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参考人(
稲川宮雄君) ただいま御紹介をいただきました、
全国中小企業団体中央会の
専務理事の
稲川でございます。
私は、目下御
審議中であります
中小企業近代化促進法の
改正につきまして
意見を申し上げますとともに、引き続きましてこれとの
関連におきまして、
中小企業の
現状なり、あるいは
対策について申し述べたいと存じます。
近代化促進法につきましては、
昭和三十八年、この
法律が
中小企業基本法とともに成立いたしまして以来、十二年間経過いたしておりますが、きわめて多くの
実績を上げてきたと考えております。
まず第一に、いままで
実態が明確でないと言われておりました
中小企業につきまして、
中小企業総合基本調査というものが行われましたこととともに、この
中小企業近代化促進法によって
指定を受けました
業種につきまして、厳密な
実態調査がそれぞれの
業界ごとに行われておりまして、この結果がきわめて有意義なものでございまして、
中小企業の
実態がまず明確になったということが非常に大きな収穫であるというように考えております。
第二に、従来、
中小企業対策は、一方的な
抽象的対策が多かったのでございますが、この
近代化促進法は御承知のとおり、各
業種ごとのきめの細かいそれぞれの
対策が講ぜられまして、
生産なり販売なり、あるいは技術なり設備なり、あるいは
適正規模等に関しまする
近代化、
合理化が講ぜられ、それが
中小企業の
改善に大きな
貢献をしたということを私
どもは率直に認めるものでございます。その
効果は
数字的にもいろいろ表明されておりますけれ
ども、私は、
数字にあらわれましたもの以上に
中小企業の
近代化施策にきわめて大きな
効果がありまして、むしろ、
数字でははかることのできないほどの大きな
効果があったというように評価しておるのでございます。
たとえば、これは
ドルショックなりあるいは
石油ショックのときもございましたけれ
ども、私
どもが
業界の実情を調べました際に、各
業界団体へ参りますると、
近代化促進に
指定され、あるいは
構造改善に着手しておりますその
業界におきましては
ショックの受け方が少ない、あるいはそれに対する
対策が適宜立てられるというような、そういう
環境にあるのは、まさにこの
近代化促進法のおかげであるということを申しております
業界が若干ありました点を見ましても、この
効果が非常に大きいというように考えるのでございまして、そういう
ショックを受けたような際に、特にその
効果が顕著にあらわれてくると思っております。たとえば例で申しますると、
作業工具などはその一例であったかというように思うのであります。
第三に、この
近代化業種の
指定を受け、あるいは
構造改善業種として特定を受けました機会に
業界の
組織化が推進
強化されておるのがほとんどでございまして、
中小企業対策を進めます上においては、私
どもの持論でございますが、やはり
組織化ということが
基本である、きわめて重要であるというように考えておるのでありますが、この
近代化促進法の
指定によりまして、各
業界の
団体組織化がきわめて進んでおるということも見逃すことのできない大きな事実であるというように考えるのであります。
要するに、この
法律によって
指定を受けました
業種の中には、中途において挫折いたしまして、その
計画を放棄したというものもないではございませんけれ
ども、総じて申しますならば、
中小企業の
近代化、
合理化、その
生産性の
向上、あるいは
体質の
改善というような面に、きわめて大きな
貢献をしたということを私
どもは信じております。
いま、この
近代化促進法の
改正が提案されまして、御
審議中と承っておりますが、過去十二年間における
実績に立って振り返ってみますると、
時勢の
変遷、あるいは
環境の
変動によりまして、
内容を
改正すべき点が幾つかあるわけでございます。
昭和四十四年には
構造改善を行うための
改正がございまして、
業界ぐるみあるいは
産地ぐるみで、早急かつ徹底した
近代化を行うための
構造改善計画ということがもくろまれまして、
自由化とかあるいは
特恵関税、
労働力の不足、
公害対策等のためにこれはぜひとも必要であり、また、その
一つの
方法といたしまして
企業集約が行われてきたのでございます。
この
企業集約ということは、一面から申しますると、
中小企業の
整理淘汰を
意味するという反面もございまして、批判の
対象になる場合もございますけれ
ども、しかしながら、従来のこの激動期におきます
中小企業、特に
零細企業が本当に身を捨てて浮かぶ瀬を発見するためには、場合によりましては合同とか合併とか、あるいは協業ということも行わなければならなかったのでございまして、その結果、従来のいろいろな問題、懸案を一挙に解決することができるといった
効果も見逃すことはできないと思うのであります。したがいまして、そういう勇断を選びました
人たちに対しましては、私
