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参考人(
藤田武夫君) 今日、
地方財政の
危機、これは一般的に非常に大きな問題で、政党間でもいろいろ論争されているわけでありますが、それで私としては、今回の
地方財政の
危機にどういう対策を講ずればいいか、この点を中心に申し上げますが、その前に、御
承知のように、
昭和二十九年から三十年に、ちょうど二十年前に非常に大きな
地方財政の
危機があったわけでありまするが、その場合の
危機と今日の
財政の
危機とは様相も違っていますし、またその原因も違っているというふうに思います。したがって、今日の対策を誤りなく立てるためには、そのときの
危機と比較して、一体今日の
財政の
危機の基本的な原因はどこにあるか、このことをまず突きとめなければならない、その上に立って対策を講ずる必要があると思います。そういう
意味で、この二十九年の
財政危機の場合と今回とを、ごく簡単に比較してみたいと思います。
御
承知のように、二十九年のときには、府県の七割、市町村の四割までが
赤字を出しまして、総額で約六百五十億の
赤字であったんですが、ところが、それを見てみますると、後進
地域の府県、市町村にほとんど集中しておったわけであります。ところが、今回はどうかと言いますと、たとえば東京、大阪といったような、まあ裕福と言われている府県、あるいは横浜、大阪、神戸、最近京都、そういった裕福な都市もやはり
赤字を出している。それから、言うまでもなく、田舎の石川とか滋賀とか秋田とか、また中小の都市も
赤字であります。したがって、その
赤字の症状は全身的に広がっている。なぜこういうことになったのかということなんですが、二十九年のときには、これは終戦後かなりいろんな
行政が
地方自治の拡充に伴って行われて、経費が膨張したんですが、ところが
財源は余り十分与えられなかった、シャウプ勧告で幾らか
財源が強化されたんですが、その後
昭和二十九年の税制改革の後で、特に市町村の税収入が少なくなっている。さらに二十九年に一兆円
予算を国がどうしても組まなきゃいけないということで、それまで
地方財政平衡交付金であったものが
地方交付税に改組された。そしてそのために、この平衡交付金の
財政調整機能あるいは
財源保障機能というものがかなり拘束された。それが貧弱
団体に特に強く響いている。それからその一兆円
予算のために国の補助金もかなり抑えたのであります。
〔
委員長退席、理事
柳田桃太郎君着席〕
そこで、それまでも出ておったんですが、いわゆる今日やかましい
超過負担がかなり大きくなっている。こういうことで
赤字が出たわけであります。
ところが、今回の場合は、その
赤字の原因としては、まず第一に異常なインフレーションで物価が騰貴する、それによって
地方団体の資材、
物件費あるいは
人件費が膨張する、それから
高度経済成長のひずみが各
地方であらわれて、そこで社会
福祉あるいは生活
環境、公害対策、そういったものをやらなければならない、それをいまさら縮めるわけにもいかないので、そういった
財政需要がふえてきている、さらに不況によって、御
承知のように
地方税の収入も停滞している、こういったことが重なり、そして、これは後で述べますが、それまでにこの
高度経済成長型の
地方交付税あるいは国庫補助金の機構というものがあったんですが、それの矛盾が、いま言ったようなことが直接のきっかけになって、何といいますか、その欠陥が非常にあらわれた、こういうことで今度の
財政危機が来ている。したがって今度の
財政危機は二十九年の場合のような、単なる貧乏
団体には金が足りないというふうな単純なことではなくて、その根因は非常に深いもの、また複雑なものである、そういうふうに思います。
したがって、二十九年の場合には、御
承知でしょうが、その
財政危機を切り抜けるために、きわめて応急
措置をとったわけで、
地方財政再建促進特別
措置法というものをつくって、この
赤字を出した
団体が申請して
財政再建計画というものを立てる、それを当時の自治庁
長官に申請して認められれば
財政再建債というものを認めて、それで一時
赤字をたな上げする、その
財政再建計画には、歳出をどうして減らすか、また歳入をどうしてふやすか、まあそういった計画を立てさせて、そうして
地方団体に
赤字を解消させる、こういう方法をとったわけであります。その結果、
地方の
行政水準がそのために非常に低下しまして、また増税とか新税が盛んに
地方で行われたわけであります。ところが、ちょうど幸いにも、三十二年から
