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参考人(
浅原照三君) 私自身が東京大学で有機応用化学
方面の
研究者でございまして、どちらかと申しますと、石油の問題あるいは今度ジュリアナ号以来、特にクローズアップしてまいりました流出油の
処理剤というふうな問題につきましての私の考え方、また運輸省の
研究というものを通じまして、私
たち東京大学のグループで行いました実験、それらにつきまして私の所見を述べさせていただきたいと思います。
従来、非常に誤った言葉が伝わっておりまして、何かと申しますと中和剤というふうな言葉をお使いになるんですが、中和剤と申しますと、石油の中に何か劇毒でもあるような感じを人文社会系の方には与える恐れがあるだろうというふうにも思いますし、また、私のような自然科学屋の中でも化学量はいわゆる中和反応というふうなことの方に考えてしまいますので、これはやはり
外国で使われているような
処理剤——処理剤と申しましてもこれは油を拡散、分散させる
作用を持つようなものを一般に言っている次第でございます。
で、
最初は有名なトリー・キャニヨン号時代にイギリスが全力を挙げて吸着剤でございますとかあるいは分散剤というふうなものをまいたわけでございまして、これによる
被害調査あるいはまたこれについての種々の追跡結果につきましては、すでにイギリス政府機関から発表されたとおりでございまして、皆様方御承知かと思いますが、非常にあの当時、
生物に対する
影響力というものは大きかったわけでございます。で、私がジュリアナ号時代に検討いたしました、私
たち東京大学のグループでやりました検討結果では、かなり
生物に対する
影響力ということがある。きょうおいでになっていなかったのでございますが、こちらの東海区水産
研究所あたりとも
協力いたしましてやった結果では、大体あの当時のものでございますと二〇〇
PPm程度、
処理剤並びにあの当時流出した油をまぜたものに対しまして行ないましても、かなりの
生物に対する
影響力があったわけでございます。
前内閣におきまして何か私
たちが聞かされましたのは、田中前首相からの御要求で手を荒らさない洗剤というふうな意味で、特に食品添加剤として厚生省でお認めになっているようなものを配合例を業界に言いつけられたこともありまして、それの検討にも私も加わったことがございます。そういう経験をもとにし、また
日本の周囲の状況が非常に変わっておりまして
沿岸養殖場の状態が非常に大きく広がっておりますので、これに対する
影響力というものは考えていかねばならない、そういう立場に立ちまして、私
たちはこの五カ年間ばかり
生物に対する
影響を見てきたわけでございます。
これは水産学の権威でございます檜山
教授を
委員長といたしまして特にそういうふうな
委員会も別に持って、種々、化学屋とそれから水産学の方方が
協力してやってまいりましたわけですが、このジュリアナ号時代の教訓というものを生かしまして、現在ではちょうどあの当時の六百倍程度水産
生物に対する
影響力が薄まったものというふうなものが拡散剤として使われています。このために非常に油を
——油と申しますか、私自身は石油連盟にお願いいたしまして大体標準となるB
重油を
——今回の
水島の場合はC
重油でございますけれ
ども、B
重油を、しかも脱硫も何もしていないものでございますが、そういうものにつきまして実験を行いました結果、まずいまのような食品添加剤及びそれに準ずるような組成のものを対象といたしまして現在まで実験を繰り返してまいりました。これによりますと、まず物事には絶対安全であるというふうなことは、なかなかそこまでは
——いろんなやはり人間にも個人差かございますように、
生物によりましてもかなりの個人差もございますし、また実験方法の適、不適というふうなこともございますが、それらのことを踏まえた上でかなりの精度の高い方法でもって検討いたしました結果、現在では一まあなぜ海産物が対象なのにいわゆるほかの川の中にあるようなメダカのようなものを対象にするかというふうな御質問があるかと思いますが、これはいつでも入手しやすいというふうな意味から、まず
最初にはヒメダカを対象とし、それから檜山名誉
教授の御提案でいろんな下等動物についてやるほうがいいだろうというふうなことから、ウニ類でございますが、バフンウニでございますとかムラサキウニというふうなものについて試験いたしました結果、この流出油
処理剤のみを使った場合では、現在では一番いいものでございますと二万
PPm程度の
濃度のものでもいわゆる半数が生存し得る。いわゆるLTMと書っておりますが、そういう数値のものも市販されておりまして、まずいまのところは間違いがなさそうでございます。