どもはその勇気と英知と、かつ、その
時代感覚には大きな敬意をむしろ表しておるのでございます。しかし、そういうようなやり方というものは、
高度成長、あるいは
規模の
メリットというものが必要である
時代において特に必要だったのでございまして、今日においても
規模の
メリットが必要でないというわけではございませんけれ
ども、それだけではこれからのこの
安定経済と申しますか、そういう
経済に処していくことができませんので、そこでどうしてもソフトな方面の
改善、いわゆる
知識集約化、あるいは第三近促というものが選ばれることになったのでございまして、これも
時勢の
変遷に伴う
一つの当然の
方向であるというように考えるのであります。
しかし、最近におきましては、
事態はさらに進展をしておりまして、
中小企業をめぐる
環境は大きく
変動をいたしております。こうした事情に即応するためには、
近代化の
施策もさらに
内容を充実させ、発展させていかなければならないのは当然でありまして、単に
国際競争力の
強化とか、あるいは
産業構造の
高度化ということだけではなくて、
国民生活の
安定向上のための
業種までも
対象にしていくということは当然でございまして、むしろ私は、それは遅きに過ぎるのではないかとさえも思うのでございます。あるいは
構造改善方式を縦の
関係と申しますか、あるいは異
業種と申しますか、
関連業種ぐるみでやっていくという構想も今日の場合は非常に必要でございまして、いわゆるむずかしい言葉でございますけれ
ども、
システム化ということが必要であるということが言われておるのでありますが、そういう
システムとしてこれから
中小企業の
経営なり
組織というものを組んでいかなければならない今日の時点におきましては、この
方法もきわめて必要な
方向である、こういうように考えております。あるいは新
分野への
進出計画制度等もきわめて重要な線であると思うのございます。実はこれらの案につきましては、私
どもは賛成であるというよりも、むしろその実現を心からお願いしておるのでございます。
と申しますのは、私
ども全国中央会のお世話によりまして、
中小企業近代化促進団体協議会という
団体が設立されておるのでございますが、現在七十七の
団体がこれに加盟いたしておりまして、ときどき集まりまして、
研究会とかあるいは
幹事会等を開きまして
対策を協議しておるのでございますが、今回の
改正案の大半は、私
どもがお世話しておりますこの
協議会において考えられ、そして
政府にお願いをしたものでございまして、そういう
意味におきまして、私
ども並びにその
関係業界はこれに御賛成申し上げるのは当然でございますが、むしろ、ぜひともこれを実現していただきたいということをお願いしておる次第でございます。
以上は
近代化促進法の直接の問題でございますが、これに
関連いたしまして、
中小企業の
立場から
現状に対する若干の
希望を申し述べたいと存じます。
これからの
中小企業にとって大切なことは、言うまでもなくその
経営の
近代化であり、あるいは
体質の
改善でございます。
自由経済体制のもとにおきましては、
自分の
努力で、いわゆる
自己努力によりまして
経済の
合理性というものを高めていくということが必要であるということは、
中小企業政策審議会におきましても、前後二回にわたってその結論を出されたところでございまして、
中小企業が発展いたしまする基盤は、何と申しましても、みずからの
経営の
近代化にあるということは言うまでもないのでございます。そういう
意味におきまして、この
近代化促進法というものはきわめて重要な
法律でございまして、
近代化は
中小企業対策のすべての
基本であり、かつまた前提であると言っても言い過ぎではないと思うのであります。
しかしながら、
中小企業の
現状から考えますと、この
近代化ということはきわめて必要な
条件でありますけれ
ども、
中小企業の
振興発展のためにそれは十分であるかと申しますと、私
どもは十分であるとは考えていないのであります。
必要条件であるけれ
ども十分要件ではない。したがって、
中小企業のためには
近代化の
促進ということがきわめて重要でありますけれ
ども、それだけではなくて、
近代化というものが実を結ぶために、さらに十分なる
対策を考えていただきたいということが、今日の
中小企業の
希望ではないかというように思うのであります。
どういう
内容かと申しますると、まず第一には、二年有余にわたって続けられました総
需要の抑制ということによりまして、
中小企業の
経営は
業種によりまして、地方によりまして若干の異同はございますけれ
ども、まさに危殆に瀕しておると言っても過言ではないような
状態でございます。したがいまして、
中小企業に対しましては、先ほど中小
公庫の
渡辺総裁からもお話がございましたように、
金融枠の拡大でありますとか、そういうことも今日必要でございますし、また、特に最近
中小企業の
要望いたしておりますのは、従来
政府から借り受けました
資金の償還を猶予してもらいたい、こういう