高度経済成長によって
経済の
成長が非常に高くなっている。それで税収入もふえて、
地方財政が好転して
赤字が大体解消された、こういうことであります。
そこで、これから今回の対策に入りますが、今回の場合には非常に問題は違っているんで、まず第一に、
財政の基盤であるところの
経済というものが、今後
高度経済成長というふうなことはちょっと期待できないんで、低
成長である、あるいは安定
成長である、こういうことになるわけです。それから、この二十九年のときにとったような
行政水準の切り下げとか、あるいは
地方税の増税とか、こういったことは今日の場合には非常にむずかしい。したがって、もっと深い問題についてメスを入れる必要がある、私はそう思うのであります。
まず第一は、インフレの防止でありますが、これは
三木内閣でも
福田副総理や、お見えになっている大平蔵相が、総需要抑制である程度物価の騰貴も緩くなってきた。そういった抑制
政策は私も今後いよいよ堅持していただきたい、そういうふうに思うわけであります。それから、この
財政の機構をいろいろ改革するについては、それを改革するための基本的な姿勢を確立する必要がある。それには、私は、やはり何といっても、いままでの
経済優先ではなくて
福祉優先の姿勢を貫く、
三木内閣はそういうことを言っておられるわけです。それから、いままで
地方財政というのはかなり中央依存型の、いわば中央集権型の形態をとっておったんですが、今後はそうでなくて、
地方団体に税源も一部譲り、また
地方団体に責任を持たせる、そして
地方団体が自主的に
財政を運営するような、いわば
地方分権的な
財政構造というものをとる必要があるんではないか。
そういう基本的な立場に立ちまして、その対策を述べて見ますと、第一は、やかましく言われております税源の国、
地方間の再配分の問題であります。今日社会
福祉が叫ばれておりますが、そういった社会
福祉とか清掃とか、そういった仕事は、これは現場の府県や市町村が担当することであり、したがって、府県や市町村に十分な税金を与えるということが必要であろうと思います。今日では、
地方税と国の税金の割合は、これはだれも知っていることですが、大体国税が七で
地方税が三だと。それに対して社会党では、成田
委員長なんかは五対五にするとか、あるいは公明党では六対四にするとか、そういうことを言っているんですが、これも、五対五にするとかなんとか言っても、これは全くマクロ的な考察であって、そういうことをした場合に、各府県、各市町村にその
経済力によって影響するところが非常に違ってくる。また、どういう税金を
地方へ移譲するかによっても影響が違うわけであります。したがって、そういうことまで深く考えてその問題を取り上げる必要があると思います。それからさらに、貧弱な
団体にもよけい税金がはいれるようなものということになりますと、たばこ消費税とか
住民税というようなものが問題になるわけで、そうすると負担が非常に大衆負担に傾く。したがって、国税、
地方税を通じて、やはり全体としての負担の公平、まあ累進課税、そういったことが行われなければならないと思います。で、所得税と
住民税を統合するというふうな、そしてそこに累進率を適用する、そういう案も東京都あたりからも出ております。そういったことをよく考えて、やはり七対三ではなく、まあ私、具体的に数字を挙げることはむずかしいと思いますが、大体五対五とか六対四というぐらいなことにはすべきではないかと思います。
それから第二番目は、
地方交付税の問題でありますが、現在
地方交付税は
地方収入の二一%です。ところが、この
地方交付税は、いままでの平衡交付金とは異なって、御
承知のように、酒の税金と所得税、法人税の百分の三十二ということでくくられています。したがって、この交付税の
地方団体に対する収入というものが景気の変動で非常に動いてくる。交付税が特に貧弱な
団体で必要な場合に交付税が余りふえない、所得税も法人税も不景気でふえないというふうなことになる。それについて国税全体を
財源にしろというような意見もありますが、こういうことでは
解決しないんで、私としては、前の
地方財政平衡交付金に戻す、そして各
地方団体の
財源の不足額を積み上げていって、それを
地方交付税として計上する。また、
財源が問題になるでしょうが、後で申し上げますように、国庫補助金を私はかなり削っていいという意見なんで、そういうものをこの
財源に回していく。これはシャウプ勧告でも言っておったんですが、
地方団体の収入が景気変動で非常に動く、それを
