国際婦人年大阪連絡会、四十ほどの有力な婦人団体方々満場一致意見として、これは妻の相続分がいま子供共同相続する場合に少ないのではないか、三分の一ではとても老後の保障というものはおぼつかない、もっと多くしてもらわなければ困る。——本当は、いろいろの個々の御意見では、三分の二とかあるいはもっと多い御意見もあるわけですけれども、一遍にそんなことを言っても、これはまたいろんな意味でのコンセンサスが得られないということで、満場一致で、妻と——妻といいますか配偶者、結局妻ですが、妻と子が共同相続する場合には相続分を二分の一ずっと変えてほしいと。あるいは配偶者親——子供のない場合に配偶者と親が相続する場合は、現行民法九百条によると妻が二分の一——配偶者二分の一、親が二分の一のところを、配偶者三分の二、親は三分の一にしてほしい。また配偶者——妻兄弟姉妹共同相続の場合に、妻が三分の二で兄弟姉妹が三分の一となっているけれども、それの場合は、共同相続の場合は妻が全部相続できるようにしてほしいという強い要望がありまして、これは大臣も御承知のとおりでございますけれども、そういう事柄につきまして大臣はいまどのようにお取り組みいただいているのか、また、どのような方向に向かっていま御検討いただいているのか、大臣並びに局長に伺いたいと思うわけでございます。
  24. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) いまの御指摘の点は、せっかくまあ法制審議会で鋭意論議を闘わしている途中でございますんで、法務大臣意見をこの席で申し上げにくい点がございます。ただ、私の気持ちとしては、本当に、先ほども最初に申し上げましたように、実態を踏まえてより実質的な男女の平等、つまり夫と妻の地位の不平等になっている点は徹底的に改めたい、こう思っておるわけですから、そういう抽象的な御答弁で恐縮ですけれども論議がいま盛んに行われている途中で、公の席で法務大臣意見をこうだとかああだとか申し上げることを御猶予願いたいと、こう思っております。
  25. 佐々木静子

    佐々木静子君 先日、予算委員会大臣に質問さしていただきまして、妻の味方だという御答弁をいただいたんでございますが、やはりそういう姿勢で取り組んでいただいていることにおいては変わりないわけでございますね。
  26. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) この間の予算委員会答弁しまして、妻の味方的方向でというようなことを言いましたが、私あれは、従来亭主関白みたいなことを、そういう言葉があること自体がおかしいんじゃないかと思っているわけですね。ただ余り行き過ぎて、あなた男女平等ならいいけれども女尊男卑にならないように、そういう点は警戒しつつこの改正に取り組んでいかなきゃならない、こういうことは申し上げていいかと思います。
  27. 佐々木静子

    佐々木静子君 まあ大臣いろいろ御心配いただいても、日本の現状は女尊男卑になるところまではなかなかこれはまいらないと思いますので、まあ思い切ってやっていただいて間違いございませんから、その点安心してやっていただきますように、日本婦人、五千万以上の婦人大臣の後ろについてがんばってくださいと申し上げておるんですから、いまの婦人のためというよりも、将来の日本民主化のために、将来の日本のわれわれの子孫のために、どうぞひとつよろしくお願い申し上げたいと思います。  そして、この相続分の問題はこのぐらいにいたしまして、さらに民法の中でもそのほか何とかしていただきたいといろいろと要望が出ている点があるわけでございます。たとえば、民法の七百三十三条に婚姻に関する規定で、「女は、前婚の解消又は取消の日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。」というふうな規定があることは御承知のとおりでございますが、男の場合は、奥さんがなくなった翌日にでも婚姻届法律上は可能なわけでございますね。そこら辺はやはり非常に現実の問題として割り切れないんじゃないか。男女同権をやはり阻害しているんじゃないかと思うわけでございます。そういう点について、いまの法制審議会中間報告の中にも、そういう点でのまだ御議論はないようでございますけれども、そういう点についてどういうふうに法務当局はお考えになっていらっしゃるのか、局長からお述べいただきたいと思います。
  28. 香川保一

    政府委員香川保一君) 御指摘の七百三十三条の再婚禁止規定につきましても、身分法委員会議論はされておりまして、大方の意見は、現行法は若干オーバーじゃないかというふうな御感触のようでございますが、御承知のように民法の七百七十二条の父性推定規定と関連がございまして、それとあわせて現在検討される予定になっております。
  29. 佐々木静子

    佐々木静子君 私は統計的にはよくわかりませんけれども、この前婚と後婚にまたがって妊娠するという場合は、私は、理屈の上ではそういうことは考えられるけれども、実際問題としては非常に少ないんじゃないかというふうに思うわけでございます。また、子供を妊娠するということ自身が、この立法当時はある程度自然現象のように考えられておったかもわからないけれども、もういまではきわめて人為的な問題となってきている現在においては、非常に実情からずれているんじゃないか。まあ、そういう人が全然ないとは限らないと思いますが、そのときには父を定める訴えか何か、特別の手段を講ずればいいのであって、こういう特殊な場合をもって原則とするというのは、これは非常に婦人の権利を侵害するものではないかと思うわけでございます。そういう点について、ぜひ平等を実現する立場で取り組んでいただきたいと思うわけでございます。  それからさらに、これは私ども特にいますぐそうしてほしいということをお願いするのもちょっと時期尚早ではないかと思うのでございますけれども、また、働く婦人がこれだけふえていて、婦人が結婚している、しておらない、あるいはすると否とにかかわらず社会的に活動している機会が大変ふえているわけでございますから、結婚しても名字はそのままで婚姻届が、本人の希望によっては受理できる方法ということも、これはソビエトとか東ドイツなどではもうそのようになっておるわけでございますし、また、中国とか朝鮮のように東洋の国はもともと夫婦は別姓でございますね。そういうふうなことから考えますと、やはり夫婦同氏の規定というものも、これは一遍にいかなくても、おのおのの人格を尊重するということになってくれば自然緩和する方向に向かっていかなければならないんじゃないかというふうに思うわけでございますが、その点、法制審議会の御議論などではどうなっておりますか、お聞かせいただきたいと思います。
  30. 香川保一

    政府委員香川保一君) 御指摘夫婦別姓の問題も、法制審議会身分法委員会議論されておるわけでございますが、これは御議論を御紹介申し上げますと、現在のわが国の国民感情あるいは国民意識として、すべて夫婦別氏というふうなことがそのまま受けられるかどうかというふうな実態の問題。それから、諸外国ではそういう例はございますけれども、このような問題は結局その国の文化的な伝統と申しますか、そういうものに非常に左右されることでございますので、そういったものを踏まえまして、国民の意識が一体どういうふうにあるかという把握を前提にしまして、それを踏まえて議論しよう、こういうふうなことのようでございます。直ちにいま夫婦別姓を採用するというのは、ちょっと時期尚早ではなかろうかというふうなのが大方の御感触のようでございます。
  31. 佐々木静子

    佐々木静子君 いろんな問題がありますし、このことばかりやっておりましても、何時間議論かけても、特に婚姻中の夫婦財産の帰属などの問題につきましても、いろいろお尋ね申し上げたいと思うんでございますけれども、ほかの問題に移りたいと思います。  これ、民事局長にお伺いしたいのでございますけれども、この民法男女平等を実質的に保障する方向に向かっての改正とともに、私どもこれは問題だなと思うのは国籍法なわけでございますけれども、国籍法が非常に男性優位の規定であるというふうに考えておるわけでございますが、西ドイツなどはかなり大幅な改正があったようでございますが、日本の場合は現在どういうふうな状態になっておるのか、お聞かせいただきたいと思うわけです。
  32. 香川保一