要望もかなり強く出ておるのでございます。そういう
意味におきまして、
金融対策というものはいつの場合でもそうでございますが、特に
中小企業対策としてぜひ御考慮をいただきたいのでございます。しかしながら、今日の問題は、
資金よりもむしろ
仕事をという切実な声がございますので、ぜひこの際、
金融もさることながら、
仕事がもっと
中小企業に行き渡りますような
施策をお願いいたしたい。
昨日、第三次の
不況対策というものが発表されたようでございますが、
財政の繰り上げ
支出でありますとか、あるいは
住宅に対する
資金の拠出でありますとか、そういうような点によりまして
景気を浮揚していただきませんと、いまや
自律反転力と申しますか、
自律回復力というものは、特に
中小企業の場合には欠如しておると言わざるを得ないと思うのでございます。
次の
対策といたしましては、
中小企業分野というものをこの際確立してもらいたい、こういう
要望でございます。憲法の
関係でありますとか、あるいは
消費者に対する
関係でありますとか、あるいは
近代化、
合理化等のいろいろな
関係がありましてなかなかむずかしい問題であるということは、十分私
どもも承知しておりますけれ
ども、しかしながら、大
資本が弱い
中小企業の
分野へ、まるで弱肉強食のような形で
進出してくるような
状態を放任しておくということは、
独占禁止法の
立場から申しましても、私
どもは非常に大きな矛盾があると思うのであります。
独占禁止政策というものは
競争を
促進する
政策である、大
企業の
進出を防止するということは、むしろ
競争を制限するものである、こういう論調もございますけれ
ども、しかし、
独占資本が
中小企業分野へ入ってまいりまして、
中小企業がそれでなくなってしまうというような
事態を想像いたしますると、それは
競争状態がなくなることでございまして、まさに、大
企業の
進出をとめることこそ民主的な
競争というものを維持し、
促進するもとである、こういうふうに考えておりますので、ぜひこの大
企業の
中小企業分野への
進出ということには何らかの歯どめをお願いしたいというのが、
中小企業の全部ではございませんが、
関連しております
中小企業におきましてはきわめて切実な
要請でございます。
次の問題は、
下請に対する問題でございますが、
下請取引の
適正化、あるいは
下請代金の
遅延防止ということもかねがねの問題でございますけれ
ども、また私
どもは、
下請代金支払遅延等防止法は
ざる法ではない、それはそれなりの
効果を上げておるというふうに信じておるのでございますけれ
ども、しかしながら、それが十分に機能していないということは、もはや今日では定説でございまして、この際、できるならば
下請に対しまする
手形には
期日を設けていただきたいということが
一つでございますが、仮に
期日を設けることが困難であるといたしましても、親
企業が
下請に対して出します、支払いまするものは、少なくとも、
中小企業が
自分の
うちの
労働者に支払いまする
賃金相当分だけでも
現金で支払っていただきたいということであります。
労働基準法によりましても、あるいは
家内労働法によりましても、
賃金は通貨をもって支払わなければならないということが
法律で定められておるのでございまして、
下請企業といえ
ども、
自分のところの
労働者には、
賃金は
現金で払わなければならないのであります。受け取るものがオール
手形でありましては、
賃金も支払えないということになるのでありますから、少なくとも
賃金相当分は
現金をもって払っていただきましても、決してそれは無理な注文ではないというように信ずるものでございます。
中小企業や
下請企業が、
近代化促進法を
中心とするこの
近代化によりまして、あるいは
合理化によりまして、みずからの
経営を幾ら
改善いたしましても、その
改善いたしました成果というものが、いま申しましたような
下請代金等の形におきまして大
企業、親
企業に吸い上げられてまいりましては、何にも後に残らないのであります。きざな言い方でありますけれ
ども、働けど働けど楽にならなくてじっと手を見るというのが
中小企業、
下請の
実態であるということでありましては、いかに
近代化というものが
促進されましても、それは
中小企業の本当の
改善にはならない、むしろ
中小企業近代化促進法によって得ましたところの実りというものは、
中小企業の今後の
経営の
改善なり、あるいはまた働く
人たちの福祉なり、あるいは
消費者に配分するというような
方向こそが必要でございまして、働いた分だけが吸い上げられるというような機構をこの際あわせて是正していただくということ。
中小企業基本法で申しますならば、
中小企業の
近代化、
高度化は必要でございますが、同時に、
中小企業の
事業活動の不利の補正ということもございませんと、必要かつ十分なる
対策にはならないのではないかというように考えますので、あわせてそういう点についても御配慮をお願いしたいというのが私の
希望であり、
意見でございます。
以上でございます。ありがとうございました。