○鶴田公述人
国民経済の鶴田でございます。
幾つかの点で
意見を申し上げたいのですけれども、時間の
制約がございますから、二つの点について私の考え方を述べさせていただきます。
一つは、独禁法の改正をめぐる問題であります。それからいま
一つは、目減り補償の問題、この二つについて、私の考え方を述べさせていただきます。
三木内閣が発足しましてから、三木首相の
経済運営改革の理念としまして、ニューディールということが叫ばれてきたわけであります。その内容は、
社会的公正を図るということを強調されているわけでありますけれども、いまの段階では、この
社会的公正がどういう内容を持つのかという点はあまりはっきりしていないと思います。しかし、ともかく
社会的公正を図るということが、
経済の運営理念の
一つに考えられてきたことは、
日本経済が
環境問題とか、あるいは公害問題とか、さらには
石油危機とか、狂乱
インフレとか、そういうことによって
転換を迫られているということを示すものではないかというふうに私は考えます。ただ、この
社会的公正というのは、言葉としてはかなり語られてまいりましたけれども、一体どういう内容を持つのかという点については、十分な議論がないように思います。従来の効率の追求という運営理念と決定的に異なるのはどこかと申しますと、
社会的公正というのは、
社会の制度やルールを評価するための観念をすべての人が共有するようになる、そういういわゆる
社会制度の確立ができた段階で、公正が図られたというふうに言えるだろうと思います。特にこの公正という概念は、
人々の対立する利害の側面に深く入り込んでいく側面があるわけでありまして、それだけに、
社会的な公正を図るということは、すぐれた
政治的なリーダーシップを前提として達成可能であって、特にエスタブリッシュメントの既得権益といいますか、そういう既得権益を擁護するという力に対して、公正という観点から強いリーダーシップを発揮していくことが必要ではないかというふうに私は考えます。
こういう観点から、独禁法の改正の問題を考えてみますと、確かに方向としては正しい路線の方向をとっていると言えます。独禁法の強化が求められている今日的な性格というものは、
経済的効率化のためばかりではなくて、大
企業体制というこの産業
社会を前提とした場合に、自由かつ公正な競争という
経済的民主主義の防衛にあるのだ、あるいは
経済力の集中とその乱用を抑止することを通して、
政治的な自由と民主主義の基礎を保持しようとする、そこに今日的な性格があるのではないかというふうに私は考えております。そういう
意味では、この独禁法の改正というのは、既存の制度とか慣行とかの改革を求めているのであるというふうに強調していいと思いますけれども、ここに独占禁止法に関する公正取引
委員会の試案がありますが、私はこの中で二つの点について異論があります。
一つは、公取試案では原価公開制を求めておりますけれども、この
企業の原価を公開するということは、まさに
企業の創造的活動の余地を狭めるということ、さらには原価を公表して
社会的監視のもとに置くということは、ややもすれば
政治的な自由を奪いかねない、そういう危険性を持つものでありますから、私は原価公開制には反対であります。
それから二番目の原状回復命令でありますけれども、これもたとえば好況期にカルテル行為を行い、そしてそれが不況期に発覚した場合に、原状に回復するのはおよそ無理でありますから、実現性のないものとして、これには私は反対であります。
ただ、現在独占禁止法を改正する場合に、特に必要なのは次の三点であります。
一つは、課徴金の問題です。違法なカルテル行為のような
経済事犯を予防するためには、カルテルが全くのやり得となっている現状を改めること、それを行えば
企業にとって不利益がもたらされるような制度を確立しなければならないというふうに言えるかと思います。カルテル規制の実効を期するためには、公取試案が提案しておりますように、カルテル行為によって
企業が得た超過利得を没収することを目的とした、課徴金制度の
新設が不可欠であって、
社会的公正にもかなったことであるというふうに言えるかと思います。ただし、公正取引
委員会の試案のように、この課徴金を
価格カルテルのみに、それもカルテルによる
値上げ行為のみに限定するのは、私は適当でないというふうに思います。やはり独禁法上のバランスから言って、課徴金は不当な取引行為一般、さらには私的独占行為に基づくすべての超過利得に対して適用し得るものとすべきだというふうに考えます。そのために、課徴金の金額は公取試案に示されておるような機械的な計算方法による限度額を決めるのではなくて、違法行為による超過利得額またはある一定額のいずれか多い方を徴収するという、西ドイツのような方式が適切であるかと私は思います。これが第一点であります。
第二点目は、
