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1975-12-05 第76回国会 衆議院 建設委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年十二月五日(金曜日)    午前十時十三分開議  出席委員    委員長 天野 光晴君    理事 内海 英男君 理事 梶山 静六君    理事 唐沢俊二郎君 理事 服部 安司君    理事 村田敬次郎君 理事 井上 普方君    理事 福岡 義登君 理事 浦井  洋君       小沢 一郎君    三枝 三郎君       塩谷 一夫君    中尾  宏君       野中 英二君    渡辺 栄一君       佐野 憲治君    清水 徳松君       中村  茂君    柴田 睦夫君       瀬崎 博義君    新井 彬之君       北側 義一君    渡辺 武三君  出席政府委員         建設政務次官  中村 弘海君         建設省住宅局長 山岡 一男君         建設省住宅局参         事官      救仁郷 斉君  委員外出席者         参  考  人         (東京首都整         備局建築指導部         長)      田辺 義三君         参 考  人         (MANU都市         建築研究所長) 高野 公男君         参 考  人         (東京大学名誉         教授)     星野 昌一君         参  考  人         (弁 護 士) 五十嵐敬喜君         参  考  人         (経済評論家) 飯田久一郎君         参  考  人         (横浜国立大学         工学部教授)  入澤  恒君         参  考  人         (横浜市技監) 田村  明君         参  考  人         (日本自然村協         会専務理事)  中村 富雄君         建設委員会調査         室長      曾田  忠君     ————————————— 本日の会議に付した案件  建築基準法の一部を改正する法律案内閣提出、  第七十二回国会閣法第七五号)      ————◇—————
  2. 天野光晴

    天野委員長 これより会議を開きます。  内閣提出建築基準法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、建築基準法の一部を改正する法律案防災問題及び日照問題審査のため、参考人に御出席お願いしております。  防災問題に関する参考人として、東京首都整備局建築指導部長田辺義三君、MANU都市建築研究所長高野公男君及び東京大学名誉教授星野昌一君、以上三名の方々に御出席を願っております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ本委員会に御出席くださいましてまことにありがとうございます。  ただいま本委員会におきましては、建築基準法の一部を改正する法律案を審査いたしておりますが、本案の防災問題について参考人方々の忌憚のない御意見を伺いたいと存じます。  なお、御意見開陳はお一人十五分間程度にお願いすることとし、後刻委員から質疑の際十分お答えくださるようお願い申し上げます。  なお、御意見開陳は、田辺参考人高野参考人及び星野参考人の順序でお願いいたします。  まず田辺参考人お願いいたします。
  3. 田辺義三

    田辺参考人 本日は、建築基準法改正案の御審議に際しまして、国会の当委員会参考人として意見を述べる機会を与えられましたことは、私ども建築行政の第一線の担当者といたしまして本当に光栄に存じているものでございます。  建築物安全性あるいは防災を促進し、利用者等の安全と人命確保を図ることは、これは建築行政の課せられた最も重要な課題でもございます。このため国におきましては、数次にわたりまして建築基準法等防災関係規定整備強化が行われまして、新しく建築されます建築物安全性の向上が逐次図られてまいりました。  しかし、既存建築物には原則としてこのような新たな改正規定が適用されませんので、特に不特定多数の者の利用いたします既存百貨店病院地下街等特殊建築物防災性が改善されないまま使用されており、数年前の大阪千日前デパートあるいは熊本大洋デパート等の悲惨な事故を招いていることはまことに残念に存じているものでございます。  特殊建築物のうち一定規模以上の危険性の高いものに対しまして、防火避難規定遡及適用を義務づけますことにつきましては、いろいろな立場からの御意見もあるやに伺っておりますけれども、これは人命尊重立場から必要なことと考えておるものでございます。  現在、東京都内には、建築基準法改正案防火避難規定遡及適用を受けると想定されております特殊建築物の数は約三百二十件と推定いたしております。これらの建築物の安全の確保を図らなければならないと考えております。  建築物防災対策につきまして、従来、都におきましても、建設省の御指導のもとで、建築防災指導週間を機に百貨店等防災査察等を行い、階段回りの区画あるいは防火関係設備関係等の不備な点を指摘いたしまして、その改善方を勧告してまいりました。  また、昭和四十九年度からは、建設省の御援助をいただき、特殊建築物防災改修促進事業を実施いたしております。特殊建築物台帳整備及び建築基準法改正案に基づきます遡及適用対象建築物と想定されますものにつきましての防災診断を行い、改善方建築主に要請をしてまいっております。  しかし、現行の規定に適合させることが法律的に義務づけられていないこと、それで自主的に改善することを要請するにとどまらざるを得ないわけでございます。  また、改修には建築物躯体構造部に改造を加えることが技術的にも困難な面もございます。また、これには多額の費用を必要とするなどのため、実効を上げるに至っていないのが実情でございます。  さらに、遡及適用を受ける特殊建築物規模及び防火避難関係規定政令等にゆだねられております関係で、現段階では研修すべき内容について的確な指示を私どもがいたしかねておるというような困難な状況にもあるわけでございます。したがいまして、現在御審議中の改正法案の実現が切に待たれるところでございます。  なお今回の改正は、遡及適用という画期的な改正でもございますので、建築主等にも相当の負担を課することにもなりますから、この制度の実施に当たりましては、私どもといたしましては、防災遡及適用対象建築物及び適用規定条項につきましては適切な代替措置を考慮していただきたい。昨日お伺いしますところ、建設省ではこのような処置を御考慮中であると伺っておりますので、ぜひそのような方向で考慮していただきたいと考えておるものでございます。  また、改修のための費用等につきましては、いろいろと融資制度あるいは補助等配慮されていると聞いておりますが、なお一層の助成措置並びに税制上の措置を講ぜられるようにお願いを申し上げます。  また、すでに改正されました消防法によります消防設備遡及適用がすでに施行を見ておる状況でもございますので、この基準法による改修措置消防法との関連が、重複して——失礼いたしました。このような改修工事が同時に行われるようにするためにも、できる限り早い御決定をお待ちしたいと考えております。  なお、この遡及適用建築物には、私ども地方公共団体建築物にも該当するものがございます。最近の財政事情等も御考慮いただきまして、地方公共団体にもこのような措置がとられるようにお願いを申し上げたいと存じます。  また、補助といたしまして、建設省におかれましては、改修事業設計あるいはテナントの営業補償等補助をいたす場合に、地方公共団体と折半というような制度がございますが、最近の状況もございますので、ぜひこれらについて国においてさらに御負担をしていただければと考えるわけでございます。  なお、実際の運営に当たります私ども事務当局といたしましては、執行体制整備あるいは財政的な措置等についても格段の御配慮お願いしたいと考えているわけでございます。  はなはだ恐縮でございますけれども、現在建築基準法改正案の中で、東京都としましては日照関係対策について強い関心を持っておりますので、せっかくお招きいただきましたこの機会をかりまして、お許しをいただいて、日照関係についての御意見を少し簡単に述べさせていただくようにお許しを願いたいと存じます。  東京都ではいままで日照紛争に対処する手法といたしまして、日照関係紛争調整体制整備でございますとか、建築計画事前公開制の採用、あるいは地域地区、さらには高度地区改正等を通じまして日照問題対策を実施しておる状況でございますし、また、二十三特別区及び多摩の各市では独自の指導要綱等を定めてその施策を行っておりますが、高度地区だけでは必ずしも日照保護という点で十分でない面もございますし、また、紛争調整及び指導要綱法的根拠が乏しいという点も生じておりますので、このような意味からも住宅地環境保全という点でも問題が残されているわけでございます。  一方、東京都では、この根本的な解決を図るために、四十七年の七月に太陽のシビルミニマムに関します専門委員会を発足させまして、知事からこの対策について諮問をいたしております。そして四十八年の六月に同委員会から、条例により適切な日照基準を設けるべきだとの御報告をいただいております。  また一方、四十八年の六月には、建築公害対策市民連合等方々を中心といたしまして、十七万名の署名を添えまして、日あたり等快適な住環境確保に関する条例ということを直接請求をいたしてまいっておるわけでございます。その条例内容は、建築物建築に当たっては住民同意に基づくべきであるということでございます。  この条例案に対しまして知事は、関係住民同意のみによることは、紛争解決基準がないことが原因となって紛争が深刻化するおそれがあること、解決の仕方によっては健全な住環境確保という目的が必ずしも図られないこと、さらに、環境悪化している地域に住んでいる住民のためにも都市の再開発を必要といたしますが、それらを妨げるおそれがあるという点を指摘いたしまして、紛争解決指標及び将来のよりよい町づくり指標ともなるべき日照基準を定めまして、これを地域住民の意向を尊重しながら設定していくべきであるという意見を付して都議会に提出いたしております。  以来、都議会におかれましては、日照条例等審査特別委員会を設置いたしまして、二年有余にわたり現在継続審査中ということでございます。このような委員会都議会の内部におかれましても、一つには、現在審議をいただいております建築基準法改正案の動向について深い関心を抱いているわけでございます。したがいまして、都といたしましても日照基準を骨子とした法律改正が行われますようにお願いを申し上げます。  はなはだ課題以外のことにわたりましてお話しを申し上げまして、まことに御無礼を申し上げました。
  4. 天野光晴

    天野委員長 次に、高野参考人お願いいたします。
  5. 高野公男

    高野参考人 ただいま御紹介いただきました高野でございます。私は建築設計都市計画立場から防災問題を研究している設計技師でございます。  まず最初に、私の建築防災に関する一般的な考え方を申し上げまして、その次に、この法案に対する私の意見、考えを述べさせていただきたいと思います。  千日デパート大洋デパートあるいは済生会病院あるいは先ごろ八王子で起こりましたマンションの爆発、こういった火災の例を見るまでもなく、現在の建物建築物安全性状況というものは必ずしも好ましい状態には置かれていないということは明らかなことではないかと思います。これは都市社会情勢の急激な変化によって生じた社会現象であると見ることもできるわけですが、こうした災害に弱い建物都市状況を、一日も早く安全で安心できるものにしていきたいと願っている技術者の一人であります。  都市建築を安全にしていく方法にはいろいろあると思います。その中で最も重要な役割りを果たしているのは、たとえば建築基準法のような一つ法律であります。もう一つは、そうした実際の建物をつくっている建築技術者の問題ではないかと思います。したがって、建築基準法あり方あるいはその技術者あり方といったものが、建物都市の安全を決めていくのに非常に重要な意味を持ってくるわけです。  そこで建築基準法というものが実際にどのような作用を及ぼしているのか。私、設計技師で、建築基準法というのは非常に私にとっては身近な法律でありますので、そういった経験を通して、この辺の実情といったものを述べたいと思います。  たてまえとしまして建築基準法最低基準ということになっておりますが、実際には最高基準となっているのが現状じゃないかと思います。日銀ですとか最高裁ですとかあるいはここの国会議事堂のような特別な建物は別にいたしましても、一般の建物といいますのは、ほとんど法規ぎりぎりといったところで設計されていると見てよいのではないかと思います。もう一つ、これは設計者のことですが、ビルの安全に関して真剣にその安全対策というものを考えている技術者というのは非常に少ないんではないか。これも私が実感するところでございます。  なぜこんなことになっているのかということでありますが、どうも私ども設計立場設計をやっていきますと、建物といいますのは、安全性というよりは経済性とか機能性とかそういったものが優先してつくられて、最後安全性というものがチェックされるようなのですが、そのときに、オーナー側に非常に十分な理解、安全に対する認識というものがあればこれはまた別なのですが、あらかたは安くて機能的なものをつくるように設計者に命じられるわけです。設計者オーナーから一応お金をもらって仕事をする立場ですので非常に立場としては弱い。これだけ金をかければこれだけ安全になるといったような提案をしてもなかなか認めてくれないわけです。最後に、こういうことは法律で決められていますからこういったことしかできませんとか、こういったことはできませんといったようなことを法律で決められているというような表現をすると、それでは仕方がないからということで、結局良心的な設計者にとってみれば建築基準法というものは安全を守る最後とりでになっているわけです。ところが、こうしたやりとりを数回繰り返しておりますと、設計者の側でもまじめに安全というものを考える習慣がなくなりまして、どうせいろいろ安全のことを考えても、最後基準法ぎりぎりのところでやらなければいけないのだ、そうなるのだったら初めからぎりぎりのところで勝負する以外にないというようなことで、結局、安全ということを本質的にあるいは総合的に考えないで、ただ基準法さえ守ればいいというような、そういう習慣ができてしまっているようであります。ですから、こうした技術者にとってみれば、最後とりでというよりは一種の隠れみの的な存在にもなっているのではないかと思います。もし日本の大半の建物がこのような技術者の感覚でつくられているとすれば、将来これは非常に悲しいことで、あるいは恐ろしいことと言えるのかもしれません。そういう技術者実情であれば、法律をさらに厳しくして規制をかけていく、そういった態度が一応考えられるわけですが、建物の安全というものは、基準整備したからあるいは法律をきちんと整備したからそれで安全ができるものだとは思いません。基準を厳しくしていくとかえって安全でなくなる。非常に逆説的な考え方ですが安全ではなくなる現象があるわけです。ということは、設計者が安全のことを考えなくなってくるわけです。  こうした事例としてひとつ実際に起こった火災の例で御紹介いたしますと、釧路オリエンタルホテル、これは数年前に北海道で起こったホテル火災ですが、この火災は一階のロビー付近から出火いたしまして、入るはずのない竪穴階段に煙が入ってしまい、十数人の死傷者を出した火災です。舞踊家三浦布美子さんが災難に遭った火災として御存じだと思いますが、この建物は私ども調査に参りましたが、東京一流事務所設計監理した建物で、建築基準法ですとか消防法ですとか、こういったものには完全に適合して、恐らく問題のなかった建物だと思うのですが、どうも原因というのはまだ調査中ではっきりしませんが、私どもそういう建物構造とかそういうものを検討しますと、どうも基準法には適合していても全体の安全ということからすると少し配慮が足りなかったのではないかというようなことが推察されるわけですが、これはこの設計事務所設計態度が悪かったということでなくて、私もその立場に置かれて設計したとすればあるいは同じようなプランができ上がったのかもしれない。結局現在の設計者の置かれている環境というものが、どうも安全を考えにくくしているような状況があるのではないかと思うわけです。結局、基準法あるいは法規を守っていても、結果的には総合的には不安全な建物というかあるいはちぐはぐな建物といったようなものが出てきているような感じを受けます。  それから、これは技術者だけではなく、建築物の安全を指導する行政の方にも問題があるかと思います。本省の人たちは非常に優秀で研究熱心なんですが、私ども災害がありまして地方都市に行ったりして、いろいろ指導課の方ですとかあるいはほかの建築関係の方と話するのですが、確かに法規運用といった面では非常に詳しいのですが、実際に総合的に見てこの建物は安全であるかどうかというようなことに対しては余り考える習慣がないのではないかというような印象を持つわけです。ですから建築指導といっても、これは法規運用というようなことだけで、全体の安全というものに関して考えられていないのではないかとさえ思われるわけです。  こういったことですから、設計者もやはり建築行政に係る人も、技術者関係というのはどちらかというと安全を考えにくくしている。総合的に安全を考える基盤を何か失っているのではないか、こう思われるわけです。  もう一つ例を挙げますと、数年前、和歌山県の白浜温泉で、椿グランドホテルというホテル火災がありました。これは海風にあおられて崩壊寸前に至ったほどの火害を受けたビル火災なんですが、ビル火災としては最大級なものではなかったかと思います。こういう火災は非常に貴重な材料でありまして、学術的にもあるいは建築技術的にもまた行政的にも参考になる実例だったのですが、実はこの現場調査に行った技術者というのは非常に少なかった。現場に来られていろいろ観察したり調査された方というのは、損害保険協会の方ですとか、あるいは消防関係報道関係、こういったところだけで、建築技術者というのはほとんど来ていない。つまり研究ということに対して非常に不熱心なわけです。こういった事実を見ても、現在の技術者が安全に関していかに無関心になっているかということがうかがえるわけです。  ですから、基準法というものをさらに整備してそういったことのないようにするということになりそうですか、これではいつまでたってもイタチごっこで、法規の本が電話帳のようにだんだん分厚くなるばかりで、それを実際に運用し活用していくはずの建築技術者という者が安全を考える余地がだんだんなくなってくるのではないかという気もするわけです。  ですから、この辺のバランス法律とそれから技術者のそういった対応、こういったもののバランスで実際の建物安全性というものは形成されるのではないかと思いますが、現状ではこのバランスを欠いているといったような印象を受けるわけです。このようにして法規が万能になって、法律だけによって建物が出てくるようになりますと、建物はその活力を失って非常にインポテンツなものになってくる。それは安全ということだけではなく、機能の面でも非常にゆがんだものになってあらわれてくるのではないかと思うのです。これは建築の将来にとって非常にさびしいことで、悲しむべきことではないかと思います。  これが一般的な考え方ですが、改正案についての意見を若干述べさしていただきます。  このような改正案審議されておられるということは非常に結構で、百貨店ですとか病院ですとか、非常に災害に弱い建物がこれによって強化されるということは非常に結構なことだと思います。  この内容について私が非常に興味あります点は、代替構造の点であります。これは、古い建物を新しい基準法に沿ってつくりかえるということになりますと、いろいろできにくい面もある。それで代替構造を考えて、これで基準と同等以上のものを計画していこうという趣旨だと思いますが、これは設計者から見れば非常に創造行為であります。いままで基準基準でもって抑えられてきたものが、一応基準を外れて初めて建物を素直な形で安全という面から計画できる一種のチャンスが与えられるのではないかと思います。ですから、ある意味では、いままで建築家あるいは設計者が安全というものに対して遠ざかっていたものを、ここで引きつけると申しますか、そういう芽を、総合的に安全なものをつくっていこうとする芽を育てる場ではないかと思うわけです。こういう代替構造というものは、ある意味では実験的な試みではないかと思います。こういった実験を繰り返してよい実例をたくさんつくり、それを積み上げていくことによって実際の総合的な安全というものが考えられる設計技術者、そういった人たちが育っていくのではないかと思います。ですから、物だけではなく人を育てていく。法律をつくっても、仏つくって魂入れずということがありますが、幾ら文章で厳しくやっても、人を育てなければ実際の建物は安全になっていかない。そういった意味で、今度の基準法改正案の中にはそういった芽をはぐくむ要素があるのだと私は考えます。  非常に乱雑な話になってしまいましたけれども、私の意見を述べさしていただきました。
  6. 天野光晴

