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公述人(
高垣節夫君)
日本エネルギー経済研究所の
高垣でございます。
先ごろの
石油危機の時期を通じまして、
エネルギーの
供給の不安と申しますか、あるいは
価格の暴騰、そういうことが非常に
関心を呼んだわけでございます。最近は若干そういう危険も薄れたようでございますし、
価格も、
新聞紙上等でごらんのように、やや軟化してくるという
状態でございます。ただ、こういった席で
皆様方がどういう
議論をなさっておられるか、
関心はどういう点に集中しておるか、よく通じておりませんが、一般的に申しますと、またああいった
供給不安、
供給制約ということが再現することがあるのかどうなのか、あるいは
価格につきましても、
長期にわたりましてどういう動きをするのだろうか、こういうような質問をよく受けるものでございますから、そういったようなことに関連いたしまして二、三の点を、私はこういうふうに見ておるということを申し上げてみたいと思います。
第一に、当面やはり問題になりますのは、
需給関係がどうなっておるか、あれほど
供給逼迫ということが言われながら、一年もたたない間に、何と申しますか、
基調が変わりまして、どちらかというと
過剰ぎみというようなことを言われておるわけであります。いろんな表現がとられるわけでございますけれど、多少細かになりますが、昨年一年をとって、ごく大ざっぱな数字で申しますと、やはり
石油危機の最中に、先行き不安ということもございましたし、
設備投資も
萎縮ぎみということで、最近見られますように、世界的な不況から、
エネルギー需要は約四%ぐらい、その前の年に比べて——その前の年か正常な水準であったかとうかということはおきますけれども、ともかく、その前の年に比べて、いまから見れば
前々年でございますけれど、四%ぐらい落ちていたのではなかろうかと思われます。ところが、
石油の
生産を見ておりますと、非常に勝ち誇ったとでも申しましょうか、値段は上がった、そして
生産も依然として伸ばすというようなことで、むしろ
生産はまだふえ続けた。昨年の初め以来約半年間はそういう状況が続きまして、明らかに
需要は落ち、
生産はむしろ伸びるということで、プラス・マイナス大きなギャップが出てまいりました。ただそれが、
わが国でも在庫をかなり食いつぶしておりましたので、
各国ともそうでございますけれど、これを補充するというような操作が行われたために、昨年の六月あるいは七、八月ぐらいまでは、そういった
需給の
アンバランスが表に出てこなかった。しかし、そういう
アンバランスの
基調というのは昨年の初めごろから着実に進んでいたということでございます。
ちょうど
夏場ごろに差しかかりまして、
わが国でもそうでございますが、昨日のテレビでもやっておりましたが、
石油タンクがいっぱいになってきた。船はもっとゆっくり走らせろ、急いで持って帰るなというふうなことが、いよいよ
夏場以降、秋口にかけて表面化したわけでございます。そうなりますと、
タンカー船腹が過剰になりまして
船運賃は暴落する。そういうことになりますと、これは
価格に響いてまいります。つまり、
石油生産地は
消費地に非常に近いところもございます。
日本で言えばインドネシア、あるいはヨーロッパサイドで言えばリビアでございますが、そういったところは、
船運賃が非常に高いときには、中東の遠いところから運ぶ油よりも運賃が比較的少なくて済むだけ、積み出し
価格、いわゆるFOB
価格は高くつけていばっておれたわけでございますが、最近のように運賃が非常に下がってまいりますと、そういう立地上の有利さがなくなりますので、つまり積み出しのFOB
価格というものは下げざるを得ない。もうそれほど、
消費地に近いからといっていばってもいられなくなった。そういうことで、昨年の早い時期から、アルジェリア、リビア、ヨーロッパ向けの非常に近い地中海地域の油は、もう下がっていたわけでございます。
日本向けにも同じような現象が最近起こっております。アブダビ原油であるとか、あるいはインドネシアとか、品質上非常にすぐれておる、あるいは立地上有利であるとか、こういった油は、いままでかなり優位にあったわけでございますが、徐々にこれが下がり始めたという
状態でございます。
このことと、先ほどの
需給アンバランスということがどう結びつくのかという点がまだほとんど論じ尽くされていない、取り上げられていない、つまり答えが出しにくい点でございます。簡単に申しますと、OP
