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参考人(
高橋晄正君) 私は、東大病院の内科で診療しております臨床医でありますが、いろいろなデータの解析に役に立ちます推測統計学、推しはかる統計学ですが、こういうことを勉強したものですから、その後いろいろアリナミン、グロンサン、チオクタン、アスパラというような薬品の有効性、安全性の分析をしたり、最近ではこの合成殺菌料AF2、ハム、ソーセージ、かまぼこ、はんぺん、ちくわ、豆腐等に加えられておりましたものの安全性論争のときに、郡司被告のこの鑑定証人としまして、AF2問題をまとめたこともございますし、特に最近におきましては、いろいろな病人がふえてまいりますので、私
どもその原因としまして、いろいろな
食品添加物にどうしても目を向けざるを得なくなってまいりまして、学校給食用のパンに加えられておりますリジンだとか、あるいはいま加えられようとしておりますところの合成人工甘味料のサッカリンの危険性とか、あるいは
飼料ないしわれわれの
食品として開発されようとしております石油たん白、あるいは酵母たん白といった方がいいかもしれませんけれ
ども、そういうものの分析もいたしております。
本日は、五、六項目について基本的な問題を申し上げてみたいと思いますが、私
ども食べる側ないしは実際に被害者が出ましてから診療する側の立場から見まして、この
食べ物の体系、食の体系というものの安全性ということはいかにして保障されているのかということを、まず考えてみたいと思います。これは第一には、長い間の歴史の中でやはり絶えざる失敗を重ねながら、毒草、毒魚に
無数にやられた未開人の犠牲の上に、私
たちが経験的に選択してきたものが、食の体系であるということが言えるだろうと思います。ですから、第一が選択原理である。第二がその間にいろいろな酵素が胃、消化管あるいは
肝臓等にできてまいりまして、現在、約百
種類のこの酵素の体系が人体内にできておりまして、そこを通る間にわれわれの体になじむものにすっかり分解される、分解された上で血液の中に入るという、この酵素による適応
現象と、この二つによって歴史的に形成されたものが食の安全性であるだろうと思います。
ところが、それじゃ公害に強くなり得るかということでありますが、一つの酵素がわれわれの体内で固定されますのは約一千年かかるといわれておりますが、これはルネ・デュボスというアメリカの
生物学者の言でありますけれ
ども、そういうことを考えますというと、なかなか公害には強くなり得ないというふうに考えるべきだと思います。そこで、この
食べ物は毎日のように食べていても七、八十歳まで生きるのに十分でありますけれ
ども、薬は本質的に
食べ物とは違って毒であると。薬は本質的に毒であるということはどうしてなのかと言いますと、薬というのは
肝臓で完全に無毒に分解されるものでない。完全に分解されてしまいますものであるならば、たとえばペニシリンを飲んで肺炎菌にくっつけようとしましても、
肝臓で完全に分解されましたからには、これはもう肺炎菌にくっついても役に立たないわけでございまして、不完全分解ないしはあるいは
肝臓で活性化されまして血液の中に入るがゆえに、われわれは肝炎菌を殺すことができるわけです。しかしその場合に、ペニシリンはこれは
カビがつくった毒素でありますので、これは体じゅう回ります間に、
肝臓とか膵臓その他あるいは骨髄、賢臓と、こういういろいろなところに化学反応、それとちょうど合います化学的に対応しますところで化学反応を起こしましてまいりますので、薬物というものは一般的に血液の中に入ってしまったら多面作用を持っておると。その中の、こちらの目的としました肺炎菌にくっついてくれというのが主作用でありますけれ
ども、それ以外は全部副作用でありますが、副作用はわれわれの主目的以外のところの臓器にとっては要らない害作用となりますので、結局、害作用のない薬はないということになってしまうわけです。したがいまして、私
ども食品添加物に関しましてはかなり厳重な安全性試験をやらなきゃいけないし、あるいは基本的に安全な
食品添加物というものはあり得るだろうかどうかということに関しまして、基本的には疑問を持っておりますが、これは一つ一つ確認していかなきゃならないわけであります。これが第一の食体系の安全性に関する一般的な問題であります。
二番目に、現在、いま日本人に何が起こっているかといいますと、これは先般国立
がんセンターの平山雄疫学部長及び国立公衆衛生院の木村部長がまとめられましたことでありますが、昭和二十五年以後の届け出られました死産
——二十五年から死産は届け出しなければならなくなっております、四カ月以後の死産でございますか。その分析をしてみますというと、二十五年から三十年に向けましては奇形、死産の中の奇形が下がってきておりますけれ