それに対しまして今度は、いろんな油類が乳化しているような状態の場合にはどのような
影響があるかと、それもやはり同時に検討しなければならない。これは私
たちが行いましたのは、やはりスタンダードを何か置かなければならないということで、サウジアラビア物を原料としたものから出発いたしましたB
重油を使っての実験でございますが、それを三対一の程度にまでまぜ合わしまして実験を行いましたところ、やはりその当時は、ジュリアナ号当時の非常に拡散能力はよくてもむしろ
生物に害があるというときには、流出油
処理剤のほうの
影響が強く出てきたんでございますが、そのようなB
重油と
処理剤をまぜてまいりますと、やはり幾らかの相乗効果と申しますか、複合的な
作用がございまして、五〇〇〇
PPm程度まで値が下がってまいりました。しかし、これはかなりばらつきがあるようでございまして、中には八〇〇〇
PPmというふうな実験値も出ております。いずれにいたしましても、ジュリアナ号当時の二〇〇
PPmというふうな値から見ますと、飛躍的に向上しているのではないか、そういうふうに勘案している次第でございます。
それでは成魚に対して、大きな魚に対してどのような
影響があるかということも、これを追跡実験をしていく必要がございます。そのために大体私
たちが対象にいたしましたのは食品添加剤的なものでございますので、脂肪酸、普通皆様方が食用に供しておられます食用油の中のグリセリン分を取ったような、そういう脂肪酸と申しましてもオレイン酸でございますが、オレイン酸という酸と、それからポリオキシエチレンと、エチレングリコールと一言われておりますものの、エステル系でございます。このものにつきまして、その中の一番端の炭素のところを、放射能を持った放射性の炭素で置きかえたもので実験を行ったわけでございます。水槽中にそのようなものを分散させて、そしてその中で成魚、かなり大きな魚でございますが、それはもちろんそういうふうな大きな魚の場合でございますけれ
ども、そういう相当成熟したものにつきましては確かに日を置いて、ある一週間なら一週間ばかり水槽の中に置いておいて、それを取り出しまして、また新しい
海水の中に入れてきますと、二日目ぐらいから次第にその流出油
処理剤の中に含まれているいわゆる放射性の分子が減少していくことを明らかにしたわけでございます。でございますので、これを追跡的に一カ月ばかりやりますと、ほとんど二分の一程度には落ちるということから考えますと、単に、いわゆるよく言われておりますように、界面活性剤を含有しておりますために、どうしても内部のえらの
部分に吸着すると、そのために非常に
影響があるんだと言われていたことを、科学的に
一つの証明方法ができたんじゃないかと思っております。しかしながら、このことが同時にすべての微
生物に言えるかというと、そうでもございませんで、やはり非常な小さな、いわゆる
プランクトン系統のものでございますと、ある程度取り込んでいるようでございます。これは放射線
——それでも取り込んではいるんでございますが、その繁殖過程においてやはり減少はしております。でございますので、取り込んでから後も一放出しているのではないかと、まだこれは絶対的な結果としては言えませんですが、そのような実験結果が得られました。
そのようなことから今度の流出油の処理に当たりましては、まず岸壁の
部分とかいろんなところ
——この前のジュリアナ号の場合には、非常に幸いいたしましたことは、新潟県のあの悪天候のために、波によりましてかなり油が流出し、東大の徳田助手が現地に赴きましてサンプリングをいたしましたところ、
プランクトンの量がもとと同じぐらいの数になっているというふうなことを言っておりましたところ、ある程度きついものでも、これは恐らく波の
影響及び潮の海流の
影響非常にございますので、今度の
瀬戸内海の場合に比べると、なかなか比較していいかどうかはわかりませんが、そのような
影響下に置いて使いましたものよりも、非常に
処理剤そのものが本質的に向上しているということを皆様方に知っていただきたいわけでございます。これは運輸省の受託
研究として海難防止協会の下で
委員会を持ちまして、五年近く行ってきた実験でございまして、すでに水産庁の
方々やそういうところでもすべて浸透しているかと思ったんですが、なかなかそういうふうな考え方が普及していないようでございます。
それからまた今度の流出油そのものについての私、これは応用化学者としての
浅原の考えでございますけれ
ども、今度の原油がC
重油ではございますけれ
ども、このものがすでに接触的な方法で脱硫してございます。直接脱硫、硫黄分をかなり取っている。このために、私自身まだ現地のサンプルを取り寄せたばかりでございまして、事実私が二週間前に