EC諸国で大体一日当たり三千万バーレルの油を出したことがある。それに対しまして、いませいぜい二千万バーレルをちょっと上回ったところ、
生産のピーク時から比べますと一千万バーレル、三〇%も減産しておる。これでは産油国はやっていけないのではないかということで、
石油の値段ががたがたになっていくんではないかと、アメリカの高官筋からよくそういうことも言われますので、ますますもってそれが本当らしく響いてくることもあるわけでございます。
多少細かになって恐縮ですが、ただいま申しましたアブダビ原油が最近一バーレル当たり五十五セント値下げしたという報道がございますが、もしアブダビ原油がこのように値下がりいたしますと、ほかの油と比べてバランスがとれているかどうかということ。もしとれていなければ、隣の国が値下げをする、またそのアブダビが値下げをするというふうに、らせん状に値段が下がっていく。つまり、一種のカルテル
価格的なもの、そういったメカニズムが崩壊するという判断につながるわけでございます。現状から申しますと、代表的なライトアラビアと、それからアブダビ原油、今回値下げいたしましたその下げ方は、少しアブダビ原油のほうが割り安になっておる。したがいまして、ベースになります中東原油の代表、あるいは世界的な代表原油でございますライトアラビアというものが多少割り高である。これを一体どうしのぐか、対抗的に値下げをするかどうかということが
一つの分かれ目でございますけれど、いまの割り高傾向から見、また、サウジアラビアは前々から少し高過ぎるからもう少し下げたらどうだろうというような
意見が強いわけでございますので、あるいはそのベースになる油がここでもう少し値下がりする可能性があるんではないかというふうに私は思っております。
しかし、これが、先ほど申しました、らせん状に崩落していくという前ぶれと見るかどうかという点では非常に疑わしいと思います。むしろその点では、三〇%もピーク時から減産しているから、もう耐えられないんではないかという見方がございますが、これは私はそうではないと思います。いままででもそうでございますが、かなりの
生産余力を持っていた国が、たとえば中東動乱、第五次中東戦争の起こる前の
状態を考えていただければわかりますが、サウジアラビアは六百万バーレル・バー・デイぐらいで操業していたものが、あっという間に八百五十万、四割の
生産増というようなことが現実に起こっておりまして、決してそれだけの余力があるからそれだけ全部
生産しなければならぬというわけでもない。最適
生産水準の
状態から考えますと、これはそれほど大きいものではない。ですから、ピーク時から比べまして、確かにいま、在庫
調整のような意味を含めまして、かなり大幅に落ちておりますけれども、これが
価格の崩落、あるいは産油国相互間のとめどもない競争に発展するというふうに考えるのは少し早計ではなかろうかというふうに思うわけでございます。
多少細かになってまいりましたけれども、
わが国の側から見ますと、こういうふうな
状態になりますと、一ころ国民生活も、それを支えます産業活動も、めちゃくちゃになるのではないかというような懸念がございましたが、そういった懸念が当面ないのは言うまでもない。あるいはしかし、産油国が今回のように、
石油を武器にし、
供給を制約するという
体制が長く尾を引いて、先進国の
経済成長が阻まれるのではないかという、
長期にわたっての
供給制約問題成長のスローダウンという懸念ということもございましたけれども、これは十年余り前になりますが、第一次のスエズ動乱、スエズ運河を閉鎖いたしましたときも、同じように
価格は暴騰し、そして世界がそのあおりを受けまして不況になり、その後長くその過剰の事態が続いたということがございます。一九五七、八年の話でございますけれども、そのあげく
石油価格の下落が始まりまして、今日見られるようなOPECが結成されたのも、その時点でそういうことがあったわけでございます。今日の推移を見ておりますと、やはり経済現象というのはそういう類似性も非常に大きいというふうに感じられまして、恐らく今後、急速な経済の反騰ということがもしなければ、
石油の
供給量が制約されたから
経済成長が困難に見舞われるというほどの懸念はないのではなかろうか。むしろ、いわゆる安定成長と申しますか、成長速度がスローダウンいたしまして、それにあわせて
石油の
