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国務大臣(
稻葉修君) 船舶の
所有者等の責任の制限に関する
法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
現行商法は、船舶所有者が船舶による事故によって損害賠償の責任を負う場合等には、船舶及び運送賃等を債権者に委付して損害賠償の責任を免れることができる、いわゆる委付主義を採用しております。
このように船舶所有者の責任を一定限度に制限する制度は、その方法にそれぞれ異なるところがあるとはいえ、世界各国に共通する制度でありますが、わが国の委付主義の制度は、委付の対象となる船舶の破損の程度等偶然の事情によって、損害のてん補される程度が著しく異なり、被害者保護の見地から合理的でないものとされ、現在わが国以外には、この委付主義をとる主要海運国はありません。
ところで、
昭和三十二年に、船舶所有者の責任制限制度を国際的な金額主義に統一するための「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」が成立し、
昭和四十三年に発効いたしましたが、現在までに英、独、仏等二十六カ国がこの条約を批准しております。
そこで、この
法律案は、この条約を批准することに伴い、船舶の
所有者等の責任制限制度を金額主義に改め、これを実施するため、所要の
立法措置を講じようとするものであります。
この
法律案の要点を申し上げますと、
第一に、船舶所有者、船舶賃借人及び傭船者は、故意または過失がないときに限り、事故について負うべき損害賠償の責任を、一事故ごとに、その船舶のトン数に応じた一定の金額に制限することができることといたしております。また、船長、海員その他船舶
所有者等が使用する者も、故意がないときに限り、船舶
所有者等と同様に、責任を制限することができることといたしております。
なお、船舶
所有者等の使用する者の債権等、特に債権者を保護する必要のあるものについては、例外として、責任制限の効力が及ばないことにいたしております。
第二に、責任の限度額は、責任を制限する債権が物の損害に関する債権のみである場合には、一金フランの千倍にその船舶のトン数を乗じた金額といたしておりますが、その他の場合には、一金フランの三千百倍にその船舶のトン数を乗じた金額とし、そのうち一金フランの二千百倍に船舶のトン数を乗じた金額は、人の損害に関する債権の弁済のみに充てられるものといたしております。
第三に、責任を制限される債権の弁済を確保するため、船舶
所有者等が責任を制限するには、
裁判所にその旨の申し立てをし、かつ、供託等によりその責任限度額に相当する基金を形成しなければならないこととし、また、責任制限手続が開始したときは、
裁判上の手続によりその基金を各債権者に公平に分配することとし、これらの手続について詳細な
規定を設けることといたしております。
なお、最後に、タンカーによる油濁事故から発生した損害の賠償請求権については、別途今
国会に提出しております油濁損害賠償
保障法案によることとなりますので、本
法案の
規定は適用されないこととなります。
以上が船舶の
所有者等の責任の制限に関する
法律案の趣旨であります。
何とぞ、慎重に御
審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
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刑事補償法の一部を
改正する
法律案について、その趣旨を御説明いたします。
刑事補償法による補償金の算定の基準となる金額は、
昭和四十八年の
改正によって、無罪の判決またはこれに準ずる
裁判を受けた者が未決の抑留もしくは拘禁または自由刑の執行等による身体の拘束を受けていた場合については、拘束一日につき六百円以上二千二百円以下とされ、また、死刑の執行を受けた場合については五百万円とされて一いるのでありますが、最近における経済事情にかんがみ、これを引き上げることが相当と認められますので、この
法律案は、右の「六百円以上二千二百円以下」を「八百円以上三千二百円以下」に、「五百万円」を「千万円」に引き上げ、いわゆる冤罪者に対する補償の改善を図ろうとするものであります。
以上が
刑事補償法の一部を
改正する
法律案の趣旨であります。
何とぞ、慎重御
審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。