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政府委員(
齋藤英雄君)
お話がございましたように、三十六条の五項にただし書きを加えまして、「ただし、その
発明の実施態様を併せて記載することを妨げない。」、この規定で俗に言っておりますいわゆる
多項制に移行しよう、こういうことでございますが、この三十六条に言っております
特許を受けようとする者は、こういうふうな願書を
特許庁長官に提出しなければいけないという、その願書の中の請求
範囲の書き方の
改正ということに相なっております。それで、この願書を出します場合に、
日本の
特許法におきましては一
発明につきまして
一つの願書を出すというのが原則でございます。後で三十八条の
関係を申し上げますが、それがまず原則でございます。したがいまして、一
発明一
出願というのが大原則になっております。その一
発明というものは
特許法の二条によりまして定義をいたしております。
それから、この
発明というものの俗に言われます単位と言いますか、われわれカテゴリーと言っておりますが、そういうものが
日本の
特許法では物の
発明、
方法の
発明、物を生産する
方法の
発明という三つにカテゴリーが分かれております。それもほかの国の
法律にそういう定義をしたところは私
どもの記憶ではないわけでございます。そういうふうに
発明というもの、その
発明の単位というものがこれとこれというふうにはっきり定義をしておりまして、その定義のもとに
出願の様式なりそれ以外の
審査なりというものが行われておりますと同時に、
権利自身も一
発明につきまして
一つの
権利ということで構成をされておるのが
日本の
特許法でございます。
したがいまして三十六条の五項の「
発明の実施態様を併せて記載することを妨げない。」という
意味でございますけれ
ども、これは一
発明につきまして、まず請求
範囲に
発明の構成に欠くことができない事項を記載をいたしまして、そこにただし書きがついておるわけですが、書きまして、それに「
発明の実施態様を併せて記載することを妨げない。」ということでございます。そうしますと、その
発明でございますから、前に書きました
発明の構成のその
発明の実施態様でございますから、したがいまして、その請求
範囲に書いてありますその
範囲は一
発明の
範囲でございます。したがいまして俗に言います、その第一項に書きます
発明の必須要件と同じその
範囲におきます
発明の実施態様を二項、実施態様が三つあれば二、三、四項というふうに記載をするわけでございます。したがいまして三十六条に関します限りは、多項になりましても、その多項のグループというものはあくまでもワングループでございます。ワングループ、一
発明の
範囲内のものでございます。
ただ、その一
発明の
範囲内のものでございますが、そうしますと、それでは実施態様というものはどういうものかということになろうかと思いますが、要するに実施態様と申しますのは、そのいまの第一項で書きます一般的なものを引用をいたしまして、その
発明の、一
発明の
範囲内ではございますが、第二項には第一項を引用しまして、その
発明の構成に欠くことができない事項に、その全部または一部を限定した技術的事項を加えるというかっこうで実施態様を書くというのが第二項目に書く実施態様で、ございます。それで、二項、三項以下いずれも実施態様でございます。それが一
発明でございます。で、一
発明をかりにワングループとしますと、そのワングループである一
発明と、三十八条にあります相互に
関係のある、これは別
発明であります。別
発明でありますが、たとえば物の
発明と、それを生産する
方法の
発明というふうな、そういう
関係がありますものだけにつきましては、別
発明であってもこれは一
出願でできるというだけでございまして、要するに、
発明としては別々のものがあわせて
一つの願書でこれは出せますよというのが三十八条でございます。したがいまして、それぞれの一
発明に多項がついておりますから、三十八条の場合には、そのツーグループなりスリーグループなり
発明の違った
発明がこうありまして、多項にそれぞれなっておるわけでございまして、あるいは場合によっては、それが実施態様を書く必要がなければあるものは単項になっているかもしれません。そういうふうなかっこうになるわけでございます。
いま申し上げましたのが、今回私
どもが
改正しようと思っておりますその内容でございますが、いろいろ考え方がございまして、そうじゃなくて、
日本のように物の
発明なり一
方法の
発明なり、生産
方法の
発明という、そういうふうに
発明のカテゴリー別にしないで、それを
一つの技術的思想の総括と言いますか、一般的な技術的思想と言いますか、それでもって包含できるものは一
発明と考えたらいいじゃないかと。そうすれば物なり
方法なり何とかというものを
一つにまとめたそれを一
発明とすれば、いまのように併合
出願というのは、それは併合の
関係にある両方の
発明というのは一
発明というふうに考えて、併合
出願をやめてしまって、三十六条のような一
発明一
出願の原則でいけるんじゃないかというふうな考え方もないわけではございません。
しかしながら、もしそれを行います場合には、諸
外国で私
どもの例をいろいろ二年半かかりまして検討いたしましたが、
外国にはその
発明というものに対しますはっきりした単位あるいは概念と申しますか、それが必ずしもはっきりいたしておりませんで、これは判例によりまして逐次決まってきております。ある場合には
方法だけで一
発明として許されている場合もありますし、ある場合は、もっとそれを広いものも含めたもので許されている場合もありますし、簡単に言いますと、俗な言葉で恐縮でございますが、伸縮自在になっております。それで
日本のように
法律概念的にきっちり論理的に決められた場合には、
外国、たとえば
アメリカなら
アメリカのそういう伸縮自在というのは非常に言い過ぎかもしれませんが、そういう考え方は
日本の法制にはなじまないのでございます。
もしそれをとる場合には、
日本の現在われわれがやっておりますいわゆる運用なり、あるいは裁判所の判決なり何なりを全部変えませんとそれはできないわけでございます。基本的な
特許法の
改正を要するわけでございます。そういうふうなことを考えまして、しかしながら、もしそれがどうしても必要である場合には、私
どもはそれを考えざるを得ないわけでございますが、いま御説明申し上げましたような
多項制で国際的にも十分通用をするものであると同時に、
出願人あるいは
特許庁内部の
審査をする場合において、それとほとんど同様の
効果を上げ得るというふうに
判断をいたしましたので、現在の
制度を私
どもは採用したい、こういうふうに考えておる次第でございます。