    天野委員長 次に、星野参考人お願いいたします。
  7. 星野昌一

    星野参考人 星野でございます。皆様方がこの建設委員会建物防災問題をお取り上げになったということは、このように真剣に御論議になることは、これは大変有意義な建設委員会になると思います。  いま他の参考人から述べられたように、建物安全性については、過去にできた建物は率直に申せば大変遺憾な点が多かったと思います。やはり災害は、法に適している適していない、あるいはその設計よしあし、あるいはその維持管理よしあし、こういうものを的確にあばき出すのでありまして、そしてふだんは気がつかない場所に欠陥がありますと、火災で発生した煙は浮力の力を持っておりますので、これはやはり火災の場合大体三分の一以下に空気比重が軽くなる、つまり三倍に膨張した空気は三分の一の比重ですから、あらゆる竪穴を目がけて煙ははいずり回るわけです。竪穴が全然なければ、天井面に沿って横に流動いたします。上がっていった煙は行き場がないから横に広がっていく。横に押されて広がっていく普通の速度は、火災初期には通常〇・五メートル以下である。しかし、一たび竪穴に入りますと急に水を得た魚のごとく速度が増すのでありまして、これは浮力上昇一つの原理でありますから、たとえば常温より七十度高い煙ですね、大体言えば九十度ぐらいの摂氏温度の煙が四メートルの竪穴に入り込むときにどのくらいのスピードになるかということを計算いたしますと、理論的には約秒速四メートルになります。実際には空気の粘性がありますのでいきなり四メートルになるわけではありませんけれども、二、三メートルから四メートルの流速になります。それが十六メートル、大体四階分の吹き抜けがございますと、そこに煙がもぐり込んだときにはその速度は理論的には九メートルになります。実際には七、八メートルぐらいに少しダウンするわけですが、そんなに早いものでございますから、三十メートルある建物でも、そのようなことで参りますと、やはり本当に速度を増したときには二秒か三秒で上がってしまうのです。あっという間に熱気流は上がるということになります。もっとも、上がりながらだんだん温度が冷えますから、その熱気流の速度はだんだんダウンしてくるので、実際はいまの理論計算のほとんど半分ぐらいと見ていただけばよろしいと思います。上に穴をあけられますと、これは煙突作用になりますので、上へ入っていった煙がどんどん抜けますと、これはいい穴ができたとそこへ目がけてみんな殺到するのでありまして、ちょうどアリが甘きにつくがごとく、煙が流動するとそこが少し空気が薄くなりますから、そこへ次から次へ煙を呼び込む作用が出るのでありまして、これを煙突効果と言っております。煙突は横長に引けば非常に燃えが悪くて、上に引けば非常に燃えがいい、こういう原理でございますので、火事を育てる要素は竪穴であるということを明言できると思います。  いままでは広い部屋が危ないと言われていたのはなぜかといいますと、それは天井面が可燃材でありますと、一たん火がつけば、そこによどんでいた可燃ガスが一気に燃え出すから、いわゆるフラッシュオーバーが非常に早く来るのでありまして、下で立ち上がった炎を受けて天井面が燃え出す時間というのは、可燃材料ですと約三分、準不燃材ぐらいになりますとそれが六、七分というふうに延びますので、その三分の違いは大したことはないとおっしゃいますけれども、三分というと人間は二百メートル先に行けるわけですから、もう階段に入っちゃっているわけです。そういうような意味で、この三分というのは非常に大事な差でございますので、内装の不燃化をしていただいたわけでありまして、すでにこのことは諸外国ではいち早く知っておりまして、大規模建築、高層建築になれている諸外国では、内装の不燃化なくして高層建築はできないということをまず考えたわけです。ですから、アメリカやカナダやヨーロッパの先進国——いまはもう先進国とは言えないでしょう。日本は皆さんの御努力でもうりっぱに世界一流の国になったのでありますので、そこででき上がります新しい高層ビル等はすべて内装が不燃化してありますから、三分たってフラッシュオーバーするなんということはありません。ですから、十分逃げる時間があるわけで、その点では大変変わっておりますが、残念ながら古い地下街等にはいまだに内装が不燃になっていない部分がありまして、やはりそれらをまず直していかなければ火事が育ってしょうがないということが第一に言えると思います。  それから竪穴がふさがっていない。これが諸外国と大変違うことでありまして、もう高層建築になれております諸外国では、竪穴のために数々の被害が起こりまして、あわてて中の階段はだめだから外に鉄ばしごをつけようということで、サンフランシスコあたりに行かれましてまず目につくのは、ビルの外側に大変醜い外ばしごがついております。シカゴあたりも大変ついております。ところが、何とその外ばしごが風紀上の問題及び犯罪上のいろいろの問題を引き起こしてしまったのであります。これはノーチェックで任意の階に容易に近づける、これが避難の原理ですから、どこからでもおりられるようになっているのだから、逆にどこからでも入れるということで、大変評判が悪くなりまして、それでアメリカで新しく出てきたのがいわゆる閉鎖階段つまり階段そのものは包んでしまうのだ、しかしその前にバルコニーがついている、あるいはその前に特別避難階段の前室という、給気と排煙を備えた——給気は実はアメリカではなかったのですけれども、給気がなければ排煙できないということはむしろわれわれが証明いたしまして、十数年前に大阪の電電公社で実験によってそれを確かめまして、日本の特別避難階段は自然にバランスして空気が入ってくる。引き抜けば、そのおかわりが来なければ火災室からどんどん煙を呼び込みますので、だから別な安全なルートから、火災に汚染されないルートから新鮮空気を引き揚げますと圧力が下がりますから煙が入ってくる。だからそれがバランスするように新鮮空気を入れる装置をいまつくっているわけでして、そういうのを備えた階段ならば、人間が逃げていても煙が入らない、こういうことになるのであります。  たとえばいま百貨店で千五百平米の売り場があるといたします。法律で決められた防火区画は一応千五百平米ですから、千五百平米の空間があるといたします。この間の中元のときに東京消防庁で調べていただきました実測データが最も最近で信頼できるものと思いますが、やはり百貨店の売り場はわりあいに混雑した時間をとらなければいけないので、すいたときにとったってこれは安全性にならないので、混雑したときに売り場と通路を両方平均しまして——通路のところはもっと密度が高いのですけれども、全部平均すると、そこには大体〇・七五という数字が出てきたのであります。これは私どもがいろいろ検討して決めた数字と全く合っているのでありまして、特売場等は密度が平均一平米に一人、それから一般を平均しますと〇・七五が比較的込んだ売り場の実態であります。もちろん中元売り出しあるいは特売の物すごいのをやったときは平米当たり二人とかいう数字も出ますけれども、余りそこまで考えてやりますと、これは過剰要求になるかと思いまして、私どもとしては通常考えられる、わりあい込んだ時期における百貨店売り場の安全性は平米当たり〇・七五でいいのではないかというふうに考える次第でございます。そうして階段とかそれからわりあいにすいている外側の廊下に面するようなところとか、それから店舗の中の事務所の部分とか、そういうのがございますので、そういうのを除きまして、実効面積を千二百平米として〇・七五を掛けますと約九百人の人がおられるわけですね。その方が何分間で逃げられるようにすれば安全かということは、一方煙が火災初期にどのくらい立ち上がるかということが基礎になるのでございまして、こういう実験は新宿の鉄道病院でやった実験とか、あるいは王子のキャンプの跡でやった実験とか、それからさらに組織的にやりましたのは、実際の衣料を並べまして、ハンガーでつりまして、その周りに段ボールの中に衣料を入れたようなものを収納した形で、実際の試験を東京消防庁で三回やっております。これは金杉橋の三菱銀行の実験とかあるいは千代田生命ビルの実験とか、それから富国生命ビルでごく最近にやっておりまして、それらの比較的に燃えた実験——ある実験では衣類が湿っていたせいもあるのか、空気の湿度が非常に高いときは燃えが悪いのでございまして、これは燃料の状況によって大変違うのでございますけれども、くしくも金杉実験と富国生命実験はほぼ数字が合っておりまして、大体三分間で四百立方メートルぐらいの煙が出ております。それで、そういうことからわれわれはいろいろ実験式を立てておるのですけれども、そういうことでやりますと、まず九百人の人が逃げるのは、いまの建築基準法をそのまま守ってやれば七十五秒で逃げられる計算になっております。しかし、物事は必ずしも計算どおりにいかないのが本当でありまして、うろうろしたり、あるいはちょっと商品を片づけてから行こうとか、いろいろございますので、まずその倍と見て、一分半は避難が継続すると見てよろしいかと思いますが、一分半の間に煙がどれだけ出てどれだけ階段に入り込むかという計算をいたしますと、さっきの上昇気流の理論でいきますと、火災原点に比較的近い階段がシャッターがあけっ放しであったとすると、たとえばいま千五百のところには幅九メートルの階段法律的には要請されております。しかし、デパートの実態は昔建ったのはその五五%ぐらいしか満たしておりません。半分としまして、九メートルの幅の階段があいているといたします。そこから漏れ込む流量を計算いたしてみますと、一分半の間に約一万立米という熱気流が上がる計算になってしまうのです。一万立米というのは、千五百の空間を天井から床まで汚染していく、上がったものは上から汚染していくと考えますと、二階層分が完全にだめになる。一階層にもし九百人いますとその倍、すなわち千八百人が煙に浸されるという計算になってしまうのです。ですから、やはりあけ放しがいかにこわいかということでありまして、どうしてもその前に煙どめが要るということになります。で、煙どめが安くできるかどうかということですけれども、初期の煙の温度はそんなに高くないのですから、これは網入りガラス、繊維入りガラスで十分であるということです。ガラスはひび割れするのは百三十度から百五十度で急上昇したときはひび割れしますけれども、繊維入りガラス、網入りガラスであればひび割れしても破れませんので、それで十分煙ストップの役割りをいたします。ですから階段の前にそういうふうなガラススクリーンをやっていただければ、これは視野としては見えます、そうして煙がとまる、こういうことになります。そういう防備をしないと、あけっ放し階段がいきなり売り場に直面するのは日常性は大変便利だけれども、先ほど高野参考人が言ったように、建築は日常性に主体を置いて設計するのは当然であるけれども、またそうなっておりますが、やはり不完全燃焼して初期の煙にはかなり毒ガスである一酸化炭素も入っておりますし、フラッシュオーバーをどこかで起こせば一〇%という一酸化炭素が出てくるのであります。一〇%というのは、人間が十分間安全に行動できるのはわずかに〇・一%ですから百倍の殺人力を持ったものです。そういうものが出てくるので、火災の初期にはそんな高濃度になりませんけれども、仮に一%としても、それが十倍に薄まってもなおかつ危険だということになるわけでして、そういう猛毒を含んだ火災生成物を初期に上層階に運びますと、たとえば一分半たってからある程度の天井温度が上がりまして——いまスプリンクラーは七十度でセットされておりますが、実際に試験してみますと、やはり水が入っておりますので冷えております。ですから空気温度が七十度になったら途端にはねるものではなくして、大体百三十度から百五十度にならなければはねません。ということは、やはり一分半とか二分たたなければ大きな部屋でははねない。小さな部屋で実験して真下で燃せばそれは確かに一分ではねます。しかし、百貨店現場では必ずしもそうはいかないのでありまして、熱気流は分散いたしますから、やはり一分半とかそのくらいははねないだろう。アラームが鳴るのはどのくらいかというのもいろいろ実験しておりますが、やはり一分から  一分半かかります。天井に取りつけた煙感知器が実際の警報を鳴らすのはそのくらいおくれる場合が多いのであります。そういうことで、これは建物の形態や広さやいろいろなものに関係いたしますし、初期の燃焼量によっても違いますけれども、総じて百貨店等の売り場ではそのくらいのデータでございますので、煙感知器があるからすぐに逃げられるんだというものでもなし、煙感知器で防災センターでキャッチしまして、そして火事かどうかを確認してから逃がすというと三分以上かかってしまいます。その間には十分危ないことが起こってしまうのでありますから、やはり常時から煙が入らない構造階段にしなければいけない、こういうことを申し上げているのであります。  やはり、確かにスプリンクラーは有効でありまして、九九%以上の効率を持っていることは先般のシャーマンの証言にもあったように、かなりそういうものであります。ただし、ある部分にスプリンクラーをつけて他の部分につけてなかったらどうなるかということです。いままでは一階はすぐ避難できるからスプリンクラーは要らないと言っていた。ところが皮肉にもそのスプリンクラーをつけてない低層階で火事を起こしまして、いままでの義務づけは、十一階以上の階のようにはしご車が近づけない高層階にはつけようという考えだったのですが、それは根本的に間違っている。つまり下で火事を出して育ってしまった煙はもう上でスプリンクラーがはねたって何の役にも立たない。これは千日デパートでも一部スプリンクラーがついておりましたし、それからまたこの間の高槻の場合は、これはちょっと異例ですけれども、全館に煙感知器もシャッターもみんなついていたのですけれども、故意にスプリンクラーのバルブどめしてありましたから一これでは絶対に消えないし、そのバルブ解除の手段がない、つまり煙の出る機械室のところに元バルブがあったのでは、そこまで進入することができないということであります。バルブどめが絶対やれないようにするということはまた今度は困るので、やはりだれも入れない機械室の中で、各階の安全なところから進入できるところにバルブを設けて、下でバルブどめすることは、よくよくのことでなければやってはいけないことだと思うのです。まあ故意に放火する場合には、いまの知能犯なら当然それをやるということになるので、やはり絶対にあるものだけで完璧に守るということはできない。災害はどこかに歯車が狂ったときに起こるのでありまして、すべてが予定どおりいっていれば災害は起こりません。ですからそういう意味で、ただ一段の守りで火災害をゼロ%にすることはできないということは明言できるのでありまして、スプリンクラーは最も有効で、今回消防法の遡及を皆様方のお力でお認めいただいたので、百貨店は一階まで、地下は全部やるということになった点は大変いいことです。  ですからこれはもろ手を挙げて賛成いたしますが、なおちょっと足りないのがいまの竪穴封鎖。特に階段におけるあるいはエスカレーターにおける壮大な竪穴をあけっ放しでは、何をやってもだめだと言ってもいいぐらいに大事な問題でありまして、スプリンクラーと竪穴封鎖は車の両輪のごときものであって、相助けて初めて有効である。竪穴があいていたらスプリンクラーが有効に作動しない。熱気流が真っ先に階段に入ったらどうしますか。階段にはスプリンクラーはつけてないのですよ。ですからそういうことになるのでありまして、それなら階段にスプリンクラーをつければいいじゃないか、これは間違いで、上からぽんぽんはねちまったらいまのスプリンクラーは三十個しか働く能力を持っていない配管になっていますから、これでは消せないということになるのであります。つまり他の階で十分育った煙はスプリンクラーをもってしてはどうしようもない。それから機械室はスプリンクラーが免除されているし、あるいは電気室はスプリンクラーをつければかえって二次災害が起こる。つまりショートして停電が起こるということも困るので、そういうところにはつけられない場所があるから、やはりそのカバーのためにはそういう区画と一般区画を区別することは当然でありますが、やはりいまの竪穴封鎖は、特に人間の避難する道から猛然と煙が上がってくることを放置することはできない、これはわれわれの見解でございますので、何とかしてそれをやっていただきたい。ほかの細かいことは多少どうでもいいと言っちゃ悪いのですけれども、さっき高野さんの言われたように代替措置でいろいろやれば結構だけれども階段には煙を入れないでください。これだけはお願いでございます。どうぞそういう意味で、くどくどは申しませんから、これから死んだ人には法律に不備があったからみんな国家で補償するのだと言うならいざ知らず、やはりそういうこともできませんので、何とかしてそれをやっていただきたい。アメリカでは階段を封鎖した後に事故が起こって初めて、この期に至ってやはりスプリンクラーをつけようかと言っているのですよ。それを見て、スプリンクラーがあればすべていいのだというのは間違いで、日本は階段をあけっ放しにしているのですから、だから、これはアメリカの言うことが正しい——それはアメリカでは正しいですよ。スプリンクラーをつければ万全だ。しかし、日本ではそうはいかないのだということを申し上げたいのです。外国は、まず最初に竪穴封鎖をしてそれからスプリンクラーをつけるという順序であったわけです。それはスプリンクラーの方が階段封鎖より高いからです。それで遠慮していたのです。だから食堂のような人口密度の高いところだけスプリンクラーをつけていた、あるいはガレージにはスプリンクラーをつけていたということで、一般の事務所にはつけていなかった。それを改めてつけようというのは、ワールドトレードセンターの事故によってそれを悟ったからであります。ですから、日本の方が高層ビルでは先行しているのでありまして、現在では下までつけようということになったのですから、これは大変進んだやり方でありますので、それと階段の封鎖はぜひ並行してやっていただきたい、これが私どもお願いでございます。  それでは、これをもちまして一応お話を終わります。
  8. 天野光晴

    天野委員長 以上で参考人の御意見開陳は終わりました。     —————————————
  9. 天野光晴

    天野委員長 これより質疑に入ります。  なお、質疑の際には、参考人を御指名の上お願いいたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。村田敬次郎君。
  10. 村田敬次郎

    ○村田委員 ただいま三人の参考人から貴重な意見を承りました。ごく限られた時間でございますから、三点ほど質問をさせていただきたいと思います。ひとつぜひ簡潔に要点をお答えいただきたいと思います。  まず一番初めに星野先生にお伺いをいたしたいと思います。先生は諸外国の建築防災についても大変豊富な御知識等をお持ちであると伺っておりますが、建築物の防火避難施設等に対しまして、わが国と欧米諸国と基本的な相違がありますか。もしあるとすればどのようなところでしょう。ただいまのお話の中にも、たとえば内装の不燃化であるとか閉鎖階段の問題であるとかいろいろ御指摘があったわけでございますが、包括的に、日本の制度と諸外国の建築防災制度の基本的な差があれば伺いたいと思います。
  11. 星野昌一

    星野参考人 それではお答え申し上げます。  諸外国もいろいろございますが、アメリカ、カナダは大体同じでございまして、徹底した内装の不燃化を先行し、要所にはスプリンクラーをつけるということを励行しております。たとえば、食堂ならば一階にあってもスプリンクラーをつける。ガレージにはもちろんどこにもスプリンクラーをつける。それから、こういうふうな豪華な部屋で一部に可燃材を使っておったとするとその前に並べるというふうに、かなり徹底した、ここは大事だというところにつけておりまして、そのかわり高層ビル、百十階のワールドトレードセンターあるいは例のシャーマン氏が指導したと言われます百三十五階の百貨店のシアーズタワー、これは実際は百貨店じゃありませんで事務所でございますが、そういうところでも一般的にはつけていなかったのですね。それでワールドトレードセンターの火事で、十一階で火事が出まして十六階まで燃したものですから、あわててやはり高層ビルにはスプリンクラーが要るのじゃないかということで、現在アメリカを沸かしている最中でございます。そこでこの間のシアーズのタワーを防災指導したシャーマン氏の発言になった、こういうふうに思います。  ですから、スプリンクラーをつければいいのだというのは、アメリカのビルは先ほど言ったように階段のドアは全部パニックドア、これはファイアー・アンダーライタースの承認した型式のドア以外はつけさせないというほど厳しいものでございまして、日本のようなよく締まらないシャッターを頼りにしているところなどはございません。そう言うと申しわけないので、今度はちゃんと締まるようにしていただくわけですが、そういうことでございまして、避難のときだけあいているドアが望ましいのでございます。しかし日本ではそうもいかないので、やむを得ずシャッターを容認した場合でもやはりわきに開き戸は必要であり、かつたれ壁は必要である。すなわちゼロ距離で守っているわけですね。上まであいているということは、その近所で煙ったらすぐ入るということですから、それだけは防ぐようにしておいて、フェアウエーとかそういう広々としたところはシャッターもやむを得ない、それを防煙型シャッターにしていただこう、こういうことでございまして、その辺の基本姿勢が大変違います。  それから、アメリカのデパートと日本のデパートは根本的に違いまして、向こうのは人がぱらぱらでこれでよく営業が成り立つなというような百貨店ですが、日本は皆さまの御努力で大変商業的には発展しまして、歩くのにも苦労するほどの大変過密な百貨店が多いわけでございますので、これは危険度が全然違います。もっともアメリカの古い百貨店は、はっきり言って必ずしもエスカレーター等が封鎖されてないのがございます。それからヨーロッパにもございます。ですから、ヨーロッパの例のイノバシオンという百貨店では、食堂にたくさん集まって入り口が一つしかなくて、それでいまのような問題で竪穴があったものですから、三百人を一ぺんに殺しておりますね。それで大問題になっておりますので、向こうでもあわてて順次改善していこう、こういうふうなことでございますが、日本はいまや皆さんの御努力で防災的には世界一のレベルにトップはいったのです。しかし下の方はそうなっていないのでございます。それは本当に残念でございますから、下をちょっと持ち上げていただきたいというのが私の方のお願いでございますが、その程度でよろしゅうございましょうか。
  12. 村田敬次郎

    ○村田委員 ただいまのお話の中でも盛んにスプリンクラー問題が出ていたのですね。せんだって私ども建設委員会でスプリンクラーの見学をいたしたわけです。スプリンクラー設備はきわめて有効であって、スプリンクラー設備の遡及適用によって建築防災は万全であるというような意見すらも聞いておるわけでございまして、また星野先生の御意見でもスプリンクラーは大変有効であるというお話を聞いたわけでございますが、スプリンクラー設備を整備し、かつ防火避難設備をも整備しなければならないという考え方について、これは星野先生の御意見は先ほど承りましたので、田辺参考人高野参考人の御意見を承りたいと思います。
  13. 田辺義三

    田辺参考人 スプリンクラーを設置してなおかつ防火設備あるいは排煙設備、竪穴区画、こういうものが必要な理由ということでございますが、建築基準法におきましては、主として防火、避難関係を対象に受け持っておりますし、消防関係につきましては、消火あるいは人命救助、こういうような基本的な体系があると思うわけでございます。ただいま星野先生からも御説明ございましたように、やはり初期の煙の防除ということにつきましてはこれは竪穴区画、こういうことをしておきませんと急速に煙が他の階等にも充満していく。そういうことでいろいろな大事故が発生しているわけでございますので、私としましては、これはやはり両輪相まって完全なものになるものではないかと考えております。
  14. 高野公男

    高野参考人 先ほどお話にありましたように、先日アメリカのシアーズタワーの防災計画をされたシャーマン博士というのが来られまして、私は羽田に迎えに行きまして何回か懇談したのですけれども、そのときにスプリンクラーの話をいろいろ議論したわけです。彼はスプリンクラー主義者で、スプリンクラーさえあれば大抵のビル防災はできると自負している一人でございますが、日本の建築の場合とアメリカの場合とでは大分実情が違うのではないか。日本の場合ではスプリンクラーだけでは防災を達成できない建物があるのではないか。彼はいろいろ日本の建物を見て、後でそういった感想を述べたわけです。九九%というような表現がありますが、彼が九九%と言いましたのはニュージーランドの統計でありまして、日本の建築事情とどう違うか私はわかりませんが、どの程度参考にしていいのか判断つきかねると思います。  それからデパートは、私ども防災的に検討しておりますと、非常に人が大ぜい入っていたり、可燃物がたくさんあったり、空間的にもかなり過密の状態でございまして、スプリンクラーだけで万全を期すという考え方は非常に危険なんじゃないか、やはり空間にゆとりを持った避難施設というものが併用されて初めて安全になっていくのではないかと考えております。
  15. 村田敬次郎

    ○村田委員 スプリンクラーの問題につきましては、先生方いずれもこれはスプリンクラーだけで万能ではないので、防火避難設備等も整備をして、そして万全の備えをすべきであるというお考えのようですね。これは星野先生もそういう結論でございますね。
  16. 星野昌一

    星野参考人 はい、そうでございます。
  17. 村田敬次郎

    ○村田委員 それでは今度はもう少し具体的な問題に入ってまいりますが、昨年当委員会で大阪地下街の調査をしたわけです。そのときに、シャッターの作動状況についてもあわせて調査をしたわけです。そういたしましたら、そのときの感じでは、煙の感知機と連動して自動的に閉鎖をする防火シャッターというものがございますね。あの防火シャッターはかえって避難の障害になるのではないかという御心配もあり、先生方の間でもそういう意見があったと記憶をしておるのでございますが、専門家である三人の先生の御意見をこれは答えだけで結構でございますから簡単に聞かせてください。
  18. 田辺義三

    田辺参考人 普通の防火性能を有しますシャッター等については、一般的にはくぐり戸等がつけられることになろうかと思っておりますので、もしそういうような状況でございますと、それは危険であろうと私は考えております。
  19. 高野公男

    高野参考人 過去の例でも、シャッターが閉まらなかったりしていろいろ問題になった例がありますけれども、それは一つはそういったシャッターの位置ですとか設計上の配慮、そういったものが足りなかったことも一つ原因になっているのではないかと思います。したがいまして、私が最初に述べましたように、設計者がそのシャッターをうまい位置にうまく工夫して設置すればかなり安全な物ができるのではないかと思います。
  20. 星野昌一

    星野参考人 シャッターは非常に広い階段につけられるものでございます。これは白木屋の火事でこりまして階段幅を広くしたからシャッターが出てきたのですが、実はそれは多少の問題を含んでおります。つまり、広過ぎるからシャッターにする、シャッターにするから閉まらないことが起こるということでございまして、日常ふだん訓練して、いつでも毎日毎日閉めるぐらいにしないと、さびついたりいろいろな事故が起こります。  煙感知器で早く閉め過ぎるといけないというのは確かにそのとおりでありまして、ある火災階で全部の階段のシャッターを一遍におろしたらこれは大変なことになります。たとえば十メートルの階段幅ということは、十二人の人を避難さすべき備えでございますが、それをおろしてただ一つしかくぐり戸がなかったら一人しか逃げられない。避難時間が十二倍になるということですから、これは危険きわまりないことです。ですから、シャッターが閉まっても通れるような道を避難上必要な幅の最小限は残しておかなければいけない、ただし大ぜいがばっと通るときは開いていなければいけない、しかし大部分の山が過ぎたら今度はくぐり戸で処理する、というのがいまの構えです。ですから、余り早くシャッターを下までおろし過ぎますとおっしゃるようなことが起こりますので、私どもとしては、どちらかと言えば開き戸をもっとはっきりと義務づけをして、広さも九メートルなら四メートル五十とか、せいぜい譲っても半分ですね、十二人逃がすなら六人ぐらいは開き戸で逃げられるようにしてほしいのですが、そういうような点がもしできないとしても、せめて四分の一は通すぐらいの幅を持った開き戸がなければ私は危険だと思うのです。  もう一つは、おろすスピードをうまくコントロールできればですが、余り精妙な物はえてして間違えるものですから、最後まで閉まらなかったらアブハチ取らずで、もうちょっと垂れ壁と併用とかほかの方法を考えていただきまして、適時に必要なものだけおろすというふうにしていただかないとだめだと思います。  高野参考人が言ったのは、たとえばある階の中でこっちのゾーンからこっちへ逃げ出すときにはシャッターを途中までおろしておいて、その下をかいくぐって向こうへ行って、階段のところは本当はドアにしてほしいというのが真意でございますが、一気にそこまで意識が向上しないならやむを得ませんから、シャッター、ドア併用にしていただきたい、こういうふうに思います。
  21. 村田敬次郎

    ○村田委員 ただいまの三参考人の御意見で、シャッターの作動状況それからスプリンクラーの設備等についての御意見を承りました。先ほど星野先生が御指摘になったのですが、いざ火災災害というときにスプリンクラーのバルブどめがしてあったために動かなかったというようなケースもございまして、要はスプリンクラー、シャッターその他いろいろ平素の防災についての知識また観念の普及というものが非常に重要であって、関係者は常時そのために備えておかなければならないということを痛感するわけであります。  それから、先ほど高野参考人の御意見の中でありまして、大変私同感をしたわけでございますが、人の養成ということを御指摘になりました。確かに人の養成、すべて防災は人でありますから、人の養成ということが重要であるのは言うまでもないことでありますが、この建築基準法の一部を改正する法律案について、特に人の養成というのはどういう点で必要であるかとか、そういうようなことでお感じになっておられる点がございましたら、意見を述べていただきたいと思います。
  22. 高野公男

    高野参考人 たとえば代替構造のところでございますが、これは基準法どおりにつくれば何も工夫することはなく、ただ基準に沿ってやればいいわけですから、非常に設計としては簡単な操作だと思います。ところが基準法と同等以上のものを創作しろというようなことになりますと、そこで実際に火災が起こった場合ですとかあるいは人が避難する場合ですとかあるいは消防隊がその建物に取りつく場合とか、いろいろな場合を想定して、いろいろなことを考えながら新しい対処の方法を決めていかなければならない。これは非常にむずかしい作業かもしれませんけれども、ある意味では非常に創造的な作業だと思います。法案で決められた場合にこういった作業を一体だれがどのようにしてやるのか、あるいはそういった構造が安全であるということをどなたがオーソライズするか、これは今後の課題だと思いますけれども、いまの建築技術者の実力からしますと十分な力はあるのではないかと思います。  人を養成するということでありますが、そういう一つの事例を丹念にやりまして、いろいろ議論を重ねていくうちにそういった人が育っていくのではないか、こう考えております。
  23. 村田敬次郎

    ○村田委員 それでは最後にもう一問だけ三参考人から御意見を聞きたいと思います。  今回の建築基準法改正案では、特に人命の安全を確保するということに重点が置かれておるわけでありますが、各種の災害調査に当たられた場合に、先生方の御経験からすれば、建築基準法防災関係規定のうちで遡及適用すべき最も重要な規定は何であるとお考えでありますか。この法律を遡及すべき規定がございますために、非常に多額の経費がかかる、したがって現在まで営業をしておる営業体に対して相当な被害を与えはしないかということが一つの懸念でもあるわけであります。したがってそういうことについて私どもは万全の措置を同時に講じなければならないという考え方を持っており、私はその点は昨年の当委員会におきましても大臣に直接質問をして意見を聞いたわけでありますが、遡及適用すべき最も重要な規定は何であるとお考えですか。それについての御意見を三参考人からそれぞれ最後に承りたいと思います。
  24. 田辺義三

    田辺参考人 先ほどからもお話がございましたように、最も重要なことは、やはり手抜きによる災害を防止するということかと存じます。したがいまして、竪穴区画、いわゆるエレベーターなり階段なり、そういうものの防災関係の性能を強化する。  それから二番目といたしましては、いわゆる地下街等の内装制限あるいは防火区画というような関係がございます。  それからさらには、いざという場合の避難の場合には停電等の事故が起こりがちでございますので、その場合にやはり一定の明るさといいますか、そういうもののための非常用の電源の確保が必要だと存じます。  その次には、これは人命救助になるわけでございますけれども、外壁に一定の非常用の進入口と申しますか、そういうものは少なくとも必要ではないか、こういうふうに考えております。
  25. 高野公男

    高野参考人 私は、規定よりは、いろいろな防災改修に伴う費用負担に対する補助ですとかバックアップが重要になるのではないかと思います。私も実はある小さな百貨店のコンサルタントみたいなことをやっておりまして、その立場になって考えますと、防災改修をやるということは多大な費用が要るわけで、それによって営業が一時中断したりすることによる損失ですとかあるいは防災改修費そのものによって経営が困難にならないように、税制面でもあるいは融資面でも手厚い保護を加えていただけるようにお願いしたいと思います。  それから病院についてでございますが、やはり病院も必ずしも十分な予算を持っているわけではありません。私は昨年自治体病院についてアンケートをとったことがあるわけですが、そのときでも、非常に防災のことに熱心な病院がありまして、改修したいんだけれども予算がないんだということで、何か危なさというものを感じながらそのまま放置せざるを得ないというような状況があるわけです。ですから、防災改修をやる施設に対しては補助を手厚くやっていただきたいと思います。
  26. 星野昌一

    星野参考人 お答え申し上げます。  一番重要なのは何かという御質問ですから、それについてお答えします。ただし、これは百貨店の場合と病院の場合と地下街とは違いますので、それはよろしゅうございますか。  百貨店の場合は、やはり不特定多数で可燃物が多いので、逃げるのに安全な階段の防煙、それからスプリンクラーがついても、エスカレーター等の竪穴があるとそこから膨大な煙が上がりますから竪穴封鎖ということでございまして、階段を含んだ竪穴封鎖を第一にやっていただきたい、こういうふうに思います。もちろん代替措置としては、外側にバルコニーを設けたり外階段を設けるという方法はございますから、これはちょっとフレキシブルに扱っていただいて結構です。  それから次は地下街でございますが、地下街は一層だけだからというので、階段はいままで全部吹き抜けにしております。つまり階段を使って煙を抜こうという考えだったのですが、それはちょっと間違いでございまして、やはり階段が煙道になると困るので階段は吹き抜けでもいいけれども、別途排煙がその階段の手前でできなければだめだ。  それからもう一つこれと絡むことですが、地下道に煙を出さないためには、店舗と地下道の間は防煙的に区画しなければならない、そこには避難路も最小限必要である、こういうことかと思います。  それからこれはスプリンクラーがついていることはもちろん必要でございます。  それから次は、先ほどの病院とかホテルでございますが、ホテルでもいろいろありまして、宴会場などで現在ちょっと調べてみますと、大ぜい集まるのに、階段の幅の狭いのがたった一つしかついていない使いにくい設計がございます。こういうのは非常に危険でありまして、六分から七分かかるという計算が出ております。ですから、それではちょっと助からぬのじゃないかということでございますので、それらは必要な別の回り道を考える、病院等ではバルコニー等で代替措置をとっていただくことが望ましいというふうに考えます。
  27. 村田敬次郎