    政府委員香川保一君) わが国の国籍法は、いわゆる父系主義をとっておりまして、父が日本人であればその子供日本人、父が知れない場合には母が日本人であれば子供日本人と、こういう原則になっておるわけでございます。それで、これは各国いろいろ違いはございますけれども、現在、大方の国は日本と同じような父系主義をとっておるわけでございますが、それについて御指摘のように一部の国で父または母の、つまり父系主義一本ではなくて、母の国籍も持つというふうな改正がされている例もあるようでございます。これは、日本の国籍法が父系主義をとっておる大きな理由は、やはり二重国籍を生じさせないという配慮によるものだと理解しておるわけでございますが、父または母というふうなことになりますと、二重国籍の問題が生じてくるわけでございまして、それがさほど気にしなくてもいいというふうな国際的な機運になりますればともかくといたしまして、現在二重国籍の問題というのはやはりできるだけ各国は防止しようという方向にいま進んでいるように思うんでございます。そういう意味で、父系主義をとるのがいいか、あるいは父系主義をやめて母系主義をとるのがいいかという立法政策の問題はございますけれども、この点もいろいろ検討しなきゃならぬと思いますけれども、まあ母系主義をとっておる国が国際的にはさほど多くございませんので、やはりかような問題は、国際水準と申しますか、平均的な立法が望ましいわけでございますので、この点については特に改正を必要としないんではないかというふうに考えておるわけでございます。しかし、御指摘のような問題もございますので、今後とも検討はさしていただきたいと思います。
  33. 佐々木静子

    佐々木静子君 いまの他国との関係ということで、いろいろと国内法の民法改正だけの線からはいかないということはよくわかるわけでございますけれども日本男性と外国の女性が結婚した場合は、その女性が大抵の場合はすぐに日本の国籍も取得できるというにもかかわらず、日本の女性が他国の男性と結婚した場合には、これは夫が日本国籍をなかなか取得できない。普通の帰化の場合と似たような状態の条件がそろわないと国籍が取得できない。はなはだしい場合によりますと、日本の女性と外国人の男性が外国で結婚して日本へ帰ってきたときに、奥さんの方だけは日本へ入国できるけれども、夫の方は日本に入国すらできないというふうな事案もいろいろ起こっているわけでございまして、それは法務当局承知のとおりでございますが、これはやはりどう考えても男女の同権というものを著しく阻害していると思うわけでございます。ですから、二重国籍を避けようというのが一つの方向であると同時に、男女の実質的平等の保障というのは、これまた日本の憲法の大前提でございますので、その大前提を阻害してまでその国籍の問題というのはあくまで優先させなければならないのかどうかということは、私ははなはだ疑問に思っているわけです。特に、この国際婦人年世界行動計画というものが、これは国連に加盟している国の満場一致で採択され、いまおっしゃったそれぞれの国もやはりそういう問題が起こっている。これは、実は私、いまわずかな例ばかりや経験だけで物を言うのも僭越でございますけれども、メキシコの会議でも各国ともこの国籍法のことがやはり非公式にはいろいろと話題に、私ども個人的に、なったわけでございます。そういうことから考えますと、こういう問題もほかの国がやらないから日本もやらないというんじゃなくて、やはりこれだけの男女平等の憲法を持っている日本としては、思い切って前向きにぜひ取り組んでいただきたいと思うわけでございます。次官、いかがでございますか、この事柄について。
  34. 松永光

    政府委員(松永光君) 大変むずかしい問題でございまして、私、佐々木先生のようにまだ勉強していないのでございますので、大いに勉強したいと思います、制度その他の面におきましては。しかし、運用の面におきましては、先ほど佐々木先生指摘になりましたような、奥さんは日本に入れたが、御主人は入れぬというふうな気の毒な状態ができるだけ避けられるように、運用の面では十分考えるべきだと、こういうふうに考えております。
  35. 佐々木静子

    佐々木静子君 これは、次官は御勉強家だけど、御謙遜でおっしゃったんですが、結局、法務省所管のこの出入国問題あるいは帰化の問題で、現実にいっぱいそういうことでどれだけか大ぜいの日本婦人が泣いているわけなんですね。これはちょっと次官として知らなかったじゃ、私は、いま泣かされている日本婦人は余りにもかわいそうだと思いますね。そういう点について、やはりせっかく法律家でもいらっしゃる方が政務次官になっていらっしゃるんだから、ひとつこの際大いにがんばって、婦人のために、婦人人権を守るために取り組んでいただきたい。その点について重ねて政務次官と民事局長に御答弁いただきたいと思います。
  36. 香川保一

    政府委員香川保一君) 確かにお説のように、現在いわゆる簡易帰化と言われている点につきまして、御例示の、夫が日本人で妻が外国人である場合の帰化の手続に比べて、妻が日本人で夫が外国人の場合の夫の帰化の方が、手続があるいは要件が加重されておる点はあると思うんでございます。この点につきましては、いろいろ先ほど申しましたように、父系主義をとっておる原則との関連があるわけでございまして、父系主義を容易にしていることもなかなかできない。さればといって御指摘のようなその不合理と申しますか、不平等の是正はぜひとも必要だという、いわば立法論的には若干ジレンマの点があろうかと思うのであります。この点は十分それが調整されるように、立法改正を含めて検討いたしたいと思いますけれども、いま申しましたような不平等な点は、私ども帰化事務を取り扱っておる当局としましては、できるだけ縮めると申しますか、運用よろしきを得て、不平等をできるだけ少なくするということで努力しているつもりでございまして、さような運用を続けながら立法の問題もあわせて検討してまいりたいと、かように考えます。
  37. 佐々木静子

    佐々木静子君 ぜひとも、一遍にどれもこれもと申し上げてもこれは大変だと思いますが、ともかく男女平等を実現するために、ぜひとも法務省で、特に民事局において、民法改正を初めとする問題はぜひとも取り組んでいただきたいと、特にお願い申し上げたいと思います。  それでは、いまの民法の一部改正あるいは人事訴訟法の一部改正についても、二月中にこれはぜひとも政府案で出していただけるということを確認いたしまして、今度は人権擁護局の方に若干お伺いさせていただきたいと思います。  これは人権擁護機関として、婦人地位の向上のためにいままでも御努力いただいていると思うんですけれども、特にこの国際婦人年世界行動計画というものの実現に当たって、どのように取り組んでいこうというお考えなのか、お述べいただきたいと思います。
  38. 村岡二郎

    政府委員(村岡二郎君) 人権擁護機関は、自由人権思想の普及高揚を図ることを、これを主たる職責としているわけでございます。このような立場から、広く国民に対して憲法に定める男女平等の理念を普及高揚するとともに、具体的に男女平等を阻害していると思われる事象につきまして、情報を収集し、調査活動を行うということによりまして、男女差別に対する個別的啓発活動を強化していきたいと考えます。そのほか、婦人に関する人権相談をさらに活発にいたしまして、また法律扶助協会を通じて訴訟の援助をいたしておりますが、この面におきましても婦人に対する法律扶助を強化いたしたい、そういうことによりましてこの問題について一層努力したいと考えております。
  39. 佐々木静子

    佐々木静子君 人権擁護局にも相当これはハッスルしていただかなくちゃならないというふうに思うわけでございますけれども、いまお話にあったこの三つの点、婦人に関する人権相談の活発化、これはこれから具体的にはどういう方法でどのような成果を期してお取り組みいただけるのか、もう少し具体的にお述べいただきたいと思います。
  40. 村岡二郎

    政府委員(村岡二郎君) 人権相談につきましては、法務局、地方法務局、その支局がそれぞれの庁において、また人権擁護委員が自宅におきまして毎日常設相談所を開設しておりますが、そのほか随時デパート、公民館等において特設相談所というのを設けまして相談に当たっております。昭和四十九年中にこれら人権擁護機関が取り扱いました人権相談の件数は、全国で約二十八万件でございます。このうち、家事問題に関する相談事件が約八万件ございます。この家事問題に関する相談事件と申しますと、その性質上ほとんどが婦人に関するものでございまして、このことから考えまして、正確な数字はとっておりませんが、婦人に関する人権相談の数というのは相当数に上るものであると考えられるわけでございます。  今後、いかに対処するかということでございますが、人権擁護委員の方の中には婦人の方も多数いらっしゃるわけでございますが、これら婦人人権擁護委員中心にいたしまして、婦人に身近な相談活動の活発化を図るということによりまして、実効ある解決を図るように努力したいと思っております。
  41. 佐々木静子