ども、三十年、つまり高度
成長が始まりましてからまっしぐらにふえてまいりまして、その当時は三百名に一分の奇形でございましたが、その奇形の
種類は脳のない子供だとか、背骨の割れた子供だとか、指の数の足りない子供、くっついた子供、これはざらにありますけれ
ども、無脳児などというような子供がたくさん出てきておりますけれ
ども、それは三百人に一人でありましたけれ
ども、現時点におきましては五十人に一人、二・〇二%となっております。さらに奇形はまだ四カ月ごろにははっきりわからない場合もありますので、八カ月以後の後期死産の例を見てみますというと、これは昭和三十年当時でも二・八%ほどで、つまり三十人に一人ぐらいの割合でございましたけれ
ども、現在では九・八%。約十人に一人がそういう奇形児であるという状況が起こってきております。もちろんこれは死産児におきます奇形の発生状況が、直ちに現在生存しております子供
たちの奇形率を示すものとは考えられませんけれ
ども、しかし、あちらこちらで散見しますところによりますというと、やはりその奇形児もどうもふえているようであると。しかし、これはなかなかプライバシーの問題もありまして、厳密な調査は現在のところ不可能であります。こういう事実がありますが、ちょうどそういう日本の死産届けの中の奇形児が急増しました時期が、アリナミンというこれも奇形児をつくる薬でありますけれ
ども、これができました二十九年、あるいは農薬のパラチオンが採用されました昭和二十九年、あるいはAF2という合成殺菌料の前身であるZフラン、これが採用されました二十九年、あるいは中性洗剤が日本に入ってまいりまして大量に
消費されました昭和三十一年、その前後からまっしぐらにこの奇形児のカーブが上昇してきておりますので、これははなはだ気持ちの悪いことでございますが、これがさらにこの延長上に、二十一世紀の入口でどのくらいになるかといいますと、これは数十%に及ぶ計算になるわけであります。この事実がありますので私
ども工場排水、あるいは
動物の屎尿中に出てくるいろいろな廃棄化学
物質がまた
自然界に廃棄されて
流れてくる、また
食べ物の中に入ってくるというこの自然の
循環を考えますときに、
自然界を自然分解しない化学
物質で汚染しないように、厳重に注意しなきゃならないというふうに考えております。
三番目に、私
たちにとりまして、この
家畜の
飼料の中にいろいろなものが加えられますということは、実は愛玩
動物としての
動物を見る立場も必要でありましょうけれ
ども、私
たちは
食べ物としてその肉を見る、食肉、
食料としてそれを見るわけでありますが、いろいろな薬品づけで飼育されました肉を今後永久に食べていて大丈夫なのかということを非常に心配するわけでございます。この問題を、今度の
法律によりますというと、農林省で全部保証してくれるということでありますけれ
ども、
人間に対する安全性をどうして農林省で保証可能であるのかということを種々疑問に思うわけでありますが、もちろん、厚生省そのものも
——私
ども、いままでやってきました薬物ないしは人工
添加物から見まして、厚生省そのものも全面的に信頼できるというわけではございませんけれ
ども、私
たち、厚生省ですとまだ若干手が届きますけれ
ども、農林省となってしまいますと全然手が届かないので、やはり、われわれが食べるものは私
たちも発言できるような形で、農林省段階でまず一段階やりましたら、そうやってその次にもう一遍、厚生省段階でチェックできるようにぜひしていただきたい、二重チェックが必要じゃなかろうかというふうに考えるわけです。これはいろいろな書類を見てみましても、食肉としての
食べ物を、肉食
動物について慢性
実験をやるべきであるということがどこにも書いてないのでありますけれ
ども、この食肉を食べて大丈夫だということであるならば、それはネコでもいいし、犬でも構いませんから、そういうのを一生にわたるぐらい食べさして、そして安全であるということの保証をしてもらわなきゃいけないというふうに考えるわけです。それから、特に最近
抗生物質が盛んに使われているようでありますけれ
ども、これはアレルギーのもとになりはしないのか。
人間にアレルギー
現象を起こします
抗生物質の量はきわめて少量でも起こし得ますので、そういう
現象がないのかどうかということに関するチェックをすべきであるという規定が、どこにもないということで、いま、文明が進むにつれましてアレルギー体質がどんどんふえてきておりますけれ
ども、こういうことを助長しないようにしなければいけないというようなことを考えております。大体、
食品添加物の安全性につきましては一九五七年にWHO、FAOの基準がございまして、慢性毒性