    ○村田委員 終わります。
  28. 服部安司

    ○服部委員 関連で。大変貴重な御意見を拝聴し、またわが党の村田君からも大変適切な質問があり、お答えをちょうだいしたのでありますが、もちろんこの種の災害という問題は最悪の事態をおもんぱかっていろいろな措置を講ずることが理想であるということは、私も十二分に理解できるわけであります。しかしながら、先ほど最後に質問があったとおりに、遡及適用となりますと大変な経費の負担で事業体が困るという問題もありまして、なかなか理想どおりの解決を見出すことにわれわれも大変苦労をいたしておるのでありますが、ただ完全無欠というものはこの世の中には存在しない。われわれの立場からいたしますと、端的に申し上げると、燃えるより燃えない方がいい。しかし最悪の場合は、ビルが燃えようがデパートの仮に商品が燃えようが、そんなことは関係ない。要はそこにいる人命を完全に守る措置をわれわれはまず第一に考えねばならない。なおビルも物も燃えないことが、国の財産ですから理想でありますけれども、最悪の場合、われわれは何物よりかそこにいる人間を災害から守らなければならないということを真剣に考えてきたわけであります。  そこで、村田君は非常に当を得た、まことに立て板に水を流すごとくに質問するし、答えていただく方も非常に都合よくいったので、われわれもなるほどと感心しておるわけであります。しかしこういう災害は、まず最小限と申しましょうか、早くこれを消すことが大事である。いまのお話を聞いていますと、大火災を想定されて、いわゆる煙の被害というものをとらえて、わっとこうなることをまず想定に置かれたお答えのように、また御意見のように私は聞いたわけでありまするが、先ほどお話しになったとおり、先般も消防庁の御配慮でスプリンクラーのヘッドの実験を見る機会を与えられました。特に星野先生は、バルブとかああいう操作のミスのない限りはいわゆるスプリンクラーの効果は九九%認める、しかしこれだけでは完全とは言えないから、やはりこれ以上は施設の併用が望ましいという御意見があったわけでありますが、私はこの実験を拝見いたしまして仰せのとおりだと思います。しかしながら、実験というのは見方によって非常に大きな誤解が生ずると思うのです。あの場合は十四、五平米の場所にスプリンクラーを四つつけて、中に感知器をつけて実験されました。そのやり方はデパートに例をとって、最も条件の悪いところ、寝具の売り場、いわゆる化学製品が積み上げてあるところ、そういう物にかわる物質を置かれている。今度はたいまつで火をつける。じわっと、うわっと煙が出ます。これは常識です。それで四十九秒でスプリンクラーが作動しました。見ている間に消えました。これはそこで見ているわれわれが、これは大変だ、こんなものは火事よりか煙害の方が大変だ、こういう意見が出たわけであります。私はその担当官に、これはたとえば過去の、デパートなどをおっしゃったから、デパート火災の事例によるいわゆる試験かと言ったら、そうじゃないと言う。これはヘッドの稼働が確実であるかどうかというテストであって、われわれの見たのは、専門家じゃございませんから、ヘッドよりかむしろ煙害に恐れおののいたわけですが、実際そういう場合にはそういうことがあり得るかどうかを考えたら確かに疑問です、きょうのテストはいわゆるヘッドの稼働、作動がどの程度の効果あるものかというテストでありました、こう言うわけですね。煙害の恐しさということは、特にごく最近の大洋デパート、それからわれわれの近くであった関西のいわゆる千日デパート、これは私はいろいろとそういった資料もお話も聞きましたが、大洋デパートのごときは、肝心の避難する道路に最も燃えやすい化学繊維が人間が通れない状態に積み上げてあったわけです。また千日前のデパートもそれに等しいような状態であったと聞いているわけです。これは非常にむずかしい問題で、それでは所轄消防署はどういった消防監督をやって、どういう指導をやったか、どういう監査をやったかという問題も起きてくるわけです。しかし私は、そういった最悪の事態を想定して防災対策を講ずることは、法の改正をやることは、最も理想であると思うのでありまするが、先ほど申し上げましたように、なかなかやはりさかのぼってやれとなってくるとまた大変な問題であります。  そこで私はこれに関連して、ひとつどなたでも結構です、できれば星野先生に私は非常に関心があったのでお答え願いたいわけでありますが、こういう災害は初期に手当てをすることがまず必要であるのか、また大切であるのか、それから大変効果が上がるのかどうかということです。これについては、建築基準法という法律のいわゆる改正による立場の御意見であり、またそれについてわれわれも質問するべき筋合いでありますが、しかし消防法という点を別個に切り離すことも困難ではなかろうか、そういうことはできないんじゃなかろうか。先ほど申し上げたとおりに、スプリンクラーのヘッドのテストだ、こう言っている。しかしその火災を起こす状態が、ちょっと知識がある者ならこういう火災はちょっとあり得ないんじゃないか、皆無と言っていいんじゃないかというようなヘッドの試験のためのいわゆる行動を起こすやり方がこれは疑問があると思うのです。建築基準法という問題をいま審議をいたしておりまするから、もちろんそれを中心に考える立場であるかもしれないが、しかしわれわれ政治家は、また国民代表は、いろんな意見を聞いて最も的確でしかも双方が納得のいく答えを出し、それに基づいて法律をつくることが理想ではなかろうか。じゃこちらで一挙に何千億という金を強いられる、これではとても経営も困難であり、大変なこれからの経済状態からいっても耐えられない。これは大変なわれわれに対する反対、陳情もあるわけです。しかしわれわれはこういう問題は一応意見として聞くが、法律改正において、劈頭に申し上げたとおり人命尊重、何としても一人でもそういう被害を出してはならないということを考えたときには、少々金がかかっても、いま高野参考人の御意見があったとおりに、国ができるだけの手当てをし、またできれば補助制度を起こすなりいろいろと考えねばならないというわけでありますけれども、ただ、先ほど申し上げたとおりに、初期に、最も早い時期に消せる体制というものがあれば、やはりここで考えねばならない問題ではなかろうかと思うのでありますが、この建築基準法消防法に定められた問題と切り離して考える場合はちょっとぼくはいろいろ問題が残るのじゃなかろうか。建築そのものを考えるのとやはりそれに付随するいろいろな施設、たとえばいまお話のあったスプリンクラーもその一環でありましょう、避難誘導システムも一つのあれでありましょう。またいま村田君から御指摘のあった煙の感知器で今度は勝手に作動してシャッターがおりて、各先生方の御指摘のいわゆる煙突の働きをする階段の閉鎖、封鎖、またエスカレーターの封鎖とか、いろいろと問題が技術的に出てこようと思うのでありますが、これは私の考え方では火災というものを想定しての御意見ではなかろうか。やはりその火災の以前に消防法に基づいていろいろな手当てをやっていることをここで切っての意見では、ちょっとわれわれも十二分に理解することが困難である。分離した建築基準法だけの話であれば納得のいく話でありますが、やはりそれまでにはかなりなあれをやっているわけでありますから、これもこの際少しの改造でできる問題であるならばわれわれはそこまで真剣に考えないわけでありますが、やはりいま高野先生がおっしゃったとおりに、膨大な金がかかるということであれば、そういうものもわれわれの立場で十二分に検討してやらなければならない、このように思うわけでありますが、ちょっとその点について、余り時間をとると怒られますから、星野先生ひとつ……。
  29. 星野昌一

    星野参考人 ただいまの最後の御質問、大変有意義な御質問でございまして、私も実は東京消防庁の人命安全部会長をしておりますので消防の立場もよく存じておりますが、消防と建設は車の両輪のごとくお互いに相助け、相互補完をしていかなければいけないものでございまして、初期消火には、特に百貨店のように可燃物をかなり持っておる、人数の多いところはスプリンクラーは絶対必要である、これは全く同感でございます。それで、初期消火でなるべく抑える、つまり感知器が鳴って見に行ったのではもう間に合わないから、スプリンクラーで自動的に無人のところでもやれるものをつける、これは当然でございますね。しかし、電線火災が最近多うございまして、たとえばニューヨークのエンパイアステートの火事もそうなんですけれども、そういうところで起こった火事はスプリンクラーでは消えないのです、そういうところに水をかけたら大変なことになりますので、そういうところから起こった火事もございますし、それから、いまのように階段のそばで火事が起こりますと、そっちへ熱気流が入ってしまうから肝心のヘッドのところへ熱がいかないということも起こるのでございまして、そういう点でやはり補完措置としては階段だけふさぐというのは非常に簡単なことだと私どもは思うのです。それは当然やっていなければならないことをやってないだけの話ですから、やはり初期の煙を対象としての煙防止対策はやってくださいというお願いなんでございますが、いかがでございましょうか。だから、エスカレーター周り、階段、こういうところのすぐに煙が突入するようなものは放置できない、それによって火事が育ってしまうのだ、スプリンクラーもだめになってしまうのだというケースも起こるものですから、そういう意味お願いしているわけでございます。  膨大な経費が要るというのは、あれもこれもすべてやったときの話でして、それを最小限に抑える工夫は技術的にいろいろあると思うのです。その辺を十分ひざ突き合わせて御相談して、これだけはやってください。それはやはり百貨店の特有な事情によりまして、多少工法を変えることもあり得るけれども、避難階段には避難中は煙を入れない。これは避難のためにとびらをあけなければ避難できないのですからあくわけですよ。あいたとき煙が一緒に入ってはだめだ、それにはどういう対策が必要かを真剣に論議する必要があるのじゃないかと思いますので、これが無手当てでいいとは私は言い切れないと思います。スプリンクラーだけあれば階段はあけっ放しでいい、エスカレーターの壮大な穴をあけていい、壮大なデパートの吹き抜け階層をあけていい、こういうことは言えないと思います。吹き抜けがいかに危ないかはこの間の八王子でちゃんと実験してくれました。あれは煙が外階段、外を上がっていったのが、向かい側の壁で、そこでさえぎられて、ちょうど吹き抜けと同じ状態になって最上階の人を殺しております。これは明らかに吹き抜けの恐ろしさをやっぱり物語っているのでありまして、吹き抜けがあると壮大に火事が育つし、吹き抜けの上でスプリンクラーがはねたって、八メートル以上のところの天井じゃ、スプリンクラーが作動したときにはもう手おくれということははっきり消防も言ってますので、そういう点でいろいろ対策は、竪穴はふさいでくださいと申し上げているんです。
  30. 服部安司

    ○服部委員 ちょっともう一度だけ。ぼくは非常に重要な問題だと思うのですが、お説は至極ごもっともで私にも十分理論的には納得できます。それはもうやればやるほどいいことはわかっておる。先生方は研究されてその成果を御指摘いただいたんだからありがたいわけですが、もう一点だけぼくは聞きたいのは、建築基準法による煙害対策の説明ですが、これは火災だから煙害はあることはわかります。壁頭にいろいろと熱量のお説も聞いて、なるほどその恐ろしさも十分理解できまするが、私はここでもう一度申し上げたいことは、この建築基準法の前段階に消防法というのがあるんではありませんでしょうか。これは、まあこう言っちゃまことに悪いですが、いまの参考人の御意見をずっと聞いていますと、私が思うに、全く切り離しての考えではなかったんではないかという問題なんです。たとえばいろいろとわれわれも資料をとって説明を聞くわけですが、私設消防隊をつくっているとか絶えず所轄消防署と緊密な連携をとって個所の点検を始めているとか、こういう場合にはこういう手を打つとか、いろいろなことを今日まで国の指導でやってきているわけでございますね。私はそういうものも、いま星野先生から非常にいいことを言ってくれたことは、やはりこれで私は完全とは言わない、しかしやることが理想であって、やりなさいという御意見、しかし、これも十二分に話し合っていろいろな意見の交換を持ってやるべきであるという最後の御意見は、私は非常に共鳴したわけなんです。だから、この消防、いわゆる建築基準法のいまわれわれ審議いたしております法案内容以前に、いろいろな防火体制というものがあるわけなんですね。この建築火災のことを想定したときのいわゆる災害防止が建築にかかってくるわけですが、それ以前にやっぱり消防法規定されたいろいろな施設ができているわけでございますね。たとえば人力によるいろいろな行動をする私設消防隊とか、また煙感知器とか、またいろいろなものがあると聞いておりまするが、こういうものは、そんなことは関係ないんだ、建築基準法でこれさえやればいいんだという考え方であるのかどうか。  もう一つは、私は非常に心配するのは村田君もちょっと触れましたが、あの煙感知器で感知して、そしてこれが作動指令を出してシャッターがすっとおりてきて、いまおっしゃった煙突になるいわゆる階段とか、ああいうものを遮蔽する。まああのときには正直言ってパニック状態ですね。逃げたい一心で、皆うわっと階段周辺に集まるのは人間のそういうときの心理だと思うのです。勝手にどんどんどんどんおりてくるし、向こうは進まないしこっちは出ていくし、押してバックしないし、中に入った人間がぶつぶつつぶされるという危険もぼくはあり得ると思うのですね。こういういわゆる、いま先ほど先生はできればそれは必要に応じてやることが一番理想だがと、緻密な物には非常に危険があるという、ちょっぴりとお触れになりましたが、そういう問題は心配ないということでしょうか。ちょっとそれだけ。消防法に引きずられて、いろいろな施設を考えないでやってもいいというのか、その二点だけちょっと。
  31. 星野昌一

    星野参考人 大変入念に御質問くださいまして、第一の消防法の方はもちろん消防法でやっていますが、幾ら消防隊が整備していても初期火災には間に合わないということをはっきり申し上げます。これは現場に一分半とか三分の間に到達することはできません。公設消防隊は五分ぐらいかかる場合が普通でございます。その間に十分火事が育ったら大変だというのでスプリンクラーをつけているのですから、消防隊がやれないことをスプリンクラーがやっているわけで、これは消防法がやっているわけですから、それは大変結構だと申し上げているのです。だけれども、スプリンクラーをつけても消せない火事がありますよということを申し上げたはずです。(服部委員「私設消防」と呼ぶ)私設消防は全然だめです。それはもう申しわけないけれども、火事だといって、警報が鳴ってから駆けつけたってもう間に合わない状態になっています。ですから、その人間が近づけない、煙のために近づけないのですから、幾ら消防隊があったってだめです、はっきり言えば。なくていいと言っているのじゃのないのですよ。あって結構だけれども、それで消えると思わない火事が多いということでして、シャフトの中で火事が起こったら、どこで起こったか全くわからない。この間の羽田の空港の火事だって同じことでして、どこから煙が出ているのかさっぱりわからない。煙はぼんぼん出ている。そういう火事が起こるわけですから、やはり竪穴だけはふさいで、ほかの階に行ってしまいますとどこから出たか全くわからないから、だから竪穴はふさいでくださいと申し上げているのです。その階で起こった火事は何とかして消せますよ。だけれども竪穴に入られたらどうしようもないということを申し上げたつもりですけれども。それで、電気シャフトなどにはスプリンクラーはつけられないのですから、だからそういう場所があるから、そこからやはり煙が出たらどうするかという話も起こりましてね。だから、大火災になったときだけを申し上げたのではなくて、初期火災においてもやはり竪穴は危険だということをちょっと言い足りなかったのかもしれませんけれども、そういう意味でございます。  それからもう一つは、いまの問題ですね、第二点の御指摘の問題でございますが、もちろんそういうことでいろいろ対策を講じていきました場合に、やはり補完措置が必要だという意味で、そこは消防法はもちろん大変結構だけれども、補完設備は必要だと申し上げたつもりなんですけれどもね。第一点はですね。それでよろしゅうございましょうか。
  32. 服部安司

    ○服部委員 第二点のシャッターの作動……。
  33. 星野昌一

    星野参考人 その方はさっきちょっと触れたのですけれども、シャッターで全部閉めては危険だと申し上げているわけです。
  34. 服部安司

    ○服部委員 はっきりと物をおっしゃる先生ですからその点もひとつ。ちょっとその辺が村田君の答弁にはぼやけていたので、そうあるべきではないかという点を……。
  35. 星野昌一

    星野参考人 ですから、それは火災の直前のシャッターは閉めてもらっていいですよ、火災の起こった直前のシャッターは。しかし余り遠いところまで一遍に閉めたら危険でございますので、やはりそれでさっきちょっと触れたのは、シャッターには必ずそのそばにドアを併設してくださいと申し上げたのはそれなんです。シャッターが閉まってもドアから逃げられれば問題ないのです。いま申しわけ的に小さなドアを見えないところにつけていますが、あれはちょっと……。
  36. 服部安司

    ○服部委員 パニック状態で、ちょっとドアのところから入れますか。
  37. 星野昌一

    星野参考人 いやいや、それだからそのときは水平避難と言いまして、他のところにずっと行くわけです。区画はどうせ五百平米なり千五百平米できているわけですから、だからもう一つ安全な方に逃げていって、そこの安全な階階を使って逃げてくださいという訓練が必要になります。もう一つは、たれ壁でしばらく防止していて、その間は閉めないでおいて、それからおりるような装置ができるわけで、それはやはり感知器のつけ方や感知器の性能をアジャストすればできますので、一斉にシャッターをおろすことは危険であるということは御指摘のとおりだと思います。しかし、エスカレーターは逃げる機関じゃないものですから、これは閉めていただいていいと思います。そういうふうに区分けしてやっていただければ安全だと思いますので、これはもう技術対策を今後十分いたしていただきたい。
  38. 服部安司

    ○服部委員 どうもありがとうございました。
  39. 天野光晴

    天野委員長 福田義登君。
  40. 福岡義登

    ○福岡委員 もう村田さんと服部さんの御質問で要点は皆出ておるのですが、やはり一番心配しております点は竪穴封鎖論、星野先生の御意見、私どもごもっともだと思うのですが、パニック状態を一番心配しておるわけであります。で、とびらを少し広げるとか、別の階段を利用するように水平避難をしたらどうかというような点は一般論としてはわかるのですが、その対策を実は心配しておるといいますか、苦慮しておるわけでございます。  それともう一つは、やはりこの関係者の皆さんからいろいろお話を聞きますと、遡及適用に一番問題があるのではないか。それで、スプリンクラーを十分設備しておけばまあいいのじゃないかという意見が特に百貨店協会などから強いわけであります。われわれとしては、それだけではどうもいかぬという気はしておるのでありますが、全部の技術的なデータを持っておるわけではございませんし、そういう意味現場もよく知らないわけでございますから、実は正直に言いますと、判断するのに少し迷っておる点もあるわけであります。  そこで、重なるようでございますが、もう一遍星野先生に、スプリンクラーだけではだめなんだという点を整理してちょっとお聞かせいただきたいと思うわけであります。  それから、高野先生がいいと思うのでありますが、不燃建築はどの程度現在の技術水準から考えられるのかという点。  それから、いまから建築するものはそういう技術を駆使してやればいいわけなんですが、問題は既存建物に、別の角度から不燃建築に若干の改造あるいは相当の改造というようなものができればそれも一つ対策ではないかと思うのですが、それらの不燃建築についての技術レベルといいますか現状についてお聞かせいただければいいと思います。
  41. 星野昌一

    星野参考人 スプリンクラーで消えない火事があるから、そのときに困るから穴をふさいでくださいと申し上げているのですが、たとえば電気シャフト、それからダクトの中の火災、実は最近の火災はそれが非常にふえておりまして、電気絶縁物は完全に無機物ではできませんので、それでニューヨークのワールドトレードセンターの火事もそうでございまして、それは部屋の中の可燃物が燃えたのではなくて全く設備系統の火事でございます。これは全くスプリンクラーは役に立たないのでございまして、ですから、火事にはすべて役に立たないという意味ではございませんで、そういう火事も起こりますから、やはり竪穴には煙が入らぬようにしておかないとそういう問題が起きますよということを申し上げているわけでございます。  そういうような意味で、スプリンクラーがありましても、最後の補完としてそういう竪穴封鎖、特に人間の避難する、パニックを起こさないためにも煙の入らない階段があれば、そして入口が適正に保持されている階段があればパニックにはならないで済む、ふだんはこんなに広げておいて、いざというときにこうするからパニックが起こるのでして、あっちに逃げられると思って見えている階段を楽しみにしていると、突然真っ暗けになってしまうということがパニックの原因でございますので、パニックを起こさないためにもやはり明るいということが必要だから、さっきどなたか触れられたように、予備電源も必要であるし、それから非常照明も必要であるし、誘導灯も必要であるし、それから階段に対するとびらが欲しいと申し上げたつもりでございますけれども、いろいろこれは技術的に解決すべきものがありますから、在来シャッターでもパニックを起こさないような締め方もあるわけで、それらを今後技術的に練っていただいたらどうか、まあわれわれが練っていくべきだと思います。そういうような意味で御答申申し上げたらどうかというふうに思いますが、いかがでございましょうか。
  42. 高野公男

    高野参考人 不燃技術の水準ということなんですが、ちょっとむずかしいことなんで、多分古い建物防災改修するような場合にどの程度のことが可能かといったような趣旨じゃないかと思いますが、それでよろしゅうございますか——これから新しくつくろうとする施設ですといろいろなことができると思うのですが、古い建物というのは古いなりに、現在の基準法というものがない時点でつくられておりますから、それをいじるということになりますと、基準法に適合させることになりますと、かなりむずかしい建物も出てくるのではないかと思います。やはり建物そのものが、それぞれ個性とか立地環境も違いますし、隣目いっぱいに建っている百貨店もあるでしょうし、また比較的ゆとりのある敷地もございますでしょうし、あるいは隣のビルと連絡橋みたいなものを使えるようなビルもあると思います。  結局私の考えでは、結果的に安全なものができればいいのじゃないかというような考え方ですので、スプリンクラーとか必要最低のものはある程度具備しなければなりませんけれども、その改修に当たってはいろいろなやり方でケース・バイ・ケースで対応できるのではないか、こう考えております。それをやる建築技術というのは十分な水準にあるのではないかと思います。
  43. 福岡義登

    ○福岡委員 ありがとうございました。  もう一つ田辺参考人にお伺いしたいのですが、東京都は、法改正はいま審議中でございますが、防災関係につきまして指導要綱か何かつくっておられるように承っておるのですが、もし指導要綱がございましたら、その実施状況といいますか、参考までに聞かしていただければありがたいと思うのです。なければやむを得ません。
  44. 田辺義三

    田辺参考人 防災関係につきましての指導要綱というものは都ではつくってございません。しかし先ほどちょっと触れましたように、建設省からの御指導とかあるいは御援助をいただいております防災査察とかあるいは特殊建築物改修促進事業、こういうものについては国等からも御指導いただきまして、それに必要なチェックリストと申しますか、そういうもので査察指導を行っておるところでございます。
  45. 福岡義登

    ○福岡委員 終わります。
  46. 天野光晴

    天野委員長 浦井洋君。
  47. 浦井洋

    ○浦井委員 高野参考人にお伺いをしたいのですけれども、今度の法改正、特に防災避難施設の部分については、私たちの考え方からいけば、相当に限定され、費用とかいろいろな面で配慮して限定されたかっこうで取り上げられて、しかも緊急性のあるものからやれということで、私はこういう改正の要旨は適切ではないかと思うわけなんです。その点について、先ほどからずっと御発言やお答えの中で出ておりますけれども、もう一度改めてこういうことが必要だということについての御意見をお伺いしたいと思うのです。  それから、先ほども述べられたけれども遡及適用といいますか、これも妥当だと思うわけなんですが、この点についてももう一度はっきりとお答えしておいていただきたいと思うわけです。  また、この法案内容を読んでいただきますとわかりますように、猶予期間というようなものが三年なり五年なりついておるわけでありますから、これ以上の猶予期間などの延長などは適当ではないのではないかというふうに私自身は思うわけなんです。その点について高野参考人にお伺いをしたいというふうに思います。  それと、一番初めの御発言の中にございましたように、それを演繹いたしますと、大百貨店であるとかあるいは大スーパーというようなところは何のかのと言ってもそれをやれ、しかし地下街を初めとした中小テナントなどの場合にはそれなりの助成なり補助なりの配慮が必要だというふうに私も思うわけなんで、ダブりますけれども、もう一遍その辺についての明確な御発言をお願いをしておきたいと思うのです。  それから、これもダブりますが、スプリンクラー主義者と言われるシャーマン氏の発言について御反論されたわけなんですが、私も先生の御意見に賛成なんです。そこで、日本の特に過密地域、三大都市圏と、それから諸外国の実例に徴してこうなんだというような辺のもう少しはっきりとした御意見をお伺いしておきたいと思うわけです。
  48. 高野公男

