○野口忠夫君 私は、日本
社会党を代表し、
昭和四十八年度決算に係る
地方財政の
状況に関する
報告に関連し、
地方財政対策のあり方及び今後の措置等について、政府の所信をただしたいと思います。
昭和四十八年は、改めて指摘するまでもなく、田中前内閣が放漫インフレ施策を強行し、また、
石油ショックを初め海外事情の変化などの影響も加わって、それまで産業界の高度経済成長路線の後押しをしてきた政府の経済政策が挫折し、一大転換を迫られた年であります。
当時を振り返ってみますと、政府は、
昭和四十八年度の国の経済政策について安定した成長路線に定着させ、経済成長の成果を活用し、福祉志向型経済の
実現を目指して、生活環境の整備を中心とする社会の資本の整備、社会保障の充実、地価対策の推進一物価安定等の諸施策を重点的に講ずると言明し、
地方財政計画についても、例年のごとく、国の方針と同一基調で策定することとしたのであります。政府の言っていることは、
言葉はまことにりっぱであります。したがって、政府の施策がそのまま
実現されておれば一応問題がありません。しかし、現実は政府の説明とは全く違った推移をたどることとなったのであります。
すなわち、
昭和四十八年は、年初めから物価の騰勢が勢いを強め、そのため政府は、公定歩合の再々引き上げや、金融の窓口規制を一段と強化せざるを得なくなったし、せっかく無理をして通した四十八年度国の予算も、公共事業等は予算の
成立直後から執行を繰り延べるという手段をとらざるを得なくなったのであります。したがって、
地方財政計画に計上された学校及び福祉施策、道路などの普通建設事業費は、その前年度比三五・八%増という大盤振る舞いをしましたが、貨幣価値の下落や物不足から、現実の投資効果は前年度よりも後退するという
状況になってしまったのです。お金はたくさんばらまきましたが、行政効果は、それに相応した成果を得られなかった。
地方財政白書はこのことを数字的に明確に物語っております。
以下、具体的に政府の見解を求め、その所信をただしてまいりたいと思います。
まず、
地方財政における経費の効率的運用を図るためには、国の安定した経済政策が前提となるという問題についてであります。
昭和四十八年度の
地方財政計画は、政府の説明をかりると、財源の重点的配分と経費支出の効率化に徹し、積極的に住民福祉の向上を図るということでありました。そして、公共事業については、前にも指摘した
ように、前年度に比し三五・八%増の経費を計上し、特に生活環境の整備については七四%増、厚生労働施設については四八%増の経費を配分したのであります。しかし、
地方財政白書は次の
ような数字を挙げて政府施策の失敗を示しております。すなわち、公営住宅は四十七年度には十万八千六百戸増したのでありますが、四十八年度の増は五万九千三百戸と落ち込んでいるのであります。幼稚園は四十七年度四百十二園増加いたしましたのに、四十八年度は二百五十八園増加したのにすぎません。保育所は五百二十五カ所増に対し、六百二十一カ所増と若干増加していますが、その伸び率はわずか六・四%にすぎないのであります。これを計画における経費の伸びに比べてみると、全くお話にならない少ない数字なのであります。政府は、なるほど福祉施設に対し資金をたくさん配分する
ような姿勢を見せました。しかし、建築費の高騰、地価の上昇、物不足などにより、その現実の行政効果としては、前年度の実績すら確保できなかったのであります。自治省は、口を開けば、地方自治体に対し経費の効率的使用だとか、財務指導だとか申しておりますが、政府の経済
運営が根本的に誤っている限り、
地方財政の健全性は取り戻すことができません。これは白書の示す現実であります。こうした事態を一体どの
ようにお
考えになっておられるか、総理の所見と反省とを求めたいと思うのであります。
また、地方における行政水準の向上には、何といっても物価の安定が絶対に必要であります。福田副総理はしばしば、五十年度内物価上昇率九・九%以内、五十一年度を五ないし六%以内にとどめたいと述べています。しかし、このことは三木内閣の最優先案として、総理自身の口から、内閣の命運をかけても必ず