企業間の株式保有の制限の問題であります。最近の数年間、御存じのように、
わが国では
企業相互間の株式保有が急速に進展してまいりまして、
企業の系列化とかあるいは
企業の集団の形成が進んでいると言えます。このことは、株式会社制度の変質とか、あるいは形骸化につながるわけでありまして、会社法上深刻な問題をはらんでいるというふうに言って差し支えないわけでありますし、また、証券市場の本来の機能を阻害するおそれが大きいというふうにも言えます。したがって、独禁
政策の観点から、その競争制限効果の増大を防止し、また
事業支配力、
経済力の過度の集中を排除するために、現在の段階においては、
企業間の株式保有に対する規制を一段と強化することが緊急の
課題ではないかというふうに私は思います。
それには、まず第一に、
企業間株式保有の個別的直接的な競争制限効果に対処するために、独占の形成以前の段階で、
企業間株式保有を有効に規制し得るように現行法を改正する必要があります。たとえば現行法第十条では「競争を
実質的に制限することとなる場合」というふうになっているわけでありますけれども、これを、競争を著しく減殺するおそれのある場合というふうに改正する必要があるのではないかと思います。
しかし第二に、競争制限効果の著しい株式保有に対して、いま述べましたような形で個別的に対処するのでは不十分でありまして、競争制限効果の比較的軽度な個々の
企業間株式保有の累積的、相乗的効果の増大が憂慮されるわけでありますから、したがって、独禁法第一条にうたわれている
事業支配力の過度の集中の防止という
課題にこたえるためには、さきに申し上げただけでは不十分であるわけであります。したがって、そのためには、現行法で規制されております持ち株会社の禁止、あるいは金融
機関の株式保有制限の規定があるわけでありますが、こういう考え方を強化することが必要になってくるわけであります。したがって、私は
企業間株式保有の著しく進展している現在の段階では、金融
機関の株式保有制限を一段と強化する必要があるように思いますし、また大
企業の株式保有総額を総資産または自己資本を基準として制限することがぜひとも必要であるというふうに考えます。
もっとも、この規制対象会社が制限を超えて所有している株式の処分についてですけれども、株式市場とか関係会社の
事業活動に急激な
ショックを与えないように、猶予措置をあるいは経過措置をとることは言うまでもないことであります。
さらに、今後の
課題としましては、旧財閥系などの
企業集団内部での株式相互持ち合いをベースとした、グループ全体としての
事業支配力の集中、及び金融
機関の融資を通じての
事業支配力の集中を規制することを
検討する必要があるわけであります。
以上が
企業の株式保有の制限についての私の考え方でありますけれども、もう
一つ、
企業分割も独禁法にぜひ盛るべき内容であると言えます。
現行法のもとでは、集中度が高い高度寡占産業において、独占的市場支配力が形成され、そのために著しい弊害が生じても、これに対処して競争を回復するための有効な手段がほとんど欠けているというふうに言って差し支えないと思います。このような独占的市場支配力の弊害を排除することは、独占禁止
政策の最も重要な
課題の
一つであり、したがって、そのような高度寡占に対処するためには、次のような内容の
企業分割の規定を
新設する必要があるというふうに言えるわけです。
すなわち、第一に構造面でありますけれども、集中度が著しく高くて、かつ他の
企業がその分野に
新規参入することが困難である場合、つまり高い参入障壁が形成されていて、したがって第二に、
企業行動の側面ではほとんど同時に同じ幅で同調的に
価格が引き上げられる、いわゆる意識的平行行為を初めとして、高度寡占あるいは独占に特有な行動が見られる場合、その結果として第三に、産業のパフォーマンスの面では、停滞的な状況のもとでの高い利潤率とかあるいは過大な広告、販売促進
経費など、競争制限に基づく弊害が顕著に生じている場合、しかも第四に
事業活動方法の
是正など、他の手段によっては競争を回復することが期待できない場合には、公正取引
委員会が
企業分割を含む必要な排除措置を命ずることができるようにする、そういう内容の
企業分割条項を盛り込むことが必要であるわけであります。
ただし、こういう
企業分割の目的は、有効な競争を回復するためでありますし、あるいは
経済的効率を
改善するためでありますし、また
経済的民主主義を確立することに主な目的がありますから、現在の
企業規模が、正当な技術的理由などに基づいて
企業分割の結果生産
コストが著しく上がるというような場合は、当該
企業がそれを挙証し得るならば、分割措置の適用を免れてもよい、そういう特例措置を設ける必要があるかと思います。
企業分割の措置は、何分にもドラスチックな側面を含みます。
けさの新聞などを見ますと、この
企業分割について反対の
