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参考人(多筥良三君)
マラッカ海峡の通航に関する技術的な問題につきまして、いまの御質問にお答えする前にちょっと触れておきたいと思います。
いま先生がおっしゃいましたように、まあ路地裏をダンプカーが屋根をこすりながら走る、まさにそのとおりでございます。もっと具体的に申しますと、今度の
事故のあった海域付近では、これはシンガポール沖合い一帯の地形を申し上げますと、東口の灯台、これはホースバーグという灯台がございます。これは日本側の入り口になるわけですが、ここからシンガポール沖合いまで約三十二海里ございますけれ
ども、この灯台の入り口そのものはきわめて狭い。技術上の常識でございますけれ
ども、船というのは
自動車のようにくるくる回りません。ストップをかけてもすぐとまりません。もう相当走ってしまいます。そういう船に対してこの海域というのは非常に危険な状態になっております。それを過ぎますとしばらく余裕が出てくるわけですが、シンガポール沖に至って、バッファローロックのあるところから以西は非常な危険な水路になっております。そしてこのバッファローロックから西へ行く場合に北側をメーンチャンネル、南側をフィリップチャンネルというふうに言っておりますが、二つに水路が分かれております。これは自然条件でございまして南北五海里約九キロです。東西十海里、十八・五キロメートル、これの浅瀬、それから岩礁、島嶼等がありまして、それらに、自然条件によってこの水路が分かれておるわけです。そしてそれを過ぎますと、
マラッカ海峡のいわゆる本通りに出るわけですが、ここにブラザーズ灯台というのがございまして、ここでまた合流をするわけです。
このバッファローロックとブラザーズ灯台の沖合いは合流点でございますので、これまた非常に危険であると、そうしてここについては一番狭いところは約三百五十メートルから四百メートルぐらいの可航幅しかない、そうして潮流も二ノットから三ノット、秒速に直しまして一メートルから一・五メートルの流れがございます。そこを月間平均、
先ほど役所の方から御
説明ありましたけれ
ども、四千三百隻が一カ月間に通るわけです。そういうことから見て、いま先生のおっしゃいましたように、まさに路地裏をダンプカーどころではないありさまになっておることを申し上げておきたいと思います。
それからこの航路について、
先ほどからマラッカ協議会ということも言われておりましたけれ
ども、このマラッカ協議会が、これは四十三年から測量に入っておるわけです。そして四十三年当時非常に底触
事故が
発生しておりましたので、このままだと二十万トン以上は通れないだろうと、そういうおそれがあるということで航路を
整備するためにマラッカ協議会を通じて相手側と交渉し、そして測量あるいは航路標識の設置ということをやってきております。それが第四次精測ということで実は昨年暮れにやっと完了したわけです。本来安全ということをもっと重視してもらえるならば、測量が終わるまで十八万トン、二十万トンという船なんかは投入すべきではないのが常識だと私
どもは
考えておるわけです。ところが、いよいよ底をこすっておる、はかりましょうということで四十三年度から五十年度まで七年間かかってやっと精測ができた、こういう全く冒際的なことをやってきておるわけでございます。
その上に昨年の四月十三日に光珠丸という船から保安庁の水路部に報告があったと思いますが、これは水路部のほうから無線告示によって各船舶あてに無線電報で公示をしております。これがバッファローロック付近の北西側で、しかもマラッカ協議会の推薦航路上で新たな浅所が発見されておる。これは十九・五メートルと二十・五メートルです。そしてこの中を巨大船が走る
状況というものをちょっと触れておきますと、大体
祥和丸クラス、これは二十三万七千トンですけれ
ども、船の長さが約三百二十メートルございます。それから幅が五十二メートル以上、深さが二十六メートルです。そして満載状態になった場合の沈下部分、いわゆる喫水が十九・五メートルになります。これが従来の一万トンクラス、戦前は一万トンというと非常に大型な豪華船であったわけですが、これらの船でしたらそう問題はないわけですけれ
ども、こういう大型になりますと操縦性能というものが非常に落ちてまいります。そして一たんかじを切り出すと、それをもとに戻す力というのは非常に強くかかりますので、なかなかもとへ戻らない、すぐ五、六百メートル突っ走ってしまうというあれを持っております。
それから、かといって徐行
運転、いわゆる陸上交通でいうところのスピードを落とせということで船のスピードを落とされた場合にどうなるかと申しますと、今度はかじききがきわめて悪くなるわけです。ですから私はまだ今回の