実現しますと明言されなければならないと思います。総理の御所見を伺いたいと思うのであります。
次に、
地方財政における決算と
地方財政の乖離について伺います。
昭和四十八年度の
地方財政の計画規模は、純計で、歳入十八兆二千二百億円、歳出十七兆五千億円でありますが、当該年度の
地方財政の規模は十四兆五千五百億円であります。つまり、
地方財政計画は歳入決算比で三兆六千七百億円、歳出決算比で二兆九千五百億円とまことに著しい開きがあるのであります。もとより
地方財政計画は、年度当初に策定されるとその後補正を行わないものであるなど、
地方財政計画の策定の方法とか技術上の問題からくる当然の差というものがあることは
承知していますが、そうした観点を考慮いたしましても、なおかつ、計画と決算の開きは余りにも大き過ぎます。それは政府が
地方財政計画に当然計上すべき必要経費を計上していないからであると思うのであります。
たとえば人件費の基礎となる四十八年度
地方財政計画上の職員数は百九十二万六千二百七十人ですが、
昭和四十八年の指定統計調査の結果により、実際の人員はそれより二十万人も多いことが公式に明らかにされています。しかし、自治省自身がその後の計画に算入したところの必要職員約十六万人余もあるのであります。つまり、十六万人分の人件費は四十八年度において当初から計画から外されて、その金額はざっと見積もっても三千億円以上になるのであります。自治省は、五年に一度行われる地方公務員の給与実態に関する指定統計の結果を見て、後年度若干の規模是正をすることにしております。しかし、それはあくまでも後追い的な措置にすぎません。前向きに
定数増を織り込む方法があるにもかかわらず、悪い慣行を墨守しているにすぎないのであります。
地方財政計画の職員
定数の是正にはもっと前向きに取り組むべきであると思いますが、自治大臣の所見を求めます。
また、計画と決算の乖離の原因には超過負担の問題があります。
昭和四十八年度の
地方財政計画では、超過負担の解消措置として二百八十三億円を計上したということですが、この程度では自治体の実際の超過負担は解消されません。超過負担の解消は、単価差のみならず、対象差、数量差も含めるべきで、そのためには国と自治体が対等の
立場で意見を交換する場を公式に新設する必要があると思います。関係大臣の明快な御答弁を求めたいと思うのであります。
次に、普通建設事業費における土地取得のための地方債財源問題についてお尋ねいたします。
地方自治体が公共施設の整備を促進する上で用地取得は欠かせないものであります。四十八年度の
地方財政における用地取得費は、都道府県、市町村合わせて一兆一千七百二十九億円に及んでおりますが、その財源を白書によって見ると、地方債が四三%、一般財源が二七・七%、国庫支出金一八%で、地方債の占める割合が何と半分近く占めているのであります。用地取得のための地方債の比率は年々増加の傾向にあります。五年前の四十四年度地方債比率はわずか二二・九%にすぎなかったのであります。用地取得における起債依存度を低下させるため、一般財源の増強、国庫支出金の増加を図るべきであると
考えますが、政府の見解を求めます。
次に、地方税について伺います。
地方財政白書は、四十八年度の地方税について、その税収の前年度比伸び率は二九・七%と大幅増であったと述べております。しかしながら、こうした税収の伸びにもかかわらず、
地方財政は好転どころか、悪化の一途をたどってきたことは周知のところであります。それは貨幣価値の下落や物不足、総需要抑制策の浸透、経済不況の長期化の影響がまともに
地方財政を襲ったからであろうと思います。しかし、
地方財政悪化の要因には、政府の財政経済政策の失敗と
地方財政の構造的なものとがあると思われるのであります。特に不況期における大企業の地方税負担については徹底的に再検討する必要があると思います。地方行政はその性質上、常に着実に行政水準を向上さしていく必要があります。そして、そのためには、景気に敏感な税と安定した財源との適当な組み合わせが必要であります。特に日本を代表する大企業あるいはその他の大企業で地方自治体の行政サービスに密接な関係を持つ事業主体が、不景気に際して事業税を払わなくてもよかったり、住民税ではわずかな均等割りを支払えば済むという