    佐々木静子君 いま、非常に活発に活動していただいている、またさらに活発に活動していこうという御意欲のほどはわかったんですけれども、これはやはり人権擁護委員に適当な人を得なければ、それこそそういう方は余りおられないと思うけれども日本の古くからの慣習で、やはり男尊女卑的な考え方の地方のボスのような方が人権擁護委員になって、そして悩める婦人の相談に乗ったのでは、これは実際とまるで効果が逆になるわけですね。そこら辺の選任の基準はどういうふうにしていらっしゃるのか。さらに、これを本当に男女同権を実現していこうということになると、もっともっと婦人人権擁護委員を採用しなければいけないんじゃないか。これはやはり婦人の問題は婦人でなくちゃわからないという問題もたくさんあると思いますし、そういう点で、いまどういうふうな基準で、いままでのとおりじゃ私は十分にその成果は期しがたいと思うわけなんですね。いま人権擁護局とすると、さらに活発に活動しようという御見解のように伺ったんでございますけれども、それならそれなりにどういうふうな方法で人権擁護委員選任して、そしてその人たちが本当に良心的に仕事ができるような土壌を、どういうふうに人権擁護局としたらつくっていこうとしていらっしゃるのか、それを具体的におっしゃっていただきたいわけです。
  42. 村岡二郎

    政府委員(村岡二郎君) 人権擁護委員の現状について申し上げますと、本年の九月末日現在で婦人人権擁護委員の方が千百十八名おられます。全国人権擁護委員の総数が約一万四百名でございますので、婦人委員はその約一一%を占めるにすぎないというのが実情でございます。で、仰せのように人権擁護委員婦人地位向上について実効ある活動を行うというためには、婦人委員をふやすという必要があると私どもも考えておりまして、平素からそのことに苦慮しているところでございますが、人権擁護委員法は、御承知のように、委員の委嘱手続につきましては、市町村長が議会の意見を聞いて適格者を推薦し、その推薦した者を法務大臣が委嘱する、こういう規定になっております。したがいまして、当面の問題といたしましては、市町村長その他の市町村の理事者に対しまして、婦人問題に取り組むにふさわしい委員、とりわけ婦人委員を積極的に推薦されるよう、常に機会をとらえてその理解を求めるための努力をしていきたいと、かように考えております。
  43. 佐々木静子

    佐々木静子君 私、口幅ったいようですけれども、いわゆる官製の人権擁護委員を幾らおつくりになっても、これはなかなか当初の目的は達しがたいと思うわけなんですよね。ですから、やはり人権擁護委員選任というものを、いままでがこうだったからこうというふうな惰性で物事をやられたのでは、これはもう一向に幾ら人をふやしてもだめだと思いますね。そして、やはり無論地方自治体の推薦とか議会の推薦とかというようなことも、もちろんこれは手続的に法務省で全部を選ぶということは実際問題として不可能だと思いますけれども、しかし、やはりその地方の有力者と結びついた、地方の有力者の気に入りの人ばかりが人権擁護委員になったら、それは所期の目的を達しがたいどころか、場合によるとマイナスになる場合だってあるわけですね。そこら辺で、やっぱり官製の人権擁護委員を幾らつくってもだめなわけで、人権擁護委員選任について思い切った——いまでもりっぱな方がおられますよ、本当の弱い者の味方になって。しかし、必ずしも全部が全部そのようにいくわけでもないというふうなきらいもあるので、これは特にこの国際婦人年思い切ってそういう点について配慮なさらないと、これは当初の目的は期しがたいと思いますね。いかがですか、その点。次官もいかがですか、お考えありましたら。
  44. 松永光

    政府委員(松永光君) 先生指摘のように、婦人人権擁護のために婦人人権擁護委員活動というものは非常に大切だと思います。そういうことなんでありますが、いま局長さんが言われましたように、婦人人権擁護委員の割合が約一一%、これはやや少ないような感じがいたします。しかし、さればと言って実際に人権擁護委員を委嘱する場合に、法務省サイドで委嘱するということはかえって適材を得にくい、こう考えられますので、そこから地域社会のことについて詳しく御承知の市町村長さんが議会の意見等を聞いて推薦してこられる、それをその推薦してこられた方々の中から適当だと思う人を御委嘱申し上げている、こういう手続になっていると思うんですが、私はこの手続自体は適当であるというふうに思うんです。ただ、実際の運用上におきましては、市町村長さんやそういう方々に、婦人人権擁護委員の任務が非常に大切であるということをわかっていただくような努力をして、そして婦人の適格者をたくさん推薦していただく、そういうことの努力をしていって、先生の御指摘のような心配のないように、活発に行動してくださる婦人人権擁護委員をたくさん御委嘱を申し上げる、そういうふうに運用でうまくやっていくべきである、そういうふうな努力をしたいと、こう考えておるわけでございます。
  45. 村岡二郎

    政府委員(村岡二郎君) この問題につきましては、新たに婦人の適格者を得るということは必要であると思いますが、そのためにも現在人権擁護委員になっておられる御婦人委員方に、積極的に活動していただきたいということを考えているわけでございます。現在委嘱されております婦人委員の中には、人権擁護委員団体といたしまして数カ市町村を単位にいたしました人権擁護委員の協議会というもの、さらにその上部団体といたしまして、都道府県単位の人権擁護委員連合会というのがございますが、これらの協議会なり連合会におきましては、その会長、副会長理事等の地位についておられる御婦人委員の方もかなりおられまして、これらの都道府県単位の連合会等におきましては、婦人部会というのが設けられまして、地域社会における婦人地位向上のために積極的な努力を重ねておられるわけでございますが、さらにこのような活動を活発化し、それからその種の団体全国的な組織でございます全国人権擁護委員連合会、そのレベルにおきましても婦人委員に御活躍いただきたいと考えているわけでございます。そのために、この全国連合会に婦人委員によって組織されます婦人問題研究会、これは仮りの名前でございますが、そういう会を発足させることを現在考えております。そのような方法によって婦人人権擁護委員のお考え、婦人立場に立ったお考えを吸い上げまして、そのような意見をこれからの人権擁護行政の上に反映さしていきたいと考えておるところでございます。また、そのようにすることが、そのように活発に活動していただくことが、今後婦人の適格者を得るための一つの方途にもなるであろう。先ほど政務次官からお答えがありましたように、市町村長の推薦がなければ法務大臣がいきなり委嘱するということはできない法制になっておりますので、そういう点の理解を市町村理事者に持っていただくための努力をさらに進めたいと思います。
  46. 佐々木静子

    佐々木静子君 婦人人権を守るために、たとえば具体的な問題としていま東京都で取り組んでおりますのに、離婚事件で係争中の婦人がいる場所がない、夫と一緒の家にいるものですから、家庭裁判所へ行って帰ってきたらまた同じ家にいるわけですから、殴られたりいろんな問題がこれは起こらなければ不思議なくらいで、いるところがない、それが体一つならともかく、小さい子供を抱えて、これはもうどうしても身の置きどころがないというようなケースがいっぱいあるわけなんですね。きょうは厚生省いらしていただけないので人権擁護局に伺いますけれども、そういうことについて都道府県レベルでは、とりあえず離婚の母の家というようなものをつくって、ともかくそのトラブルの間、婦人——特に小さい子供を抱えて身の置きどころのない婦人が、その事件が解決するまでの問、地方自治体が何とかその身の安全を守ろうというふうな措置も、そういうふうなことも積極的にやっている地方自治体もあるわけです。しかし、私はこれは本来から言って、いま婦人人権人権と言われたところを見ると、そういう現実的な問題こそ人権擁護局はやはり考えていただかないといけないんじゃないか。そういう事柄についていままでどういうふうに御検討なすっているか、将来の展望についてもお伺いしたいと思うわけです。
  47. 村岡二郎