意見が、自由民主党の側から提出されて、法案化があきらめられたというようなことが盛られておりますけれども、しかし、現在伝えられております反対論の、たとえば下請との関係、従業員をどうするか、あるいは債権債務をどうするか、さらには商法との関係はどうかということが強い反対の理由になっているようでありますけれども、しかし、こういう問題はすべて技術的に解決可能な問題であって、現在必要なのは、こういう
企業分割条項を入れて、高度寡占産業の独占的市場支配力をいかに排除するかというところに、法改正の目的を置くべきではないかという気がいたします。
したがって、こういう高度寡占
対策としての
企業分割規定の導入なくしては、言うなれば、独占禁止法の改正も画竜点睛を欠くと言って差し支えないわけでありまして、私は、この制度及び独禁法上の排除措置一般についての無理解や誇張に基づく、いわれのない反対が解消することを期待しております。
また、法律技術上の問題が克服されて、
国民の多数の支持を受けて、この制度が導入されることを願うわけでありますが、
冒頭に申し上げましたように、まさに
社会的不公正を
是正するということは、強い
政治的リーダーシップが欠如してはできないわけでありまして、
三木内閣がそれを表看板に掲げるのであるならば、やはり既存の既得権益を排除して、それにチャレンジングして、まさに
社会的公正を確立するためのワンステップとして、この
企業分割条項を導入していただきたいというふうに私は考えます。
もっとも、独禁法の問題は、この三点に尽きるわけではございません。現在の独禁法の
実質上の権限が、公正取引
委員会に過度に集中しております。したがって、それを民主化するということが、今後の
検討課題になりてまいりましょうし、また、二番目には、競争
政策の実効を上げるためには、法律に基づいてあるいは
行政指導などによって、独禁法の適用除外となっているカルテルあるいはカルテル類似行為について再
検討して、大幅に整理する必要があるというふうに言えるかと思います。
最後に、この独占禁止法の有効性を幅広く継続的に確保していくためには、アメリカのキーフォーバー
委員会のような、独占禁止
委員会のようなものを国会に設置して、絶えず独占禁止
政策についての議論が国会の場で行われることを期待しております。
以上が、独禁法に関する私の
意見であります。
それから第二番目は、預金の目減り問題について私の
意見を述べさせていただきます。
預金の目減り問題は、現在
政府・自民党を初めとして取り組まれているわけですけれども、現在提案されている考え方は、預金目減り問題は、あたかも
社会保障や
社会政策の一種として論じられているというふうに私は思います。もし
社会保障ないしは
社会政策という観点からこの問題を取り上げるのであれば、現在
検討されておりますように、
民間金融
機関に一般利子を上回る超過利子を負担させるのはもってのほかであって、インデクセーションつきの国債を発行して、小口預金者あるいは
経済的弱者に割り当てるというのが必要なことになります。つまり、
社会政策の一環として行う限り、その費用負担はあくまでも国家
財政が負うべきであろうというふうに私は考えます。
しかし、この預金目減り問題が提起しているのは、単に
社会政策とかあるいは
社会保障政策などの狭い枠組みの問題ではないと私は思います。むしろ、
経済政策の内容ないしは理念あるいは既存の制度の変革を求めていることが、この目減り問題の本質であります。
わが国における伝統的な貨幣契約制度をめぐる
社会的不公正は何かと申しますと、まず第一に、利子
所得が、賃金とかあるいは利潤などの他の
所得と違って、制度的な規制のもとに置かれていること、これが第一であります。
したがって第二に、貨幣単位による債権債務関係の締結が、債権者、主として預金者、家計——一般の家計でありますが、債権者から債務者、主として
企業であります。
企業への
実質的購買力の強制的移転をもたらしておるという点であります。
したがって第三に、各市民、多様な市民は、資産保有の対象として
インフレヘッジが可能な資産に接近し得る
程度が異なっておる。この三つから
社会的不公正が生じておるのだというふうに言えるわけであります。
したがって、この預金目減り問題は、単に
社会政策、
社会保障という狭い枠で考えるのではなくて、これらの欠陥を
是正することが必要なのであって、それはいずれも低金利
政策の制度的構造が、
インフレーションのもとで不適切なものになっておることを示しているわけであります。したがって、これを打破する方法は、金融資産のインデクセーションであって、そのメカニズムは金利の弾力化と同じことになるということであります。
つまり、この預金目減り問題が提起しておるのは、要するに金融資産の価値安定を求めておるのであって、単に
社会的な
社会政策ないしは
