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戸叶武君 後で
質問しますから。
いま私はスト権の問題で論争には入るまいと思います。しかし、私も
新聞記者出身ですが、
新聞の社説を見ればわかりますように、
三木さんに期待したのは、むずかしい問題だが、やはりストに入らないで問題を解決するだけのゆとりは労働組合も持っていたと思うんです。労働組合のリーダーは強硬論に走るのはやむを得ません。
三木さんだけじゃなく野党のリーダーも見識をもって、ストに入らないでスト権を獲得し、スト権を獲得してもストを乱発しないで済むような対処の仕方をなすのが本当のステーツマンシップであるということを、私は社会党の中でも堂々と、除名されてもやはりこの問題は言うという形で努力しますと、私だけではない、多くの人が
考えています。しかしながら、私はあなたが六先進国
会議の一番理解者として西欧諸国に互して行きながら、ストライキ権を与えない
日本のこの惨めさを
考えてみたならば、民主的基盤を築かないところに民主主義の実りがあるというふうに錯覚するのは思い上がったエリート的な
考え方です。そこが私は、
三木さんというとかあっとくるんです。それは
三木さんが
一つのりっぱな三十六年の年輪を持っている。しかし、庶民の苦悩の中に入って庶民とともに悩めばああいう思い上がった
考え方はできない。敵もない、味方もないという無念無想の気持ちを持たないで一国の総理大臣を務めている、裁判官のような冷たさが
三木さんの怜悧さにつきまとっているところに私はいやな面がある。
たとえば、この前の国会においても、拡散防止条約の批准の問題で、私は真っ向から批准すべしという見解で、個人的見解ですが、外交防衛の会でも、外務部会でも、党内では、それでなければわれわれの外交はできない。
政府に中立平和の外交をやれと言うのにも迫力がなくなるじゃないかと言っても、中央執行
委員会の
決定というので、また無理押しすると、たびたび除名されてもみっともないからよしましたが、力の限り努力したら、やっと、頑冥不霊とむなしさを感ずるような党の体質の中でも、やっぱりアメリカを見てきたり、方々を見てくると、ちゃんと中央執行
委員会で今度は批准の方に傾いたというふうにくるじゃありませんか。
三木さんほどの執念の人、執拗さを持っている人がなぜもっと粘って、あれだけの、ストライキをやれば国民の反感を買う、そうすれば労働組合の連中の出鼻がくじける、こっちの選挙にはこれが有利だと、中曽根戦法は、巌流島におけるところの佐々木小次郎の強剣です。ああいうような武蔵に敗れたあの力の政治、巌流島の佐々木小次郎のようなやり方で政治をやるならば、そこには私は必ず不幸な激発が累積してくると思うんです。無用な対立が助長されてくるんです。対話というのは、対話をできるような雰囲気をつくったときでなければ対話はできないじゃないですか。
イギリスの、いやこれはぼくは
三木さんだけに説教されちゃかなわないから、ああいうストライキの問題を出さなけりゃ食らいつかなかったんだけれ
ども、本当に
三木さんにむなしさを感じる。
三木さんは、やはり国際的な水準からしていろいろな問題があるが、拡散防止条約の批准はやむを得ないだろうという、知性としては持っているんです。持っていながら自民党の青嵐会といったかな、何か、タカかトンビか知らぬが、そういうものにかみつかれちゃ大変だ、党内がおさまらぬ。そうなると、やっぱりこれは大事の前の小事だから、堪忍袋の緒を締めてって、何か神崎與五郎が馬方丑五郎にいじめられるような形で腰くだけになっちまう。だけど、勝ち負けもありますよ。それも現実政治だけど、やはり
三木さんが特異な政治家なんだ、
日本で。私は口で言うだけでなく、中道政治というのは右に揺れ左に揺れ、激浪に揺すぶられながら貫いていく精神というものがなけりゃだめなんじゃないか。
あのフランスにおけるドゴールは、政治家としてはあなたから見ればずっとマイナスです。しかしながら、ミスターフランスと言われるような、あの
日本のいまよりもひどいように小党分立で、政治責任を持つ者がなく、政治家の中に祖国のためにリーダーシップをとり得るやつがない。泥をかぶるやつがない。死ぬのがいやなやつばっかりだというときに、死を覚悟して祖国の紊乱を何とか取りとめようというところに、ドゴールに、やはり私はルネ・キャピタンなりあるいはその他の知性人が集まって、フランスの議会主義の危機を救ったんだと思います。私は自分の恩師のハロルド・ラスキの「デモクラシーの危機」の名著よりも、あのルネ・キャピタンのフランスの現状を見つめての「議会政治の危機」の名著の方がはるかに打たれるのです。苦悩が深かったから。あなたが議会民主政治の危機を説きながらも、危機の中にどれだけあなたが傷つきながら後退だけしているだけであって、貫くものをそこにしない。しかも、それをスト権の問題を引用してやるなんていうのはもってのほかです。
日本の今後におけるプロレタリア全体を敵としていけば、保守党はいわゆる一般
