○大平
国務大臣 景気の
回復との関連におきまして
財政の役割りに言及に相なりました。
輸出がふるわない、国民の
消費もさえないという
状況のもとに、また
設備投資も大きく期待できない
状況におきまして、
財政政策で需要を喚起し操業度を高めてまいることを考えるべきでないかというお考えでございます。私も
財政の事情が許す限り、お示しのような方向において
財政の運営を図ってまいることが適切であると判断するものでございます。さればこそ、去年の四十九年度も大きな規模の補正
予算を組ましていただいたわけでございまして、これは不幸にいたしまして多くの税収不足を結果いたしましたけれども、二兆円を超える歳出を実行いたして
景気を支えてまいったわけでございます。それをベースにいたしまして五十年度
予算が編成されたわけでございます。五十年度
予算は、すでにそういう
意味におきまして、歳入不足が見られるかもしれないという不安を含んだ
予算であると一般に評価されておりますけれども、
政府といたしましては、この
予算は忠実に実行して
景気を支えていかなければならぬという決意をいたしておるわけでございまして、勝間田さんがおっしゃるような方向に、大筋におきまして
財政政策の運営は考えておるつもりでございます。
そこで、そういうことを御理解の上、それでは所得税というものについて、
景気を
回復する上から申しまして減税を考えるべきではないかということについての
お尋ねでございます。ことしの所得税の減税でございますが、仰せのように、ことし御決定いただきました減税は、微
調整でございましたことは御指摘のとおりでございます。しかし、去年御審議をいただきまして実行に移しましたいわゆる二兆円減税というものは、ことし平年度化いたしまして完成するものでございまして、ことしその
効果が一般に四千五百億円見当に及ぶと試算されておりますことは御案内のとおりでございまして、あなたが御指摘のように、ことしは一般国民の税
負担の軽減は微
調整にとどまるという御指摘ではなくて、去年の減税
効果がことし尾を引いておるということは御案内のとおりでございます。
しかし、それはともかくといたしまして、これから先、それではさらに所得税の大幅な減税というものを
景気政策の
一つ、柱にすべきでないかという御意見でございますけれども、私はそれに対しましてただいまのところ消極的に考えております。その理由の
一つは、勝間田さんが先ほど来御主張になっております大衆
消費を喚起していくという
政策でございます。今日、大衆
消費がさえないというのは世界的な現象でございまして、ひとり
日本ばかりではございません。いま御指摘のアメリカにおきましても、所得税の減税を中心に大幅な減税をやりまして、
消費の喚起を期待いたしておる
状況でございますけれども、なお
状況を見ておりますと、耐久
消費財にまでまだ需要は届いていないということでございまして、一般に大衆はいま非常に賢明であると申しますか、非常に憶病であると申しますか、これからの
経済に処してみずからの
消費をどういう水準で、どういう態様で維持していくべきかということにつきまして、世界的に非常に慎重でございます。これは減税をやったことによって、あるいは需要の喚起
政策を他の
方法によってやったことによって、その事態が改善されるかというと、私は必ずしもそう簡単に期待できない
状況ではないかと思うのでございます。
一面、このことをもっと別な面から申しますと、今日まで高度成長時代にわれわれが享受してまいりました
消費水準というものは、いわば大衆が自主的に選択して需要を喚起したものではなくて、言いかえればガルブレイス教授が言われておるようないわゆる依存
効果に支えられた、メーカーが喚起した需要、そして
消費者
金融によって支えられたいわば需要であって、一般の勤労者は月賦の支払いに追われるというようなことで支えられた生産の水準であり、
消費の水準であった面が相当あったと思うのであります。そういうことに対していま全世界の
消費者は賢明にも
一つの反省をいたしておる
段階ではないかというように判断されるのでございまして、単に所得税の減税を一部実行することによって、また再び需要がもとの軌道の上を走って喚起されると、簡単に私は期待できないのではないかと思われるのでございまして、これは私の
見解でございまして、勝間田さんには勝間田さんの御
見解があろうかと思いますけれども、お聞き取りをいただきたいと思います。
それから第二に、いまのわが国の所得税、これは常々お聞き取りいただいておりますように、税
負担そのものが先進諸外国に比べて低いわけでございます。それからこの所得税税制そのものは相当念を入れて審議され、運営されておる税制でございまして、私はこれは軽々に余り変えるべきではないのではないか、よほど
財政が楽になってまいりまして、あるいは展望が明るくなってまいりまして、税制があなたの言われるような方向で減税ができるということになることを私は期待いたしますけれども、いまの
状況を見ておりますと、ここしばらくそういうことを期待することは、わが国の
財政の展望に立ちますと非常にむずかしいのではないかと考えておりますので、国会を通じていま私が申し上げておりますことは、いまこのように
経済が衰弱しておるときに、増税をしたいけれども、増税をするようなことは差し控えなければならぬと思っておる。一般的な増税は考えるべきでない。と言う
意味は、一般的に減税ができるような、そういう楽な
財政状況ではないわけでございます。酒、たばこの増税を取りやめるような、そういうなまやさしい
財政状況でないということでございます。でございますので、私どもといたしましては、いまの税制の中で選択的に少しでも増収を確保できる道がないものかということをきめ細かく勉強しておるというのがいまの
段階でございまして、一般的に所得税の減税を考えられるという客観的な展望をいま持つことはできない
状況におりますことを、御理解をいただきたいと思うのであります。