    政府委員(村岡二郎君) ただいま御指摘のありましたような、離婚を考えております妻がその家庭においてすでに虐待を受けている、基本的人権を侵害されておる、そういうような事態がございます場合には、人権擁護機関といたしましては、人権侵犯事件についてこれを調査し、処理するという職責を持っておりますので、あるいは直接人権擁護機関に申告がありますれば、人権擁護委員なりあるいは地方法務局の担当職員がその事案を調査いたしまして、そういう人権侵犯の事態をなくさせるように、しかるべき方策をとるということに努力しておるところでございまして、現実にもそのような事案が多数報告されております。ただ、何分にもこの人権侵犯事件の調査、処理といいますのは、あくまでも任意に行う——権力に基づいて強制するということは人権擁護機関の性質上できませんし、またやるべきでもない、あくまでもその関係者個人を啓発いたしまして、説得によって事態の改善を図るということでございます。それは力は弱いようではございますけれども、実際に個々の具体的な事件を早急に救済するという意味では、かなりの効果を上げているということが報告の事案からも察せられるのでございますが、なお一層そういう制度のあることを啓発いたしまして、その救済に役立てたいと思います。人権擁護機関としては、そのようなやり方でこの問題に対処することだと思っております。
  48. 佐々木静子

    佐々木静子君 まあいろいろ御努力をいただき、かつ人権思想のPRに努められるというお話、特に婦人人権問題について、今後講演会、座談会その他のことによって国民にPRをするというお話は、それも結構なんです。私も決して悪くないと思うわけでございますけれども、ただ非常に心配することは、それが官製の押しつけの人権擁護運動というようなことになると、これは全く——いま婦人の方から、婦人地位を守ろう権利を高めようということで、国民側からこれだけ盛り上がっていることを上手に吸収されなければ、かえって変なことになるんじゃないかと、私はその点を非常に危惧しているわけです。しっかりやっていただきたいと同時に、変なことになってはまずいんじゃないかということを大変に危惧しているわけなんです。  と申しますのは、実はこれは法務省の主催の会合じゃございませんけれども、この間労働省などの政府機関の主催の会合として、国際婦人年記念の日本会議が東京プリンスホテルでございまして、稲葉法務大臣もお越しになり、私も御招待状をいただきまして寄せていただいたわけなんでございます。会議の趣旨は非常に結構なんでございますけれども、ただ、そのときにも非常にいろいろなトラブルがあったということを私は後で伺ったわけなんです。このことを実は私は方々からその後手紙をいただきました。この国際婦人年日本会議、これは婦人問題に関心を持っている人は、どういうことが行われるだろうかということを、非常に皆さん注目していらしたわけでございますね。それから、実はこの手紙の中にも、私の友人とかあるいは知っている人もいるわけです。そして、そういう人たちが、これは私に限りません、たとえば婦人議員の市川房枝先生がお越しになるとか、やれ藤田たき先生がお越しになるとかということで、やはりできればそういう方の生のお顔を見たい、あるいは握手の一つでもしていただけたら非常にうれしい、中には色紙などを持って東京プリンスホテルへ訪れた人がずいぶんあるらしいんですね、招待状はもらわなかったけれども。  ところが、この手紙によりましても、十時から始まるというので、ちょっと早い目に九時半ごろに東京のプリンスホテルへ行った。そして、できれば婦人議員の人に会えたら婦人問題の将来も聞けるんじゃないか、あるいはこれからどういうことをやっていただけるんだろうか、あるいは自分たちの要望をぶち明けたい、そういうことで行ったところ、地下鉄の駅をおりて——この方の場合でも、この方は名古屋の方ですけれども、年次休暇をとって、これは一流の大きな会社の、しかも幹部の方ですね。地下鉄の駅をおりて、そして、東京プリンスホテルはどこですかと道行く人に尋ねた。そうすると、そこへどかどかっと警官が十人ほど来て、こっちだこっちだと言ってくれたので、ああ警察官も親切だと思って、そして、こっちだこっちだ言われる方へついていったら、何とここでお昼まで二時間以上軟禁された。そして、自分はそういう別に軟禁されることも何もないのだから、怪しい者でも何でもないから何とか早く自由な身にしてほしいと言ったのに、結局有無を言わさず十人ぐらいの警官で取り囲んで十二時まで軟禁された。これはこの人一人じゃなくて、単なる通行者もやられているわけですね。それから、会社へ勤めているOLの人もたまたまそこを歩いてやられているわけですね。あの日は非常に寒くて、お手洗いへ行きたいというようなことを申し出たのに、それも断られて軟禁されている。こういう状態が、事もあろうに婦人の権利を守るための日本の大きな祭典の日に行われたということは非常に残念だということで、涙ながらに訴えてきていられる。こんな残念なことをやられた、こんな官製のこんな婦人人権をじゅうりんするための婦人年なんて何が婦人年だというような、大きな怒りを持っているわけですけれどもね。このことについて人権擁護局長、それから警察の方の御担当の方から一体どういうことだったのか、御答弁をいただきたいと思います。
  49. 若田末人

    説明員(若田末人君) 当日の警備の状況についてお答えいたしたいと思います。  ただいま御指摘のように、この会議婦人地位向上のための会議でございましたが、この会議に対しましてもいろいろな考えの方がおられまして、私ども聞きますところによりますと、この会議自体に対しまして反対を唱えるグループの方もおいででございました。で、当日は極左グループも含めまして七つのグループでデモの申請——これは反対なりこの会議の粉砕を叫んでおるグループのデモでございましたが、七つございました。いま御指摘の御婦人の問題でございますが、私ども報告を受けております事案につきましては、九時ごろ神谷町の駅のところに、この会議の反対を一応書きましたゼッケンをつけました婦人のグループの方が三十六人ぐらいお集まりでございまして、そしてデモの形で一応その会場の方へ進まれようといたしました。これは無届けのデモになっておりますので、不許可のデモでございますので、公安条例の所要の措置によりまして会場のプリンスホテルのすぐ横に芝十七号地という公園がございますが、そこに入っていただいて、そして個人個人で出られる方は出すということで、ただデモの形で行かれるということは、そのデモは許可になっておりませんので、一応監視をして、まあ十二時ぐらいまで過ぎたというような状況を、報告を受けておる次第でございます。
  50. 佐々木静子

    佐々木静子君 いや、デモじゃないですよ、単に個人で。これは常識で考えたってわかりますよ。私などのようにそれほど有名でない議員でも、会合があるということで行けば、やっぱり支持者とかファンとかいうものがいて、会合を終わるのを待って名前を書いてほしいとか握手の一つもしてほしいとか、まあこれは大臣や次官ならよくおわかりだと思いますよ。そういうことは大抵講演なり何か会があればあるわけですよ。この日は、ほかの政府の方もおられるけれど、婦人議員には全員案内状が来て、来るということはわかっていたので、いろんな議員さんに会いたいということで、全く単なる支持者があこがれの気持ちから来ているわけなんですよ。デモでも何でもないわけですね。そういう人たちがみんな十把一からげでつかまっちゃっているわけですよ。  そこへもし通っていけないのなら、これはやっぱり警備の方で立入禁止とか一般の通行を禁ずるというふうにしておかないと、ただそれはホテルだからね、だからホテルへ行けば会えるということで来ているわけですよ。この手紙をしている方なんかは、全くこれはかなりな会社の、しかも管理職にいる人ですよ。そんなゼッケンをつけたり……ジーパンが悪いわけじゃないけれども、そんなかっこうもしておらぬ全く普通の中年の職業婦人ですね。そういう方々がやっぱりこの婦人議員の人に会いたいとかそういうことで来ている。これは私は何人もいると思います、常識的に考えても。だから、そういうのまで全部十把一からげて今度は機動隊の方につかまってお昼まで軟禁された。用事で来た人も通った人もあるわけですよ。それも婦人と見れば軟禁している。私はそこら辺に、政府が幾ら美辞麗句を並べても、婦人と見れば軟禁する、そんな国際婦人年がどこにありますか。警察当局はもっと反省していただかなければ、これは大変な人権侵害です。いかがですか。
  51. 若田末人