    高野参考人 まず今度の改正案の必要性についてでございますが、実はぼくはこの法案というのはもうとっくに成立しているんではないかというような錯覚をしておりまして、今度のお話を承ったときには、多分去年か、まあ記憶ははっきりしませんが、大分前にこういう法案が提出されたということを聞きまして、もうすぐにでもできるか、こう思っていたわけですが、どうも何回か審議を重ねて継続審議になっておられるようで、私としましては、なるべく早い時期に成立さしていただきたい、こう思っております。  と申しますのは、やはり百貨店とか——病院はまた別だと思いますが、市民が利用する施設としては非常に大事な、重要な施設じゃないかと思います。特に、建築物にはたくさんありますけれども、その中で一番重点的に安全対策というものが必要なものの一つに、百貨店あるいはスーパーみたいな施設が挙げられるんじゃないかと思います。ですから、こういった施設に対しては、いつでも安心できるような安全体制と申しますか、そういったものが非常に必要なんじゃないかと思います。  それから緊急性についてでございますが、私は余り緊急性について、何年とか、こううたってありますけれども、やはりできるところからやっていって、そう無理して何年の間に全部やり切れなければいけないというようなことではないんじゃないかと思うのです。ある期間、猶予期間というものはあると思いますが、やはり経営のバランスですとか、あるいは実際にうまい案ができるような工夫に時間をかけて、できたなら一番いい安全なものができるようなやり方でやっていただきたいと思います。ですから、余り基準にとらわれて、その基準どおりやるというよりは、もう一回白紙に返って、百貨店の安全というものは一体どういうふうにすれば達成できるのだろうかという素直な気持ちで取りかかるのが本当ではないかとぼくは思います。  それから補助の点でありますが、これも先ほど述べましたことを繰り返して述べるようなことになると思いますが、実際に私は、防災のこともやっておりますが、実は中小企業振興というような立場で店舗の診断ですとか、あるいは商店街の診断ですとか、あるいは中小、小さなスーパーのいろいろ建築的な相談ですとか、そういったものをやっておりますので、ある程度こういったことで防災改修するということになると、百貨店の経営というものは一体どういうことになるのかということは、あらかたわかるような感じがするのであります。ですから、金がかかる、だから何か金のかからないようにしようというようなことではなくて、やはり最優先されるのは、そこに来るお客さんの安全、人命の尊重というものを第一優先にして、その経営の努力の中にこういった安全な施設ができ上がる努力をやっていただきたい、こう思うわけであります。  それからシャーマン氏のスプリンクラーの話でございますが、防災考え方、やり方というものは各国いろいろなやり方をとっておりまして、たとえばアメリカでも全国一様ではないわけです。各州によってその州の基準も違いますし、かなりばらばらといいますか、いろいろなやり方で防災というものは考えられているわけで、そういう状況を見ますと、日本のいわゆる防災水準というものは世界的にもかなり水準が高いんではないか、こう思うわけですが、ただ、それは単純に比較した場合でございまして、日本のこういった都市の過密の状況、たとえば週末の新宿ですとか池袋、ああいったところに行ってごらんになるとすぐおわかりになると思います。またデパートに入ってあの混雑の中に自分の身を置いてみればすぐわかると思うのですが、ああいった中で諸外国の施設と単純に比較できるものだろうかどうか。その点、やはり外国の例はどうかということよりは日本ではどうかということを考えて、日本の実情をよく認識して防災問題に取り組んでいただきたいと思っておるわけであります。  これでよろしゅうございますでしょうか。
  49. 浦井洋

    ○浦井委員 それでは次に、三人の参考人の方にちょっとお答え願いたいんですが、御承知のように、先ほどからも出ていますが、この間八王子で爆発事故がございました。これは建築基準法のらち外の問題も含んでおるわけでありますけれども、一体ああいうようなことを起こさないために、ああいう不幸な状態を起こさないようなために、法的にあるいは実態的にもどういうふうに心がけていったらよいのかという点についてお三人の方に順次お伺いしたいと思うのです。爆発とそれから耐震的な問題ですね、地震に対する対策、こういうようなことも含めてお答え願いたいと思います。
  50. 田辺義三

    田辺参考人 八王子におけるガス爆発事故におきまして死者が生じました。まことに残念でございます。この問題はやはり建築物構造を爆発事故に対してまで安全性を高めるかどうかというような経済との調和という問題が実はあるかと考えております。もちろん構造的には、経費を投ずればこれは爆発にもある程度対応できるかと思います。たまたまあそこのビル構造がHPC工法といいまして、パネル板の組み立て工法というようなことでございます。これは福岡の例、九州の例にございましても、鉄筋の場合でもやはり穴があいているというような実態もございます。こういうことを防ぐといたしますと、やはり第一義的にはガス漏れの防止といいますか、あるいはガス漏れが生じた場合にそれを感知する装置の取りつけというようなことも考えられるかと思います。それからさらには、火気と申しますか、いわゆる高層建築物に対してガスそのものの使用を認めるべきかどうか。これは私、そのときの新聞記事等で知ったわけでございますけれども、外国ではガスにかわって電気を使用させておるというようなことも聞いておるわけでございますので、そういうようなことも考えなければならないかと考えております。  さらには構造的な問題になりますと、やはり中廊下式でございますとかなり爆発力が強くなるというような問題もございますから、ある程度弱いような壁の面をつくるといったようなことも一つ考え方になるかと思うわけでございます。  地震とこういうような爆発とでは根本的に違いますし、それにやはりガス爆発の場合でも自殺のような極端な例がございますので、なかなか維持管理とかそういう面で万全を期するということは非常に困難な点がございますので、基本的には何か、ガスの使用の禁止とまでいっていいかどうかわかりませんけれども、転換を図る必要があるかと考えております。
  51. 高野公男

    高野参考人 ただいま田辺さんの御説明にもありましたように、高層建築で、高層住宅でガスを禁止するとかそういったようなことで、ガス漏れ、ガス爆発を防ぐといったことは、一つは大きなこれからの課題になるのかもしれません。しかし現在の生活様式ですとか実際に使われている、現在もうでき上がっている施設を見ますと、やはり建物が爆発した場合の対策というものを建築の方でも考えていかなければならないんではないかと思います。私はガス爆発につきましては、一昨年の日の里の公団住宅の爆発の現場を見ておりますし、それから昨年の泉佐野市の市営住宅ですが、これも爆発の現場を見ております。それからまた一昨年の石神井のマンション、草加でもやはり民間のマンションが爆発しております。こういった爆発の実態をずっと見ていきますと、やはり現在の建築構造といいますのは、在来工法とプレハブ工法があるわけですが、どうもプレハブ工法というのは爆発力に対して非常に弱い感じを受けるわけです。これは在来工法と同じ程度に耐爆性といいますか、耐爆というようなことはできないにしても、それほどの抵抗力のあるものにしていく努力は私は必要なのじゃないかと思います。  それからもう一つ。私自身、マンションと申しますか、やはり高層住宅に住んでおりますが、マンションの区画の問題というのは、単に爆発の防止とかそういったことだけではなくて、音の問題ですとかそういったいろいろ日常的な生活の問題があるわけです。壁一枚で隣の区画と隣の区画が区切られているわけで、その区画が非常にあやふやなものであるということは、実際に住んでいる住民立場からすれば非常に頼りない感じがするわけです。それと同時に、たとえば分譲マンションを買ったような場合には、マンションの壁、床と申しますのは、これは隣とその境界を区分する一つの仕切りなわけです。それが非常に薄い板で、一枚でできているということもこれは非常に心もとない感じを抱くわけで、高層住宅における壁ですとか床ですとか、こういった構造に関してはもう一遍再考する余地があるのではないか、こういう主張を持っているものであります。  それから耐震性につきましては、地震のときにはいろいろなことが想定されるわけですけれども建物がある程度部分的に破損したりすることはある程度やむを得ないと思いますが、やはり建物は部分的に壊れても人命さえ助かればいいというような避難構造なり、人間が安全になるような基本構造が必要なのではないか、こう考えております。
  52. 星野昌一

    星野参考人 最初にマンションの爆発事件を申し上げます。  これは私はたまたま日の里団地の爆発事件、それから今回の八王子、いずれも事故調査委員長を仰せつかっておりますので、つぶさに技術的にも調査いたしたわけですが、八王子の方は実はまだ進行中でございまして、委員長である私から決定的なことを申し上げるのはちょっと差し控えさせていただきたいので、八王子につきましてはあくまで私見として聞いていただきたいのでありますが、よろしゅうございましょうか。  日の里の場合に指摘したことは、やはり在来工法である鉄筋コンクリートでも、七十センチも床が盛り上がりまして、それから三、四十センチ、場所によっては五十センチも亀裂の大きな穴があきまして、その爆風と熱風によりまして、上層階の人はいたら完全に死んだであろうというふうなことになっております。それから直下階も同じように亀裂が起こりまして、爆風が侵入しておりますので、やはり危険であって、その爆発戸と上下二層は非常に危険状態になるということがすでにわかっておりますが、さりとて、その爆風圧は平米当たりおよそ四トンくらいと言われておりますが、それに耐える構造というのは非常にコストが上がります。通常ああいうものは住宅なら百八十キロに耐えればいいというわけですが、実際には五百キロぐらい耐えるものをやっていると思いますが、それに対して四トンというふうなことになりますと、実に八倍の力を持ったものをつくらなければいけないということになると、これは建築コストが八倍とは申しません、だけれども数倍上がるであろうというふうに思います。そういう点でやはり家賃が上がり、権利金が上がりますので、やはりちょっと問題であろうというふうに遠慮をすることになるということでございます。  そこで、やはり免爆構造としては、大きな開口を南北なら南北にあけることによって爆風を逃がすようないわゆる免爆構造的なものにしませんと、いたずらに壁を固めればそれだけ勢いが強くなって、これは厚い砲身に囲まれた砲弾の方が圧力が大きいのと同じことでございますので、やはり比較的弱いところをつくってそこへ安全に逃がさないと、まともに対抗することは非常に不利だというふうに思います。  それで先ほど御指摘のように、そういうことでやはり燃焼器具の改善、これが第一にくるわけでありまして、いわば電源ということで、なるべく電気に切りかえられるものは切りかえる。しかし、暖房は電気にかえると非常に金がかかるとおっしゃるなら、暖房はバランス式にすれば室内にガス漏れの心配もありませんし、排気は全部外へ出ますから衛生上もよろしいというふうな点がありますので、そういう燃焼器具の改善ということが第一に先行さるべきであり、もう一つは漏れたときにすぐ換気設備が働くような、そういうことで爆発濃度にならない、たとえばプロパンなら二・五%とか、それから都市ガスなら五%が爆発限界濃度であるといわれておりますので、そういうふうになるためには数時間かかっておりますから、かなりの排気をすれば、ガス漏れが起こったらすぐそういうファンが回るとかそういうふうな方法である程度セーブできるであろう。もちろん、アラームは鳴ることは必要であり、検知器の義務づけということは当然やるべきですけれども、いま検知器の制度等はいろいろ論議されておりますので、それの開発も必要でございますが、そういう他の面での安全対策を立てていただくことが大事だというふうに思っております。  それから先ほど、プレハブだから弱い。確かにそのとおりで、そのときにすでに指摘してありまして、プレハブ構造になったら下手をすれば全面倒壊の危険が起こるかもしれないから、そういうことは避けてほしいということはその委員会でも明言しているわけでございます。イギリスで隅角のガス爆発で翼端が全部下まで崩壊した事例がございますので、やはり耐力壁をふっ飛ばすということになると大変なので、むしろその意味では床は上下に抜けても——本当の耐力壁をぶっ飛ばしますと、これは全階、ばあっと落ちますから大変なことになります。そのような意味構造的に大事な部分は守ろう。しかし、八王子の場合にはH形綱が入っておりましてフレームは何ら障害がないわけで、その壁が一部ゆがんだりしておりますが、その防火区画そのものはわりあいにちゃんと建っております。床が抜けたということで、床が抜けたからその防火区面が隣の方はやや助かったのではないか。それは穴はあいておりますけれども、延焼を一方は起こしているが一方は起こしていないというようなかすかすなところにいっております。そういうふうな意味でやはり隣戸には被害を及ぼさないことは、やればできるということかと思いますが、床はどうもいまの段階ではある程度穴をあけざるを得ないような感じもいたします。つまり耐力壁をぶっ飛ばすと大変だから壁を守って床である程度圧力のセーブをすることも必要かという考えすら成り立つかと思いますが、しかし先ほど御指摘のように一生かかってためた金でつくった家が床がなくなるというのは大変なショックでございますので、破れても壊れても残っている床というふうな考えは成り立つかと思いますので、その辺はいろいろがんじがらめに、ある程度壊れてもその場に現存している床をつくれとおっしゃればそれはある程度できるのではないかというふうに思います。埋め込んだ鉄筋が引き抜かれております。それから溶接片は大体残っておりますが、その鉄筋の埋め込みの方が今回はやられておりますので、それは多少は改善できると思いますけれども、しかしどんな爆発にも絶対に亀裂を生じない壁、床にしろとおっしゃっても、お金を幾らでも出しトーチカのようなものをつくらなければ、これはちょっと無理かと思いますので、残念ながら先行するのはやはり燃料政策としての転換、つまり電気にできるところは電気にする、ガスのところはいまのバランス式にするとか、自動閉鎖式にするとか、連動排気装置をつけるとか、そういうようなことでカバーしていただければというふうに思っております。  それから耐震の方は、私は耐震の専門家ではございませんのでそちらに全般のことは譲るとして、若干残りますのは、いまの壁、柱とかはりとか建物全体の耐震性がいままで重点になっておりまして、カーテンウォールが落っこちるとかあるいは間仕切り壁がぶっ倒れるとか、あるいは家具が倒れて避難ができなくなるとか、天井が落下して人命にいろいろな障害が起こるとか、そういうことがちょっとチェックが足りない面もあろうと思いますので、そういうものに対する若干の手当てが要ろうかというふうに思います。しかし、構造そのものについては、私がいまここではちょっと申し上げられないと思います。  そういうことでお許しいただければと思います。
  53. 天野光晴

    天野委員長 北側義一君。
  54. 北側義一

    ○北側委員 初めに田辺参考人にお尋ねしたいのですが、田辺さんは東京都の首都整備局の建築指導部長、こういう立場できょうお見えになっておられますので、もし私の質問が答えにくいようでしたら答えられないでも結構ですから。  まず一点は、今回の建築基準法改正で、防災関係立場から、いままでの古い建物、こういうものが全部遡及適用されるわけですね。そこで、先ほどちょっと話を聞いておりますと、都の方でも改修を要する建物がある、このようなお話でしたが、問題は、先ほどから論議されておりますとおり、防災のそういう遡及適用を受けて、改修するための助成資金といいますか融資制度法律案で一応いろいろずっと出ておりますが、そのような助成措置で果たしてそれはできるのかどうか、これがまず第一点です。  第二点といたしまして、先ほどちょっと日照の問題を仰せになりましたので、その点もぜひとも聞かしていただきたいと思うのです。と申しますのは、現在都において日照問題にずいぶん苦労されておる、このように聞いております。いま審議中である、このようにもお聞きしておるわけですが、美渡部知事が日照についてのいわゆる住民同意、この問題について、都市再開発を進める上でこの住民同意はやはり望ましくないというようなお考えを持っておられるとも私は聞いておるわけです。その点、どういう点がどうなのかということですね。これを知事はたしか発表されたと思うのですが、そこらについて、まず第二点目にお伺いしたいと思うのです。  第三点目には、率直に申し上げて、現在の建築基準法のいわゆる日影規制基準、これはもう御存じのとおりであります。これはもちろんその地方の条例によりまして緩和も強化もできるようになっておりますが、これで果たして妥当と思われるかどうか。  この三点、まずお願いしたいと思うのです。
  55. 田辺義三

    田辺参考人 まず第一点は、遡及適用する場合の国のいろいろな融資制度でございますが、それが可能性があるかどうかという御質問かと思います。  これは今後遡及適用を行うべき、いわゆる防火避難規定内容と申しますか、それからさらに、建設省でこれからお考えになると思いますけれども、代替性の問題、そういうようなものとの絡みであると思いますので、今後、いま私どもが当初の法律案で、試算と申しますと語弊がございますけれども、概算いたしますと相当の金額になるものでございますが、その後の建設省当局の話を承りますと、かなり必要最小限度のものにしぼっていくというようなことも言われております。ただ、やはり大資本はともかくといたしまして、地下街等でも、たとえば浅草の地下街等では非常に零細な店舗もございます。そういうところで、営業中のものを中断して、資金等の返済とかいうようなことについて果たして融資のみで可能かどうかという点については、現在はっきりと申し上げかねるというところもあろうかと思います。  それから日照関係でございますが、住民同意によりますと再開発を阻害するおそれがあるというふうに、知事はいわゆる「日あたり等快適な住環境確保に関する条例」に対して意見を付したわけでございます。これは、この条例内容といたしますのが、付近住民の、たとえば建物の高さの二倍というふうな範囲の四分の三の方の同意をとれとか、あるいは全然日が当たらない人の同意をすべてとれとか、あるいはその建物によって圧迫感とか、風害とか、電波障害とか、いろいろ科学的にも解明できないような問題についても障害を受けると思われる人の同意もとりなさい、こういうふうなことも要求されているわけでございます。で、こういうことをもしも同意だけでいたしますと、都市再開発といいますとかなり広範囲に、土地も広くなっております。ですから、その対象権利者というものはかなりの数に上るかと考えるわけでございます。そういう意味から、若干そういう懸念があるということを申しておると考えております。  次に三点目の、日影規制基準について妥当と思うかという御質問でございますが、これは私の個人という立場で答えさせていただければと思うのでございます。これは都におきましても、先ほどもちょっと触れましたが、太陽のシビルミニマムに関する専門委員、これでもやはり日照に関する基準を設けて、そして日照の保護を図るべきである、こういうような報告もいただいておりますし、知事もまた、基準がなければ紛争等も非常に激化するし、先ほど御指摘もございました再開発等にも障害になるということでございます。で、国の方針としましては、日影に関する建物の排出規制と申しますか、そういう日影規制を採用しておるわけでございまして、その意味からすると全く都の立場と同様でございまして、ただ測定地点とかあるいは時間とか、いろいろ差異はあろうかと思いますけれども、一応国の方の改正案では、いわゆる基準点が、測定日が冬至であるとか、それから八時から十六時まで、さらに、万全とは私も申し上げかねますけれども、いわゆる複合日影の規制を取り入れておるということにつきましては、私個人としてはかなり評価できるものかと考えております。  また、規制基準そのものの数値ということになろうかと思いますが、これも各個所の実態調査と日照の実態調査を行って設定したものと聞いておりますし、条例等によってさらに一時間の強化あるいは緩和というふうに、いわゆる地方公共団体へのある程度の委任と申しますか、そういうことを考えておるので、かなりその住民の意向を取り入れる余地ができておる、このように考えております。
  56. 北側義一

    ○北側委員 ありがとうございます。  次に高野参考人にお伺いしたいのですが、現在のいろゆるビル建築について、先生より先ほどいろいろ参考意見をいただいたわけですが、その中で特に経済性、それからいわゆる機能性、これが第一義になっておる、そして安全性はどうしても第二義的になっておるように先ほど言っておられたわけですが、私は、建築学会あたりでも、鉄骨ビルあたりは強い地震があったとき九割が倒壊するのではないかという意見があることを、新聞でも報道されておるわけであります。そういう点で、たとえば法改正をするとしたらどのような点を法改正をしなければならないのか、そういう点でもし御意見が承れるようでしたらお話をいただきたいと思うのです。
  57. 高野公男

    高野参考人 非常にむずかしい問題だと思います。最近いろいろ、コンクリートの強度の問題ですとかあるいは耐震性能、耐震基準そのもののあり方の問題ですとか、耐震構造については学会なんかでもいろいろ御論議はされてきているわけですが、それとその法律との関係ということになりますと、私もかなり専門外になりますので十分なお答えはできないと思います。  ただ、経済性機能性というものは、やはり建築物というのはなるべく安くて良質なものをつくるということが技術屋としての腕でありますから、何がなんでも安全でさえあればいいということではなくて、そこには適正なバランスというものがあるのではないかとぼくは思います。ただ、経済とか機能ということだけに終始していくと、どうしても安全という要素が忘れられて、結局は法規だけ守っていればいいというようなぎりぎりのものしかでき上がってこない。こういった風潮をもう少し改めていく必要があるのではないかと考えている次第で、これは必ずしも法律の問題というよりは、技術者全体の考え方の転換なり反省すべき点ではないか、こう思っている次第でございます。
  58. 北側義一

    ○北側委員 やはり非常にむずかしいようですね。  そこで、これは私、高野参考人さんかまた星野参考人さんか、どちらにお聞きしていいかわからないのですが、たとえば、先般ちょっとこれも報道されておったのですが、千代田区役所の建築研究会で調べたところが、いわゆる鉄骨ビルの溶接、これは非常に不完全だというのですね。大体千代田区役所で調べてみたところが、四十三件の鉄骨ビルのうち四十二件、すなわち九八%が溶接不完全だったというのです。しかもそれが一つについて三十カ所あったというのです。これを見て私は驚いたわけですよ。こういう事実は、いわゆる専門家の皆さん方の方からどう見ておられるのか、ここらのお答えをいただけたら幸いなのですが……。
  59. 田辺義三

    田辺参考人 ただいま御質問いただきました、千代田区役所によりまして、いわゆる中小規模の鉄骨工事、これの溶接工事がきわめて危険な状態であったということは、私どもとしましても実は愕然としたということでございます。  そこで、これの原因についてちょっと私なりに申し上げてみますと、三、四階どまりの二百平米ないし三百平米程度の小規模のもの、したがって、いわゆる建築主等の資力の問題というようなこともあろうかと思いますが、やはりローコストということを追求なさるというのが一つ原因で、したがって、比較的手軽な鉄骨工事で三階か四階、こういうものをまず計画をなさるわけです。そういうことでございますので、これを担当いたします設計者のサイドでございますが、それにつきましても、まだ建築士としても十分溶接関係のはっきりした認識がなく、単に骨組みをつくっていく、したがって設計図書にも溶接の方法を明示してないというような問題もございます。そういうような図面で、今度はこれを工事をするといいますか、溶接をやります工場がございます。これは町工場で加工しまして現場まで持っていくというような形になりますが、そういうところで本当に溶接の作業に熟練していると申しますか、そういう方がわりあいに少なかった。つまり、簡単に申しますと、ベランダの手すりでございますとか門扉をただくっつけさえすればよいというような感覚でそういうふうなことが行われた。まあこういうようなこととか、基本的には工事を管理いたしますには当然建築士という資格のある方がやるわけでございまして、法律的にはその方の責任でもってこれらが検査されているはずでございますが、そういうような方の認識が若干足らない。私ども行政サイドとしましても、まあはっきり申し上げまして、溶接工事そのものまで十分に熟知をしているという方が必ずしも満足するほど確保されておりません。これは大規模な溶接工事になりますと、東京都には材料検査所というものがございまして、そこで一々溶接のチェック等もいたしておりますから、それは心配ないと思うのですけれども、たまたまそのような町工場でございますと、そういうような悪条件が非常に露呈されてまいりまして、このような事態になっておる。  今後、私どもとしましても、これは現場検査をまず励行させるとか、さらには設計図書の段階で溶接の方法をはっきり明示させる、いま一つは工事を直接管理する工事管理者、これは建築士がやるわけでございますが、たまたま責任を——これは工事管理料をもらえないというようなおかしなこともございます関係で、名儀だけを貸しているというようないかがわしい事態も実はございますので、そういう点で、今後の建築工事につきましては、工事に着手する三日以内に必ず工事管理者として行政当局に届け出てほしい、こういうような規定改正を行いまして、今後それに対処してまいりたい、このように考えております。
  60. 天野光晴

    天野委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、本案審査のため大変参考になりました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  この際、午後一時三十分まで休憩いたします。     午後零時三十六分休憩      ————◇—————     午後二時十五分開議
  61. 天野光晴