実験、つまり、その種族におきましての一生を、ネズミですと約二年間食べ続けさせまして、それで何ら、どの臓器にも、あるいは体重その他につきましても何ら影響の認められないという量を、これを無作用量と言いまして、さらにそれの数百分の一を添加することを認めるというのがWHO、FAOの基準でございますが、これはなぜ数百分の一にするかと言いますというと、
動物と
人間との間の種族差、これが約十倍程度のものが多いものですから、十倍と。それから
人間の中での個人差、これが十倍ないし数十倍ということで、数百倍の安全率を見ておかないと、一番弱い
人間をも保護することができないと。これがWHO、FAOで採用しました
食品添加物に対する安全基準でございますが、こういうことをやはり食肉に関してもやるべきではないかというふうに考えるわけです。
四番目に、私
ども心配なのは、現在、
自然界の汚染ということが盛んに言われておりますけれ
ども、相当大量の
添加物が
人間の食べるものにも使われておりますし、
家畜にも使われておりますが、そういったものによるところの
自然界の汚染に関する推測が一体行われているだろうかどうかと。
家畜の屎尿の中にいろいろな化学
物質が一杯入れられておるようでありますけれ
ども、そういったものが
流れていって、河川・海洋の汚染、それがさらに
生物の中にまた濃縮されまして、海藻だとかあるいは海産物、エビ、カニの仲間から貝の仲間から魚の方に入って、そこでどんどん濃縮される
現象がございまして、たれ流しにしたものがだんだん薄まっていくということがどうも
生物と無
生物とが共存する系にはないようでありまして、
生物濃縮という
現象がございまして、そういうことのために極度に濃縮されました毒物が再びわれわれの
食べ物として戻ってくるという危険性はないのかと。この点のどうも十分なチェックがされていないようでありますが、これは日本で
生産しますところのそういった
添加物の総量というものの中で、われわれの体に残るものが若干ありましょうけれ
ども、排泄されるものの総量を考えてみますならば、これは大変なことではなかろうかというふうに思うわけです。
それから五番目に、いま、いろいろな大臣の諮問機関の審議会が一切公開されておりませんし、いよいよこれが実施されましてから、私
どもその科学的根拠を知りたいと思って、主として厚生省ですが、参りましても、それは企業秘密であると言って一切、いかなる根拠に基づいて許可したかということを明らかにしてくれない。こういう問題がありますので、私
自身も科学者のはしくれでありますけれ
ども、にもかかわらず、自分が食べるもの、あるいは患者
たちが食べておるものの安全性に関して科学的な確信を持ったことができないということがございます。スエーデンにおきましては、審議会そのものは公開されてないのでありますけれ
ども、それが実施された後では審議記録は全面公開されていると。だれでも行って見ることができるというふうに聞いておりますので、今後の科学行政につきましてはぜひそういうことをやっていただきたい。
最後に、農林省の
研究能力が果たして大丈夫だろうかということにつきまして若干疑念がございますが、これは、お手元にございますところの二枚の紙がございますか、農林省石油たん白
——酵母をノルマルパラフィンの中で培養しましてつくった
たん白質を、鶏に食べさした
実験でございまして、これは農林省の畜産試験場の吉田さんという人がいろいろ解析されたんですけれ
ども、吉田さんは、六編の論文の最終結論としまして、これは、五代目まで鶏を飼いまして、これは全国の畜産試験場でやったんでありましょうけれ
ども、何ら毒物は認められないというふうに結論をしております。しかし、私
どもが分析しましたところによりますと、明らかに体重の増加が普通食を食べさしたものよりも悪い、
飼料の摂取量が低い、性の成熟期に到達するのが遅い、それから産卵率が低い、卵一個
生産するのに
飼料をよけい食べる。それから、その他必須アミノ酸の含有量が低い、などというようなことが、重大な事実が出ております。
その具体的な例は二枚目の図表で、プラス・マイナスを書いたものがございますが、これは下の段からごらんいただきますと、下の段の一代目、二代目、三代目、四代目、五代目と書いてありますのは、四週目、十二週目、二十週目、普通食群、対象群と比較しまして体重が減少しているものをマイナスとしてあります。体重がふえておるものをプラスとしてあります。そうすると、一代目、二代目、三代目、四代目、五代目まで、四週、十二週、二十週の全体を通じまして大半のものが体重減少を呈しておるということがはっきり出ております。それからさらに、表の一番上のところをごらんいただきますというと、五〇%産卵、つまり、卵を全部産み切るまでのちょうど真ん中辺に到達する日数が、マイナスと書いてあるのは延びる、プラスの方が早く産むと、こういうことでありますが、これは二十一対五。これは大ざっぱな考えですが、二十一対五で遅く卵を産む、ゆっくり産むと。それから卵一個産むのに