香川県、それから徳島県の方の現状、現在漂着している油の現状を見てまいりまして、この
部分を資料としてサンプリングしてくれということをお願いいたしまして、いまこれは実験に入ったところでございますが、まずその現在の状態におきましては水分がかなり含まれた状態で乳化しております。それからその油そのものも直接脱硫しておりますので、確かにいろんながん発
生物質として騒がれておりますようなべンツピレンの量でございますとか、あるいはそういうふうな
芳香族系のものというふうなものがどの程度なっておるかと申しますと、いわゆる普通に市販されているC
重油に比べますと、やはりこれは減少していると考えざるを得ないわけでございまして、私自身まだこのサンプルについては分析をいたしておりませんでございますが、ただ現在、昨日のことでございますが、ちょうど現地からいただきましたそのサンプルが届きましたので、私の
研究室でちょうど学位論文の審査中でございましたので、私は出られなかったんでございますけれ
ども、私の部屋の者が
研究やってみましたところ、非常に簡単に乳化して除去することができるということはわかったわけでございます。でございますので、まず処理方法としてはそのような方法もいいのではないかとも思うわけでございますが、何分これが必ず無害であるとか、人間に対してそのようなものがまだ溶解
——あるいは海草中に付着したり、波に巻き込まれて底どろのいわゆる底質部、この底質部と申しましても、今度の流出油が巻き込まれた底質油そのものなのか、これはなかなかわかりかねる点でございますが、底質油
部分なんかの分析というものもこれから私のほうの早野
教授とともに行っていきたいわけでございますが、
処理剤に関します限りはまた確かにまず重点的に申し上げたいことは、
処理剤そのものが格段に品質の向上を示したと。
第二の点といたしましては、
重油類がまじりましたときには確かにある程度の相乗
作用と申しますか、というものが出てくることは事実でございます。しかし今度の場合、私
たちがスタンダードに使いましたB
重油とそれから直接脱硫したC
重油の場合にはそれほど大きな差はないのではないかとも思っておりますが、これはまたそのような点につきましては生産会社の
三菱石油さんがまたほかへ、公定機関に試験を御依頼になっていらっしゃるでございましょうし、また
岡市先生なんかも種々御検討になっていらっしゃいますが、私の立場から申しますと、そのようにまず流出油そのものが向上し、また相乗効果はあるけれ
ども、それほど大きいものとは言えない。ということは、逆に申しますと、流出油
処理剤の質がよくなったためにそのような
重油の
影響というふうなものが出てきたとも思われるわけでございます。ただ現在
瀬戸内海というところが特殊の、いわゆる皆様方御承知のように、海の銀座と言われているようなところでございますために、種々の廃棄物がやはり不法投棄されているというふうなこともございまして、何が
影響しているのかということの根拠を突きとめるというところには、これはもう
瀬戸内海の
沿岸に面していらっしゃいます大学の方方が
協力され、また私自身現在学術会議の会員でございまして、環境
委員会の
委員もやっておりますので、そのようなことは今度も総理府に対しまして学術会議から要望いたしまして、
瀬戸内海のこの
汚染した状態を徹底的に検討して最もよき方法をとるようにということを総理府にも御要求いたしておりますような立場をとっておりますが、こういうものが最後にまず微
生物の中では蓄積され、それが成魚の中で、成魚の表面からは吸着されなくても、それが大きな魚のえさの状態になったような場合にそれが人体にどういうふうな
影響を及ぼすかということが大きなまた問題点でございまして、これはまた厚生省の
方々が御担当になって
研究を進めていただいているわけでございまして、ただ界面活性剤というものは御承知のように使い方によっては避妊剤にもなるというふうなことが言われておりますので、こういうものを散布いたします時期につきましては非常に考慮しなければならないわけでございまして、特に養殖漁場の盛んなところというふうなところになってまいりますと、散布いたします場合にも産卵期を必ず外してやらねばならない、そのために、産卵してそれがいわゆる稚魚にかえる率というものに
影響を及ぼすようなことがあっては困るわけでござ
いまして、そのような稚魚の、いわゆる産卵後の
影響ということについても水産学の
教授の
方々と
協力してやってみましたところ、確かに六
PPmあたりからかなりの
影響が出てくるようでございますが、できるだけ早い機会に、もしも
——これは私個人の
意見でございますが、こういう
処理剤をまくという場合にはそういうふうな種々の点を考慮して行わねばならないということを私の
意見として述べさせていただきたいと思います。