    天野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  午前に引き続き参考人から意見を聴取いたします。  日照問題に関する参考人として、弁護士五十嵐敬喜君、経済評論家飯田久一郎君、横浜国立大学工学部教援入澤恒君、横浜市技監田村明君及び日本自然村協会専務理事中村富雄君、以上五名の方々に御出席を願っております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ本委員会に御出席くださいましてまことにありがとうございます。  ただいま本委員会におきましては、建築基準法の一部を改正する法律案を審査いたしておりますが、本案の日照問題について参考人方々の忌憚のない御意見を伺いたいと存じます。  なお、御意見開陳はお一人十五分間程度にお願いすることとし、後刻委員から質疑の際十分お答えくださるようお願い申し上げます。  なお、御意見開陳は、五十嵐参考人、飯田参考人、入澤参考人、田村参考人及び中村参考人の順序でお願いいたします。  まず、五十嵐参考人お願いいたします。
  62. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 いま御紹介にあずかりました五十嵐でございます。  私は、住民運動及び裁判等を通じまして日照権を見詰めてきた者でありますが、その立場から本改正案について若干の意見を述べたいと思います。  最初に、日照権の主張は、いわば無権利の地点から正真正銘運動を通じて生まれ育ってきた権利であります。この運動の重要な目標の一つであった法制化がようやく日の目を見ることについて感慨深いものを感じます。  そこで、日照権について私の理解を申し上げますけれども、日照権といういわば住環境のシンボルとも言うべきものを確保することによって、生命、身体、健康を中心とした環境というものを守るという意味において、一つは人権的な側面を持ちます。その反面、都市の重要な構成要素であるところの建物を規制するという意味都市論の側面を持つものであります。従来この二側面のうち人権を保障する法的な保護なく、都市的な要素が過度に圧倒的に強調されてきたために、人権的側面が押しつぶされてきたと言って過言でないことは周知のとおりであります。  そこで日照権の主張とは、本来都市の重要な要素であるところの住民の生活の安全と安定をいわば日照権に付託して人権を擁護しつつ都市の回復を図ろうとするものであり、両者はばらばらではなく、本質的に統一的に把握されるべきものであると考えるものであります。日照権から町づくりへというのは、まさにそのことにほかなりません。  ところでこの日照権の主張と運動は、幾つかの分野で現在まで成果を上げてまいりました。その第一歩は司法、いわゆる裁判の分野での日照権の認知であります。日照権に対する司法の判断は、被害と地域性をもって重要な二要素として判断されますが、昭和四十八年ごろから地域性より被害を優先し、多くの差しとめ決定を輩出してきたことは、当委員会においても周知のことと思われます。  その特色を要約いたしますと、その第一は、地域性を規定するところの基本的な骨格となる用途地域区分について、人権擁護の観点からこれを住居系地域に限らず全体に押し広げているということであります。これはたとえば東京地裁の昭和四十八年六月の渋谷区恵比寿の駅前再開発地区という商業地域で、四十八年九月東京都江戸川中央という工業地域で、そして昭和四十九年一月の世田谷区三軒茶屋という商業、容積七〇〇%という地域での差しとめ決定の輩出などによって明白と思われます。  裁判での第二の特色は、その場所の問題であります。いわゆる都市構造論によりますと、少なくとも東京都市計画決定に関する限り、環七を基準としてその外と中とで都市の低層化と高層化を大きな区分といたします。昭和四十七年以前は、主として低層住宅を目指した環七の外で差しとめ決定令が認められておりましたけれども昭和四十八年以降徐々に環七の中それから都心に向かって差しとめ決定が出ております。たとえば実質的な勝訴決定であるところの四十八年十一月の千代田区三番町事件あるいは四十九年十二月の港区六本木事件における各決定例によってそのことは明白であると思います。一方裏を返せば、このような差しとめ決定が認容されること自体、いまやマンション等中高層建築物による被害は地域的特性を越えたところに発生するということを銘記しなければならないと思います。  第二は、いわゆる地方自治体による日照確保のための指導要綱ないしは条例の驚異的な発展でございます。建設省調査によりましても、全国で約二百の自治体が指導要綱あるいは条例を設け、驚くべきことに、その四分の三に当たるものがいわゆる付近住民同意を義務づけているのであります。  これを東京だけに限って見てみましても、多摩二十六市のうちすでに二十二市が条例ないし要綱を持ち、そのすべてが同意を義務づけているのであります。都内二十三区においても、十四区が指導要綱を有し、二区が現在起案中というところであります。注意すべきは、第一に、この同意要綱を持つ自治体において現在まで大きな矛盾が存在せず、むしろ住民より積極的に歓迎、推進されているという事実であります。  第二に、基準値を擁している指導要綱あるいは条例においても、本改正案のように商工業系を全く野放しにして規制している例はほとんどなく、あってもごくわずかなものであります。  第三に、最も忘れてならない点として、指導要綱の存在の有無にかかわらず、現在も全国至るところに、その用途を問わず、場所を問わず日照権を主張する住民運動は存在し、しかも建築主住民との間で生ける法としての日照権の存在が了解されており、建築主もまた了解を得て後建築をするというルールが一般化しているという現実であります。  この三点を到達点として冒頭に述べた法制化について意見を述べますと、あり得べき、またあらねばならない法制化とは、住民同意を基礎とした法制化でなければならず、建築公害対策市民連合の提起した日あたり条例はその代表的なものであると考えられます。  この立場から今回の改正案を見ますと、遺憾ながらこの法案は右の三点の成果から後退するものであり、なお後退するにとどまらず、三点の成果をことごとく否定し去る危険を有するもので、まことに遺憾と言わなければなりません。  この法案は、住居系地域とそれ以外のものとに区分し、住居系地域についてのみ基準を設定し、日影の規制を図ることを骨格としております。しかしながら、第一に、この法案の基礎をなすところの用途区分それ自体合理的なものであるとは解しがたいこと、そのことは最近の宇都宮地方裁判所における地域指定処分の取り消し判決によって明らかであります。  第二に、商工業地域等を除外した点でありますが、日本の住居と商店、あるいは住宅と中小工場が混合、密集している都市現状を見ますと、ここに一切の法的保護を与えず、しかも住居系地域のみについて与え、逆に商工業地域については一切法的保護は容認されないということであります。これは先ほど言いました判例の趣旨及び指導要綱にも抵触すること明らかであります。  第三に、設定された日影規制基準でありますが、これも合理的科学的な根拠となっているとはとうてい思えません。この基準は、世論にも、基準を定めた判例にも指導要綱にも抵触すること明らかであります。  第四に、法律の性質上、法は、今回の法案によりますと、北海道を除いて沖繩から青森まで全国一律に適用されます。気候と風土を含むその地域、そしてその都市に対し深く根づいて存在しているところの日照権あるいはその総称としての住環境について、事の性質上その保護を図るべきはその地域に密接している自治体であること明らかであります。これを全国一律に行うことはむしろ都市を破壊する元凶ともなりかねないと考えます。  最後に、政策的に見ても、政策の第一義的な目標は快適な住環境を回復することであると考えます。本法案は、通常劣悪な環境となっているところの準工業、近隣商業地域、住居地域、そして工業地域、商業地域を一部もしくは全部切り捨てるものでありまして、その政策的目標から見てもとうてい妥当とは言い得ず、むしろ誤りであると私は考えます。  以上を総合して私の意見を申し上げますと、本法案は不可解にも三点の成果を覆すにとどまらず、むしろ建てられる地域と建てられない地域を区分することに急である余り、第一に、建てられる地域ですら敷地の零細化によって建てられないものとなり、一方、建ててはならない地域において建築を放任するものであります。これは規制と開発に対する歴史的な反省を全く捨象し、建てる論理にのみ終始し、建てられる側の防衛の論理を欠いたものと言わねばなりません。この法案適用の結果、およそ町には日影規制基準にのみ合致するところの環境にとって好ましくない塔状ビルのみ乱立するところとなり、とうてい町づくりを助長する方向とはなり得ないことを考えなければならないと思います。したがって、本法案について私の立場からは反対するものであります。  そして最後の一点でございますが、本改正案の中で、日影規制条項とは異なり、かつ日照等の住環境に深く関連するところのものについて賛成し、かつこれを積極的に推進していただきたいものがございます。  御承知のとおり、日影の発生は建築空間の野放図な拡大と限度一ぱいの利用という点に基本的な要因があります。この点について、先ほど申し上げました東京地裁の決定例の中に、容積率の上昇が環境破壊をもたらしているものであることは公知の事実であると確認されているものでございます。今回の改正案によりますと、これもまた住居系地域に限定されておりますが、前面道路等の観点から容積率の低減を一部図っているものがございます。私はこれを住居系地域に限らず、全用途に、しかもさらに低減を図るべく全国的に早急に実施されんことを望みたいと思います。それは日照紛争を具体的に解放し、新しい都市をつくる基本的な基盤の形成につながるものと考えるからでございます。  以上でございます。
  63. 天野光晴

    天野委員長 次に、飯田参考人お願いいたします。
  64. 飯田久一郎

    ○飯田参考人 ただいま御紹介にあずかりました飯田でございます。  建築基準法改正案のうち、日照権に関する規定について私見を若干申し述べてみたいと思います。  近年、日照権に関する紛争がしばしば発生し、非常に激しい対立を生んでいることは、健全な地域社会を形成していく上においてはなはだ好ましくないことであるというふうに私はかねて感じておったのでありますが、このたび法の改正によって、日照権に関する規定を明確に決め、それによって日照権紛争を未然に防止する、あるいは仮に紛争が起こってもその解決を容易にしようとする、こういうことはまことに適切なことであると考えるものであります。  元来、日照権は、わが国のような気候、風土のもとでは、もっともっと早くから法律をもって十分保護されてしかるべきものであったのでありますが、ほかの例にもしばしば見られますように、このような性格の権利の保護についてはわが国の立法は著しく立ちおくれておりまして、たとえば建築基準法におきましても、高度制限あるいは容積率というような間接的な形での保護はある程度行われておったのでありますが、これは何といってもきわめて不十分あるいは不備であることを免れない。そのために日照権紛争というものが多発してきたということは皆さんも御承知のとおりであります。  この意味で、このたび改正によって日照権の保護を明確に規定するということは、いわゆる基本的人権の不当な侵害というものを防止する意味において大きな前進であると考えますし、また、いわゆる局部的な過密を防いで住居環境の悪化を防止するという意味においても大きな意義があるように思うわけであります。  ただ、この制限は、性質上全国一律にやることについてはやはり問題があると思われますので、地域実情に応じてこれをある程度修正する権限を地方自治体に与えるというこの改正の趣旨はやはり適切なものであると考えますが、ただ、その修正の範囲をどの程度にするか、余り過大にしないようにする、あるいは過小になっても困るというような点について適切な配慮がなされてしかるべきであると思うわけであります。  以上申し述べましたように、この法律改正による日照権の保護に対しましては、私としては原則的に賛成するものでありますが、ただここで注意をしなければならないことは、こういう日照権の保護が、場合によってはいわゆる住宅問題の解決にマイナスの影響を与えるおそれがないとはいえないという点であります。これは日照権の保護が強化されれば、同じ面積の土地の中で建てられる建物の面積はどうしても小さくなる場合が出てくる。ということは、やはり住宅の供給について問題が出てくるというような点にあるわけであります。  言うまでもなく国民は、居住という問題についても基本的人権を持っておるのでありまして、たとえば憲法二十五条の、すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を持つという条項は住宅についても適用されるわけであります。この場合、この最低限度というのは何を意味するかといいますと、これはやはりその時代の国の全体の経済力を考え、全体の水準を考えて決められるべきものであるということでありますが、こういう立場に立って見ますると、わが国におけるいわゆる住居についての最低基準というものは、大都市などを中心にしましてはなはだ大きく侵害されておる。その居住についての基本的人権が侵害されておるというケースはかなり多いのでありまして、そういう点で今日、非常にいわゆる非文化的、非健康的な居住を余儀なくされている人たちのために、せめて今日のわが国の標準からいえば最低限度であると考えられる程度の住宅を大量に供給するということはどうしても必要なわけであります。ところが、その実行がなかなか今日できていない。その最大の障害になっているものは、周知のとおり宅地不足と地価の異常な高さということであると思うのであります。  そういう宅地不足というような点を考えますと、当然であるところの日照権の保護というものにも場合によっては若干問題が出てこないわけではない。前にも申し上げましたとおり、日照権の保護によってやはり同じ面積の土地に建てられる建物の面積が減ってくるというようなことがしばしば起こってくることがありますので、もし宅地の供給量というものが同じであるとすれば、宅地の不足というものがいまでさえ問題になっているものが、それだけますます激化する、それがまた地価の上昇にもつながるというような問題が出てくるわけであります。したがって、何か別の方法でこの宅地不足というものを解消するということを考えませんと、日照権という人権を保護するということが、一方では貧しい人たちの、住居についての基本的人権の保護を妨げるというようなことになりかねない。しかもこの場合、いわゆる住居についての基本的人権を侵害されている人たちの方が、日照権を侵害されている人たちよりも経済的にむしろ弱い人の方が多いという場合も相当あるということを考えますと、基本的人権に属する二つの権利が互いに矛盾しておって、そのうちのむしろやや強い方が逆に手厚く保護されるというような矛盾した結果を生むおそれがないとは言えないと考えるのであります。  そういう点を考えますと、今度の日照権の保護というものと並行して、宅地の供給あるいは地価の抑制ということにこれまで以上の努力を行う必要があると思われるのでありますが、現状はどうかといいますと、まことに心もとないような感じがするわけであります。いまの深刻な不況、それと国土利用計画法の誕生によりまして、わが国の地価もピークの一番高いときから比べれば一割ぐらいは下がったということでありますが、しかし下がったと言っても、西独に比べれば二十倍以上の異常な高い水準にある、しかも最近ではわずかずつではあるが地価が上昇し始めておるということを考えますと、このままの状態では、いずれ景気が回復してくる、あるいは景気回復のために住宅建設を大いに促進するというようなことによって、遠からず地価が再び相当の速さで上昇し始めるというおそれも決してないとは言えないのであります。これではせっかくの日照権の保護というものが、逆に住宅困窮者を苦しめるというようなことになりかねないのでありまして、そういう意味で、いわゆる宅地の供給増大あるいは地価の抑制ということについてさらに格段の努力をお願いしたい、こう考えるわけであります。  そのための対策ももちろんいろいろあるのでありますが、ちょっとここでややずれるかと思いますが、新しい型の対策をひとつ簡単に御紹介して御参考にしてみたいと思います。  それは、土地の譲渡益に対する課税について、現在あるものに加えてもう一つ別の税率といいますか、制度といいますか、それをつくりまして、それによって宅地の供給の増大を図るという方法であります。もう少し詳しく申しますと、現在譲渡益に対する課税は来年からある程度強化されるということになっております。それはそれで大変結構でありますが、ただ、この税制は、たとえば再来年の一月一日というようなある特定の期日までの値上がり益に対して適用することにする、そしてたとえば再来年の一月一日以降に値上がりした分については別の税率を適用して、非常に重い税率を適用する、そして再来年の一月以降に値上がりしたものについてはほとんど大部分を税で吸い上げてしまうというようなことをやったらどうか、これが私の一つの提案であります。  元来地主さんが自分で十分に利用してない土地をいつまでも持ち続けているということは、宅地供給、土地供給の最大の障害になっておるわけでありますが、その原因は、結局この土地を持っていれば幾らでもまだ値上がりするだろう、現在はそれほどでないけれどもいずれはまた回復するだろうということで、その大きな値上がり益が期待できるということを考えている、それを確信しているというところにあるわけでありますが、もしいま私が申し上げましたような方法によって、ある時期以降はもう幾ら値上がりしてもそれはほとんど税金に持っていかれてしまう、手取りのものはほとんどないんだということになれば、これはそういう地主さんたちもその期日以降に持っていても余り意味はない、むしろこれをもっと有効に利用できる人に譲り渡して、その代金を有利に運用する、あるいは土地を貸して、住宅をつくる人のために貸して地代をもらう、あるいはそこに家を建てて自分で貸し家をつくるというようなことを考えるようになるんじゃないか。これは宅地の供給が非常にふえるということであります。しかも、こういうことをやれば思惑で土地を買っても意味がないということで需要の方も減ってくる、したがって地価も十分に抑制されるのではないか、こう考えるわけであります。  いま申し上げたのはほんの一つの例でありますが、土地対策というものについては御承知のとおり幾つもの対策がすでに出されておりまして、問題はむしろ、そういう対策が有効ではあってもそれをなかなか実行できないというところにあるわけでありますが、この日照権の保護という一つの前進をされる機会に、土地対策についてもう一度考え直してみられる必要があるのじゃないかというふうに考えるわけであります。  最後に、これは今度の改正とは直接関係はないかもしれませんが、この基準法規定というものが十分に守られるような措置が何かないか、それを講じるように考えていただけないかということであります。建築基準法というものは、これまで非常に違反が多いと言われております。特に木造建築の場合、特に都市部においては完全に守られている場合はめったにないんじないかということさえ、そういう声さえ聞かれるわけでありますがこれでは、結局正直者だけがばかを見るということにもなりますし、また低層木造住宅による日照権の侵害というような問題の紛争解決されないわけであります。したがって、この機会に、この法律がもう少しよく守られる、いわゆるざる法にならないようにするというためにはどうすればよいかという点について一段の御検討をひとつお願いしてみたいと思うわけであります。  以上、私の意見を申し上げました。
  65. 天野光晴

    天野委員長 次に、入澤参考人お願いいたします。
  66. 入澤恒

    ○入澤参考人 入澤でございます。私の専門は土地利用計画を中心にしました都市計画の研究をやっております。主にその観点から、本日の課題につきまして意見を述べてみたいと考えております。  私は、都市の市街地の居住環境、これを保全する方法としまして、その環境の主要な指標といいますか、またほかの手段ではかえがたい、代替しがたい日照の確保、そのためには制度的に建築物の形態的な制限、言いかえますと、土地の利用の制限、これの強化を行う必要があるということを考えます。またそれに関しまして、具体的に日照をいかに享受するか、そういった基準が必要である。さらに、日照を確保するためには適当な手法が必要である、こういった点について述べてみたいと考えております。  実はこの件に関しまして、私は、建築審議会に日照基準専門委員会というのがございまして、その主査になりまして、一昨年「日照確保のための建築規制基準についての中間報告」というのに関係いたしました。大綱はそこに示してございますが、本日は相当私見を交えまして、その主要な考え方につきまして話してみたいと考えております。  もちろん、わが国でふだんの住生活にとりまして日照という問題は、過去の生活慣習また風土、気候、そういった点から非常に重要であることは申すまでもございません。また先ほど説明がございましたように、近年住民運動によりまして日照その他環境問題が非常に活発になりまして、一昔前といいますと、都市計画たとえば用途地域と言いましても一般の住民の方はほとんど御存じなかったのですが、最近では用途地域さらに容積率とかそういった専門用語まで一般の住民の方が非常に関心を持たれたということは、非常に私としては評価しておるわけでございます。  最初に都市計画と日照との関係住環境との関係を若干述べてみたいと考えております。  都市計画的に考えますと、現在の都市は御承知のように非常に人口が過密である。居住人口の増大さらに一般市街地の増大、これに対しまして現実には限られた有限の土地でございます。この土地の適地にいかにそういった人々を、住宅を、居住環境を満足させながら収容していくかということが、現在の都市計画では一番大きな課題でございます。  しかしながら、ここで考えてみますと、土地というものは有限でございますが、そこに多数の人口が入ってまいる、また住宅を建てなくてはならない。居住環境を一方よくしょう。こういった限られた土地に人口を多数収容しながら居住環境をいかにうまく整理するかという点を考えてみますと、日照の問題に限りましても非常に問題があるわけでございます。土地を立体的に使いましても、決して日照の量はふえるものではございません。自然に与えられたものであります日照の量は決してふえません。言いかえますと、土地を高密度に使いますれば単位当たりの日照量は減ってくるという現実がございます。建物を高層化すれば、また逆に敷地がだんだん細分化すれば、日照の量というのは減ってまいるというはっきりした事実がございます。でございますから、多くの人を住まわせようとすれば、日照は必ずしも十分享受できない。  もしたとえば東京におきまして日照を十分に満足させながらいかに居住環境をうまくするかということを考えますと、基本的には都市の人口を抑制する、さらに住宅を供給しない、こういったことになるかと思います。しかしこれは問題でございますので、実際に人口を収容する、また住宅を供給するという前提に立ちますとどうすればいいかとなりますと、現在のように一戸建てとか二階建て程度の住宅で大東京を全部覆ってしまいますと一体どういった市街地ができるかと申しますと、非常に巨大な、半径が二十キロ、三十キロ、その程度の巨大な平面的な都市ができてまいります。これは通勤その他交通事情または公共施設のサービス関係から非常に困難でございます。  それではどうすればいいかと考えますと、人口を収容しながら日照を享受することを考えますと、どうしても住宅の共同化または中高層化が必要でございます。極論を申しますと、現在東京に約八百五十万人程度住んでおります。この方々が日照すべて四時間程度享受するためにはどうしたらいいか。きわめて簡単な計算をいたしますと、すべての住宅は、現在住宅公団の団地がございますように、四、五階建て程度の、あのような共同住宅を建てなければすべての方は四時間程度の日照が享受できない、こういった事実がございます。  いま申しましたように、都市計画と日照との関係を申しますと、ある程度限られた土地の面積、都市の区域におきまして多数の人口を収容し、住宅を供給しようとすれば、十分なる日照量は物理的にもはっきり申しまして享受できないという点をまず申し上げたいと思います。  次には、しばしば問題になりますそれでは日照権とは一体何であるか。これは全く私見でございます。私は法律の専門でございませんので若干の私見でございますけれども、今日言っております日照権と申しますのは土地の所有権にかかわる日照権でございます。憲法に申します人格権、生存権によります環境権さらに日照権というものは確かに必要でございます。しかしこれは万人が享受する日照権でございます。現在しばしば言われております日照権と申しますのは、土地の所有権、所有権のある土地にかかわる日照権でございます。言いかえますと、私権に関係する日照権でございます。この点、万人が享受する日照権というのは絶対的日照権と申しまして、土地にかかわる、所有権にかかわる日照権と申しますのは、私は制限的日照権ではなかろうか、こう考えております。  本来、都市の土地は、ますます土地の私権の制限の強化が図られなければりっぱな居住環境都市はできません。としますれば、私権の上に立ちます日照権も当然土地の私権の制限の強化とすれば、土地の上にかかわります日照権に関します制限というのは、やむを得ずある程度制限せざるを得ないのではなかろうか、こう考えております。このような立場から、ある程度逆に日照を確保するためにも日照権を制限せられない、矛盾なような話でございますけれども、実際にはそのとおりにならざるを得ない。それではどうすればいいかということになりますと、こういった私権にかかわる制限でございますので、公法としまして、たとえば現在改正案になっておりますように、建築基準法改正によりまして、このような日照を確保するためには建築制限をする、または土地の利用の制限をするということにならざるを得ないんではなかろうか、こう考えております。  本来、日照紛争は私権対私権の問題でございまして、よく相隣関係の問題という話で、過去の例におきましては裁判所が司法上の問題として解決すべき問題と言われておりましたけれども、今日日照紛争だけでございませんで、居住環境関係が取り上げられますと、むしろ都市の日照問題は都市全般の居住環境の問題でございます。こう考えますと、単に個人対個人、私権対私権の問題でございませんで、都市全体の居住環境の観点から日照という問題を踏まえる必要がございます。  以上のような理由で、日照に関しまして土地利用を規制する、建築の形態を規制するということはどうしても公法でなければならないかと考えております。  また、日照は単に一般個人の土地だけでございません、道路にも必要でございます。特に、広場、公園においては、土地を持たない人々のためにはぜひ必要であるといった点から考えましても、都市環境の観点から考えますと、どうしても公法によってこの日照の確保を図る、と同時に土地の利用を制限するという方向に向かわざるを得ない、こう考えております。  この場合所有権の制限は、現在行っておりますように、単なる地方公共団体行政指導とか要綱ではやはりまずいのではなかろうか、こう考えます。憲法にも書いてございますように、土地財産権、そういったようなものの制限につきましてはやはり法律によらざるを得ない、こういうようなことでございますので、単なる行政指導、または要綱のみをもって土地の私権の制限を行うということははなはだ問題ではなかろうか、こう考えております。  次の問題としまして、しばしば問題になります日照量をどれだけ確保すればよいか、こういった問題でございます。また、基準設定が適当であるかどうか、このような問題について話してみたいと考えております。  日照量と申しましても、しばしば議論になるところでございます。一体われわれは一日に何時間日照が必要であるか。これは正直申しまして、技術的には解決されておりません。ただ、日照という問題は、そのような物理的な量ではかられる問題でございませんで、多分に快適性といいますか、われわれに精神的に非常に大きな恩恵を与えてくれるという点をわれわれは忘れてはならないと考えますが、しかし、現実にある程度日照量を制限せざるを得ない、都市生活におきましてはどうしても制限せざるを得ないと考えますと、何時間程度がよろしかろうかということがしばしば議論になってまいります。しかしこの問題は学問的にも解決できません。これはやはり過去の住民方々の経験または体験、そのようなものから実際には出てくる。また現実の都市の日照量はどの程度あるか、それによって一応は満足しているかどうか、このような問題から、日照の量といいますか、しばしば冬至の日照時間が問題になりますが、この日照の量というのは、一般市民のコンセンサスといいますか、合意といいますか、そのようなものから出てくるのではなかろうか、こう考えております。と同時に、現実の都市の姿、それによります実際に現在享受しております日照時間、このような点から総合的に判断する必要があると思います。  そのような日照の時間をとりまして、たとえば日照量を考えました場合に、これは住民同意とかそういったようなもので決めるか、または制度によります基準によって決めるかという点がしばしば問題になります。もちろん快適な日照といいますのは個人差または地域差、そういったものがございますけれども住民が、同意制度によりまして同意する場合におきましても、必ずそこには何かの価値判断と申しますか、日照に対する価値判断の基準があるかと思います。その都度その都度主義で日照がどうこうというよりも、やはり住民の方にも何か判断する基準があるのではなかろうか。実はこの基準を私ども制度化したい、こう考えております。その都度その都度価値判断が違うのでは、やはり実際の建物を建てる場合におきまして非常に問題でございます。そういった住民基準に関する合意、これがすなわち私ども考えております基準でございます。  次に、具体的にたとえばある日照量を享受すべきものと考えた場合におきまして、土地の利用をいかに規制するか、または建築物の形態をいかに規制するかといった手法になります。従来は、多くの地方公共団体の日照に関します要綱を見てまいりますと、ほとんどが日照時間確保方式と申しますか、既存の住宅、土地に対しまして日照時間を決めまして、それによりまして後から建てる建物の方の形態を規制するという方法をとっております。しかし、これは考えてみますと、先に建てました方が得であります。たとえば敷地の形状、住宅の配置、これが非常にまずいかっこうで、先に建てました方が日照を享受できまして、それによりまして後から建てる方が建てられないといった例もあります。また隣地が全くの更地であった場合に、一体どうして日照時間を決めるのかという点も問題がございます。  さらに大きな問題点は、いわゆる複合的な日影でございます。日影というのは単に一軒だけの家で日影ができるものではございませんで、南側に多数の建物が建ちますと、それらが相互作用をいたしまして思わぬ部分に複合的な日影が生じます。こういった問題は現在あります日照時間確保方式では解決のできる問題ではございません。そのような観点から私ども考えましたのは、現在の基準法改正案に採用されております日影規制方式でございます。  次に問題になりますのは、規制をする対象の地区を一体どうするか、現在の改正案におきましては用途地域制と関係する、こう書いてございます。用途地域制のことを申し上げますと、私はこの用途地域制を非常に大事にしております。現在の居住環境確保するための土地利用計画を実現する手段としましては、この用途地域制をもっと充実するという方向に向かうべきではなかろうかと考えまして、私としましては、この日照確保のための建築物を規制する対象地区としては、この用途地域制を尊重しましてこれと関係させるという方針でございますが、ただ問題は、現在の用途地域制の内容、さらにその指定方法が必ずしも十分でない、そのために現在直ちに規制対象地区、これと用途地域制と関係させることは若干の問題があろうかと思います。たとえて申しますと、先ほども五十嵐参考人からお話がございましたように、現在の容積率は余りにも高過ぎるという点は私も同感でございます。たとえば第二種住居専用地区または準工業地域におきましても、容積率は二〇〇%以下、一五〇%、一〇〇%もあっていいんではなかろうか、かように考えますし、また具体的に地方の公共団体が容積率を指定します場合に一般に高過ぎる、こういった感じがいたしまして、今回のこの日照のための規制対象地区を指定する場合におきましては、改めて現在の用途地域制の指定のあり方を検討する必要がある、こう考えております。  それからしばしば問題になりますのは、地方の実情に応じて、または風土、気候に応じて——一律の画一的な法律基準を決めるのは適当ではないという話がございますけれども、これは条例をつくりまして、十分地方の実情に合わせる、こういったような規定を設ければ足りるんではなかろうか、こう考えております。  なお、若干敷衍いたしますれば、単にこの法律にございます日照確保のための規制にとどまらず、住民方々が日照につきまして、さらに一般の居住環境に関しまして、さらによりよい方向に向かおう、こう考えました場合には、現在ございます建築協定という制度がございますが、これを十分に活用されるということも可能ではなかろうか、こう考えております。  それから直接関係ございませんが、居住環境の問題、間接的に非常に関係ございますけれども、現在の敷地の規模が非常に狭い。これは将来何とか最小限の敷地規模というものをやはりある程度法律制度化する必要があるんではなかろうか。  と同時にもう一つの問題点は、日照と申しましても、現在建っておりますいわゆる木造賃貸アパート、木賃アパートの日照を考えてみますと、非常に不十分でございます。むしろ土地の上に降り注ぐ日照という問題よりも、私はまずそのような住宅、非常に劣悪なる住宅に対しまして日照を与えるように、住居法の制定、そのような内容を持った住居法の制定もぜひ必要ではなかろうか、こう考えております。  以上でございます。
  67. 天野光晴