事故とは直接
関係はないわけですけれ
ども、
原因がわかっておりませんので
関係ありませんけれ
ども、おそらくあそこを通る船は多少のスピードはダウンをしておるだろうけれ
ども、そうたいしたダウンをしておらぬのじゃないか、しておるとすれば、また新たな危険が
発生する、そういうことが言えるわけです。また最近の高度の技術を取り入れた自動化船というのがございますけれ
ども、これは機関部を無人化にして船橋、いわゆる
運転室において自動制御して走る船でございますけれ
ども、これが狭水道に入ったからといって、急にスピードをゆるめるという場合には非常に大きな手数がかかるわけです。そしてまた広いところを航走する場合、自動化に持っていくという場合に非常にまた時間が必要になってくる。そういうことで、いま申し上げたような
状況から推して、そうスピードも落とさないで通り抜けるというケースも
考えられないではないわけでございます。
それから、そういう状態でこういう浅いところを通りますと、船に沈下
状況というのが起るわけでございます。船底と海底との間がきわめて間隔が狭くなりますので、そこを急激な勢いで水流が流れますと圧力が低下をしまして、停止状態で浮いておる状態から船そのものが沈下をする。しかもタンカーになりますと、非常に巨大なんで、そういう船型による影響だと思いますけれ
ども、船首部が一・五メートルぐらいさらに沈下をする、こういうふうな現象が報告されておるわけです。
したがってマラッカ協議会の推薦航路というのは大体二十三万トンクラスで二十二メートルあればこれが航行可能だと、こういうふうないわゆる推薦航路、私ら職業的な
立場から見まして、そういうふうに受け取られるわけですが、ならばいま申し上げました十九・五メートルの喫水で一・五メートルになりますと、二十一メートルです。ボットム・クリアランスといいますけれ
ども、船底と海底がたった一メートルしかないわけです。もし一メートルの波浪、うねりがありましたら、下が岩でございますから、もう底触をするのはあたりまえの状態になってしまうわけです。そういう意味から、私
どもは、少なくとも、いろいろ専門家の方たちはおっしゃっておられまずけれど、船が走るのは二メートルあればいい、三メートルまではいいと言うけれ
ども、これはほんとうに港内における操船ですね、いよいよ港に着かなきゃいけないと、そういうときにタグボート、いわゆる引き船とか、そういうエスコートを十分にやれる海面ですね。ところが全くそういうところを二時間半も走るわけです。ですから全く常識にはずれたことであって、少なくとも
先ほどの御質問でお答えしましたけれ
ども、二十二メートル程度でしたらどうしてもやはり喫水が十五メートルと、七メートルぐらいは押えておきたい。
それから
先ほど森中先生がおっしゃっておられましたように、からならいいのかということになりますと、巨大タンカーが空船で走る場合、その視界をさえぎる、いわゆる死角ができるといいますか、操船室から前方を見た場合に二マイルも三マイルも先が見えないわけですね。ですから、そうなるとそれは喫水の問題ではないけれ
ども、操縦性能といわゆるそれに伴う航路のいわゆる狭隘さ、それからふくそうといいますか、混雑する航路の中でこれまた大量に投入した場合にはやっかいなしろものになってくると、そういう見地から十五万重量トン未満のものを通せと、それ以上のも一のは通すなと、こういう要求を掲げて先日から船主協会と団体交渉をしておるわけでございます。まあロンボクを通せとかそういうことについては、
一つの例としてわれわれそれもあるではないかという主張なんで、いままで
政府の方々もいろいろおっしゃっておられましたけれ
ども、まあそれには私はあえて触れませんが、それはやってできないことはないはずです。
それから船長は航法上航路を選ぶ権限がございますので、海洋法がいま世界的に認められておりませんので、まだ成立しておりませんので、ロンボク海峡が国際海峡であれば船長がみずからの意思によってその航路を選べることになっておるわけです。これはもちろん領海で占められている場合は別でございますけれ
ども、いまの場合にはこれは船長が
会社からおしかりを受けることを覚悟すれば通れるわけです。ところが、そうなりますといままでの状態では首になってしまうわけですね、船長さんは。ですから私
どもはそういうことを
考えて、これはどうしてもわれわれがやらなきやならないということで、昨年暮れに私
どものほうで組合の大会、一年に一回の定期大会を開いたわけですが、その中でも安全問題については、場合によっては年間いつでもストライキをもってでも戦うと、こういう姿勢でやるということを決議しております。
きょう開かれました全国評議会におきましてもあらためてそのことを確認をし、決議文を作成をいたしまして各