    説明員(若田末人君) 当日のこの警備の背景についてちょっと御説明いたしたいと思いますが、先般の天皇陛下の御訪米を契機にいたしまして、極左の方でも大変皇室関係にも関心を持つようになりまして、当日も、極左を中心といたしましてデモが幾つかございました。そして、いろいろ警備をいたす立場から情報をとってみますと、まあ情報だけであったかもしれませんけれども、火炎びんをぶち込んでみるとか、あるいは会場に何とかもぐり込んでこの進行を妨害しようというような情報もございましたので、そういう立場で警備をいたしておりました。で、先ほど御説明申し上げましたように、九時ぐらいに三十六人の御婦人方々が一応デモの形で出ました。で、議員さん御指摘の、何か別の方ということもございますが、それかと思われますけれども、九時半過ぎぐらいに七人ばかりの方が別途おいでになったそうでございますけれども、この方々も、警察で一応その大ぜいのグループの方に一緒にした分につきましては、この会議の反対なり粉砕を叫んでおられましたし、また、その名古屋の方であったかどうかわかりませんが、そのグループの方につきましては、警察の方でたまたま前にも過激な行動をしたときに知っておる警察官がおりましたので、その分につきましては、前に、十七号の公園に入れておりましたところに一緒に誘導したという報告も聞いております。
  52. 佐々木静子

    佐々木静子君 それはいろいろと警備の方が大変なことはわかりますけれども関係のない人を一緒に巻き込んでおいて、これは何だかんだと言ったって、それは通りませんですよ。だから、関係のない人を巻き込んだら困るというのはあたりまえのことですから、それだったら巻き込まないような警備のことを考えないといけない。あなた方は、幾ら何だかんだ言ったって、現実関係のない人を巻き込んでいるのだから。ですから、それについてはあなたの方がこれでいいということは言えないと思いますよ。そして警官も来られる。そういうことで、事故があったら大変だ。あの日は、私も行っていたからよくわかりますし、予算委員会があったから、私も大臣方と御一緒にその後について先に退出さしていただいたから、当日、陛下も来ていらっしゃるし、総理初め多くの閣僚が見えていらっしゃるから、これは警備に非常に気を使っていられたことはよくわかりますけれども、そうだからといって関係のない国民も一緒に軟禁していいというようなことはとんでもないことなんで、やはりその点は警察の方で十分考えて反省していただかないと困ると思いますね。  これは最後でございますが、大臣人権擁護局を含めての法務省で、この件について今後人権侵害のないようにひとつ御配慮いただきたいと思いますので、最後に御所信を述べていただきたいと思います。
  53. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) 警備の必要なことはお認めいただいておるわけですけれども、さればと言うて、警備と関係のない善良な民衆まで巻き込むことは断じていけないと思いますので、自今よく気をつけます。
  54. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 他に御質疑もなければ、本日の調査はこの程度にとどめます。     —————————————
  55. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 委員異動について御報告いたします。  梶木又三君、橋本敦君が委員辞任され、その補欠として久次米健太郎君、沓脱タケ子君が選任されました。     —————————————
  56. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案刑事補償法の一部を改正する法律案の両案を便宜一括して議題とし、政府から順次趣旨説明を聴取いたします。稲葉法務大臣
  57. 稻葉修

    国務大臣稻葉修君) 船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。  現行商法は、船舶所有者が船舶による事故によって損害賠償の責任を負う場合等には、船舶及び運送賃等を債権者に委付して損害賠償の責任を免れることができる、いわゆる委付主義を採用しております。  このように船舶所有者の責任を一定限度に制限する制度は、その方法にそれぞれ異なるところがあるとはいえ、世界各国に共通する制度でありますが、わが国の委付主義の制度は、委付の対象となる船舶の破損の程度等偶然の事情によって、損害のてん補される程度が著しく異なり、被害者保護の見地から合理的でないものとされ、現在わが国以外には、この委付主義をとる主要海運国はありません。  ところで、昭和三十二年に、船舶所有者の責任制限制度を国際的な金額主義に統一するための「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」が成立し、昭和四十三年に発効いたしましたが、現在までに英、独、仏等二十六カ国がこの条約を批准しております。  そこで、この法律案は、この条約を批准することに伴い、船舶の所有者等の責任制限制度を金額主義に改め、これを実施するため、所要の立法措置を講じようとするものであります。  この法律案の要点を申し上げますと、  第一に、船舶所有者、船舶賃借人及び傭船者は、故意または過失がないときに限り、事故について負うべき損害賠償の責任を、一事故ごとに、その船舶のトン数に応じた一定の金額に制限することができることといたしております。また、船長、海員その他船舶所有者等が使用する者も、故意がないときに限り、船舶所有者等と同様に、責任を制限することができることといたしております。  なお、船舶所有者等の使用する者の債権等、特に債権者を保護する必要のあるものについては、例外として、責任制限の効力が及ばないことにいたしております。  第二に、責任の限度額は、責任を制限する債権が物の損害に関する債権のみである場合には、一金フランの千倍にその船舶のトン数を乗じた金額といたしておりますが、その他の場合には、一金フランの三千百倍にその船舶のトン数を乗じた金額とし、そのうち一金フランの二千百倍に船舶のトン数を乗じた金額は、人の損害に関する債権の弁済のみに充てられるものといたしております。  第三に、責任を制限される債権の弁済を確保するため、船舶所有者等が責任を制限するには、裁判所にその旨の申し立てをし、かつ、供託等によりその責任限度額に相当する基金を形成しなければならないこととし、また、責任制限手続が開始したときは、裁判上の手続によりその基金を各債権者に公平に分配することとし、これらの手続について詳細な規定を設けることといたしております。  なお、最後に、タンカーによる油濁事故から発生した損害の賠償請求権については、別途今国会に提出しております油濁損害賠償保障法案によることとなりますので、本法案規定は適用されないこととなります。  以上が船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案の趣旨であります。  何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。     —————————————  刑事補償法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。  刑事補償法による補償金の算定の基準となる金額は、昭和四十八年の改正によって、無罪の判決またはこれに準ずる裁判を受けた者が未決の抑留もしくは拘禁または自由刑の執行等による身体の拘束を受けていた場合については、拘束一日につき六百円以上二千二百円以下とされ、また、死刑の執行を受けた場合については五百万円とされて一いるのでありますが、最近における経済事情にかんがみ、これを引き上げることが相当と認められますので、この法律案は、右の「六百円以上二千二百円以下」を「八百円以上三千二百円以下」に、「五百万円」を「千万円」に引き上げ、いわゆる冤罪者に対する補償の改善を図ろうとするものであります。  以上が刑事補償法の一部を改正する法律案の趣旨であります。  何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
  58. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 次に、刑事補償法の一部を改正する法律案の衆議院における修正部分について、衆議院法務委員長小宮山重四郎君から説明を聴取いたします。小宮山重四郎君。
  59. 小宮山重四郎

    衆議院議員小宮山重四郎君) 刑事補償法の一部を改正する法律案に対する衆議院における修正部分の趣旨について御説明を申し上げます。  政府提出の改正案は、最近における経済事情の推移にかんがみ、死刑の執行を受けた者が再審等の手続において、無罪の裁判を受けた場合の補償金の最高額について現行五百万円を一千万円に引き上げようとするものであります。  わが国においては、幸いにしてこれまで死刑の執行が行われた後再審等の手続において無罪の裁判が行われた事例はないのでありますが、万一誤った裁判によってかような事態が惹起された場合は、国は多額の補償金をもって慰謝を講ずべきであります。  しかるに、改正案における補償額は、結果的に誤った死刑執行というきわめて特殊かつ重大な損害に対する補償としては、不十分でありますのでこれを一千五百万円に引き上げるよう全会一致をもって修正いたした次第であります。  この修正案による補償額も必ずしも十分なものとは思われませんが、他の補償額など諸般の事情を勘案の上このようにいたした次第であります。  以上がこの修正案の趣旨であります。  何とぞ御賛同あらんことをお願い申し上げます。
  60. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 以上で説明の聴取は終わりました。  これより船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案の質疑に入ります。  質疑のある方は、順次御発言願います。
  61. 高橋邦雄

    ○高橋邦雄君 ただいま提案理由の御説明をお聞きいたしました二つ法案のうち、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案につきまして、提案理由に関連いたしました問題を二、三お伺いいたしたいと思うのであります。  その第一は、この海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約というものが、御説明によれば一九五七年、昭和三十二年に成立をして、一九六八年、昭和四十三年に発効をいたしておるわけであります。今回それに関連いたしまして、国内法としてこの法律案が提出をされたわけでありますが、この間に四十三年から数えますと七年たっておるわけであります。この法案が提出するに先立ちまして、法制審議会に諮問をされ、その法制審議会の答申が四十八年の二月に決定をしたわけであります。したがって、四十八年から見ましても二年余たっておるわけでございます。確かに現在の委付主義は被害者の保護に欠けておって非常に不合理なものである。ですから、今回この条約に基づくような金額責任主義に変える、こういうことはまことに当然であり、また適切であると思うのでありますが、大分時間がかかっておるような感がいたすわけでございますが、その辺のいきさつにつきまして説明をお聞きしたいと思います。
  62. 香川保一