中小企業なり一般サラリーマンというものの票もこっちに来るというような、そういう駆け引きと打算からすれば成功かもしれないが、そんないやしい気持ちで政治をやられているならば、あなたは
日本のファシストよりもこわいです。
三木内閣というおかしげな中間政治家が出て、哲学のない、歴史に対する見通しを持たない、前向きだと言いながらしり丸出しの政治家が存在したといういやな記録が後に残ると思うのです。
三木さんのために私は惜しいと思うのです。
そういう
意味において、私が押しつけるわけにいかない。しかし、私は
中国に行っても、本当に人民大会堂で、
日本の安保条約を結ぶ前に、
日本を敵視してアメリカと
日本が軍事条約を結ぶという想定のもとに中ソ
友好同盟条約の軍事条項を受け入れているじゃないか。これを廃棄するというのを明文化さなければ、
日中共同声明に私は調印しない。団長だから、ほかの人が言うことを聞かない場合でも、龍を描けばその目玉が調印しない以上は魂が入っていないじゃないかといって、私は野党の、一在野の政治家にすぎない。しかし、それをすらも
中国で調印してくれた。一国の政権を握っていながらも
中国の苦悩がどんなに深いものであるかはその一事を見てもわかるのであって、
中国の立場に、あるいはベトナムの立場に置かれないで、長い間植民地主義的な残虐の体験の中からにじみ出た民族運動と
日本の今日の民主主義を語るそれとは違うのです。
そういう点において、
日本は
日本の立場を守るべきです。守るべきだけれど、満腔のやはり同情をもって
中国の言うこと、立場にも理解を示せば、
中国が言外の
意味がわからないはずはないです。文章だけでなく言外の
意味、「地下三千尺の水の心たれか知る」、これがわかるのは東洋の哲学じゃないですか。物を言うだけ、かっこうがいいところだけじゃなくて、憂いを共にするならばその琴線に触れないということはないのです。どうぞ
三木さんは、いわゆる
外務省の秀才がそろっているけれ
ども、形式外交に堕さないで本当に魂の外交をやってもらいたい。
それと同時に、やはりソ連といえ
ども敵視する必要はない。フォードがあれほどのあれでも、あなたと同じく議会政治家としての年輪に物を言わせて結構やっているじゃないですか。私はアメリカと
日本とどっちが進んだ外交をやれるかの競争をやってみれば、アメリカだってだんだん
三木さんの
影響でよい方へ傾いてくるかもしれない。そうすると、
三木さんはなかなか見切りがつけられない、やっぱり相当なものだというように私は出てくるんじゃないかと思うんだが、この半年、いまからだからことしじゅうにというのは無理だけど、この半年、一年が――あと二十五年たてば二十一世紀です。一九九九年になった後、ノートルダムの予言だと世界は滅びるということですが、私は楽観主義者だから二千年たてば天国か到来すると思っているんです。どうぞ
三木さん、われわれを地獄へ落とさない方に傾いて、ハトだかとかタカだとか言いませんが、苦悩はわかりますけれ
ども、どうぞ労働者を全部敵とするような
考え方は中曽根さんあたりにまかせて、あなたはその方から足を洗って、もう少し話のわかる政治家になってもらいたい。それが
日本を救う。対立激化の方向へ踏ん張っていくというならそれもいいでしょう。これはやむを得ない、やっぱり狂乱怒濤の中なんだから、そのときはあなたのような小舟はどこかに吹っ飛んでしまって、みじんも影形もなくなってしまいますよ。後に残るのは志だけです。そういう
意味において、どうも
三木さんに説教されちゃったもので、ずっとがまんしてきたんだけれど、やはり私ば、宮澤さんもいい人だし、感覚はあるし、そしてランブイエの
会議だって、あなたの感覚というものはやはりフランスの大統領に負けないだけの感覚、わき役を務めたけれ
ども、先を読んで、やはりいろいろの点において南北の調整、少なくとも
アジアにおけるところの
中国で言う第三世界、発展途上国の
人たちに先進国は責任を持たなきゃならない。大平さんとその辺はずいぶん違ったようですが、その意図はよくわかります。どうぞ、細い綱を渡るアクロバティックな軽わざ師にならないで、やはり
一つの太い線を
日本の外交の中に私はつくってもらいたい。あなたのデリカシーはわかるけれ
ども、デリカシーだけでは物は決まらないんじゃないかと思いますが、そういう点で私は平沢君なんかも尊敬しています。しかし、その平沢君だってしょせん外交評論家で、大衆とともに苦悩しないから、国民的
合意が得られないようなものをひょっと、何とかして、
中国だけでなく、ソ連も敵視しないでうまくやっていくのにはこの辺だという、あれだけの侍があれだけの、
三木さんの意を受けたわけじゃないが、
三木さんの意を受けたような誤解を受けるような焦り方をやりますが、ソ連や
中国と外交をやるときには息を長く吸って、粘り強くやって、その点じゃ
三木さんなかなか達人ですからいいですが、もう少しはかどれるようにしてもらいたいと思うんですが、そういう点、まあ二、三点私最後にあなたから決意と御意見を承りたい。