ような現行規制はきわめて不合理な制度と言わなくてはなりません。
また、租税の特別措置にも問題があります。現在、国の租税特別措置による減税、あるいは地方税独自の特別措置により減税となる地方税減収額は年々増大し、その額は
昭和五十年度見込みで約三千九百八十億円に達し、それは四十九年度に比し五百億円も増加していると言われます。この中には、税負担の公平の見地から当然整理されてよいものがあろうと思います。政府は、来年度税制
改正の方向として、大企業に対し外形課税による地方税課税の強化を図り、また惰性的な非課税措置の廃止についても英断をもって臨むべきではないかと思います。社会的公正を看板とする政府の所信の明示を求めたいと思うものであります。
次に、
公共料金問題と物価の安定対策との関連等の問題についてただします。
去る五月十六日、自治省は、「地方公営企業の料金については、適時適切に料金改訂を実施する
よう格段の
努力をされたい」という
公共料金値上げの次官通達を出し、各方面に物議を醸しました。企画庁のクレームにより、一応この問題は政府部内の意思統一ができ、
国会での
責任追及を回避いたしましたが、実は、自治省が物価情勢を顧みず、常に地方公営企業の料金
値上げを指導してきたことは明らかであります。
昭和四十八年度は物価問題の一番むずかしいときでありましたが、自治省はその四十八年度
地方財政白書の中で、地方公営企業の経営がさらに悪化したのは、コストの上昇が著しかったのに、これに対応する料金の適正化がおくれたのだと指摘し、物価抑制ということが当時の重大な政治課題となっていたことについては一言も言及していなかったのであります。今回の
公共料金値上げの次官通達問題は、まさにそうした積年の自治省的体質を端的に示したものにほかなりません。
国の物価抑制のため、地方公営企業の料金引き上げ時期を延ばしたり、引き上げ幅を少なくすることは当然
考えられなくてはならない措置であります。そして、そうした場合に生じた公営企業の赤字補てんについては国でめんどうを見、また自治体においても、一般会計から補てんする制度も当然認められなくてはならないと思うのであります。政府は、原価主義に基づいて行う地方公営企業の料金の
値上げを物価政策上抑制する場合もあり得ると
考えているのか。また、その場合の不足財源について、国からの助成措置や一般会計からの赤字補てんを
考えているのかどうか、政府の明確な答弁を求めたいと思います。
次に、農業政策について伺います。
高度経済成長の大きなひずみの現象の一つとして過疎問題が取り上げられ、種々の対策が講ぜられ今日に至っております。しかしながら、今日までの施策が過疎問題の解消に十分成果を上げてきたと
考えられないのであります。私は、その大きな原因の一つに、農政に対する政府施策の一貫性の欠如があると思います。四十八年度の
地方財政の決算では、水産業費、農業費、林業費、農地費等は、いずれも前年度の増加率を下回っておるのであります。
地方財政白書はこれについて、総需要抑制策により普通建設事業費の伸びが鈍化したためであると説明しておりますが、農漁村の振興なくして過疎問題を根本的に解決することは不可能であります。農林水産行政が一時たりとも後退は許されません。農業では生活ができないという今日的現状を、今度の生産者米価の決定に当たって農林大臣はどの
ような見解でこれを定めていかれ
ようとされているかをお伺いしたいと思うのであります。
最後に、危機に直面する地方自治体に対する総理のお
考えをただしたいと思います。
地方自治団体の財政危機の今日の状態をつくり出したものは、四十八年白書の示すとおり、高度経済成長政策の挫折に伴う物価高と不況の中に生まれてきたのだと思われます。
直接住民と接する地方自治団体は、いま必死になって、巻き込まれたこの国の過ちからの脱出と立ち直りに一生懸命であることは、過日の地方行政
委員会に参考人として出席された長野市長、国立市長のお話でも明らかであります。多様化した住民要求の前に増大する需要、追いつかぬ収入、福祉社会
実現を公約した三木内閣にとって、その先手としての地方自治体の安定した行政水準の確保は当然の責務であります。