    政府委員香川保一君) この条約の批准につきまして、かつてはわが国の海運業界の力が十分でないというふうな点もございますし、主要国が批准していないというふうなこともございまして見送ってきたわけでございますが、その後わが国の海運界も国際的に非常に伸びまして第一級の海運国として向上してまいった、こういうふうなこともあり、また四十三年の五月に本条約が発効するに至ったというふうなこと、さらにはわが国の委付主義がはなはだしく不合理だというふうな批判が高まっておるというふうなことから、この条約を批准すべきだというふうな機運が盛り上がってまいったわけであります。ところが、他方、当時油濁の問題が非常にまた大きくなってきておりまして、単にこの条約を批准して船舶所有者の責任制限法だけを制定するということでは十分でもない、ぜひとも一緒にやはり油濁の関係の条約も批准して、国内法もあわせて同時に整備すべきではないかというふうなこともございまして、さような関係で国内法の作成作業が若干おくれたわけでございまして、法制審議会としまして船舶所有者の責任制限の条約の関係の国内法の要綱はお説のように四十八年に答申がございましたが、油濁の方ともあわせて国会に提出した方がいいというふうなことで、昨年国会に提出しましたけれども、遺憾ながら廃案になったような経緯がございまして、今国会に再度提出したような次第でございます。
  63. 高橋邦雄

    ○高橋邦雄君 いろいろな事情があってやむを得なかったということでございますが、その問題はおきまして次に進みたいと思いますが、海難の発生状況といいますか、こういう海難というのはどれくらいあるものなのか、この法務省からいただいた関係資料の中にもあるわけでございますが、今回提案になりましたこの法案の対象になって損害賠償を受けられる、そういう種類の海難事故というのは、これはまあおおよそのあれで結構ですが、どれくらいあるものなのか、これは人身事故についてお伺いいたしたいと思うわけであります。これは運輸省の御説明をいただきたいと思います。
  64. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) お答え申し上げます。これは海上保安庁からお答えすべきことかと思いますが、現在海上保安庁の方が見えておりませんので私からお答えさせていただきます。  先生がおっしゃいました海難事故の総数でございますが、昭和四十九年の実績で申し上げますと、いわゆる救助を要した船舶の海難の総数というものは、日本全国で二千四百八十九隻でございます。その原因といたしましては、機関故障によるもの五百十三隻、約二〇%でございます。それから乗り上げ四百九十六隻、一九・九%。それから衝突三百七十三隻、浸水二百四十六隻、転覆二百十五隻、火災二百十四隻、推進器の故障が百八十隻というようなことになっております。  次に、死亡・行方不明者の発生状況でございますが、昭和四十九年に発生しました死亡・行方不明者の数は全部で六百三十人でございます。そのうち原因といたしましては、転覆によるものが二百十一人、三三・五%、衝突によるものが百五十九人、二五・二%、浸水によるものが百三十三人というような数字になっております。
  65. 高橋邦雄

    ○高橋邦雄君 いま御説明をお聞きしますと、なかなかこれは大変な数に上るわけでございまするが、今回の法案の金額主義でございますが、これはこの法律で責任の限度額というのが決められるわけでありますね。したがって、損害賠償に充てられる金額の総額というのが、これは船のトン数によって決まってくる。そうなりますと、被害者の数であるとか被害の程度であるとかというようなことによって、それは千差万別でありますね。そういうものに対して総額が決まっておるわけでありまして、それを被害者が公平に分配を受ける、こういうことになるわけでありますから、その間非常に不平等と言いますか、差がいろいろ大きいのじゃないかというふうに思われるわけでありますが、まあ確かに委付主義よりまさるということはもう百歩だと思いますが、そしてまた、ほかにどうもうまい方法がないということなのかもしれませんけれども、何か非常にまちまち——不公平、不平等というか、差が大きいということが想像されるように思いますのですが、その辺に関する考え、まあこれはやむを得ないというのか、この辺に関するお考えをひとつ承りたいと思います。
  66. 香川保一

    政府委員香川保一君) 率直に申し上げまして、この条約は相当昔にできたものでございますので、責任限度額の点が、被害者が非常に多数あるような場合にはその補償額が少なくなるというふうな心配もないとは言えないと思うのであります。その点につきましては、条約自身の改正の機運も高まってきておりまして、条約自身の限度額を上げるというふうなことが近くなされるであろうということも考えられますが、しかし、実際の問題といたしまして、船舶所有者はそれぞれの船舶のトン数、したがってその大きさに応じてのいろいろの事故を想定いたしまして保険を掛けておるわけでございます。法律上の責任限度額はともかくといたしまして、それで賄えない非常な不都合な結果を生ずるような大きな事故が万一起こったといたしますと、その大半は保険でもってカバーできるというふうなことになろうかと思うのであります。その保険の関係等は船舶所有者の自主的な良識によって、相当の大きな損害でもカバーできるような付保額になっておりますし、また運輸省の方からの行政指導でうまくいくだろう、こういうふうなことを考えておるわけでございます。
  67. 高橋邦雄

    ○高橋邦雄君 何か運輸省の方、ございますか。
  68. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) お答え申し上げます。  ただいま法務民事局長からお話のございましたように、実際に海難事故が起きたり、あるいは船舶が岸壁に衝突するというようなことが、あるいは他の船に衝突するというようなことがありまして損害が生じますと、それは保険によってカバーされるというのが通常でございます。どういう保険によってカバーされるかと申しますと、一つは損害保険会社がやっております船体保険には、通常相手方の船舶に損害を与えた場合、その損害をカバーするRDC条項というのがございます。これによって相手方の船体についてはカバーする。それ以外に相手方あるいは第三者に与えたその損害につきましては、船主自身がつくっておりますいわゆるPIと申しておりますが、船主相互保険組合というものがございます。これは世界的にそういう船主相互保険組合のネットワークがございますが、日本ではその一端といたしまして、法律に基づいて日本船主相互保険組合というものがございます。この相互保険組合いわゆるPIによる保険によりましてカバーされているというのが実情でございます。
  69. 高橋邦雄

    ○高橋邦雄君 それでは、この法律による損害補償、また船会社の方の保険などによりまして、こうした海難事故で亡くなったり負傷したりした場合には、これは十分な補償ができる、こういうふうに理解していいわけですね。
  70. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) お答え申し上げます。  従来、PIは毎年どのくらいの件数につきましてそういう損害賠償の支払いを船主にかわってしておる、船主の損害補償をてん補しているかといいますと、昭和四十五年から四十九年までの実績でございますが、五年間でございますが、七千四百三十四件という件数について損害賠償をいたしております。支払い額は百十八億九千七百万円という数字でございまして、一件当たり百六十万円というような金額になっております。で、日本の船舶は、小型船の中にはPI保険に入っていないのもございますけれども、特に比較的大きい船はほとんどPI保険に入っているのが実情でございます。したがいまして、PI保険に加入している船舶によって起こされた事故につきしては、ほとんど裁判になったことがございません。ほとんどが示談で解決されて保険によって損害額がカバーされているということでございますので、まあ総じて言えば大体満足した損害賠償が行われているのじゃないかというふうに考えていいのじゃないかと思っております。
  71. 高橋邦雄

    ○高橋邦雄君 この船舶の所有者等の責任の制限に関する法律案、これに基づく損害賠償の制度、これは何か特異な損害賠償責任制度というような気がするわけですが、何かこれに類似したような制度というのはほかにあるのかどうか、もしあればそういうものとの間の権衡というか、バランスというか、そういうものはどうなのかということをちょっと最後にお聞きしたい。
  72. 香川保一