供給のベースも、いままでのように、中東諸国で申しますと年率二〇%もの増産ということが続いたわけでございますけれども、その必要もないというような、
生産者側においても安定操業というような
状態に落ちついてくるのではなかろうかと思います。
そうなりますと、もう
一つの不安は、軍事行動であるとか、また戦争が起こるのではないかとか、いろんなことがございますし、また、もしそのような深刻な
供給不安が目の前に立ちはだかっていないのであるならば、今回の
予算書にもございますけれど、膨大な備蓄ということが一体必要なのかどうだろうかというような疑問をお持ちになる向きも出てくるかと思います。これは私どもも、はっきり申しまして、よくわからない点でございますけれど、何分にも、いまの対産油国との話し合いというものが、いわゆる消費国の結束の上での対決姿勢という言葉が使われますが、つまり、強い交渉態度をとるためにはその消費国間の結束が必要であり、また、その場合には、IEPというふうな言葉で呼んでおりますが、緊急融通制度というものがなければならないというようなこともございますので、理屈上で申しますよりも、現実の必要上から、こういったことが進められていくということはある
程度理解できるわけでございます。
それからもう
一つの点といたしまして、これは次に触れることにも関連いたしますが、
石油の
供給が従来は国際
石油会社の手でほとんど占められていた、今後とも数量的にはそういう点では大きくは変わらないかと思いますが、何分にも資源保有国の国内から海外へ出るまでの、水ぎわへ押し出すまでの
体制は、いわゆる資源保有国主導型ということになると思います。実際に
供給するとか、輸出を認可する、しないとかいうことは資源保有国の主権事項に属すると、こういうことになりまして、消費国といたしましても、そうなりますと
何かこれどきちんとした話し合いをしなければならぬ、IEAそのものが、最初の提案が条約の形態をとっておったというふうなことも御承知と思いますけれど、
長期の貿易協定、資源保有国との間に、そういう国と国との間の協定という
体制が一応考えられるしそういった色彩が濃厚になってくるんではなかろうか、これは商品協定という言葉で呼ばれたり、いろんな名前で出ておる、そういったアイデアが今日流布されておるわけでございますが、もしそれが
一つの国家間の協定というようなことになりますと、従来は、国際
石油会社が、強大といえどもこれは私
企業である、それと主権国との話し合いであった、今後は国対国の話し合いになりますので、もし産油国が、そういった情勢の変化、基本条件の変化ということを無視して乱暴な行動をとるということになりますと、これはやはり消費国の利益を、生存権を守るために、軍事行動ということも、まあないわけではない、そういう大きな背景の変化というようなこともございまして、そういう配慮というようなものもないわけではないだろう。その中に、こういった一定量の備蓄ということは確保しておかなければならない。そういう、本来ならば経済協定という
性格の問題と、それからただいま申しましたように、その協定を守るためのぎりぎりの配慮というようなものが、この備蓄問題にはいろんな度合いはございますけれど、凝縮しているのではなかろうかと思います。
今後の問題といたしまして、いま申しますような荒立った物の
考え方なり行動が必要かどうかということは、どちらかというと、それはそうではないのではないか、むしろ、最近のOP
EC諸国の話し合い姿勢というものが目立っておりますように、何らかの
長期の協定ということが念頭に置かれてしかるべきではなかろうかと思います。
で、各消費国の計画ないしその政策発想を見ておりますと、昨年暮れに出ましたアメリカの
エネルギー独立計画、それからOECDの一九八五年への
エネルギー見通しという、いろんな報告書がございますが、ともかく値段がいまのままの高い
状態であるならば、とても大量には買えません、むしろ、現在その輸入しておる量からはもうふやさない、今後増量は認めないという
考え方が一方にございます。しかし、もし現在の
価格よりも二、三割方低くしてくれるのであるならば引き続きこの安い
エネルギーを利用しようという
考え方がございます、この二つの対案というものは、結局、産油国側の収入というふうに視点を変えてみますと、高ければあまり買わない、安ければ少し多目に買ってもよろしい——全体として産油国の得る収入は余り変わらない。つまり、これが
所得の保障という