飼料をどのくらいとるかと言いますと、これは二十一対九でよけい食べるということです。はなはだ好ましくない。それから産卵率、これは鶏一羽当たりの産卵個数を見てみますというと十対二十で少なくなる。これはどういうことであるのかと見てみますというと、どうも甲状腺の機能低下が起こっておるようであります。したがって、これは
えさをよけい食べなくても大体、体重はふえていきますけれ
ども、それでも、食べ方が悪いために体重は全体として減っているということであります。これは、ほかの石油たん白
——厚生省のデータあるいはイギリス石油のデータを見ましても全部共通に出ておりまして、共通の毒素が存在する。しかも、それは体重減少は何のせいかわかりませんけれ
ども、甲状腺の機能低下が存在すると。つまり、粘液水腫とわれわれが言っております体がむくんで、鈍くなってという、新陳代謝が低下するという、そういう
状態でこれが生きているということが出ておりますが、そういう肉を食っていて大丈夫なのかということをわれわれは心配いたすわけでありますが、これが完全に見逃がされております。ところが、それが大丈夫であるというデータが出ておるわけでございますが、こういうことであって、果たして農林省の
研究能力を信用していいのかどうかということが大きな問題だろうと思います。
もう一つは、こちらに「薬のひろば」という雑誌がありますが、これは私
どもの「薬を監視する国民運動の会」の機関誌でございますが、これの四十八ページ、「畜産
食品中の
抗生物質〃ゼロ化吉田理論〃の批判」、これは日本科学
技術者連盟というところで吉田さんを招いて勉強をしたときの話を聞いて、大変これは危ないことだなと思ったんでありますが、たとえば
飼料添加物を与えましても、五日目以後ならば、その肉の中には
添加物は入ってないということを理論的裏づけをしようとしたのでありますけれ
ども、なくなっているということはどういうふうにこの吉田さんは考えているかといいますというと、その次のページの五十ページの下の欄の終わりの方に書いてありますが、つまり検出できなくなった段階でそれはなしと考えている。つまり〇・五ppmという、われわれから考えますというと、かなり多いと思われるところ、それ以下になりますというと、ばい菌の発育阻止という形では
抗生物質は検出できなくなりますが、それでもうないものというふうに決めていますけれ
ども、これでは不十分である。ゼロと、検出不能ということでは違うと。しかもこれはばい菌の培養阻止ということで見ているわけでありますが、それから二番目に、それにもかかわらず、そこで得られました卵なり肉なりを長くほかの
動物に食べさせた場合、安全かどうかということの、ごく微量に残ったものの安全性試験がやられていない。これが第二の批判であります。それから三番目に、私
たち心配なのは、私は物療内科というところでアレルギーのことをやっていますが、この微量の
抗生物質を使いましたが、微量に残っている可能性のあるものを食べた場合に、アレルギー患者がふえてこないだろうかどうか。こういうことのチェックが全然されないで、四日間とめて、五日目以後は大丈夫であるというふうに、きわめて大ざっぱな理論をつくっておりますけれ
ども、私
どもは、AF問題のときに、ニトロフラン加合物を
飼料からはずしてくれと言ったとき、農林省の方々が五日以後使わせないようにすれば大丈夫であると、この理論はちゃんとあると。それがどうもこの理論だったわけですが、この程度の理論でありましたらきわめて危険であるということでございます。
それから
最後に石油たん白ですが、「
たん白質油脂資源の開発利用について」という農林大臣官房企画室で四十九年七月に出した文書がございますが、この中で見ますと、これは慢性毒性試験は三カ月以上というふうに規定してあります。これはきわめてお粗末でありまして、いまわれわれ
人間の飲食に供しますところの
食品添加物に関しましては、先ほど申しましたように、WHO、FAOの基準に従いまして、その
動物の一生にわたる期間、つまりネズミなら二年以上というふうに規定されておりますけれ
ども、農林省の規定では三カ月以上ですから、三カ月半ぐらいでもいいわけでありますが、これで慢性毒性試験が済んだというふうに言われましては、見逃しをする危険性がある。こういう点で、いろいろ農林省のこういう点での
中心になると思われる若い科学者の能力、それからいろいろな行政上の規定の緩さという点から考えまして、これはどうも厚生省よりもはるかに危険じゃないかというふうに私
どもは思いますので、ぜひとも、私
どもがもう少し発言可能であるような、厚生省でのダブルチェックというシステムを採用していただきたい。
以上、私の考えを申し上げまして御
参考に供します。