    政府委員香川保一君) 類似と申し上げられるかどうかわかりませんけれども法律的に責任限度を決めておるというものといたしまして、郵便法によりまして、郵便物が紛失した等の事故が起こりました場合に、その賠償額は当初の申し出額、郵便を差し出すときの申し出額に限られる、申し出額を限度にするというふうなのが一つあろうかと思います。  それから、卑近な例といたしましては、国鉄の列車が遅延した等の場合に、切符のそれぞれの料金、一定額の払い戻しをいたしますけれども、そのほかにいろいろ損害が生じておってもその損害は賠償しない、これは鉄道営業法の委任に基づいて、省令ですか、でそういう限度を決めておるというふうなのが考えられております。  それから、これもぴったりとした類似のものとは言えないかもしれませんが、マイニングの鉱業による鉱害につきまして、これは鉱害が発生した場合にある土地なら土地に被害が生ずる、それを打ち切り補償額をあらかじめ決めまして登録しておいて、現実に被害が生じました場合に、その被害額がいかほど大きくてもあるいは小さくても、当初の予定した打ち切り補償額どおりにするというふうな制度が鉱業法にございますが、かような制度が責任を制限しておる限度を決めておるというふうな意味においては類似している制度かと思いますが、それ以外にはちょっと思い当たらない次第でございます。
  73. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは、この法案について私からも若干質問をさしていただきます。  まず、運輸省にお伺いいたしたいと思います。  先ほどの高橋先生の御質問にもあったかと思いますけれども、まず、新聞などの報道によりまして船舶事故というものが遺憾ながら後を絶たない状態でございますけれども、わが国において一年間に船舶事故がどれほど発生しているのか、その規模の大きさ別に件数をお述べいただきたいと思うわけです。
  74. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) お答え申し上げます。  実は申しわけないのですが、私海運局でございまして海上保安庁ではございませんので、実際に海難が起きた場合の規模でございますね、それがどのくらいであるかということは、ここに海上保安白書を持っておりますが、ここにもちょっと書いてございませんので、申しわけありませんが明確にお答えできません。ただ、先ほど申し上げましたように、PIでカバーしている日本の船主が第三者に与えた損害に対する賠償額を見ますと、平均して、先ほど申し上げましたように百六十万円という数字が出ております。  で、その内訳を申し上げますと、一つは、一番大きいのは船骸撤去費用、沈没した船を除くための費用でございますが、これが一件当たりで千七百二十万円という数字が出ております。それから二番目に、他船との衝突による損害ということで千八十万二千円という数字が出ております。以下、大きいものといたしましては、そういう自分の船舶の外で人に死傷損害を与えた、そのための損害が一件当たり四百九十万円、それから船員の所持品の損害が二百二十万円というようなところでございます。
  75. 佐々木静子

    佐々木静子君 それでは、海上保安庁に対する質問はまた次回に保留さしていただきまして、もう少し海運局にお伺いしたいと思うわけでございますが、まず海上航行船舶の所有者の責任制限に関する条約というものが、これは一九六九年に結ばれたんじゃないかと思うんです。——そうですね。その件についてこの批准が大変おくれておるわけですけれども、そこら辺のところの理由がどういうわけでそのようになっておるのか。また、いま国内法が整備されてこういう法案提出になっているその経過ですね、これは法務省からもお述べいただきたいんですけれども、この条約が締結されてから、国内法化されて法案として現在出されておるそのいきさつをちょっとお述べいただきたいんです。——あるいは私がちょっと不勉強でその条約を結んだ日時を間違っておれば、その点を訂正して御説明いただきたいと思うわけです。
  76. 香川保一

    政府委員香川保一君) 船舶所有者の責任制限の条約は一九五七年にできておるのでございますが、その当時、わが国の海運業界の実力と申しますか、さような点からまだこの条約を批准する程度の力がないというふうなことで推移してまいったのでありますが、その後まあ海運業界の実力もつきまして、国際的にも相当、第一級の海運国に発達してきた、他方、また各国がこの条約を批准いたしまして、昭和四十三年に条約が発効するに至った、またわが国の国内法ではこの条約のような金額賠償主義をとらないで、委付主義をとっておることについてまことに不都合ではないかというふうな批判の声も強まってきたというふうな事情がございまして、昭和四十三、四年ごろからこの条約を批准して国内法を整備すべきであるというふうな意見が強くなってきたようでございます。ところが、この条約を批准することによっての国内法の整備もいろいろ手続的にも全く新しいものでございますので、その辺の審議が早急に進まなかったというふうなこともございますが、かてて加えて、その当時相次いで大きな船舶による油濁の事故が発生いたしまして、ただいま御指摘の六九年に油濁の責任制限の条約ができたというふうなことがございました。船舶所有者の責任制限条約とこの油濁の条約は一般法と特別法のような関係にあるわけでございますけれども、何と申しましても油濁による事故は相当大規模でございますので、船舶所有者の責任制限の条約だけを批准して油濁をそのままにしておくということは、かえってわが国にとって不利ではないかというふうな、これはまあ当然考えられる意見でございまして、そういうことから、油濁の条約を批准するといたしますれば、それに伴って当然国内法を整備しなきゃならない、これはただいま御審議いただいておる法案の特別法的な形になるわけでございます。その法案の作成作業も相当いろいろ問題ございまして、むつかしいことがあったために手間取りまして、やっと昨年の通常国会に両方とも提案した。ところが、廃案になりましたので、この臨時国会に再度提出いたしたと、かような経緯でございます。
  77. 佐々木静子

    佐々木静子君 私もいまうっかり間違っておりまして、油濁条約の成立時期とこの船舶の所有者の責任制限に関する条約との日にちを間違ったわけでございますが、いまの経過の御説明でよくわかりましたが、そうしますと、この油濁損害賠償法というのが現在運輸委員会審議されていると思うわけでございますけれども、この内容についてもちょっと御説明いただきたいと思うわけですが。
  78. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) お答え申し上げます。  現在、油濁損害賠償保障法案、これはいま先生が申されました六九年条約と、それからもう一つ七一年条約というのがございまして、その二つの国内法化を図るものでございます。きょうもこの参議院の運輸委員会で御審議いただいておりますが、その内容を要約して申しますと、第一に、責任制度と申しますか、どういう場合にその船主が責任を負うかという点でございますが、これはタンカーの事故が非常に規模が大きくなりがちである、そして商売に関係のない第三者をしばしば巻き込むというようなことから、船主の無過失責任にする、原則として無過失責任にする、もちろん天災地変、その他の場合につきましては例外がございますが、原則として無過失責任にするということが第一点でございます。  第二点は、無過失責任にするけれども、責任制限制度を認めるということでございますが、この点につきましては、五七年条約及びそれを受けましたこの法案におきましては、物損についてトン当たり千フラン、約二万四千円ということになっておりますが、これを倍額に引き上げまして、四万八千円ということにしているわけでございます。これが第二点でございます。  第三点は、そういう船主の強化された責任をカバーするために、強制保険の導入を図っているという点でございます。これは自動車損害賠償保障法にも同様なことがございますが、条約の規定を受けまして、二千デッドウェート以上、重量トンで二千トン以上のタンカーにつきましては強制保険を導入する、それで保険金の額はその責任の限度額までとする、トン当たり四万八千円というようにするということでございます。  それから第四、そこまでが六九年条約の内容を受けたものでございますが、もう一点七一年条約の内容を受けた部分といたしまして、そういう新しい損害賠償制度のもとで十分な損害賠償が行われない場合には、国際基金から被害者が補償を受けられるのだという規定が置いてございます。この国際基金は、七一年条約に基づいてつくられるものでございまして、これは世界じゅうの石油業者と申しますか、年間十五万トン以上の油を受け取った者が基金に金を拠出して金を積み立てる、そのお金で被害者の救済を行うということが主な内容になってございます。  なお、保険と関連いたしまして、その保険をかけているということを証明する締約国の政府の証明書を持った者でなければ、それぞれの締約国の領域の中には入れないというような規定も備えてございます。
  79. 佐々木静子

    佐々木静子君 いま詳しい経過を伺ったわけでございますが、それで法務省に伺いますが、船舶事故が起こった場合に、不可抗力とかあるいは相手船の一方的過失による場合は船舶所有者は責任を負うことはないというふうに思うわけでございますが、船長その他船員に過失があれば船舶所有者の責任は商法の六百九十条の第一項によりまして、民法の七百十五条のように被用者に対する選任、監督の過失がなくても責任を負うということになっているわけでございますが、この点は今後改正によってどのようになるわけなんでございましょうか。
  80. 香川保一

