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宮之原貞光君 私は、日本社会党を代表して、
政府提出の
昭和五十年度予算三案に反対し、先ほど提案になりました日本社会党、公明党、民社党、第二院クラブの共同修正案に対して賛成する立場から
意見を表明するものです。
わが国の経済は、いまやスタグフレーションというインフレと不況の同時進行の中で、厳しい事態に見舞われております。物価は前年度に対し二二%の高い水準にあり、国際収支は五十五億ドルの大幅赤字が見込まれ、しかも経済の実質成長率は、マイナス一・七%という戦後最大の不況であります。
日本経済をこのような状態にしたのは、直接には、
田中前内閣の日本列島改造論を初めとする産業優先の開発政策と、財政金融面からの放漫な
調整インフレ政策にあることは、いまさら言うまでもないことでありますが、その根本の原因は、インフレを容認する歴代自民党内閣の
高度成長政策にあることは、何人も否定することができない事実であります。
三木内閣は、
田中前内閣の政治姿勢と経済政策を批判して登場した内閣である以上、当然これまでの姿勢と政策を改め、物価高と不況に悩まされている国民生活の実情に即し、有効適切な
対策を明示すべきであるにもかかわらず、予算案
審議を通じて明らかになったことは、全く有言不実行、総論あって各論なしの内閣であるということであります。
本当に対話と協調を政治姿勢とするならば、まずもって予算案について野党の主張を受け入れるべきは受け入れ、修正に応ずべきは応じてしかるべきであるにもかかわらず、
衆議院においては、国民生活擁護のため提案をされた国民生活最低限の日本社会党、公明党両党の共同提案の組みかえ動議を否決し、組閣以来の公約であったところの政治資金規正法や独禁法の改正についても、われわれの正当な主張に何ら耳を傾けることなく、その内容を著しく後退させているのであります。
本来、五十年度予算は
三木内閣の初の本格予算であり、物価、不況
対策や社会的不公正を是正するための重要な予算となるべきにもかかわらず、提出をされた予算三案の内容は、全く国民の要望に反するものであり、われわれのとうてい賛成できるものではありません。以下、主なる点についてその理由を申し上げます。
その第一は、五十年度予算案は、巨額の規模に上りながら、その実質的な内容は前向きな施策はほとんどなく、インフレの波間に漂う漂流予算案だと言わざるを得ません。
すなわち、予算規模は二十一兆二千八百八十八億円という戦後最大の規模でありますが、増加額の八割以上は当然増経費であり、新規の施策に当てられた経費はわずかに七千億円にも満たない額であります。また、その内容も、社会保障、文教、地方財政に重点を置いたとしておりながら、社会保障費も文教予算も、ほとんど従来の施策によるものであり、地方交付税交付金に至っては、四十九年度の補正で過年度の精算分を先食いしており、その分だけ実質的には大幅な減少であります。
三木総理は、財政硬直化のため何もできなかったと言っておりますが、これこそ歴代自民党内閣の施策の失敗によるものであり、顧みて他を言うもはなはだしいと言わなければなりません。
第二は、物価、不況に対する施策であります。
今日のインフレは自民党内閣の政策の失敗によるものでありますが、不況もまた狂乱物価の招いた個人消費の停滞によるものであります。したがって、物価
対策に最重点が置かれなければならないことは言うまでもありません。しかるに、
政府の物価
対策は、総需要抑制と形ばかりの公共料金の一部凍結を行っただけで、ほとんど見るべき
対策はなく、その反面において、不況のしわ寄せを最も受ける中小企業や弱い立場にある
人たちに対する
対策はきわめて不十分であります。
福田副
総理は、今年度の物価目標を前年比一五%にとどめたことを最大の手柄のようにいたしておりますが、狂乱物価の前年に対して上昇率は鈍化をしたというだけで、世界一の高い物価高であるということには何ら変わりなく、言葉の上のごまかし以外の何物でもありません。
その第三は、社会的不公正の是正についてであります。
