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参考人(平沢
正夫君) いま
片山先生から御指摘された点ですが、まず冒頭におっしゃったクロマイの問題について述べてみたいと思います。
この薬は、
日本では一九五二年から使われております。大体、昨年あたりで生産額は四百億円を超えていると思います。その生産量ですが、これはちょっとアメリカと比較するという
意味で、少し古い年度の生産額を申し上げます。
日本では一九七〇年に約七十トンつくっております。そして七一年には五十四トンということになっております。ところで、アメリカではどれだけつくっているか。FDAという役所から公式に発表されたデータを見ますと、アメリカでは一九七〇年約十三トンです。そして七一年約八トンです。アメリカの方は人口が
日本の約二倍いるわけですから。さらに、アメリカの薬は、一般的に言いますと三割ぐらいは輸出されます。
日本の方は、せいぜい四%か五%ぐらいしか輸出されません。そういった要素を
考えますと、
日本人は一人当たりアメリカに比べて数倍から十数倍のクロマイを飲まされているということが言えるわけです。アメリカでは、かつては相当多量にクロマイをつくっていた。そのピークは一九六〇年で、このときは五十トン余りになっております。これもFDAの出した数字です。ところが、六七年以来激減してしまった。クロマイを最もたくさんつくっていた、ライセンスも持っているパーク・デービスという会社は、経営不振のために別会社に吸収合併されてしまいました。このことから見てもわかるように、クロマイというのはサリドマイドとかキノホルムとほぼ同じように、もはや過去の薬になっちゃっているわけです。
ところが、
日本では生産額は年々
伸びている。たとえば、
昭和四十八年は前年度に比べて生産額は百五十億ぐらいふえているわけです。ふえた分だけです、百五十億というのは。アメリカでなぜ減ったのか、それは副作用です。六七年に上院でゲイロード・ネルソンという議員が特別の
委員会をつくりましてクロマイの副作用を調べた。公聴会も開きました。その結果、副作用の問題がいまさらのように明るみに出まして、生産額が減ってしまったわけです。
厚生省はこのことをとっくの普に承知しているはずです。にもかかわらず、
日本では生産額が
伸び続けている。しかし、それを
厚生省はじっと見ていただけです。何にもしておりません。何にもしていないと言えば言い過ぎかもしれませんけれど、医者に通り一遍の通達は出したと思います。しかし、それは
厚生省が言いわけをつくるためにやったんじゃないかと思われるくらい全く効き目がない。
日本でどういうふうにクロマイが使われているかと言いますと、普通のかぜにでも、すぐ打っちゃうわけですね。注射を打つわけです。いま大きな
社会問題になっております大腿四頭筋短縮症、子供の足の筋肉が拘縮して、ひざが曲がらなくなる。これは人災です。病気じゃないです。それの原因の大半は、ごく小さいときにクロマイを含んだ注射を打たれたことによるわけです。患者の、あるいは
被害者ですね、
被害者の親たちに聞いてみますと、大抵、かぜを引いて医者へ連れていって、クロマイの注射を打たれて大腿四頭筋短縮症になっております。かぜというのは、大変常識的な話ですが、ウイルスでなるわけです。抗生物質というのはばい菌を抑える、ないしは殺すものです。ばい菌とウイルスは違うわけですね。ですから、かぜにクロマイを打ってみても、もともと治すことができないわけです。ですから、かぜにクロマイを飲ませる、あるいは注射を打つことそのものは、すでに薬の誤用であり、乱用である。そのことによって、大腿四頭筋短縮症の子供たちを非常に大ぜいつくり出した。こういう問題があるわけです。
医者に
厚生省が一通りの通達を出しても、クロマイの生産は依然として
伸びている。ですから、私は
考えますが、もはや薬害に関しては医者を信用することはできない。
厚生省は、薬の副作用について医者だけに知らせるのではなく、
国民全体に副作用情報を周知徹底させなければならない、副作用情報を公開しなければならない、このように
考えます。現に、アメリカのFDAでは、ことしの二月から副作用情報の大幅な公開を決定しました。ところが、
日本の
厚生省の方は、少なくとも現在までは副作用情報を
国民に公開していない。その理由は、私どもがたびたび
厚生省とかけ合ったそのたびごとに聞くことなんですが、突き詰めて言えば、知らしむべからず、よらしむべし、ということです。薬の副作用なんか
国民に伝えてもわかるはずはないと、それからまた、いたずらに
社会不安をあおるだけだと、大体、このような説明に尽きるんです。しかし、私たちは薬害に関しては医者をもはや信用することはできない。クロマイの例を見てもそれは明らかである。この際、どうしても副作用情報をFDAと同じように公開すべきであると
考えます。
また、先ほど
片山先生が触れられましたが、医薬品の薬効の再
評価の問題、これについては
厚生省が一九七二年からやっております。薬を幾つかグループに分けまして、それぞれ小
委員会をつくって
検討して、わかったものから順次公表しておりますが、ただ、その発表の仕方に非常に問題がある。といいますのは、結論だけを出しているわけです。プロセスが全然わからない。一般的に害われておりますことは、メーカーからその薬についてのデータを出させて、専門家がそのほかにいろいろな文献を当たって、要するにデスクワークでもって結論を出して発表しているわけです。私たちとしては、どのようなデータが
厚生省に集まって、それをどのように
厚生省が専門家に頼んで討議をして、どのような中身の討議があって結論が出たのか、これらのすべてを知る必要があるわけです。ところが、この問題についても
厚生省は
国民の要求を拒んでおります。理由は何かと言いますと、企業秘密という壁にぶつかるんです。もちろん、私は企業秘密すべてを否認するつもりはありません。しかし、企業秘密といえども、人命にかかわる場合には企業秘密を犠牲にして、
国民の前に情報を出さなければならない、このように
考えます。企業秘密を盾にとって、人命にかかわる情報の公開を拒むのだとすれば、これは、極端に言えば、人間は、あるいは
国民は死んでもいい、企業だけ生きていればいいんだと、こういう
考え方につながると思います。これは
厚生省の趣旨にもとるのではないか。健康あるいは生命、あるいは
福祉の問題をつかさどる行
政府として、これは不適当なんじゃないかというふうに思います。