地方税でもって加減することはほとんどできない、それはやはりどうしても
地方交付税によって賄うべきだと、こういうことを言っております。
それから、この
地方交付税について、いままで非常に産業基盤
関係の経費に
財政需要の計算が傾斜しております。詳しいことはやめますが、たとえば
昭和三十三年から四十四年までに、土木費の基準
財政需要額における比重が九%から二一%に上がっている。ところが、厚生労働費は八%から六%、教育費は四一%から三五%、そういうふうに、非常に――これは
高度経済成長時代でやむを得ないかもしれませんが、産業基盤に重点が置かれている。そういうことをこの際
福祉中心に改める必要がある。もちろん、近年自治省でも交付税の
財政需要の計算に社会
福祉とか教育施設についてある程度の考慮を払っておられることは認めるんですが、しかし今日、
福祉に転換すると言っている場合には、もっとその転換をはっきりして押し出す必要があるというふうに思います。
それから、その次に国庫補助金の問題ですが、いま触れましたように、私としては、この国庫補助金というのは、国から金をもらって仕事をやるわけで、これはどうしても
地方団体が中央に依存して、何といいますか、親方日の丸でもって、自分が責任を持って節約をして、自分の力で経営をやっていくという姿勢が弱まってくる。そういう
意味で、国庫補助金はなるだけ
整理するということを主張したいのであります。それから、国庫補助金のこの構造も、いままでは非常に
高度経済成長型になってきております。たとえば補助率にしても、道路というふうなものは四分の三あるいは三分の二、ところが社会
福祉関係では二分の一、三分の一というのが多い。それから、この計算の仕方も、これは
超過負担の問題になりますが、道路、その他の土木工事においては、実績精算主義でもって、実際に使った金をもとにして精算をして交付している。ところが、社会
福祉、教育、保健衛生
関係では、標準単価というものをつくって、それで計算をする。ところが、標準単価が、もうこれは一般化しているわけですが、実際単価よりもはるかに低い。さらに対象差、数量差があるというふうなことで、
超過負担はほとんど社会
福祉、教育施設、保健衛生、そういった民生
関係に非常に多く出ている状態であります。こういうことから言っても、そういう
高度成長型の
経済優先の補助金
政策をこの際変える必要がある。もちろん、
超過負担については、最近、自治省あたりでもいろいろ単価の引き上げをやっておられますが、まだ
地方団体側で
調査した割合にまではかなり幅がある。
財政構造は以上のようなわけですが、ここで問題になっている
人件費の問題を、もう時間もないので、
一言触れておきますが、
地方で社会
福祉行政というものを、あるいは保健衛生
行政を重視するということになると、どうしてもきめの細かい
行政が必要になって、
職員の数が、これはむやみにふえていいというわけではありませんが、相当ふえる。現実に社会
福祉施設でもって
職員が足りないという声を私なんかもよく聞いております。そういう点を考慮する必要があるということ。それから
給与水準について国家公務員との比較という問題もありますが、これはやはりラスパイレス指数だけではなかなか厳密な比較というものはむずかしいんで、これは事務の内容、国の場合の主としてデスクワークによっている場合と違って、非常にきめの細かい仕事の質、量がある、そういう点を考慮する必要がある。しかし一方、
人件費については、たとえばどこかの
局長が四千万円も五千万円も退職金をもらったとか、そういった、先ほど大平
大蔵大臣からも
お話がありましたが、
高度経済成長になれた、そういった面も認められます。したがって、
人件費の問題を扱う場合には、どうしてもこれだけは社会
福祉をやるためには必要だという経費と、いま言った、浪費とも言えませんが、それに近いような経費とを厳密に区別して取り扱っていただきたいと、そういうふうに思います。
以上、時間が来ましたのであれしますが、私の言いたいところは、今度の
財政危機には、単に
人件費の抑制というふうな、あるいは
超過負担の一部の改正というようなことだけでなくて、もっと
財政機構全体を
高度経済成長型から
福祉中心型に転換していただきたい、これが私の
希望で、一挙にそういうことはできないでしょうが、たとえば国庫補助金についてある程度の手直しをするというふうなことは、基本方針さえはっきりすればできると思うのであります。
御参考になったかどうかわかりませんが、もう時間も参りましたので……。