考え方に裏づけられているかと思います、高いから買わないぞ、安いから買いますというのは、いわゆる商業行為でございますけれど、別の側面から見ますと、開発途上国の工業化、経済発展のための収入保障、
所得の安定化というものが、一本裏に、言ってみれば哲学でございますが、そういうものがあって、こういう交渉がなされているに違いない。そうしますと、一体消費国はどのくらいの量を必要とし、また、その場合の
価格はどうあるべきかということは、そういった量と
価格の関係から割り出されるという側面が出ておるかと思います。
ただ、この
価格の問題と申しますのは、非常にその他の関連する諸事項もございます。今後の
エネルギー問題を考えるに当たりまして一番重要と思われますことは、従来、つまり一九六〇年代は、
石油が圧倒的に安い、他の
エネルギーは対抗できないと、そういう大きなコスト格差、
価格差というものを前提にいたしまして、実際の利用はもう
石油一辺倒ということになる。他の産業はどうなるかと申しますと、原重油関税に見られますように、ここから一定の
財源を得て、炭鉱を閉鎖し、整備するというように、一種の補給金的な
調整作用が進んでいたわけでございますが、今後の
価格というものはどう動くかというと、そういう圧倒的に安いという
価格ではない。むしろ、現在存在します多種の
エネルギーの、ほぼこの水準なら経済的に成立するであろうという水準まで上がってくると思います。その格差というものが、つまり産油国の経済余剰、収入になるわけでございますけれど、それを手がかりに工業化を進める、こういう基本的な関係が、昔は、一九六〇年代は、安い
石油コストないし
価格をベースにしてすべてを考える。今度は、一部の産油国が言っておりますように、新しい
エネルギー、たとえばオイルシェール、タールサンド、こういった非常に高いものにベースを合わせろという要求もございますが、これも行き過ぎた考えだろうと思います。恐らく、むしろ中位の、現在存在いたします石炭でも水力発電でもそうでございますが、多数の
エネルギー、ミックス
エネルギー、まあそういったものが何とかやっていけるような水準まで
石油価格は上がっていく。といたしますと、従来のような、
石油は安いということを前提にして立てられた関連
エネルギー産業に対する政策そのものの物の
考え方、政策の進め方の基本条件がここで変わってきているんだと。ただ、今日の時点では、そのいわゆる
エネルギー価格の高位安定という言葉が比較的わかりやすいかと思うのですが、抽象的にはそう申せまずけれど、その高位とは一体どこにおさまるんだというふうに問い詰められますと、初めから降参しておきますが、まだそこのところはかちんと決まっているわけではないと。いわゆる最低
価格制とか、いろいろな言葉で呼ばれておりますけれど、いずれにいたしましても、いま私が申しましたような
内容の、かなり高目のところで
各国間の妥協というものが成立するに違いない。いずれにしてもこれは高いでしょう。それに応じた今後の産業政策の進め方を考えるべきであろう。
もう
一つ最後に、一分ほどお時間をいただきたいと思いますが、よくオイルダラーの見通しが問題になります。これもやはり世界の金融情勢、経済情勢を揺さぶるような問題でございますが、お気づきのように、昨年の初めにはワールドハンクが、一九八五年には一兆二千億ドルの膨大な金額になる計算になると。最近は各機関が一斉に発表しておりますように、二千億ドルから二千五百億ドルでピークに達し、その後は漸減するというようなことがございます。これも、先ほど申しました産油国に対する
所得保障、工業化の進め方、そして相互の物価のスライドのさせ方ということにより、それらの前提条件のいかんによっていかようにも変わる数字である。ですから、これらの数字が独走的に先走って問題が動くのではない、むしろ、今後のそういう産油国との話し合い、取引関係、貿易関係というものによってこの数字はいかようにも動くだろうということでございますので、必要以上にこういった問題に不安に駆られることもないし、しかしまた決して、とりあえずそうか、物が来そうだ、値段もまあ落ちつきそうだ、後は知らぬ、ということで済むわけのものでもない。なかなかそういう経済協力ということは大変であるということはよく新聞紙上でも伝えられますけれども、そういった点での努力が伴うならば、こういった問題についての懸念というものも、非常に変わってくると申しますか、緩和できるのではないかというふうに考えております。非常にあらましでございましたけれども、以上でございます。(拍手)