    天野委員長 次に、田村参考人お願いいたします。
  68. 田村明

    ○田村参考人 田村でございます。私は現在自治体におりまして、自治体の中の行政を実際にやっているという立場、その中では建築基準法だけ外はございません、都市全体の住環境あるいは都市環境というものをどういうふうに総合的につくっていくかという立場からやっているわけでございます。そのような立場とあわせまして、私自身も一人の研究者としても都市計画及び土地問題、こうしたものについて多少の勉強をしておりますので、自由にその両方の立場から発言をさしていただきたいと思います。  この日照問題でございますけれども、いままでたびたび御指摘がございましたとおりに、これはもともと土地の高度利用ということが突如として都市の中に舞い込んできたというときから生じたわけでございます。その原因をたどりますと、都市に対する過度の集中あるいは地価の高騰ということが高度利用を余儀なくしたということでございますし、あるいは一方、都市が巨大になってくれば、当然にある程度の高度利用というのが土地利用上出てくるという当然のこともございます。ただし、その高度利用をする場合に、一般的な従来ありましたような低層的な、低密的な利用をしていたところに突如としてそうしたものが舞い込んできた。前提が何ら加えられていなかったというところに大きな問題があった。単に高度利用がいけないということではなしに、前提を欠いていたというところが非常に大きな問題であると思います。つまり無計画、無前提にこの高層化あるいは高度利用が行われ、それがきわめて個別的な土地所有権を絶対視するところに行われたというところが問題でございます。  それであるならば、一体どのようなことを基本的な対策としてすべきであるか。日照の問題はそもそも木賃アパート、これはもう東京都の中でも三分の一を超えるような非常に多くの木賃住宅がございます。このようなところでは、日照権が問題になる以前の問題住環境としてそもそもの問題がございます。こうした木賃アパート等、住環境そのものについてまず問題をしぼっていくべきである、問題を提起していくべきである、こういうふうに考えます。  あるいはまた入澤先生御指摘のとおりに、土地利用計画、これは単なる現在行われているような法制的な土地利用計画ではなしに、詳細計画といいますか、ベバウングスプランというものが西ドイツの建築法でもございますけれども、かなり詳細なる土地利用計画というものを前提として立てていく。その中で高層化すべきものは高度利用を図っていくということが必要であったと思います。  さらに敷地分割についてでございますけれども、敷地分割については何ら日本の場合には規制がございません。自由に土地分割が可能でございました。このような状態でございますと、非常に劣悪なる土地条件を生み出すわけでございまして、この敷地分割に対してもはっきりした考え方を持つ、それについての適正なる規制を持つということが必要でございます。一方において、細分化しました土地を共同利用した場合にさらにこれが有利に働いていく、あるいは共同利用を積極的に推進していくような、このような方策も逆の方向として必要でございます。  あるいは土地所有権というものが無制限に上下に及ぶ。これは現在のところそのようなことはございませんけれども、しかし、土地所有権は明らかに都市環境の中で限定された土地所有権でございます。これに対して限定的な土地所有権を使っていただく。そうして、従来土地所有権があるがために外部環境を自分で内在化し、あるいはこれの利益を内在化できた。こうした制度は徐々に改められつつはありますけれども、これについて基本的な、特に都市の高密な地帯については基本的な反省ということが必要であろうというふうに考えます。  このような中で総合的な住環境都市構成、都市そのもののあり方ということを考えていくのが大きな前提であろうか。このような前提がございませんと、幾ら日照の問題だけを取り上げましても基本的な解決にはならない、こういうふうに考えるわけでございます。したがいまして、この日照権につきましてのいろいろな法制化の問題の前に、ぜひこうした基本的な問題についても十分御審議願い、その中でしかるべき対策がされるようにお願いしたいわけでございます。  しかしまあそうは言うものの、これは非常に時間のかかることでございます。現実に日照を奪われている人、日照に泣いている人たちが現実にいるわけでございます。この現実にいる人々の存在ということは、その百年の大計のほかに無視するわけにはいきません。私どもさきに申し上げましたのは、五十年、百年のこれからの日本の都市の大計でございますが、一方において、現実に困っているこの人たちをどう救うのかということがわれわれとしての課題でございます。特に地方自治体はその場合に直接に住民と接しております。この方々が現在の状態で非常に困るということを、私ども基本的な前提を解決しなくても、それなりに解決を図っていかなければならない、こういうふうに考えているわけでございます。  したがいまして、都市構成全体について、これは国の中で中央でも大いに御議論はいただき、私どもは私どもなりに考えるということでできてくるわけでございますけれども、この現実に困っている日照問題に対応しようということが私ども考え方でございますし、またそのような形でこの日照権に関する住民運動が各種起きてきたわけでございます。したがいまして、これについては法的な措置があればよかったわけでございます。しかし法的措置がなしではございません。現在までも用途地域もございましたし、高さの制限もございますし、あるいは道路からの斜線制限その他の法規もございます。しかし法規がなかったんではなしに不備であったんだということであると思います。法規は全くなかったわけではない。その不備を補うということが私どもの仕事だというふうに考えまして、この日照等指導要綱等のものをこしらえてきたわけでございます。  これは四十六年あたりから各自治体で行われ、先ほども御紹介ありましたとおりに、現在約二百の自治体がこのような指導要綱並びに条例等を持っているわけでございます。こうして、都市問題全体にはこたえ得ないかもしれないけれども、現実に困っている市民の方々に対応していこうということをやったわけでございます。  しかし、私ども決して要綱だけに頼っているわけではございません。横浜市の実例で恐縮ではございますけれども、同時に私どもは高さ制限ということを全地域に対してかけました。並びに北側斜線制限、これは現在の法律でも一部ございますけれども、これをさらに強化いたしました。東京都以上にさらに厳しいものを横浜市としてはかけております。こうした現実にある法律制度も使いながら、なおかつその不備を補って要綱を生かしているわけでございまして、決して私ども要綱だけに頼っていこうという姿勢ではございません。法律で使えるものは十分に使っていく。しかしその中で、必ず法律というのは、やはり現実の方が早く進行いたします。法律で十分でない点がある。こういう問題については要綱等で十分補っていこうということでございます。  なお本論からややはずれますけれども、いまの高さ制限、北側斜線制限等は、先はど飯田さんのお話にもございましたけれども、やたらと全部規制して住問題を厳しくしようという意味ではございません。私ども、一方において規制を図ると同時に、これを積極的に緩和する基準等もこしらえまして、規制をすると同時に、一定条件がかなうのであれば積極的に高度利用を図っていってもいい、こういうふうな基準もあわせて持っております。このように私どもとしては現実の問題に対応していくというのがこの日照問題の最大の課題でございます。  しかし、現在は御承知のとおりに、単なる日照問題だけではございません。すでに日照のほかに風害の問題あるいは圧迫感とか心理的なそうした問題あるいは電波障害の問題、その他いろいろな住環境に伴うものがあわせて出てまいります。したがいまして、この住環境全体の問題としてこの問題を処理いたしませんと、一つ基準からだけでは見にくいという状態になっております。  このように都市の問題は非常に複雑な様相を呈しておりますし、先ほど申し上げましたようにより本質的な問題に触れなくては根本的な解決にはならないわけでございます。  したがいまして、私、二つの方向がある。一つはそのような本質的な都市の問題にこたえていくということが一つの方法でございます。第二には、とりあえず現在の困っている状態ということを救っていくということでございます。この両者が私ども必要だというふうに考えております。しかし、ただいまの日照問題につきましては、どちらかというと、より後者の方でございまして、それだけで本質的な問題が解決すると考えているわけではございません。本質的な問題にこたえるためには、より根本的な検討が必要である。しかし、だからといって現在を放置することができない。この両方の立場をあわせとることが必要であるというふうに考えているわけでございます。  このような中で、国も法制化を考えられたということは一歩の前進であろうかとは思います。しかし、私どもこの法制化につきまして内容を拝見いたしますと、きわめて疑問の点が多い。その点は後ほど申し上げますけれども、私ども大きく言いまして、二つの点から反対でございます。しかし私は一定のルール化をするということに反対をしているわけではございません。都市の中には当然に市民が多く住んでおります。その中ではむずかしい条件でお互いにそでをすり合い肩を寄せ合いながら住んでいるわけでございまして、一人だけのわがままが許されるわけではございません。その中に当然にルールが必要だということは私ども承認する立場でございます。ただし、現在の法案のような形で、このような形でおさめることが果たして問題がないかということについて、私ども大きな疑問を感じているわけでございます。  この大きな問題として私二つの点から申し上げます。  一つは、現在これまで自治体が努力していろいろなルールをこしらえてきた、こういう問題にこの法律がどのように作用するであろうかということが第一点。それから第二点といたしましては、この法律に規制されていますような日影規制という方法が、一体行政的あるいは技術的、理論的、そのような観点から可能であろうか、適当であろうかという点でございます。  まず第一点は、この法律が、現在行われてきたような、しかも自治体が先導的に住民を守るという立場から行ってきましたような行政にどのような効果を持つかという点でございます。  御承知のとおりに、数年前から自治体がいろいろな立場でこの日照の問題を取り上げ、あるいは住民方々の非常に強い運動という中から生まれてきたいろいろなルールがございます。私ども要綱行政というのは、決して自治体が通り一遍に法律的につくったのではなしに、むしろそうした住民方々意見を背景としながらその中から生まれてきた現実的な一つのルールであろうか。法律ではないかもしれません。しかし一つの現実的なルールである。私さっき申し上げましたとおりに、現実的にいま解決することが一つの問題でございます。そのような中から生まれてきたルールでございます。  したがって、その中に時間を書いてあるものもあれば、合意を書いてあるものもあれば、あるいは手続その他につきまして書いてあるものもございます。単なる一片の、時間がどうであるとかいうことだけではなしに、そうした全体の手続を含めまして、それが住民方々の中で一つのやむを得ないルールであるということに順次定着しつつある。これこそ都市の中の一種の市民法であろうというふうに私思います。このような建築基準法等は、そもそもは特に相隣的な問題でございますけれども、そのような市民的な市民法として生まれるものであるというふうに考えます。  これは実情に応じても違います。京都のように古い伝統的な町、横浜のように比較的新しい町、小さな町、東京のような非常に大きい町、これはそれぞれ違ってよろしいのではないかというふうに思われます。当然にその中の伝統的な住み方、あるいは京都のような町でございますと日照は余りなくてもいい、そのかわりに真ん中のところに大きな広庭をとって共同の庭に出る、こういうような方式だってございます。これは町によっていろいろな方式があり得るわけでございまして、一つ法律で全国、日本の北海道から沖繩まで一つのものでおしなべてしまうというところに私、大きな疑問を感じます。このような法律で、一つのもので割り切ってしまうということは、現在いろいろなものができてきたせっかくの努力ということをブルドーザーをかけてならしてしまうということでございます。当然出っぱり、引っこみもございます。それによって上がってくるところはよろしゅうございますけれども、せっかく盛り上がってきたようなものを頭を削ってしまう、こういうふうなこともあり得るわけでございます。このような法律そのもののあり方というのが、市民の本当の合意の中で生まれてきた、それを国の法律の中で壊してしまうということは、むしろこれは国の法律としては逆の行き方ではないか。せっかくでき上がってきたルールが各地にございます。このルールを生かしながらそれを育てていく。国はそれなら最低の基準をつくり、それをさらに盛り上げてやるようにする。このような立場が国の法律ではなかろうか。しかし、その中に自治体あるいはその地域によってさまざまな事情がございます。そのようなものが十分に中に反映されるということがございませんと、この数年間住民運動あるいは自治体、両方の努力によってできましたせっかくのルールが一遍ぶち壊されてしまう。そこに新しい法律というものができる。そこで新たな紛争ができることは当然でございます。片方ではその法律のとおりやっているのだからよろしいという意見もございましょう。しかし、やはりこれは困るんだということも片方でございます。そうなりますと、必ずしも法律のとおりに施行はできないだろうと思います。一方の切り捨て御免的なもので済むのであれば、すでにいままでも法規が全くなかったわけではございません。法律どおりであればいままでも済んでいたわけであります。しかし、そこに、済まないところにこの日照問題が起きているわけでございます。  したがって、今回の法律もそのような切り捨て御免的な法律になるのであれば、私、反対せざるを得ないわけでございますし、せっかく積み上げてきた、現在まででき上がった市民法的なそうしたものを壊すことになるのではないか。これはこうした相隣関係的な非常に特殊な法律でございます。国全般にいきなりいくようなそういう種類の法規ではございません。本当にお互いの隣同士間の向こう三軒両隣の合意的な内容を多分に持っております。私はその合意だけでやれというわけではございません。一定のルールは当然必要でございますが、しかしそのように非常に身近ないろいろな諸条件の中でつくっているということが無視されるということでありますと、再び日照問題について新たなる紛争を巻き起こすことにかえってなってしまうということでございます。  さらに商業地域その他につきましてもあるいは手続等につきましてもこれが欠落していることはすでに御指摘のあったとおりでございます。  したがいまして、私は法律をつくることに反対するわけでもございません。ルールをつくることに反対するわけでもございません。しかし、それはいままででき上がってきたそのような実績を踏んまえ、それを助け、それを育て、その中でさらに自治体が独自の住環境をつくっていく、このようなことに法律があるべきではないか、こういうふうに思考するわけでございます。  それから第二の点でございます。第二はかなり技術的な問題になります。現在この日影制限という方向をとっているわけでございます。この日影制限というのは一つの議論ではございます。あるいは一つの方法であるということを私、考えないわけではございません。しかし、現在の日本の都市の状態、その中で起きてきた日照問題という動的な関係の中からこの日照問題ができているわけでございます。それを現在一つの割り切った形ですることが可能であるかどうかということについて、私はきわめて疑問を持っております。  先ほど申し上げたとおりに、都市の基本的な土地分割の問題あるいは土地利用の問題その他の問題につきまして、基本的にそのような町に日本の都市がなっているのであれば、これは一つの方法であるかもしれません。しかし、先ほど申し上げたとおりに、そのような前提は何ら施されておりません。そのときに一方だけが割り切ったこのような日影規制ということをやるのはアンバランスでございます。そのような中でさまざまな問題が起きてくると思います。  もう少し技術的な問題を申し上げます。これは作図上の問題も、かなり日影規制という問題にはやり方のむずかしさがございます。なれている方は非常によろしいのでございましょうが、私も一通り建築というのを昔勉強はいたしました。しかし、私自身もなかなかこの日影図がうまくかけるかどうか非常に疑問でございます。このような建築の規制というのは素人にとっても非常にわかりやすい、高さがどのぐらいだ、それからこの辺からこう後退しなければいかぬ、そういうことが一目でわかるということが、私、行政として望ましい。非常にむずかしいかき方、それはおかきになれる方はなれるかもしれません。しかし、そのような方でなければかけないということが問題でございます。  さらにこれを自治体としてチェックする立場でございますが、それの前提となります敷地の境界線その他作図についてもう一遍そこでやってみるというのは、自治体の職員に非常に過度な要求をすることになります。そうであれば、当然いまの建築基準を扱っている行政の人数をはるかに増加しなければなりません。しかし、そのようなことは現在の自治体の財政の中で許されるべき問題でもございません。したがって、そうなりますといままでどおりやってしまう。非常にラフに、出てきた申請書をああ、そうですかということでこれを受け取ってしまう。こういう形で非常に無責任な行政が行われざるを得ない。建築確認というものはそれでいいのだという御議論があろうかと思います。しかしそれは若干大きな問題があろうかと思います。  これはあるところの研究会でいろいろ討議された結果でございますけれども、実際に作図上の問題、あるいは敷地の問題、あるいは鉛筆の太さの問題、あるいは磁石でやった場合にはもちろん相当度数が狂います。このような角度の誤差の問題、それから地形。横浜などでは地形が非常に複雑でございまして、平たい地盤などはなかなかございません。一体それをどうとるのか。それから、敷地が真っすぐなっているとは限りません。ジグザグになっていたり、曲がっていたりいたします。そのような非常に複雑な地形というのが一般的でございまして、きれいにでき上がっている土地でございますと余り問題はございませんでしょうが、むしろそのような土地が多いわけでございます。  そのような条件の中から、ある建築専門家の方々がいろいろ研究された、正式発表はされていないようでございますけれども、実際これをやった場合には著しい誤差を生じる、場合によりましては数分ですけれども、一定の条件によっては時間単位でもあるいは誤差が生じ得るのではないか、こういう議論さえあるわけでございまして、正式な法律に基づく建築確認書としては、技術的な問題が余りにも多いということを考えます。あるいは、それを正当にするためには、物すごい事務手続をかければこれは可能でございましょうけれども、それができないことはいま申し上げたとおりでございます。  あるいはこの敷地境界線の問題、これが非常に決定的な条件になる。この法律内容でございます敷地境界線でございます。しかし、御承知のとおり、この敷地境界線を画定するということは最もむずかしい状態でございます。いわゆる官民境界と言われる道路と敷地、このような境界でも相当境界査定においては時間をかけてやっているわけでございます。まして、今回のこれは民民境界、民間と民間同士の道路の敷地の境界の問題でございまして、これは自治体あるいは建築基準法を扱う主事等が容喙することができないものでございます。この容喙のできないものを基準にして、これを法的に公認するということに非常に大きな疑問を感ぜざるを得ないわけでございます。  あるいはまた、その違法建築の摘発でございます。私は機会がございまして、前回の建築基準法改正のときにも参考人としてここにお呼びいただき、意見を述べる機会を得ささしていただいたわけでございますけれども、その際も違反建築が非常に多い、これをやめさせなければいけないということが、非常に強くその改正の理由にあったというふうに私承知しているわけでございます。しかし、たとえばこの違反建築でございますけれども、このような日影規制というところでやりましたものを、これは要綱じゃございません、法律でございますから、一分一厘そのとおりにしてもらわなければいけないわけでございます。しかし一体、仮に現地にこれをパトロールいたしまして的確にそれを指摘できる、そうした行政官というのは一人もいないはずでございます。図面と参照し、いろいろ全部はかって、最後にはどこかまた測量——しかし測量はだれの測量費でするのか、測量費用を出すところもございません。そういうものを全部完全にし、あるいは建物でございますと、御承知のとおり、塔屋、ペントハウスその他が出ております。こうしたものが一体どういうことになるのか、そういうことを詳しく確認した上でないと、これは違反を摘発するわけにいきません。  やはり私は、行政としましては、せっかくパトロールしたら見たらわかる。高さがおかしい、あるいは斜線がどうもこうながめてみたらおかしい、あるいは引っ込んでいない、こういうふうなもので違反をどしどし摘発していくということが最も望ましいものであり、最も能率的であり、最も市民的でもあるというふうに考えてございますけれども、こうした非常にむずかしいものを導入した結果、十分なる違反建築の摘発がかえってできない、むしろいろいろな意味の違反ができてしまう。しかし、できた以上、これはわずかなところで生じてきます、非常にむずかしい理論に基づいておりますから。したがいまして、そのような問題を是正するというのは著しく困難になってしまう、このようなものがございます。  ですから、日影制限をやる方法ということは確かに一つの根拠ではあろうが、これは、たとえば団地設計などを下見しました場合に、一個の建築者が団地で住棟を配置します場合にこのような方法をとるということは、これは十分考えられます。しかし、それは法律ではございません。しかし、法律とするのにはまだまだ熟さない点が余りにも多いのではないか。このように多少理論だけが先走って、現実の行政あるいは現実にそれを行う主事あるいはそこにいる人たち、こうした行政官の実際の仕事ということから少し遊離し過ぎているのではないかというふうに思います。このような中で、行政上、技術上で、この日影規制という方法は一つの方法であるにしても、さらに十分検討する必要がある、このように思うわけでございます。  以上のように、現在まで上がってきました、自治体がこの住民の日照を確保するために現実的に適応していく、そうした努力を殺してしまうのではないかということが第一点と、いまのようにこれを実際に行政に移した場合に、さまざまのトラブル、さまざまの誤差、さまざまの誤謬、さまざまの違反、そのような問題を引き起こすのではないか。行政というのは、わかりやすい行政が一番でございます。そのような点について大きな欠点があるのではないかというふうな、この二点が大きな点でございまして、現在の建築基準法一部改正案につきまして、私、大きな疑問を投げかけざるを得ません。したがいまして、私、こうした問題についてはさらに技術的な問題をどのような方法がいいのか十分に検討されると同時に、先ほど冒頭に申し上げましたような、都市の基本的な住環境の問題についてさらに基本的な御検討を加えた上、さらにこうしたものをやられたいというふうに思うわけでございます。  問題か起きたからといって一遍に——法律というものは非常にとうといものでございますし、かたいものでございます。それをやったがために、かえってまた他のひずみを生ずるということがあってはなりません。これは日本建築学会の建築計画委員会の有志の方々の日照問題研究会も、そういう御意見をされております。一つの問題をやったがために、一つの問題を抑えるために、さらに、次の将来の都市に対するはっきりしたイメージがなくて、現実の問題を法律という形でやってしまうということに問題がございます。先ほど申し上げたとおりに、将来の問題と現実の問題とございます。現実の問題の対処の仕方はもっといろいろな柔軟な対処の仕方があろう。しかし、より根本的な問題をとらえる中でこの現実的な問題も処理していくということが正しいやり方ではないか、このように思考する次第でございます。  以上です。
  69. 天野光晴