関係先のほうにお送りする予定になっております。
〔
委員長退席、
理事黒住
忠行君着席〕
その決議文もございますので読み上げます。
海上交通の
安全確保と海の汚染
防止の闘い
に関する決議
去る一月六日未明、
シンガポール海峡バッファローロック西方付近で座礁、大量の積荷原油を流出させ、沿岸諸国に多大の不安を与えている超大型タンカー「
祥和丸」の海難
事故は、今やわが国だけの問題にとどまらず、国際的海難
事故として広がりつつある。また、昨年末過密重化学コンビナートに臨接する東京湾入口において
発生した大型LPGタンカー「第10雄洋丸」の衝突炎上
事故は、港湾の防災
対策の不備や海上交通安全法の欠陥につき、重大な問題を提起した。さらに、水島港の三菱石油タンクからの大量の重油流出
事故は、わが国国民にとってかけがえのない瀬戸内海東部一円の環境を破壊し、広範囲にわたって死の海を広げつつある。
これら一連の
事故は、その根底において全く
原因を
一つにするものである。すなわち、
安全性を無視し、ひたすら経済性のみを追及してきたわが国のエネルギー政策の欠陥であり、企業資本とゆ着した政治、
行政の反国民的高度経済成長の論理にあることは明らかである。
とりわけ、今回の
祥和丸事故は、直接の技術的
原因は別として、船型を大型化し、安全を無視して大量輸送を追及してきた結果、
マラッカ海峡における航路上の不備が派生し、よって
発生した海難であることは、あまりにも明瞭である。
マラッカ・
シンガポール海峡は、従来から南北物流の要衝であり、船舶の航行量は年々増加し、今や全くの過密状態にあるといえる。そしてこの海峡の航路実態は、最狭部で水深二〇メートル以上の航路幅は、四〇〇メートル以内に限定される箇所があったり、いたる処に浅所が散在し、航路内にも未知の浅所が多数あると推定されている。その上、同海峡の最狭部付近においては潮流が速く、航路の曲折とあいまって、極めて航行上危険な海域である。
このような難所に吃水が深く、操縦性能が悪いため、可航範囲が極端に制限される超大型船を通峡させているわけで、まさに、無謀といわざるを得ない実態である。過去においても、同海峡通行中の超大型船の船底接触
事故は
あとを絶たず、今回の
事故も、まさに起るべくして起きたものといえる。
かねてより、本組合は、船舶の安全
対策として「丈夫で安全な船」を造り、「海上を安全に航行」できる状態を
整備し、「公害や災害」をこさない環境づくりにあることを主張し、こうした諸
対策を度外視して先行する船舶の大型化に強く反対の意を表してきた。
しかし、石油、鉄鉱、海運など
関係業界は、「トン当りの建造費」を安くあげ、「大量輸送」による運賃コストの引下げ、人べらし「合理化」による乗組
定員の削減で、人件費の軽減を計るといった経済性追及のみの政策を推進してきた。そして、一方においては、国民にインフレと独占価格を、われわれ船員には、厳しい労働強化を強要しつつ、通産
行政、運輸
行政を私物化し、船舶のとめ
どもない大型化に狂奔してきた。この間、本組合の再三にわたる警告にもかかわらず、
関係業界は「技術革新・科学の進歩」は、歴史の流れ、社会の要求と豪語してきたのである。
そして、その結果は「ぼりばあ丸」、「かりふおるにあ丸」の沈没であり、「むつ」の欠陥であり、また、「第10雄洋丸」、「三菱石油タンク」
事故、そして、今回の「
祥和丸」ではなかったのか。
これら一連の高度経済成長政策の落し子たちによって、もたらされた損失と荒廃のつけは、いつも弱者たるわれわれ自身に、そして、子孫にまわってくることを直視しなければならない。現に、これらの海難についてみると、その真の
原因は絶えず国家権力の手によって隠蔽され、その
責任が追及され、苛責なき制裁を受けるのは、いつも
現場の船長や乗組員といわざるを得ない。
三菱石油の流出油
事故は、瀬戸内海を死に至らしめながら、なんら刑事
責任は問われず、一方、「第10雄洋丸」の小川船長らは、如何なる措置がとられていただろうか。
すでに、「
祥和丸」船長に対して刑事
責任の追求の段取りが進められているという。真の加害者は罪にならず、
被害者のみが罰せられるこの社会の仕組みに対し、われわれ船員は、激しいいきどおりを押えることができない。
今こそ、われわれは、安全を阻害してきたものは誰か、その根底にあるものは何かを直視しつつ、真の海上安全確立のため、可能とするあらゆる闘いを組織しなければならない。このため、第三十四回定期全国大会で確立した年間ストライキ権を背景として、すでに要求している「海上交通
安全確保に関する要求」ならびに、今回の「マラッカ・
シンガポール海峡通航制限要求」を当面貫徹すべき目標として、総力を挙げて闘う。
以上決議する。
昭和五〇年一月一七日
全日本海員組合
第一三八回全国評議会
以上でございます。