社会保障という狭い枠組みの問題ではないということを強調したいと思います。
このことは、
経済の安定的
成長を保障するような制度的変更を求めておるというふうに御理解いただけたらと思います。この安定的
成長と申しますと、従来からしばしば、
わが国では安定
成長への移行ということが強調されてまいりました。しかし、いままで少なくともこの
高度成長政策が定着して以来、過去三度ほど安定
成長論が提起されたと思います。第一回目は
昭和三十七年であります。第二回目は
昭和四十年、第三回目は
昭和四十六年の円切り上げの際でありますけれども、いずれも現実の
経済によって否定されてまいりましたし、特に
昭和四十六年以降は、御存じのように激しい
インフレーション、またその反動としての不況によって、まさに波乱と混乱に満ち満ちた
成長の道であったというふうに言えると思うのであります。
現在、
経済政策の担当者が安定
成長への移行ということをしきりに強調しているわけでありますけれども、
日本経済に果たして安定
成長を保障するような、そういう制度的な枠組みがあるのかどうかということを御
検討いただきたいように思います。
むしろ、
日本経済の過去三十年のいわゆる
高度成長のメカニズムというものが定着していて、少なくとも外側から
石油規制によって
成長が
抑制されてきた場合には、それに対応できない。そういう
意味では、ソフトランディングがしにくいような
成長体質を持っておる
経済だということであります。
でありますから、単に安定
成長への移行を叫ぶのではなくて、安定
成長を保障するような安定化装置といいますか、そういうようなものを
経済の機構の中にセットしない限り、まず安定
成長は不可能であって、そういう
意味では、預金の目減り問題が提示している、いわゆる金融資産の価値保全という問題にもこたえ得ないことになるのではないかというふうに私は思います。
そういう安定化装置については、幾つかの点がございますけれども、きょうはさしあたって四つの点について、私は
意見を述べたいと思います。
一つは、先ほどの金融資産のインデクセーションと同じことでありますけれども、金利機能をもっと活用するような
経済にしなければならないということであります。これは金利の自由化を図るということでありますけれども、要するに預金金利にインデクセーションを導入するということは、結局そのことによって価値が保全されるわけでありまして、当然
企業なり個人の資産選択の構造が変わってくるというふうになります。
たしか一昨年の暮れの国会で、野党の側の質問に答えて、当時の福田
大蔵大臣は、預金にそういうインデクセーションを導入するということは、貸出金利を高めてしまって、これは
企業の借り入れ
コストを高める、それは結果として
インフレの刺激につながるのだというような発言をなさったのを、私は新聞で読みましたけれども、これはまさに金利機能の活用という点での無理解を示すものであって、貸出金利が上がるということは、そこで
企業の資産選択の構造が変わるわけでありますから、当然
インフレ抑制的な側面を持つわけであります。
また、金利機能を活用するということは、債務者利潤の減少を通して、
企業の投機的行動を
抑制するわけでありますから、一見、金利の自由化というのは
経済を変動させる要素と考えがちでありますけれども、むしろ金利機能を活用して、
経済の安定化が可能になるのだということを深く御認識いただきたいと思います。
それから第二点目は、
金融政策の決定プロセスに関する問題であります。
戦後の
金融政策というのは、
日本銀行の
政策委員会が
金融政策をたてまえ上決定することになっております。実際そういうふうになっておるかどうかということは、皆様方御存じかと思いますけれども、私は、たてまえを重視してこれから
意見を述べるわけでありますけれども、この日銀
政策委員会がどういう構成でいま行われているかと申しますと、御存じのように、大蔵省
代表一人、それから
経済企画庁
代表一人、この
政府側
委員は、発言権こそあれ議決権はございません。したがって、残りの五人が発言権と議決権を持っているわけでありますけれども、その構成は、日銀総裁、それから都市銀行
代表、市中銀行
代表、それから産業界
代表、農業
代表、こういう五人構成になっているわけであります。そうしますと、こういう五人構成の中で
政策が決定されるわけでありますけれども、しかしすでにお気づきと思いますが、この五人の方々はすべて産業界の
代表であります。むしろ債務者利潤を得て、
インフレによって利益を受ける人たちだけで構成されているという、非常に不公正な構成になっているというふうに言って差し支えないと思うのであります。したがって、
経済の安定的な
成長を保障するためには、やはり勤労者なり市民の
代表がこういう日銀の
政策委員の中に加わって、そしてけんけんがくがくとした議論を行い、適切な議論を行って、通貨価値の安定ということを