    天野委員長 次に、中村参考人お願いいたします。
  70. 中村富雄

    中村参考人 御紹介をいただきました中村でございます。  今回の建築基準法の一部改正案が、日照の確保について公法上の介入を初めて行ったということは、非常に画期的なことだと存じます。画期的なるがゆえにいろいろと問題点も多いわけですが、以下若干の意見を申し上げたいと存じます。  まず最初に申し上げたいことは、本改正案は、いわゆる日照権という権利の存在を認めて、その前提の上に改正されようとしているものではございません。良好な居住環境をつくるために日影の排出基準を決めるという形で、提案をされてきているわけであります。  しかしながら、この日影の排出基準を決めるということは、結局は間接的にあるいは裏面的に、日照権の存在を前提としているのではないかと思われます。権利として、いまだ公的に認知されていない日照権と申しましょうか、そのような日照権の存在をいやおうなしに前提とせざるを得ないというような状態に置かれていると思うのであります。私は法学者ではございませんし、一市民として、この際はっきりと日照権の存在を認めて、その前提の上に法改正なり、あるいは行政上の指導を行った方がよいのではないかというぐあいに感じております。  法理論的には、日照権は上から与えられるものではございません。日照紛争の判例の積み重ねによって、相隣権として市民社会の下部から生成発展され、確定されていくべきものであるというのが一般の考え方で、またそういうのが正しいようでございます。  しかしながら、相次ぐ日照権紛争、百九件にも達する判例や、あるいは二百例にもなんなんとする地方公共団体の日照権確保のための条例や、また指導要綱は、すでに生成されつつある日照権を意味し、またそれを踏まえて、今回の日照権確保についての公法上の一部介入もやむなしということで改正案が提案をされていると思うのであります。そのように考えてまいりますと、やはり日照権の存在を前提にはっきりこの際置いた方がいいのではないかというような感じがいたします。  今回の改正案を裏から読めば、第一種、第二種住専、住居地区、近隣商業地区、準工業地区に限り、日影をもたらす相手方が新築をするときに限り日照権を認める、すなわち場所的に、時間的に制約をして、部分的に日照権を認めるというぐあいに理解できるわけでございますが、多分このような理解の仕方を私が示しますと、恐らく、いやそうではない、日照権を是認しているのではない、あくまでも環境保全のための日影の排出基準を決めるのだと言われるのではないかと存じます。  しかしながら、今回の日影の排出基準が私法上の日照紛争の裁判に際して、日照権の内容と限界について現実に一つ基準となりつつあるということ、いわゆる日照権確立への踏み台となっていくことは事実でございます。このことは、政府提出資料による港区六本木事件の判決についても明らかなところであります。ですから、やはり日照権の存在を前提に置いてよいのではないかと思います。私の考えでは、日照権は人間生存の本源的欲求に基づいた基本的な権利でございます。それを前提として、よりよい環境を求めて、社会的な調和と合意を図る公法上の介入という論理でこれからも貫かれていかなければならないということでございます。  このことは非常に重要なことでございまして、一朝一夕に簡単に決断できることではないと思いますけれども、今日までの日照紛争に関するすべての住民運動、それを受けての各地方自治体の指導要綱条例等も、日照権の存在について無言の合意を前提としているのではないかと存じます。市民社会の内部から生成されつつある日照権を先見的にとらえていくということ、このことが今日のばらばら行政に対して終止符を打つことでございます。そういうことで、ひとつ積極的に日照権の存在という形のものを認める形でこれから考えていただければよろしいのではないかというぐあいに考えます。  次に、今回の対象地域の中から商業地域、工業地域が除外されているということについてでありますが、日照紛争東京に限ってみますと、四十九年一月から五十年三月までの日照紛争件数五千百三十一件のうち商業地域紛争は千四百四十三件、全体の二八%にも達しているのであります。  まず第一に、このように紛争の多い商業地域を今回の日影の規制対象から外すということは、本改正案提案の理由の一つでもございます住居の安寧を守るという考え方からも反するのではないかと思います。  第二に、商業地域は商業の利便を追求する地域であるからという理由で日影問題に触れないということは、住居兼用の多い商業地域現状を無視していると思います。日照紛争の激化に見られるように、法が不十分であるから法改正をするという前提は、この時点から崩れてしまうのではないかと思うのであります。  第三に、商業地域や工業地域は、建築基準法上日影の制限の定めがないからということで、今後日照は不要であるのではないかというような世論を横行せしめ、かえって紛争を激化させるようなことにはならないか、ひいては理想的な都市計画を台なしにしていくことにはならないかというようなことを心配するのであります。商工業地域日照紛争は、個々のケースに応じた私法上の相隣関係として勝手に解決せよということでは、本改正案の根本精神は生かされないと思います。行政的にも首尾一貫をせず、頭隠してしり隠さずの感じがするのであります。  また第四に、この改正案によって、地方自治体の日照保護に関する条例指導要綱は十分にカバーされ、あいまいな、まちまちな基準で行われている日照の保護は統合、整備されるであろうと考えているようでありますが、商工業地域を従前のままでほっておく限り、整理されるどころか、かえって自治体の条例、要綱はそのために必要不可欠のものとして残存し、かえってアンバランスをもたらして、ばらばらの建築行政への批判が強くなるように心配をするわけであります。  第五に、日照の問題というのは、日照対建物の問題ではないか、そういう問題ではないと思うわけであります。日照の問題は、日照対人間の問題であります。したがって、今回の法改正の中でも住居地域ということでしぼっている。これは御承知のように、たとえば五人家族でございますと、残っておるのは奥さんだけであります。御主人は大体商業地域に行かれる、息子たちは大体学校へ行かれるということであります。したがって考えてまいりますと、商業地域をこういう観点から考えても、昼間人口が非常に多くなる商業地域を対象から外すということは、建物だけに日を当てることによって可とする、そういうような誤ったことになると思います。したがって私は、やはりこの際、商業地域の問題についても対象から外してはならない、一律に考えていかなくてはいけないと考えております。  次に、若干問題は別になりますけれども、私は、公園あるいは児童遊園地の日照確保について、この際意見を申し上げたいと存じます。  御存じのようにわが国は、欧米諸国と比べまして非常に公園面積が不足をしております。外国の例を引きますと、一人当たり公園面積は、ベルリンで二十四・七平米、ロンドンで二十二・八平米、ミュンヘンで二十・三平米ございますが、東京においては一人当たりわずかに一・一五平米しかございません。このことは、東京には日照を享受できる共通の広場がないということで、都市計画あるいはまた高層化の足を引っぱり、欧米には見られぬような日照権紛争の激化をもたらしている遠因となっているのであります。ですから、公園、児童遊園地の拡大はいまさら申すまでもございませんが、既存の公園あるいは遊園地の環境を守る、特に日照権を守るということは、非常に大切なことだと思うのであります。  実は昭和四十七年六月に、東京都中野区江古田公園の南側に隣接いたしまして高層マンションが建設されようとして、特に南側は小高い丘になっているものですから、これが建ちますと公園にはほとんど日が当たらなくなるという嘆かわしい状態が生まれようとしたのであります。私はこの日照を守るための運動を推進したのですが、幸いマスコミも取り上げ、それから中野区議会でも、公園等広場の日照確保に関する意見書を都知事に提出をいたしまして、ようやく公園の日照を確保することができるようになったのであります。  本改正案の中でも、第五十六条三項には次のごとく書かれております。「建築物の敷地が二以上の道路に接し、又は公園、広場、川若しくは海その他これらに類するものに接する場合、」建築物の各部分の高さについての緩和に関する措置を政令で定める、となっております。言うならば感覚として公園等の広場に面する建物は若干高くてもいいという感じが主流として流れているわけであります。ですから、ひとつそういうような感覚をこの際ストップをかけてもらう。むしろ公園等の広場に面した建物は低く押さえられなければならないというような形で考えていくことが正しい方向ではないかと思います。現実に東京の井の頭公園等の周囲は高層マンションが建ち並び、日照、通風を遮断し、また美観を壊し、公園環境を著しく破壊をしているわけでございます。  以上、気づいたまま御意見を申し上げまして、私の参考意見とさせていただきます。
  71. 天野光晴

    天野委員長 以上で参考人の御意見開陳は終わりました。     —————————————
  72. 天野光晴

    天野委員長 これより質疑に入ります。  なお、質疑の際には参考人を御指名の上お願いいたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。村田敬次郎君。
  73. 村田敬次郎

    ○村田委員 時間の関係で二、三点にしぼって簡潔に質問をいたします。  ただいま五人の参考人方々から御意見を拝聴いたしたわけでありますが、ただいまの御意見の中にもございましたように、この日照権の問題というのは、基本的には隣地の上空間利用と自分の土地の日照確保との関係、すなわち私法上の相隣関係として理解をされておったわけでありますけれども、その後裁判所あるいは住民運動その他のいろいろな行動を通じて、もう裁判所が私法上の問題としてのみ判断すべきことはできなくなった。この日照問題は、住環境における重要な問題として、いまや公法の分野として重要な関心事となってきたということが指摘をされたわけであります。  それから、私はこの住宅問題非常に重要だと思いまして、実は西ヨーロッパ、ソ連等を住宅視察に参りました際に、この問題についての外国の対応の仕方を探ってまいりました。その際に、非常に私は実は驚きであったのでございますが、この日照権問題が特に日本的な問題であるということに気づいたわけであります。なぜならば、それらの国においては、まだ日照権問題というものを都市問題の専門家ですら理解のできない人たちがある。そういったことから、一体これはなぜであろうかということを考えたのでありますが、これは日本の社会生活の超過密、そしてまた人口密度というものが特に過密過疎の関係で大都会に集中をしておるということから、この問題が非常に現実の課題として浮かび上がってきたということを理解したのであります。  たとえば、一番いい例がオランダでありますが、オランダは確かに面積においても人口においても、日本の約十分の一前後しかありません。その意味において、国の持っておる人口密度は日本と大差はないのでありますが、可住地面積という意味で言えば、オランダは国土全体がほとんど可住地である。日本は国土の二割前後しか可住地がないわけでありますから、実際の可住地面積から言えば日本の五倍以上になるというような事情がございまして、これらのことはフランスでもイギリスでも皆同様であります。したがって、この日照権の問題は、特に日本の、また特に大都市の問題として非常に大きくクローズアップされておるということを、この際まず申し上げておかなければなりません。  そして、先ほど五十嵐参考人の御説明の中に、地方公共団体において指導要綱等に基づいて住民同意を要件として義務づけておるという御指摘がございました。しかし、これは先ほど申し上げましたように、私法上の問題から公法上の問題として、国が初めて公法上の介入をこの建築基準注の改正によってやろうとしておるという意味から言えば、住民同意を果たして法律の要件にすることが適切であるかないかという問題が非常に私は大きな問題点であると思います。この問題について五十嵐参考人意見はすでに承ったわけでありますから、入澤参考人それから田村参考人、このお二人の意見をまず伺ってみたいと思います。
  74. 入澤恒

    ○入澤参考人 ただいまの御質問は、公法上の問題として取り扱えば同意制はどうかという御質問でございます。私は同意制には反対でございます。先ほど若干申しましたように、私権対私権、全くそういった裁判上の問題でありますと別でございますが、公法上の問題でありますと、居住環境の問題という観点からしますと、同意する場合の判断基準が非常に問題ではなかろうかと思います。適切な判断基準のもとにそういったことになればいいのですが、場合場合によりまして非常にばらつきがあるということは、都市環境確保する意味から非常に問題ではなかろうか。  はっきり実例を申しますと、しばしば金銭授受によりまして同意が行われた。そのために非常に居住環境の悪い住宅地が形成されておる事実がございます。そういった場合にいかにするか。単に同意をもってしてはだめでございまして、やはりこの点は広い意味の公共的な居住環境の観点から、一般住民の方の判断基準にもなる、また公の公共的な判断基準になる、こういった意味の判断基準としまして基準を制定しまして、これによって行うべきである、こう考えております。  以上でございます。
  75. 田村明

    ○田村参考人 横浜市の日照要綱について申し上げますと、その中では同意制と時間と両方併用してございます。しかし、一定以上の基準、一定以上の日照が得られているということが私どもにとって一番必要なことでございます。一定以上の日照が得られた場合には特に同意を必要としてございません。しかし、敷地の状況その他で非常に時間が得られないというケースも現実の都市の中ではあるわけでございます。このようなものはぜひ同意をとってくる。このように両面を使っているわけでございます。私、先ほど申し上げたとおりに、これは市民的ルールとしてつくっていくべきものであるというふうに考えます。  しかし現実の問題としましては、都市の基本的な諸整備に諸前提が足りないというところにこの日照問題があるわけでございます。したがって、この前提を変えていく。都市の構成の仕方、それからその詳細計画、土地利用計画、敷地の分割の仕方、このようなものをやっていきませんと基本的な解決になりません。したがいまして、現実の現在の中では、ある一定の範囲内においてはそのように両方側の同意ということが部分的に必要だということが生ずるものだというふうに考えてございます。しかし、そのような基本的前提を変えていけば、これは一定のルールに乗ってくるというふうに思うわけでございます。それを現在いきなり全部が一定の条件の中で切り捨て御免でやれるかどうか、これは若干問題がございます。私、基本的にはルール設定ということに賛成でございますけれども、しかしその残されている弾力的な部分についてはやはり現実に同意の問題があろうか、このように考えております。
  76. 村田敬次郎

    ○村田委員 引き続いて飯田参考人中村参考人の御意見を少々承りたいと思います。
  77. 飯田久一郎

    ○飯田参考人 いまの問題についてのお答えでございますか。
  78. 村田敬次郎

    ○村田委員 そうです。いまの問題です。
  79. 飯田久一郎

    ○飯田参考人 この点は、私は、ただいま横浜市の方からお話がございましたが、現状ではある程度の同意ということも必要ではないか、しかし基本的にはやはりこれはルールでもって割り切るべきものではないか、こう考えております。
  80. 中村富雄

    中村参考人 付近の人たちが非常に客観的に、合理的に、理性的に、相当程度余り感情を高ぶらせないで判断をできるとよろしいのでございますが、御承知のように近隣関係というのはしばしばけんかの状態になったり何なりするわけでございますが、現実問題としてそういう人たち同意をいただくということは非常にむずかしい。そしてまた必要以上の多額の承諾料を請求されたり、それによって事実上家が建たなくなったりということもあるわけでございます。したがいまして、私はやはり基本的には同意というのはない方がいい、ないような形で、むしろ行政上の指導なり、あるいは法に基づいたそういうようなものをきちっとすみずみまで、かゆいところまで手の届くような形で整備をしていくということが大切ではないかと考えております。
  81. 村田敬次郎

    ○村田委員 次は五十嵐参考人に承ります。  五十嵐参考人の御意見では、この法律改正に反対である。その理由の一つは、こういった法律規制を全国一律に適用することは望ましくないということが挙げられておったわけであります。たとえば本改正法の五十六条の二「日影による中高層の建築物の高さの制限」という規定の四項を見ていただきますと、「地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地利用の状況により必要と認める場合においては、政令で定めるところにより、条例で、別表第三(に)欄及び(ほ)欄に掲げる時間に代えて、これと異なる時間を定めることができる。」という規定がございます。これは、地方の実情に応じて地方団体が選択をするという理由を認めておるわけであると思いますが、こういった規定がありましても、なおこの法律自体を制定することに反対である、こういうふうにお考えですか。
  82. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 私が全国一律適用することについて反対であると申し上げた根拠がございます。それは、住環境一つは日影規制基準によってのみやろうとしている点が問題だからでございます。  第二点は、地方自治体によって日影規制基準について、先生おっしゃるとおり時間の上限が認められておりますけれども、その適用対象地区について、先ほど言いましたように商工業地域については完全に欠落、住居近隣準工業地域については都計審の議を経て決めるということになっております。したがって、商工業地域についてはこれによってもカバーできません。  なお、商工業地域について規制基準をつくらなかった理由として、社会的合意の存在することが不明確であるということが根拠であると思われますけれども、まさに商業工業地域についても社会的合意の存在すること、そしてそれゆえに日照権の裁判等によってそれが認知されていることまた社会的な事実なわけでございます。  そういう意味において、この法案は全国一律適用するについては全く不適であるというふうに考えるわけであります。
  83. 村田敬次郎

    ○村田委員 先ほどの田村参考人の御意見の中に、この法律案は本質的な都市問題に取り組む部面と具体的な問題に取り組む面と両方あるということを御指摘になりました。私もそういうふうに理解をいたしますが、ただ、具体的な問題については、相隣関係でございますから、したがってこれは私法上の関係に帰せられる問題が非常に多い。こういった公法によって一律に制定をすることには、はなはだしい困難があるわけでございます。したがって住民同意につきましても、先ほど五人の参考人の御意見を承ったのでありますが、五十嵐参考人の御意見は別といたしまして、住民同意を義務づけることは好ましくないという御意見が圧倒的であったように思うわけであります。そしてまた、本質的な都市問題として理解する場合は、日本には住宅が足りないのでありますから、したがって住宅を建てなければならないわけであります。したがって、住宅を建てるという意味から言えば、いままで非常に問題となってきつつあった特に大都市の日照権の関係において、この法律が制定されることは私は大きな前進だと思っております。したがいまして、この改正法案による日影規制等が施行された後において、中高層建築物による住宅供給に対してどのような影響を及ぼすことになるだろうかという問題、これはこの法律の中心問題点でありますが、ひとつ五人の参考人から簡単に御意見を承りたいと思います。
  84. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 今回の法案によりますと、一つは、住居系地域について日影規制基準を認め、商工業系地域についてはこれを放任するわけでございます。これを前提としましてその適用の結果を考えますと、一つは、住居系地域について敷地が非常に零細化しているという前提から見ますと、反面建たないおそれが出てまいります。それからもう一面、商工業系についても住宅が非常に多いという地域都市にはいっぱい存在しております。ここでは、建ててはならない物が建つことになります。同時に、日影規制基準というのはいわば日影を許容できる許容範囲を決めるわけですから、その中で建てる場合に、少なくとも建築形態としては塔状になってまいります。つまり細長くなってまいります。これは都市環境にとってきわめてよいものとは思われません。むしろ悪化すると思われます。先ほど言いましたように、私ども調査によりますと、地方公共団体の中に三百を超える指導要綱がすでに存在しておりますけれども、その地域実情に合ったやり方でやらなければいけないというふうに考えているわけでございます。
  85. 飯田久一郎

    ○飯田参考人 この点につきましては、先ほども申し上げたのでありますが、やはり日照権の方と並行して、宅地供給について格段の配慮がほしい。たとえば都市の再開発というようなことについて強力な施策を必要とするように思います。
  86. 入澤恒

    ○入澤参考人 住宅供給がどうなるかという問題でございますが、住宅供給の問題は、相当ほかの分野といいますか、たとえば金融の問題とか土地の問題とか、そちらの方に非常に大きなウエートがあるかと思います。もちろんこの日照確保によります規制によりまして若干の影響を受けるかと思いますけれども、すべてがマイナスではございません。プラスの場合もございます。と申しますのは、たとえば現在でもそうでございますが、容積率を低く規制しますと地価が下がっております。その点で、規制が厳しいということはある程度地価を下げるであろう、地価を下げることはある程度逆に住宅の供給を増すのではなかろうか、こう考えております。  それから、既成市街地の場合におきましては、非常に敷地が零細化しております。これ以上現状では建ちません。何らかの方法としまして、規制が厳しければある程度共同化するという方向に持っていかざるを得ないであろう。でございますから、別に共同化する場合に何か金融的な措置とかそういったことをやれば、かえっていわゆる不燃耐火造、防災にも強い、そういったような住宅の供給がむしろ促進されるのではなかろうか、こう考えております。
  87. 田村明

    ○田村参考人 住宅をつくりますのには、単に日照の問題だけではなしに、たとえば教育施設、道路の問題、上下水の問題あるいは交通機関の問題、その住居は一体どこに対する住宅供給なのかという、ことに交通が非常に延びた場合にはその交通機関、こうしたさまざまな条件がございます。したがいまして、これだけでどうこうということはさしあたりない。むしろそのほかの問題の方がより重要であろうかと思います。  しかし、いま入澤先生からも御指摘がございましたとおりに、また、私も先ほど御指摘申し上げたとおりに、現在、敷地分割が自由で非常に細分化してございます。この条件の中で現行法律でいきますと法律に抵触いたしますから、実際に住宅を建てることが著しく困難になるということはこの面からまた改めて予想されるところでございます。  しかし、また同時に、この法律で、先ほども申し上げたとおりでございますけれども、一方において日照を確保したいという人々の要求もございます。したがいまして、仮にこの法律の要件を満たしたとしましても、あるいはそれで住宅供給がそのほかの条件を満たしまして可能になった場合でも、隣接住民から、これについては日照を確保しない、日影は確かにこれでよろしいかもしれないけれども日照を確保しないという声が必ず出てまいります。私先ほど申し上げたとおりに、基本的前提が問題でございますけれども、しかし、その基本的前提はいま変わっておりません。現実にそうした日照を阻害される人が出てくるという状態の中では、この法律に適合してもなおかつ日照を確保するためにこれをとめてくれという、こうしたトラブルが出てくるのはまず必定ではなかろうか。その面から規制をされると思います。  それからさらに、技術的な問題でも申し上げたとおりに、法的な手続の中で出された書類が果たして正当であったかどうかということは、これはきわめて問題でございまして、具体的にそのようなトラブルになりました場合に、その確認申請書の書面そのものがまた再度問題になってくる、このようなことが考えられ、住宅問題についても阻害要件になるだろうというふうに予測されます。
  88. 中村富雄

    中村参考人 住宅問題は土地問題でございます。総合的な土地対策がなくては住宅問題を解決することはできない。当然でございます。しかし、御承知のように、このような形で日照の問題が出てきたというのは、いままで大体二階、木造ということで日照を十分浴びることができたということで平穏無事に暮らしておりました状況の中に、忽然として高層マンションやあるいは高層建築が建ち並びまして、かくして日照問題が起こったわけであります。それについて今回日影を規制しようということで出ているわけでございますから、当然そういう面では住民の皆さん方についてはある程度これからは安心して住むことができる、そういうような不法な、日照を阻害するような建物をこれによってチェックできるというようなことで大きな恩恵を与えていくことができるのではないか。もちろん不十分ではございますけれども、これをスタートとして、やはりこれから十分に体制を整えていったらいいのではないかというぐあいに考えております。
  89. 村田敬次郎

    ○村田委員 もう一点だけ最後に質問します。  ただいままでの五人の参考人方々の御意見によって、日照権問題だけではなしに、住宅問題は、たとえば宅地の問題、土地、金融面、都市計画、上下水道等の環境面、教育面、あらゆる面から総合的に判断をし、進めていかなければならないわけでありますが、その中でも日照権問題についてこの法律案というものが大きく前進をしておるということについては、大方の最大公約数であったように思います。  最後に五十嵐参考人に伺いたいのは、あなたはこの法律案自体の制定は必要がないという御見解のようでありますけれども、その場合に、それならば全国二百あるいは三百といったような地方自治体の指導要綱に任しておけばいいのであって、国はこの問題について何ら介入をする必要がないというふうにお考えになっておられるのか、あるいは法律を制定する必要があるがその場合はこういう法律を制定すべきであるというふうに考えておられるのか、その点を最後に伺います。
  90. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 私は、国の法律である建築基準法によって日照権を規制することについては反対です。それで、むしろ方法論としましては、日照問題というのは環境の問題でございますから、環境法の中で日照権の大要を認知していただきたい、その地方自治体によって住民とともに、あるいは建て主とともに築き上げられてきているルールを当面見守っていただいて、その意味で地方自治体に当面を任していただいて、その集積を待っていただきたい。その上で改めて国法として考えるべきであるという考えでございます。
  91. 村田敬次郎

    ○村田委員 もう一点だけ。  東京都において太陽のシビルミニマムという問題が起こって非常に日照権問題がやかましく言われ出しました。それで、それを年を追ってずうっと調べていってみますと、日照権問題は東京、大阪が圧倒的に多いんです。そしてだんだんそれが名古屋その他の地方都市にも及んでおるというのが実態でありますけれども、あなたの御意見を聞いておりますと、当分は野放しにして地方自治体のやるままにしておけばいいというお考えであるように感じられるのです。それで果たしてこの日照権問題についての本当の国民的なコンセンサスが得られるのか、それからまた、現在起こっておる住宅問題について、あるいは憲法上の基本権とさえ考えられ出したいわゆる太陽のシビルミニマムということについて政府が出そうとしておる回答そのものが現在は不適当であるということなのか、その点だけもう一点。
  92. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 私の説明の仕方がまずかったのかもしれませんけれども、私が言っているのは野放しにしていいということではございません。その証拠に、昭和四十六年に初めて指導要綱というのが武蔵野市にできて以来、全国三百六地方団体に発展し、かつ宅地開発指導要綱とともにこれがまた急速に増加する傾向にあるのでございます。むしろ国としましてはこういう宅地開発要綱もしくは中高層建築物指導要綱の発展と条例化を助成すべきである、この方面から地域住民とともにその都市あり方を決めていただきたい、そのことを助成すべきであるというふうに考えているわけでございます。
  93. 村田敬次郎

    ○村田委員 終わります。
  94. 天野光晴

    天野委員長 福岡義登君。
  95. 福岡義登

    ○福岡委員 まず田村参考人にお伺いしたいと思うのですが、時間がございませんので、要点だけにしぼってお伺いしたいと思うのです。  御指摘のように、いま政府が提案しております日照権確保の方式は、全国一律に基準を決めまして、気候とか風土とかあるいは土地利用の状況にかんがみまして地方自治体が若干条例でその基準を上下させるようにしているわけです。一方、一つ考え方としまして、日照の条例制定の根拠を法律で与えまして、選択の幅は幾つかのメニューを法定しまして、そして地方自治体が適当なものをその中から抽出をしまして採用をするという、いわゆるメニュー化方式といいますか、そういう考え方も出ておるわけであります。実際に法の運用をされますのは地方自治体でございますので、そのいずれがいいか、さっきからのお話を聞きまして大体推測はできるのでありますが、その点をお伺いしたいと思います。  それからもう一つの点は、地域住民の合意によってやる。現に横浜でやっていらっしゃる。これは一つのやり方だと私どもも思うのでありますが、また原則はそうあるべきかもしれませんが、問題が一つあると思いますのは、現に合意の協議に参加する住民は問題ないわけであります。ところがその人はそこに永住する人ではない。特にそういう日照問題が問題になる地域というのは比較的人の出入りが多いわけでありまして、その合意に達するときの協議に参加した人はそれで問題がないと思うのであります。ところが後から入ってきた人は、その合意の協議には参加していないわけです。したがって、言われておる基本的人権を前の人の協議によって大きく言えば侵害される、わかりやすく言えば日照権の確保ができない。ですから私どもの気持ちとしては、一般論としましては、どこに行っても住んでも一定の日照は確保できる、そういうことが必要であると思っておるわけであります。そうしますと、やはり法律である程度のものを決めておく必要があるのではないかという気がするわけであります。その点について実際にはどういうようになっておるのか、あるいはどういうようにお考えになるのか、二つの点をお伺いしたい。
  96. 田村明

    ○田村参考人 初めのメニュー方式、選択法式でございますが、この現在の法律を制定するのであれば、そのような方向が望ましいというふうに考えます。ただしこの場合の選択法式は、方式そのものに問題がございます。私先ほどるる申し上げましたとおりに、日影規制という方式そのものに種々問題がございます。現実に日照が阻害されてくる、阻害されている、あるいはされかけているというところに起きた問題でございます。それを改めるためには、何遍も申し上げるとおりに、都市の基本的な構造、敷地の問題、詳細計画その他の問題が必要でございますが、これが急速にできない、しかし現実に市民を救済しなければいけないというところに起きている問題でこの日照ということを考えているわけでございます。それを画一的な日影という方向で考えてしまうというのは、都市の基本的な整備ということが十分にされた上でならともかくでございますが、現行それがされてないので、日影だけをとるということは著しく不適当である。したがいまして、この選択法式をとるのでも、日影方式以外の種々なる方式が選択できるということが必要でございまして、単に時間が少々長い短いということは余り大した問題ではございません。もちろんそれも必要なことではございますけれども、むしろ本質的な問題は、この日影規制という方式そのものが問題でございまして、これ以外のことが選択できる、そのようなことが現実に行われ、ある程度住民同意を得て、いままで法律ではないにしても市民の間の法ルールとして育ってきたものを育て上げる、このような選択が可能なことをぜひお願い申し上げたいわけでございます。  次に同意の問題でございます。私先ほどもちょっと申し上げましたが、横浜市の方式でございますと、一定以上の日照を確保した方につきましては、これは同意は必要としておりません。したがいましてこの部分については一定のルールに基づいているわけでございます。しかし何らかの事由、つまり敷地が非常に狭過るとか鼻がつかえるようなところに建ててしまったとかいう方は、これはどうしても時間が確保しようがございません。したがいまして、この方のところについては一定の時間が確保されませんから同意を必要とする、そのような二方式でございます。  したがいまして、私ども市民の住環境として日照を確保していきたいという考え方からは一定の基準を持ち、それ以上の方はずっと遠くに離れていて日照は十分当っているのに、同意が必要だ、これはいささか不合理でございますから、この方は若干問題がございましてもそれでがまんしていただく。しかしそうでない方々については、やはり現実に日照を阻害されている、そのような生活権を守るために同意をぜひ得ていただくということが必要かと思います。  しかし、これは人がかわったというときにどうなるかという問題もございます。しかしまあ同じそこに住むという人がいるわけでございまして、簡単に同意をするかどうか種々の問題がございます。これも一定の、単に一片の法律で時間を切ってしまうのではなしに、私ども担当者が中に入りまして具体的な話し合いをいたします。その中で両方にとって最もふさわしき条件、こういう条件の中だったらこれはやむを得ないんじゃなかろうか、そのかわり同意を得てくださいよというふうに、そこまで煮詰めるわけでございますから、そこででき上がったルールというものは後の方が入ってきましても一定の客観性を持っているものである、一片のもので割り切ってしまう、そういうことはいたしません。長い間の話し合いを通じてできました合意でありルールであるということの中でそのような客観性を持ち得るというふうに考えているわけでございます。
  97. 福岡義登