    政府委員香川保一君) お説のように、現在、六百九十条、これは船舶所有者の委付制度を定めた規定でございますが、この規定、第一項の規定のただし書きを裏返しから解釈いたしまして、いまお述べになりましたような解釈が有力であるということでございますが、必ずしも明確でございませんので、この法案の附則第三項におきまして、ただいま申しました六百九十条の規定による委付制度を廃止するとともに、船舶所有者の責任を明確にするという意味で新たに六百九十条を設けまして、船舶所有者は船長その他の船員が職務を行うに当たりまして故意または過失によって他人に損害を加えた場合にはその損害を賠償する責任があるということを明確にいたしまして、それはとりもなおさず民法の使用者責任の例外的な規定ということに相なるわけでございます。
  81. 佐々木静子

    佐々木静子君 これはまあ他人が不法行為によって損害を与えたときに、その損害を全部賠償するのが当然の原則だと思うわけでございますが、そのような原則にかかわらずにこの現行の商法の六百九十条が、船舶所有者は船舶事故に係る債務について当該船舶を委付すればその責任を免れると規定しているわけでございますね。このような例外的措置が、危険性が高くまた損害が多数に上る海上企業の特異性から認められていると思うわけですけれども、この制度には長い歴史があるというふうに考えますけれども、それがどういうふうな不都合が起こっているのか。また実際問題としてこの制度が余り使われていないということであれば、わざわざ法改正をする必要もさほどないのではないかというふうに思うのですけれども現実にはどのようになっているわけでございますか。
  82. 香川保一

    政府委員香川保一君) 現行の船舶所有者の委付の制度は、御承知のとおり、不法行為による損害が発生いたしました場合に、その船舶を委付して責任を免れるということでございますので、したがってその発生した損害の大小、被害者の多寡にかかわらず、まあ委付された船舶から債権の部分的な満足しか得られないというふうな不都合がある。しかも、その船舶の事故によりましては極端な場合には船舶が沈没することもございますし、大破することもあるわけでございまして、沈没したような場合にその船舶が委付されましても被害者の救済にはほとんど役立たない。また、強いて申しますれば、船舶の損傷が大してない、損害額に比べて船価の方がなお余りあるというふうな場合には、これはまあそろばん勘定から申しますれば船舶所有者は委付しないということになる。そういうふうな、いわば偶然的なことによって被害の救済に差異がはなはだしく生ずるというふうな不都合があるわけでございます。したがって、現在ではやはり船舶所有者の社会的責任と申しますか、良識によりまして、先ほど来問題になっておりますような保険制度を活用して被害者の救済に十分配慮しておるということではございますけれども、制度としてこのような不都合と申しますか、偶然によって非常に被害者の救済に差異が生ずるような委付制度をとっておる外国はほとんどございませんし、やはりわが国といたしましてもそういう損害賠償制度を国際的な水準に高める、制度的に高める必要があるというふうなことで委付主義の廃止が従来から言われておるわけでありまして、今回条約を批准する機会にこの委付主義を廃止して金額賠償責任に切りかえるというふうなことはやはり妥当なことではないかと、かように考えておる次第でございます。
  83. 佐々木静子

    佐々木静子君 御趣旨はよくわかりまして、そしてまた委付主義による、結局委付した例はいままでの法律でもきわめて少ないということでございますが、著名な海運会社で、いままで委付した例というものが日本であるわけでございますか、どんなふうになっておりますか。
  84. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) 現在まで少なくとも私は大きな船会社で最近委付を行ったという例は聞いておりません。全体としても一年三件ぐらいということでございますから、非常に全体から見れば少ないのだというふうに申せると思います。
  85. 佐々木静子

    佐々木静子君 まあ例から言うと少ないけれども改正をしなければならないという御趣旨はわかりましたが、運輸省に伺いたいと思うんですが、船舶所有者の第三者に対する損害賠償が責任保険によって実際は現在も賄われているようでございますが、本条約を批准してこういう法律ができた場合に、船舶の所有者がこの法律で定める責任の限度額の範囲で保険を掛けることになってしまうんじゃないか。そうなってしまうと、責任限度の範囲でしか保険金を出さなくなる、保険会社の方も。そういうことになると、かえって被害者の救済というものが不十分になるというふうなことが懸念されるんですけれども、その点はどういうふうにお考えでございますか。
  86. 犬井圭介

    説明員(犬井圭介君) お答え申し上げます。  実際に船舶所有者がどのように保険を掛けるか。特にこの五七年条約が批准されて、この法律案が成立したとき以後、どういうふうに掛けるかという問題でございますが、仮にこの法律案が成立いたしました後でも、船舶所有者はすべての場合に責任が制限できるわけではございません。自分自身に過失がある場合には責任制限できませんし、それから海難救助に関する債権とか、共同海損に関する債権とか、あるいは雇用契約に基づく債権というようなものは責任制限できない、あるいは沈船——船が沈んだ場合の引き揚げに要する費用ですね、それに関する債権というものも責任制限できないということになっております。また、外航船について言えば、この条約を批准していないような国の領域内で事故を起こした場合には、やはり責任制限できないということでございまして、したがいまして、船主は依然として現在と同じように、どんな損害が起きましてもカバーできるような保険というものを掛け続けていくだろうということでございます。  現在、五七年条約を批准している国が世界中で二十七カ国ございますが、私たちが調べた範囲でも、その批准をした諸外国ででも同様な例でございます。したがいまして、この法律ができたから保険の金額が少なくなるんじゃないかという御心配は余りないんじゃないかと思います。  それで、この点は保険料の点からも申せるのでございまして、保険料というのは、保険金額が高くなったからといって、それに応じてどんどん高くなるものではございません。たとえば六千トンから一万五千トンぐらいの一般船——一般の貨物船でございますが、たとえば六千万円の保険に入るとトン当たり百四十五円でございます。それが二億五千万円の保険に入っても百九十四円。それから二十億円の保険に入っても二百三円。それから無限責任の保険に入っても二百五円というようなことでございまして、保険金額自身が総コストに占める比率は普通一%以下というようなことで非常に低うございますし、いま申し上げましたように、高い保険金を掛けましても、保険料が直ちに高くなるということではございませんので、この面から考えてみても、船舶所有者は従来どおりの保険を掛け続けるんじゃないかというふうに思います。私たちもそういうふうな方向で指導してまいりたいというふうに思っております。
  87. 佐々木静子

    佐々木静子君 最後に、今度法務省に伺いたいのですが、法制審の商法部会で海商法の問題などがどのように取り組まれておるのか。また、この船舶というものが土地とか建物など、不動産と同じように登記されている半面、また自動車や航空機のように登録もされている、そういうふうなところ辺は、今後何か整備されるおつもりがあるのかどうか、そのあたりをちょっと伺っておきたいと思います。
  88. 香川保一

    政府委員香川保一君) 海商法につきましても、いろいろまだ検討しなきゃならない問題がございますけれども、先般、前の前の国会で可決していただきました商法の改正に伴う附帯決議がございます。会社法全般について再検討しろというふうなことがございますので、それを受けまして、現在商法部会ではもっぱら会社法の附帯決議の趣旨に沿った改正を企図して鋭意そちらの審議をいたしておるわけであります。現在のところ海商法の審議はいたしておりません。ただ、登記船舶とかあるいは登録飛行機、登録自動車について、これはまあ主として担保権の設定を容易にするというふうな意味もあって、主としてそういうねらいから、さような登記、登録制度が設けられておるわけでございますけれども、これにつきまして果たして実質的に担保制度になじむものかどうか、あるいは強制執行あるいは競売法による競売の場合に現在の手続で十分かどうかというふうな点がございますので、これは主として強制執行の面から現在強制執行部会で、登記船舶、登録飛行機、登録自動車を含めまして検討されておるわけでございます。
  89. 多田省吾

    委員長多田省吾君) 本案に対する質疑は、本日はこの程度にとどめます。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時十九分散会      —————・—————