政策決定の基底に置いて、
政策決定を行うことが必要でないかというふうに思います。もちろん、この
検討事項というのは事後的に報告されるわけでありますけれども、ここで西ドイツの
消費者物価がなぜ安定しているのかという点に関連いたしますと、そういう
金融政策の決定プロセスにおいて、まさに通貨価値の安定を図ることを可能とするような
委員の構成になっているということですね。現在西ドイツの
消費者物価が六ないし七%であるということは、言うなれば
金融政策の決定プロセスにおいて、公平な
立場の人たちが参加し、そして徹底した議論を行って、
金融政策を決定しているからだというふうに言えるわけであります。
それから第三番目は、現在の
財政の硬直化の問題であります。昨年の
インフレの過程においても、
財政は二〇%
程度大型の
財政が組まれました。ここ数年非常に
財政の大型化という傾向が続いております。ことしもかなり大型化の
財政であるというふうに言えるわけであります。しかし、この大型
財政というものは、むしろ補助金
行政とかいうものによって硬直化してしまって、
経済の変動に対して柔軟な対応ができない、そういうふうになっているのではないかというふうに私は思います。したがって、
財政の硬直化というものをどこかで打ち破らない限り、外側からの
成長抑制に対する強い要請に対して、内側から対応できない。そういう
意味では、現在の
財政構造を前提としては、不安定
成長を促すことになるのではないか、そういう懸念がいたします。このことは、従来の補助金
行政を初めとしまして、
公共料金政策の考え方も基本的に再
検討しなければならないというふうになりますし、私の個人の考え方からすれば、ことし
食管会計の
赤字補てんが約九千億円強であります。これは巨人軍の王選手を初めあるいは横綱の輪島あるいは皆さん方とか私が、一人当たり月額七百五十円の国家補助を受けているということになるわけですね。もちろん
三木総理大臣も、同じように一人当たり月額七百五十円の国家補助を受けているわけです。もし
社会的な公正という観点からこの問題を考えるのであれば、そういう輪島なり王選手なりあるいは私たちが、同じように国家補助を受けるのが
社会的公正なのか、あるいは
生活保護費、
社会福祉費、これは合わせて一兆一千五百億円
程度でありますけれども、そういうものを、いわゆる
生活保護費ないし
社会福祉費に回すことが、
社会的公正化を図り得るというような観点から、この
公共料金問題を考え直す必要があるのじゃないか。また、それが
財政の伸縮性を高める
一つの基礎にもなるというふうに言えるわけであります。したがって、これは自民党だけでなくて、野党の——私、
社会党の推薦で出てまいりましたけれども、共産党を初めとして、やはり
公共料金政策の再
検討ということは必要であります。ただし私は、これだけを取り上げていただきたくはないわけでありまして、先ほど申しましたように、
金融政策の決定プロセスに対する安定化装置をビルトインする、あるいは金利機能を活用するというような整合的な
政策が伴っていなければいけないわけであります。
それから第四番目は、いわゆる三割自治の解消の問題であります。要するに安定
成長ということは、やはり
国民生活の安定というものを達成できるような、そういう
成長の道でなければいけないわけであります。そのときに、特に
生活基盤投資の拡充が必要になってくるわけでありますけれども、
生活基盤投資というのは、各
地方の自治体によって
生活状態が変わっておりますから、どういう施設に投資するかというのは、まさに各
地方の実情に応じて行わるべき性格を持っておるわけであります。ということになりますと、現在のように法人税、
所得税がすべて中央に上がってきてしまって、中央でもってすべてそういう細目をきめてくるというようないまの補助金
行政では、その
地方の欲する
本当の
生活基盤拡充投資は不可能になってくる可能性があるわけでありまして、そういう
意味では、三割自治を解消して、やはり法人税なり
所得税を
地方に移管する、言うなれば
財政の分権化を同時に進めていくということが必要になってくるということであります。
もとより、安定
成長への道ということは、以上によって尽きるわけではございません。独禁法の改正ももちろん含みますし、さまざまな
政府の調整的な機能ということが必要になってくるわけでありますけれども、しかし現在の預金目減り問題というのは、単に
社会福祉、
社会保障、
社会政策的な側面から行うのではなくて、以上申し上げましたような
経済の安定的
成長を保障し、金融資産の価値保全が図れるような、そして
国民の安定した
生活が確立できるような、そういう制度的な枠組みの修正を求めているのだということを深く御理解いただきたいと思います。
大変長くなりましたけれども、以上で、私の公述を終わらしていただきます。(拍手)