インフレ下における財政として最も留意しなければならないのは社会的公正を確保するということであり、すべての施策を通じてこれが実現せられなければなりません。しかるに予算案は、この点に対する
対策はきわめて不十分であります。すなわち、社会保障費は三五・八%で史上最高の伸びだと言っておりますが、そのほとんどが従来の施策によるものであり、唯一の目玉と言われる福祉年金の一万二千円への引き上げでさえも、その実施時期は十月からで、昨年度の場合の九月実施よりさらに後退をいたしておるのであります。
また公共事業費については、これまでに圧倒的に高い割合を占めていた産業
関連事業の比率を下げ、生活
関連事業の比率をこそ高めなければならないのに、予算案ではようやく二一%程度に高めただけであります。
また、その住宅政策の持ち家制度重点政策は、一方では公団、公営住宅をそれぞれ一万戸も減じているだけに、社会的弱者切り捨ての住宅政策と言わざるを得ません。
さらにまた、零細な貯蓄者や老後の備えのために貯蓄をしている老齢者にとっては、インフレによる預貯金の目減りの問題は深刻な問題であります。これに対する補償や
対策については、何ら積極的な
対策を示していないことはきわめて遺憾であります。
その第四は、地方財政に対する
対策であります。
インフレと不況によって重大な財政危機に見舞われているのは地方自治団体でありますが、この原因は、不況による税収の鈍化と自民党内閣による福祉面の施策の怠慢にあることは、超過負担が、保育所、学校、屎尿処理施設等あらゆる面に及んでいる事実を見ても明らかであります。もし、本当に住民の福祉を願っているならば、
行政事務の再配分や財源
対策をこそ真剣に
考えてやるべきであるのにもかかわらず、
政府・自民党は、革新自治体の福祉の先取りや地方公務員の人件費攻撃を露骨に行い、地方財政危機の実態から国民の目をそらそうと躍起になっております。これは春闘や地方選挙を意識した党利党略以外の何物でもなく、本末転倒もはなはだしいと言わなければなりません。この点、予算案における地方財政
対策は、交付税も地方債も全く不十分であります。
その第五は、税制についてであります。
インフレ下の税制改正の主眼は、名目所得の増加によって生ずる租税負担の実質的な増加を
調整することと、税制面の不公平を直すことにあることは言うまでもありません。しかるに、
政府予算案を見ますと、所得税の減税はわずかに二千四百八十億円であり、その反面で、逆進的性格を持つ酒、たばこなどの間接税を三千五百六十七億円も増徴することとしております。これでは、物価
調整減税どころか、大衆増税以外の何ものでもありません。
また、社会的不公正の是正が財政の課題であるならば、利子配当課税や社会保険の
診療報酬の特例など不公平税制を直すことこそが先決でなければならないのに、不公平税制はほとんどが温存をされたままであります。
その第六は、公債政策についてであります。
予算案は、口に総需要抑制を唱えながら二兆円に及ぶ公債を発行し、公債対象経費と公債発行額との差はわずかに一兆円という
状況であります。万一、不況により租税収入に歳入欠陥でも生ずれば、
政府の言う建設公債の枠さえも守れなくなるおそれのあることは、火をみるよりも明らかであります。
以上、申し上げましたように、五十年度予算三案は、自民党内閣の政策の失敗による後始末を勤労者や中小企業、零細業者にしわ寄せをし、インフレと不況の両面から社会的不公正を強いられている国民大衆の要望を完全に踏みにじるものであります。
われわれは、このような予算三案にはとうてい賛成することはできません。私ども共同してただいま提案をいたしております修正案は、先ほど提案説明もありましたように、まさに本
委員会の
審議の経過にかんがみ、国民の要求する最小限度の緊急課題にしぼって修正を求めるものであり、本院の
審議においても画期的なものであります。
私は、せめてこの程度の修正が実行されなければ、参議院の
審議は事実上無用のものとなり、院の尊厳と国民の信託にこたうべき任務をみずから放棄することになると思うのであります。
どうか、
委員長、
委員各位におかれても、この重大な参議院の任務を認識され、修正案を可決されんことを強く要望し、共同修正案に賛成、
政府原案に反対の討論を終わります。(拍手)