    ○福岡委員 田村参考人にもう一つお伺いしたのですが、メニュー化方式でいく場合、おっしゃるように日影規制だけではいかぬというように私どもも考えます。それで裏と表の関係ですが日照日影、それにおっしゃるような合意方式と、いろいろ考えられるのですが、もしこの幾つかのメニューを持っておられるならば、きょう聞かしていただければその方がいいのですが、もし後日になりましても、そのメニューはこういうものが考えられるというものをぜひ聞かしていただければ参考になると思います。
  98. 天野光晴

    天野委員長 いまありますか。
  99. 田村明

    ○田村参考人 はい。詳しいお話はまた別途といたしましても、私先ほど申し上げた一つの観点、つまり行政上非常にこれを明確にできる、そしてお互いにそれがわかりやすいということがやはりこうした公法的なものの一つの法的なあり方であろうというふうに思います。そのためにはできるだけこれを形態的なものに置きかえる。先ほど私申し上げましたが、横浜市の中で高度地域あるいは北側斜線制限の強化等を行っておりますが、さらにこれに日照的な条件、これは条件によって違います、建物の長さが何メートルの場合にはとうなる、これは幾つかの段階を経なければいけないと思いますが、そうしたものをいろいろに検討する、検討した中で、できるだけ形態的なものでこれを規制する、しかしそれに加えて若干の日照等のようなものを加えていく、このような方式がよろしいのではないかと思います。  短い間でございますから詳しい御説明はいたしかねますけれども、メニューという中ではできるだけわかりやすい、そしてだれでも納得がいき、その中ですぐ目で見てわかる、このようなものをできるだけやっていくべきであると考えます。  しかしもしそれが十分できない段階では、日照という問題これだけ重要な問題になったわけでございますから、日照に関する条例等を国が積極的に推奨する。日照条例を作りなさいということを国が法律で決めます。しかし、中身は自由である、それぞれの地域の中で決めていく、しかし、要すればそれに対して、これは法律そのものではなく指導的な文書として、こういう方式もあります、ああいう方式もあります、一つは日影もありますということを指導文書として流されるというのが最も望ましい方式で、国としては日照問題を法律の中に取り上げた、こういう形をとっていただくことが最も望ましいというふうに考えております。
  100. 福岡義登

    ○福岡委員 わかりました。  最後に五十嵐参考人にひとつお伺いいたします。先ほど御高見を拝聴しておったのですが、日影規制あるいは日照確保につきましては一切地方自治体に任せろという御議論なのですが、今日は議論をする場ではございませんので、御意見をお聞きしたいのです。  地方公共団体が三千三百ほどあるわけでございますが、その中で二百十四ですか、確かにおっしゃったように、条例なり、あるいは指導要綱をつくってやっておるわけであります。この二百四十の中でも、七十八の地方公共団体は、建築主事がいないために特定行政庁にゆうだねておるという実態があるわけであります。確かにある時間かければ、地方自治体が、住民合意などの上に立ちまして日照権の確保ができるように条例制定などもできると思いますが、この四十六年以降の実績を見てみますと、そう簡単にはいかぬように考えられるわけであります。したがって、私どもとしては、いま田村参考人の御意見をお聞きしましたように、内容はいまから検討するにいたしましても、やはり法律で一定の方向を決める必要があると考えておるわけであります。その辺の御見解をひとつお伺いしたい。  もう一つは、入澤参考人からは日照の一つ基準考え方というものが示されたのでありますが、五十嵐参考人としては、日照の基準というものはどういうところに置くべきかという御意見があれば、参考までにお聞かせいただきたい。  以上でございます。
  101. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 ます初めに申し上げておきますけれども、私は本改正案の中で評価している部分がございます。むしろ積極的に推進してもらいたいと思っているものでございます。それは、先ほど言いましたように容積率の問題でございます。一般に多くの研究報告がありますけれども日照紛争を基本的に困難にしている原因は、日照の、逆から言いますと日影の量もさることながら、それを生み出す空間が非常に大きいということでございます。幸いにして、本改正案の中に、空間を減ずる方向、つまり容積率を低減する方向がありますので、これをぜひとも住居系地域に限らず商工業系地域でも検討してもらい、かつ、これは全国的に実施してもらいたいというのが第一点であります。  第二点の、地方公共団体指導要綱の制定の状況でございますけれども、従来、私どもが自治体担当者等からいりいろ話を聞きますと、むしろ国の方で基本的に日照権の認知の方向に行くか行かないか、これはいままであいまいにされていたために、場合によっては、いつも問題になります法律条例もしくは指導要綱関係が複雑なために、実施がおくれているというふうに考えます。  具体的な状況を申し上げますと、たとえば東京都議会建築公害対策市民連合が日あたり条例というのを直接請求しております。その中で、いつもやはり建築基準法改正案が頭にありまして、それと抵触するかしないかということだけが——もちろん社会的合意を得るかどうかという前提もありますけれども、大きくおくらしている一つの理由かと思います。  したがいまして、むしろ国の方で、先ほど言いましたように、日照権を認める方向で積極的に指導助長すれば、自治体は著しくスピードを上げて指導要綱の制定に回るだろう。そうしなければ、日本の国土じゅう全部、日照権の住民運動だらけになるという現実があるからでございます。  なお基準について私考えますけれども、商工業地域について基準があり得るかあり得ないかという問題に具体的にしぼって考えますが、基準というのは、自分たちがみずから住んでいた町の範囲内での建物は通常住民は許容しております。これが基準でございます。これこそまさに全国一律にいかない理由なんでございます。つまりその町はその町ごとに、たとえば港町もあり、城下町もあり、商店街もあり、近隣商業地域もあり、中小企業地帯もあるから、その町ごとにその基準が異なるわけでございます。だからそれゆえに一番直に接し得る地方自治体によって決めていくことが望ましいという意味でございます。したがって、いま何時間という確定的なものは存在しないし、また存在すべきでないという意見でございます。
  102. 福岡義登

    ○福岡委員 終わります。
  103. 天野光晴

    天野委員長 柴田睦夫君。
  104. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 まず初めに入澤参考人にお伺いいたしますが、入澤参考人は、本法案日照基準の土台となりました中間報告を作成した建築審議会の日照基準専門委員会委員でいらっしゃったわけですが、この中間報告で初めて全国的な日照基準の最高時間を四時間とする、こういうことになったわけです。先ほど御説明を聞いておりましたが、何時間にするかという科学的根拠はまだ確定されていない、いろいろなものを総合的に考える、こういう御意見でありましたが、四時間とするということに至るその根拠をもう少し具体的にお聞きしたいということが一つです。  それからもう一つは、日照基準、それから日照時間と用途地域を結合するわけですが、中間報告では基準の第一種一種住専に、第二種をその他の規制対象地区にということで、基準と用途地域の結合について具体的には述べられていないわけです。本答申も同様であるわけですが、本法案では具体的に用途規制と日照基準をリンクさせるとともに、この中では商業地域については日照基準基準の適用を除外しておるわけです。この点についてどういうお考えを持っていらっしゃるのか。以上の二つをまずお伺いしたいと思います。
  105. 入澤恒

    ○入澤参考人 二つ御質問がございまして、一つは、日照四時間の根拠を示せということでございます。中間報告にございますので、よくお読みになるとわかりますけれども、私どもは決して四時間日照ぴたりと決定いたしておりません。  先ほども話がございましたように、日影と日照とはうらはらでございますが、完全なうらはらではございません。何時間日照があったら最もいいか、先ほど申しましたようになかなかむずかしい問題でございます。この辺は、都市現状がどうなっておるか、一般の住宅地、低層住宅地はどうなっておるか、過密の住宅地が一体どうなっておるか、それに住民がある程度満足しておるだろうかどうか、こういった調査をやりまして、さらに、過去におきましても、現在の住宅公団、公営住宅の団地がございます。あれは一応冬至におきまして四時間日照という基準になっておりますが、実はあの制定当時、私も若いとき若干関係しましたけれども、四時間日照というのははっきりした明確な根拠はございません。むしろ四時間日照にすれば日もよく当る、採光も十分である、周辺に十分なオープンスペースもとれる、そういったことをいろいろ検討しまして、建物の高さ、配置図を考えましたところ、結果的にむしろ四時間日照あたりが適当ではなかろうか、これなら説明しやすいということでございます。日照と申しますのはあくまでも住環境の総合指標一つでございます。ですから、われわれが日照四時間とたとえ言いましても、その四時間ということの中には、採光とか周辺のオープンスペースが十分とれておるかどうか、そういったことも入った上での考えでございます。  それから第二点でございますが、日照の規制の区域と用途地域との関係でございますが、これは私は用途地域制を非常に尊重するものでございます。やたらにいろいろの地区、私権を制限する区域がバラバラにあるということは困る、なるべく現在基本にあります土地利用の規制をやっております地域制にリンクさせるのがいいと考えております。そういった観点から、日照の規制区域は用途地域に合せればいいと考えておりますが、ただ問題は、どの程度の規制の区域の種類をどの用途地域の種類に指定するかという問題でございます。これはむしろ根本的にはいろいろ矛盾が出てまいりますのは、用途地域の種類さらに容積率の中身、さらにそれを具体的に指定する場合の指定の仕方に問題があるのではなかろうかとおもいます。はっきり申しますと、現在どこの都市でも商業地域というのは非常に広範にとっております。これはむしろ住民の要望でございまして、住民の要望に押されて商業地域が必要以上にとられている。また準工業地域、工業地域がそうでございます。第一種住居専用地域などに指定しますと、むしろ住民が反対する。現実の姿はそうでございまして、むしろ現在の指定そのもののあり方を改めて再検討すべきではなかろうか、こう考えております。簡単に申しますと、商業地域をもっと小さくする、そこを住居地域にすればいい、さらに容積率をもっと下げるとか、そういった方法があろうかと思います。  以上でございます。
  106. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 では次は五十嵐参考人にお伺いしますが、五十嵐参考人はいくつも日照裁判を手がけていらっしゃる、こういうふうに聞いているわけですが、そうした経験から、一つはいまの商業地域が除外されるという問題について具体的な事例から意見を聞かせていただきたいということが一つ。  それから、基本的を意見の中でお話しになりましたが、日照裁判の判例の到達点、これも具体的な事例でどこまで判例が進んでいるということについての意見を聞きたいと思います。  それから、今回の法案は、結局公法上の規制を建築基準法という点から日影規制を行うという内容になるわけですが、この建築基準法で公法規制を行うということについてどう考えられるか。さらにこの法規制が判例やあるいは地方自治体の条例指導要綱にどういう影響を与えるか。その点についてお伺いしたいと思います。
  107. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 第一番目の問題について、私の考えているところを述べたいと思います。  たとえば大都市と言われる東京に限ってみまして、住居系地域と商工業系地域を分けて、その道用の面積がどのくらいになっているかという数字をまず考えてみたいと思います。今回の法案によれば、いわゆる住居、近商、準工については都計審の議を経て決めるということになっておりますので、これは不完全適用対象地域というふうになると思います。完全に本法案が適用されるのは第一種住居専用地域、第二種住居専用地域でございまして、東京二十三区で考えますと四五%でございます。不完全適用地域といわゆる適用外地域であります商業、工業を含めますとこれが五四・五%でございます。  日照紛争の土地を見ますと、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域というのは四十五年の法改正及び四十八年までの高度地区等の指定によってむしろ少なく、適用対象外もしくは不完全適用対象地区の方に激増している状態でございます。それは都市の基本的な骨格に基づきます。と言いますのは、通常商業地域等は道路沿いに指定される路線商業地域といわゆる全面適用される地域に分かれますが、この基準が非常に不明確であるというのが第一点でございます。第二点は、道路沿いを歩きますと非常にビルが多いように見えますけれども、その裏側等については依然として圧個的に住居が多いということでございます。したがいまして、本法律案がそのまま適用されますと、日照紛争はむしろ激増するだろうというふうに思います。  次に、これを司法の関係で見ますと、商業地域等で日照権が認められた裁判例というのは数多くございます。私が関係しました事件におきまして若干事例を申し上げますと、先ほど言いました恵比寿駅前事件というのは、商業地域でかつ駅からゼロ分以内でかつ再開発地域になっているところでございます。容積もたしか七〇〇%ないし六〇〇%くらいの非常に高い地域だったと思います。問題は、日本の法制上の致命的な欠陥として、道路との関係によって被害者が建物を建てられない。商業地域でもなおかつ道路との関係で、たとえば四メートル道路でございますとその道路に規制されて、片一方は商業地域であるが建てられる、片一方は建てられないという事態がしばしば、むしろ圧倒的に普遍的に生じております。恵比寿西決定の場合にはその点をとらえまして、商業地域といえども基本的人権が圧迫されることについては法律上とうてい容認できないということで、一部差しとめを認めた事例でございます。それからさらに世田谷区三軒茶屋というのも、先ほど言いましたように七〇〇%の高容積地域でなおかつ差しとめ決定を認めたものでございます。これは十五階建てを十階建てにしております。ただ司法上判断する場合には、被害を受ける建物現状固定的なものとは見ておりません。その地域において当然将来あり得るであろう住居もしくはその建築の形態を設定して決めております。そういう意味で非常に合理的なものになっている。その観点から見ますと、現行都市計画法の容積率というのは非常に矛盾が多いというのが第二点であります。第三番目に、先ほども出ておりました港区六本木事件というのは、まさにこの容積制の欠陥を指摘したものでありまして、本来用途地域制そのものは住居の安定かつ安全を目的とするものであるところを、四〇〇%等の高容積になるととうてい安全、安定は保たれない。したがって日照権も守られない。ところが業者の方は一方的にこの空間を限度いっばいに利用しているという点をとらえて、商業地域建築物について差しとめを認めた事例でございます。なお、先ほど言いましたように、江戸川区中央では工業地域について、主たる開口部から何時間という点で工業地域で決定例を見ております。こういうふうに、全国に散在している差しとめ決定例を見ましても、商業、工業地域についても、むしろその地域性よりは被害を重視していこうというのが一般的な傾向と思われます。  この法案に予定しております日影規制基準は、先ほど言いましたように、その根本においては用途地域制を基準とするものでありますが、この点について裁判所はとうてい容認し得ないだろう。したがって差しとめ決定例はなおかつ増大するというふうに一般的には言えると思います。ただ、先ほど言いましたように、本法案が仮に適用されますと、前回の議事録等を拝見しましたところ、日影規制基準を定めておるような指導要綱についてはこれを減殺させるという方向であるかに思います。それから第二番目に、裁判についても相当程度悪影響を及ぼすだろうというふうに思います。第三番目に、なおかつ発展している住民運動についてもやはり後退を強いるだろう。逆から言えば、日影規制基準が決められることによって、それ以外、つまり規制基準の適用になるところではその限度いっぱい、適用されてないところでは自由に建てていいのだという、いわば昭和四十五年の日照ゼロ地点に逆戻りする可能性があるというふうに考えるわけでございます。  以上でございます。
  108. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 もう一つ五十嵐参考人に、この法案の中身に建築協定を整備する条項が入っていますが、これについてはどういうお考えですか。
  109. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 私としましては非常に望ましい制度だと考えております。ただし、本改正案についても致命的な欠陥がございます。それは、借地権者の点を除いてやはり依然として全員の合意を前提としている点でございます。既存市街地におきまして全員の合意を得るような建築協定は至難と言うべきであって、むしろその要件を緩和して実施すべきだと思います。これも容積制とあわせて、早急に要件を緩和して実施することが望ましいというように考えます。
  110. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 最後に田村参考人にお伺いしますが、横浜市の指導要綱の具体的な運用といいますか、どういう成果を上げているか、あるいは運用上にこういう点が欲しいとか、そういう問題点などについて具体的事例からお伺いしたいと思います。
  111. 田村明

    ○田村参考人 先ほどちょっと御説明申し上げましたとおりに、横浜市の要綱は、基準とそれから同意と、両方併用している、場合によりましてでございますが、そのようなものでございます。  当初は、これはかなりの問題を引き起こしまして、当然そのときに幾つかの案件があったわけでございます。しかし、その後うちは日照相談室という専任の部局を設けまして、ここに専任の職員を配置し、なおかつ役所だけがやるのはうまくないだろう、しかし、かといっていきなり裁判ざたにするという問題でもないということで調整委員という制度を設けました。この中には法律の専門家あるいは建築の専門家、市民の代表という三者構成でございます。これが幾つかのグループをもちまして一つ一つの重要な案件についてやっていくということでございまして、これがかなりの効果を上げまして、現実のところ、まず大きなトラブルはない、もちろん具体的には、実際にいろいろまだその調整委員会等にかかっている問題が数多くございますけれども、しかし、この横浜市の指導要綱というものがかなり市民的にも定着し、業者の中でもこの程度はやむを得ないだろうというふうな合意を得てきた。なおかつ、そこで問題のあるものは、この調整委員会でさらに突き詰めた合意を得るような努力をする、もちろんいろいろなケース・バイ・ケースがございます。先ほど申し上げたとおりに、敷地の割り方も非常に乱雑でございますから、その場合に非常に不特定なケースも出てくるわけでございますけれども、しかしほぼ定着し、大体の効果を得た、これでほぼ私どもとしては法律がなくとも現実に運用が可能になった、このように考えております。
  112. 柴田睦夫

    ○柴田(睦)委員 終わります。
  113. 天野光晴

    天野委員長 北側義一君。
  114. 北側義一

    ○北側委員 いろいろいままで論議されておりましたので、あと一、二点だけ私お伺いしたいと思うのです。  まず、田村参考人にお伺いしたいのですが、先ほどお話聞いておりますと、今回の法改正、これによりますと境界線の明示等、これが法律化された場合に、自治体でこれをチェックしている人員の面とかあれで非常にむずかしい、こういう言葉があるわけです。仮にこの法律が通りますと、事実上これは実行しなければならないような事態になるわけですね。その場合に、実際上自治体においてこれはできないようなことがあるならば、この法律、これを審議しても全然話にならないわけなんです。その点、もう一度どのようにむずかしいのか、事実、人員の上で整備した場合にはできるのか、いわゆる官民境界または民民境界、こういうものが明確になっておらないのか、そういう点をもう少し詳しくお伺いしたいと思うのです。これが一点です。  それから、先ほど福岡委員がおっしゃっておられましたが、仮に今回の法律がいわゆる国会を通過した場合、この場合にはこの日影規制基準というものが、いままでの事実上は地方のいわゆる日照に関する要綱なり条例、これが全部やはりこれに一律に決められるわけです。その場合、先ほど 福岡さんはメニューと言っておられましたが、私 たとえばこの法律よりも弱い条例、要綱の場合は、これはいいんじゃないかと思うのです。しかし、 それ以上にあらゆる角度から、都市によって考え方が全部違いますから、そういう点で、もしそういう都市においてはこのような法律ができた上でもそれを取り入れてもよろしい、そういう場合には賛成できるものなのかどうなのか、この二点についてまず……。
  115. 田村明

    ○田村参考人 先ほどるる御説明申し上げましたが、この法律を現実に適用した場合に、建築主事、これは建築確認申請書を受けるわけでございますが、この立場としては非常に大きなむずかしさがございます。その中でもとりわけむずかしいのが、この決定的な要因になりますところの境界線でございます。境界線と申しますのは、きちんとした宅地割りをしたというふうな、区画整理でもした土地ならよろしゅうございますが、横浜市など御承知のとおりに乱開発、スプロール、スプロールでいろいろ土地が、宅地が出てきているわけでございます。そのようなところでは、現実に境界を査定するということは非常に困難でございます。  また、私も現に不動産等扱ったこともございますが、境界争いをいたしますと、これはもう孫子の代まで一生身代を食いつぶすと言われているぐらいに、当事者同士でやりましても非常に問題でございます。さらに、その第三者である自治体が介入いたしまして建築主事という立場でこの境界線を査定するということは、恐らく困難でございます。したがって、一方的に申請者のものを受け入れるという方向が行政上できてきてしまう。しかし、それでトラブルが起きた場合に一体だれが責任を持つのかということで、その点が主事としては非常に無責任行政と言うと悪いのですが、そのような行政にならざるを得ない。しかし、本格的にやろうとするとこれはできないということに明らかになります。したがって書面審査に頼らざるを得ない。  たとえば日影図の書き方一つにしてもそうでございます。これは日影規制の問題の書き方は簡単だというお話もいろいろございますが、事実はやはり素人にとっては非常にわかりにくい線が出てくるわけでございます。しかも地形も非常に複雑でございます。先ほどの境界線自体も、高低も違いますし、曲がってもおりますし、折れ曲がってもおります。あるいは建物の方でも出っぱり、引っこみがございまして、上の方にいろいろ突出物もございます。このようなものを一々現地で確認して確実にそれを日影図に書かせるということは恐らく困難でございまして、これは申請書のとおりに、申請書類で合っていれば形式的に審査をしてよろしいということになろうかと思います。しかし、その主事の責任はそれまででございますが、しかし仮に違うということで問題が出てくれば、これは主事がどういうふうな責任をとっていいのか、非常に無責任行政になります。したがって、このように複雑なものを建築主事に押しつけるということは、私は現実の行政としてはできない、こういうふうに判断せざるを得ません。  それから第二の点でございますが、いろいろな要素を取り入れてできればよろしいではないかということでございます。これは私、いろいろを方式を取り入れてもう少し自由度があれば結構ではなかろうかと思います。しかしその取り入れ方が問題でございまして、先ほども申し上げたとおりに、単に時間の問題ということだけではございません。この方式自体にいろいろなむずかしさがございますから、そのむずかしさを緩和してやる、手続上もそのように建築主事に過度の責任を負わせない、このような方向から考えますと、確認制度そのものの問題も若干これは問題にせざるを得ないわけでございますが、どうしてもこのような取り入れやすいそうした方式を考える必要があるかと思います。  それから、ちょっと申し上げますが、このように法律が施行されました場合に、現実に日照が侵されているということでこの問題が実は起きてきたわけでございます。御承知のとおりに、いままでも法律が日照を必ずしも意識はしていなかったかもしれませんけれども、高さの問題、斜線の問題、用途の問題、いろいろ実はあった。それでもその法律でできないというところで現に問題が起きてまいっております。この法律ができましても、これで日照が現に確保されないという場合に、やはりそれに対して激しい反対運動等が起きるのではないか。その場合に、自治体としてもそれを受けて一定の規制を加えざるを得ない。この法律ができれば全国一律になる、要綱も全部つぶされるということでございますが、恐らくそういうことは不可能で、再びこれをやってくれという声が起きることはまず必定であろう。そうしますと、片や法律、片や要綱という二重行政をかえって強いられる。先ほど言いましたような技術的な面以外にも、そのような実際の現実的な面からも、非常に大きな負担建築主事が受けざるを得ない、こういう事態が予想されるわけでございます。  そのほかにこれが困難だという問題いろいろございます。たとえば鉛筆の幅一本あるいはその高さの問題一つ、そのところの緯度の問題、あるいは、横浜市のような狭いところでも北と南でかなり日照の角度が現実には違います。府県単位でいきますとこれは相当違うわけでございます。それからちょっとした角度の振れ方、作図の仕方、こういう問題につきまして相当の誤差が出るということは、これはすでに相当すぐれた研究結果としても出ているわけでございます。少ない場合は数分、しかし三十分くらいの誤差は十分に出るだろうというふうな、こういうことがございます。こうした非常にあいまいなるものを確認申請書と受けとめることは、確認申請事務としては実際には無理である、こういう声が現実にございます。したがいまして、これを法律として強行した場合に、その辺の問題が非常に出てくる。これは建築主事の責任もございますし、あるいはその法律に違反したことを黙ってやらさせてしまったというふうな、そうした責任も生じやすいということでございますので、手続的に無理であるということを申し上げたわけでございます。
  116. 北側義一

    ○北側委員 わかりました。  五十嵐参考人にちょっとお伺いしたいのですが、たとえば先ほどのお話を開いておりますと、多摩方面で二十六市のうち二十二市がいわゆる要綱、条例等で住民同意を必要としておる、こういうことなんですね。住民同意内容というものが、やはりその都市によって非常にまちまちじゃないかと思うのですね。もし御存じなら、その内容についてこういう内容もあります、こういう内容もありますということがありましたらお教えいただきたいのです。
  117. 五十嵐敬喜

    ○五十嵐参考人 先生のおっしゃるとおりでございます。  一つは全面同意制にしているものでございます。ただ同意に関する取り扱いの運用基準等を独自に持っておりまして、たとえば明らかに同意が乱用にわたる場合を幾つかチェックしておきまして、この場合には同意をする方が同意権乱用になるということを各調整室等で調整しているというのが一つでございます。  多摩全市のうちすでに二十二市が同意、それから二十三区でも全区にすべて相隣関係調整室もしくは日照相談室等のような調整期間を設けてチェックしているのが実情でございます。  もう一つは、横浜市指導要綱方式のように一定の確保されるべき日照時間を定めておいた上で、その日照時間を敷地の関係等からさらに奪う場合に基本的に同意にかからしめるというのが第二番目でございます。これについても同意権の乱用にならないように、先ほど田村参考人の方から説明がありましたように、調整機関等を通じて調整しているというのが現状でございます。したがいまして、同意制というのは完全なるアナーキーを目指すものではございませんで、それぞれの自治体においてそれぞれの取り扱いの運用の妙を図っているのが実情だと思います。それによりますと、現在までのところ同意制によって非常に大きな矛盾が生じたというのは、私自身聞いておりません。
  118. 天野光晴

    天野委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、本案審査のため大変参考になりました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  次回は、来る十日水曜日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開くこととし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時四十二分散会